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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C
管理番号 1198552
審判番号 不服2008-7958  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-02 
確定日 2009-06-10 
事件の表示 特願2002-29520「動圧型軸受装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年8月22日出願公開、特開2003-232353〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年2月6日の出願であって、平成20年2月28日付けで拒絶査定がされたところ、平成20年4月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
そして、本願の請求項1?3に係る発明は、平成19年8月9日付け、及び平成21年3月27日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。なお、平成20年4月28日付けの手続補正は、当審において平成21年1月27日付けで決定をもって却下された。
「【請求項1】
軸部材と、圧粉成形、焼結、およびサイジングの工程を順次経て形成された含油焼結金属からなり、軸部材の外周とラジアル軸受隙間を介して対向し、内周面に複数の動圧溝を有する軸受部材と、軸受部材を内周に固定したハウジングとを備え、軸部材と軸受部材の相対回転でラジアル軸受隙間に潤滑油の動圧を発生させて軸部材を非接触支持し、かつ軸受部材の外周に、その両端面に開口させて潤滑油が流れる循環溝を形成した動圧型軸受装置において、
上記循環溝を三つ有し、各循環溝が、焼結金属のサイジング時にダイと接触しておらず、軸受部材が3円弧軸受を構成していることを特徴とする動圧型軸受装置。」

2.本願の出願前に日本国内において頒布され、当審における平成21年1月27日付けの拒絶の理由に引用された刊行物に記載された発明及び記載事項
(1)刊行物1:特開2000-304036号公報
(2)刊行物2:特開平11-182533号公報
(3)刊行物3:特開2001-152174号公報
(4)刊行物4:実願昭46-50708号(実開昭48-4311号)のマイクロフィルム

(刊行物1)
刊行物1には、「動圧型軸受および動圧型軸受ユニット」に関して、図面(特に、図1?5を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。なお、丸付き数字をカッコ付き数字で記載した個所がある。
(a)「本発明は、動圧型軸受およびその製造方法、並びに当該動圧型軸受を用いた動圧型軸受ユニットに関する。この動圧型軸受は、特に情報機器分野で用いられる、DVD-ROM、DVD-RAMなどの光ディスク装置、MOなどの光磁気ディスク装置、FDD、HDDなどの磁気ディスク装置のスピンドルモータ用軸受、あるいはLBPなどのポリゴンスキャナモータ用軸受に適しており、特に薄型モータ用の軸受として好適である。」(第2頁第1欄第29?37行、段落【0001】参照)
(b)「図1は、本発明にかかる動圧型軸受ユニットの断面図である。この軸受ユニットは、動圧型軸受1と、動圧型軸受1を内径部に固定したほぼ円筒状のハウジング2と、動圧型軸受1の内径部に挿入された軸部材3とを具備する。軸部材3の一端には、半径方向に突出するフランジ部3aが一体成形または別部材の圧入等の方法で設けられており、このフランジ部3aは、ハウジング2の一方の開口部を封口する底板4と動圧型軸受1の一方の端面との間に収容配置される。ハウジング2の他端開口は、シールワッシャ等のシール部材5によって閉塞され、外部への油の漏れが防止されている。
この実施形態の動圧型軸受1は、円筒状の焼結金属からなる軸受本体10に、潤滑油あるいは潤滑グリースを含浸させた動圧型焼結含油軸受である。軸受本体10は、銅系あるいは鉄系、またはその双方を主成分とする焼結金属で形成され、望ましくは銅を20?95重量%使用して成形される。
