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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1199320
審判番号 不服2008-9525  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-17 
確定日 2009-06-18 
事件の表示 特願2001- 346「軸受装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月26日出願公開、特開2002-206556〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成13年1月5日の出願であって、平成20年3月6日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年4月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年5月16日付けで明細書を補正する手続補正がなされたものである。

2.平成20年5月16日付けの手続補正について
[補正却下の決定の結論]
平成20年5月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正後の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】 内方部材および外方部材と、
これら内外の部材間に収容した複列の転動体と、
この複列の転動体間で上記内方部材に外嵌したパルサリングと、
このパルサリングに対峙し、上記外方部材に傾斜して装着したセンサとからなる軸受装置において、
上記パルサリングの外径面が内方部材の軸中心に対して平行な面で形成され、これに対峙するセンサの検出面とパルサリングの被検出面間のギャップが軸方向に均一であり、且つ上記センサの検出面が、上記転動体を保持する保持器の外径面における両列の保持器の隣接側の端部よりも半径方向外方に設けられ、上記軸受装置が軸方向に並ぶ2つの内方部材を有し、これら2つの内方部材のいずれか一方に、両内方部材の突合わされた部分にまたがってパルサリングを嵌合し、
このパルサリングの内周側端面に切欠きを設けており、この切欠きの段面と、このパルサリングを嵌合した内方部材の突合せ端面との軸方向位置を一致させたことを特徴とする軸受装置。」
と補正された(なお、下線は、請求人が付した本件補正による補正箇所を示す)。

上記の請求項1に係る補正は、実質的に、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「内方部材」と「パルサリング」に関して、「軸受装置が軸方向に並ぶ2つの内方部材を有し、これら2つの内方部材のいずれか一方に、両内方部材の突合わされた部分にまたがってパルサリングを嵌合し、このパルサリングの内周側端面に切欠きを設けており、この切欠きの段面と、このパルサリングを嵌合した内方部材の突合せ端面との軸方向位置を一致させた」と構成を限定するものであって、該補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、補正前の請求項に記載した発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更することのない範囲内において行われたものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか (平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)刊行物に記載された事項
(刊行物1)
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平6-109027号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「軸受組立体及びその組立方法」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(ア)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明はセンサで監視される軸受のシール間を隔離されたターゲットホイールを有する軸受組立体に係る。」

