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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1199713
審判番号 不服2007-7692  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-15 
確定日 2009-06-25 
事件の表示 平成 9年特許願第173670号「ガス伝熱形プラズマ処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 1月29日出願公開、特開平11- 26432〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年6月30日の出願であって、平成19年2月6日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年3月15日に拒絶査定不服審判がされるとともに、同年4月16日付で手続補正がなされたものである。

2.平成19年4月16日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年4月16日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(2-1)補正の概略
本件補正は、特許請求の範囲について、
補正前に、
「【請求項1】真空用チャンバーと、この真空用チャンバーの内部の空気を排気する真空排気手段と、凸状に湾曲した表面を有する電極と、前記電極上に載置された被処理基板を、その外周端部を押圧して前記電極の表面に押し付けるクランプリングと、前記被処理基板と前記電極との間にガスを充満させるガス供給手段とを有し、前記クランプリングの内周面がテーパー面に形成され、このテーパー面のテーパー角度θが前記電極の外周端部での接線角度αよりも大きく設定されており、かつ、前記テーパー面は、前記被処理基板の外周端の角部と線接触することのみで前記被処理基板を押圧することを特徴とするガス伝熱形プラズマ処理装置。」
とあったものを、
「【請求項1】真空用チャンバーと、この真空用チャンバーの内部の空気を排気する真空排気手段と、凸状に湾曲した表面を有する電極と、前記電極上に載置された被処理基板を、その外周端部を押圧して前記電極の表面に押し付けるクランプリングと、前記被処理基板と前記電極との間にガスを充満させて圧力を均等にかけるガス供給手段とを有し、前記電極の湾曲面は前記圧力をかけたときの被処理基板の撓み曲線に対応させ、前記クランプリングの内周面がテーパー面に形成され、このテーパー面のテーパー角度θが前記電極の外周端部での接線角度αよりも大きく設定されており、かつ、前記テーパー面は、前記被処理基板の外周端の角部と線接触することのみで前記被処理基板を押圧することを特徴とするガス伝熱形プラズマ処理装置。
【請求項2】前記充満させる圧力は、1000パスカルであることを特徴とする請求項1に記載のガス伝熱形プラズマ処理装置。
【請求項3】前記テーパー角度は3度であり、前記接線角度は0.5度であることを特徴とする請求項1または2に記載のガス伝熱形プラズマ処理装置。」
と補正しようとする事項(以下、「本件補正事項」という。)を含むものである。

(2-2)補正の適否
本件補正事項は、請求項の数を増加する補正であるから、特許請求の範囲の減縮に該当しない。

すなわち、特許法第17条の2第4項第2号の規定は、補正が認められる特許請求の範囲の減縮といえるためには、補正後の請求項が補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を限定する関係にあること、及び、補正前の請求項と補正後の請求項との間において、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることを必要とするとしたものである。そして、ここで、上記の「限定する」ものであるかどうか、「同一である」かどうかは、いずれも特許請求の範囲に記載された当該請求項について、その補正の前後を比較して判断すべきものであり、補正前の請求項と補正後の請求項とが、一対一又はこれに準ずるような対応関係にあることを当然の前提としているものと解される。
また、一般に、特許請求の範囲の補正の態様としては、その量的な面(請求項の数)と内容的な面(技術的内容)とが考えられるが、1号は、そのうち量的な面(請求項の数)に着目して「請求項の削除」の場合のみを規定したものであり、2号の特許請求の範囲の減縮は、特許請求の範囲の内容的な面に着目して、その拡張等以外の「減縮」について定めたものということができる。このような1号と2号の関係や、2号かっこ書きにおいて、その補正前の「当該請求項」に記載された発明とその補正後の「当該請求項」に記載される発明とが対応する関係に立つことが前提とされていることからすると、2号の規定は、請求項の発明特定事項を限定して、これを減縮補正することによって、当該請求項がそのままその補正後の請求項として維持されるという態様による補正を定めたものとみるのが相当であるから、当該一つの請求項を削除して新たな請求項をたてるとか、当該一つの請求項に係る発明を複数の請求項に分割して新たな請求項を追加するというような態様による補正を予定しているものではないというべきである。

