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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16F
管理番号 1199807
審判番号 不服2008-15605  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-19 
確定日 2009-06-25 
事件の表示 特願2002-295633「粘弾性ダンパーの構造」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月30日出願公開、特開2004-132414〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年10月9日の出願であって、平成20年5月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年6月19日に審判請求がなされるとともに、平成20年7月18日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成20年7月18日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年7月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】 金属板の間に高減衰材料を介在させて一体的に加硫接着し、前記高減衰材料の自由表面部に、高減衰材料の変形に追従し、かつ復元性を有する弾性材料を配設し、前記弾性材料から交互に外方向に突出させた前記金属板の基端部を構造物の上下梁間に介在させて成る粘弾性ダンパーの構造において、
前記高減衰材料が、等価減衰定数(Heq) が0.2 より大きい粘弾性体または粘性体であり、前記復元性を有する弾性材料が、等価減衰定数(Heq)が0.2以下の粘弾性体であり、前記高減衰材料と前記弾性材料との体積比率を、高減衰材料で、0.6以上、1.0未満に設定したことを特徴とする粘弾性ダンパーの構造。
【請求項2】 前記弾性材料は、クロロプレンゴムで構成する請求項1に記載の粘弾性ダンパーの構造。」に補正された。
上記補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「成形し」を「加硫接着し」に減縮し、同じく、「配設して成る」を「配設し、前記弾性材料から交互に外方向に突出させた前記金属板の基端部を構造物の上下梁間に介在させて成る」に減縮するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。なお、本件補正前の請求項3は請求項1または2を引用しているが、そのうち請求項1を引用する請求項3が本件補正後の請求の範囲には記載されていないので、上記補正は単に本件補正前の請求項1を削除したものではない。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用例
(2-1)引用例A
特開2002-61706号公報(以下、「引用例A」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。なお、引用例Aは平成20年12月28日付け拒絶理由における「引用文献2」である。
(あ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、制振装置、特に建築物に生じる地震や風、交通振動など、様々な振動を制御するために使用されるダンパーや制振壁として利用することができる制振装置に関する。
【0002】
【従来の技術】車両や建築物の床、機械等の振動を防止する目的や、音響設備の防音等に対して、従来、種々の種類の制振装置が開発され使用されている。特に、建築物においては風に対する揺れの低減や耐震補強を目的として、高減衰ゴム組成物を使用した粘弾性ダンパーや制振壁が制振装置として最近使用され始めている。
【0003】このような粘弾性ダンパーや制振壁は、建物の各階の柱と梁の間に設置され使用されるが、高減衰ゴム組成物の減衰性能が低いと、数多くの粘弾性ダンパーや制振壁を設置するか、または非常に大きな粘弾性ダンパーや制振壁を設置する必要があり、設置スペースの確保が困難な場合が生じてくるため、できるだけ使用する高減衰ゴム組成物の減衰性能は大きいことが望まれている。」
(い)「【0008】即ち、本発明の制振装置は、基材と、粘弾性体を介して前記基材と平行に配置される拘束部材とからなる制振装置において、前記粘弾性体が、シリコーン生ゴム、シリカ微粉末及び有機過酸化物を含む高減衰ゴム組成物を硬化させたシリコーンゴム系材料よりなることを特徴とする。
【0009】本発明の好適な態様において、シリカ微粉末は、BET比表面積50m^(2)/g以上のシリカである。また本発明の別な好適な態様において、高減衰ゴム組成物は、シリコーン生ゴム100重量部に対し、シリカ微粉末5?100重量部及び有機過酸化物0.01?5重量部を含む。
