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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C30B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C30B
管理番号 1198663
審判番号 不服2006-25952  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-16 
確定日 2009-06-08 
事件の表示 特願2000- 54812「単結晶引上方法及び単結晶引上装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 9月 4日出願公開、特開2001-240485〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年2月29日の出願であって、平成18年4月21日付けで拒絶理由の通知がなされ、平成18年6月26日に意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出されたが、平成18年9月22日付けで拒絶査定がなされ、平成18年11月16日に拒絶査定不服の審判請求がなされ、平成18年12月18日に明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成19年2月22日に前記審判に係る請求書の手続補正書が提出され、平成21年1月5日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ、平成21年3月12日に回答書が提出されたものである。

2.平成18年12月18日付けの明細書の記載に係る手続補正についての補正却下の決定
(1)補正却下の決定の結論
平成18年12月18日付けの明細書の記載に係る手続補正を却下する。
(2)理由
平成18年12月18日付けの明細書の記載に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)のうち、特許請求の範囲についてする補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定される事項を目的とするものであると認める。
そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかを以下に検討する。
(2-1)補正後の発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】 ルツボの上方に該ルツボと同軸に配置された略円筒状のフロー管と、
前記ルツボの外周に所定距離離間して配されたヒータと、
該ヒータの周囲に配された保温筒と、
該保温筒の上部に取り付けられ前記フロー管を支持する円環状のアッパーリングと、
前記半導体単結晶の引き上げ途中で前記ルツボ内の半導体融液内に不純物を投入する不純物投入機構と、を備え、
前記フロー管が、下部の内径が下方に向けて漸次小さくなる円筒部材であり、その上端フランジ部が前記アッパーリングを介して保温筒の上部に固定され、
前記不純物投入機構は、前記不純物を含有させた棒状の前記不純物含有材料を下端から垂直に取り付けた上下動可能な支持棒と、
該支持棒を上下動させる支持棒上下機構とを備え、
前記支持棒が、半導体融液上方で前記アッパーリングに設けられた貫通孔に挿通され、
該支持棒が、前記不純物含有材料を前記ルツボ中心よりも高温で急速に前記不純物含有材料を前記半導体融液中に溶け込ませると共に投入時の温度変動が成長界面に影響を与えることを極力低減する前記ルツボ内周面近傍位置に投入するようルツボの内周面近傍位置の上方に位置されて、
前記支持棒上下機構は、前記半導体単結晶の引上速度よりも遅く前記支持棒を下方に移動させる単結晶引上装置において、前記ルツボ内の半導体融液から半導体単結晶を引き上げる単結晶引上方法であって、
前記半導体単結晶の引き上げ途中で前記ルツボ内の半導体融液内に不純物を投入し、成長軸方向の比抵抗分布が前記投入前後で不連続な半導体単結晶を引き上げる際に、前記不純物を、前記ルツボの内周面近傍位置に投入するとともに、