本件補正事項のうち増項に係る部分は、請求項の数を、補正前の1から補正後の3に補正するというものであり、請求項の数を増加させるものである。そして、この増加は、多数項引用形式で記載された1つの請求項を引用請求項を減少させて独立形式の請求項とする場合や、構成要件が択一的なものとして記載された1つの請求項をその択一的な構成要件をそれぞれ限定して複数の請求項とする等の、増項補正が許される例外的な場合に該当するということもできない。
それ故、請求項の数を増加する本件補正事項は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮に該当しない。また、本件補正事項は同条第4項第1号(請求項の削除)、第3号(誤記の訂正)、第4号(明りょうでない記載の釈明)のいずれにも該当しない。

(2-3)むすび
したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである

(2-4)
なお、仮に、本件補正が、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とした補正に該当したとしても、補正後における特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)は、下記の理由によって、特許出願の際に独立して特許を受けることができないから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反し、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(2-4-1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-316215号公報(以下、「引用例1」という。)には、
「【請求項1】真空容器と、真空排気手段と、反応ガス供給手段と、少なくとも一対の電極と、一方の電極に被処理基板を押し付ける基板クランプ手段と、少なくとも一方の電極への高周波電力供給手段と、被処理基板裏面と電極との間に伝熱ガスを充満させる伝熱ガス供給手段とを有するプラズマ処理装置において、電極の被処理基板載置面を所定の等分布圧力を受ける被処理基板のたわみ曲面形状とし、伝熱ガス圧力をほぼその所定圧力又はそれ以下としたことを特徴とするガス伝熱プラズマ処理装置。」(特許請求の範囲)、
「【産業上の利用分野】本発明は、・・・ドライエッチング装置、スパッタ装置、CVD装置等のプラズマ処理装置に関し、・・・」(【0001】)、
「図1において、・・・6はLCDガラス基板(寸法370mm×470mm×1.1mm)や半導体シリコンウエハなどの被処理基板である。」(【0018】)、
「この階段状基板載置面22は、LCD用ガラス基板の外周4辺を自由支持し、0.3パスカルの均等圧力をかけた時のたわみ曲面を包絡面とした階段状に成形されている。」(【0021】)、
「LCDガラス基板を処理する際のクランプリング17は、一平面上の四角形の4辺に相当する4つの線分にてLCDガラス基板の外周4辺の少し内側に接する方形枠状に構成される。」(【0022】)、
「この階段状基板載置面32は、半導体シリコンウエハの外周を自由支持し、0.3パスカルの均等圧力をかけた時のたわみ曲面を包絡面とした階段状に成形されている。」(【0023】)、
との記載が認められ、また、図1からは、クランプリング17が、被処理基板6の周縁部を上側から押さえ付けていることを読み取ることができる。したがって、これらの記載によれば、引用例1には、
「真空容器と、
真空排気手段と、
所定の等分布圧力を受ける被処理基板のたわみ曲面形状とされた被処理基板載置面を有する電極と、
一方の電極に被処理基板を押し付ける基板クランプ手段と、
被処理基板裏面と電極との間に伝熱ガスを充満させて、伝熱ガス圧力をほぼその所定圧力とする伝熱ガス供給手段とを有し、
前記クランプリングは、一平面上の四角形の4辺に相当する4つの線分にて前記被処理基板の外周4辺の少し内側に接する方形枠状に構成されており、かつ、前記クランプリングは被処理基板の周縁部を上側から押さえ付けているガス伝熱プラズマ処理装置。」の発明(以下「引用例1発明」という。)が開示されていると認めることができる。

