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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K
管理番号 1198610
審判番号 不服2008-13616  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-30 
確定日 2009-06-11 
事件の表示 特願2004-341265「車輌減速制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月22日出願公開、特開2005-255146〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年11月25日の出願(優先日平成16年2月13日)であって、平成20年4月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年5月30日に審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明6」という。)は、平成19年11月5日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
前方の物体との相対関係を検出する前方検出手段と、前方検出手段により検出された相対関係に基づいて自車輌を減速する減速制御手段とを有する車輌減速制御装置において、ドライバの減速操作を検出する減速操作検出手段と、減速制御手段による減速度の付与を禁止する減速度付与禁止手段を備え、減速操作検出手段により検出した減速操作の終了直後から所定の期間は、減速度付与禁止手段を作動させることを特徴とする車輌減速制御装置。
【請求項2】
前記所定の期間は、前記前方検出手段が検出した相対関係から定まることを特徴とする請求項1に記載の車輌減速制御装置。
【請求項3】
前記所定の期間は、前記前方検出手段が検出した相対関係から定められる目標減速度が大きいほど小さい値とすることを特徴とする請求項1に記載の車輌減速制御装置。
【請求項4】
前記所定の期間は、所定の時間または所定の走行距離であることを特徴とする請求項1乃至3に記載の車輌減速制御装置。
【請求項5】
前記減速制御手段の作動を禁止した場合の危険度を求める危険度判定手段と、前記減速度付与禁止手段の作動を無効化する無効化手段を備え、危険度判定手段によって求められた危険度が所定の危険度よりも高い場合は、無効化手段を作動させることを特徴とする請求項1乃至4に記載の車輌減速制御装置。
【請求項6】
前記減速度付与禁止手段は、前記減速操作検出手段により、ドライバによる減速操作を検出している間も減速度の発生を禁止することを特徴とする請求項1乃至5に記載の車輌減速制御装置。」

3.本願発明1について
(1)本願発明1
本願発明1は、上記「2.本願発明」に記載したとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開平11-123953号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は先行車との車間距離を制御する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】車間距離制御中にアクセルペダルまたはブレーキペダルが操作されると、車間距離制御を中断してペダル操作に応じた制駆動力制御を行い、ペダル操作が終了したら車間距離制御を再開する車間距離制御装置が知られている(例えば、特開平4-201629号公報および特開平8-113057号公報参照)。
【0003】 乗員が車間距離制御中にペダル操作を行う場合には、(1) 車間距離を変更する場合、(2) 割り込みや進路変更のために車速を変更する場合、(3) 先行車との車間距離が計測できなくなった場合、などがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の車間距離制御装置では、ペダル操作終了時に車間距離と目標車間距離とに差があったり、あるいは車速と目標車速とに差があると、目標車間距離あるいは目標車速に到達するために急加速または急減速を行うので、乗り心地が悪くなるという問題がある。
【0005】本発明の目的は、乗員のペダル操作による車間距離制御の中断後にスムーズに車間距離制御を再開することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
