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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A47L
管理番号 1199370
審判番号 不服2006-26174  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-20 
確定日 2009-06-17 
事件の表示 特願2002-567124号「吸引掃除機」拒絶査定不服審判事件〔2002年9月6日国際公開、WO02/67746、平成16年12月16日国内公表、特表2004-537336号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、2002年2月12日(パリ条約による優先権主張:2001年2月24日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成18年8月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月20日に拒絶査定不服審判が請求され、同日付けで手続補正がなされたものである。



第2 平成18年11月20日付け手続補正について

〔補正却下の決定の結論〕

平成18年11月20日付けの手続補正を却下する。

〔理 由〕

1.補正後の請求項1、9、11に記載された発明

平成18年11月20日付け手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
入ってくる空気流から塵埃を分離するためのサイクロン式分離器と、清掃用具と、該清掃用具と分離器とを接続するための吸引管とを備えた吸引掃除機であって、前記清掃用具は、清掃すべき表面に当接する空気流入主開口部と、空気を吸引路の中へ送る抽気流入口とを備え、該抽気流入口は、前記主開口部から離間するように配置されていると共に前記吸引路に直接的に開口しており、かつ、該抽気流入口は永久に開いており、これにより、該抽気流入口の断面積は、該掃除機の使用中において前記空気流入主開口部が完全に塞がれたときに、該吸引掃除機の分離器に十分な分離能力を持続させるために十分な量の空気を受け入れることができるように設定されている吸引掃除機。」
と補正された。
請求項1についての上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「抽気流入口」について、「吸引路に直接的に開口しており」との限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そして、本件補正後の請求項9、11は、補正前の請求項9、11の記載と同じ、
「【請求項9】
表面をかき回すための攪拌器が前記ハウジング内に取付けられている請求項1から8のいずれか一項に記載の吸引掃除機。
【請求項11】
前記攪拌器はブラシである請求項9または10記載の吸引掃除機。」
であるから、本件補正後の、請求項1を引用する請求項9を引用した請求項11は、
「入ってくる空気流から塵埃を分離するためのサイクロン式分離器と、清掃用具と、該清掃用具と分離器とを接続するための吸引管とを備えた吸引掃除機であって、前記清掃用具は、清掃すべき表面に当接する空気流入主開口部と、空気を吸引路の中へ送る抽気流入口とを備え、該抽気流入口は、前記主開口部から離間するように配置されていると共に前記吸引路に直接的に開口しており、かつ、該抽気流入口は永久に開いており、これにより、該抽気流入口の断面積は、該掃除機の使用中において前記空気流入主開口部が完全に塞がれたときに、該吸引掃除機の分離器に十分な分離能力を持続させるために十分な量の空気を受け入れることができるように設定されている吸引掃除機であって、
表面をかき回すための攪拌器が前記ハウジング内に取付けられており、
前記攪拌器はブラシである、吸引掃除機。」
と言い換えることができ、請求項1を引用する請求項9を引用した請求項11についての本件補正も、請求項1と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の、請求項1を引用する請求項9を引用した請求項11に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かについて以下に検討する。


2.引用例

(1)原査定における、本件補正前の請求項11に係る発明に対する拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特表2000-515418号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。

a.「少なくとも一つのブリード弁が組み込まれた分離装置は知られており、例えば、国際特許出願No.PCT/GB93/01325号公開公報に開示されている。上記公報に記載の構成では、ブリード弁は、サイクロン型の分離機の上流側に配置されており、上記分離機の内部圧(通常、空気流に直接的に相関している)が所定レベルを下回ったときに、最低限の空気流を維持するため、大気中から空気が上記空気流内に導入されるようになっている。
このような構成では、サイクロン型の分離機は充分に作動すると共に、モータを効果的に冷却された状態が確保されている。」(公報第4頁第8?15行)

