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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1198547
審判番号 不服2007-6759  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-07 
確定日 2009-06-10 
事件の表示 平成11年特許願第164634号「体脂肪分布の測定方法及び測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月19日出願公開,特開2000-350727〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成11年6月11日の特許出願であって,平成19年1月31日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成19年3月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成19年3月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年3月7日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により,補正前の特許請求の範囲(平成18年9月27日付けで補正されたもの。以下,同様。)の請求項1は,次のとおりに補正された。(下線は補正箇所を示す。)

「【請求項1】 人体の体脂肪分布を測定する装置において、
測定データを受けて演算処理を行うための制御手段と、
腹部皮下脂肪厚を測定し、測定された腹部皮下脂肪厚データを前記制御手段へ入力するための第1の入力手段と、
腹部周径囲を測定し、測定された腹部周径囲データを前記制御手段へ入力するための第2の入力手段と、
前記制御手段に含まれる演算手段であって、前記第1の入力手段および第2の入力手段からのデータに基づいて腹部皮下脂肪面積を演算するとともに、前記第2の入力手段からのデータに基づいて腹部総脂肪面積を演算し、該腹部総脂肪面積から前記腹部皮下脂肪面積を引くことにより腹部内臓脂肪面積を算出するための演算手段と
を備え、
前記演算手段は、入力された腹部皮下脂肪厚データに入力された腹部周囲長データを乗じて得た値を腹部皮下脂肪面積とすることを特徴とする装置。」

上記補正は,補正前の請求項1及び2を削除するとともに,同項を引用して従属形式で記載されていた補正前の請求項3を2つの独立形式のものに補正した2つの請求項のうちの,補正前の請求項1に従属する請求項であって,該請求項に記載した発明を特定するために必要な事項である「演算手段」について,装置が「測定データを受けて演算処理を行うための制御手段」を具備することを特定し,「演算手段」が「前記制御手段に含まれる演算手段」であること,「第1の入力手段」および「第2の入力手段」について,「腹部皮下脂肪厚を測定し、測定された腹部皮下脂肪厚データを前記制御手段へ入力するための第1の入力手段と、腹部周径囲を測定し、測定された腹部周径囲データを前記制御手段へ入力するための第2の入力手段」であると限定する補正であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,補正後の請求項1に記載された発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下検討する。

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開昭62-87139号公報(以下,「刊行物1」という。)には,「肥満度測定装置」について,図面と共に次の事項が記載されている。

(1-ア)
「第1図において、1は体・個人情報レジスタ、2は計測部位レジスタ、3は皮下脂肪厚計測値レジスタ、4は標準パターン格納部、5と7は読出部、6は体脂肪推定係数格納部、8は皮下脂肪厚判定部、9は体脂肪推定部、10は記憶部を示す。
本発明に係る肥満度測定装置では、キー入力装置などを使って被計測者毎にその計測前に体情報や個人情報を入力し、次いで順次計測部位を指定入力して超音波による皮脂厚の計測を行う。体・個人情報レジスタl、計測部位レジスタ2は、このとき入力された体情報や個人情報、計測部位データを保持するものであり、皮脂厚計測値レジスタ3は、超音波を使って計測された表皮から皮下脂肪層と筋肉表面との界面までの厚さ(皮脂厚)データを保持するものである。ここで、体情報は、上腕囲、胸囲、腹囲、大腿囲、下腿間、身長、体重など被計測者の体格や体型を表す計測データであり、個人情報は、性別、年齢、地区、職域など個人の類別情報を表すデータである。計測部位は、任意であるが、計測者による誤差を少なくするためにはT(Target;標的)波同定の安定性が高く、体部位の代表的な点で、計測に際して羞恥心を引き起こさないような部位が望ましい。例えば上腕屈側部、上腕伸側部、肩甲骨下角部、腸骨稜上部、腹部、大腿前側、大腿後側などをその対象部位として選定することができるが、この部位の左右両側でも片側でもよい。」(3頁左上欄下から4行?同頁左下欄3行)

