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審決分類 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1198528
審判番号 不服2008-4665  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-27 
確定日 2009-06-11 
事件の表示 特願2002-152528「円錐ころ軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月 3日出願公開、特開2003-343552〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成14年5月27日の出願であって、平成20年1月23日(起案日)付けで拒絶査定され、これに対し、平成20年2月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年3月27日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、 平成20年3月27日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
外径がDの外輪と、内径がdの内輪と、前記外輪と内輪との間に介装され、ピッチ円の直径がdmである複数の円錐ころとを備えた円錐ころ軸受において、2dm/(D+d)によって表されるPCDパラメータが0.96?0.985の範囲内の値であり、
前記外輪の接触角αが、22度≦α≦26度であることを特徴とする円錐ころ軸受。」
なお、平成20年3月27日付けでなされた手続補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1を削除するとともに、補正前の請求項2を補正後の請求項1と項番を繰り上げたものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定された請求項の削除を目的としたものと認める。

3.刊行物に記載された事項
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-96352号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「デファレンシャルギヤのピニオン軸支持用円錐ころ軸受」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
(ア)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】上述の様に構成される従来のデファレンシャルギヤのピニオン軸支持用円錐ころ軸受の場合、疲れ寿命、軸受剛性等、デファレンシャルギヤに組み込まれる円錐ころ軸受に要求される最低限の性能は十分に満たしているが、回転トルクが必ずしも十分に小さいとは言えなかった。近年、自動車の省燃費化に対する要求が強くなっており、上記円錐ころ軸受に関しても、動力の伝達ロスを低く抑えるべく、回転トルクをより小さくする事を要求される様になっている。但し、回転トルクを小さくする事で疲れ寿命や軸受剛性が低下し過ぎる事は好ましくない。本発明はこの様な事情に鑑みて、疲れ寿命及び軸受剛性を確保しつつ、回転トルクの小さいデファレンシャルギヤのピニオン軸支持用円錐ころ軸受を得るべく考えたものである。」

(イ)「【0012】特に、本発明のデファレンシャルギヤのピニオン軸支持用円錐ころ軸受に於いては、接触角αが22?28度であり、円錐ころの大径側端部の直径Da と円錐ころの長さLとの比Da /Lが0.51?1.0であり、複数の円錐ころのピッチ円の直径をdm とし、円錐ころの数をzとした場合に、k=(dm /Da )・sin (180°/z)で表されるころ数係数kが1.16?1.32である。」

(ウ)「【0016】
【表2】



(エ)「【0017】この表2に示した6種類の円錐ころ軸受を含む多数の円錐ころ軸受に就いて、図3に示す様な実験装置を使用して、疲れ寿命、軸受剛性、回転トルクを測定した。円錐ころ軸受6a(又は6b)の内輪8a(又は8b)を外嵌固定したホルダ12は、駆動軸13の上端部にテーパ嵌合して、この駆動軸13により回転駆動される。又、外輪7a(又は7b)は外側ホルダ14を介してハウジング15の内側に内嵌固定している。このハウジング15内には、給油孔16を通じて所定の潤滑油を供給自在としている。又、上記ハウジング15の上面には、静圧パッド17を介して、所定のアキシャル荷重を付与自在としている。更に、上記ハウジング15の外周面に固定した腕片18の先端部と図示しない固定の部分との間にはロードセル19を設けて、上記駆動軸13の回転時に上記ハウジング15に加わる動トルク(=円錐ころ軸受6a(又は6b)の回転トルク)を測定自在としている。尚、動トルクを低減させる目的は、前述した様に省燃費化を図る為である。従って、省燃費化の面からは影響の少ないラジアル荷重は、動トルク測定時に付与しなかった。即ち、デファレンシャルギヤの運転時には、スラスト荷重は常に加わったままとなるが、大きなラジアル荷重が加わるのは、急加減速時等、限られた場合であり、運転時間全体に占める割合は少ない。従って、ラジアル荷重による動トルクの変化が燃費性能に及ぼす影響はスラスト荷重に比べて小さい。そこで、動トルク測定の実験時に付与する荷重は、スラスト荷重のみとした。」