b.「一般に、真空掃除機は、主たる塵埃の分離装置と別体にフィルターを、モータに対して、直ぐの上流側または下流側に位置して、通常有している。もし、このようなフィルターが目詰まりすると、サイクロン型の分離機等の塵埃の分離装置を通して流れる上記空気流は減少する。このことは、塵埃の分離装置内にブリード弁により空気を導入するための、上記塵埃の分離装置内にて発生している十分な吸引力を多くの場合阻害する。このような結果は、サイクロン型の分離機の効果や機能を劣化させることになり、さらに重要なことは、モータの過熱という危険性を増大化する。
英国特許第1080504号公報には、バグフィルター等のフィルターを通過する前後での圧力差の差に応じて動作し、上記フィルターを交換の要求を示すための警告発生装置が開示されている。上記警告は、上記フィルターを交換すべきであることを聞こえるように示すために、ブリード空気が管に通りリード(reed)を通過することにより発生されるものである。」(公報第4頁第18行?第5頁第2行)

c.「分離装置における流れに沿った圧力差(例えば、流速)の低下は、流体経路の閉塞を示しているので、ブリード弁の作動は、閉塞の発生を示すと共に、ユーザーに対しメインテナンスが必要なことを示すシグナル(警告)を与えるものにも用いられる。従来技術の構成においては、分離装置とファンまたはモータとの間に生じた閉塞は、ブリード弁を作動させることができないものであった。」(公報第7頁第7?11行)

d.「図1および図1Aは、従来の真空掃除機の概略図である。それぞれの場合では、真空掃除機10は、塵埃分離装置16に直接接続されたホース14と、ホース14に直接取り付けられたノズル12とを有している。塵埃分離装置16は、バグフィルターといった従来の塵埃分離装置であってもよいが、本願明細書では、直列に配置した2つのサイクロン16A、16Bを含むサイクロン型の分離装置を有している。・・・。
上記ブリード弁18は、空気流の経路中、かつ、各サイクロン16A、16B(図1)の上流側・・・に配置されている。塵埃分離装置16の下流側では、空気流の流れ方向に沿って、モータ前フィルター20に続いて、ファン22、モータ24およびモータ後フィルター26が配置されている。」(公報第8頁第1?13行)

e.「使用に際して、モータ24は、ホース14に(「を」の誤記と認める。)介して塵埃分離装置16にノズル12から空気流を通させるファン22を作動させるように動作する。分離が生じた後、空気流は、大気中に排出される前に、モータ前フィルター20、ファン22、モータ24およびモータ後フィルター26を通る。上記空気流は、モータ24を通るときにモータ24を冷却する効果を有する。
ブリード弁18は、塵埃分離装置16内の圧力、特に、ブリード弁18が設置された位置の塵埃分離装置16内の圧力が、所定値未満に低下したとき、上記ブリード弁18は開き、サイクロン型の塵埃分離装置に大気中から空気を導入させる。これにより、分離のための空気流を的確に維持している。また、空気流が所定値未満に圧力低下することを防止することは、モータ24が、過熱する危険性を防止できるように的確に冷却されることを確実化する。
各フィルター20、26の何れかが全く目詰まりすると、真空掃除機10内の空気流の減少を生じることになり、塵埃分離装置16内を通る空気流は減少する。しかしながら、そのような閉塞は、塵埃分離装置の下流側に位置することので(「位置するので」の誤記と認める。)、塵埃分離装置16内の空気流の流速は減少するが、装置16を通しての圧力低下は小さい。圧力低下は閉塞したフィルターを通過するときに全て生じる。このことはブリード弁18の動作を阻害する。このような状況下では、従来のブリード弁18は、モータ24の過熱防止に対して的確に動作しない。」(公報第8頁第21行?第9頁第9行)