(1-イ)
「体脂肪推定部9は、読出部7によって読み出されたパラメータを使って皮脂厚計測値レジスタ3に保持された計測値から体脂肪を推定するものであり、例えば第3図に示すように、まず計測位置における皮下脂肪断面積X_(i)を求め、さらにその部位の係数α_(i)を乗じて部位別体脂肪量α_(i)X_(i)を推定する。」(4頁左上欄9?15行)

(1-ウ)
「・・・・・この例では、第3図から明らかなように計測部位の周囲長も必要となるが、この計測値は、皮脂厚計測値レジスタ3、或いは体・個人情報レジスタ1に保持するようにしてもよい。即ち、皮脂厚及びその計測位置の周囲長が計測値として与えられ、他方、皮下脂肪断面積X_(i)を推定するためのパラメータ及びその部位別体脂肪量を推定するためのパラメータα_(i)が読出部7によって体脂肪推定係数格納部6から読み出されることになる。例えば、大腿部が計測位置である場合、その皮脂厚の計測値から大腿部の皮下脂肪断面積を推定し、その推定値からさらに下肢部全体の体脂肪量を推定する。・・・・・」(4頁左上欄末行?同頁右上欄12行)

(1-エ)
「第4図は本発明に係る肥満度測定装置に適用される皮脂厚計測部の1実施例構成を示す図、第5図は第4図に示す皮脂厚計測部の外観図、第6図は半自動モード時における反射波波形の表示態様の1例を示す図である。図中、11は発信部、12は受信部、13は時間制御部、14は増幅部、15は検波回路、16は反射波検出部、17は演算部、18はモード切換スイッチ、19はコントローラ、20は数文字変換部、21はブラウン管駆動部、22はブラウン管、23は本体、24はスクリーン、25はプローブを示す。
第4図において、発信部11は、・・・・・反射波検出部16は、プローブの端面を覆って測定部位への密着を助ける膜面からの反射波の位置と体内界面からの反射波の位置との関係を把握して信号を演算部17に送るものである。演算部17は、測定基準となる反射波から体内界面までの往復時間tを求め、これに伝播速度vを掛けvt/2により皮脂厚を算出するものであり、この算出された測定値が数文字変換部20に送られてデジタル信号に変換されると共に、第1図に示す皮脂厚計測値レジスタ3に保持される。・・・また、ブラウン管駆動部21は、図示しないが第1図に示す記憶部10のデータを読み出して表示出力する制御回路にも接続されることによって、皮脂厚の判定データや体脂肪の推定データなどをもブラウン管22に表示するものである。モード切換スイッチ18及びコントローラ19は、後述するような計測モードの切り換えに関連して用いるものである。
上記皮脂厚計測部の外観を示したのが第5図であり、本体23にブラウン管22、モード切換スイッチ18、コントローラ19などが取り付けられ、プローブ25が連結されている。プローブ25は、その端面を皮脂厚計測部位に密着させて使用するものであり、第4図に示す発信部11及び受信部12を内蔵し、その端面から超音波を送り出して反射波を受信している。・・・・・計測反射波の凍結方式を採用すると、安定したより精度の高い皮脂厚の計測値を得ることができる。
第1図に示す皮脂厚判定部や体脂肪推定部その他の処理部及びレジスタや標準パターン格納部その他の記憶手段は、マイクロプロセッサやRAM、ROMを使って、コンパクトに構成できる。これらの構成は、第4図に示す演算部17に含め、第5図に示す本体23の中に組み込んでもよいし、付属ユニットにしてもよい。」(4頁左下欄5行?5頁左下欄末行)

(1-オ)
第3図には,「皮脂厚」と「周囲長(皮脂厚と同一横断面)」とから「皮下脂肪断面積 X_(i)cm^(2)」を求め,さらに「体脂肪量」を推定する推定式が,「Fat(kg)=Σα_(i)X_(i) α_(i):部位ごとの計数」であることが,「X_(i)」をドーナツ状の図形として記載したものとともに図示されている。

