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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1199715
審判番号 不服2007-8420  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-22 
確定日 2009-06-25 
事件の表示 特願2004-509520「ヒートローラ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月11日国際公開、WO03/102699〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年6月3日を国際出願日とする出願であって、平成18年11月24日付けで通知した拒絶理由に対し、平成19年1月29日付けで手続補正書が提出されたが、同年2月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされると共に、同年4月20日付けで手続補正書が提出され、その後、当審の審尋に対する回答書が平成21年2月9日付けで提出されたものである。

2.平成19年4月20日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成19年4月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
平成19年4月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前の平成19年1月29日付け手続補正書により補正された、

「【請求項1】 抵抗部材が絶縁部材に埋設されている円筒状の面状発熱体と、該面状発熱体の内面に密着する内管と、該面状発熱体の外面に密着する外管とを備え、該抵抗部材は、該面状発熱体の発熱密度がヒートローラの軸線方向について変化するように形成され、該抵抗部材の厚み方向における中心位置は該絶縁部材の厚み方向における中心位置よりも外管側にあることを特徴とするヒートローラ。」

から、

「【請求項1】 抵抗部材が絶縁部材に埋設されている円筒状の面状発熱体と、該面状発熱体の内面に圧力によって密着させられた内管と、該面状発熱体の外面に圧力によって密着させられた外管とを備え、該抵抗部材は、該面状発熱体の発熱密度がヒートローラの軸線方向について変化するように形成され、該抵抗部材の厚み方向における中心位置は該絶縁部材の厚み方向における中心位置よりも外管側にあることを特徴とするヒートローラ。」

に補正された。

上記補正は、請求項1に記載された発明を特定するための事項である「内管」に対し、「圧力によって密着させられた」という限定を付加し、また、同じく請求項1に記載された発明を特定するための事項である「外管」に対し、「圧力によって密着させられた」という限定を付加したものであるから、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(2)引用刊行物

(2-1)刊行物1
原査定の拒絶の理由において引用された特開2001-134124号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、下記のとおり記載されている。

(A-1)「円筒状の芯金と、該芯金内面に積層した絶縁層と、該絶縁層の内面に積層した発熱体と、を備えた発熱型定着ローラにおいて、前記発熱体の内面に、他の絶縁層を介して前記芯金よりも熱膨張率の大きい金属箔肉パイプを挿入したことを特徴とする発熱型定着ローラ。」(【請求項1】)

(A-2)「図1(a) 及び(b) は本発明に係る発熱型定着ローラの構成を示す縦断面図、及びA-A断面図等を示す図である。
定着ローラの芯金1は、剛性があり、熱膨張率が小さく、安価な鉄等の材料が好ましく、錆を防止するためにパーカ処理を施しておく必要がある。またこの芯金1の胴部外面にはテフロン系(PFAやPTFE)の離型層2が形成されている。芯金1の内面には第1の絶縁層3が積層形成されており、材質は絶縁性と耐熱性を考慮したマイカや耐熱性のポリイミドの単層や両方を張り合わせた物、もしくはガラス繊維を裏打ちした物などを用いる。この絶縁層3と芯金内面は接着してもしなくてもいずれであってもよい。さらに絶縁層3の内側面には発熱体4が耐熱性の接着剤により接着されている。発熱体4はSUS等の金属箔(厚さ50μm程度)を、エッチングやレーザ加工などの方法によって所望の抵抗値が得られるように任意のパターンにカッティングしたものである(図5(a) 参照)。発熱体4の接着に使用する接着剤としてはシリコーン系やイミド系の耐熱性のある接着剤が望ましい。発熱体4の内側面には更に第2の絶縁層5が形成されている。その材質は第1の絶縁層3に用いたものと同じ材質でかまわない。この絶縁層5は、前記と同じ耐熱性のある接着剤で発熱体4の内面に接着する。(段落【0006】)

したがって、これら(A-1)及び(A-2)の記載を含む明細書及び図面の記載からみて、引用刊行物1には、次のような発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「発熱体が、異なる絶縁層の間に配置されている円筒状の面状発熱体と、該面状発熱体の内部に設けられた金属箔肉パイプと、該面状発熱体の外部に設けられた芯金とを備えた発熱型定着ローラ」

