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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B01J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J
管理番号 1199905
審判番号 不服2006-28515  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-12-21 
確定日 2009-07-02 
事件の表示 特願2002-326900「排ガス浄化用フィルター」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月 5日出願公開、特開2003-220342〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成平成7年10月2日に出願した特願平7-255216号公報の一部を平成14年11月11日に新たな出願としたものであって、平成17年3月29日付けで拒絶理由が通知され、同年6月6日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成18年11月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月21日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成19年1月19日に手続補正書が提出されたものである。

2.平成19年1月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定

2-(1)補正却下の結論
平成19年1月19日付けの手続補正を却下する。

2-(2)理由
2-(2)-(i)本件補正の内容
本件補正により、請求項1は、平成17年6月6日付け手続補正書により補正された
「排気流方向に形成された多数のセルを有し、排ガス入口端においてセルが1個おきに栓詰めされておりかつこの入口端で栓詰めされているセルは排ガス出口端では開放されており、入口端が開放されているセルは出口端では栓詰めされているウォールフロー型排ガス浄化用フィルターにおいて、前記セルの間の隔壁内部に形成された気孔内の表面全体を触媒担持用のコート層で覆い、このコート層上に触媒と、NO_(2)の形で吸収したNOx成分を所定温度以上において放出するNOx吸収材とを担持させたことを特徴とするウォールフロー型排ガス浄化用フィルター。」
から、
「排気流方向に形成された多数のセルを有し、排ガス入口端においてセルが1個おきに栓詰めされておりかつこの入口端で栓詰めされているセルは排ガス出口端では開放されており、入口端が開放されているセルは出口端では栓詰めされているウォールフロー型排ガス浄化用フィルターにおいて、前記セルの間の隔壁内部に平均径25?40μmの気孔が形成され、この気孔内の表面全体を触媒担持用のコート層で覆い、このコート層上に触媒と、NO_(2)の形で吸収したNOx成分を所定温度以上において放出するNOx吸収材とを担持させたことを特徴とするウォールフロー型排ガス浄化用フィルター。」
と補正された。

2-(2)-(ii)本件補正に対する判断
本件補正は、補正前の請求項1に記載された「ウォールフロー型排ガス浄化用フィルター」において、「平均径25?40μmの気孔」を追加する補正事項を含むものである。
しかし、前記補正事項が、特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」に該当するとするためには、特許請求の範囲を減縮するだけでなく、発明を特定するために必要な事項を限定するものでなければならない[必要ならば、知財高裁 平成19年(行ケ)10055号 審決取消請求事件 平成20年2月27日判決参照]ところ、補正前の請求項1には、気孔の「平均径」に係る事項の記載がないから、前記補正事項が、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定する補正であるとすることができない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする特許請求の範囲の補正であるとすることができない。また、本件補正は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明にも該当せず、同法第17条の2第4項第1号、第3号、および第4号のいずれにも該当しない。

2-(2)-(iii)
以上のことから、本件補正は 平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

知財高裁 平成19年(行ケ)10055号 審決取消請求事件 平成20年2月27日判決
『特許法17条の2第4項2号は,「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」と定めているから,同号の事項を目的とする補正とは、特許請求の範囲を減縮するだけでなく、発明を特定するために必要な事項を限定するものでなければならないと解される。また、「発明を特定するために必要な事項」とは、特許法「第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項」とあることから、特許請求の範囲中の事項であって特許を受けようとする発明を特定している事項であると解される。』

なお、予備的に、請求項1に、「平均径25?40μmの気孔」を追加する補正事項が、特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」に該当するとしても、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「補正後発明1」という。)は、6.に後記するとおり、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなく、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成19年1月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成17年6月6日付け手続補正書により補正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「排気流方向に形成された多数のセルを有し、排ガス入口端においてセルが1個おきに栓詰めされておりかつこの入口端で栓詰めされているセルは排ガス出口端では開放されており、入口端が開放されているセルは出口端では栓詰めされているウォールフロー型排ガス浄化用フィルターにおいて、前記セルの間の隔壁内部に形成された気孔内の表面全体を触媒担持用のコート層で覆い、このコート層上に触媒と、NO_(2)の形で吸収したNOx成分を所定温度以上において放出するNOx吸収材とを担持させたことを特徴とするウォールフロー型排ガス浄化用フィルター。」

4.引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平2-102707号公報(原査定における引用例2、以下、「刊行物1」という。)には以下の記載がある。