前記不純物含有材料を前記半導体融液中に浸けて不純物を投入する際に、前記半導体単結晶の引上速度よりも遅く前記支持棒を下方に移動させて、
前記不純物含有材料の中間位置まで前記半導体融液中に浸けて不純物を投入することを特徴とする単結晶引上方法。」
(2-2)引用文献1記載の発明
本願出願前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶理由で引用文献1として引用された特開昭61-163188号公報には、次の事項が記載されている。
(ア)「2.特許請求の範囲
1.半導体シリコン単結晶引上法における不純物のドープ方法において、引上炉内に予め高濃度の不純物を含むシリコン細棒(4)を装填し、該シリコン細棒の所定量を溶融シリコン内に溶解し、ドープすることを特徴とする不純物のドープ方法。
・・・
3.シリコン細棒(4)が、該シリコン単結晶引上途中に溶融シリコンに溶解される特許請求の範囲第1項記載の不純物のドープ方法。」(特許請求の範囲第1項及び第3項)
(イ)「以下、本発明を図面を用い、実施例にもとづいて詳述する。
第1図は本発明による単結晶引上装置の概略を示す。
第1図において1は溶融シリコン、2は単結晶、3は種結晶、4はドープ用シリコン細棒、5はシリコン細棒を昇降する昇降装置、6はモーター、7はシリコン細棒の昇降を制御するコントローラー、8は単結晶引上長さ測定器(エンコーダー)を示し、単結晶引上機構(図示せず)に連結されている。」(第3頁左上欄第14行?右上欄第4行)
(ウ)「次に本発明による単結晶引上方法を説明する。
本発明には、単結晶引上前に予めドープする方法と、引上途中にドープする方法とが含まれる。先ず、単結晶引上前にドープする方法について説明する。
石英ルツボ9に多結晶を破砕した原料シリコンを装填し、通常の加熱装置により、加熱、溶解する。次に、予めその濃度について測定済みの・・・ボロン・・・のドーパント不純物量を含むシリコン細棒4を昇降装置5により降下させ溶融シリコン1の液面に接触させて、予め設定した長さだけ静かに下降浸漬し、一定長さのシリコン細棒、即ち、ドーパントの一定量をドープし、その後、該細棒を上昇させる。・・・
次に、単結晶引上途中においてドープする方法について説明する。
・・・単結晶引上長さが予め設定した製品合格長さaになったとき、自動的に昇降装置5によりシリコン細棒4の所定長さ、即ち、所定のドープ量を溶融シリコン1中に静かに溶しこむ。・・・
第3図は、本発明により作成された単結晶の長さ方向の抵抗率分布を示し、横軸は引上長さ、縦軸は抵抗率分布を示す。この様に、単結晶引上途中において、任意の所定量を正確にドープすることにより単結晶bの部分の抵抗値は任意に低下させることができる。」(第3頁右上欄第5行?右下欄第5行)
(エ)「[実施例2]
本実施例は本発明による一実施例とその結果を示す。
先ず、・・・長さ方向に均一な・・・のシリコン細棒を・・・引上装置に取り付ける。・・・その後、昇降装置5によりシリコン細棒4を下降させ、シリコン溶液1に接触後、所定長さ、即ち、所定ドープ量を正確に溶解した。
・・・
[実施例3]
本実施例は本発明による一実施例とその結果を示す。
・・・シリコン細棒4を・・・引上装置に取り付けた。・・・その後、実施例2のドープ方法と同じ方法で、所定量のドープ量・・・だけ溶解した。
その後、種結晶付けし、肩作りし、単結晶100mmφを450mmの長さまで引きあげた。このところで、引上を続行しながらシリコン細棒4を静かにシリコン溶液中に9.9mmの長さを溶かしこんだ。・・・
[実施例4]
本実施例は、実施例3において観察された単結晶化を妨害すると予想される現象を解消するために行われたものである。すなわち、実施例3においては・・・、溶融シリコン液面10とシリコン細棒4とが接する部分に、一部、結晶11が成長する場合が見受けられた。
これはシリコン細棒4を伝わって熱が逃げるためであり、これが大きくなれば該シリコン細棒引上の際、シリコン液面10を乱し、引上中の単結晶の単結晶成長を妨げるおそれがある。
これを防止するため、本実施例では、該細棒4の予熱、該細棒4の溶解スピード、及び該細棒4の太さの検討を行った。