(イ)「【0009】軸受組立体Aは略円筒形外面4及び外周に離間した間隔で面4から外方に突出するいくつかの取付フランジ6(図1)を有するアウタレース2を含む。円筒形面4はサスペンション装置の部品Cに等しい寸法の孔に嵌入し、フランジ6を部品Cにもたらし、アウタレース2はフランジ6を貫通するボルト8により部品C内にしっかりと保持される。アウタレース2は中空及び略管状であり、回転の軸xに向って内方に向き、レース2の端部間の略中間に位置した介在面12に向って下方に傾斜する一対のテーパ付レースウェイ10(図2)を有する。実際にアウタレース2は二列テーパ付ローラ軸受で識別されるタイプの二重カップを構成する。レースウェイ10はレースウェイ10を越えて環状拡張部16を生成する端ボア14までつながる。アウタレース2は又介在面12を通ってレース2の内部に開口する斜めボア18を有し、その軸yは回転の軸xに斜めである。ボア18はアウタレースの最も厚い部分内にあり、2つのレースウェイ10内の領域にだけでなく、レース2の略円筒形外面から突出するボス20内にも又存在する。実際、斜めボア18は圧延又は他の方法でボア18の斜め軸yに垂直に機械加工されるスポット面22を通って外方に開口する。斜めボア18は別として、ボス20は又斜めボア18から外周にずれたねじ穴23(図5)を含み、それに平行にある。
【0010】軸受組立体Aは又管状アウタレース2内で回転するインナレースを含む。実際にインナレースはコーン24の形をとる2つのレースを構成し、夫々はアウタレース2(図2)の異なるレースウェイ10で囲まれる。各コーン24は一端で背面28につながり、他端で前面30につながるボア26を含む。実際、2つのコーン24は背面28が軸受Aの端部で外方に向くようアウタレース2の内部のその前面30に衝合する。その外方に向いた面で、各コーン24はアウタレース2のレースウェイ10の逆に向いたテーパ付レースウェイ32を有し、同じ方向、即ちアウタレース2の中央領域に向って下方にテーパを有する。そのレースウェイ32の大きい端で、各コーン24はレースウェイ32を越えて半径方向に突出するスラストリブ34を有し、スラストリブ34の端にある背面28に軸方向に延在するスラストリブ34はアウタレース2の環状延長部16の1つで外接されるアウタレース2の領域内で回転する。その小さい端で、テーパ付レースウェイ32はレースウェイ32のその端を越えて半径方向にわずかに突出する端リブ36までつながり、コーン24用前面30は端リブ36に存在する。
【0011】この1つのコーン24は標準長であり、あるいは従来のものである。その端リブ36はその内端にあり、前面30を担持する。他のコーン24は反対に伸張した長さであり、それに対してその端リブ36から突出する軸方向伸張部37を有し、伸張部37は前面30を担持する。伸張部37は端リブ36より小さい直径で、その端部間に近寸法公差内に円筒である持上った座38が設けられる。その軸方向中心線は回転の軸xと一致する。2つのコーン24は前面30に沿っている衝合部と外レース2内で衝合する。コーン24の長さの差により、その衝合前面30はアウタレース2の介在面12の一端に向って軸方向にずれる。
【0012】アウタレース2とコーン24のレースウェイ10及び32は各一対で配置され、アウタレース2の各レースウェイ10内にコーン24(図2)の1つの対応するレースウェイ32がある。アウタレース2及び2つのコーン24に加えて、軸受組立体Aは2つの列に配置された相補的テーパ付ローラ40を有し、各対のレースウェイ10及び32間に別な列のローラ40がある。各列内で、ローラ40の側面はその列に対して2つのレースウェイ10及び32を支え、又、それに沿って回転し、一方ローラ40大きい端面はその列に対してレースウェイ32の端でスラトスリブ34を支える。2つの列のローラ40はその各列にローラ40を均一に分布させるゲージ42内に制限され、それによりローラ40間に適切な空間を維持する。それらは又コーン24が外レース2から引抜かれる時コーン24の回りにローラ40を保持する。短かい端リブ36を有する従来のコーン24の回りにローラ40及びゲージ42を据付けるため、ローラ40及びゲージ42はユニットとして小さい端リブ36を通りここで、ゲージ42は端リブ36を収容するよう多少大きい。次にゲージ42はコーン24用スラスト端リブ34及び36間にローラ40をトラップするよう内方に変形される。これは従来の軸受組立体手順である。小さい直径であるので、1つのコーン24の軸方向突出部37はローラ40及びゲージ42の据付を妨害しない。」

(ウ)「【0015】アウタレース2内のスピンドル46の回転を検出し、その回転の相対角速度を測定する能力は拡張したコーン24に嵌合するターゲットホイール52とアウタレース2の斜めボア18内に嵌入するセンサ54から得られる。ターゲットホイール52の周囲が、回転する為センサ54の内端を通って動く時、センサ54は周波数を有する電気信号を発生し、その周波数は角速度を表わし、実際、それは角速度に直接比例する。
【0016】望ましくはターゲットホイール52は鋼のような磁気物質から形成される。それは1つのコーン24の軸方向延長部37の円筒形座38より径がわずかに小さいが、延長部37の残りよりわずかに大きいボア56と、更にその軸(図2)に関して外方に向いた斜めにされた作動面58を有する。その角は斜めボア18用軸yと回転の軸x間の角の補角である。更に作動面58はボア56の面に同心にある。平滑であるターゲットホイール52の他の面と違って、作動面58は交番リブ60と空間62(図4)を有し、これらのリブ60及び空間62が内方に延長される場合ホイールの軸に沿って共通点で出会う点で平坦でない。要するに作動面58はベベルギヤの歯に似ている。
【0017】ターゲットホイール52は1つのコーン24の軸方向延長部37の円筒形座38に嵌合する。ボア56の直径は円筒形面38の直径よりわずかに小さいので、軸方向延長部37とホイール52の間は締まりばめとされる。締まりばめの摩擦はターゲットホイールを延長部37の正しい位置に維持する。その位置は作動面58がアウタレース2を通って延在する斜めボア18の内端の方に向けられるような位置である。」

(エ)「【0020】センサ54がアウタレース2にそのよう嵌合される時、センサ54の縮径端の内端面68はターゲットホイール52の斜めになった作動面58の反対にある。実際、それは作動面58と平行であるがそれより短距離にあり、それにより間隙g(図2)は作動面58のリブ60とセンサ54の内端面68間にある。間隙gは、センサ54がアンチロックブレーキ装置のコントローラを用いるのに弱すぎる信号を発生しないよう、非常に小さくあるべきである。」