(1-1)「細孔が分散されたセル側壁を有するハニカム型フィルタにおいて、前記セル側壁の主として前記細孔内面に耐熱性セラミックスの層が略均一に形成されていることを特徴とする排ガス浄化用フィルタ。」(特許請求の範囲の請求項1)
(1-2)「近年、ディーゼルエンジンから排出される排ガス中のパティキュレート(主として固体状炭素微粒子と高分子量炭化水素等とからなる。)及び窒素酸化物(NOx)が環境衛生上問題化している。排ガスを浄化する方法として、排気系にパティキュレート捕集用フィルタを設け、捕集されたパティキュレートを電気ヒータ、ガスバーナ又はフィルタに担持させた触媒を用いるなどして燃焼させるシステムが提案されている。」(第1頁左下欄14行?右上欄3行)
(1-3)「パティキュレート捕集用ハニカムフィルタは、特開昭58-185919号公報に開示されているように、多数の貫通孔の両端のうちの一方が交互にプラグで閉塞された構造を有し、互いに隣合う貫通孔の側壁(セル側壁)には、ガスが通過できる数十μm?数百μm(平均数十μm)の細孔が分散している。」(第1頁右下欄7?12行)
(1-4)「以上のようにして製造されたフィルタは、側壁内の細孔内面に薄いアルミナの層が高分散に被着していて、ガスは流通を阻害されることなく細孔を通ることができる。従って、前述のセル側壁表面にアルミナ等をコーティングしたフィルタに較べて圧力損失が小さくなる。このフィルタに触媒を担持させると、側壁内の細孔内面にアルミナが高分散で被着しているので触媒の担持面積も大きくなり、パティキュレートと触媒との接触の機会が大きくなり、フィルタの再生や排ガスの浄化が効果的になされる。」(第2頁左下欄16行?右下欄6行)
(1-5)「使用したハニカム型フィルタは、第3図及び第3図のIV-IV線矢視断面図である第4図に示す構造のものであって、コージェライト(2MgO・A1_(2)O_(3)・5SiO_(2))からなり、気孔率50%、径30mm、高さ50mm、側壁2の厚さ2mm、貫通孔5A、5Bの内法寸法2mm×2mmである。」(第2頁右下欄14?19行)
(1-6)「以上の処理を施したフィルタは、第1図に拡大部分図示するように、フィルタ1にはセル側壁2の細孔3の内面にアルミナの薄層4Aが形成されている。」(第3頁右上欄第8?11行)
(1-7)「第2図は第1図の排ガス浄化用フィルタの断面図、第3図は基体として使用したハニカム型フィルタの平面図、第4図は第3図のIV-IV線矢視断面図」(第4頁左上欄7?11行)。
(1-8)第1図(第4頁)では、フィルタ1において、セル側壁2の細孔3の内面全体がアルミナの薄層4Aで覆われていることが見て取れる。
(1-9)第2図(第4頁)では、フィルタ1において、流入したガスがセル側壁2を通過した後流出することが見て取れる。
(1-10)第3図および第4図(第4頁)から、多数のセルの両端のうちの一方が交互にプラグ6A、6Bで閉塞されたハニカム型フィルタ11が見て取れる。

刊行物1には、記載事項(1-1)より、「細孔が分散されたセル側壁を有するハニカム型フィルタにおいて、前記セル側壁の主として前記細孔内面に耐熱性セラミックスの層が略均一に形成されていることを特徴とする排ガス浄化用フィルタ。」が記載されている。そして、当該「排ガス浄化用フィルタ」は、記載事項(1-5)、(1-7)、(1-10)より、「多数のセルの両端のうちの一方が交互にプラグで閉塞されたハニカム型フィルタ」を使用して製造されていることより、「多数のセルの両端のうちの一方が交互にプラグで閉塞された」ものであるといえる。
また、「耐熱性セラミックスの層」として、記載事項(1-4)には、「アルミナの層」が記載されており、当該「アルミナの層」は、記載事項(1-6)、(1-8)より、セル側壁の細孔内面全体を覆っているといえる。
さらに、記載事項(1-4)の、「以上のようにして製造されたフィルタは、側壁内の細孔内面に薄いアルミナの層が高分散に被着していて・・このフィルタに触媒を担持させると」との記載から、「フィルタ」の「アルミナの層」に触媒を担持することが記載されているといえる。
また、そうして得られた排ガス浄化用フィルタは、記載事項(1-9)より、流入したガスが側壁を通過した後流出するのであるから、ウォールフロー型であるといる。
そこで、記載事項(1-1)、(1-4)?(1-10)を本願発明1の記載ぶりに則して記載し直すと、刊行物1には、
「多数のセルの両端のうちの一方が交互にプラグで閉塞されたウォールフロー型排ガス浄化用フィルタにおいて、セル側壁の細孔内面全体がアルミナの層で覆われ、このアルミナの層に触媒を担持させたウォールフロー型排ガス浄化用フィルタ。」
の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。

