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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1198469
審判番号 不服2006-10356  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-19 
確定日 2009-06-11 
事件の表示 特願2001- 99531「インクジェット記録装置用インクカートリッジ」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月11日出願公開、特開2001-341324〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張(平成12年3月30日(特願2000-92802号))を伴う平成13年3月30日の特許出願であって、拒絶理由通知に応答して平成18年2月27日付けで手続補正がされたが、平成18年4月12日付けで拒絶査定がされ、これを不服として平成18年5月19日付けで審判請求がされたものである。

第2 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年2月27日付けで手続補正された特許請求の範囲の【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「インク室が形成された基体に、常時バネにより閉弁状態を維持し、かつ前記記録ヘッドとの接続により開弁して前記記録ヘッドにインクを供給する弁体を備えたインク供給口が、また常時バネにより閉弁状態を維持し、かつ前記記録ヘッドとの接続により開弁して前記インク室を大気に連通させる弁体を備えた大気連通接続口が形成され、
前記大気連通接続口が、前記基体の表面に形成された細溝をフィルムにより封止して形成されたキャピラリを介して大気に連通され、前記キャピラリの端部が撥水性膜により封止されたインクトラップ室に接続されているインクジェット記録装置用インクカートリッジ。」

第3 当審の判断
1.引用例
本願の優先権主張日前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第00/03877号パンフレット(以下、「引用例1」という。)には、以下の〈ア〉?〈カ〉の記載が図示とともにある。
〈ア〉「本発明は、記録媒体の幅方向に往復動するキャリッジと、キャリッジに設けられたインクジェット記録ヘッドと、キャリッジに搭載されて記録ヘッドにインクを供給するインク供給手段とからなるインクジェット記録装置、より詳細には記録ヘッドに負圧を維持しながらインクを供給する技術に関する。」(第1頁第4行?第7行参照)
〈イ〉「第2図は、同上インク供給ユニット3の一実施例を示すものであって、扁平な容器として構成されていて、上面20にはインク貯蔵室に連通するインク注入口9及び大気開放口21が形成され、下部領域、この実施例では下面22に記録ヘッド4との接続するインク供給口23が形成されている。また容器の側面24の、インク貯蔵室36に対向する領域には窓が形成されていてここをインクの圧力で変形可能で、かつ水蒸気透過性及びガス透過性が極めて低い金属層と高分子フィルムを積層したラミネートフィルムまたは水蒸気透過性及びガス透過性が極めて低い高分子フィルム等のフィルム31により封止されている。
同上インク供給ユニット3の詳細な構造を第3図に基づいてさらに説明する。インク供給ユニット3を構成する容器は、大略、プラスチック材料等を成形加工してなる枠構造を採り、両側面が開口されたケーシング30の両側面を、水蒸気透過性及びガス透過性が極めて低い金属層と高分子フィルムを積層したラミネートフィルムまたは水蒸気透過性及びガス透過性が極めて低い高分子フィルム等のフィルム31、32により封止して構成されている。
ケーシング30は、第4図に見られるように、壁33により上下に、また壁34により左右に分割されて、上部の壁33に大気連通用の細溝35、35'が、また下部がインク貯蔵室36と、弁室37とに分割されている。ケーシング30の弁室37の一方の側面30aには側面から底部に延びる厚肉部30bが形成されていて、ここに上端38aがインク注入口9に、下端38bが壁34のインク流入口39に間隙Gをおき、かつケーシング30の厚み方向に偏倚する溝からなるインク供給路38が設けられている。」(第5頁第8行?第28行参照)
〈ウ〉「インク供給路38の上端38aは、ケーシング30に穿設された連通孔9aによりインク注入口9に接続されている。また大気開放口21は、ケーシング30に形成された連通孔21a、壁33の両面に形成された細溝35、35'、これら細溝35、35'を接続する厚み方向に延びる孔40、41を経由して壁33の下面の連通孔42に接続してインク貯蔵室36に連通されている。つまり、大気連通用流路は、壁33に水平方向に間隔をおいて厚み方向に延びる孔40、41と、これらにより端部が接続され、かつ各側面側に位置して形成された細溝35、35'とにより、可及的に流体抵抗が大きくなるキャピラリとして構成されている。インク貯蔵室36内部は、連通孔42、細溝35、孔41、細溝35'、孔40、連通孔21aを順番に経由して大気に連通している。
一方、弁室37は、後述する差圧弁機構50により厚み方向に2つの領域に分割され、インク流入側の面には一端がインク流入口39を介してインク貯蔵室36に連通し、他端が差圧弁機構50に連通する垂直なインク流路を構成する溝43が形成され、またインク流出側には差圧弁機構50とインク供給口23と接続するインク流路をなす溝44が形成されている。この溝44の先端は、ケーシング30に穿設された垂直な通孔45を介してインク供給口23に連通されている。
第5図及び第6図は、上述の差圧弁機構50の一実施例を示すものであって、ケーシング30の弁室37の一方側面を封止する側壁の中央領域にコイルバネ51を収容する孔46を備えた弁体収容凹部47が形成されており、ここにコイルバネ51、バネホルダ52、膜弁53、及びフィルタ56の支持体を兼ねた固定部材57が積層状態で嵌め込まれている。バネホルダ52は、バネ支持面52aを備え、これの外周にガイド片52bと抜け防止用の爪52dを形成して構成され、バネ支持面52aのインク流通口52cが穿設されている。
可動膜として構成された膜弁53は、差圧を受けて弾性変形することができる柔軟材により形成された膜部54と、これの外周を支持してケーシング30と固定部材55とに挟持される硬質材により形成された肉厚の固定部55とからなり、好ましくは高分子の2色成形により一体に製造される。膜部54の中心にはバネホルダ52のインク流通口52cに対向するインク流通口54aを有する厚肉の封止部54bが設けられている。
固定部材57は、フィルタ室を形成するように凹部57aが形成され、凹部57aの封止壁57bの中央部に膜弁53のインク流通口54aに当接する弁座部57cが形成されている。この弁座部57cは、膜弁53の側に突出するように球面状に形成されており、また上部にはインクが流入する通孔57dが穿設されている。」(第6頁第8行?第7頁第12行参照)
〈エ〉「このようにしてインクが充填された状態では、第6図(a)に示すように膜弁53の膜部54はバネ51に押されて弁座部57cに弾接しているから、インク貯蔵室36とインク供給口23との連通が絶たれている。
この状態で印刷が開始されて記録ヘッド9によりインクが消費されると、インク流路をなす溝44の圧力が低下し、記録ヘッド9に供給されるインクが一定の負圧に維持される。インクの消費がさらに進むと、負圧が大きくなるため、第6図(b)に示したように膜部54に作用する差圧が大きくなって膜部54がバネ51に抗して後退し、インク流通口54aが弁座部57cから離れて間隙gを形成する。
これによりインク貯蔵室36のインクが弁室37に流れ込み、フィルタ56により気泡や塵埃を除去されてから膜部54のインク流通口54aを通過して図中符号Fで示す流路によりインク供給口23に流れ込む。このようにして差圧がある程度まで減少すると、バネ51により膜弁53の膜部54が弁座部57cに押し戻されて第6図(a)に示したようにインク流通口54aが閉塞される。
以下、このようにインク供給口23の負圧が大きくなると膜弁53がコイルバネ51に抗して後退してインク流通口54aを開放し、一定の負圧を維持しつつインクを記録ヘッド4に供給するという動作を繰返す。」(第7頁第19行?第8頁第6行参照;ただし、「記録ヘッド9」は「記録ヘッド4」の誤記と解される)
〈オ〉インク供給ユニットの一実施例を示す図である第3図において、ケーシング30の表面に形成された細溝35、35’がフィルム31、32により封止されることが看取できる。
〈カ〉インク供給ユニットの断面図である第4図において、連通孔42が細溝35、35’、及び大気開放口21を介して大気に連通されていることが看取できる。

