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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1198681
審判番号 不服2007-17273  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-21 
確定日 2009-06-08 
事件の表示 特願2001-179166「リニア駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月26日出願公開,特開2002-374652〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は平成13年6月13日の出願であって,平成19年5月21日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年6月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされ,同年7月18日に手続補正書が提出されたものである。

2.平成19年7月18日付け手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「モータのロータの回転運動を可動軸の直進運動に変換する変換手段を有するリニア駆動装置において,
変換手段は,可動軸およびロータに設けられ互いに噛み合う雌ねじおよび雄ねじと上記可動軸の回転を阻止する回転阻止手段とを有し,
上記回転阻止手段は,収納ケースに形成されたガイド部と,上記可動軸とともに直進運動するように上記可動軸に結合されて可動軸から半径方向に伸びかつ上記ガイド部にガイドされて上記可動軸の回転を阻止する回転阻止部材とを有し,
上記回転阻止部材には,上記可動軸の位置を検出するための位置検出手段が上記可動軸とガイド部の双方に隣接して設けられ,
上記位置検出手段と対をなして上記可動軸の位置を検出できるように上記位置検出手段の移動軌跡に対向して配置された検出手段が上記収納ケースに設けられていることを特徴とするリニア駆動装置。」
と補正された。

上記補正は,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「位置検出手段が設けられ」る態様について,位置検出手段が「可動軸とガイド部の双方に隣接して」設けられる態様に限定するものであるので,平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-36942号公報(以下,「引用例」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「リング状の回転子を有する環状形の電動モータと,この電動モータの内方に配設され,かつこの電動モータの回転力を出力軸の進退動作に変換するセルフロック機構を持たないボールねじ機構とこのボールねじ機構の出力軸の変位を検出する変位検出機構とを具備してなることを特徴とする自動制御用電動駆動機。」(公報1ページ左下欄5行-11行。)

(イ)「同モータMは,第2図および第3図に示すように,一定の空隙をおいて対定配置した外側固定子1および内側固定子2と,これらの空隙間に挿入されたリング状の回転子3とからなる。」(公報2ページ左下欄6行-9行。)

(ウ)「また,回転子3は回転台7上に立設されており,この回転台7がベアリング6を介して前記内筒5に回転可能に支承されている。」(公報2ページ左下欄12行-14行。)

(エ)「このように構成される電動モータMに対して,その回転台7に同芯のセンタコラム11を固着し該センタコラム11の上端部にロック機構Rを構成している。」(公報2ページ右下欄13行-16行。)

(オ)「他方,前記センタコラム11には,ボールねじ機構Aを介してねじ棹(出力軸)19を接続している。ボールねじ機構Aは,センタコラム11の内方に位置することになり,この点もこの発明の特徴であるが,前記センタコラム11の内周に嵌着されたナット部18と,前記ねじ棹19の一端に刻設したボルト部19aと,このボルト部19aと前記ナット部18とを螺進退可能に連結する多数の転動ボール18aとから構成されている。そして,ねじ棹19の一部に第1図に示すような回転止め金具20を一体突設し,この金具20を,ハウジング22からねじ棹19に平行に突設したガイド棒21に係合させることにより,ねじ棹19の回転を禁止して,ナット部18の回転動力を該ねじ棹19の進退動作に変換し得るようにしている。
他方,止め金具20にはアーム15が固定されこのアーム15の先端に差動トランス17に挿入され変位するコア杆16が取り付けられている。そしてこのねじ棹19の変位が電気的に検出されるようになっているのである。すなわちこれらはねじ棹の変位検出機構Sを構成している。」(公報3ページ左上欄2行-右上欄2行。なお,「このアーム20」は,「このアーム15」の誤記であると認められるので,上記のように摘記した。)

(カ)上記(オ)の記載,第1図及び第2図から,引用例には電動モータMのリング状の回転子3の回転力をねじ棹19の進退動作に変換する「変換手段」の構成が示されている。