(1) 請求項1の発明は、先行車との車間距離を検出する車間距離検出手段と、先行車との相対速度を検出する相対速度検出手段と、自車速を検出する自車速検出手段と、車間距離検出値、目標車間距離、相対速度検出値および自車速検出値に基づいて、車間距離検出値が目標車間距離に一致するように制駆動力を制御する車間距離制御手段とを備える車間距離制御装置であって、乗員のアクセルペダルおよびブレーキペダルの操作を検出するペダル操作検出手段と、ペダル操作終了時の車間距離検出値、相対速度検出値および自車速検出値に基づいて仮の目標車間距離を演算する目標車間距離演算手段と、ペダル操作終了後に目標車間距離を仮の目標車間距離から基準車間距離まで徐々に変更する目標車間距離誘導手段とを備える。ペダル操作終了時の車間距離検出値、相対速度検出値および自車速検出値に基づいて仮の目標車間距離を演算し、ペダル操作終了後に目標車間距離を仮の目標車間距離から基準車間距離まで徐々に変更する。そして、車間距離検出値、目標車間距離、相対速度検出値および自車速検出値に基づいて、車間距離検出値が目標車間距離に一致するように制駆動力を制御する。
(2) …

【0007】
【発明の効果】本発明によれば、ペダル操作終了後の車体前後Gの変動が少なく、乗員のペダル操作による車間距離制御の中断後にスムーズに車間距離制御を再開でき、乗り心地を改善することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
-発明の第1の実施の形態-
図1は、第1の実施の形態の構成を示す図である。測距センサー1はレーザーレーダーなどの距離測定用センサーであり、先行車までの車間距離Lを測定する。車速センサー2は変速機の出力軸などに連結され、車両の走行速度Vを検出する。ペダルスイッチ3は、乗員によるアクセルペダルおよびブレーキペダル(不図示)の操作を検出するスイッチである。コントローラー4はマイクロコンピューターとその周辺部品から構成され、車間距離L、車速V、ペダル操作状況などに基づいて、スロットルアクチュエーター5とブレーキアクチュエーター6を制御する。スロットルアクチュエーター5は、エンジンのスロットルバルブ(不図示)を駆動してスロットルバルブの開度を制御する。このスロットルアクチュエーター5には、モーターでワイヤーを引っ張る方式のものや、電子制御スロットルなどを用いることができる。ブレーキアクチュエーター6は、モーターなどによりピストンを駆動してブレーキ液圧を制御する。
【0009】図2は、第1の実施の形態の車間距離制御を示すブロック図である。…

【0014】仮の目標車間距離演算部4fは、ペダル操作終了時の車間距離L、相対速度Vsおよび車速Vとに基づいて次式により仮の目標車間距離Lkを演算する。
【数8】Lk=(F1-1)/F2・Vs+L
この仮の目標車間距離Lkを数式3の基準車間距離L*に代入して目標車速V*を演算すると、目標車速V*=現在の車速Vとなる。つまり、ペダル操作終了時の目標車速V*にその時点の車速Vが設定されることになり、ペダル操作終了直後に急激な加減速が行われることはなく、スムーズに車間距離制御に復帰できる。そのために、いつペダル操作が終了してもよいようにペダル操作中は常に仮の目標車間距離Lkを繰り返し演算する。
【0015】目標車間距離誘導部4eでは、乗員によるペダル操作終了後の車間距離Lの目標値(以下、誘導目標車間距離Lyと呼ぶ)を、仮の目標車間距離Lkから基準車間距離L*に徐々に近づける。具体的には、次式により誘導目標車間距離Lyを演算する。
【数9】Ly=Lk・(1-P)+L*・P
数式9において、Pは重み係数であり、次式により求める。
【数10】P=C・t
数式10において、Cは定数であり、tは時間[s]である。また、Pは0≦P≦1とする。例えば今、Cを0.1とすれば、ペダル操作終了時から10s間かけて誘導目標車間距離Lyが仮の目標車間距離Lkから基準車間距離L*まで変化することになる。当然、ペダル操作終了直後はP=0であり、誘導目標車間距離Lyが仮の目標車間距離Lkと等しくなる。上述したように、仮の目標車間距離Lkを数式3の基準車間距離L*に代入して目標車速V*を演算すると、目標車速V*=現在の車速Vとなる。つまり、ペダル操作終了時の目標車速V*にその時点の車速Vが設定されることになり、この結果、乗員のペダル操作終了直後に急激な加減速を発生させることがなく、その後は誘導目標車間距離Lyの時間変化にともなって車間距離を基準車間距離L*に徐々に近づけることができる。
【0016】なお、数式10による重み係数Pの演算に代えて、次式により重み係数Pを一次遅れ系として演算してもよい。
【数11】P=1-exp(-t/τ)
数式11において、τは時定数である。