以上のことから、上記〈ア〉?〈カ〉の記載等を含む引用例1には、次の発明が記載されていると認めることができる。
「インク貯蔵室36が形成されたケーシング30に、バネ51により閉弁状態を維持し、インク貯蔵室36内のインクと記録ヘッド4に供給されるインクとの差圧により開弁して記録ヘッド4にインクを供給する膜弁53を備えたインク供給口23が、またインク貯蔵室36を大気に連通させる連通孔42が形成され、
連通孔42が、ケーシング30の表面に形成された細溝35、35’をフィルム31、32により封止して形成されたキャピラリを介して大気に連通されているインクジェット記録装置用インク供給ユニット。」(以下、「引用発明」という。)

2.対比
a.引用発明における「インク貯蔵室36」、「ケーシング30」、「連通孔42」、及び「インク供給ユニット」は、それぞれ本願発明における「インク室」、「基体」、「大気連通接続口」、及び「インクカートリッジ」に相当する。
b.引用発明における「膜弁53」と本願発明における「弁体」とは、開弁して記録ヘッドにインクを供給する弁体である点で共通する。

してみれば、本願発明と引用発明とは、
「インク室が形成された基体に、バネにより閉弁状態を維持し、開弁して記録ヘッドにインクを供給する弁体を備えたインク供給口が、またインク室を大気に連通させる大気連通接続口が形成され、
大気連通接続口が、基体の表面に形成された細溝をフィルムにより封止して形成されたキャピラリを介して大気に連通されているインクジェット記録装置用インクカートリッジ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点1〉
本願発明では、インク供給口及び大気連通接続口が「常時バネにより閉弁状態を維持し、かつ前記記録ヘッドとの接続により開弁」する「弁体を備えた」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。
〈相違点2〉
本願発明では「キャピラリの端部が撥水性膜により封止されたインクトラップ室に接続されている」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。