(オ)「【0022】他のタイプのターゲットホイール及びセンサは歯付ターゲットホイール52及び前記の可変レラクタンスセンサ54の代わりに軸受組立体Aでの使用に適している。しかし、用いられるターゲットホイール及びセンサのタイプの関係なく、ターゲットホイールとセンサの間の間隙gの寸法は重要であり、比較的に小さく、きっちりした公差内に収められるべきである。」

(カ)図2から、ターゲットホイール52は2つの列のローラ40間に設けられている点、センサ54はターゲットホイール52に対峙している点、及び2つのコーン24は軸方向に並んでいる点が看取できる。

以上の記載事項及び図面(特に、図2)の記載からみて、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

[刊行物1記載の発明]
「コーン24及びアウタレース2と、これらの部材間に配置された2つの列のローラ40と、この2つの列のローラ40間で上記コーン24に嵌合したターゲットホイール52と、このターゲットホイール52に対峙し、上記アウタレース2に斜めに嵌合されたセンサ54とからなる軸受組立体において、上記ターゲットホイール52の作動面58が、これに対峙するセンサ54の内端面68と平行であり、上記軸受組立体が軸方向に並ぶ2つのコーン24を有し、これら2つのコーン24のうち1つのコーン24にターゲットホイール52を嵌合した軸受組立体。」

(刊行物2)
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平8-62236号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「回転速度検出用軸受ユニット」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(キ)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、例えば自動車の車輪を装着する車軸の回転速度(回転数)を測定するための回転速度検出用軸受ユニットに関する。」

(ク)「【0006】
【実施例】以下、この発明の具体的実施例について図面を参照して説明する。図1はこの発明の回転速度検出用軸受ユニット部分の斜視図であり、図2は軸方向の断面図である。この回転速度検出用軸受ユニットは、車軸(ドライブシャフト)1と、該車軸1に一体に嵌着され鍔部2aにブレ-キディスク3を取り付け軌道溝2bを設けたスリ-ブ2と、車体に固定されるナックル4と、前記スリ-ブ2に嵌着される内輪5と、前記ナックル4に固定された外輪6と、該外輪6と前記スリ-ブ2及び内輪5との間に配置された転動体(ボ-ル)7及び7と、前記内輪5の外周囲に嵌着固定したパルサ-リング8と、該パルサ-リング8にその先端部を対向配置し前記外輪6の角に取り付けたセンサ9と、で構成されている。・・・」

(ケ)図2から、センサ9を外輪6に傾斜して装着し、パルサーリング8の外径面を内輪5の軸中心に対して平行な面で形成している点が看取できる。

(刊行物3)
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平8-220120号公報(以下、「刊行物3」という。)には、「車輪回転速度検出装置の取付構造およびピックアップセンサ」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(コ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、アンチスキットブレーキシステム(ABS)等における車輪速センサとして使用される、センサロータとピックアップセンサとからなる車輪回転速度検出装置の取付構造、およびこれに好適に使用されるピックアップセンサに関するものである。」

(サ)「【0014】また、センサロータは外周面に凹凸を有し、当該凹凸の歯すじが回転軸に平行であるため、センサロータの外径寸法は軸方向において一定となり、所定の肉厚を保持しても当該寸法をブレーキロータの着脱が容易な大きさに止めることができ、ハブの形状変更の必要もない。また、これにより、ハブの取付位置が軸方向においてずれても、ピックアップセンサの検知部の先端とセンサロータの凹凸との隙間は変化しない。さらに、センサロータがハブに固定されるため、ブレーキロータの熱の影響も受け難い。」

(シ)「【0018】また、ハブ4のナックル部12側端部には、センサロータ7が外嵌されている。このセンサロータ7は平歯車のような形状であって、歯すじが軸に平行で周方向に連続する凹凸71を外周面に有し、ハブ4への取付状態で凹凸71の歯すじがドライブシャフトSの中心線方向と平行になっている。センサロータ7とともに車輪回転速度検出装置をなすピックアップセンサ8は、本体81の先端に径の細い円柱状の検出部82を有するものであり、ここではその検出部82の先端面が、当該検出部82の長さ方向に対して45°の傾斜に形成されている。また、本体81の長さ方向中央部分の側面は、検知部82の長さ方向に平行に形成されている。」