5.対比
本願発明1と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の「多数のセルの両端のうちの一方が交互にプラグで閉塞されたウォールフロー型の排ガス浄化用フィルタ」について、記載事項(1-9)より、「多数のセル」は排気流方向に形成されているといえること、「多数のセルの両端」とは、セルの「入口端」と「出口端」であるといえること、「両端のうちの一方が」「プラグで閉塞された」とは、「セル」の「入口端」が閉塞されれば「出口端」は閉塞されずに開放され、「出口端」が閉塞されれば「入口端」は閉塞されずに開放されるということであるといえること、また、「交互にプラグで閉塞された」とは、本願発明1の、「1個おきに栓詰めされている」と同義であるといえることから、刊行物1発明の、「多数のセルの両端のうちの一方が交互にプラグで閉塞されたウォールフロー型の排ガス浄化用フィルタ」は、本願発明1の、「排気流方向に形成された多数のセルを有し、排ガス入口端においてセルが1個おきに栓詰めされておりかつこの入口端で栓詰めされているセルは排ガス出口端では開放されており、入口端が開放されているセルは出口端では栓詰めされているウォールフロー型排ガス浄化用フィルター」に相当する。
また、刊行物1発明の「アルミナの層」は、「触媒」が担持されるものであり、「セル側壁の気孔内面全体」を覆うものであるから、当該「アルミナの層」は、本願発明1の、「セルの間の隔壁内部に形成された気孔内の表面全体」を覆う「触媒担持用のコート層」に相当する。また、「アルミナの層」に担持された「触媒」は、「アルミナの層」上に、担持されているといえる。
そうすると、本願発明1と刊行物1発明とは、
「排気流方向に形成された多数のセルを有し、排ガス入口端においてセルが1個おきに栓詰めされておりかつこの入口端で栓詰めされているセルは排ガス出口端では開放されており、入口端が開放されているセルは出口端では栓詰めされているウォールフロー型排ガス浄化用フィルターにおいて、前記セルの間の隔壁内部に形成された気孔内の表面全体を触媒担持用のコート層で覆い、このコート層上に触媒を担持させたことを特徴とするウォールフロー型排ガス浄化用フィルター。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明1においては、コート層上に、触媒と、NO_(2)の形で吸収したNOx成分を所定温度以上において放出するNOx吸収材とを担持させるのに対して、刊行物1発明においては、触媒を担持させるものの、NOx吸収材を担持させることについては記載がない点。