同様に,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である「Tamas Kekes-Szabo et al,Development and Validation of Computed Tomography Derived Anthropometric Regression Equations for Estimating Abdominal Adipose Tissue Distribution,Obesity Research,1994.9,vol.2, no.5, pp.450-457」(以下,「刊行物2」という。)には,「腹部脂肪組織分布を推定するためのコンピュータ断層撮影法由来の人体測定値の回帰式の作成と実証」について,図面と共に次の事項が記載されている。

(2-ア)


」(450頁左欄,当審仮訳:「本研究には2つの目的があった:それは(1)広範囲の年齢(18-71才)と体脂肪率(2.0-40.6)を有する成人白人男性の人体測定値から,コンピュータ断層撮影法(CT)由来の腹腔内(IAF),皮下(SCF),および総(TOTF=IAF+SCF)腹部脂肪組織面積を推定するための多重回帰式を作成すること,そして(2)これらの脂肪蓄積の推定のために,新規な式とIAF決定用に同様にハウスフィールド単位(HU)を用いた既知の式を実証することである。151人の白人男性被験者のIAF,SCF,およびTOTFが1回のCTスキャンにより決定され,皮下脂肪および周囲長の測定が行われ,体密度が決定された。線形相互相関と因子分析の手法を用いて,段階的多重回帰解に算入するための変数を特定した。IAFは,年齢,胴囲,大腿中央と下腿の周囲長の和,並びに垂直腹部皮下脂肪から推定された。SCFは,年齢,へそ周囲長,胸部と腸骨上皮下脂肪から推定された。TOTFは,年齢,ボディマスインデックス(BMI),胸部皮下脂肪並びにへそ周囲長から推定された。」)

(2-イ)人体測定法


」(451頁右欄27行?452頁左欄13行,当審仮訳:「人体測定値の標準化に関するエアリー会議(Airlie Conference)(13)の採用した手順に従い,身体各部の皮下脂肪と周長を測定した。測定値はすべて,被験者が起立した状態で取得した。0.7cmのプラスチックテープを用いて,首,肩,上胸,胸,最小胴囲,へそ,最大臀部,大腿上部,大腿中央,下腿,中腕,前腕,手首,ふくらはぎ,足首という15の部位の周長を2回ずつ測定した。またHarpendenキャリパーを用いて,右側の二頭筋,三頭筋,肩甲下,胸部,腋窩中央,垂直腹部,水平腹部,腸骨上,大腿中央,およびふくらはぎという10箇所において,皮下脂肪測定を2回ずつ行った。2回の測定の平均値を分析に使用した。体重は,水泳パンツを着けた状態で,較正済みの臨床はかりで0.25ポンドの単位まで測定した。身長は,・・・単位まで測定した。へその高さの矢状面直径および正中矢状面横断径を,・・・で測定した。BMIは・・・算出した。体密度は,・・・流体静力学的秤量法によって求めた。体脂肪率は・・・体密度から算出した。水中体重は・・・剖検秤を用いて求めた。体脂肪率は・・・求めた。3つの測定値の相互誤差が・・・最低6回の水中秤量を行った。肺残気量は,・・・法を用いて測定した。・・・腸内ガス量の補正係数として0.11を採用した。我々の施設における連日の水中秤量による体脂肪率の反復測定値の標準偏差は,脂肪量の0.5%未満である。変数の一覧を表1に示す。」)

そして,452頁の表1には,変数としての「胸部皮下脂肪」,「垂直腹部皮下脂肪」等の皮下脂肪がmm単位の数値で示されている。

(2-ウ)統計分析


」(452頁左欄下から8行?453頁左欄4行,当審仮訳:「本研究は,18?71才男性の標本に関するIAF予測因子一式の特定および実証を試みた。最初の分析段階は,・・・・変数を導出した。変数相互の相関が最も低く,CTに基づく値(IAF,SCF,TOTF)および年齢との相関が最も高い13の予測変数について段階的回帰分析を行った。・・・各CT値より生じた回帰式について,残りの被験者51例の標本を用いてペアードt-検定による実証を行った。・・・分析を行うにあたり,社会科学用SPSS統計パッケージプログラム(18)を用いた。」)

(2-エ)