【0017】また、重み係数Pの他の演算方法として、一次遅れフィルターを用いてもよい。この場合には、フィルターの初期値を仮の目標車間距離Lkとして、入力を基準車間距離L*、出力を誘導目標車間距離Lyとすればよい。
【0018】図5は、第1の実施の形態の車間制御を示すフローチャートである。このフローチャートにより、第1の実施の形態の動作を説明する。ステップ1において測距センサー1から車間距離Lを読み込み、続くステップ2で車間距離計測値Lの微分あるいは差分により先行車との相対速度Vsを演算する。ステップ3では車速センサー2から自車速Vを読み込み、ステップ4で数式1により車速Vに応じた基準車間距離L*を演算する。
【0019】ステップ5において、ペダルスイッチ3により乗員のペダル操作を検出する。乗員がアクセルペダルまたはブレーキペダルを操作しているときはステップ6へ進み、ペダル操作終了後の経過時間をカウントするためのカウンタ(以下、単にカウンタと呼ぶ)をクリヤする。続くステップ7で、基準車間距離L*が車間距離検出値Lとなるように数式2により車間時間Tを設定し、数式1により基準車間距離L*を求める。ステップ8では、相対速度Vsと車間距離Lと車速Vとに基づいて数式8により仮の目標車間距離Lkを演算する。そして、ステップ9でスロットルアクチュエーター5およびブレーキアクチュエーター6による車間距離制御を解除し、乗員による手動の制駆動力制御に切り換える。
【0020】一方、乗員がアクセルペダルまたはブレーキペダルを操作していないときはステップ10へ進み、カウンタの値が所定値より小さいか、すなわちペダル操作終了後、所定時間が経過したかどうかを確認する。ペダル操作終了後に所定時間が経過していないときはステップ11へ進み、仮の目標車間距離Lkから基準車間距離L*に徐々に近づけるための誘導目標車間距離Lyを数式9により演算する。続くステップ12でカウンタをインクリメントし、ステップ13へ進む。
【0021】ステップ13では、数式3の基準車間距離L*に誘導目標車間距離Lyを代入して車間距離制御の目標車速V*を演算する。ステップ14で数式5により車速制御の目標駆動力Ftを演算し、続くステップ15で数式6により駆動力制御のためのスロットル開度Tvo、または数式7により制動力制御のためのブレーキ液圧Pbを演算する。さらにステップ16で、スロットル開度Tvo、ブレーキ液圧Pbによりスロットルアクチュエーター5、ブレーキアクチュエーター6を制御する。
【0022】ペダル操作終了後に所定時間以上が経過したときは、ステップ10からステップ11と12をスキップしてステップ13へ進む。ステップ13において、数式3により車間距離Lを基準車間距離L*に一致させるための目標車速V*を演算する。ステップ14で数式5により車速制御の目標駆動力Ftを演算し、続くステップ15で数式6により駆動力制御のためのスロットル開度Tvo、または数式7により制動力制御のためのブレーキ液圧Pbを演算する。さらにステップ16で、スロットル開度Tvo、ブレーキ液圧Pbによりスロットルアクチュエーター5、ブレーキアクチュエーター6を制御する。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、下記の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「先行車との車間距離を検出する車間距離検出手段と、先行車との相対速度を検出する相対速度検出手段と、自車速を検出する自車速検出手段と、前記車間距離検出値、目標車間距離、前記相対速度検出値および前記自車速検出値に基づいて、前記車間距離検出値が前記目標車間距離に一致するように制駆動力を制御する車間距離制御手段とを備える車間距離制御装置であって、
乗員のアクセルペダルおよびブレーキペダルの操作を検出するペダル操作検出手段と、ペダル操作終了時の前記車間距離検出値、前記相対速度検出値および前記自車速検出値に基づいて仮の目標車間距離を演算する目標車間距離演算手段と、ペダル操作終了後に前記目標車間距離を前記仮の目標車間距離から基準車間距離まで徐々に変更する目標車間距離誘導手段とを備えることを特徴とする車間距離制御装置。」
(2-2)引用例2
特開2001-18680号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、先行車との車間距離を検出し、検出された車間距離を所定の目標車間距離に保持するように自車の速度を制御する車間距離制御手段を有する車両走行制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、走行制御装置の1つとして定速走行装置が知られており、目標車速をセットすることで、自動的に車速を目標車速に近づけるように加減速を制御する。さらに、この定速走行装置に車間距離制御機能を付加した走行制御装置も知られている。この走行制御装置では、例えばレーザを前方の所定範囲に掃引するレーザレーダによって、先行車との相対速度、車間距離を検出する。そして、検出した相対距離に基づき、目標車間距離を設定し、車間距離が目標車間距離に近づくように、加減速を制御する。