軸受本体10の内周面には、回転軸となる軸部材3をラジアル方向で非接触支持するラジアル軸受面10rが設けられる。ラジアル軸受面10rは、軸部材3の外周面とラジアル軸受すきまCrを介して対向しており、本実施形態では、図2に示すように一対のラジアル軸受面10rを軸方向に離隔して設けた場合を例示している。両ラジアル軸受面10rには、軸方向に対して傾斜した複数の動圧溝11(へリングボーン型)が円周方向に配列形成される。この動圧溝11は、軸方向に対して傾斜していればよく、この条件を満たす限りへリングボーン型以外の他の形状、例えばスパイラル型でもよい。焼結含油軸受1の外周には、1または複数(図面では2つ)の溝12が軸方向に沿って形成されており、この溝12は図1に示すように動圧型軸受1をハウジング2に組み込んだ際に軸受本体10および底板4で囲まれる空間と外部との空気の出入りを確保する通気路として機能する。」(第3頁第3欄第6?38行、段落【0013】?【0015】参照)
(c)「上記動圧型焼結含油軸受1の軸受本体10は、上記金属粉末を圧縮成形し、さらに焼成して得られた円筒状の焼結金属素材(軸受素材)に対して、例えば、サイジング→回転サイジング→軸受面成形加工を施して製造することができる。
サイジング工程は、焼結金属素材の外周面と内周面のサイジングを行って焼結工程での曲がりなどを矯正する工程で、焼結金属素材の外周面を円筒状のダイに圧入すると共に、内周面にサイジングピンを圧入して行われる。回転サイジング工程は、断面略多角形状の回転サイジングピン(断面円形のピンの外周面を部分的に平坦加工して、円周等配位置に円弧部分を残したもの)を焼結金属素材の内周面に押付けながら、サイジングピンを回転させて内周面のサイジングを行う工程である。この回転サイジングにより焼結金属素材の内周面の真円度、円筒度が矯正され、かつ表面開孔率が例えば3?15%に仕上げられる。軸受面成形工程は、上記のようなサイジング加工を施した焼結金属素材の内周面および少なくとも一方の端面に、ラジアル軸受面10rおよびスラスト軸受面10sの形状に対応した凹凸形状の成形型を加圧することによって、両軸受面10r、10sの動圧溝11、14の領域とそれ以外の領域(例えば、ラジアル軸受面10rでは背13および環状の平滑領域n)とを同時成形する工程である。」(第3頁第4欄第43行?第4頁第5欄第16行、段落【0020】?【0021】参照)
(d)「図3は、軸受面成形工程で使用する成形装置の概略構造を例示している。この装置は焼結金属素材10’の外周面を成形する円筒状のダイ20、焼結金属素材10’の内周面を成形する超硬合金製のコアロッド21、焼結金属素材10’の両端面を上下方向から押さえる上下のパンチ22、23を主要な要素として構成される。
図4に示すように、コアロッド21の外周面には、一対のラジアル軸受面10rの形状に対応した凹凸状の成形型21a(ラジアル成形型)が設けられている。成形型21aの凸部分21a1はラジアル軸受面10rにおける動圧溝11の領域を成形し、凹部分21a1は動圧溝11以外の領域(背13および環状の平滑領域n)を成形するものである。成形型21aにおける凸部分21a1と凹部分21a2との段差は、ラジアル軸受面10rにおける動圧溝11の深さと同程度(例えば2?5μm程度)で微小なものであるが、図面ではかなり誇張して描かれている。(中略)
この成形装置による成形は、図5に示す(1)?(4)の手順で行われる。
先ず、焼結金属素材10’をダイ20の上面に位置合わせして配置した後、上パンチ22およびコアロッド21を降下させ、焼結金属素材10’をダイ20に圧入し、さらに下パンチ23に押付けて上下方向から加圧する((1))。
焼結金属素材10’は、ダイ20と上下パンチ22、23から圧迫力を受けて変形を起こし、内周面がコアロッド21の成形型21aに、一方の端面が上パンチ22の成形型22aにそれぞれ加圧される。これにより、成形型21a、22aの形状が焼結金属素材10’の内周面および一方の端面に転写され、ラジアル軸受面10rおよびスラスト軸受面10sが所定の形状および寸法に同時成形される(これと同時に焼結金属素材10’の外周面および両端面もサイジングされる)。