」(453頁右欄12行?454頁左欄1行,当審仮訳:「変数は相互に相関され,またIAF,SCFおよびTOTFと相関させた。選定された変数とCTスキャン脂肪組織データとの関連に関する相関係数を表2に示す。相互相関をもとに,変数相互の相関が最も低く,各脂肪組織指標との相関が最も高かった13の予測変数を選定した。各指標を予測するための段階的多重回帰分析に使用した変数を表3に示す。表4は,得られた予測回帰式,標準誤差,および各回帰式の累積補正R^(2)に関する概要である。各独立変数の回帰係数のP値は0.01未満であった。
本研究で生まれた回帰式を実証標本で試験したところ(表4),すべてのペアードt-検定において,実測値と予測値との間に差がないという帰無仮説を否定することができなかったが,他方,R^(2)値はすべて0.75よりも大きかった。」)

そして,454頁には,「表4:人体測定値変数および年齢からの腹腔内,皮下および総腹部脂肪量の予測(n=151)および変動(n=51)に対する多重回帰式」が,従属変数としてのIAF,SCFおよびTOTFについて,それぞれ,要約にも記載されている年齢を含む4つの独立変数とその回帰係数,そして実証結果が示されている。

(2-オ)


」(454頁右欄19行?455頁右欄20行,当審仮訳:「我々の施設における最近の研究では,増大した心血管危険因子を1つ以上持つ人の91%,2つ以上持つ人の96%,そして3つ以上持つ人の100%において,最低でも71cm^(2)のIAF横断面が存在することが示された(14)。このように,個人の心血管疾患発現リスクに果たす体組成の役割を判断する上でIAFの測定が重要であることは明らかである。しかし,既存のIAF測定法(CTおよび核磁気共鳴画像法)は共に大変高価であり,時間もかかる。集団の大部分を対象にIAFスクリーニングを行う安価な手法が必要である。数名の研究者によって人体測定値に基づく回帰式が作成され,概して比較的良好なR^(2)値が報告されている(9,15,20,21,27)。しかし,これらの回帰式の作成において,総じて高齢かつ肥満気味の標本が使用されている。作成した回帰式を,独立標本を用いて実証した研究者はいない。広範囲の年齢および体脂肪率を代表する回帰式が必要である。本研究において被験者を年齢及び体脂肪率による4つの群に選別したことは,18?71才で体脂肪率が2?41%の男性という不均一な代表を保証した。
IAFを推定するための分析に4つの変数を使用した。多重共線性を低減するため,新たな変数を回帰式に採用する際の最小許容差が0.3という基準を付加した。多重共線性のために採用されなかった変数は,それぞれ最小限R^(2)の増大が理由であった。胴囲,年齢,及び垂直腹部皮下脂肪はいずれもIAFと正相関しており,回帰式において正の負荷量を持ってた。大腿中央および下腿周長の和(LEG)はIAFと正の相関を示したが,負の負荷量を持っていた。どうやら,脂肪(胴囲および垂直腹部皮下脂肪)について補正した後に,足の筋および骨成分が負の負荷量を生じさせるようである。皮下および総腹部脂肪組織の回帰式は,ともに,各CT変数と正相関を示し,回帰式において正の負荷量を持つ4つの変数を含む。
本研究により生じた回帰式はすべて,IAF,SCFおよびTOTFの変動の大きな割合を占めた。これらの回帰式の有用性を評価するため,2つの基準を適用した。第1の基準は,同一集団からの独立標本を用いて行う式の統計学的実証に関していた。第2の基準は,実証標本内の系統的変動を説明する式の能力(0.6以上の決定係数によって証明される)に関していた。
本研究で生まれた回帰式は,すべて,両基準に従い良好に実証された(すべてのペアードt-検定結果が有意でなく,すべての決定係数が0.6を上回った)。本研究で用いたHUは,Despresら(9)の作成した回帰式にのみ対応した。それゆえ,彼らの回帰式についてのみ実証を行った。Despresらの作成した式の1つは両基準を満たしたが,本研究で生まれた式について実証された0.75というR^(2)は,Despres式について実証された0.67というR^(2)よりも高かった。」)

(2-カ)