f.「図2および図2Aは、図1および図1Aに図示した真空掃除機と同様な真空掃除機を図示するものであるが、図1および図1Aに図示したブリード弁18に代えて、本発明に係るブリード弁30が設けられたものを図示している。図2および図2Aに概略的に図示された掃除機における、ブリード弁30以外の他の全ての部分については、図1および図1Aに示したのと同様な部材番号が付与されている。
ブリード弁30は、チェンバー34内に収納されたピストン32を有している。ピストン32の第一サイドは、ライン36を介して、塵埃分離装置16全体の直ぐ上流側の空気流の位置(図2)・・・に・・・接続されている。上記ピストン32の他方のサイドは、ライン38を介して、塵埃分離装置16の直ぐ下流側の位置にて接続されている。それゆえ、塵埃分離装置16の全体(図2)・・・を通過する際に生じる、どのような圧力差(圧力降下)も、直接的にピストン32に印加されることになる。
弾性的な付勢部材40が、ピストン32に対して、所定の圧力差が印加されたとき、上記ピストン32が実際上平衡状態となるように取り付けられている。そのような圧力差が所定値未満に低下したとき、上記ピストン32は付勢部材40の作動下にて、ベント(vent)42を開くように移動する。このように開いたとき、上記ベント42は、塵埃分離装置16の上流側の位置にて、真空掃除機10の空気流の経路に外気を導入させることになる。
このような外気の導入は、図1および図1Aに示されたブリード弁18による空気流経路への外気の導入と同様な効果を有しているが、塵埃分離装置16内の絶対的な圧力値に依存するよりも、むしろ、塵埃分離装置16を通過する空気流の流れに沿った各位置での圧力差・・・に依存する点で異なる。」(公報第9頁第10行?第10頁第5行)

そして、摘記事項cにも記載されるように「分離装置における流れに沿った圧力差の低下は、流体経路の閉塞を示している」ことが明らかであるところ、摘記事項fによれば「塵埃分離装置16を通過する空気流の流れに沿った各位置での圧力差」が「所定値未満に低下したとき」に、「ベント42」が「空気流の経路に外気を導入させる」のであるから、これらの記載から、引用例1には、「流体経路が閉塞したとき」に、「ベント42」が「空気流の経路に外気を導入させる」ことが記載されていると言える。

上記記載事項及び図1、2を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

サイクロン型の塵埃分離装置16と、ノズル12と、ノズル12と塵埃分離装置16とを接続するためのホース14とを備えた真空掃除機であって、塵埃分離装置16の上流側の位置に、外気を空気流の経路に導入するベント42を備え、掃除機の使用中において、流体経路が閉塞したときに、ベント42が開き、外気が空気流の経路に導入され、分離のための空気流を的確に維持する真空掃除機。


(2)同じく引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2000-51126号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。

g.「本願発明は、電気掃除機に接続して使用される床用吸込具の改良に関するものである。」(段落【0001】)

h.「図1等に示すように、本実施形態の吸込具本体1は、上ケース2、下ケース3、前記上ケース2及び下ケース3に取り外し可能に装着される蓋体4、前記上下ケース2,3間の後方中央部に回動自在に支持され上下部材5a,5b等から構成される回動管5、この回動管5の上下部材5a,5bに上下動自在に挾持される継手管6から構成されている。」(段落【0019】)

i.「前記吸込具本体1底面には、ほぼ長手方向全幅にわたる吸込口7が形成され、吸込具本体1内には、略円筒形状の回転ブラシ収納室8が形成されて・・・いる。」(段落【0021】)

j.「前記回転ブラシ収納室8内には、回転ブラシ11が前記吸込口7に臨ませた状態で回転自在に収納されている。この回転ブラシ11は、図1に示すように、芯体12と、この芯体12に形成された螺旋状の溝13に基部14を挿入して装着される一対のブラシ体15と、同じく芯体12の螺旋状の溝13に基部18を挿入して装着される一対のブレード16とから構成されている。」(段落【0023】)

k.「前記ブラシ体15はナイロンやポリエチレン樹脂により形成され、その先端までの長さは、毛足の長い絨毯等を掃除するときに先端部が、吸引される絨毯の毛先に達する程度と、下述するブレード16よりも短めに形成されている。」(段落【0025】)