(2-2)刊行物2

同じく、原査定の拒絶の理由において引用された特開平8-194401号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、下記の事項が記載されている。

(B-1)「前記抵抗発熱体は、1もしくは複数のパターンからなる抵抗部材で構成されており、そのパターンは、前記ローラ本体の外周面の温度分布が均一になるように、前記ローラ本体の軸方向においてパターン密度の異なる領域を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の定着用加熱ローラ。(【請求項5】)

(B-2)「前記抵抗発熱体は、1もしくは複数のパターンからなる抵抗部材で構成されており、そのパターンは、前記ローラ本体の両端部近傍においてパターン密度の高い領域を有することを特徴とする請求項5に記載の定着用加熱ローラ。(【請求項6】)

(3)対比・判断

引用刊行物1には、発熱体として、SUS等の金属箔(厚さ50μm程度)を、エッチングやレーザ加工などの方法によって所望の抵抗値が得られるように任意のパターンにカッティングしたものであるとの記載が見られることから、本願補正発明(前者)と、引用発明(後者)を比較すると、後者の「発熱体」、「絶縁層」、「バックアップパイプ」、「芯金」、「発熱型定着ローラ」は、前者の「抵抗部材」、「絶縁部材」、「内管」、「外管」、「ヒートローラ」に、それぞれ相当する。

してみると、両者は、
「抵抗部材が絶縁部材間に配置されている円筒状の面状発熱体と、該面状発熱体の内部に設けられた内管と、該面状発熱体の外部に設けられた外管とを備えたヒートローラ」
の点で一致し、

(イ)抵抗部材が、前者においては絶縁部材に埋設されているのに対し、後者においては、絶縁部材間に配置されている点。
(ロ)前者においては、内管が面状発熱体の内面に圧力によって密着させられ、外管が面状発熱体の外面に圧力によって密着させられているのに対し、後者においては、かかる事項が記載されていない点。
(ハ)抵抗部材が、前者においては、面状発熱体の発熱密度がヒートローラの軸線方向について変化するように形成されているのに対し、後者においては、かかる構成を有していない点。
(ニ)前者においては、抵抗部材の厚み方向における中心位置が、絶縁部材の厚み方向における中心位置よりも外管側にあるのに対し、後者においてはかかる構成を有していない点。

において相違する。

そこで、上記相違点(イ)?(ニ)について検討する。

相違点(イ)について
本願補正発明の「埋設」について検討するに、本願の明細書には、「図2は図1のヒートローラ12を示す断面図である。ヒートローラ12をは、円筒状の面状発熱体26と、面状発熱体26の内面に密着する内管28と、面状発熱体26の外面に密着する外管30とからなる。」との記載がある。これらの記載を参酌すると、本願補正発明における「埋設」は、異なる絶縁部材の双方に密着するという程度の意味で用いられていることは明らかであり、後者における面状発熱体と絶縁部材との位置関係との間に差異はない。

相違点(ロ)について
ヒートローラの製造にあたり、管と発熱体を均一に密着させ、外部への熱の伝達をよくし、温度ムラをなくすようにするために、内部からの圧力によって密着させるようにすることは、本件出願日前に周知慣用されている技術にすぎない(必要であれば特開2001-222179号公報、特開2000-65042号公報等参照)。
すなわち、相違点(ロ)は、単なる周知技術にすぎないから、かかる周知技術を引用刊行物1に記載のヒートローラの製造に用いることは、当業者が容易になし得る程度のことにすぎず、かかる事項を備えた本願補正発明の作用効果は、引用発明及び周知技術から予測し得る範囲のものにすぎない。