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-115993号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に、
「【発明が解決しようとする課題】
ところで、例えばバリヤメタルとしてTiN膜を形成する場合には、通常スパッタ処理により成膜を行い、その後、タングステン膜18を図7にて説明した熱処理装置を用いてCVDにより成膜することが行なわれている。この場合、スパッタリング成膜では方向性が高いために、TiNのバリヤメタル16の薄膜はウエハWの端縁部で精度良く膜付けの終端となっているが、この上面のタングステン膜18の形成は、CVDによるためにステップカバレジがよく、図8に示すようにウエハWの裏面側にもガスが廻り込んで不要成膜20が形成されてしまう。
この不要成膜20の部分は、バリヤメタル16を介さずに直接SiウエハWの表面に付着するために、剥がれ易くなり、パーティクルが発生し易くなるという問題があった。」(【0006】-【0007】)、
「また、他の成膜装置として米国特許第5304248号に示すように載置台の外周に上下移動可能にシールドリングを設けて、これでウエハ周縁部を押さえるようにした構造の装置も知られてはいるが、依然として処理ガスがウエハ裏面に漏れ、成膜していた。種々検討の結果、この場合には、ウエハ周縁部とシールドリングの内側リップとが面接触しているために、この部分の気密性はミクロ的に見るとかなり劣り、処理ガスがこの接触部分を通って下方に漏れることを十分には防止することができないことにより発生していることが判った。本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明の目的は、膜厚の面内均一性を劣化させることなく、処理ガスの被処理体の裏面側への廻り込みを確実に防止することができる熱処理装置を提供することにある。」(【0009】)、
「ここで、図2乃至図5も参照して前記クランプリング42とアタッチメント部材68の構造をより具体的に説明する。クランプリング42は、図4にも示すように略リング状に成形されており、その内側縁部は、ウエハWの周縁部より全周に亘って内側に僅かな幅(0.5mm?2.0mm)だけ重なるように全体の幅が設定されている。特に、このクランプリング42の内側端部には、中心部側に向けて上向き傾斜されたテーパ面106が形成されており、このテーパ面106をウエハ周縁部の上端角部と気密的に接触させるようにしている。従って、テーパ面106とウエハWの周縁部上端角部とは面接触ではなく線接触で接触することになることから、両者の接触性或いは気密性が高くなり、ウエハ上方の処理ガスがこの接触部を介して下方に侵入してくることを防止するようになっている。この場合、両者の気密性を良好にしつつ且つクランプリング42のウエハに対する押さえ付け機能を発揮させるためには、テーパ面106の水平方向に対する傾斜角θを略10度程度に設定するのが好ましいが、この角度θは10度に限定されるものではない。上記接触圧は、0.1kg/cm^(2) ?0.2kg/cm^(2) の範囲のクランプ圧が望ましい。」(【0022】)、と記載されていることが認められる。
また、引用例2の図2、図5からは、クランプリングの内周面がテーパー面に形成され、このテーパー面のテーパー角度が載置台の外周端部での接線角度よりも大きく設定されていることを読み取ることができる。

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-181122号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面と共に、
「【請求項1】 冷却された下部電極上に被エッチングウェハを載せ、前記下部電極と被エッチングウェハとの隙間にHeガスを流しながらプラズマエッチングを行うに際し、前記被エッチングウェハを側面からクランプし前記被エッチングウェハに機械的加重を加えるようにしたことを特徴とするプラズマエッチング方法。」(特許請求の範囲)、
「【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来例では、図6に示すように、被エッチングウェハ(2)をその上面からクランプしていたので、クランプ(4)が被エッチングウェハ(2)に当接する部分からは良品の集積回路チップを全く得ることができず、またクランプ(4)の近傍の被エッチングウェハ(2)部分ではエッチングレートの低下やチャージアップが起きやすいという問題があった。さらに、クランプ(4)がレジストを傷つけるため、ダストの発生源となる問題もあった。」(【0006】)、
「本実施例の特徴とする点は、上記のプラズマエッチングに際して、被エッチングウェハ(12)を側面からクランプ(14)し、被エッチングウェハ(12)に機械的加重を加えることにより、熱接触性を高めていることである。図2は、図1の波線部分を拡大した断面図であり、クランプ(14A)は、被エッチングウェハ(12)を側面の斜め上方からクランプしており、下部電極(11)を介して被エッチングウェハ(12)に3Kg/cm^(2)程度の加重を加えている。」(【0011】)と記載されていることが認められる。
また、引用例3の図2からは、クランプの内周面がテーパー面に形成され、このテーパー面のテーパー角度が下部電極の外周端部での接線角度よりも大きく設定されていることを読み取ることができる。