l.「一方、前記蓋体4の前方中央部には、前記回動管5に形成される掃除機本体側への吸引口50に対応して、当該吸引口50への吸気流が直線的となる範囲の長さに抑えられた吸気口20が形成されている。この吸気口20の後側には、当該吸気口20から吸引される外気を下方に向けて回転ブラシ11の回転中心より下側に位置するブラシ体15やブレード16に導くガイドを構成する案内リブ21が形成されている。この案内リブ21は蓋体4裏面側から回転ブラシ11の回転中心(芯体12)よりやや下位置まで垂下形成されている。なお、前記吸気口20は、その後側の案内リブ21がブレード16の最大回転軌跡とは接触しない程度の位置に形成されている。
また、下ケース3における吸込口7の前方下部には、曲面形状の案内部3aが形成され、前記吸気口20から案内リブ21に沿って下方に向けて吸引された外気が当該案内部3aに衝突して回転ブラシ11側に案内されるようになっている。」(段落【0028】?【0029】)

m.「一方、絨毯等の被掃除面を掃除する際には、吸込口7が被掃除面により覆われ、吸込口7からの吸気抵抗が増大し、前述した吸気口20,23から吸引される外気量が増大する。」(段落【0041】)

n.「特に、上記吸気口20は、掃除機本体側への吸引口50への吸気流が直線的となる範囲の長さに抑えられているため、吸気口20から案内リブ21及び案内部3aを介して吸引口50へ直線的な強い吸気流が生じ、この吸気流がブラシ体15やブレード16に衝突して回転ブラシ11を十分な回転力で回転駆動することができると共に、図10の破線で示すように吸引口50に対応する吸込口7部分で吸引される絨毯等の被掃除面の浮き上がりを実線で示す如く抑えて負荷抵抗を小さくすることができるため、回転ブラシ11の回転性能の向上を図ることができる。」(段落【0043】)

o.「なお、副次的効果として、上述したような吸気口20,23から外気を吸引することにより、吸込具本体1が被掃除面に過度に吸い付くのを抑制し、吸込具本体1の移動性を向上することができる。」(段落【0046】)

そして、電気掃除機には「吸込具本体1」からの吸気を掃除機本体側へ送るための「吸引路」が存在することは技術常識からみて明らかであって、摘記事項lの「掃除機本体側への吸引口50に対応して、当該吸引口50への吸気流が直線的となる範囲の長さに抑えられた吸気口20が形成されている」及び「吸気口20から吸引される外気」との記載、摘記事項m、n、o及び図10の図示内容から、引用例2に記載の「吸気口20」は、「外気を吸引して(掃除機本体への)吸引路の中へ送る」ものであると言える。

また、図1、3、10には、吸気口20には特段の閉塞部材が設けられず、吸気口20が常時、すなわち永久に、開いていることが示されている。
さらに、図1、3、10の図示内容、及び、摘記事項lにおける「掃除機本体側への吸引口50に対応して、当該吸引口50への吸気流が直線的となる範囲の長さに抑えられた吸気口20が形成されている」との記載より、「吸気口20」は「吸込口7」から「離間するように配置されている」と言える。

上記記載事項及び図1、3、10を総合すると、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

吸込具本体1と、吸込具本体1と掃除機本体とを接続するための継手管6とを備えた電気掃除機であって、吸込具本体1底面には吸込口7が形成され、吸込具本体1の蓋体4に、外気を吸引して吸引路の中へ送る吸気口20を備え、吸気口20は、吸込口7から離間するように配置され、かつ、永久に開いており、絨毯等の被掃除面を掃除する際に、吸込口7が被掃除面により覆われて吸込口7からの吸気抵抗が増大したときに、吸気口20から吸引される外気量が増大する電気掃除機であって、
毛足の長い絨毯等を掃除するときに、先端部が、吸引される絨毯の毛先に達する程度の長さのブラシ体15を有する回転ブラシ11が、吸込具本体1の回転ブラシ収納室8内に回転自在に収納されている、電気掃除機。


