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審決分類 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S
管理番号 1198537
審判番号 不服2006-19576  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-04 
確定日 2009-06-10 
事件の表示 特願2005-214896「GPS受信機とGPS信号を処理する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月24日出願公開、特開2005-326429〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1996年10月8日を国際出願日とする出願(特願平9-515151号、以下、「原出願」という。:優先日 1995年10月9日 米国、1996年3月8日 米国)の一部を平成17年7月25日(優先日 1995年10月9日 米国、1996年3月8日 米国)に新たな出願としたものであって、平成18年4月4日付けで手続補正(以下、「補正1」という。)がなされ、平成18年6月1日付け(送達:同年6月6日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正(以下、「本件補正1」という。)がなされ、さらに、同年10月4日付けで手続補正(以下、「本件補正2」という。)がなされたものである。

第2 本件補正1及び本件補正2の適否について
本件補正1及び本件補正2については、補正された順番に従って、まず本件補正1の適否を判断し、つぎに本件補正2の適否を判断する。
(補正の適否を補正された順番に従って判断することについては、知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)10698号の判決(平成18年9月26日言渡し)参照。)

1 本件補正1の適否について
本件補正1の内容は、補正前の特許請求の範囲の請求項中、請求項2ないし請求項26を削除するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定された請求項の削除に該当し、同法第17条の2第3項の規定を満たすものであるから、本件補正1を認める。

2 本件補正2についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正2(平成18年10月4日付けの手続補正)を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
上記のように、本件補正1は認められたので、本件補正2の適否は、本件補正1で補正された明細書及び図面を基準に判断する。
本件補正2の内容は、特許請求の範囲を補正前の
「【請求項1】
遠隔ユニットの位置を決定する方法において、
前記遠隔ユニットで、セルラ通信システムの送信セルから前記遠隔ユニットの視界内にある衛星のドップラー情報を受信するステップと;
前記遠隔ユニット中で、衛星の天文暦(エフェメリス)情報を受信せずかつ使用せずに、前記ドップラー情報を使用することにより、前記衛星の、少なくとも1つの擬似距離を含む位置情報を計算するステップとを含む遠隔ユニットの位置を決定する方法。」から、
補正後の
「【請求項1】
遠隔ユニットの位置を決定する方法において、
前記遠隔ユニットで、セルラ通信システムの送信セルから前記遠隔ユニットの視界内にある衛星のドップラー情報を受信するステップと;
前記遠隔ユニット中で、衛星の天文暦(エフェメリス)情報を受信せずかつ使用せずに、前記ドップラー情報を使用することにより、前記衛星の、少なくとも1つの擬似距離を含む位置情報を計算するステップとを含む遠隔ユニットの位置を決定する方法。
【請求項2】・・・(以下省略)
・・・・・・
【請求項26】・・・」
と補正するものである。

(2)補正の目的
前記補正は、特許請求の範囲の請求項を増加させる補正であって、補正前の請求項と補正後の請求項に一対一又はこれに準ずるような対応関係があるとは認められないから、特許請求の範囲の減縮に該当しない。(東京高等裁判所平成15年(行ケ)230号の判決(平成16年4月14日言渡し)、知的財産高等裁判所平成17(行ケ)10192号の判決(平成17年4月25日言渡し)参照。)
また、前記補正は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれをも目的とするものであるともいえない。
したがって、本件補正2は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
上記のように、本件補正1は認められ、本件補正2は却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、本件補正1により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
遠隔ユニットの位置を決定する方法において、
前記遠隔ユニットで、セルラ通信システムの送信セルから前記遠隔ユニットの視界内にある衛星のドップラー情報を受信するステップと;
前記遠隔ユニット中で、衛星の天文暦(エフェメリス)情報を受信せずかつ使用せずに、前記ドップラー情報を使用することにより、前記衛星の、少なくとも1つの擬似距離を含む位置情報を計算するステップとを含む遠隔ユニットの位置を決定する方法。」(以下、「本願発明」という。)

第4 刊行物に記載された発明
1 引用発明1 原査定に引用され、本願の最先の優先日前である1984年4月24日に頒布された刊行物である米国特許第4445118号明細書(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。(和訳は当審による。)
(ア-a)「In a global positioning system (GPS), such as the NAVSTAR/GPS system, wherein the position coordinates of user terminals (14) are obtained by processing multiple signals transmitted by a constellation of orbiting satellites (16), an acquisition-aiding signal generated by an earth-based control station (12) is relayed to user terminals via a geostationary satellite (10) to simplify user equipment. The aiding signal is FSK modulated on a reference channel slightly offset from the standard GPS channel. The aiding signal identifies satellites in view having best geometry and includes Doppler prediction data as well as GPS satellite coordinates and identification data associated with user terminals within an area being served by the control station (12) and relay satellite (10). The aiding signal significantly reduces user equipment by simplifying spread spectrum signal demodulation and reducing data processing functions previously carried out at the user terminals (14).」
(フロントページのABSTRACT欄、和訳:「ユーザ端末の位置座標が周回軌道上の衛星(16)によって送信された多重化信号処理によって得られるNAVSTAR/GPSシステムのようなグローバルポジショニングシステム(GPS)において、地球上の制御局(12)によって生成される捕捉支援信号が、ユーザ端末の簡素化のために、静止衛星(10)を経由してユーザ端末に中継される。この支援信号は標準のGPSチャンネルからわずかにオフセットした参照チャンネルにおいてFSK変調される。この支援信号は最良の幾何学的配置を有した視界にある衛星を特定し、制御局(12)及び中継衛星(10)の有効エリア内のユーザ端末と関連した、ドップラー予測データをGPS衛星座標及び識別データと同様に含んでいる。この支援信号は、スペクトラム拡散信号の復調を簡素化し、従来は、ユーザ端末(14)で実行されていたデータ処理機能を減少させることによって、著しくユーザ装置を減少させる。」)