(キ)第1図には,ねじ棹19とともに進退動作するようにねじ棹19に結合されてねじ棹19から半径方向に伸びかつガイド棒21にガイドされてねじ棹19の回転を禁止する回転止め金具20の構成,コア杆16と対をなしてねじ棹19の変位を検出できるように,コア杆16の移動方向に配置された差動トランス17の構成,及び差動トランス17がハウジング22に設けられている構成が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると引用例には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「電動モータMのリング状の回転子3の回転力をねじ棹19の進退動作に変換する変換手段を有する自動制御用電動駆動機において,
変換手段は,ボールねじ機構Aと上記ねじ棹19の回転を禁止する手段とを有し,
上記ねじ棹19の回転を禁止する手段は,ハウジング22から突設したガイド棒21と,上記ねじ棹19とともに進退動作するように上記ねじ棹19に結合されてねじ棹19から半径方向に伸びかつ上記ガイド棒21にガイドされて上記ねじ棹19の回転を禁止する回転止め金具20とを有し,
上記回転止め金具20には,アーム15が固定され,上記アーム15には上記ねじ棹19の変位を検出するためのコア杆16が取り付けられ,
上記コア杆16と対をなして上記ねじ棹19の変位を検出できるように上記コア杆16の移動方向に配置された差動トランス17が上記ハウジング22に設けられている自動制御用電動駆動機。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「電動モータM」は本願補正発明の「モータ」に相当し,以下同様に,
「リング状の回転子3」は「ロータ」に,
「ねじ棹19」は「可動軸」に,
「進退動作」は「直進運動」に,
「自動制御用電動駆動機」は「リニア駆動装置」に,それぞれ相当する。
したがって,引用発明の「電動モータMのリング状の回転子3の回転力をねじ棹19の進退動作に変換する変換手段を有する自動制御用電動駆動機」は,本願補正発明の「モータのロータの回転運動を可動軸の直進運動に変換する変換手段を有するリニア駆動装置」に相当する。

(イ)引用発明の「ボールねじ機構A」と本願補正発明の「可動軸およびロータに設けられ互いに噛み合う雌ねじおよび雄ねじ」とは,「ねじ機構」という概念で共通する。さらに,引用発明の「ねじ棹19の回転を禁止する手段」は,本願補正発明の「可動軸の回転を阻止する回転阻止手段」に相当する。
したがって,引用発明の「変換手段は,ボールねじ機構Aとねじ棹19の回転を禁止する手段とを有」する態様と,本願補正発明の「変換手段は,可動軸およびロータに設けられ互いに噛み合う雌ねじおよび雄ねじと上記可動軸の回転を阻止する回転阻止手段とを有」する態様は,「変換手段は,ねじ機構と可動軸の回転を阻止する回転阻止手段とを有」するという概念で共通する。

(ウ)引用発明の「ハウジング22」は本願補正発明の「収納ケース」に相当し,以下同様に,
「ガイド棒21」は「ガイド部」に,
「回転止め金具20」は「回転阻止部材」に,それぞれ相当する。
したがって,引用発明の「ねじ棹19の回転を禁止する手段は,ハウジング22から突設したガイド棒21と,上記ねじ棹19とともに進退動作するように上記ねじ棹19に結合されてねじ棹19から半径方向に伸びかつ上記ガイド棒21にガイドされて上記ねじ棹19の回転を禁止する回転止め金具20とを有」する態様は,本願補正発明の「回転阻止手段は,収納ケースに形成されたガイド部と,可動軸とともに直進運動するように上記可動軸に結合されて可動軸から半径方向に伸びかつ上記ガイド部にガイドされて上記可動軸の回転を阻止する回転阻止部材とを有」する態様に相当する。

(エ)引用発明の「コア杆16」は本願補正発明の「位置検出手段」に相当する。したがって,引用発明の「回転止め金具20には,アーム15が固定され,上記アーム15にはねじ棹19の変位を検出するためのコア杆16が取り付けられ」る態様と,本願補正発明の「回転阻止部材には,可動軸の位置を検出するための位置検出手段が上記可動軸とガイド部の双方に隣接して設けられ」る態様は,「回転阻止部材には,可動軸の位置を検出するための位置検出手段が設けられ」るという概念で共通する。

(オ)引用発明の「差動トランス17」は本願補正発明の「検出手段」に相当する。
したがって,引用発明の「コア杆16と対をなしてねじ棹19の変位を検出できるようにコア杆16の移動方向に配置された差動トランス17がハウジング22に設けられている」態様は,本願補正発明の「位置検出手段と対をなして可動軸の位置を検出できるように位置検出手段の移動軌跡に対向して配置された検出手段が収納ケースに設けられている」態様に相当する。