」(456頁左欄28行?38行,当審仮訳:「本研究で作成した回帰式は,不均一な白人男性集団におけるIAF,SCFおよびTOTFの推定に有意義であると考えられる。このような推定は,糖尿病や心血管疾患のリスクならびに罹病率に関する広範な基盤を持った疫学的研究において有用であると考えられる。また,これらの式は,その脂肪蓄積ゆえに臨床的に注意すべき人を特定する上で役立つであろう。我々の施設では現在,女性について同様な回帰式を作成すべく,研究が続けられている。このほかに,民族の異なる集団に適した式を作成するための研究が必要である。」)

3 当審の判断
(1)引用発明
刊行物2においては,人体の体脂肪分布を示す腹腔内(IAF),皮下(SCF),および総(TOTF=IAF+SCF)腹部脂肪組織面積が,測定された人体測定値データが入力されて,回帰式を用いて演算により求めるソフトウエアにより演算,制御されている装置によって求められている(上記記載事項(2-ウ)参照。)から,該装置には,演算に使用される測定値データ等が入力される入力手段が当然存在しているといえる。また,演算に使用されている各種部位の皮下脂肪値は,キャリパーを使用するその測定手段(上記記載事項(2-イ)参照。)および測定値がmm単位で示されている表1の記載からみて,「皮下脂肪厚」に相当するといえる。
そうすると,上記記載事項(2-ア)?(2-カ)を総合すると,刊行物2には次の装置の発明が記載されていると認められる。

「人体の体脂肪分布を測定する装置において,
測定データを受けて演算処理を行うための制御手段と,
測定された皮下脂肪厚を含む人体測定値データを前記制御手段へ入力するための入力手段と,
前記制御手段に含まれる演算手段であって,前記入力手段からの,それぞれ,年齢,へそ周長,胸部皮下脂肪厚と腸骨上皮下脂肪厚データに基づいて腹部皮下脂肪面積を演算し,年齢,ボディマスインデックス(BMI),胸部皮下脂肪厚並びにへそ周囲長データに基づいて腹部総脂肪面積を演算し,そして年齢,胴囲,大腿中央と下腿の周囲長の和,並びに垂直腹部皮下脂肪厚に基づいて腹部内臓脂肪面積を演算するための演算手段と
を備えている装置。」(以下,「引用発明」という。)

(2)対比
補正発明と引用発明とを対比すると,両者は,
(一致点)
「人体の体脂肪分布を測定する装置において,
測定データを受けて演算処理を行うための制御手段と,
測定された皮下脂肪厚を含む人体測定値データを前記制御手段へ入力するための入力手段と,
入力手段からのデータに基づいて,腹部皮下脂肪面積,腹部総脂肪面積,および腹部内臓脂肪面積を演算するための演算手段を,備えた装置。」
である点で一致し,次の点で相違する。

(相違点1)
「入力手段および腹部皮下脂肪面積を演算するための演算手段」が,補正発明では「腹部皮下脂肪厚を測定し、測定された腹部皮下脂肪厚データを前記制御手段へ入力するための第1の入力手段と、腹部周径囲を測定し、測定された腹部周径囲データを前記制御手段へ入力するための第2の入力手段」であって,「前記第1の入力手段および第2の入力手段からのデータに基づいて腹部皮下脂肪面積を演算するとともに」,「前記演算手段は、入力された腹部皮下脂肪厚データに入力された腹部周囲長データを乗じて得た値を腹部皮下脂肪面積とする」ものであるのに対し,引用発明では,そのような構成でない点。

(相違点2)
「腹部総脂肪面積を演算するための演算手段」が,補正発明では「前記第2の入力手段からのデータに基づいて腹部総脂肪面積を演算」するものであるのに対し,引用発明では,「入力手段からの年齢,ボディマスインデックス(BMI),胸部皮下脂肪厚並びにへそ周囲長データに基づいて腹部総脂肪面積を演算する」ものである点。

(相違点3)
「腹部内蔵脂肪面積を演算するための演算手段」が,補正発明では「該腹部総脂肪面積から前記腹部皮下脂肪面積を引くことにより腹部内臓脂肪面積を算出する」ものであるのに対し,引用発明では,そのような算出をするものでない点。