(ア-b)「Referring to FIG.1, the reference transmission aided global positioning system (GPS) of the invention is shown wherein a geostationary satellite 10 receives an aiding transmission on an auxiliary or reference channel from a ground based control station 12 to be relayed to user terminals, such as at 14a and 14b and 14c, in addition to the standard pseudo-random noise (PRN) signals transmitted on the GPS channel by a constellation of Earth orbiting GPS satellites 16. The aided GPS system has applicability not limited to the NAVSTAR/GPS.
The uplink signal between Earth-based control station 12 and geostationary satellite 10 is at an arbitrary frequency, preferably in the C-band (4-6 gigahertz) or K-band (20-30 gigahertz). The downlink signal between the geostationary satellite 10 and user terminals 14 is preferably at about 1,555 MHz which is nominally 20 MHz below the standard GPS L1 center frequency of 1,575.42 MHz. The downlink carrier is FSK modulated to identify the best 4 GPS satellites 16 in view, (i.e., the four GPS satellites having the best orbital position) to carry code select data for GPS Gold code reference generators that correspond to GPS satellites visible to the user terminals and to include acquisition-aiding Doppler information. As will be explained hereinafter in detail, these signals on the reference channel provide to the user terminals information necessary to compute user position coordinates more efficiently, thereby substantially simplifying user equipment for civilian application. These functions have been performed heretofore in the conventional GPS user terminals requiring more complex circuitry, stable local oscillators, Costas and delay lock tracking loops and data processing equipment including high speed floating point capability of double precision.」
(第5欄第4?37行、和訳:「図1を参照すると、この発明の参照送信支援グローバル・ポジショニング・システム(GPS)が示されており、地球を周回している一群のGPS衛星16によるGPSチャンネル上に送信される標準の擬似ランダムノイズ(PRN)信号に加えて、静止衛星10は、14a及び14b及び14cにおけるようなユーザ端末に中継するために地上設置の制御局12からの補助又は参照用のチャンネル上の支援送信を受信する。その支援GPSシステムはNAVSTAR/GPSに限定されない適用性を持っている。
地球上の制御局12と静止衛星10との間のアップリンク信号は、好ましくはC-バンド(4-6ギガヘルツ)又はK-バンド(20-30ギガヘルツ)の、任意の周波数にある。
静止衛星10とユーザ端末14との間のダウンリンク信号は、好ましくは、およそ1,555MHzであって、これは標準のGPSのL1の中央周波数である1,575.42MHzの公称で20MHz下である。視界内の最良の4つのGPS衛星16(すなわち、その4つのGPS衛星は最良の軌道位置にある。)を特定し、ユーザ端末に視界にあるGPS衛星に対応したGPSゴールドコード基準発生器のコード選択データを伝達し、捕捉支援のドップラー情報を含むために、ダウンリンクの搬送波はFSK変調されている。以下に詳細を述べるように、参照チャンネル上のこれらの信号は、ユーザの座標位置をより効率的に計算するために必要な情報をユーザ端末に供給し、その結果、民間用途のユーザ装置を十分に簡素化する。これらの機能はこれまで従来型のGPSユーザ端末において、より複雑な回路、安定した局部発振器、コスタス及び遅延ロック追跡ループ、及び、高速倍精度浮動点演算能力を備えたデータ処理装置を必要として実行されていた。」)

(ア-c)「These functions are performed by the remote control station 12 in a manner similar to that heretofore provided in the user terminals in the NAVSTAR/GPS. Ephemeris and up-load data for GPS satellites are obtained by a GPS master control station 18 and supplied to the remote control station 12 by land line or other means. The GPS master control station 18 is included in the existing NAVSTAR/GPS system and will therefore not be described in detail herein.」
(第5欄第38?46行、和訳:「これらの機能は、NAVSTAR/GPSのユーザ端末において提供されていたのと同様の方法で遠隔制御局12によって実行される。GPS衛星用のエフェメリスとアップロードデータはGPSマスター制御局18によって取得され、地上回線または他の手段を用いて遠隔制御局12に供給される。GPSマスター制御局18は既存のNAVSTAR/GPSシステムに含まれているものであり、それゆえここで詳細は述べない。」)

(ア-d)「With reference to FIG. 2, a transmitter 20, located at the remote control station 12, includes a controller 26, an FSK modulator 24 and a high stability, L-band frequency synthesizer or oscillator 22. The input to controller 26 consists of control signals supplied as an input to the remote control station 12 by landline from the NAVSTAR/GPS master control station or, alternatively, may be furnished directly from the NAVSTAR/GPS satellites. The information contained in the signals, in either event, includes almanac data, designated as an ALMORB, which is an Almanac Orbital Elements File for each satellite, containing the following information:」
(第5欄第47行?第6欄第2行、和訳:「図2を参照し、遠隔制御局12にある送信機20はコントローラー26、FSK変調器24および高安定のLバンド周波数シンセサイザーあるいはオシレーター22を含んでいる。コントローラー26への入力は、NAVSTAR/GPS主制御ステーションからリモート・コントロール・ステーション12に地上回線によって入力として供給された制御信号から成るか、あるいは、NAVSTAR/GPS衛星から直接供給されてもよい。信号に含まれていた情報は、いずれにしても、ALMORBとして指定されたアルマナック・データを含んでいて、それは、アルマナック軌道要素ファイルであり、以下の情報を含んでいる。」)

