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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1199913
審判番号 不服2007-27517  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-08 
確定日 2009-07-02 
事件の表示 特願2001-386179「制御システムと制御システムを設けた連続可変トランスミッション」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月23日出願公開、特開2002-235844〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年12月19日(パリ条約による優先権主張2000年12月21日、ヨーロッパ特許庁)の出願であって、平成19年7月3日付けで拒絶査定がなされ、その後、平成19年10月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成19年11月6日付けで明細書に対する手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2.本件補正についての却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
2-1 補正事項
本件補正は、明細書の特許請求の範囲について補正するものであるところ、請求項1に対する以下のような補正を含むものである。
(1)本件補正前の請求項1
「【請求項1】連続可変トランスミッションは2つのプーリーディスク(5、7)を有する第1プーリー(1)と、2つのプーリーディスク(6、8)を有する第2プーリー(2)と、これらのプーリー(1、2)の周りに巻いてそれらの間にトルクを伝達する駆動ベルト(10)とを備えており、第1のプーリー(1)と関連のピストン/シリンダー組立体(11、13)のシリンダー(13)内のライン圧力(P_(LP))により前記可動ディスク(7)に加えられる軸方向の力の影響下で第1のプーリー(1)の少なくとも一つのディスク(7)はそのプーリー(1)の他方のディスク(5)に対して軸方向に動くことができ、第2のプーリー(2)と関連のピストン/シリンダー組立体(12、14)のシリンダー(14)内の第2シリンダー圧力(P2_(C)P)により前記可動ディスク(8)に加えられる軸方向の力の影響下で第2のプーリー(2)の少なくとも一つのディスク(6)はそのプーリー(2)の他方のディスク(8)に対して軸方向に動くことができ、制御システムは、制御圧力(P_(2)C)により影響される第2弁(40)により2つの圧力レベル(P_(LP);P_(R))間の第2シリンダー圧力(P_(2CP))を制御するように配置されており、前記の第2弁(40)は第2シリンダー圧力(P_(2CP))のレベルによりさらに影響されることを特徴とする連続可変トランスミッション用制御システムで第2弁(40)が前記第1のプーリー(1)に関連するピストン/シリンダー組立体(11,13)のシリンダー(13)に第2弁(40)を直接接続している油圧ライン(29)により第1のライン圧力(P_(LP))のレベルによりさらに影響されることを特徴とする連続可変トランスミッション用制御システム。」

(2)本件補正後の請求項1
「【請求項1】連続可変トランスミッションは2つのプーリーディスク(5、7)を有する第1プーリー(1)と、2つのプーリーディスク(6、8)を有する第2プーリー(2)と、これらのプーリー(1、2)の周りに巻いてそれらの間にトルクを伝達する駆動ベルト(10)とを備えており、第1のプーリー(1)と関連のピストン/シリンダー組立体(11、13)のシリンダー(13)内の第1シリンダー圧力(P_(LP))により前記可動ディスク(7)に加えられる軸方向の力の影響下で第1のプーリー(1)の少なくとも一つのディスク(7)はそのプーリー(1)の他方のディスク(5)に対して軸方向に動くことができ、第2のプーリー(2)と関連のピストン/シリンダー組立体(12、14)のシリンダー(14)内の第2シリンダー圧力(P_(2CP))により前記可動ディスク(8)に加えられる軸方向の力の影響下で第2のプーリー(2)の少なくとも一つのディスク(6)はそのプーリー(2)の他方のディスク(8)に対して軸方向に動くことができ、制御システムは、制御圧力(P2C)により影響される第2弁(40)により2つの圧力レベル(P_(LP);P_(R))間の第2シリンダー圧力(P_(2CP))を制御するように配置されており、前記の第2弁(40)は第2シリンダー圧力(P2CP)のレベルにより影響される連続可変トランスミッション用制御システムであって、前記第2弁(40)は、前記第1のプーリー(1)に関連するピストン/シリンダー組立体(11,13)のシリンダー(13)に前記第2弁(40)を直接接続しているさらに先の油圧ライン(29)により第1のライン圧力(P_(LP))のレベルによりさらに影響されることを特徴とする連続可変トランスミッション用制御システム。」(下線は、対比の便を図るために当審において付したものである。)