3.対比

本件補正発明と引用発明1とを対比する。

引用発明1における「サイクロン型の塵埃分離装置16」は、本件補正発明における「入ってくる空気流から塵埃を分離するためのサイクロン式分離器」に相当し、以下同様に、「ノズル12」は「清掃用具」に、「ホース14」は「吸引管」に、「真空掃除機」は「吸引掃除機」に、「外気」は「空気」に、「空気流の経路に導入する」は「吸引路の中へ送る」に、「ベント42」は「抽気流入口」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明1においては、「ベント42」が開き、「外気が空気流の経路に導入」されることによって「分離のための空気流を的確に維持する」のであるから、引用発明1における「ベント42(抽気流入口)の断面積」は、「塵埃分離装置16(分離器)に十分な分離能力を持続させるために十分な量の空気を受け入れることができるように設定されている」ことは明らかである。

また、引用例1の図1、2に記載のような真空掃除機のノズル12の先端部分には、通常、「清掃すべき表面に当接する空気流入主開口部」が設けられることは、掃除機の技術分野における技術常識であり、さらに引用発明1のベント42は、塵埃分離装置16の上流側の位置であってホース14の下流側に設けられるものであるから(摘記事項f及び引用例1の図2参照)、引用発明1は、「空気流入主開口部」を有するノズル12の先端部分に対して、「ベント42」が「離間するように配置」されているものであるといえる。
したがって、引用発明1における「ベント42」と本件補正発明における「抽気流入口」とは、共に、清掃用具(ノズル12)が備える「空気主開口部」から離間するように「分離器の上流側の位置」に備えられて、空気(外気)を吸引路の中へ送る(空気流の経路に導入する)ものである点で共通している。

さらに、引用発明1における「流体経路が閉塞したとき」と、本件補正発明における「空気流入主開口部が完全に塞がれたとき」とは、共に、「空気流路が塞がれたとき」である点で共通している。

すると、本件補正発明と引用発明1とは、次の一致点及び相違点を有するものである。

<一致点>
入ってくる空気流から塵埃を分離するためのサイクロン式分離器と、清掃用具と、該清掃用具と分離器とを接続するための吸引管とを備えた吸引掃除機であって、前記清掃用具は、清掃すべき表面に当接する空気流入主開口部を備え、分離器の上流側の位置には、空気を吸引路の中へ送る抽気流入口を備え、該抽気流入口は、前記主開口部から離間するように配置され、該抽気流入口の断面積は、該掃除機の使用中において、空気流路が塞がれたときに、該吸引掃除機の分離器に十分な分離能力を持続させるために十分な量の空気を受け入れることができるように設定されている吸引掃除機。

<相違点>
1) 「抽気流入口(ベント42)」が、本件補正発明では、「空気流入主開
口部が完全に塞がれたとき」に十分な量の空気を受け入れることができる
ようにされているのに対し、引用発明1では、「流体経路が閉塞したとき
」に十分な量の空気を受け入れることができるようにされている点。
2) 「主開口部から離間するように配置」されている「抽気流入口(ベント
42)」が、本件補正発明では、「清掃用具」に備えられ、「主開口部か
ら離間するように配置されていると共に吸引路に直接的に開口」すること
によって、「清掃用具」の「空気流入主開口部が完全に塞がれたとき」で
あっても十分な量の空気を受け入れることができるようにされているのに
対し、引用発明1では、「分離器(塵埃分離装置16)の上流側の位置」
に備えられている点。
3) 「抽気流入口(ベント42)」が、本件補正発明では「永久に開いて」
いるのに対し、引用発明1では、「流体経路が閉塞したときに開く」もの
である点。
4) 本件補正発明は、「表面をかき回すための攪拌器がハウジング内に取付
けられており、前記攪拌器はブラシである」のに対し、引用発明1ではそ
のような「攪拌器」を有するものか否か不明である点。


4.当審の判断

上記相違点について検討する。

<相違点 1) について>
引用例1は、サイクロン型の分離機(サイクロン式分離器)の従来技術として、国際特許出願No.PCT/GB93/01325号(国際公開第94/00046号、以下「従来例1」という。)を挙げ、分離機の内部圧が所定レベルを下回ると分離機の上流側に配置したブリード弁(抽気流入口)から空気が導入され、分離機が充分に作動すると共にモータが効果的に冷却される技術を開示している(摘記事項a参照)。