(ア-e)「In the event the signals are transmitted by the landline, the signals typically enter the controller 26 by telephone line with a standard teletype binary format. If the signals are received directly from the NAVSTAR/GPS satellites, the same information as indicated above is contained in the signals but they would be in a QPSK (quadrature phase shift key) format at 50 b.p.s. and at an r.f. frequency of 1575.42 MHz. This signal would be demodulated in the controller 26 whereafter the derived signals would be equivalent to the landline signals. In either event, the controller includes a microprocessor or minicomputer, which is programmed with algorithms similar to those contained in the GPS standard military receivers, in order to extract Doppler coefficient (prediction) data, satellite select (identification) data, and satellite coordinate (spatial position) data, three of the controller output signals. The carrier frequency control signal is derived from the transmitter itself or from a possible remote reference channel transmitting tower or reference satellite to correct for possible r.f. drift or instability between the transmitter output, tower or satellite, and the transmitter oscillator 22. The Doppler coefficient data is a calculation of the Doppler frequency gradient for a given satellite, which is defined as Doppler cells (200 Hz wide), as further explained with reference to FIG. 6A. Satellite select data includes a PRN code identification to identify a given satellite in view. Satellite coordinate data specifies the X, Y and Z spatial coordinates for the given satellite in view. The carrier provided by synthesizer 22 is modulated by modulator 24 with the FSK data. The modulator output is boosted by a linear driver amplifier 28 before being transmitted by an antenna 29 which may be omni-directional or directional, depending on the application. 」
(第6欄第19?53行、和訳:「信号が地上線で送信される場合には、その信号は典型的にはコントローラ26に電話回線を通じて標準的なテレタイプの2進形式である。もし、その信号がNAVSTAR/GPS衛星から直接受信されたものであるなら、上記したのと同じ情報がその信号に含まれているが、それは50bpsで1575.42 MHzのRF周波数のQPSK形式であろう。この信号は、コントローラ26で復調され、その後、そこから派生する信号は地上回線の信号と同等である。いずれにしても、コントローラは、ドップラー係数(予測)データ、衛星選択(特定)データ、及び衛星座標(空間位置)データの3つのコントローラ出力信号を抽出するために、マイクロプロセッサ又はミニコンピュータを含み、GPSの標準軍用受信機に含まれているのと同様のアルゴリズムがプログラムされている。タワーまたは衛星の送信機出力と送信機発振器22との間の、RFドリフトあるいは不安定を補正するために、搬送波制御信号は送信機自身で発生されるか、可能な遠隔参照チャンネル送信タワーあるいは参照衛星から生じさせる。ドップラー係数データは、与えられた衛星についてのドップラー周波数変化率の計算によるものであり、図6を参照してさらに説明するようにドップラーセル(200Hz幅)と定義される。衛星選択データは視界にある与えられた衛星を識別するためのPRNコード識別番号が含まれている。衛星座標データは、与えられた視界にある衛星についてのX,Y,及び,Zの空間座標を指定する。シンセサイザー22によって供給される搬送波は変調器24によってFSKデータで変調される。その変調器出力は、用途に応じた無指向性あるいは指向性のアンテナ29で送信される前に、線形増幅器28で増幅される。」)

(ア-f)「The acquisition-aiding reference signal at the output of IF amplifier 60 is noncoherently demodulated by a FSK demodulator 62 which uses a conventional phase locked loop (PLL) to strip from the 30 MHz carrier the 128 bit per second data to be supplied to a microprocessor 64 by a line 66. The 30 MHz carrier is injected in a mixer 68. The data supplied on line 66 to microprocessor 64 includes Doppler coefficient data which is determined from the appropriate receiver position known within ±150 km. This data is used to obtain Doppler offset values for each of the four GPS signals to be acquired, as will be explained in more detail in connection with FIG. 6. The Doppler terms, computed in microprocessor 64 in a conventional manner, are applied as a control signal to vary the frequency of a voltage controlled oscillator (VCXO) 70 having a nominal 20 MHz frequency. The output of VCXO 70 is mixed in mixer 74 with the appropriate 1,023 Mbps C/A code corresponding to a particular GPS satellite generated by a reference code generator 72. The 30 MHz reference carrier generated by FSK demodulator 62 is mixed in a mixer 68 with the C/A code modified VCXO signal for up-conversion to the GPS IF carrier frequency of 50 MHz.」
(第8欄第42行?65行、和訳:「ライン66によってマイクロプロセッサ64に供給される128ビット/秒のデータを30MHzの搬送波から分離するために従来の位相ロック・ループ(PLL)を使用したFSK復調器62によって、IFアンプ60の出力の捕捉支援の参照信号は非同期に復調される。30MHzの搬送波は混合器68に注入される。ライン66でマイクロプロセッサ64に供給されるデータはドップラー係数データを含んでいて、±150km内で既知の適切な受信機位置から決定される。図6とともにより詳細に説明されるように、そのデータは捕捉される4GPS信号それぞれのドップラー・オフセット値を得るために使用される。ドップラー項は、マイクロプロセッサ64において従来の方法で計算され、公称20MHzの周波数である電圧制御発振器(VCXO)70の周波数を変更するための制御信号として利用される。VCXO70の出力は混合器74において、参照コード発生器72で発生され特定のGPS衛星に対応する、適切な1,023MbpsのC/Aコードと混合される。FSK復調器62で発生された30MHz参照搬送波は、混合器68において、C/Aコードで変更されたVCXO信号をGPS IF搬送波周波数の50MHzへのアップコンバージョンのために混合される。」)