【0003】これによって、先行車が存在しなければ自車速を目標車速に維持し、先行車がいた場合にはその先行車との車間距離を自動的に適切なものに維持することができ、ドライバーの負担を軽減することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ここで、このような走行制御装置による自動的な走行を行うか否かは、ドライバーによるセットスイッチの操作などによって行う。また、ドライバーによるアクセル操作や、ブレーキ操作があった場合には、ドライバーの操作に基づく通常の走行に戻る。すなわち、ドライバーの操作に基づき加減速を制御する通常走行モードと、前記車間距離制御手段による自動走行モードとが、ドライバーの操作に基づき切り替えられる。なお、通常の場合、自動走行モードがセットされている状況でアクセルが操作された場合には、アクセル操作の間通常走行モードに移り、アクセル操作がなくなったときに自動走行モードに自動復帰する。一方、自動走行モードにセットされている状況でブレーキが操作された場合には、通常走行モードに移り、ブレーキ操作がなくなっても自動走行モードに自動復帰はしない。
【0005】しかしながら、モードの切り替わりに伴う制御内容の変化が、ドライバーに違和感をもたらす場合がある。例えば、先行車と接近するまで加速し、その速度を目標車速として自動走行モードに移行した場合、あるいはブレーキを踏み込む用意をして加速した場合などであっても、その移行直後に減速制御や警報発生がなされる。ドライバーにとっては自己の意思である程度先行車と接近したのであるから、このような減速制御や警報発生には違和感がある。
【0006】また、自動走行モードにおいて、シフトダウン制御中にアクセルペダルを踏むと、通常走行モードに入り、直後にシフトダウン制御が解除されシフトアップする。このように、アクセルの踏み込みによるエンジンの負荷アップとシフトアップが同時に起こるとショックが発生し、ドライブフィーリングが悪くなるという問題点があった。
【0007】本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、モード切替時における不適切な動作を防止できる車両走行制御装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、先行車との相対関係を検出する検出手段と、検出された相対関係に基づいて自車の速度を制御する制御手段と、を有する車両走行制御装置において、ドライバーの操作に基づき加減速を制御する通常走行モードと、前記制御手段により車速を制御する自動走行モードと、を有し、前記通常走行モードと自動走行モードとの間で、モードが切り替わった直後は、新たなモードにおける車速制御装置動作条件を変更する変更手段を有することを特徴とする。
【0009】走行モードの切り替え直後は、それぞれの走行モードにおける走行タイプの相違から、移行がスムーズに行えず、ドライバーにとって違和感のある走行になりがちである。モード切替直後に、車速制御装置の動作条件を変更することで、移行時における不適切な制御を防止し、ドライバーにとって違和感のない走行を行うことができる。
【0010】また、前記変更手段は、通常走行モードから前記装置による自動走行モードに切り替わった直後に、先行車との相対関係に基づく車速制御内容が減速制御であっても、少なくとも特定の減速機器については、所定時間は作動させないことが好適である。モード切り替わり直後の減速がなくなることで、違和感が低減できる。また、このような違和感のない走行は、後続車にとっても好ましい走行となる。但し、アクセル操作に伴うスロットルバルブの開閉制御は行われているため、ドライバーがアクセルを離した際には、スロットルバルブの閉方向への駆動による減速は行われる。しかしながら、この減速はドライバーに違和感をもたらさない程度のものである。」
(き)「【0020】この例では、車速や自動走行(クルーズコントロール)モードのセットなどの車両情報は、エンジンECU14を介し、車間制御ECU12に供給される。そして、車間制御ECU12は、クルーズコントロールモードにセットされた際に上述のような車間距離制御を行い、セットされていない通常走行モードでは、車間距離制御を行わない。クルーズコントロールモードへのセットは、セットスイッチのオンによって行われる。また、クルーズコントロールモードにおいて、アクセル操作が行われるとその操作が行われている間だけアクセルの操作を優先して通常走行モードで走行し、アクセルがはなされるとクルーズコントロールモードに復帰する。一方、クルーズコントロールモードにおいて、ブレーキ操作が行われると、通常走行モードに戻り、次のセット動作がなされるまでクルーズコントロールモードに移行しない。」