(3)相違点1について
引用発明においては,さまざまな部位における皮下脂肪厚や周囲長の測定値データを変数として検討しており,その中には「腹部皮下脂肪厚」の代表的な測定値である垂直腹部皮下脂肪厚の測定値や,「腹部周径囲データ」ないし「腹部周囲長データ」といえる胴囲やへそ周囲長のデータも含まれているといえる(上記記載事項(2-イ)および表1?3参照。)。
また,推定したい変数値と相関のある測定値を独立変数として,それを用いてある従属変数値を演算により求めようとする際,独立変数の数を多くすると,1あるいは2つの独立変数からの回帰分析に比較して,より精度の高い推測値が得られることが期待されるものの,その変数測定値の収集や多重回帰分析に要する時間,労力,設備的コスト等が増加するのが普通であるから,簡単で手軽な装置で推測値を得ようとすれば,精度をある程度犠牲にして推測値を求めるために使用する独立変数の数を少なくする手法が常套手段の1つであるといえる。
そして,刊行物1に記載された「皮下脂肪断面積Xi」とは,補正発明における「腹部皮下脂肪面積」に相当するものといえるから,刊行物1には「ある部位の皮下脂肪断面積を求めるために、その部位の皮下脂肪厚と周囲長を用いる」こと(上記記載事項(1-イ)および(1-ウ)ならびに図3参照。)および「腹囲を含む体情報を入力するための手段と,超音波を使って皮下脂肪厚を測定し,測定されたデータを皮下脂肪断面積の推定のために入力する手段を1つの装置に備える」こと(上記記載事項(1-ア)および図1参照。)が記載されているといえる。また,ある周囲長を有する空間の内側に周囲長に対して十分小さい厚さで存在する物質の存在断面積を,その厚さに周囲長を乗じて得た値として求めることも,慣用の近似演算法であるといえる。
一方,本願明細書の段落【0024】には「次いで、ステップ5にて、超音波プローブ20またはスキンホールドキャリパー20Aを用いて、腹部皮下脂肪厚を測定する。・・・スキンホールドキャリパー20Aによる測定データは、被測定者が読み取って入力部12Aのデータ入力スイッチにて入力するようにしてもよい。」と,また,同段落【0025】には「次に、ステップ6において、周径囲測定部30または30Aを用いて、被測定者のウエストの周径囲を測定する。この周径囲の測定データも、制御回路へ自動的に入力されるように構成しておくこともでき、または、被測定者が測定値を読み取ってデータ入力スイッチを使用して制御回路へ入力できるようにも構成できる。」と記載されているから,補正発明の「第1の入力手段」と「第2の入力手段」は,刊行物1に記載された装置における入力手段と変わるところはないといえる。
そうすると,4つの独立変数を用いる引用発明の「入力手段および腹部皮下脂肪面積を演算する演算手段」を,刊行物1に記載された上記技術的事項を採用して,相違点1における補正発明の構成とすることは,それにより腹部皮下脂肪面積の推定値がCTやMRIによる計測値により近い精度の高い値になったものともいえず,当業者ならば必要に応じて適宜なし得る設計的事項であるというのが相当である。

(4)相違点2について
また,腹部総脂肪面積を演算するための演算手段についても,引用発明においては胴囲(腹部周径囲)が腹部総脂肪面積と相関する変数の1つである(上記記載事項(2-イ)および(2-エ)ならびに表3参照。)から,腹部皮下脂肪面積の推定演算のために既に装置に入力されている腹部周径囲データを利用し,高精度な推定値を得ようとするより簡便さを選択して,腹部総脂肪面積をそのデータに基づいた1つの変数との相関から演算するようなことも,何ら困難性がなく,それによる効果も予測される範囲内のものである。 してみると,引用発明において,相違点2における補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る事項であるといえる。

(5)相違点3について
さらに,引用発明においては腹部総脂肪面積が腹部皮下脂肪面積と腹部内蔵脂肪面積の和である(上記記載事項(2-ア)参照。)から,引用発明の「腹部内蔵脂肪面積を演算するための演算手段」を,相違点3における補正発明の構成とすることは,当業者ならば容易に想到し得た程度の事項であるといえる。