以上の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

[刊行物1記載の発明]
「外径がDの外輪7a,7bと、内径がdの内輪8a,8bと、前記外輪7a,7bと内輪8a,8bとの間に介装され、複数の円錐ころ9a,9bとを備えた円錐ころ軸受において、前記外輪の接触角αが、22?28度である円錐ころ軸受。」

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-274244号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「高速回転軸支持用転がり軸受」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
(オ)「【0022】尚、本発明は工作機械の主軸に限らず、高速回転する軸、特にdn値が50万以上となるような高速領域で回転する軸を支持する転がり軸受に広く適用可能である。また、軸受形式は例示したようなアンギュラ玉軸受に限らず、円すいころ軸受等にも同様に適用することができる。」

(カ)「【0023】
【発明の効果】以上説明したように、内輪の幅寸法を外輪の幅寸法よりも大きくすることにより、内輪から軸への熱拡散性が改善されると共に、内輪の空気に触れる表面積が増大して放熱性が良くなるため、内輪の温度上昇が抑制される(内外輪間の温度差が緩和される)。また、PCD<(d+D)/2に設定することにより、転動体の自転及び公転速度が小さくなるため、軸受内部の発熱が低減される。このようにして、内輪の温度上昇が抑制され(内外輪の温度差が緩和され)、かつ、軸受内部の発熱が低減されることにより、図4のCに示すような予圧変化の少ない構成が得られ、軸(内輪)が高速領域で回転しても、危険領域に入る心配が少なくなる。」

(3)刊行物3
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2002-48146号公報(以下、「刊行物3」という。)には、「ころ軸受」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
(キ)「【0026】図2に示す様な構造を有し、内径Rが70mm、外径Dが150mm、幅Bが38mm、ピッチ円直径dmが99mm、コーン角2β(図2参照)が8.5°、円すいころ6の頭部10の直径d_(6 )が21.5mm、この円すいころ6の軸方向長さLが24mm、円すいころ6の数が13個、内輪5の大径側端部外周面に形成した大径側鍔部8の内側面11がこの内輪5の中心軸に対し直交する仮想平面に対する傾斜角度である鍔角度θfが20°である円すいころ軸受1(以下「軸受A」とする)を、次の条件で運転した状態でのトルクを求める。・・・」

(ク)「【0034】これら図11?13のうち、先ず図11は、内径Rが200mm、外径Dが280mm、幅Bが51mm、ピッチ円直径dmが240mm、コーン角2β(図2参照)が2°、円すいころ6の頭部10の直径d_(6) が19.2mm、この円すいころ6の軸方向長さLが35mm、円すいころ6の数が32個、内輪5の大径側端部外周面に形成した大径側鍔部8の内側面11がこの内輪5の中心軸に対し直交する仮想平面に対する傾斜角度である鍔角度θfが12°である円すいころ軸受1(軸受B)に就いての計算結果を表している。・・・」

4.対比・判断
本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると、その機能からみて、刊行物1記載の発明の「外輪7a,7b」は本願発明の「外輪」に相当し、以下同様に、「内輪8a,8b」は「内輪」に、「円錐ころ9a,9b」は「円錐ころ」にそれぞれ相当する。
したがって、本願発明の用語を使用して記載すると、両者は、
「外径がDの外輪と、内径がdの内輪と、前記外輪と内輪との間に介装され、複数の円錐ころとを備えた円錐ころ軸受。」である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本願発明は、外輪の外径D、内輪の内径d、円錐ころのピッチ円の直径dmのとき「2dm/(D+d)によって表されるPCDパラメータが0.96?0.985の範囲内の値であり、外輪の接触角αが、22度≦α≦26度である」のに対し、刊行物1記載の発明は外輪の接触角αが、22?28度であるものの、PCDパラメータについては0.96?0.985の範囲内の値でない(上記摘記事項(ウ)参照)点。