(3)対比
本願発明1と引用例1発明とを比較すると、引用例1発明の「先行車との車間距離を検出する車間距離検出手段」は本願発明1の「前方の物体との相対関係を検出する前方検出手段」に相当し、同様に、「前記車間距離検出値、目標車間距離」に基づいて、「前記車間距離検出値が前記目標車間距離に一致するように制駆動力を制御する車間距離制御手段」は「前方検出手段により検出された相対関係に基づいて自車輌を減速する減速制御手段」に、「車間距離制御装置」は「車輌減速制御装置」に、「乗員」の「ブレーキペダルの操作を検出するペダル操作検出手段」は「ドライバの減速操作を検出する減速操作検出手段」に、それぞれ相当する。
したがって、本願発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「前方の物体との相対関係を検出する前方検出手段と、前方検出手段により検出された相対関係に基づいて自車輌を減速する減速制御手段とを有する車輌減速制御装置において、ドライバの減速操作を検出する減速操作検出手段を備える車輌減速制御装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願発明1は、「減速制御手段による減速度の付与を禁止する減速度付与禁止手段を備え、減速操作検出手段により検出した減速操作の終了直後から所定の期間は、減速度付与禁止手段を作動させる」のに対し、引用例1発明は、「ペダル操作終了後に前記目標車間距離を前記仮の目標車間距離から基準車間距離まで徐々に変更する目標車間距離誘導手段」を備える点。
(4)判断
[相違点1]について
上記に摘記したとおり、引用例1発明において「ペダル操作終了後に前記目標車間距離を前記仮の目標車間距離から基準車間距離まで徐々に変更する」ようにしたのは、従来の車間距離制御においてはアクセルペダルまたはブレーキペダルの操作終了時に車間距離制御が再開して目標車間距離あるいは目標車速に到達するために急加速または急減速が行われると乗り心地が悪くなるという問題に対処するために、ペダル操作終了後の所定時間は目標値を徐々に変更してスムーズに車間距離制御を再開しようとするものである。引用例1の段落【0015】、【0016】、【0017】には目標値を徐々に変更する具体例が複数示されている。これらの例は、ペダル操作終了後に目標値を徐々に変更するものであるが、目標値をどのように徐々に変更するかは乗り心地の良さや目標値への応答性等を勘案して適宜設計する事項にすぎない。そして、例えばペダル操作終了直後のP=0の状態をしばらく継続し、その後にPを徐々に変更するようにして、車間距離制御が再開される直後の所定時間は車間距離制御による減速制御を作動させないようにすれば、ペダル操作終了後に目標値を徐々に変更する場合と同様に、あるいはそれ以上に、車間距離制御の再開直後の乗り心地の悪化を低減し得ることは当業者に明らかであり、この程度の設計変更は上記に適宜の設計として当業者が容易に想到し得たものと認められる。
引用例1発明におけるこのような設計変更は引用例2の記載事項によっても容易に想起し得るところである。すなわち、上記に摘記したとおり、引用例2の段落【0010】には「また、前記変更手段は、通常走行モードから前記装置による自動走行モードに切り替わった直後に、先行車との相対関係に基づく車速制御内容が減速制御であっても、少なくとも特定の減速機器については、所定時間は作動させないことが好適である。モード切り替わり直後の減速がなくなることで、違和感が低減できる。また、このような違和感のない走行は、後続車にとっても好ましい走行となる。」と記載されている。ここでの「通常走行モード」から「自動走行モード」への切り替えは、同じく引用例2の段落【0020】の「ブレーキ操作が行われると、通常走行モードに戻り、次のセット動作がなされるまでクルーズコントロールモードに移行しない。」との説明からみると、ブレーキ操作ではなくアクセル操作が解除された場合を想定していると認められるが、引用例1発明のようにアクセル操作のほかブレーキ操作が解除されたときに車間距離制御を再開する場合においても、「少なくとも特定の減速機器については、所定時間は作動させない」ことによってブレーキ操作による減速から車間距離制御による減速への切り替わり直後の減速がなくなることで違和感が低減できること、このような違和感のない走行は後続車にとっても好ましい走行となり得ることは当業者に明らかである。このような知見に基づいて、引用例1発明に、ブレーキ操作終了直後に減速制御を行わないという事項を付加して、上記のように設計することは当業者が容易に想到し得たものと認められる。