上記従来例1に対応する、日本語による公開公報である特表平8-501226号公報には、次のような記載がある。

p.「ホースや竿棒に取り付けられるクリーナーヘッドや治具の形状によっては、汚染空気吸入口が多かれ少なかれ塞がれることがあるのは避けられない。当然、これは空気流通路の沿った空気の流れを低減する。」(公報第4頁第17?20行)

q.「二重サイクロン式真空掃除機の・・・第2のサイクロンによる分離効率が低減されることが見受けられる。これは、例えば空気流通路のいずれかの位置で生じる閉塞のような多数の事柄により、あるいは空気吸入口に使用者が手や他のものを当てたりすることにより引き起こされる。さらに、第2のサイクロンの効率は、・・・クリーナーヘッドを通しての吸引において掃除すべき面に対し、部分的または完全にクリーナーヘッドそれ自体が封鎖されたりした場合にも低減される。同様の問題は、単一サイクロン式真空掃除機のサイクロンを通しての空気の流れが低減したときにも発生する。」(公報第5頁第5?15行)

r.「本発明によれば、・・・少なくとも一のブリーダーバルブが、・・・漏出した空気を上記サイクロンに導入してそこにおける空気の流れを維持するように備えられ、上記または各ブリーダーバルブは、使用時において、上記空気流通路に沿う空気の流れの圧力が所定の水準、あるいはそれ以下になったときに作動可能とされている真空掃除機が提供される。上記ブリーダーバルブは、上記サイクロンにおける空気流量を維持するように操作され、従ってそこにおける効率的なごみの分離を保持する。」(公報第6頁第5?15行)

これらの記載事項から、従来例1には、「サイクロン式分離器を備えた吸引(真空)掃除機において、清掃用具(クリーナーヘッド)の空気流入主開口部(汚染空気吸入口)が完全に塞がれたときに、吸引掃除機の分離器(サイクロン)に十分な分離能力を持続させるために十分な量の空気を受け入れることができるように、抽気流入口(ブリーダーバルブ)を設ける」ことが記載されていると言える。


そして、引用発明1における「流体経路が閉塞したとき」について、吸引掃除機の「流体経路」である以上、該「流体経路」に「空気流入主開口部」が含まれることは当業者が通常認識することと言え、さらに、上記従来例1にも示されるように、サイクロン式分離器を備えた掃除機の技術分野において、「空気流入主開口部が完全に塞がれたとき」にも、分離器に十分な分離能力を持続させるのに十分な量の空気を受け入れることができるように「抽気流入口」を設けることが、従来より周知の技術であったと言えるから、引用発明1における「流体経路が閉塞したとき」に、「空気流入主開口部が完全に塞がれたとき」が含まれていることは、当業者であれば容易に理解し得たものである。
よって、本件補正発明において、特に「空気流入主開口部が完全に塞がれたとき」に、抽気流入口が十分な量の空気を受け入れるものとした点は、上記周知技術を参酌すれば、当業者が適宜為し得た設計的事項に過ぎない。


<相違点 2), 3) について>
本件補正発明と引用発明2とを対比する。
引用発明2における「吸込具本体1」は、本件補正発明における「清掃用具」に相当し、以下同様に、「継手管6」は「吸引管」に、「電気掃除機」は「吸引掃除機」に、「吸込具本体1底面に形成された吸込口7」は「清掃すべき表面に当接する空気流入主開口部」に、「外気」は「空気」に、「吸気口20」は「抽気流入口」に、「絨毯等の被掃除面を掃除する際」は「掃除機の使用中」に、「吸込口7が被掃除面により覆われて吸込口7からの吸気抵抗が増大したとき」は「空気流入主開口部が塞がれたとき」に、「吸気口20から吸引される外気量が増大する」は「十分な量の空気を受け入れる」に、「先端部が、吸引される絨毯の毛先に達する程度の長さのブラシ体15を有する回転ブラシ11」は「表面をかき回すための攪拌器」に、「回転ブラシ収納室8」は「ハウジング」に、「回転自在に収納されて」は「取付けられて」に、「回転ブラシ11」は「ブラシ」に、それぞれ相当する。