【0010】更に本発明の制振装置は、基材と、粘弾性体を介して前記基材と平行に配置される拘束部材とからなる制振装置において、前記粘弾性体が、温度0?40℃、振動数0.1Hz?5.0Hz、歪み100%?200%の範囲において、等価減衰定数が0.25?0.4の範囲内にあるシリコーンゴム系材料であることを特徴とする。」
(う)「【0025】
【発明の実施の形態】次に、上述の粘弾性体を用いた本発明の制振装置の実施形態を説明する。図1は、本発明の制振装置を建物用の粘弾性ダンパーに適用した一実施形態を示す断面図である。この粘弾性ダンパー1は、二枚の外部鋼板2と、この間に一定の間隙をもって挿入された一枚の中間鋼板3と、外部鋼板2と中間鋼板3の先端部に挟着された高減衰性シリコーンゴム層4からなる。二枚の外部鋼板2は基端部でライナー5を介して締結されている。高減衰性シリコーンゴム層4は、上述した粘弾性体であり、予めシリコーンゴムを所定の成形型に注ぎ、硬化させて板状体としたものである。
【0026】この粘弾性ダンパー1は、外部鋼板2の基端部と中間鋼板3の基端部を各々梁または柱に固定することにより、梁・柱間に設置される。本発明の粘弾性ダンパー1を設置した建築物が、風、地震等により振動すると、外部鋼板2と中間鋼板3が相対変形し、これにより高減衰性シリコーンゴム層4が剪断変形し、履歴を伴う抵抗力を発揮することにより、制振効果が得られる。この際、気候の変動等により温度が変化する場合でも、通常の温度変化の範囲では、高減衰性シリコーンゴム層の減衰特性の温度依存性が低いので、安定した制振効果を得ることができる。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例Aには、次の発明(以下、「引用例A発明」という。)が記載されているものと認められる。
「二枚の外部鋼板2と、この間に一定の間隙をもって挿入された一枚の中間鋼板3と、外部鋼板2と中間鋼板3の先端部に挟着された高減衰性シリコーンゴム層4からなり、二枚の外部鋼板2は基端部でライナー5を介して締結されていて、外部鋼板2の基端部と中間鋼板3の基端部を各々梁または柱に固定することにより梁・柱間に設置される粘弾性ダンパー1において、
粘弾性体である高減衰性シリコーンゴム層4が、温度0?40℃、振動数0.1Hz?5.0Hz、歪み100%?200%の範囲において、等価減衰定数が0.25?0.4の範囲内にあるシリコーンゴム系材料からなる粘弾性ダンパー1。」
(2-2)引用例B
特開平10-252823号公報(以下、「引用例B」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。なお、引用例Bは上記拒絶理由における「引用文献3」である。
(か)「【請求項1】それぞれ複数の硬質層と軟質層を交互に積層した免震構造体において、軟質層を中央部と周囲部に分け、それぞれにゴム材料を用い、その中央部に用いるゴム材料は周囲部に用いるゴム材料より高い減衰性を、その周囲部に用いるゴム材料は高い減衰性を有するが、中央部のゴム材料よりは低い減衰性と中央部のゴム材料より小さい圧縮永久歪み性を有することを特徴とする免震構造体。」
(き)「【0021】
【実施例】以下に実施例及び比較例を挙げて説明する。尚、単に部とあるは重量部を示す。
実施例1?4
下記表1に記載の中央部と周囲部の面積比になる直径135mm×1mmの軟質層(ゴム)30層と直径133mm×1mmの硬質層(鋼板)29層を交互に積層したのち加硫して目的とする免震構造体を得た。この際ゴム加硫と、ゴム-鋼板加硫接着が同時に進行した。
中央部ゴム材料
ポリイソプレンゴム 100部、シリカ 90部、シランカップリング剤 4部、硫黄 1部、加硫促進剤(CBS)2部、加硫遅延剤(CTP)0.3部、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、粘着付与剤、老化防止剤を通常のゴム配合において使用される量からなる組成物をバンバリーミキサーにより混練しゴム組成物を得た。このゴム材料の減衰性は21.5%、圧縮永久歪み性は75%であった。
【0022】周囲部ゴム材料
ポリイソプレンゴム 100部、シリカ 80部、シランカップリング剤 4部、硫黄 1部、加硫促進剤(CBS)2部、加硫遅延剤(CTP)0.3部、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、粘着付与剤、老化防止剤を通常のゴム配合において使用される量からなる組成物をバンバリーミキサーにより混練しゴム組成物を得た。このゴム材料の減衰性は16.0%、圧縮永久歪み性は58%であった。
中央部のゴムの周囲部のゴムに対する減衰性(heq)の比率=1.34
周囲部のゴムの中央部のゴムに対する圧縮永久歪みの比率=0.77
【0023】比較例1
軟質層を全て周囲部のゴム材料で作成したものを用いた以外は実施例と同様にして免震構造体を得た。