この結果、シリコン細棒4を溶解する前、溶融シリコン液面10真上で10乃至20分予熱し、浸漬スピードを0.03mm/min.以下に保つことにより、シリコン細棒の断面積を1.0cm^(2)まで増しても、単結晶成長を妨げることなく実施できることが判った。
ただし、これは本発明の装置での一実施例であり、該予熱には例えば、レーザーをつかうなど、種々の手段がある。
・・・
尚、以上のごとく、シリコン細棒4の断面積、ドープ速度、予熱時間を適当に選ぶことによりドープ時、及びドープ終了後、シリコン細棒4を上昇させるときの溶融シリコン液面10の振動を防止することもできる。」(第4頁左上欄第19行?第5頁右上欄第9行)
(オ)「[発明の効果]
・・・
又、単結晶引上途中において、所定量のドープが精度良くできるから、従来法では抵抗外れで不合格になった単結晶部分もほとんど合格とすることができ、単結晶取得率は格段に向上する。」(第5頁左下欄第7?15行)
(カ)ここで、上記(ア)?(オ)について検討すると、(ウ)の「ドーパント不純物量を含むシリコン細棒4を昇降装置5により降下させ溶融シリコン1の液面に接触させて、予め設定した長さだけ静かに下降浸漬し、一定長さのシリコン細棒、即ち、ドーパントの一定量をドープし、その後、該細棒を上昇させる」との記載から、(イ)に記載の装置においては、溶融シリコンが装填されたルツボの上方にシリコン細棒が位置されており、(ア)に記載されているドープ方法を実施する際には、昇降装置によりシリコン細棒を下降させ、所定の長さまで溶融シリコン中に浸漬して溶かしこみ、不純物をドープすることは明らかである。
そうすると、上記(ア)?(オ)の記載事項を補正発明1の記載ぶりに則して記載すると、引用文献1には、
「加熱装置と、
シリコン単結晶の引上途中で前記ルツボ内の溶融シリコン内に不純物をドープする装置と、を備え、
前記不純物をドープする装置は、前記不純物を含むシリコン細棒を昇降させる昇降装置を備え、
該シリコン細棒が、ルツボの上方に位置されて、
前記昇降装置は、シリコン細棒を0.03mm/min.以下の浸漬スピードで下降させるシリコン単結晶引上装置において、前記ルツボ内の溶融シリコンからシリコン単結晶を引上げる単結晶引上方法であって、
前記シリコン単結晶の引上途中で前記ルツボ内の溶融シリコン内に不純物をドープし、長さ方向の抵抗率分布が前記ドープ後で任意に低下したシリコン単結晶を引上げる際に、前記不純物を、前記ルツボ内の溶融シリコン中に溶かし込むとともに、
前記シリコン細棒を前記溶融シリコン中に浸漬して不純物をドープする際に、前記シリコン細棒を下降させて、
前記シリコン細棒の所定長さまで前記溶融シリコン中に浸漬して不純物をドープする単結晶引上方法。」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
(2-3)対比
補正発明1と引用発明1とを対比する。
ここで、
(あ)上記(ウ)の記載によれば、引用発明1の「加熱装置」は、ルツボに装填した原料シリコンを加熱、溶解するためのものであるから、補正発明1の「ヒータ」に相当し、単結晶引上装置における原料シリコンを加熱、溶解する通常の加熱装置がルツボの外周に所定距離離間して配されることは技術常識である。
(い)補正発明1において、「半導体」単結晶には「シリコン」単結晶が含まれる(本願明細書の段落【0032】)から、引用発明1の「シリコン単結晶」が補正発明1の「半導体単結晶」に相当し、引用発明1の「溶融シリコン」が補正発明1の「半導体融液」に相当することも明らかである。
(う)上記(ア)の記載によれば、引用発明1の「シリコン細棒」は、ドープする不純物を含むものであるから、補正発明1の「棒状の不純物含有材料」に相当する。また、単結晶の引上方法において、不純物を「ドープする」ことは不純物を「投入する」ことに他ならないから、引用発明1の「不純物をドープする装置」が補正発明1の「不純物投入機構」に相当することも明らかである。
(え)補正発明1における「支持棒上下機構」は、支持棒を下降させて支持棒下端に取り付けた不純物含有材料を半導体融液中に浸けて投入するものである(本願明細書の段落【0012】)から、引用発明1における「昇降装置」は、不純物含有材料を下降させて融液中に投入するために上下動する機構を有している点で補正発明1の「上下機構」に相当する。また、補正発明1において、「支持棒」がルツボの上方に位置していることは、その下端に取り付けた不純物含有材料も同様に、ルツボの上方に位置していることである。