2-2 補正の目的
上述の補正は、実質的に、補正前の「第1のプーリー(1)と関連のピストン/シリンダー組立体(11、13)」における「少なくとも一つのディスク(7)」を軸方向に移動させる圧力に関し、「第1シリンダー圧力(P_(LP))」であることを明らかにするとともに、「第2弁(40)」に対し「第1のライン圧力(P_(LP))のレベルによりさらに影響」を与えるための油圧ラインに関し、「第1のプーリー(1)に関連するピストン/シリンダー組立体(11,13)のシリンダー(13)に前記第2弁(40)を直接接続しているさらに先の油圧ライン(29)」であることを明らかにするものである。そして、これらの補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1号(請求項の削除)、第3号(誤記の訂正)又は第4号(明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。))のいずれかに該当するということはできないものの、一方、それぞれ発明を特定する事項を限定して特定するものと一応理解することができ、また、これらによって発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題に変更がないことも明らかであるから、同項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮に合致するものである。
そうすると、本件補正は、改正前特許法第17条の2第4項第2号の規定に合致するものであって、同法17条の2第4項の規定に違反するものとして同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものではない。

2-3 独立特許要件
そこで、改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とした補正を含む本件補正後の本願発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に合致するか)について以下に検討する。

2-3-1 本件補正後の本願発明
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、平成18年12月25日付け手続補正及び本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された上述2-1(2)のとおりのものであると認める。

2-3-2 刊行物に記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用されたパリ条約による優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-115354号公報(以下、「刊行物1」という。)及び特開昭61-119860号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の発明が記載されている。
(1)刊行物1
刊行物1には、図面とともに以下の記載がある。
a)「【0012】図1に示すように、車両用のベルト式無段変速機Tは平行に配置されたインプットシャフト1及びアウトプットシャフト2を備えており、エンジンEのクランクシャフト3の右端は、フライホイール付きダンパー4を介してインプットシャフト1の左端に接続される。
【0013】インプットシャフト1に支持されたドライブプーリ5は、該インプットシャフト1に対して相対回転自在な固定側プーリ半体5_(1)と、この固定側プーリ半体5_(1)に対して軸方向摺動自在な可動側プーリ半体5_(2)とを備える。可動側プーリ半体5_(2)は、油室6に作用する油圧により固定側プーリ半体5_(1)との間の溝幅が可変である。アウトプットシャフト2に支持されたドリブンプーリ7は、該アウトプットシャフト2に一体に形成された固定側プーリ半体7_(1)と、この固定側プーリ半体7_(1)に対して軸方向摺動自在な可動側プーリ半体7_(2)とを備える。可動側プーリ半体7_(2)は、油室8に作用する油圧により固定側プーリ半体7_(1)との間の溝幅が可変である。そしてドライブプーリ5とドリブンプーリ7との間に、2条のストラップに多数の押し駒を装着した無端ベルト9が巻き掛けられる。」

b)「【0022】次に、図2に基づいてベルト式無段変速機Tの油圧制御ユニットUhの構造を説明する。
【0023】オイルポンプ57が吐出するオイルはレギュレータバルブ22を介してPH圧(ライン圧)に減圧され、このPH圧はモジュレータバルブ23を介してPM圧(モジュレータ圧)まで更に減圧される。PH圧はドライブプーリコントロールバルブ24_(DR)により調圧され、ドライブプーリ圧P_(DR)としてドライブプーリ5の油室6に伝達される。またPH圧はドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)により調圧され、ドリブンプーリ圧P_(DN)としてドリブンプーリ7の油室8に伝達される。」

c)「【0026】ドライブプーリコントロールバルブ24_(DR)及びドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)は実質的に同一構造を有するものであり、スプリング29で右向きに付勢されたスプール30を備える。両コントロールバルブ24_(DR),24_(DN)のポートP_(1)にはPH圧が入力され、またポートP_(2)にはPM圧をブリードソレノイドバルブよりなるソレノイドバルブSOL-Bで調圧したPB圧、或いはPM圧をブリードソレノイドバルブよりなるソレノイドバルブSOL-Cで調圧したPC圧が入力される。そしてPB圧或いはPC圧が増加すると、スプール30が左動してポートP_(3)から両プーリ5,7の油室6,8に出力されるドライブプーリ圧P_(DR)或いはドリブンプーリ圧P_(DN)が増加する。
【0027】図4(A)はPB圧の変化に対するドライブプーリ圧P_(DR)の変化を示すもので、PB圧が0kPaから500kPaまで増加すると、ドライブプーリ圧P_(DR)はPL圧(PH圧-α)からPH圧までリニアに増加する。尚、ここでPH圧は可変であり、前記ソレノイドバルブSOL-Aが出力するPA圧の変化に応じて変化する(図3参照)。ドリブンプーリ圧P_(DN)の変化特性も前記ドライブプーリ圧P_(DR)の変化特性と同一であり、PC圧が0kPaから450kPaまで増加すると、ドリブンプーリ圧P_(DN)はPL圧(PH圧-β)からPH圧までリニアに増加する。前記α及びβは定数であって、実施例では共に1000kPaに設定されいる。」