(ス)「【0024】さらに、ピックアップセンサ8の検知部82の先端面は斜めに形成されて、センサロータ7の凹凸71の歯すじと平行に配置されていることから、両者間の隙間が前記歯すじ方向で一定となるため、従来の平行型および垂直型と同等の回転速度検出効率が確保される。また、ブレーキロータ6の交換等のため取り外したハブ4を再び取り付ける際に、その取付位置が軸方向でずれたとしても、ピックアップセンサ8の検知部82の先端面とセンサロータ7の凹凸71との隙間は変化しないため、ハブ4の取付時に前記隙間の微調整をする必要がない。」

(3)対比・判断
本願補正発明と刊行物1記載の発明を対比すると、その機能からみて、刊行物1記載の発明の「コーン24」は本願補正発明の「内方部材」に相当し、以下同様に、「アウタレース2」は「外方部材」に、「これらの部材間に配置された」は「これら内外の部材間に収容した」に、「2つの列のローラ40」は「複列の転動体」に、「嵌合した」は「外嵌した」に、「ターゲットホイール52」は「パルサリング」に、「斜めに嵌合された」は「傾斜して装着された」に、「センサ54」は「センサ」に、「軸受組立体」は「軸受装置」に、「作動面58」は「外径面」に、「ターゲットホイール52の作動面58が、これに対峙するセンサ54の内端面68と平行であり」は「これに対峙するセンサの検出面とパルサリングの被検出面間のギャップが軸方向に均一であり」に、「1つのコーン24」は「いずれか一方」に、それぞれ相当する。

したがって、本願補正発明の用語を使用して記載すると、両者は、
「内方部材および外方部材と、これら内外の部材間に収容した複列の転動体と、この複列の転動体間で上記内方部材に外嵌したパルサリングと、このパルサリングに対峙し、上記外方部材に傾斜して装着したセンサとからなる軸受装置において、上記パルサリングの外径面が、これに対峙するセンサの検出面とパルサリングの被検出面間のギャップが軸方向に均一であり、上記軸受装置が軸方向に並ぶ2つの内方部材を有し、これら2つの内方部材のいずれか一方にパルサリングを嵌合した軸受装置」である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願補正発明は、パルサリングの外径面が「内方部材の軸中心に対して平行な面で形成され」ているのに対し、刊行物1記載の発明のターゲットホイール52の作動面58は、軸中心に対して傾斜した面で形成されている点。

[相違点2]
本願補正発明は、「センサの検出面が、転動体を保持する保持器の外径面における両列の保持器の隣接側の端部よりも半径方向外方に設けられ」ているのに対し、刊行物1記載の発明は、そのような構成を有していない点。

[相違点3]
本願補正発明は、パルサリングが「2つの内方部材のいずれか一方に、両内方部材の突合わされた部分にまたがって」嵌合され、「パルサリングの内周側端面に切欠きを設けており、この切欠きの段面と、このパルサリングを嵌合した内方部材の突合せ端面との軸方向位置を一致させ」ているのに対し、刊行物1記載の発明は、そのような構成を有していない点。

上記各相違点について以下に検討する。

(相違点1について)
軸受装置に設けられた回転速度検出器(本願補明発明の「パルサリング」と「センサ」に相当)について、刊行物2には、センサ9を外輪6に傾斜して装着し、パルサーリング8の外径面を内輪5の軸中心に対して平行な面で形成した発明(上記記載事項(ケ)参照)が、また刊行物3には、ピックアップセンサ8をナックルスピンドル1に傾斜して装着し、センサロータ7の凹凸71の歯すじを回転軸に対して平行とした発明(上記記載事項(サ)、(シ)参照)が記載されている。
そして、刊行物1記載の発明と、刊行物2及び3記載の発明は、軸受装置に設けられた回転速度検出器において、センサを非回転部材に傾斜して装着し、パルサリングを回転部材に設けた点において共通の技術分野に属していることから、刊行物1記載の発明のターゲットホイール52とセンサ54の対峙面の形状について、上記刊行物2又は3記載の発明を適用し、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(相違点2について)
2つの転動体を有する軸受装置の転動体間に設けられた回転速度検出器において、センサの検出面を、転動体を保持する保持器の外径面における両列の保持器の隣接側の端部よりも半径方向外方に設けることは、従来周知の事項である(例えば、特開平2-304213号公報の第3図、特開平11-64356号公報の図1等参照)。
そうすると、上記(相違点1について)において述べた判断の前提下において、上記周知の事項を採用し、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できることである。