比較例2
軟質層を全て中央部のゴム材料で作成したものを用いた以外は実施例と同様にして免震構造体を得た。
比較例3
軟質層を全て比較例1のゴム材料より高い減衰性(17.6%)と、大きい圧縮永久歪み性(73%)を有する同一のゴム材料で作成したものを用いた以外は実施例と同様にして免震構造体を得た。
【0024】
【表1】…
【0025】表1においてクリープ率比は比較例1のクリープ率を100として指数で表した。実施例及び比較例におけるクリープ率比と減衰性のグラフを図1に示す。一般にクリープ率比と減衰性は正の関係があり、減衰性を上げていくとクリープも悪くなるが、図1から明らかなように本発明の場合は、その悪くなる程度が比較例の従来のものに比べて小さい。
【0026】表1よりクリープ性も良い高減衰ゴムのみを軟質層とした比較例1、それより減衰性の高い高減衰ゴムのみを軟質層とした比較例2に対し、軟質層を中央部と周囲部に分け、その中央部に用いるゴム材料には周囲部に用いるゴム材料より高い減衰性を、その周囲部に用いるゴム材料には高い減衰性を有するが、中央部のゴム材料よりは低い減衰性と中央部に用いるゴム材料より小さい圧縮永久歪み性を有する高減衰ゴムを配置した実施例1?4は、高減衰性でありかつ、クリープ性にも優れる免震構造体であることが判る。また軟質層が同一ゴム材料である比較例3は、実施例2と同等の減衰性であるのに対し、クリープ性が実施例2より劣っていることを示す。
【0027】
【発明の効果】本発明によれば、クリープ量が少なく優れたクリープ性を維持しながら、より高い減衰性を有する免震構造体が得られる。」
(3)対比
本願補正発明1と引用例A発明とを比較すると、後者の「二枚の外部鋼板2と、この間に一定の間隙をもって挿入された一枚の中間鋼板3と、外部鋼板2と中間鋼板3の先端部に挟着された高減衰性シリコーンゴム層4」からなる「粘弾性ダンパー1」は前者の「金属板の間に高減衰材料を介在させ」た「粘弾性ダンパー」に相当する。したがって、本願補正発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「金属板の間に高減衰材料を介在させた粘弾性ダンパーの構造。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願補正発明1は「金属板の間に高減衰材料を介在させて一体的に加硫接着」しているのに対し、引用例A発明は「二枚の外部鋼板2と、この間に一定の間隙をもって挿入された一枚の中間鋼板3と、外部鋼板2と中間鋼板3の先端部」に「高減衰性シリコーンゴム層4」が「挟着」されている点。
[相違点2]
本願補正発明1は「前記高減衰材料の自由表面部に、高減衰材料の変形に追従し、かつ復元性を有する弾性材料を配設」し、「前記高減衰材料が、等価減衰定数(Heq) が0.2 より大きい粘弾性体または粘性体であり、前記復元性を有する弾性材料が、等価減衰定数(Heq)が0.2以下の粘弾性体であり、前記高減衰材料と前記弾性材料との体積比率を、高減衰材料で、0.6以上、1.0未満に設定」したのに対し、引用例A発明はそのような「復元性を有する弾性材料」を配設しておらず、「粘弾性体である高減衰性シリコーンゴム層4が、温度0?40℃、振動数0.1Hz?5.0Hz、歪み100%?200%の範囲において、等価減衰定数が0.25?0.4の範囲内にあるシリコーンゴム系材料からなる」にすぎない点。
[相違点3]
本願補正発明1は「前記弾性材料から交互に外方向に突出させた前記金属板の基端部を構造物の上下梁間に介在させて成る」のに対し、引用例A発明は「外部鋼板2の基端部と中間鋼板3の基端部を各々梁または柱に固定することにより梁・柱間に設置」されている点。
(4)判断
[相違点1]について
引用例A発明の「高減衰性シリコーンゴム層4」を外部鋼板2と中間鋼板3の先端部」にどのようにして設けるかは適宜設計する事項にすぎず、「一体的に加硫接着」することは当業者が容易に想到し得たものと認められる。
[相違点2]について
上記に摘記したように引用例Bには「複数の硬質層と軟質層を交互に積層した免震構造体において、軟質層を中央部と周囲部に分け、それぞれにゴム材料を用い、その中央部に用いるゴム材料は周囲部に用いるゴム材料より高い減衰性を、その周囲部に用いるゴム材料は高い減衰性を有するが、中央部のゴム材料よりは低い減衰性と中央部のゴム材料より小さい圧縮永久歪み性を有する」「免震構造体」が記載されている。引用例Bの「免震構造体」はクリープ量が少なく優れたクリープ性を維持しながら、より高い減衰性を有する免震構造体を提供することにあり、高い減衰性を有するという点で「ダンパー」ということができるから、引用例A発明の「粘弾性ダンパー1」における「高減衰性シリコーンゴム層4」に引用例Bの上記事項を適用して、「高減衰性シリコーンゴム層4」の周囲に「高減衰性シリコーンゴム層4」より低い減衰性と小さい圧縮永久歪み性を有するゴム材料を配置することは当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。その場合の等価減衰定数(Heq)や「高減衰性シリコーンゴム層4」とその周囲の「ゴム材料」との体積比率は減衰特性や耐久性等ダンパーとして必要な所要の性質を勘案して適宜設計する事項にすぎない。