(ア-g)「The output of code generator 72, on line 91, is mixed with the Doppler compensated output of VCXO 70 in mixer 74 to adjust for the frequency of offset between the nominal GPS code center frequency in channel 38 and 1575.42 MHz. The output of mixer 74, which is at a nominal frequency of 20 MHz modified by the C/A code generated by code generator 72 and Doppler, is up-converted in mixer 68 to a frequency very close to the 50 MHz IF frequency of the virtual carrier of the GPS spread-spectrum code signal in channel 38 corresponding to 1575.42 MHz with a zero Doppler.」
(第8欄第66行?第9欄第8行、和訳:「コード・ジェネレーター72の出力(ライン91)は、チャンネル38における公称のGPSコードの中心周波数と1575.42 MHzとの間のオフセット周波数を調整するために、VCXO70のドップラー補償出力とミキサー74において混合される。ミキサー74の出力(コード・ジェネレーター72およびドップラーによって生成されたC/Aコードによって修正されて、20MHzの公称周波数にある)は、ミキサー68において、チャンネル38における1575.42 MHzのゼロドップラーに対応するGPSのスペクトラム拡散コード信号の実質的搬送波の周波数である50MHzのIF周波数の非常に近い周波数にアップコンバートされる。」)

(ア-h)「In the signal acquisition mode, a PRN (pseudo-random noise) code frequency and phase search sequence, shown in FIG. 5 and FIG. 6, is employed. Doppler shifts from the NAVSTAR/GPS satellites are reduced essentially to zero by VCXO 70 under control of microprocessor 64, over line 93, before Gold code correlation can occur. As shown in FIG. 6(a), the Doppler frequency range of 4,000 Hz (±2,000 Hz over the continental United States) is typically scanned sequentially in 20 subframes of 200 Hz each. In the present example, 80 seconds are required to scan 4,000 Hz for GPS satellites A, B, C and D. The purpose of the Doppler scan during the signal acquisition mode is to determine which 200 Hz Doppler cell, shown in FIG. 6(a), contains the correct GPS satellite with a Doppler frequency shift within 200 Hz of that particular cell for compensation by VCXO 70. Alternatively, the Doppler gradient data (FIG. 3) on the FSK link, together with approximate knowledge of user position (with in ±150 km in pseudo-range distance between a GPS satellite and a user terminal) can be used in microprocessor 64 to set VCXO 70.」
(第9欄第26行?47行、和訳:「信号の獲得モードにおいて、図5および図6の中で示されるPRN(擬似ランダム雑音)コード周波数および位相の探索手順が用いられる。ゴールドコードの相関が取れる前に、NAVSTAR/GPS衛星からのドップラー偏移は、ライン93によるマクロプロセッサ64の制御の下でVCXO70によって実質的に0に減らされる。図6(a)に示されるように、4,000Hz(合衆国の大陸に渡って±2,000Hz)のドップラーの周波数範囲は、典型的には200Hzずつの20のサブフレームで順次スキャンされる。今の例においては、GPS衛星A、B、CおよびDに対して4,000Hzスキャンするために80秒必要である。信号の獲得モード中のドップラースキャンの目的は、図6(a)の中で示される、どの200Hzのドップラー・セルが、VCXO70による補償のための特定のセルの200Hz以内のドップラー周波数シフトを持った正しいGPS衛星を包含するものであるのかを決定することである。あるいは、FSKリンク上のドップラー勾配データ(図3)を、概略のユーザ位置情報(GPS衛星とユーザ端末との間の擬似距離で±150kmの)とともに、VCXO70をセットするためにマイクロプロセッサー64の中で使用することができる。」)

(ア-i)「Code correlation for GPS satellites A, B, C and D occurs in the manner shown in FIG. 6(b). Peak correlation for each satellite corresponding to associated Doppler shifts are shown in four-second subframes 3, 4, 5 and 6, corresponding respectively to GPS satellites B (400 Hz Doppler), C (600 Hz Doppler), D (800 Hz Doppler) and A (1,000 Hz Doppler). These Doppler shifts are compensated for in VCXO 70 at the start of each PRN search sequence shown in FIG. 5 associated with that satellite. A correlated output from integrate-and-dump circuits 82 and 84 is identified by a peak reading in a delay interpolation circuit 86 (FIG. 4).
Following code correlation peak acquisition, the outputs Lc and Ls of integrate-and-dump circuits 82 and 84 are supplied to delay interpolation circuit 86 to obtain code delay data to be applied on line 88 to microprocessor 64, as aforedescribed, for processing with the GPS satellite position coordinators supplied to the microprocessor on line 66 to compute user terminal position. The delay interpolation circuit 86 also generates a signal on line 90 to step the local code generator 72 in one chip steps to adjust for phase offset of the GPS satellite transmitted Gold code data on channel 38. The code step counter 112 generates a code chip reset signal on line 113 to the PRN code generator 72 (FIG. 4). It should be understood that although delay interpolation circuit 86 is illustrated in FIG. 4 as being a discrete circuit, the function of circuit 86 may be incorporated into microprocessor 64. 」
(第9欄第62行?第10欄第22行、和訳:「GPS衛星A,B,C,及び,Dに対するコード相関は、図6(b)に示される方法で発生される。それぞれの衛星についてのドップラーシフトに対応したピーク相関は、4秒のサブフレーム3,4,5,6において、GPS衛星のB(400Hzドップラー),C(600Hzドップラー),D(800Hzドップラー)及びA(1,000Hzドップラー)にそれぞれ対応する。これらのドップラーシフトは、図5に示された、その衛星に対応したそれぞれのPRNサーチ手順の開始において、VCXO70を補償する。積分ダンプ回路82及び84の相関出力は ディレイ補間回路86(図4)における ピーク指標によって特定される。
コード相関ピーク獲得に続いて、前述したように、マイクロプロセッサにライン66で供給され、ユーザ端末位置を計算するためのGPS衛星位置座標とともに処理するためのマイクロプロセッサ64へのライン88に適用するコード遅延データを得るために、積分ダンプ回路82及び84のLc及びLs出力は、ディレイ補間回路86に供給される。ディレイ補間回路86はまた、ローカルコード発生器72をGPS衛星が送信したチャンネル38上のゴールドコードデータの位相オフセットを調整するために1チップステップステップするためにライン90に信号を発生する。コードステップカウンター112はコードチップリセット信号をPRNコード発生器72へのライン113に発生する。(図4)図4にはディレイ補間回路86がディスクリート回路として図示されているが、回路86の機能はマイクロプロセッサ64に組み入れても良いことは理解すべきである。」)