両軸受面10r、10sの成形が完了した後、焼結金属素材10’とコアロッド21の位置関係を保持したまま上下のパンチ22、23およびコアロッド21を一体的に上昇させ((2))、焼結金属素材10’をダイ20から抜く。次に、焼結金属素材10’の外周面に熱風発生器等の加熱機で熱風を吹き付けて焼結金属素材10’を加熱し((3))、その後、焼結金属素材10’をコアロッド21から抜く((4))。この時、焼結金属素材10’をダイ20から抜くと同時に焼結金属素材10’にスプリングバックが生じてその内径寸法が拡大する。また、加熱によって焼結金属素材10’の温度がコアロッド21によりも高くなり、かつコアロッド21(超硬合金製)よりも焼結金属素材10’(銅を主成分とする)の熱膨張係数が大きいため、焼結金属素材10’の内径寸法がさらに拡大する。そのため、コアロッド21と焼結金属素材10’との干渉が回避され、ラジアル軸受面10rの動圧溝11を崩すことなく、焼結金属素材10’の内周面からコアロッド21を抜き取ることが可能となる。スプリングバックのみでスムーズに焼結金属素材10’を抜ける場合は、加熱機による加熱工程を省略しても構わない。
以上の工程を経て製造した焼結金属素材10’を洗浄し、これに潤滑油又は潤滑グリースを含浸させて油を保有させると、図2に示す焼結含油軸受1が完成する。この軸受1は、ハウジング2の内周面に例えば接着によって固定される。なお、軸受1のハウジング2への組み込み後に、含浸油とは別に注油によって各軸受すきまCr、Csおよび軸受周辺の空間を油で満たしておくと、潤滑性が著しく向上する。
以上のように焼結金属素材10’を圧縮成形して軸受面10r、10sを成形すれば、工程を簡略化することができ、サイクルタイムの短縮化、量産性の向上を通じて生産コストの低減を図ることができる。また、最終の軸受面成形加工(動圧サイジング)の工程を高精度に実施するだけで、簡単に高精度の動圧型軸受を製作することができるため、精度管理も容易なものとなる。ラジアル軸受面10rとスラスト軸受面10sの同時成形も容易であり、この場合、両軸受面10r、10sを別工程で成形する場合の問題、すなわち先の工程で成形された軸受面の精度低下等の問題も回避することができる。」(第4頁第5欄第17行?第6欄第48行、段落【0022】?【0029】参照)
(e)図1及び2の記載からみて、軸受本体10の外周に、その両端面に開口させた複数(図面では2つ)の溝12を形成した構成が看取できる。
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
【引用発明】
軸部材3と、圧縮成形、焼成、およびサイジングの工程を順次経て形成された含油焼結金属からなり、軸部材3の外周とラジアル軸受すきまCrを介して対向し、内周面に複数の動圧溝11を有する軸受本体10と、軸受本体10を内周に固定したハウジング2とを備え、軸部材3と軸受本体10の相対回転でラジアル軸受すきまCrに潤滑油の動圧を発生させて軸部材3を非接触支持し、かつ軸受本体10の外周に、その両端面に開口させて空気が流れる溝12を形成した動圧型軸受1において、
上記溝12を複数有する動圧型軸受1。

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「軸部材3」は本願発明の「軸部材」に相当し、以下同様にして、「圧縮成形」は「圧粉成形」に、「焼成」は「焼結」に、「ラジアル軸受すきまCr」は「ラジアル軸受隙間」に、「動圧溝11」は「動圧発生手段」に、「軸受本体10」は「軸受部材」に、「ハウジング2」は「ハウジング」に、「動圧型軸受1」は「動圧型軸受装置」に、それぞれ相当する。また、引用発明の「溝12」は溝である限りにおいて本願発明の「循環溝」にひとまず相当し、引用発明の「空気」は流体である限りにおいて本願発明の「潤滑油」にひとまず相当し、さらに、引用発明の「複数」は複数が3つであるという点で本願発明の「三つ」にひとまず相当するので、両者は下記の一致点、及び相違点1?3を有する。
<一致点>
軸部材と、圧粉成形、焼結、およびサイジングの工程を順次経て形成された含油焼結金属からなり、軸部材の外周とラジアル軸受隙間を介して対向し、内周面に複数の動圧発生手段を有する軸受部材と、軸受部材を内周に固定したハウジングとを備え、軸部材と軸受部材の相対回転でラジアル軸受隙間に潤滑油の動圧を発生させて軸部材を非接触支持し、かつ軸受部材の外周に、その両端面に開口させて流体が流れる溝を形成した動圧型軸受装置において、
上記溝を複数有する動圧型軸受装置。
(相違点1)