ここで、本件補正発明における、「抽気流入口」が「吸引路に直接的に開口」しているとの発明特定事項について検討する。
審判請求書には、「請求項1についての・・・補正は、段落[0017]の「2次空気流が入口610を通って清掃用具に入る。」旨の記載に基づいて」(第4頁第8?13行)おり、「原査定で指摘している引用文献2(特開平11-28178号公報)の例えば図14においては、通風路19は吸引路に直接的に開口していないため、主吸込口5が完全に塞がれた場合には、通風路19からの空気を連通管2へと導くことはできない・・・。・・・請求項1に係る発明は、「抽気通路が吸引路に直接的に開口している」ことによって、「清掃用具への空気流入主開口部が完全に塞がれているときでも、抽気流入口は、空気掃除機に十分な分離能力を持続させるために、十分な量の空気を受け入れる。」ことを可能とする」(第5頁第21?27行)と記載されている。
そして、本件補正発明(請求項1を引用する請求項9を引用した請求項11)に対応する、攪拌器としてのブラシを備えた唯一の実施例が本願の図12に示され、この実施例について、本願の明細書の段落【0022】には、「通路がブラシ740を通って抽気流入口(710)と主の通路750との間に設けられている。この通路は、清掃用具が表面に対して完全に押付けられているときにも存在する。」と記載されている。
これらの記載及び本願の図12の図示内容からみて、本件補正発明における、「抽気流入口」が「吸引路に直接的に開口」しているとの発明特定事項は、つまり、「空気流入主開口部が完全に塞がれているとき」であっても、抽気流入口は塞がれることなく、十分な量の空気を受け入れることができることを指すものと解さざるを得ない。

そうすると、引用発明2は、「吸入口20は、吸込口7から離間するように配置されている」(第2〔理由〕2.(2)参照)ことに加え、さらに、摘記事項mに記載されているように「吸込口7が被掃除面により覆われ」たときであっても、吸気口20は塞がれることなく、「吸気口20から吸引される外気量が増大する」、すなわち「十分な量の空気を受け入れる」のであるから、引用発明2の「吸気口20」は、「吸込口7から離間するように配置されていると共に吸引路に直接的に開口」しているものと言える。
なお、上記のことは、本件補正発明に係る実施例である本願の図12と、引用発明2に係る引用例2の図1、10の図示内容を比較しても明らかである。

したがって、引用発明2を本件補正発明の用語を用いて記載すると次のようになる。なお、( )内は引用発明2の用語である。

清掃用具(吸込具本体1)と、清掃用具(吸込具本体1)と掃除機本体とを接続するための吸引管(継手管6)とを備えた吸引掃除機(電気掃除機)であって、清掃用具(吸込具本体1)は、清掃すべき表面に当接する空気流入主開口部(吸込口7)と、空気を吸引路の中へ送る抽気流入口(吸気口20)とを備え、抽気流入口(吸気口20)は、空気流入主開口部(吸込口7)から離間するように配置されていると共に吸引路に直接的に開口しており、かつ、抽気流入口(吸気口20)は永久に開いており、抽気流入口(吸気口20)は、掃除機の使用中において空気流入主開口部(吸込口2)が塞がれたときに、抽気流入口(吸気口20)から十分な量の空気を受け入れることができる吸引掃除機(電気掃除機)であって、
表面をかき回すための攪拌器(回転ブラシ11)がハウジング(回転ブラシ収納室8)内に取付けられており、
前記攪拌器はブラシ(回転ブラシ11)である、吸引掃除機(電気掃除機)。

ところで、吸引掃除機において、清掃用具に永久に開いた抽気流入口を設けることによって空気の流入量の減少を回避し、モータへの負担を軽減することは、本願の優先権主張日前に周知の技術(例えば、原査定において引用した特開2000-93361号公報の段落【0018】参照)であった。
よって、「清掃用具」に「永久に開いた」抽気流入口を備えた上記引用発明2が、空気の流入量の減少によるモータへの負担を回避できることは、該周知技術を参酌すれば、当業者であれば当然に理解できるものである。