上記相違点について検討する。
刊行物1には、疲れ寿命及び軸受剛性を確保しつつ、回転トルクを小さくするために、円錐ころ軸受の接触角、円錐ころの大径側端部の直径と円錐ころの長さとの比、ころ数係数を適切な値に設定することが記載されている(上記摘記事項(ア)参照)。
また、刊行物2には、軸受内部の発熱を低減するためではあるものの、転がり軸受においてPCD<(d+D)/2とすること、すなわち2PCD/(d+D)(本願発明のPCDパラメータに相当)<1とすることが記載されており、これは円すいころ軸受にも適用できることが記載されている(上記摘記事項(オ)(カ)参照)。
してみると、円錐ころ軸受において、疲れ寿命及び軸受剛性を確保しつつ、回転トルクを小さくするという技術的課題を解決するために、軸受の各寸法関係を適切な値に設定すること、軸受を設計する上で2dm/(D+d)によって表されるパラメータ(PCDパラメータ)を使用することは、当業者が必要に応じて考慮していることであるといえる。
そうすると、刊行物1記載の発明において、さらなる軸受性能の向上を目的として、2dm/(D+d)によって表されるパラメータ(PCDパラメータ)を適切な値に設定することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
さらに、本願発明において、PCDパラメータを0.96?0.985の範囲内の値とし、外輪の接触角αを、22度≦α≦26度と数値限定した点について検討する。
本願発明では、サンプル1に対して10%以上のトルク低下を実現しているPCDパラメータの値を最適値としているが、当該条件を満たすサンプル5が、トータル変位δがサンプル1に対して0.001mm増加していることにより除外されていたり、20%以上のトルク低下を実現しているサンプル13が、定格荷重がサンプル1に対して5%程度減少していることにより除外されたりしていることに照らせば、上記パラメータと接触角は、当業者が必要な観点に沿って通常の創作能力を発揮して最適値を見出したものと言わざるを得ない。
さらに、本願明細書の表1のデータを詳細に見ると、接触角ごとにサンプルの数が異なっており(例えば、接触角28度に対するサンプルは1つしか記載されていない)、各数値範囲を境にして性質が急変するなどの臨界的意義があるとも認められない。
また、刊行物1記載の発明は、外輪の接触角αが、22?28度であり、刊行物3には、本願発明のPCDパラメータに相当する値が0.9(上記摘記事項(キ)参照)及び1.0(上記摘記事項(ク)参照)の円錐ころ軸受が記載されている。
してみると、円錐ころ軸受において、外輪の接触角が22?28度であり、PCDパラメータに相当する値が0.9?1.0程度のものは、特異な数値範囲ではなく通常使用されているものであるといえるから、本願発明における上記相違点に係る数値限定は、当業者が適宜行うことができる設計的事項の範ちゅうにとどまるものである。

したがって、刊行物1記載の発明に刊行物2及び3記載の事項を適用して、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
また、本願発明の奏する効果について検討しても、刊行物1に記載された発明、刊行物2及び3記載の事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとは認められない。

ところで、請求人は、平成20年4月25日付けの手続補正書(方式)により補正された審判請求書において
「前述のように、本願発明により奏される前記作用効果は、円錐ころ軸受において、2dm/(D+d)によって表されるPCDパラメータを0.96?0.985の範囲内の値とするとともに、外輪の接触角αを22度≦α≦26度とするという構成により奏される相乗的な効果であります。・・・
したがって、前記構成は、一体不可分のものであり、分けて対比すべきものではありません。引用文献に一つの数値又は数値範囲が記載されているからといって、それらを何も考えずに単純に組み合わせることはできません。」(【請求の理由】の2.(4)(e)引用文献1?4の組み合わせとの対比の項参照)と主張している。
しかしながら、刊行物1記載の発明は、接触角と他のパラメータとを関連させて最適値になるように設定しており、軸受において2dm/(D+d)によって表されるパラメータも公知である以上、刊行物1に記載されたような外輪の接触角に関連してこのパラメータを考慮し、軸受性能向上のために軸受の各寸法関係を適切な値に設定することは、当業者が適宜行うことができる設計的事項であると言わざるをえない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

5.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1に記載された発明、刊行物2及び3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-08 
結審通知日 2009-04-14 
審決日 2009-04-27 
出願番号 特願2002-152528(P2002-152528)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 571- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬川 裕  
特許庁審判長 川上 益喜
特許庁審判官 藤村 聖子
常盤 務
発明の名称 円錐ころ軸受  
代理人 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所  

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