(お)引上法において製造された単結晶において、長さ方向が成長軸方向であることは技術常識であるし、引用発明1における「抵抗率分布がドープ後で任意に低下した」ことは抵抗率の分布がドープ前後で不連続であることを意味するから、「抵抗率」と「比抵抗」が同義であることを勘案すると、引用発明1の「長さ方向の抵抗率分布が前記ドープ後で任意に低下したシリコン単結晶」は、補正発明1の「成長軸方向の比抵抗分布が前記投入前後で不連続な半導体単結晶」に相当する。
(か)上記(ウ)の「シリコン細棒4を昇降装置5により降下させ溶融シリコン1の液面に接触させて、予め設定した長さだけ静かに下降浸漬し、一定長さのシリコン細棒、即ち、ドーパントの一定量をドープし、その後、該細棒を上昇させる。」との記載から、引用発明1においてシリコン細棒の「所定長さまで」溶融シリコン中に浸漬することは、補正発明1における不純物含有材料の「中間位置」まで半導体融液中に浸けることに相当する。
そうすると、両発明は、
「ルツボの外周に所定距離離間して配されたヒータと、
半導体単結晶の引き上げ途中で前記ルツボ内の半導体融液内に不純物を投入する不純物投入機構と、を備え、
前記不純物投入機構は、前記不純物を含有させた棒状の前記不純物含有材料を上下動させる上下機構とを備え、
該棒状の不純物含有材料が、ルツボの上方に位置されて、
前記上下機構は、前記不純物含有材料を下方に移動させる単結晶引上装置において、前記ルツボ内の半導体融液から半導体単結晶を引き上げる単結晶引上方法であって、
前記半導体単結晶の引き上げ途中で前記ルツボ内の半導体融液内に不純物を投入し、成長軸方向の比抵抗分布が前記投入前後で不連続な半導体単結晶を引き上げる際に、前記不純物を、投入するとともに、
前記不純物含有材料を前記半導体融液中に浸けて不純物を投入する際に、前記不純物含有材料を下方に移動させて、
前記不純物含有材料の中間位置まで前記半導体融液中に浸けて不純物を投入する単結晶引上方法。」
である点で一致し、
(a)単結晶引上装置において、補正発明1が「ルツボの上方に該ルツボと同軸に配置された略円筒状のフロー管」、「ヒータの周囲に配された保温筒」及び「保温筒の上部に取り付けられ前記フロー管を支持する円環状のアッパーリング」を有し、「前記フロー管が、下部の内径が下方に向けて漸次小さくなる円筒部材であり、その上端フランジ部が前記アッパーリングを介して保温筒の上部に固定され」ている構造を有する装置であるのに対して、引用発明1の単結晶引上装置ではかかる構造を有していない点(以下、「相違点a」という。)、
(b)補正発明1では、不純物含有材料が上下動可能な「支持棒」の下端から垂直に取り付けられ、該支持棒が半導体融液上方で前記アッパーリングに設けられた貫通孔に挿通され、該支持棒が支持棒上下機構により上下動するのに対して、引用発明1ではシリコン細棒が昇降装置により昇降するとされているのみで、当該「支持棒」に相当するものを有することが明確でない点(以下、「相違点b」という。)、
(c)補正発明1では「該支持棒が、前記不純物含有材料を前記ルツボ中心よりも高温で急速に前記不純物含有材料を前記半導体融液中に溶け込ませると共に投入時の温度変動が成長界面に影響を与えることを極力低減する前記ルツボ内周面近傍位置に投入するようルツボの内周面近傍位置の上方に位置されて」いることが特定されているのに対して、引用発明1では「シリコン細棒が、ルツボの上方に位置されて」いることが特定されているのみである点(以下、「相違点c」という。)、
(d)補正発明1では、単結晶引上装置及び方法において、「支持棒上下機構は、半導体単結晶の引上速度よりも遅く前記支持棒を下方に移動させる」ことが特定されているのに対して、引用発明1では「昇降装置は、シリコン細棒を0.03mm/min.以下の浸漬スピードで下降させる」ことが特定されているのみで、半導体単結晶の引き上げ速度と当該下降速度との関係が特定されていない点(以下、「相違点d」という。)、
で相違する。