(2-4-2)対比
そこで、本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、引用例1発明の「真空容器」は、本願補正発明の「真空用チャンバー」に相当し、以下同様に、「真空排気手段」は「この真空用チャンバーの内部の空気を排気する真空排気手段」に、「一方の電極に被処理基板を押し付ける基板クランプ手段」は「前記電極上に載置された被処理基板を押圧して前記電極の表面に押し付けるクランプリング」に、「被処理基板裏面と電極との間に伝熱ガスを充満させる伝熱ガス供給手段」は「前記被処理基板と前記電極との間にガスを充満させるガス供給手段」に、それぞれ相当する。
また、引用例1発明の「所定の等分布圧力を受ける被処理基板のたわみ曲面形状」は、引用例1発明の「被処理基板裏面と電極との間に伝熱ガスを充満させて、伝熱ガス圧力をほぼその所定圧力とする伝熱ガス供給手段」を具備したという条件の下においては、本願補正発明の「前記電極の湾曲面は前記圧力をかけたときの被処理基板の撓み曲線に対応させ」たという構成要件に相当し、且つ、前記曲面形状は「凸状に湾曲した表面」であるといえる。さらに、引用例1発明の「等分布圧力を受ける被処理基板」の「等分布圧力」は、「均等にかけられた圧力」に他ならないから、引用例1発明の「伝熱ガスをほぼ所定圧力(等分布圧力)とする伝熱ガス供給手段」は、本願補正発明の「圧力を均等にかけるガス供給手段」に相当するといえる。
そうすると、両者は、
「真空用チャンバーと、この真空用チャンバーの内部の空気を排気する真空排気手段と、凸状に湾曲した表面を有する電極と、前記電極上に載置された被処理基板を押圧して前記電極の表面に押し付けるクランプリングと、前記被処理基板と前記電極との間にガスを充満させて圧力を均等にかけるガス供給手段とを有し、前記電極の湾曲面は前記圧力をかけたときの被処理基板の撓み曲線に対応させることを特徴とするガス伝熱形プラズマ処理装置。」の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]本願補正発明が、クランプリングの内周面がテーパー面に形成され、このテーパー面のテーパー角度θが前記電極の外周端部での接線角度αよりも大きく設定されており、かつ、前記テーパー面は、前記被処理基板の外周端の角部と線接触することのみで前記被処理基板の外周端部を押圧するのに対し、引用例1発明では、クランプリングが、基板の外周4辺の少し内側に接する方形枠状に構成されており、かつ、前記クランプリングは被処理基板の周縁部を上側から押さえ付けている点で相違する。

(2-4-3)判断
[相違点1]について
引用例2には、引用例1発明の包含する適用分野の一つであるCVD装置において、従来の技術として、載置台の外周に上下移動可能にシールドリングを設けて、これでウエハ周縁部を押さえるようにした構造の装置が知られてはいたが、ウエハ周縁部とシールドリングの内側リップとが面接触しているために、ウエハWの裏面側にもガスが廻り込んで不要成膜20が形成されてしまい、パーティクルが発生し易くなるという問題を十分に解決することができなかったことが記載されている。そして、同引用例には、クランプリングの内側端部に、中心部側に向けて上向き傾斜された(かつ、載置台の外周端部での接線角度よりも大きく設定された)テーパ面を形成し、このテーパ面をウエハ周縁部の上端角部と線接触で接触させてウエハを押さえ付けることで、前記問題を解決したことが開示されている。

また引用例3には、引用例1発明と同じガス伝熱プラズマ処理装置において、従来は、被エッチングウェハをその上面からクランプしていたので、クランプが被エッチングウェハに当接する部分からは良品の集積回路チップを全く得ることができず、またクランプの近傍の被エッチングウェハ部分ではエッチングレートの低下やチャージアップが起きやすいという問題があり、さらに、クランプがレジストを傷つけるため、ダストの発生源となる問題もあったことが記載されている。そして、同引用例には、被エッチングウェハを側面の斜め上方からクランプして被エッチングウェハに下部電極を介して加重を加えること、すなわち、下部電極の外周端部での接線角度よりも大きいテーパー角度を設定したテーパ面を内周面に形成したクランプを用いて被エッチングウェハをクランプすることで前記問題を解決したことが開示されている。