d)「【0037】図6(A)は第1実施例のドライブプーリコントロールバルブ24_(DR)を示すものであり、ポートP_(1)及びポートP_(4)にはPH圧が入力され、ポートP_(2)にはPB圧が入力され、ポートP_(5)にはプーリ圧P_(DR)が入力され、ポートP_(3)からプーリ圧P_(DR)が出力される。ポートP_(4)に入力されるPH圧はスプール30を左向きに付勢し、ポートP_(5)に入力されるプーリ圧P_(DR)はスプール30を右向きに付勢する。・・・(以下省略)」

以上の記載を総合すると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認める(以下、「引用発明1」という。)。
「ベルト式無段変速機Tは、固定側プーリ半体5_(1)と可動側プーリ半体5_(2)とを備えるドライブプーリ5と、固定側プーリ半体7_(1)と可動側プーリ半体7_(2)とを備えるドリブンプーリ7と、ドライブプーリ5とドリブンプーリ7との間に巻き掛けられた無端ベルト9とを備えており、ドライブプーリ5の油室6に作用するドライブプーリ圧P_(DR)により可動側プーリ半体5_(2)が固定側プーリ半体5_(1)に対して軸方向摺動自在とされ、ドリブンプーリ7の油室8に作用するドリブンプーリ圧P_(DN)により可動側プーリ半体7_(2)が固定側プーリ半体7_(1)に対して軸方向摺動自在とされ、制御ユニットUhは、ソレノイドバルブSOL-Bで調圧したPB圧が入力されるドライブプーリコントロールバルブ24_(DR)によりPL圧(PH圧-α)とPH圧との間でドライブプーリ圧P_(DR)を制御するとともに、ソレノイドバルブSOL-Cで調圧したPC圧が入力されるドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)によりPL圧(PH圧-β)とPH圧との間でドリブンプーリ圧P_(DN)を制御するようになされており、ドライブプーリコントロールバルブ24_(DR)には、さらにドライブプーリ圧P_(DR)及びPH圧が入力され、ドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)には、さらにドリブンプーリ圧_(DN)及びPH圧がそれぞれ入力されるようになされた、ベルト式無段変速機T。」

(2)刊行物2
刊行物2には、「無段変速機の電子制御装置」に関し、図面とともに以下の記載がある。
a)「第2図において油圧制御部6の変速制御系について説明すると、主プーリ側の油圧サーボ装置27において可動側プーリ半体24aがピストンを兼ねてシリンダ27aに嵌合し、サーボ室27bのライン圧で動作するようにされ、副プーリ側の油圧サーボ装置28においても可動側プーリ半体25aがシリンダ28aに嵌合し、サーボ室28bのライン圧で動作するようにされ、この場合にプーリ半体24aの方がプーリ半体25aに比べてライン圧の受圧面積が大きくなっている。そして、副プーリサーボ室28bからの油路40がオイルポンプ37、フィルター41を介して油溜42に連通し、この油路40のオイルポンプ吐出側から分岐して主プーリサーボ室27bに連通する油路39にライン圧制御弁45および変速比制御弁50が設けられている。」(第3ページ左下欄、第1行?第15行)

b)図2から、「副プーリサーボ室28b」に対しては、「オイルポンプ37」の吐出圧が「油路40」を介して直接供給されるとともに、「主プーリサーボ室27b」に対しては、「ライン圧制御弁45」及び「変速比制御弁50」により調圧されて供給されることが看取される。

以上の記載を総合すると、刊行物2には、次の発明が記載されていると認める(以下、「引用発明2」という。)。
「主プーリと副プーリとを有する無段変速機の電子制御装置において、副プーリサーボ室28bには、オイルポンプ37の吐出圧が油路40を介して直接供給され、副プーリサーボ室27bには、オイルポンプの吐出圧がライン圧制御弁及び変速比制御弁50を介して調圧されて供給されるようになされた、無段変速機の電子制御装置。」