(ア-j)「A diagram of one embodiment of delay interpolation circuit 86 is shown in FIG. 8 with inputs from integrate-and-dump circuits 82 and 84 as well as the circuit 86 being illustrated in FIG. 10. In FIG. 7, each signal processing frame has a duration of 12 milliseconds consisting of four subframes of 3 milliseconds each corresponding to each of the four satellites A, B, C and D. During each subframe, there are two integrate-and-dump cycles corresponding to successive chips i, i+1, followed by the aforedescribed interpolation to obtain finer than integral chip delay resolution. Prior to each subframe, the frequency of VCXO 70 is set by microprocessor 64 to compensate for Doppler shift corresponding to a particular satellite, e.g., satellite A, followed by setting of code generator 72 to the code delay closest to the GPS satellite code delay as determined by the immediately preceeding frames.
Following the two integration cycles on successive chips i, i+1, for satellite A, and following interpolation, a correlation and interpolation cycle is made on satellite B in a like manner, and so on, until the cycle repeats, beginning with satellite A. 」
(第10欄第62行?第11欄第15行、和訳:「図10に図示されている回路86と同様に積分及びダンプ回路82及び84からの入力を備えた、遅延補間回路86の一実施例の図が図8に示されている。図7において、それぞれの信号処理フレームは、12ミリ秒の期間を有し、4つのそれぞれ3ミリ秒のサブフレームからからなり、それぞれの4つの衛星A,B,C,及びDに対応する。それぞれのサブフレームの間、前述した補間の後に2つの積分-ダンプのサイクルが、全体のチップ遅延解像度より精密に補間を得るために、連続したチップi、i+1に対応して存在する。それぞれのサブフレームの前に、特定の衛星、例えば衛星A、に対応したドップラシフトの補正のためにVCXO70の周波数はマイクロプロセッサ64によって設定される。」)

(ア-k)「In the position fixing mode of operation of the receiver, the receiver must convert estimated code arrival times into user position. The solution depends upon a knowledge of GPS satellite positions at the instant of ranging code transmission. Microprocessor 64 keeps track of these positions by monitoring the demodulated FSK data stream on line 66 (FIG.4) which contains direct coordonate information referenced to the GPS C/A code period emitted at epoch time T_(RS). Thus, the invention contemplates moving data processing complexity from a plurality of receiver terminals to a single remote control station transmitter, in particular, to controller 26 as shown in FIG.2. 」
(第11欄第64行?第12欄第12行、和訳:「受信機の位置決定の動作モードにおいて、受信機は推定したコード到着時間をユーザ位置へ変換しなければならない。その解は測距コード送信の瞬間のGPS衛星の位置の情報に依存する。Tのエポック時刻に発信されたGPSのC/Aコード期間を基準とした直接の座標情報を包含する復調されたライン66(図4)のFSKデータ列をモニタすることによって、マイクロプロセッサ64はこれらの位置の追跡をし続ける。このように、この発明はデータ処理の複雑さを、多数の受信端末から単独の遠隔制御局の送信機、とりわけ、図2に示されたようなコントローラ26に移動することを意図している。」)

(ア-l)「Thus, the reference channel approach to NAVSTAR/GPS, as set forth in accordance with this disclosure, simplifies user equipment in all three modes of operation by eliminating delay lock tracking and Costas phase-lock loops, relaxing receiver front-end local oscillator long term stability requirements and reducing data processing requirements. 」
(第12欄第59?65行、和訳:「それゆえ、NAVSTAR/GPS参照チャンネルアプローチは、この開示に対応して述べるように、ディレイロックトラッキングループ及びコスタス位相ロックループを除去し、フロントエンドの局部発振器の長期安定性の要求を緩和し、データ処理の必要性を減少させることによって、3つの全てのモードの作業においてユーザ端末を単純化する。」)