上記流体が流れる溝に関し、本願発明は、「潤滑油が流れる循環溝」であるのに対し、引用発明は、空気が流れる溝である点。
(相違点2)
本願発明は、上記溝の本数が「三つ」であり、軸受部材が「3円弧軸受を構成している」のに対し、引用発明は、溝の本数が複数であり、軸受部材が本願発明の上記構成を具備していない点。
(相違点3)
上記溝に関し、本願発明は、「焼結金属のサイジング時にダイと接触しておらず」であるのに対し、引用発明は、そのような構成を具備しているかどうか不明である点。
そこで、上記相違点1?3について検討する。
(相違点1について)
刊行物1には、「以上の工程を経て製造した焼結金属素材10’を洗浄し、これに潤滑油又は潤滑グリースを含浸させて油を保有させると、図2に示す焼結含油軸受1が完成する。この軸受1は、ハウジング2の内周面に例えば接着によって固定される。なお、軸受1のハウジング2への組み込み後に、含浸油とは別に注油によって各軸受すきまCr、Csおよび軸受周辺の空間を油で満たしておくと、潤滑性が著しく向上する。」(上記摘記事項(d)参照)と記載されている。
また、例えば焼結含油軸受に係る刊行物3の第3頁第4欄第33?35行(段落【0011】参照)にも示されるように、焼結含油軸受外周の溝は通気孔としても通油孔としても機能することは、当業者に知られているところである。
上記記載からみて、引用発明の空気が流れる溝12は、含油焼結金属からなる動圧型軸受1の潤滑油が流れる循環溝としても機能し得るものであることは技術的に自明の事項にすぎない。
してみれば、引用発明の空気が流れる溝を、潤滑油が流れる循環溝としても機能させることにより、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到し得たものである。
(相違点2について)
焼結含油軸受において、軸受本体の外周に形成される溝の数を三つとすることは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物2には、段落【0042】及び図3の記載からみて、多孔質含油軸受本体1aの軸方向両端に開口する通気路8(溝1g)が3箇所に形成されていることが記載されている。また、刊行物3には、段落【0011】及び【0012】、図1及び3の記載からみて、多孔質の焼結含油軸受部材の圧入部外周面に軸方向に3つの溝5を設け、軸受部材をハウジング4の内孔に圧入したときにその溝5が通気孔または通油孔となる軸方向の貫通孔を形成することが記載されている。また、特開2001-3939号公報の第4頁第5欄第10?12行、図1及び3?6には、「略平面またはU形・V形・コ形等の中心に対して左右が対称形となるような形状の欠除部は、3条の例を示している」と記載されている。)にすぎない。
また、刊行物1には、「焼結含油軸受1の外周には、1または複数(図面では2つ)の溝12が軸方向に沿って形成されており」(上記摘記事項(b)参照)と記載されていることから、引用発明の軸受本体の外周に形成される溝の数を三つとすることを妨げる格別の事情も見い出せない。
さらに、3円弧軸受についても、従来周知の技術手段(例えば、刊行物3の第4頁第5欄第10?22行、及び図3には、「図3は三円弧軸受部材12の軸受部2の内孔の形状を示す横断面図であり、比較のために仮想円を点線で示す。(中略)三円弧軸受部材は、粉末成形またはサイジングの際に、コアロッドを用いて造形する通常の方法で製作することができる。」と記載されている。)にすぎない。
してみれば、上記(相違点1について)において述べた判断の前提下において、引用発明の軸受本体の外周に形成される溝の数を、上記従来周知の技術手段を適用して三つとするとともに、引用発明の軸受本体を、上記従来周知の技術手段を適用して3円弧軸受とすることにより、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点3について)