ここで、引用例A発明の「粘弾性体である高減衰性シリコーンゴム層4」は「等価減衰定数が0.25?0.4の範囲内」にあるという物性値を有しており、また、引用例Bの段落【0023】と表1の記載を照合すると、「中央部に用いるゴム材料」の「減衰性[heq(%)]」は「21.5」であり、「周囲部に用いるゴム材料」の「減衰性[heq(%)]」は「16.0」であることがわかる。これらの記載ないし示唆に接すれば、そして、「0.2」という上下限値に格別顕著な技術的意義があるとは認められないことを勘案すると、「高減衰性シリコーンゴム層4」の等価減衰定数(Heq)を0.2より大きくし、その周囲の「ゴム材料」の等価減衰定数(Heq)を0.2以下の粘弾性体とすることは、上記の適宜の設計として当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。また、引用例Bの表1には中央部と周囲部の面積比について種々の例が示されており、「0.6以上、1.0未満」という数値範囲の上下限値に格別顕著な技術的意義があるとは認められないことを勘案すると、「高減衰性シリコーンゴム層4」とその周囲の「ゴム材料」との体積比率を「0.6以上、1.0未満に設定」することは、同様に、上記の適宜の設計として当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。
このようにしたものは実質的にみて、「前記高減衰材料の自由表面部に、高減衰材料の変形に追従し、かつ復元性を有する弾性材料を配設」し、「前記高減衰材料が、等価減衰定数(Heq) が0.2 より大きい粘弾性体または粘性体であり、前記復元性を有する弾性材料が、等価減衰定数(Heq)が0.2以下の粘弾性体であり、前記高減衰材料と前記弾性材料との体積比率を、高減衰材料で、0.6以上、1.0未満に設定」したという事項を具備しているということができる。
[相違点3]について
以上のように「高減衰性シリコーンゴム層4」の周囲に「高減衰性シリコーンゴム層4」より低い減衰性と小さい圧縮永久歪み性を有するゴム材料を配置するようにした「粘弾性ダンパー1」を建築物に生じるさまざまな振動を制振するダンパーや制振壁としてどのように使用するかは適宜の設計的事項であり、「外部鋼板2の基端部と中間鋼板3の基端部」を「構造物の上下梁間に介在させて成る」ようにすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
そして、制振作用に関する本願補正発明1の作用効果は、引用例A、Bに記載された発明に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。

なお、請求人は審判請求の理由において「以上のように、引用文献1?3の発明は、本願発明のように0.5Hz以上の高速な繰返し振動に対して、金属板と高減衰材料との接着部近傍に発生する異常な変形を抑止することが出来ると共に、破断性能を改善する本願発明の目的とは本質的に相違しており、更に、本願発明では0.5Hz以上での速い繰返し振動が与えられた場合にも各層における復元機能があるため速い速度での追従性が良好となるのに対して、引用文献3には、地震によって発生する建造物への振動の入力加速度を減少させる目的であって、本願発明のような目的や作用効果は期待することは困難であります。また、特に引用文献3には、本願発明のような等価減衰定数の範囲や、復元性を有する弾性材料が、等価減衰定数(Heq)が0.2以下(引用文献3では、0.16)の粘弾性体である点、更には高減衰材料と高減衰材料の減衰性能よりも低い弾性材料との体積比率についても具体的な記載はありません。」、「即ち、上記の引用文献1,2及び3には、本願発明の個々の構成が開示されているだけで、これらを有効に組み合わせて構成する点や、また弾性材料との関係等を示唆する記載もなく、本願発明とは構成が全く相違するものであります。また、仮に本願発明の構成の一部をそれぞれが備えているとしても、本願発明の全ての構成を具備するものではないため、本願発明の目的や作用効果は期待することは出来ません。」と主張している。