(2-4)検討
上記相違点a?dについて検討する。
(a)相違点aついて
シリコン単結晶引上装置において、「ルツボの上方に該ルツボと同軸に配置された略円筒状のフロー管」、「ヒータの周囲に配された保温筒」及び「保温筒の上部に取り付けられ前記フロー管を支持する円環状のアッパーリング」等の部材を「前記フロー管が、下部の内径が下方に向けて漸次小さくなる円筒部材であり、その上端フランジ部が前記アッパーリングを介して保温筒の上部に固定され」るように設けることは、原審の拒絶査定においても示されているとおり、例えば、特開平11-171681号公報、特公昭57-040119号公報、実願昭63-138270号(実開平02-057962号)のマイクロフィルム等に記載されているように、本願出願前より周知の技術であるから、引用発明1に記載されているシリコン単結晶引上装置に、これらの周知技術を採用する点に格別の困難性は認められない。
(b)相違点bについて
棒状の不純物含有材料を下降させて半導体融液に溶かし込むにあたり、当該棒状の材料と上下動させる機構との間に支持部材を介するか否かは、当業者が適宜成し得る設計的事項にすぎないから、引用発明1の装置において、支持棒を介してシリコン細棒を昇降装置により昇降させるような構造とすることは当業者が困難なく成し得たことである。
また、棒状の不純物含有材料を支持棒へ取り付けるにあたり、ルツボ上方に位置する不純物含有材料を下降させて溶融シリコンに浸漬させることを勘案すれば、棒状の不純物含有材料を支持棒の下端から垂直に取り付ける程度のことも、当業者が困難なく成し得たことである。
さらに、引用発明1において、アッパーリングを配置した際には、シリコン細棒を挿通するための貫通孔を溶融シリコン上方のアッパーリングに設ける必要があることは当業者にとって自明であるから、支持棒を介してシリコン細棒を昇降装置により昇降させるような構造とした際に、該支持棒が半導体融液上方で前記アッパーリングに設けられた貫通孔に挿通されることも適宜成し得たことである。
(c)相違点cついて
上記(2-2)(エ)の[実施例4]における「実施例3においては・・・、溶融シリコン液面10とシリコン細棒4とが接する部分に、一部、結晶11が成長する場合が見受けられた。これはシリコン細棒4を伝わって熱が逃げるためであり、これが大きくなれば該シリコン細棒引上の際、シリコン液面10を乱し、引上中の単結晶の単結晶成長を妨げるおそれがある。これを防止するため、本実施例では、該細棒4の予熱、該細棒4の溶解スピード、及び該細棒4の太さの検討を行った。」との記載からみて、引用発明1においても、不純物のドープ時におけるルツボ内の溶融シリコンの温度変動及びその成長界面への影響を防止すべきことが検討されており、種々の手段によってシリコン細棒を予熱して溶け込ませることも開示されている。
そうすると、引用発明1においても、単結晶の成長界面が存在するルツボ中心部から離れた位置に不純物を投入して急速に溶かし込むことにより、投入時の温度変動が成長界面に影響を与えることを極力低減できるようにすべきであるし、ルツボ中心部より内周面近傍のほうが高温であることは技術常識に照らして明らかであるから、引用発明1において、シリコン細棒をルツボ内周面近傍位置の上方に位置させて、ルツボ中心より高温で急速に溶け込ませる構造の「シリコン単結晶引上装置」とする程度のことは、当業者が困難なく成し得たことである。
(d)相違点dについて
速度は大きさと向きを持つベクトル量であるところ、単結晶を引上げる向きと支持棒の移動する向きとが一致していなければ、厳密には引上速度と支持棒の移動する速度の比較はできないが、単結晶の引上げる向きと支持棒の移動する向きとが同一方向で正反対の向きであることは本願明細書(段落【0026】)及び図面(【図1】)の記載からみて明らかであるから、補正発明1におけるこれらの「速度」とは、それぞれの速度の大きさのことであると解して検討する。
引用発明1には、単結晶の引上速度とシリコン細棒の下降速度との関係については明記されていないものの、上記(2-2)(エ)の[実施例3]に係る記載ではシリコン細棒を「静かに」浸漬するとされており、同じく[実施例4]に係る記載では「・・・シリコン細棒引上の際、シリコン液面10を乱し、引上中の単結晶の単結晶成長を妨げるおそれがある。これを防止するため」浸漬スピードを0.03mm/min.以下、すなわち、より低い速度に保つとされている。