なお,補正発明における「腹部皮下脂肪厚を測定し、測定された腹部皮下脂肪厚データを前記制御手段へ入力するための第1の入力手段と、腹部周径囲を測定し、測定された腹部周径囲データを前記制御手段へ入力するための第2の入力手段」の「・・・測定し、測定された・・・データを前記制御手段へ入力する」という特定が,腹部皮下脂肪厚および腹部周径囲をそれぞれ測定する手段が実施例のように1の装置として人体の体脂肪分布を測定する装置に具備している場合を意味するとしても,「所望の機能を有する複数の手段や機器を組み合わせて1の装置として構成する」ことは,例えば,実願昭62-90159号(実開昭63-199001号)のマイクロフィルムに記載されている「超音波距離計付巻き尺」ように,必要に応じて適宜なされる設計的事項に過ぎない。しかも,刊行物1には,「第1図に示す皮脂厚判定部や体脂肪推定部その他の処理部及びレジスタや標準パターン格納部その他の記憶手段は、マイクロプロセッサやRAM、ROMを使って、コンパクトに構成できる。これらの構成は、第4図に示す演算部17に含め、第5図に示す本体23の中に組み込んでもよいし、付属ユニットにしてもよい。」と,1つの装置化することが教示されている(上記記載事項(1-エ)参照。)から,腹部皮下脂肪厚および腹部周径囲をそれぞれ測定する手段を,1の装置として人体の体脂肪分布を測定する装置に具備させる構成とすることにも,格別の技術的困難性はない。

したがって,補正発明は,引用発明および刊行物1に記載された前記技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成19年3月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1ないし5に係る発明は,平成18年9月27日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたとおりのものであって,その請求項1および請求項3は次のとおりである。(以下,請求項1に従属する請求項3に係る発明を「本願発明」という。)

「【請求項1】 人体の体脂肪分布を測定する装置において、腹部皮下脂肪厚を入力するための第1の入力手段と、腹部周径囲を入力するための第2の入力手段と、前記第1の入力手段および第2の入力手段からのデータに基づいて腹部皮下脂肪面積を演算するための演算手段とを備え、この演算手段は、入力された腹部皮下脂肪厚に入力された腹部周囲長を乗じて得た値を腹部皮下脂肪面積とすることを特徴とする装置。

【請求項3】 人体の体脂肪分布を測定する装置において、腹部皮下脂肪厚を入力するための第1の入力手段と、腹部周径囲を入力するための第2の入力手段と、前記第1の入力手段からのデータに基づいて腹部皮下脂肪面積を演算し、前記演算手段が、前記第2の入力手段からのデータに基づいて更に腹部総脂肪面積を演算し、且つ、これら腹部皮下脂肪面積および腹部総脂肪面積から腹部内臓脂肪面積を演算することを特徴とする請求項1または2に記載の装置。」

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物1,2及びその記載事項は,前記「第2 2 」に記載したとおりである。

3 本願発明について
本願発明は,補正発明において「測定データを受けて演算処理を行うための制御手段」を具備することが特定されていないとともに,その「演算手段」について「前記制御手段に含まれる演算手段」であるとの限定がないものであり,また,「第1の入力手段」および「第2の入力手段」について「腹部皮下脂肪厚を測定し、測定された腹部皮下脂肪厚データを前記制御手段へ入力するための第1の入力手段と、腹部周径囲を測定し、測定された腹部周径囲データを前記制御手段へ入力するための第2の入力手段」という限定がないものである。
そうすると、本願発明の全ての構成を含む補正発明が前記「第2」において検討したとおり,引用発明および刊行物1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をできたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明および刊行物1に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をできたものであるというべきである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-01 
結審通知日 2009-04-06 
審決日 2009-04-20 
出願番号 特願平11-164634
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右▲高▼ 孝幸  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 小島 寛史
秋月 美紀子
発明の名称 体脂肪分布の測定方法及び測定装置  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 中村 稔  
代理人 小川 信夫  
代理人 大塚 文昭  

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