6.当審の判断
上記相違点について検討する。
刊行物1発明の「ウォールフロー型排ガス浄化用フィルタ」は、記載事項(1-2)に記載された、「排気系にパティキュレート捕集用フィルタを設け、捕集されたパティキュレートを電気ヒータ、ガスバーナ又はフィルタに担持させた触媒を用いるなどして燃焼させるシステム」を従来技術とするものであり、また、記載事項(1-4)には、「パティキュレートと触媒の接触の機会が大きくなり、フィルタの再生・・が効果的になされる。」と記載されている。ここで、「排気系にパティキュレート捕集用フィルタを設け、捕集されたパティキュレートを電気ヒータ、ガスバーナ又はフィルタに担持させた触媒を用いるなどして燃焼させるシステム」において、「フィルタの再生」とは、パティキュレートを燃焼させることに他ならず、記載事項(1-4)の「フィルタの再生」も、捕集されたパティキュレートを燃焼することであるといえることから、刊行物1発明の「触媒」とは、捕集されたパティキュレートを燃焼するための触媒も意味するものといえ、また、刊行物1発明は、フィルタの再生、すなわち、捕集されたパティキュレートの燃焼、が効果的になされることを念頭においたものであるといえる。
一方、ウォールフロー型のパティキュレート捕集用フィルタであって、捕集されたパティキュレートを燃焼して再生するフィルタにおいて、触媒にアルカリ土類金属を併用すると燃焼効率があがることは周知であり(例えば、特開昭61-146314号公報には、第4頁の第1表に記載されるような、「Pd」、「Rh」とともに「アルカリ土類金属の酸化物」を担持させた「微粒子捕集浄化フィルタ」と、「Pd」、「Rh」を担持するが「アルカリ土類金属」を担持させない「微粒子捕集浄化フィルタ」とのパティキュレートの燃焼率について、第5頁右上欄4?7行には、「アルカリ土類金属の酸化物を担持させた・・・微粒子捕集浄化フィルタでは、パティキュレートの燃焼率は向上している。」と記載されている。また、特開昭60-235620号公報には、第2頁右下欄19行?第3頁左上欄3行に、「フィルターエレメントに白金族金属及びアルカリ土金属酸化物の触媒混合物を与える。フィルター中にこの触媒混合物が存在することによりフィルター壁上に捕集された粒子の発火及び焼却を行わせ得る温度が低下し」と記載されている。)、このことと、上記したように、刊行物1発明は、捕集されたパティキュレートの燃焼が効果的になされることを念頭においたものであることを併せ考えると、刊行物1発明において、パティキュレートの燃焼をさらに効果的にするため、すなわち、パティキュレートの燃焼効率を上げるために、捕集されたパティキュレートを燃焼するための触媒に、アルカリ土類金属を併用するようにしたことが、当業者にとって格別困難であったとはいえない。
そして、このように併用されるアルカリ土類金属は、本願明細書の段落【0025】に「NOx吸収材」として例示されたアルカリ土類金属に相違なく、また、刊行物1発明の排ガス浄化用フィルタも、記載事項(1-2)から、本願発明1のものと同様に、ディーゼルエンジンのパティキュレートを捕集して燃焼するフィルターであることより、本願発明1のものと同程度の温度、および、同程度の排ガス組成の条件下において使用されるといえるから、これに担持されたアルカリ土類金属は、本願発明1のものと同様に、「NO_(2)の形で吸収したNOx成分を所定温度以上において放出する」機能を奏するものといわざるを得ない。
次に相違点1に係る事項を具備したことによる効果を検討する。
刊行物1には、記載事項(1-4)に、「このフィルタに触媒を担持させると、側壁内の細孔内面にアルミナが高分散で被着しているので触媒の担持面積も大きくなり、パティキュレートと触媒との接触の機会が大きくなり」と記載されている。そして、細孔内面に被着したアルミナに触媒が担持され、当該触媒とパティキュレートが接触するのであれば、パティキュレートの燃焼は細孔内で行われるものとみるのが普通であるから、刊行物1発明においてパティキュレートの燃焼は細孔内で起こるとみられるところ、さらに上記したように、触媒に併用することにより燃焼効率をあげることが周知であるアルカリ土類金属を併用すれば、燃焼効率が上がることは、当業者が予測しうる事項である。
また、本願の明細書全体をみても、本願発明1の排ガス浄化用フィルターが、相違点1に係る事項を具備することにより、刊行物1発明と周知技術とから予測をすることのできない効果を奏することの具体的説明もない。
してみると、本願発明1が相違点1に係る事項を具備したことにより、格別の効果を奏するとすることもできない。
以上のことから、本願発明1は、刊行物1および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

次に、上記2.で、「なお、予備的に、請求項1に、「平均径25?40μmの気孔」を追加する補正事項が、特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」に該当するとしても、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「補正後発明1」という。)は、後述の6.で説明するとおり、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなく、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。」としたことの理由を説明する。
補正後発明1は、本願発明1の排ガス浄化用フィルターのセルの間の、隔壁内部に形成された気孔について、「平均径25?40μm」という事項が追加されたものである。
これに対して、刊行物1には、記載事項(1-3)にあるように、「パティキュレート捕集用ハニカムフィルタは、開昭58-185919号公報に開示されているように、多数の貫通孔の両端のうちの一方が交互にプラグで閉塞された構造を有し、互いに隣合う貫通孔の側壁(セル側壁)には、ガスが通過できる数十μm?数百μm(平均数十μm)の細孔が分散している。」と記載されており、「数十μm」とは、「25?40μm」と重複する値もとりうるといえる。また、一般に、ディーゼルエンジンのパティキュレートを捕集するフィルタの隔壁の気孔の平均孔径を、補正後発明1の「平均径25?40μm」に包含される値にすることも知られている(例えば、特開平6-327921号公報の段落【0024】【表1】の試料4、特開昭58-51944号公報の第3頁右上欄第1表の実施例1)。そうすると、刊行物1発明において、これらの従来技術を参酌しつつフィルタの隔壁の平均孔径を実験的に最適化して、その結果「25?40μm」の範囲に包含される値とすることは、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内の事項であるといえる。
そして、補正後発明1の「平均径25?40μm」とすることの技術的意義を検討するに、段落【0018】には、「本発明においては、この気孔内にパーティキュレートを導入し、この気孔内でパーティキュレートの燃焼場を提供するものである。従って、気孔の大きさは、パーティキュレートが流入できる程度の大きさにする。具体的には、パーティキュレートの平均粒径は10?30nmであり、またパーティキュレートは通常直鎖状につながっているため、気孔の大きさはこれより大きくすることが好ましく、望ましくは25?40μm程度である。」と記載されているから、「平均径25?40μm」とすることの技術的意義は、気孔内でのパーティキュレートの燃焼場の提供のためであるといえるが、上記6.で説明したとおり、刊行物1発明においても、パティキュレートの燃焼は細孔内で起こるとみられるから、刊行物1発明においても、細孔は燃焼場を提供しているものといえる。そうすると、補正後発明1において、「平均径25?40μm」としたことが、格別の技術的意義を有するとはいえない。
また、補正後発明1の「25?40μm」という範囲の「25μm」、「40μm」の臨界的意義について検討するに、本願明細書をみても、平均径をこの範囲に包含される値にした具体例もなく、また、「25μm」、「40μm」を境に燃焼効率が大きく変化することの記載もないから、「25?40μm」という範囲が臨界的意義を有するともいえない。
ここで、平成21年3月31日付けの回答書には、「本願発明のフィルターにおいて、セルの間の隔壁内部の気孔の径を大きくすると、隔壁の強度が低下するため、気孔の平均径の最大値は40μmにする必要があります。一方、気孔内へのコート量を確保するため、気孔の平均径の最小値は25μm程度となります。」との主張があるが、これらについては当初明細書には一切記載がないので、この主張をもって「25?40μm」という範囲が臨界的意義を有するとすることはできない。
以上のことと、上記本願発明1について検討した事項を併せ考えると、補正後発明1は刊行物1発明と周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、仮に、平成19年1月19日付けの手続補正が平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に該当するものであったとしても、特許法第29条第2項の規定により独立して特許をうけることができず、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