したがって両者は,
「モータのロータの回転運動を可動軸の直進運動に変換する変換手段を有するリニア駆動装置において,
変換手段は,ねじ機構と上記可動軸の回転を阻止する回転阻止手段とを有し,
上記回転阻止手段は,収納ケースに形成されたガイド部と,上記可動軸とともに直進運動するように上記可動軸に結合されて可動軸から半径方向に伸びかつ上記ガイド部にガイドされて上記可動軸の回転を阻止する回転阻止部材とを有し,
上記回転阻止部材には,上記可動軸の位置を検出するための位置検出手段が設けられ,
上記位置検出手段と対をなして上記可動軸の位置を検出できるように上記位置検出手段の移動軌跡に対向して配置された検出手段が上記収納ケースに設けられているリニア駆動装置。」
の点で一致し,以下の点で相違している。
[相違点1]
ねじ機構に関し,本願補正発明は「可動軸およびロータに設けられ互いに噛み合う雌ねじおよび雄ねじ」であるのに対し,引用発明は「ボールねじ機構A」である点。
[相違点2]
位置検出手段の配置に関し,本願補正発明は「可動軸とガイド部の双方に隣接して」設けられているのに対し,引用発明はかかる特定がない点。

(4)判断
上記相違点について,以下に検討する。

(ア)相違点1について
リニア駆動装置において,ロータの回転運動を可動軸の直線運動に変換するために,可動軸に雄ねじを,ロータに雌ねじを,それぞれ形成して互いに噛み合うように構成することは,例えば実願昭56-12944号(実開昭57-127567号)のマイクロフィルムに示されているように,本願出願時点で周知技術である(該文献の2ページ3行-8行,第2図を参照。)。一方,従来から存在する駆動装置の構造を,同様の機能・作用を有し,かつ簡易なもので構成することは,当業者が当然に想定する課題である。
したがって,引用発明のボールねじ機構Aと同様の機能・作用を有し,かつ簡易である上記周知技術を引用発明に適用することにより,相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者にとって容易である。

(イ)相違点2について
本願補正発明で,位置検出手段を可動軸とガイド部の双方に隣接するように設けた技術的意義について本願明細書には何等記載されていないが,審判請求人は請求の理由等において,位置検出手段を可動軸とガイド部の双方に隣接するように設けることにより「位置検出精度を向上させることができる」,「可動軸の動作位置を検出するための構成部分をコンパクトにまとめることができる」といった効果がある旨,主張している。しかし,位置検出精度の向上及びコンパクト化は,リニア駆動装置に通常要求される課題に過ぎない。
ところで,引用例にはコア杆16を設ける位置について,第1図に記載されている位置に限定すべきことは何も記載されていない上,コア杆16(位置検出手段)を,ねじ棹19(可動軸)とガイド棒21(ガイド部)の双方に隣接するように配置することに,格別支障を生じる事情が存在するとも認められない。また,一般的に,センサを製品の空いている箇所に設けることは常套手段である。
してみれば,上記した当然要求される課題を解決するために,引用発明に上記常套手段を適用して,位置検出手段を可動軸とガイド部の双方に隣接するように設けることは,当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎない。
したがって,相違点2は格別なものではない。

そして,本願補正発明の全体構成により奏される作用効果も,引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって,本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおりであって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下を免れない。

3.本願の発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成19年3月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「モータのロータの回転運動を可動軸の直進運動に変換する変換手段を有するリニア駆動装置において,
変換手段は,可動軸およびロータに設けられ互いに噛み合う雌ねじおよび雄ねじと上記可動軸の回転を阻止する回転阻止手段とを有し,
上記回転阻止手段は,収納ケースに形成されたガイド部と,上記可動軸とともに直進運動するように上記可動軸に結合されて可動軸から半径方向に伸びかつ上記ガイド部にガイドされて上記可動軸の回転を阻止する回転阻止部材とを有し,
上記回転阻止部材には,上記可動軸の位置を検出するための位置検出手段が設けられ,
上記位置検出手段と対をなして上記可動軸の位置を検出できるように上記位置検出手段の移動軌跡に対向して配置された検出手段が上記収納ケースに設けられていることを特徴とするリニア駆動装置。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例,及びその記載事項は,前記2.(2)に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は,前記2.(1)で検討した本願補正発明から位置検出手段の態様に関する「可動軸とガイド部の双方に隣接して」という限定を省いたものである。
そうすると,本願発明と引用発明を対比した際の相違点は,前記2.(3)で検討した相違点1のみとなる。
そうすると,前記2.(4)での検討内容を踏まえれば,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから,本願発明は特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-06 
結審通知日 2009-04-07 
審決日 2009-04-20 
出願番号 特願2001-179166(P2001-179166)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
P 1 8・ 575- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大山 広人  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 仁木 浩
片岡 弘之
発明の名称 リニア駆動装置  
代理人 石橋 佳之夫  

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