一方、引用発明1は、摘記事項 b,e,f の記載から、「流体経路が閉塞したとき」に、確実に「抽気流入口(ベント42)」を開いて空気を流入させて、分離器に分離能力を持続させると共に、「モータが過熱する危険性を防止する」ことをも意図したものである。
したがって、サイクロン式ではないものの、清掃用具に永久に開いた抽気流入口を設けることによって、モータへの負担を回避することが可能な引用発明2に接した当業者が、これを引用発明1に適用し、「清掃用具」に「永久に開いた」抽気流入口を設けようとすることに、格別の困難性は見出せない。
そうすると、引用発明1に引用発明2に組み合わせて、相違点 2), 3) に係る構成を備えさせることは、当業者であれば容易に想到し得たものである。


<相違点 4) について>
引用発明2は、「表面をかき回すためのブラシ(回転ブラシ11)」を備えたものであり、清掃性能の向上を期待して、引用発明1に引用発明2を適用して相違点 4) に係る構成を備えさせることは、当業者であれば容易に為し得たことである。


そして、本件補正発明が奏する作用効果についてみても、引用発明1、2及び周知技術から、当業者が予測し得る程度のものであって、何ら格別のものではない。


5.結び

以上のとおり、本件補正発明は、引用発明1、2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定する要件を満たさないものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 本願発明について

1.本願発明

平成18年11月20日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1、請求項9及び請求項11に係る発明は、平成18年8月2日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1、請求項9及び請求項11に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
入ってくる空気流から塵埃を分離するためのサイクロン式分離器と、清掃用具と、該清掃用具と分離器とを接続するための吸引管とを備えた吸引掃除機であって、前記清掃用具は、清掃すべき表面に当接する空気流入主開口部と、空気を吸引路の中へ送る抽気流入口とを備え、該抽気流入口は、前記主開口部から離間するように配置され、かつ、該抽気流入口は永久に開いており、かつ、該抽気流入口の断面積は、該掃除機の使用中において前記空気流入主開口部が完全に塞がれたときに、該吸引掃除機の分離器に十分な分離能力を持続させるために十分な量の空気を受け入れることができるように設定されている吸引掃除機。
【請求項9】
表面をかき回すための攪拌器が前記ハウジング内に取付けられている請求項1から8の
いずれか一項に記載の吸引掃除機。
【請求項11】
前記攪拌器はブラシである請求項9または10記載の吸引掃除機。」

したがって、上記の請求項1を引用する請求項9を引用した請求項11を、引用形式を用いずに記載すると、次のようになる。(以下「本願発明」という。)

「入ってくる空気流から塵埃を分離するためのサイクロン式分離器と、清掃用具と、該清掃用具と分離器とを接続するための吸引管とを備えた吸引掃除機であって、前記清掃用具は、清掃すべき表面に当接する空気流入主開口部と、空気を吸引路の中へ送る抽気流入口とを備え、該抽気流入口は、前記主開口部から離間するように配置され、かつ、該抽気流入口は永久に開いており、かつ、該抽気流入口の断面積は、該掃除機の使用中において前記空気流入主開口部が完全に塞がれたときに、該吸引掃除機の分離器に十分な分離能力を持続させるために十分な量の空気を受け入れることができるように設定されている吸引掃除機であって、
表面をかき回すための攪拌器が前記ハウジング内に取付けられており、
前記攪拌器はブラシである、吸引掃除機。」


2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記「第2〔理由〕2.」に記載したとおりである。


3.対比・判断

本願発明は、前記「第2〔理由〕」で検討した本件補正発明から、「抽気流入口」の限定事項である「吸引路に直接的に開口しており」との発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2〔理由〕4.」に記載したとおり、引用発明1、2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明1、2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明1、2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-14 
結審通知日 2009-01-20 
審決日 2009-02-02 
出願番号 特願2002-567124(P2002-567124)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A47L)
P 1 8・ 121- Z (A47L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五十嵐 康弘中川 隆司井上 哲男  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 長浜 義憲
渋谷 知子
発明の名称 吸引掃除機  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  

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