相違点(ハ)について
引用刊行物2に記載の「定着用加熱ローラ」は、本願補正発明における「ヒートローラ」に相当する。
そして、ローラ本体の両端部近傍において、抵抗部材のパターン密度の高い領域を有することによって、発熱体の発熱密度がヒートローラの軸線方向について変化するようになることは明らかである。
してみると、相違点(ハ)にかかる事項は、引用刊行物2に記載されており、また、引用刊行物1及び2に記載の発明は、いずれも電子写真装置で使用される定着装置で使用されるのに適したヒートローラに関するものであり、ヒートローラ全体の温度分布を均一化させるようにすることは、定着装置における一般的な課題であるから、引用発明に、引用刊行物2に記載の事項を備えるようにすることは、当業者が容易になし得ることであり、かかる事項を備えた本願補正発明の作用効果は、引用発明及び引用刊行物2に記載の事項から予測し得る程度のものにすぎない。

相違点(ニ)について
定着装置に用いられる定着ローラにおいて、発熱体をローラの外周に近い位置に設けることによって、ローラ外周への熱の伝達をよくして、ウォームアップタイムを短縮するようにすることは、本願出願前に周知慣用されている技術にすぎない(必要であれば、特開2002-158083号公報、特許第2674955号公報等参照)。
してみると、引用発明において、ローラの外周への熱の伝達をよくするために、発熱体である抵抗部材の設置位置を、いくぶん外周に近い位置として、抵抗部材の厚み方向における中心位置が、絶縁部材の厚み方向における中心位置よりも外管側にあるようにすることは、当業者が容易になし得る程度のものにすぎず、かかる事項を備えた本願補正発明の作用効果は、引用発明及び周知技術から予測し得る範囲のものにすぎない。

なお、請求人は平成19年6月4日付けで提出した、審判請求書の手続補正書において、「面状発熱体を挟んで外管と内管の二重管からなるヒートローラを、圧力によって圧着させることにより製造する場合には、製造時に二重管の絶縁部材の内管側に負荷がかかるという特有の課題を有する。本願発明では、この特有の課題を解決、改善するために、絶縁部材の中に抵抗部材を設置する位置を、絶縁部材の厚み方向に関して規制することにより、このような負荷を軽減する、という格別顕著な作用効果を奏するものである。」
と主張しているが、内面からの圧力によって、ローラを形成することについては、上記相違点(ロ)の検討において述べたものであり、また、絶縁部材の中に抵抗部材を設置する位置を、絶縁部材の厚み方向に関して規制することと、ヒートローラを圧力によって圧着させることによって製造する場合に、製造時に二重管の絶縁部材の内管側に負荷がかかるという課題の解決とは、直接関連するものとは認められず、また、かかる課題は、本願の出願当初の明細書又は図面から読み取れるものでもないため、かかる出願人の主張は採用できない。

さらに、相違点(イ)?(ニ)に係る本願補正発明の作用効果についても、格別のものを認めることができない。

したがって、本願補正発明は、引用刊行物1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)補正の却下の決定についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成19年4月20日付けの手続補正は上述のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年1月29日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 抵抗部材が絶縁部材に埋設されている円筒状の面状発熱体と、該面状発熱体の内面に密着する内管と、該面状発熱体の外面に密着する外管とを備え、該抵抗部材は、該面状発熱体の発熱密度がヒートローラの軸線方向について変化するように形成され、該抵抗部材の厚み方向における中心位置は該絶縁部材の厚み方向における中心位置よりも外管側にあることを特徴とするヒートローラ。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記2.(2)に記載したとおりのものである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から、本願発明を特定するための事項である「内管」に対して付加されていた、「圧力によって密着させられた」を削除し、また、同じく本願発明を特定するための事項である「外管」に対して付加されていた、「圧力によって密着させられた」を削除したものである。
してみると、本願発明を特定するための事項を全て含み、さらにその本願発明を特定するための事項を減縮したものに相当する本願補正発明が、前記2.(3)に記載したとおり、引用刊行物1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用刊行物1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1,2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-15 
結審通知日 2009-04-21 
審決日 2009-05-11 
出願番号 特願2004-509520(P2004-509520)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
P 1 8・ 575- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 祐介  
特許庁審判長 山下 喜代治
特許庁審判官 一宮 誠
木村 史郎
発明の名称 ヒートローラ  
代理人 西山 雅也  
代理人 樋口 外治  
代理人 石田 敬  
代理人 鶴田 準一  

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