2-3-3 対比
(1)一致点
本願補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「ベルト式無段変速機T」は、その機構ないし機能からみて、本願補正発明における「連続可変トランスミッション」に相当し、以下同様に「固定側プーリ半体5_(1)と可動側プーリ半体5_(2)とを備えるドライブプーリ5」は「2つのプーリーディスク(5、7)を有する第1プーリー(1)」に、「固定側プーリ半体7_(1)と可動側プーリ半体7_(2)とを備えるドリブンプーリ7」は「2つのプーリーディスク(6、8)を有する第2プーリー(2)」に、「ドライブプーリ5とドリブンプーリ7との間に巻き掛けられた無端ベルト9」は「これらのプーリー(1、2)の周りに巻いてそれらの間にトルクを伝達する駆動ベルト(10)」に、「ドライブプーリ5の油室6」は「第1のプーリー(1)と関連のピストン/シリンダー組立体(11、13)のシリンダー(13)」に、「ドライブプーリ圧P_(DR)」は「第1シリンダー圧力(P_(LP))」に、「ドリブンプーリ7の油室8」は「第2のプーリー(2)と関連のピストン/シリンダー組立体(12、14)のシリンダー(14)」に、「ドリブンプーリ圧P_(DN)」は「第2シリンダー圧力(P_(2CP))」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1では、「ドライブプーリ圧P_(DR)により可動側プーリ半体5_(2)が固定側プーリ半体5_(1)に対して軸方向摺動自在」とされるとともに、「ドリブンプーリ圧P_(DN)により可動側プーリ半体7_(2)が固定側プーリ半体7_(1)に対して軸方向摺動自在」とされるようになされているところ、これらは、表現こそ異なるものの、その動作からみれば、それぞれ本願補正発明における「第1シリンダー圧力(P_(LP))により前記可動ディスク(7)に加えられる軸方向の力の影響下で第1のプーリー(1)の少なくとも一つのディスク(7)はそのプーリー(1)の他方のディスク(5)に対して軸方向に動くことができ」及び「第2シリンダー圧力(P2_(CP))により前記可動ディスク(8)に加えられる軸方向の力の影響下で第2のプーリー(2)の少なくとも一つのディスク(6)はそのプーリー(2)の他方のディスク(8)に対して軸方向に動くことができ」に相当する。
次に、引用発明1における「制御ユニットUh」は、具体的な油圧回路はさておき、ドライブプーリ5及びドリブンプーリ7を油圧により制御し変速制御を行うものであるという点において、本願補正発明における「制御システム」に相当する。
さらに、引用発明1における「ドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)」は、「ソレノイドバルブSOL-Cで調圧したPC圧」が入力されることにより「ドリブンプーリ圧P_(DN)」を「PL圧(PH圧-β)とPH圧」との間で制御するものであるから、その構造ないし機能からみて、本願補正発明における「第2弁(40)」に相当するとともに、「ソレノイドバルブSOL-Cで調圧したPC圧が入力されるドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)によりPL圧(PH圧-β)とPH圧との間でドリブンプーリ圧P_(DN)を制御するようになされており」は、「制御圧力(P_(2C))により影響される第2弁(40)により2つの圧力レベル(P_(LP);P_(R))間の第2シリンダー圧力(P_(2CP))を制御するように配置されており」に相当する。また、引用発明における「ドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)」には、「ドリブンプーリ圧_(DN)及びPH圧」も入力され制御されるものであるところ、このうち、「ドリブンプーリ圧_(DN)」の入力は、本願補正発明における「前記の第2弁(40)は第2シリンダー圧力(P_(2CP))のレベルにより影響される」ものに外ならない。
そうすると、本願補正発明と引用発明1とは、本願補正発明の表記にならえば次の点で一致する。
「連続可変トランスミッションは2つのプーリーディスク(5、7)を有する第1プーリー(1)と、2つのプーリーディスク(6、8)を有する第2プーリー(2)と、これらのプーリー(1、2)の周りに巻いてそれらの間にトルクを伝達する駆動ベルト(10)とを備えており、第1のプーリー(1)と関連のピストン/シリンダー組立体(11、13)のシリンダー(13)内の第1シリンダー圧力(P_(LP))により前記可動ディスク(7)に加えられる軸方向の力の影響下で第1のプーリー(1)の少なくとも一つのディスク(7)はそのプーリー(1)の他方のディスク(5)に対して軸方向に動くことができ、第2のプーリー(2)と関連のピストン/シリンダー組立体(12、14)のシリンダー(14)内の第2シリンダー圧力(P_(2CP))により前記可動ディスク(8)に加えられる軸方向の力の影響下で第2のプーリー(2)の少なくとも一つのディスク(6)はそのプーリー(2)の他方のディスク(8)に対して軸方向に動くことができ、制御システムは、制御圧力(P_(2C))により影響される第2弁(40)により2つの圧力レベル(P_(LP);P_(R))間の第2シリンダー圧力(P_(2CP))を制御するように配置されており、前記の第2弁(40)は第2シリンダー圧力(P_(2CP))のレベルにより影響される連続可変トランスミッション用制御システム」