3.判断
〈相違点1〉について
インクカートリッジのインク供給口や大気連通接続口に、常時バネにより閉弁状態を維持し、かつ記録ヘッドとの接続により開弁する弁体を設けることは、例えば特開平6-286151号公報(特に【特許請求の範囲】、段落【0018】?【0022】、及び【図1】参照)、特開平11-151820号公報(特に段落【0023】及び【図3】参照)、特開平11-5311号公報(特に【特許請求の範囲】及び【図4】参照)等にみられるように、本願の優先権主張日前において周知の技術であるといえる。
そして、インクカートリッジ単体の状態でインク供給口や大気連通接続口からのインクの漏れを防止することは一般的な課題であり、また少なくともインクカートリッジを記録ヘッドと接続した際にはインク供給口及び大気連通接続口を開放しておく必要があることも自明であるから、引用発明において上記周知技術を採用し、相違点1に係る本願発明の発明特定事項となすことは、当業者が容易に想到し得ることである。

このように、相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得る程度の事項である。

〈相違点2〉について
インクカートリッジにおいて、大気連通接続口からのインク漏れを防止することは一般的な課題であり、当該課題を解決するための手段も当業者に知られている。
例えば特開平9-272210号公報(特に【特許請求の範囲】及び【図1】参照)、特開平8-323989号公報(特に段落【0038】?【0042】、段落【0061】?【0063】、【図3】、及び【図9】参照)、特開平10-95128号公報(特に段落【0018】?【0026】及び【図1】?【図5】参照)等にみられるように、大気連通接続口から大気に連通する箇所に至るまでの大気連通路にインクトラップ室を設けることでインク漏れを防止する技術は、本願の優先権主張日前において周知である。
また、例えば特開平8-187874号公報(特に【請求項1】?【請求項7】、段落【0039】?【0048】、及び【図1】?【図3】参照)、特開平5-8404号公報(特に【特許請求の範囲】、段落【0007】?【0013】、及び【図1】参照)、特開平3-136867号公報(特に第5頁右下欄第20行?第6頁右上欄第7行、第4A図及び第4B図参照)等にみられるように、大気連通接続口から大気に連通する箇所に至るまでの大気連通路に撥水性膜を設けることでインク漏れを防止する技術も、本願の優先権主張日前において周知である。
したがって、引用発明において大気連通接続口からのインク漏れを防止するための上記周知技術を採用することは、一般的な課題に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。
上記周知技術についてさらに検討すると、インクを捕集し貯留するインクトラップ室は大気連通路を構成する空間の一部として形成されるものであり、他方、インクの通過を阻止する撥水性膜は大気連通路を閉塞する形で配置されるものである。してみれば、インクトラップ室と撥水性膜は大気連通路への配置の態様やインク漏れを防止する原理などを異にするのであって、いずれか一方のみを選択的に配置することしかできないものではないから、インク漏れをより確実に防止することを目的として両者を併用することは当業者が容易に想到し得ることである。これをより具体的に検討してみるに、インクの通過を阻止するという撥水性膜の作用と、インクを捕集し貯留するというインクトラップ室の作用とを考慮すれば、インクトラップ室を撥水性膜で封止することで、撥水性膜により阻止されたインクを直ちにインクトラップ室に捕集し貯留するよう構成する程度のことは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、引用発明における大気連通路は大気連通接続口(「連通孔42」)からキャピラリを経て大気に連通するものであるが、キャピラリは細溝によって構成されているものであり、大気連通路の他の部分よりもインクの侵入によって閉塞されやすいことは技術常識であるから、インクが漏出してキャピラリに侵入することを防止すべく、上記周知のインクトラップ室及び撥水性膜をキャピラリの端部に配置するよう構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。
以上のことから、引用発明において技術常識を参酌しつつ上記周知技術を採用し、相違点2に係る本願発明の発明特定事項となすことは、当業者が容易に想到し得ることである。

このように、相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明、周知の技術事項、及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得る程度の事項である。

以上のように、上記相違点1及び相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明、周知の技術事項、及び技術常識に基づいて当業者が想到容易な事項であり、かかる発明特定事項を採用したことによる本願発明の効果も当業者が容易に予測し得る程度のものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、周知の技術事項、及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-02 
結審通知日 2009-04-07 
審決日 2009-04-20 
出願番号 特願2001-99531(P2001-99531)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 陽子  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 坂田 誠
菅野 芳男
発明の名称 インクジェット記録装置用インクカートリッジ  
代理人 上柳 雅誉  
代理人 須澤 修  
代理人 宮坂 一彦  

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