(ア-m)「As to the acquisition mode control, this routine is responsible for control of VCXO 70, integrate-and-dump circuits 82 and 84 and code generator 72. Data previously stored for the FSK data channel buffering is used to identify which codes are to be selected. Corresponding to each of these, the algorithm computes a VCXO offset step by any of three methods. Firstly, given approximate knowledge of position the Doppler gradient words obtained from the FSK data channel can be used in a lookup table-interpolation scheme. The second method, similar to that of a conventional GPS receiver, requires a computation of user-to-GPS satellite range rate. In this approach GPS satellite velocities are obtained directly by differencing satellite positions from adjacent 4-second FSK data blocks. The third approach, appropriate for the case of no prior knowledge of position, employs the fixed Doppler scan of FIG. 6(a).」
(第13欄第10?27行、和訳:「獲得モード制御についていえば、このルーチンはVCXO70、積分・ダンプ回路82及び84及びコード生成器72の制御をしなければならない。FSKデータチャンネルバッファに予め格納されたデータは、どのコードが選択されるのかを特定するために使用される。これらのそれぞれに対応して、当該アルゴリズムはVCXOオフセットステップを3つのいずれかの方法で計算する。1番目は、概略位置情報与えられ、FSKデータチャンネルから得たドップラー係数ワードはルックアップテーブル補間スキームに使うことができる。2番目の方法は、従来のGPS受信機と似ているが、ユーザ-GPS衛星のレンジレートの計算を必要とする。このアプローチにおいて、GPS衛星の速度は、隣接した4秒FSKデータブロックからの衛星位置の差分により直接に得られる。3番目のやり方は、事前情報が無い場合に適切であって、図6(a)の規定のドップラースキャンを用いる。」)

(ア-n)「The Doppler coefficient signal identifies the correct Doppler cell frequency offset for the satellites in view, so that each terminal receiver having some prior knowledge of position may quickly identify the correct Doppler cell to off-set the Doppler frequency to zero rather than requiring a much longer time to perform scanning as shown in FIG. 6(a) and (b).」
(第14欄第58?65行、和訳:「ドップラー係数信号は、視界にある衛星の正しいドップラー・セル周波数オフセットを特定するので、それぞれの端末受信機は、FIG. 6(a)及び (b) に示したようなスキャンを実行するためにより長い時間を必要とするのではなく、いくらかの位置の事前知識を持って直ちにドップラー周波数をゼロへとオフセットするための正確なドップラーセルを特定する可能性がある。」)

(ア-o)「 Trucks carrying a terminal typically may have visible or audible indicators but the various remote control stations would receive data relating to the trucks position, at a particular time, from a report-back transmitter located in each truck with a terminal. In this application, the user terminal may, but need not, compute its own position. It could merely send back psuedo-range information directly to the remote control station. 」
(第17欄第50?58行、和訳:「端末を持っているトラックはたいてい可視または可聴の指示器を持っているであろうが、多数の遠隔制御局は特定の時間に、それぞれのトラックに端末と一緒に位置しているリポートバック送信機からトラック位置に関するデータを受信する。この応用例において、ユーザ端末は自身の位置を計算してもよいがする必要はない。単に擬似距離情報を直接遠隔制御局に送り返してよい。」)

上記摘記事項(ア-a)には、ユーザ端末の位置座標が得られる旨の記載があって、上記摘記事項(ア-b)には、遠隔制御局12から送信された視界にあるGPS衛星に対応したドップラー情報を含む参照支援信号を静止衛星10がユーザ端末へ中継する旨の記載がある。これらの記載と図面の図1ないし図3より、「ユーザ端末の位置を決定する方法」及び「ユーザ端末で、静止衛星10から、視界にあるGPS衛星のドップラー情報を含む参照支援信号を受信するステップ」が読み取れる。

上記摘記事項(ア-f)ないし(ア-j)には、主にユーザ端末における受信手順について記載されていて、これらの記載におけるドップラー係数データあるいはドップラー予測データは、上記摘記事項(ア-b)における「ドップラー情報」に含まれるものであることは明らかであるから、上記摘記事項(ア-f)ないし(ア-j)並びに図面の図3ないし図8より、「ユーザ端末の中で、GPS衛星の位置座標を受信してユーザ端末の位置決定に使用し、ドップラー情報を使用することにより、GPS衛星からユーザ端末までの擬似距離を計算するステップ」が読み取れる。

したがって、上記摘記事項(ア-a)ないし(ア-o)並びに図面の図1ないし図8より、引用例1には次の発明が記載されているものと認める。

「ユーザ端末の位置を決定する方法において、
前記ユーザ端末で、静止衛星10から視界にあるGPS衛星のドップラー情報を含む参照支援信号を受信するステップと;
前記ユーザ端末の中で、GPS衛星の位置座標を受信してユーザ端末の位置決定に使用し、前記ドップラー情報を使用することにより、前記GPS衛星からユーザ端末までの擬似距離を計算するステップとを含むユーザ端末の位置を決定する方法。」(以下、「引用発明1」という。)

第5 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。

ア 引用発明1の、「ユーザ端末」、「視界にある」、「GPS衛星」、「GPS衛星からユーザ端末までの擬似距離」は、
本願発明の、「遠隔ユニット」、「遠隔ユニットの視界内にある」、「衛星」、「衛星の、少なくとも1つの擬似距離を含む位置情報」に相当する。

イ 引用発明の「静止衛星10」は、衛星を用いた通信システムにおいて送信を行うものであることが明らかであるから、引用発明1の「静止衛星10」と本願発明の「セルラ通信システムの送信セル」とは、「通信システム」の点で共通する。

そうすると、本願発明と引用発明1とは、次の点で一致し、
[一致点]
「遠隔ユニットの位置を決定する方法において、
前記遠隔ユニットで、通信システムから前記遠隔ユニットの視界内にある衛星のドップラー情報を受信するステップと;
前記遠隔ユニット中で、前記ドップラー情報を使用することにより、前記衛星の、少なくとも1つの擬似距離を含む位置情報を計算するステップとを含む遠隔ユニットの位置を決定する方法。」
次の相違点1、2で相違している。
[相違点1]
通信システムが、本願発明は「セルラ通信システムの送信セル」であるのに対して、引用発明1は「静止衛星10」である点。