(相違点3について)
2つの転動体及び内方部材を有する軸受装置の転動体間に設けられた回転速度検出器において、パルサリングを2つの内方部材のいずれか一方に、両内方部材の突合わされた部分にまたがって嵌合し、パルサリングの内周側端面に切欠きを設け、この切欠きの段面と、このパルサリングを嵌合した内方部材の突合せ端面との軸方向位置を一致させることは、従来周知の事項である(例えば、特許第2988989号公報の第1図等参照)。
そして、刊行物1記載の発明のターゲットホイール52の取付位置及び取付部の形状について、上記周知の事項を採用し、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できることである。
また、本願補正発明の奏する効果について検討しても、刊行物1ないし3に記載された発明及び上記周知の事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとは認められない。

よって、本願補正発明は、刊行物1ないし3に記載された発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

ところで、請求人は、審判請求書における平成20年5月16日付け手続補正において「2つの内方部材(1,1)のいずれか一方に、両内方部材(1,1)の突合わされた部分にまたがってパルサリング(5)を嵌合し、このパルサリング(5)における内周側端面の切欠きの段面と、このパルサリング(5)を嵌合した内方部材(1)の突合せ端面との軸方向位置を一致させたため、内方部材(1)に対してパルサリング(5)の軸方向位置を容易に位置決めすることができます。すなわち、内方部材(1)の外径面にパルサリング(5)の内径面の一部を仮嵌合させた状態で、例えば、このパルサリング(5)の切欠きの段面を、治具を用いて軸方向一方に押圧していき、この治具の押圧面が前記内方部材(1)の突合せ端面に当接した段階でパルサリング(5)の軸方向位置を確定し得ます。
この場合、内方部材(1)の外径面や、パルサリング(5)の内径面の加工精度を高めることなく、パルサリング(5)の軸方向位置を正確に且つ簡単に位置決めすることができます。それ故、製作コストの低減を図ることができます。また、センサ(6)の配置形状、傾斜角度等によっては、パルサリング(5)を他方の内方部材(1)の外径面に嵌合させ、前記と同様に切欠きの段面を、治具を用いて軸方向他方に押圧することでパルサリング(5)の軸方向位置を確定し得ます。」と主張している(【請求の理由】の【本願発明が特許されるべき理由】の2.本願発明(請求項1)の項参照)。
しかしながら、「2つの内方部材のいずれか一方に、両内方部材の突合わされた部分にまたがってパルサリングを嵌合し、このパルサリングにおける内周側端面の切欠きの段面と、このパルサリングを嵌合した内方部材の突合せ端面との軸方向位置を一致させた」点については、図面からかろうじて読み取れる程度の構成であり、当該構成による作用効果を具体的に説明する記載が明細書にない以上、パルサリングの取付位置及び取付部の形状に対して、上記のような周知の事項を採用したものと解するほかないことから、この点は上記に説示したとおり、当業者が容易に想到し得たものといわざるを得ない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正後の請求項1に係る発明は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、本件補正は特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成20年5月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年7月9日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものであると認める。
「【請求項1】 内方部材および外方部材と、
これら内外の部材間に収容した複列の転動体と、
この複列の転動体間で上記内方部材に外嵌したパルサリングと、
このパルサリングに対峙し、上記外方部材に傾斜して装着したセンサとからなる軸受装置において、
上記パルサリングの外径面が内方部材の軸中心に対して平行な面で形成され、これに対峙するセンサの検出面とパルサリングの被検出面間のギャップが軸方向に均一であり、且つ上記センサの検出面が、上記転動体を保持する保持器の外径面における両列の保持器の隣接側の端部よりも半径方向外方に設けられることを特徴とする軸受装置。」

(2)刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1ないし3及びその記載事項は、前記2.(2)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、実質的に前記2.で検討した本願補正発明から、その発明特定事項である「軸受装置が軸方向に並ぶ2つの内方部材を有し、これら2つの内方部材のいずれか一方に、両内方部材の突合わされた部分にまたがってパルサリングを嵌合し、このパルサリングの内周側端面に切欠きを設けており、この切欠きの段面と、このパルサリングを嵌合した内方部材の突合せ端面との軸方向位置を一致させた」を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに発明特定事項を限定したものに相当する本願補正発明が、前記2.(3)に記載したとおり、刊行物1ないし3に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1ないし3に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1ないし3に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2ないし12に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-15 
結審通知日 2009-04-21 
審決日 2009-05-07 
出願番号 特願2001-346(P2001-346)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬川 裕  
特許庁審判長 川上 益喜
特許庁審判官 山岸 利治
藤村 聖子
発明の名称 軸受装置  
代理人 野田 雅士  

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