そして、引用例1発明と、引用例2に記載された発明は、載置台に載置した被処理基板に成膜処理を行うCVD装置に関連した発明である点で、また、引用例1発明と、引用例3に記載された発明は、電極上に載置した被処理基板をガス伝熱プラズマエッチングする装置に関連した発明である点で、それぞれ技術分野を共通とし、かつ、引用例2、引用例3において、従来の技術の問題として指摘されていること、すなわち、被処理基板の周縁部を上側から押さえ付ける構造のクランプリングを使用した場合に、ウエハの裏面側にもガスが廻り込んで不要成膜が形成されてしまい、パーティクルが発生し易くなること、クランプが被エッチングウェハに当接する部分からは良品の集積回路チップを全く得ることができないこと、さらに、クランプがレジストを傷つけるため、ダストの発生源となること等は、いずれも引用例1発明においても十分想定され得ることであるから、引用例1発明においても、その対策について考慮すべき課題であると認められる。

一方、引用例1発明において電極の被処理基板載置面が、所定の等分布圧力を受ける被処理基板のたわみ曲面形状とされており、前記接線角度αが0度でないのに対して、引用例2、引用例3に記載された発明においては、被処理基板が載置する台が曲面形状を具備するとはされておらず、この点で両者は一応相違する。そこで、引用例1発明に、引用例2、引用例3に記載された発明を組み合わせることの阻害事由の有無について検討する。引用例1発明において、前記たわみ曲面は、寸法370mm×470mm×1.1mmのLCDガラス基板や半導体シリコンウエハなどの被処理基板に0.3パスカルの均等圧力をかけた時のたわみ曲面とされている。引用例1には、接線角度αの具体的な値は明示されていないが、ガラス基板の1.1mmという厚さや、0.3パスカルという圧力の小ささから鑑みて、引用例1発明における接線角度αの値は極めて小さいものと考えられる。このことは、本願明細書において、直径が150mmの被処理基板の全体に1000パスカルの圧力を均等にかけたときの撓み曲線を想定した場合の前記接線角度αが、約0.5度となると想定(【0016】)されていることからも明らかである。してみれば、引用例1発明における接線角度αの値は、極めて小さいものと考えられるから、引用例2において例示されているクランプリングの内周面の10度というテーパー角度、及び、引用例3の図2に示される大きな角度からみて、引用例1発明の前記接線角度αの値の存在は、引用例1発明に引用例2,引用例3に記載された発明を組み合わせることを阻害するほどのものであるとはいえない。また、他の阻害事由も見当たらない。したがって、両者を組み合わせることの阻害事由は認められない。

してみれば、引用例2、引用例3に接した当業者であれば、引用例1発明において想定される上記の課題を解決するために、引用例1発明の、外周4辺の少し内側に接するクランプリングに代えて、引用例2、引用例3において示される形状を具備したクランプリング、すなわち、内周面がテーパー面に形成され、このテーパー面のテーパー角度θが前記電極の外周端部での接線角度αよりも大きく設定されたクランプリングを使用し、前記テーパー面で、前記被処理基板の外周端の角部と線接触させることのみで前記被処理基板の外周端部を押圧するようにすることは、容易になし得たことである。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用例1?3に記載された発明から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用例1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.本願発明について
平成19年4月16日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年8月25日付の手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「真空用チャンバーと、この真空用チャンバーの内部の空気を排気する真空排気手段と、
凸状に湾曲した表面を有する電極と、前記電極上に載置された被処理基板を、その外周端部を押圧して前記電極の表面に押し付けるクランプリングと、前記被処理基板と前記電極との間にガスを充満させるガス供給手段とを有し、前記クランプリングの内周面がテーパー面に形成され、このテーパー面のテーパー角度θが前記電極の外周端部での接線角度αよりも大きく設定されており、かつ、前記テーパー面は、前記被処理基板の外周端の角部と線接触することのみで前記被処理基板を押圧することを特徴とするガス伝熱形プラズマ処理装置。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記「(2-4-1)」に記載したとおりである。
(2)対比・判断
本願発明は、(2-4)で検討した本願補正発明から「ガス供給手段」の限定事項である「圧力を均等にかける」との構成を省き、「電極」の限定事項である「前記電極の湾曲面は前記圧力をかけたときの被処理基板の撓み曲線に対応させ」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記(2-4-3)に記載したとおり、引用例1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-20 
結審通知日 2009-04-21 
審決日 2009-05-11 
出願番号 特願平9-173670
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷部 智寿  
特許庁審判長 徳永 英男
特許庁審判官 粟野 正明
加藤 浩一
発明の名称 ガス伝熱形プラズマ処理装置  
代理人 石原 勝  

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