[相違点2]
前記衛星の、少なくとも1つの擬似距離を含む位置情報を計算するステップについて、本願発明は、「衛星の天文暦(エフェメリス)情報を受信せずかつ使用せずに」としているのに対して、引用発明1はその点が明らかでない点。

第6 判断
上記相違点1、2について検討する。
ア 相違点1について
移動体との通信手段としてセルラ通信システムは周知技術であって(例えば、米国特許第5225842号明細書の第6欄第34?42行に、セルラ無線(cellular redio)が例示されている。)、引用発明1に上記周知技術を適用して相違点1の構成とすることは当業者が容易に相当できたことである。

イ 相違点2について
本願発明の「衛星の天文暦(エフェメリス)情報」と引用発明1の「GPS衛星の位置座標」とについてそれぞれの技術的意義を検討する。
本願発明の「衛星の天文暦(エフェメリス)情報」について、本願の明細書には次の記載がある。
a)「【背景技術】【0003】 GPS受信機は通常、複数のGPS(またはNAVSTAR)衛星から同時に送信される信号の到着の相対的時間を計算することによって、その位置を決定する。これらの衛星は、そのメッセージの一部として、クロック計時データの他に、「天文暦(エフェメリス)」データと呼ばれる衛星の位置データを送信する。GPS信号を探索し、取得して、複数の衛星の天文暦(エフェメリス)データを読み取り、このデータから受信機の位置を計算するプロセスは、時間を消費し、往々にして数分かかる。多くの場合、この長い処理時間は許容できず、さらに超小型化したポータブル用途でバッテリの寿命を大幅に制限する。 」

b)「【0005】 GPS受信システムには次の2つの基本的機能がある。つまり(1)様々なGPS衛星の疑似距離を計算し、(2)その疑似距離と衛星の計時および天文暦(エフェメリス)データとを使用して受信プラットフォームの位置を計算する。疑似距離とは、単に各衛星からの受信信号と地域の時計との間で測定された時間の遅れである。衛星の天文暦(エフェメリス)および計時データは、取得したらGPS信号から抽出し、トラッキングする。上述したように、この情報の収集には通常比較的長い時間(30秒から数分)かかり、低いエラー率を達成するために、良好な受信信号レベルで実行しなければならない。」

c)「【0019】 疑似距離を使用して、様々な方法で遠隔ユニットの地理的位置を計算できることを理解されたい。以下のような3つの例がある。
1.方法1:衛星のデータ・メッセージを基地局10から遠隔ユニット20に再送することにより、遠隔ユニット20はこの情報を疑似距離測定値と組み合わせ、その位置を計算することができる。例えば、参照により本明細書に組み込んだ米国特許第5,365,450号を参照すること。通常、遠隔ユニット20は、遠隔ユニット20の位置の計算を実行する。
2.方法2:遠隔ユニット20は、当技術分野で一般に実施されている普通の方法で受信したGPS信号から衛星の天文暦(エフェメリス)データを収集する。このデータは、通常は1時間ないし2時間有効で、疑似距離測定値と組み合わせて、通常は遠隔ユニットで、位置計算を完成することができる。
3.方法3:遠隔ユニット20は、通信リンク16を介して疑似距離を基地局10に送信し、基地局は、この情報を衛星の天文暦(エフェメリス)データと組み合わせて、位置計算を完成することができる。例えば、参照により本明細書に組み込んだ米国特許第5,225,842号を参照すること。」

d)「【0021】 本発明を説明するために、方法3は位置計算を完成するために使用すると想定される。しかし、本明細書を検討すると、当業者には本発明の様々な態様および実施形態を、上記の3つの方法および他のアプローチとともに使用できることが理解される。例えば、方法1の変形では、衛星の天文暦(エフェメリス)を表すデータのような衛星データ情報は、基地局から遠隔ユニットに送信され、この衛星データ情報を、バッファしたGPS信号から本発明により計算した疑似距離と組み合わせて、遠隔ユニットの緯度と経度を(および多くの場合は高度も)提供することができる。遠隔ユニットから受信する位置情報は、緯度および経度に制限するか、緯度、経度、高度、速度および遠隔ユニットの方位を含む包括的情報にすることができることが理解される。さらに、本発明の局部発振器の補正および/または電力管理の態様を、方法1のこの変形に使用することができる。さらに、ドップラー情報を遠隔ユニット20に送信し、本発明の態様により遠隔ユニット20で使用することができる。」

これらa)ないしd)の記載からみて、本願発明の「衛星の天文暦(エフェメリス)」は、いわゆるGPSシステムにおいて、GPS衛星が送信しているGPS信号から直接的に抽出できるデータ、あるいはそれと同等のデータとしての技術的意義を有するものであると解するのが自然である。
そうしてみると、一般の単独測位を前提としたGPS受信機において、GPS衛星が送信しているGPS信号から直接的に抽出できるデータとしての衛星の軌道情報を取得した後、当該軌道情報を元に適宜の演算処理を行うことによって導出される、信号受信時の衛星の位置座標やドップラー周波数等は、「衛星の天文暦(エフェメリス)」ではない。

