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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1199837
審判番号 不服2007-7328  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-12 
確定日 2009-06-24 
事件の表示 特願2005-252695「発光重合体」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月 2日出願公開、特開2006- 57100〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年12月28日(優先権主張、平成6年12月28日、英国(GB))を国際出願日とする出願である特願平8-520312号の一部を平成17年8月31日に新たな特許出願としたものであって、平成18年4月21日付けで拒絶理由が通知され、同年10月24日に意見書が提出されたが、同年12月5日付けで拒絶査定がなされ、平成19年3月12日に拒絶査定不服の審判請求がなされ、審判請求の日から30日以内である同年4月11日に手続補正書が提出され、同年5月30日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年11月14日付けで前置報告がなされ、当審において平成20年5月12日付けで審尋がなされ、同年11月13日に回答書が提出されたものである。

2.本願発明
平成19年4月11日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、本願請求項1?3に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
光デバイスでの電荷輸送が可能な発光重合体において、
溶媒で処理可能であるか、又は処理可能な前駆重合体から形成され、且つ、重合体主鎖内に電荷輸送セグメントを含む膜成形重合体を有し、
前記電荷輸送セグメントは、Ar_(1)-Het-Ar_(2)部分を含み、
前記Ar_(1)とAr_(2)は互いに同じである芳香族単位であり、
前記Hetは、複素芳香族環を有するベンゾ縮合芳香族誘導体であることを特徴とする発光重合体。」

3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由とされた平成18年4月21日付けの拒絶理由通知書に記載した理由1及び2の概要は、次のとおりである。
「1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

<理由1,2>
・請求項 1-3,5
・備考
上記請求項に係る発明は、重合体、すなわち、高分子化合物に関する発明である。
一般に高分子化合物を特定する際には、その繰り返し単位及び共重合体であれば組成比等で特定する必要がある。
しかし、上記請求項に係る発明は、重合体の一部(本願では、電荷輸送セグメント部分)のみ特定し、他の部分については、何ら具体的に特定されておらず、結果として、重合体が不明瞭となっている。
よって、請求項1-3,5に係る発明は明確でないし、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-3,5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」

4.当審の判断
(1)特許法第36条第6項第2号違反について
本願発明1は、「重合体」という高分子化合物に関する発明である。
高分子化合物の発明においては、その発明が明確であるというためには、その発明の「重合体」が高分子化合物として特定されて記載されていなければならない。
そこで、請求項1に記載された、発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)によって、本願発明1の「重合体」が、特定されているかどうかについて検討する。

ア.発明特定事項
本願発明1の「重合体」は、次の1?3の事項を発明特定事項として備えるものである。

・発明特定事項1:「光デバイスでの電荷輸送が可能な発光重合体」との事項
・発明特定事項2:「溶媒で処理可能であるか、又は処理可能な前駆重合体から形成され」との事項
・発明特定事項3:「重合体主鎖内に電荷輸送セグメントを含む膜成形重合体を有し、
前記電荷輸送セグメントは、Ar_(1)-Het-Ar_(2)部分を含み、
前記Ar_(1)とAr_(2)は互いに同じである芳香族単位であり、
前記Hetは、複素芳香族環を有するベンゾ縮合芳香族誘導体である」との事項

イ.発明特定事項1について
「光デバイスでの電荷輸送が可能な発光重合体」における、「発光」との事項は、単に重合体が発光性という性質を有することを示すにすぎず、また、「光デバイスでの電子輸送が可能」との事項は、光デバイスにおいて電子輸送層として使用できるという用途を示唆するものに過ぎず、重合体の化学構造を特定するものではない。
また、「光デバイスでの電荷輸送が可能な発光重合体」について、発明の詳細な説明においては、何ら定義はなされていない。
したがって、発明特定事項1によって本願発明1の「重合体」が一義的に定まるものではない。

ウ.発明特定事項2について
まず、「溶媒で処理可能であるか、又は処理可能な前駆重合体から形成され」との事項において、その溶媒及び処理が特定されておらず、どのような処理を意味しているのかは全く不明である。
さらに、「前駆重合体」とは、やはり重合体という高分子化合物に関する事項であるが、これについても、その構造が全く示されておらず、そこに包含されるものを特定することができないものであり、かかる前駆重合体から形成されるものとは何か、全く不明といわざるを得ない。
また、上記発明特定事項2の溶媒、処理、前駆重合体は、発明詳細な説明において、その定義がなされているものでもない。
したがって、発明特定事項2は、その技術的意味が不明であり、これによって、本願発明1の「重合体」が一義的に定まるものではないことは明らかである。