7.請求人の主張について
平成17年6月6日に提出された意見書において、請求人は、「引用文献2には、細孔内面にコート層を形成することが記載されており、この点においては本願発明と共通しています。しかしながら、・・・引用文献2には・・・細孔内にNOx吸収材を担持させることについては全く記載されていません」、「NOx吸収材は従来より知られている物質でありますが、その使用目的は、リーン雰囲気において還元することが困難なNOxを一旦NOx吸収材に吸収させておき、リッチ雰囲気においてこの吸収されていたNOxを放出して還元することにより排ガス中のNOxを還元浄化することであります。」、「本願発明において気孔内にNOx吸収材を担持させるのは、低温においてはパーティキュレートの燃焼には関与しないNOやNO_(2)をNOx吸収材に吸収させておき、気孔内においてパーティキュレートの燃焼に伴い温度が上昇すると、この吸収されたNOやNO_(2)を放出し、パーティキュレートと反応させ、パーティキュレートの燃焼性を向上させることを目的としており、従来のようなNOxの還元を目的としているのではありません。」と主張している。ここで、「引用文献2」は、刊行物1と同一文献である。
これらの主張について検討すると、刊行物1発明において、捕集されたパティキュレートを燃焼するための触媒にアルカリ土類金属、すなわちNOx吸収材を併用するようにしたことが、当業者にとって格別困難であったとは云えないことは上記6.で説明したとおりである。また、同様に6.で説明したとおり、ウォールフロー型のパティキュレート捕集用フィルタであって、捕集されたパティキュレートを燃焼して再生するフィルタにおいて、触媒にアルカリ土類金属を併用すると燃焼効率が上がることは周知であって、この周知技術においては、アルカリ土類金属を、リーン雰囲気でのNOx吸収、リッチ雰囲気でのNOx放出と還元という目的で使用しているのではない。そして、この周知の事項を参考に刊行物1発明において、アルカリ土類金属を併用するようにすれば、当該アルカリ土類金属は、本願発明1のものと同様に、NO_(2)の形で吸収したNOx成分を所定温度以上において放出するといわざるを得ず、また、燃焼効率が上がる、すなわち、燃焼性が向上する、ということも、当業者の予測の範囲内であるといえる。
そうすると、上記出願人の主張を採用して、本願発明1が刊行物1発明に比して進歩性を有するとすることはできない。

8.まとめ
以上のことから、本願発明1は、刊行物1に記載された発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する
 
審理終結日 2009-04-16 
結審通知日 2009-04-21 
審決日 2009-05-15 
出願番号 特願2002-326900(P2002-326900)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B01J)
P 1 8・ 121- Z (B01J)
P 1 8・ 572- Z (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 政博  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 小川 慶子
繁田 えい子
発明の名称 排ガス浄化用フィルター  
代理人 福本 積  
代理人 鶴田 準一  
代理人 西山 雅也  
代理人 石田 敬  

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