焼結含油軸受において、圧粉成形又は焼結の段階で軸受本体の外周に溝を形成することは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物4の第2頁第19行?第3頁第4行、並びに第4及び5図には、「Cu粉9部とSn粉1部との混合粉を成形・焼結して第4図に示したように外周に溝を設けた焼結含油軸受を作り、(中略)溝Aが通気路となって軸受面への油の滲出を容易にする。」と記載されている。また、特開2001-3939号公報の第4頁第5欄第15?22行には、「本発明の動圧軸受によれば、軸受ハウジングに軸受部材を挿入し、該軸受部材の内周に突出部を形成してなる動圧軸受において、前記軸受部材の外周に等角度に軸方向に延びる欠除部を形成し、この軸受部材を軸受ハウジングに圧入することにより該軸受部材の内周に少なくとも3条の突出部を形成して動圧軸受を構成しているので、サイジング工程が不要となる。」と記載されている。)にすぎないし、焼結含油軸受において、高い寸法精度を必要としない軸受本体の外周に形成される溝を、あえてサイジング工程によりダイと接触させる必要はないなどの諸事情に鑑みれば、圧粉成形又は焼結の段階で軸受本体の外周に溝を形成することは当業者が適宜なし得る事項である。
また、刊行物1には、「サイジング工程は、・・・焼結金属素材の外周面を円筒状のダイに圧入する」(上記摘記事項(c)参照)、「軸受面成形工程・・・焼結金属素材10’の外周面を成形する円筒状のダイ20」(上記摘記事項(d)参照)と記載され、引用発明の軸受本体の外周に形成される溝を、サイジング時にダイに接触させるとの記載はなく、また、示唆もなされていないことから、上記溝を、サイジング工程より前の工程、すなわち圧粉成形又は焼結の段階で形成することを妨げる格別の事情も見い出せない。
してみれば、上記(相違点1について)において述べた判断の前提下において、引用発明の軸受本体の外周に形成される溝に、上記従来周知の技術手段を適用して、サイジング時にダイと接触しないようにして、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。

また、本願発明の奏する効果についてみても、引用発明、及び従来周知の技術手段の奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、当審における平成21年1月27日付けの拒絶理由に対する平成21年3月27日付け意見書において、「本願発明によれば、偏心率が0付近の場合は、動圧溝が主たる効果を発揮して高い回転安定性を発揮し、何らかの事情、例えばディスクのアンバランス量が大きくなった場合やモータの磁気アンバランスが軸に作用した際にも、3円弧軸受によって回転安定性が維持されることになります。従いまして、本願発明のように動圧溝と3円弧軸受という二種類の動圧発生手段を併せ持つことで、軸の偏心状態を問わず、高い振れ回り安定性を得ることができる、という作用効果を得ることができます。」(「2.本願発明の特徴」「(1)請求項1にかかる発明について」の項参照)等と述べ、本願発明の奏する効果について主張している。
しかしながら、上記(相違点1について)?(相違点3について)において述べたように、引用発明に、上記従来周知の技術手段を適用することは当業者が容易に想到し得たものであるところ、審判請求人が主張する本願発明の奏する上記の効果は、従前知られていた構成が奏する効果を併せたものにすぎず、本願発明の構成を備えることによって、本願発明が、従前知られていた効果を併せたものとは異なる、相乗的で予想外の効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の上記主張は採用することができない。

4.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2及び3に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-07 
結審通知日 2009-04-08 
審決日 2009-04-24 
出願番号 特願2002-29520(P2002-29520)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 智樹中野 宏和  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 岩谷 一臣
常盤 務
発明の名称 動圧型軸受装置  
代理人 田中 秀佳  
代理人 白石 吉之  
代理人 熊野 剛  
代理人 城村 邦彦  

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