以上のようにしたものは実質的にみて、「減速制御手段による減速度の付与を禁止する減速度付与禁止手段を備え、減速操作検出手段により検出した減速操作の終了直後から所定の期間は、減速度付与禁止手段を作動させる」という事項を具備しているということができる。
そして、引用例2には、アクセル操作に関するものであるが、通常走行モードから自動走行モードへの切り替わり直後の減速がなくなることで違和感が低減できる旨が記載されていること、及び、引用例1に記載されているペダル操作終了時の急加速または急減速による乗り心地の悪さも、そのような急加速または急減速が運転者の意図したものでないという意味では運転者にとってのある種の違和感と言い表すこともあながち不可能ではないことを考慮すると、本願発明1の奏する作用効果も、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が予測できる程度のものである。

なお、審判請求の理由において「即ち、引用文献1では、ペダル操作終了後に目標車間距離を直ちに基準車間距離に変更してしまうと、車両が急加速や急減速していまって乗心地が悪くなるという問題が発生するため、この問題を解決する目的で、ペダル操作終了後に目標車間距離から基準車間距離まで徐々に変更、つまり、徐々に減速度を増加させている。本願発明は、車両の急加速や急減速による乗心地の悪化を防止するものではなく、ドライバが減速操作を行った後に更に減速度の付与が行われると、運転者の意図と異なる減速が実施されるという違和感を感じてしまうという問題を解決することを目的としている。そのため、本願発明では、目標車間距離と基準車間距離との乖離に関係なく、ドライバの減速操作が終了した後の所定の期間は減速度の付与を禁止している。」、「即ち、引用文献2は、ドライバが希望する速度にセットしたとき、ドライバがアクセル操作をしなくても車両をその速度で定速走行させる定速走行装置、所謂、オートクルーズコントロールに関するものである。そして、このオートクルーズコントロールにて、通常走行モードから自動走行モードに切り替わったときに、減速制御を禁止するものである。本願発明は、オートクルーズコントロールに関する技術ではなく、車間距離や相対速度に応じてブレーキ制御を実施してドライバのブレーキ操作をサポートする運転支援のための自動ブレーキ制御に関する技術、所謂、DABC(Driver-assist Braking Control)に関するものであり、引用文献2の技術とは異なるものである。そして、この引用文献2における段落[0020]には、「クルーズコントロールモードにおいて、ブレーキ操作が行われると、通常走行モードに戻り、次のセット動作がなされるまでクルーズコントロールモードに移行しない。」と記載されており、この引用文献2は、ブレーキ操作が行われた後は、制御そのものをキャンセルしている。」と主張している。
しかし、引用例1発明のようにブレーキ操作が解除されたときにも車間距離制御を再開する場合、例えばペダル操作終了直後のP=0の状態をしばらく継続し、その後にPを徐々に変更するようにして、車間距離制御が再開される直後の所定時間は車間距離制御による減速制御を作動させないようにすることは当業者が容易に想到し得たものと認められること、本願発明1の奏する作用効果も、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が予測できる程度のものであることは、上述のとおりである。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、請求項2?6に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-03 
結審通知日 2009-04-07 
審決日 2009-04-22 
出願番号 特願2004-341265(P2004-341265)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 健晴  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 藤村 聖子
村本 佳史
発明の名称 車輌減速制御装置  
代理人 酒井 宏明  

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