他方、引用例1の上記摘記事項(ア-c)ないし(ア-e)には、主に遠隔制御局12及びGPSマスタ制御局18に関する事項が記載されていて、これらの記載事項によれば、引用発明1の「GPS衛星の位置座標」は、GPSマスター制御局18から遠隔制御局12に対して送信された「衛星の天文暦(エフェメリス)情報」や他の情報に基づいて、遠隔制御局12において抽出された上で「位置座標」として送信されているものであるから、GPSマスター制御局18あるいはGPS衛星が送信している「衛星の天文暦(エフェメリス)情報」そのものとは異なるものであることが明らかである。
そうしてみると、引用発明1における「GPS衛星の位置座標」は、本願発明の「衛星の天文暦(エフェメリス)」とは異なる情報なのであるから、引用発明1の「ユーザ端末の中で、GPS衛星の位置座標を受信してユーザ端末の位置決定に使用し、前記ドップラー係数データを使用することにより、前記GPS衛星からユーザ端末までの擬似距離を計算するステップ」は、「衛星の天文暦(エフェメリス)情報を受信せずかつ使用せずに」擬似距離を計算しているといえる。
よって、相違点2は実質的な相違点ではない。

次に、本願発明の「衛星の天文暦(エフェメリス)情報」の技術的意義を、本願明細書の記載あるいはGPSにおいて一般的に用いられている意味から離れて、より一般的に衛星の位置座標に関する情報であると解するとして、引用発明1の「GPS衛星の位置座標」が本願発明の「衛星の天文暦(エフェメリス)情報」に相当するものであるとした場合の相違点2について判断しておく。
引用発明1の「GPS衛星の位置座標」は、引用例1の上記摘記事項(ア-k)に記載されているようにユーザ端末においてユーザ端末の位置を演算する際に用いるか、あるいは、引用例1の上記摘記事項(ア-m)に記載されているようにVCXOのオフセットを計算する際に想定される3つのアルゴリズムのうちの一つとしてGPS衛星の速度計算する際に用いられることが記載されている。しかしながら、引用例1の上記摘記事項(ア-o)に「ユーザ端末は自身の位置を計算する必要はない。擬似距離の情報を直接遠隔制御局に単に返送することも可能である」旨記載されていて、その場合にはユーザ端末においてユーザ端末の位置を演算しないし、また、VCXOのオフセットを計算する際のアルゴリズムについて引用例1の上記摘記事項(ア-m)にはGPS衛星の位置座標を使用しないアルゴリズムも複数例示されているから、「GPS衛星の位置座標」の情報が必要ないことが明らかである。
そして、引用例1には上記摘記事項(ア-b)に記載されているように、従来の受信機で行われていた信号処理ステップを遠隔制御局に移動させることによって受信機の構成を単純化することを主な目的としていることからも、「GPS衛星の位置座標」に基づいた計算を必要とするような従来のGPS受信機で行われていた信号処理について遠隔制御局で行うようにして、その際に必要のないデータを受信しないようにすることは当業者が当然に行うことであるから、「GPS衛星の位置座標」の受信をもしないように構成することは引用発明1に基づいて当業者が容易に想到できたことである。

したがって、上記相違点2の構成とすることは当業者が容易に想到できたことである。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明1から当業者が予測できる範囲のものであって格別のものではない。

ウ 審判請求人の主張について
平成18年11月14日付け手続補正書で補正された審判請求書の請求の理由において、「引用例1には、ドップラー係数データを移動ユニットに送信するということの開示はあるが、エフェメリスデータも移動ユニットに送信されており、移動ユニットでは、この両方のデータを用いている。」旨主張し、その根拠として、引用例1の「GPS衛星のエフェメリスとアップロードデータはGPS主制御局によって取得され、地上線や他の手段によって遠隔制御局に供給される。」(第5欄第41?44行参照)の記載を摘示している。しかしながら、前記摘示された記載において、「GPS主制御局」は、GPS衛星そのものに対してデータをアップロードし、GPS衛星を制御するために設けられているものであって、GPSシステム全体を制御するための制御局を意味しており、また、「遠隔制御局」は地上に設置されて、静止衛星10を経由してユーザ端末に対してデータを供給するための制御局であって移動ユニットではないから、本願と対比するならば、前記摘示された記載の「遠隔制御局」は例えば、本願の請求項2に係る発明の「基地局」に相当するものとみるべきである。そうしてみると、引用例1の上記摘示された記載からは、エフェメリスデータも移動ユニットに送信しているとの事項は読み取ることができない。
よって当該記載に基づいた審判請求人の上記主張は採用できない。

エ よって、本願発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

オ まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 本件補正2を適法とした場合の予備的検討
仮に、本件補正2を適法とした場合の特許法第29条第2項違反についても検討する。
本件補正2が認められた場合、審理の対象とすべき明細書及び図面は本件補正2により補正されたものとなるが、請求項1及び発明の詳細な説明は、本件補正1により補正されたものと同一である。したがって、本件補正2によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、上記「第4」ないし「第6」に記載した理由と同様の理由により特許を受けることができない。

第8 むすび
以上のとおり、本件補正2を却下したとしても、却下せずに認めたとしても、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-25 
結審通知日 2009-01-06 
審決日 2009-01-22 
出願番号 特願2005-214896(P2005-214896)
審決分類 P 1 8・ 571- Z (G01S)
P 1 8・ 121- Z (G01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 有家 秀郎  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 山下 雅人
下中 義之
発明の名称 GPS受信機とGPS信号を処理する方法  
代理人 山川 政樹  
代理人 紺野 正幸  
代理人 西山 修  
代理人 黒川 弘朗  
代理人 山川 茂樹  

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