エ.発明特定事項3について
「重合体主鎖内に電荷輸送セグメントを含む膜成形重合体」との事項は、膜成形重合体なるものが、その重合体主鎖の一部に電荷輸送セグメントを含むという、一部の構造あるいは機能を特定するのみであって、その一部の構造が主鎖内のどの位置に、どの程度存在するのかは不明であるし、重合体主鎖内に電荷輸送セグメント以外にどのような構造を含むのか、あるいは、側鎖を有するのか否か、側鎖を有するとすれば、どのような側鎖を、どのような位置に、どの程度有するのか等は全く不明であり、重合体の全体的な化学構造を特定することができないものである。
また、「膜成形重合体」との事項は、その意味がやや不明りょうではあるが、仮に膜を形成するとの性質あるいは用途を示すとしても、それによってその重合体の構造が一義的に定まるものではない。
これに関し、発明の詳細な説明の段落【0042】には、主鎖重合体構造の代表例が記載されており、電荷輸送セグメント以外に、エレクトロルミネッセントセグメント及びフレキシブル・スペーサを有するものが記載され、そのフレキシブル・スペーサについての構造が例示されており、また、同段落【0035】には、エレクトロルミネッセントセグメントの代表例が記載されている。
しかしながら、これらの記載は、単なる部分構造の例示にすぎず、主鎖重合体構造の定義とみることはできないものであり、これによって、重合体の電荷輸送セグメント以外の主鎖部分が特定されるものではない。
さらに、電荷輸送セグメントに関する、「Ar_(1)-Het-Ar_(2)部分を含み、前記Ar_(1)とAr_(2)は互いに同じである芳香族単位であり、前記Hetは、複素芳香族環を有するベンゾ縮合芳香族誘導体である」との事項は、
「Ar_(1)-Het-Ar_(2)部分」以外に、どのような構造を含むのかは不明である。
また、「Ar_(1)-Het-Ar_(2)部分」についても、Ar_(1)、Ar_(2) の定義である「芳香族単位」及びHetの定義である「複素芳香族環を有するベンゾ縮合芳香族誘導体」は、その環骨格、置換基の有無、置換基があるとすればその種類、数等について、それぞれが種々の選択肢を包含するものであ
り、それらの選択肢の組合わせも多岐にわたるものであるから、当該定義に包含されるものは、膨大な数にのぼり、その範囲が不明確である。
これについて、発明の詳細な説明の段落【0032】?【0034】には、その代表例が記載されているものの、単なる例示にすぎず、これをもって、「芳香族単位」及び「複素芳香族環を有するベンゾ縮合芳香族誘導体」の定義とみることはできないものである。
したがって、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、発明特定事項3によって、本願発明1の「重合体」が一義的に定まるものではない。

オ.まとめ
上記のとおり、発明特定事項1乃至3は、それぞれ、本願発明1の「重合体」を一義的に定めることはできないものである。
また、これらの発明特定事項を併せて検討しても、やはり、本願発明1の「重合体」を一義的に定めることはできず、本願発明1の「重合体」の全体的な化学構造を特定することはできない。
さらに、高分子化合物においては、通常、その繰り返し単位、分子量、配列状態、置換基、組成比等の要件によって、その物を特定することが可能であるから、発明特定事項1乃至3以外には、本願発明1の「重合体」を適切に特定することができないものとも認められない。
したがって、本願発明1は、その発明の範囲が不明確である。
よって、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

なお、審判請求人は、回答書において、重合体は架橋されており、非架橋結合の重合体と同様の組成比の明確さを要求することは妥当ではない旨主張している。
しかしながら、本願発明1は、「架橋」を発明特定事項として備えるものではないから、上記審判請求人の主張は、その前提において誤りがある。
また、仮に「架橋」されているものであるとしても、その架橋前の構造等いよって、その重合体を特定することは可能である。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。

(2)特許法第36条第4項違反について
本願発明1は、「重合体」という物の発明であるところ、物の発明について実施することができるとは、その物を作ることができ、かつ使用できることである。
そうであるから、発明の詳細な説明には、その物を作ることができ、かつ使用できるように記載されていなければできないところ、その物を作ることができるというためには、その対象である物が特定されなければならないことは当然である。
しかるに、本願発明1の「重合体」は、上記(1)で述べたように、発明特定事項1乃至3によっては特定されないものである。
したがって、本願発明1は、当業者が実施することができないものを含むことは明らかである。
なお、念のため、本願発明1の重合体が、発明の詳細な説明に具体的に記載されているものから、実施できるかどうかについて、発明の詳細な説明の記載を検討する。
発明の詳細な説明において、重合体主鎖内に電荷輸送セグメントを有する重合体の例として、実施例18?24にオキサジアゾール重合体が記載され、実施例25?27に当該オキサジアゾール重合体を用いた2重構造デバイスの例が記載されているが、オキサジアゾール重合体は、「複素芳香族環を有するベンゾ縮合芳香族誘導体」を有するものとはいえないものであるから、本願発明1の発明特定事項3で特定する「Het」に該当するものではない。
したがって、実施例18?27は、本願発明1の実施例ということはできないものである。
また、発明の詳細な説明の段落【0125】?【0127】には、チオフェン共重合体の例が記載されているが、チオフェン共重合体は、「複素芳香族環を有するベンゾ縮合芳香族誘導体」を有するものではないし、「Ar_(1)とAr_(2)は互いに同じである芳香族単位」を有するものでもないので、本願発明1で特定する、電荷輸送セグメントを有する重合体とはいえないものである。
そうすると、発明の詳細な説明には、本願発明1の実施例は、全く記載されていない。
したがって、発明の詳細な説明の具体的な記載を検討しても、本願発明1の「重合体」を作ることができるか否かは不明である。
よって、発明の詳細な説明には、当業者が本願発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
以上のとおりであるから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

5.むすび
以上のとおり、原査定の拒絶理由とされた、上記理由1及び2はいずれも妥当なものであるから、本願は、原査定の拒絶理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-20 
結審通知日 2009-01-27 
審決日 2009-02-09 
出願番号 特願2005-252695(P2005-252695)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C08F)
P 1 8・ 536- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 秀次  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 山本 昌広
渡辺 仁
発明の名称 発光重合体  
代理人 宮寺 利幸  
代理人 鹿島 直樹  
代理人 田久保 泰夫  
代理人 千葉 剛宏  

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