確かに、各引用例には「0.5Hz以上の高速な繰返し振動」に対する課題やそのときの効果は記載されていないが、本願補正発明1の「粘弾性ダンパーの構造」はそのような特定の振動が作用する構造・配置に特に限定されているわけではない。しかも「0.5Hz以上の高速な繰返し振動に対して、金属板と高減衰材料との接着部近傍に発生する異常な変形を抑止することが出来ると共に、破断性能を改善する」、「0.5Hz以上での速い繰返し振動が与えられた場合にも各層における復元機能があるため速い速度での追従性が良好となる」における「改善する」、「良好となる」という目的・効果は相当に漠然としている。本願補正発明1の特定事項を具備する「粘弾性ダンパーの構造」が当業者にとって容易に想到し得たものであることは上述のとおりであり、そのような「粘弾性ダンパーの構造」が「0.5Hz以上の高速な繰返し振動」に対して本願補正発明1と同等の作用効果を奏し得ることは明らかであるとともに、粘弾性材料に振動数依存性があることは特開2000-120780号公報(特に段落【0004】。これは上記拒絶理由の「引用文献1」である。)に示されているように当業者に明らかであって、等価減衰定数を小さくすれば追従性が向上することは当業者にある程度予測し得たことということもできる。さらに敷衍すると、一般に、ある装置が種々の状況や使用環境に応じて相応の様々な作用・効果を奏することがあり得ることは明らかであって、しかも、請求人が主張する目的・効果が相当に漠然としていることは上述のとおりであり、また、それと本願補正発明1の数値範囲との関連が格別明確なものとはいえないことを勘案すると、ある特定の状況や使用環境における作用・効果が各引用例に記載されていないことの一事をもってそのような特定の状況や使用環境に特に限定されていない装置自体が当業者にとっての容易想到性を超えたものであるということはできない。

したがって、本願補正発明1は、引用例A、Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
本願補正発明1について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成20年7月18日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明3」という。)は、平成20年3月14日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
金属板の間に高減衰材料を介在させて一体的に成形し、前記高減衰材料の自由表面部に、高減衰材料の変形に追従し、かつ復元性を有する弾性材料を配設して成る粘弾性ダンパーの構造において、
前記高減衰材料が、等価減衰定数(Heq)が0.2より大きい粘弾性体または粘性体であり、前記復元性を有する弾性材料が、等価減衰定数(Heq)が0.2以下の粘弾性体である粘弾性ダンパーの構造。
【請求項2】
前記高減衰材料と前記弾性材料との体積比率は、高減衰材料で、0.6以上、1.0未満である請求項1に記載の粘弾性ダンパーの構造。
【請求項3】
前記弾性材料は、クロロプレンゴムで構成する請求項1または2に記載の粘弾性ダンパーの構造。」

3-1.本願発明1について
(1)本願発明1
上記のとおりである。
(2)引用例
引用例A、B、及びその記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1と引用例1発明とを比較すると、本願発明1は実質的に、上記2.で検討した本願補正発明1の「加硫接着し」を「成形し」に拡張し、同じく、「配設し、前記弾性材料から交互に外方向に突出させた前記金属板の基端部を構造物の上下梁間に介在させて成る」を「配設して成る」に拡張するものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明1が、上記2.に記載したとおり、引用例A、Bに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、引用例A、Bに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
以上のとおり、本願発明1は引用例A、Bに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に基づいて特許を受けることができない。
そして、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、本願発明2、3について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-16 
結審通知日 2009-04-21 
審決日 2009-05-11 
出願番号 特願2002-295633(P2002-295633)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16F)
P 1 8・ 575- Z (F16F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 島田 信一長屋 陽二郎  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 村本 佳史
藤村 聖子
発明の名称 粘弾性ダンパーの構造  
代理人 小川 信一  
代理人 野口 賢照  
代理人 斎下 和彦  

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