一方、平成21年1月5日付けの審尋で引用した特許法第164条第3項に基づく報告にも記載されているように、シリコン単結晶の引上方法において、0.03mm/min.よりも大きい速度で単結晶を引上げることは普通に行われていることである(要すれば、特開2000-044388号公報、特開2000-053497号公報、特開2000-026196号公報等参照)。
そうすると、引用発明1において、普通のシリコン単結晶の引上方法であれば、シリコン細棒を「静かに」又は「0.03mm/min.以下」の速度で下降させて浸漬すれば、当該シリコン細棒は「単結晶の引上速度より遅く」下方に移動させて、溶融シリコン中に浸漬して不純物を投入することになるといえるから、相違点dは表現上の相違にすぎず、実質的な相違点とは認められない。
そして、補正発明1が上記相違点a?dを有することによって、引用発明1に比して、当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏しているものとも認められない。
以上のとおり、補正発明1は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものとは認められない。
(2-5)補正却下の決定のむすび
したがって、平成18年12月18日付けの明細書の記載に係る手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成18年12月18日付けの明細書の記載に係る手続補正は、上記のとおり、補正却下の決定がなされた。
したがって、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成18年6月26日付けの明細書の記載に係る手続補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】 ルツボ内の半導体融液から半導体単結晶を引き上げる単結晶引上装置であって、
前記ルツボの上方に該ルツボと同軸に配置された略円筒状のフロー管と、
前記ルツボの外周に所定距離離間して配されたヒータと、
該ヒータの周囲に配された保温筒と、
該保温筒の上部に取り付けられ前記フロー管を支持する円環状のアッパーリングと、
前記半導体単結晶の引き上げ途中で前記ルツボ内の半導体融液内に不純物を投入する不純物投入機構と、を備え、
前記フロー管が、下部の内径が下方に向けて漸次小さくなる円筒部材であり、その上端フランジ部が前記アッパーリングを介して保温筒の上部に固定され、
前記不純物投入機構は、前記不純物を含有させた棒状の前記不純物含有材料を下端から垂直に取り付けた上下動可能な支持棒と、
該支持棒を上下動させる支持棒上下機構とを備え、
前記支持棒が、半導体融液上方で前記アッパーリングに設けられた貫通孔に挿通され、
該支持棒が、前記不純物含有材料を前記ルツボ中心よりも高温で急速に前記不純物含有材料を前記半導体融液中に溶け込ませると共に投入時の温度変動が成長界面に影響を与えることを極力低減する前記ルツボ内周面近傍位置に投入するようルツボの内周面近傍位置の上方に位置されていることを特徴とする単結晶引上装置。」
そして、本願発明1は、上記補正発明1の単結晶引上装置において「前記支持棒上下機構は、前記半導体単結晶の引上速度よりも遅く前記支持棒を下方に移動させるという特定事項を有さないものにすぎないから、本願発明1と引用発明1とを対比すると、上記2.(2-3)で補正発明1と引用発明1とを対比したときと同様の一致点及び相違点a?cを有するものである。
してみれば、上記2.(2-4)での検討が同様に当てはまるから、本願発明1についても、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.補正案について
なお、審判請求人は、平成21年3月12日に提出した回答書の別紙において以下のような明細書の特許請求の範囲の補正案を提示しているので、当該補正案に係る発明(以下、「補正案発明」という。)についても検討する。
「(請求項1) ルツボの上方に該ルツボと同軸に配置された略円筒状のフロー管と、
前記ルツボの外周に所定距離離間して配されたヒータと、
該ヒータの周囲に配された保温筒と、
該保温筒の上部に取り付けられ前記フロー管を支持する円環状のアッパーリングと、
前記半導体単結晶の引き上げ途中で前記ルツボ内の半導体融液内に不純物を投入する不純物投入機構と、を備え、
前記フロー管が、下部の内径が下方に向けて漸次小さくなる円筒部材であり、その上端フランジ部が前記アッパーリングを介して保温筒の上部に固定され、
前記不純物投入機構は、前記不純物を含有させた棒状の前記不純物含有材料を下端から垂直に取り付けた上下動可能な支持棒と、
該支持棒を上下動させる支持棒上下機構とを備え、
前記支持棒が、半導体融液上方で前記アッパーリングに設けられた貫通孔に挿通され、
該支持棒が、前記不純物含有材料を前記ルツボ中心よりも高温で急速に前記不純物含有材料を前記半導体融液中に溶け込ませると共に投入時の温度変動が成長界面に影響を与えることを極力低減する前記ルツボ内位置に投入するようルツボの上方に位置されて、
前記支持棒上下機構は、前記半導体単結晶の引上速度よりも遅く前記支持棒を下方に移動させる単結晶引上装置において、前記ルツボ内の半導体融液から半導体単結晶を引き上げる単結晶引上方法であって、
前記半導体単結晶の引き上げ途中で前記ルツボ内の半導体融液内に不純物を投入し、成長軸方向の比抵抗分布が前記投入前後で不連続な半導体単結晶を引き上げる際に、前記不純物を、前記ルツボの内位置に投入するとともに、
前記不純物含有材料を前記半導体融液中に浸けて不純物を投入する際に、前記半導体単結晶の引上速度よりも遅く前記支持棒を下方に移動させて、
前記不純物含有材料の中間位置まで前記半導体融液中に浸けて不純物を投入するとともに、無駄な領域を介さず1回の成長で2種類の比抵抗範囲を連続して有する半導体単結晶を無駄なく作製することを特徴とする単結晶引上方法。」
上記補正案発明は、上記補正発明1において、(1)「ルツボ内周面近傍位置に投入するようルツボの内周面近傍位置の上方に位置されて」という特定事項を「ルツボ内位置に投入するようルツボの上方に位置されて」に補正し(補正事項1)、(2)「無駄な領域を介さず1回の成長で2種類の比抵抗範囲を連続して有する半導体単結晶を無駄なく作製する」という特定事項を付加する(補正事項2)ものである。
補正事項1及び2について検討するに、補正事項1は「内周面近傍」を削除し、明瞭でない記載を釈明したものであって、発明特定事項の実質的な拡張を伴う補正であるから、上記3.の本願発明の判断を左右するものではない。また、補正事項2については、上記2.(2-2)(オ)の「単結晶引上途中において、所定量のドープが精度良くできるから、・・・単結晶取得率は格段に向上する。」との記載から明らかように、無駄な領域を介さず1回の成長で2種類の比抵抗範囲を連続して有する単結晶を作製することは、引用発明1においても同様に意図していることであるから、上記補正事項に係る特定事項を成す程度のことは、当業者が困難なく成し得たことである。
よって、この補正案を採用したとしても、補正案発明は依然として、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-03 
結審通知日 2009-04-07 
審決日 2009-04-20 
出願番号 特願2000-54812(P2000-54812)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C30B)
P 1 8・ 575- Z (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡田 隆介大工原 大二  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 木村 孔一
天野 斉
発明の名称 単結晶引上方法及び単結晶引上装置  
代理人 青山 正和  
代理人 高橋 詔男  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  

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