(2)相違点
一方、本願補正発明と引用発明1とは、次の点で相違する。
・相違点
本願補正発明では、「第2弁(40)」が「前記第1のプーリー(1)に関連するピストン/シリンダー組立体(11,13)のシリンダー(13)に前記第2弁(40)を直接接続しているさらに先の油圧ライン(29)により第1のライン圧力(P_(LP))のレベルによりさらに影響される」ものであるのに対して、引用発明1では、「ドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)」に対しライン圧である「PH圧」が入力されているものの、「ドライブプーリ5」の「油室6」には、「ドライブプーリコントロールバルブ24_(DN)」を介して「ドライブプーリ圧P_(DR)」が供給されており、「ドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)」に入力される圧力が「油室6」と直接接続していない点。

2-3-4 相違点の判断
引用発明2には、上述のとおり、「副プーリサーボ室28b」に対して「オイルポンプ37の吐出圧」を供給するに際し、制御弁を介さずに「油路40」によって「直接供給」するものである。すなわち、一方の「主プーリ」に対しては、「変速比制御弁50」を介して油圧を供給しつつ、他方の「副プーリ」に対しては、このような制御弁を介することなく、直接ライン圧を供給するものである。そして、この引用発明2を参考に、引用発明1における「ドライブプーリ5」又は「ドリブンプーリ7」のいずれかに対し、制御弁である「ドライブプーリコントロールバルブ24_(DR)」又は「ドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)」を廃し、ライン圧であるPH圧を直接供給することにより機構の簡略化を試みることは、機構の簡略化、簡素化、それに付随するコスト削減等が機械分野全般における一般的な課題であることにかんがみれば、当業者にとって容易に想到し得るものである。そして、引用発明において、「ドライブプーリコントロールバルブ24_(DR)」と「ドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)」とは、「ドライブプーリ5」と「ドリブンプーリ7」のプーリ半径をそれぞれ独立して制御するものであるから、その一方のバルブ、例えば「ドライブプーリコントロールバルブ24_(DR)」を廃し、「ドライブプーリ5」に対しPH圧を直接供給するようにすることには、特段の困難もない。そして、引用発明1に引用発明2を適用し上述のような油圧回路の変更を施すことは、当業者にとって容易であるところ、その際、「ドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN) 」に入力されるPH圧と「ドライブプーリ5」に供給されるPH圧とは同じものであるから、「ドライブプーリ5」の「油室6」と「ドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN) 」とは、直接接続されることになるということができるし、そうでないとしても、PH圧を共通して用いるのであるから、個別の配管とすることなく双方を直接接続するようにすることは、当業者であれば適宜設計的になし得る事項である。そして、両者を直接接続するということは、換言すれば「ドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN) 」は、「ドライブプーリ5」に供給されるライン圧力であるPH圧ないし「ドライブプーリ5」の「油室6」に作用する「ドライブプーリ圧P_(DR)」により影響されるということに外ならない。
そうすると、上述相違点に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明1及び引用発明2から当業者が容易に想到し得たものである。

ところで、本願の願書に添付された明細書によれば、次のような記載がみられる。
a)「【0005】
本発明の目的は制御される第2のシリンダー圧力の精度と安定性とを改善することであり、さらに具体的には、CVTを装備した動力車の静止状態のときに及び/又は初期加速中に駆動ベルトのベルト・スリップの危険を減ずることにある」
b)「【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明により、この目的は特許請求の範囲の請求項1の特徴部分に記載の制御システムにより達成される。本発明の制御システムでは第2シリンダーの圧力を調整する第2弁は制御圧力により影響されるばかりでなく、第2シリンダーの圧力それ自体によっても、例えば、圧力帰還をつくることによっても影響される。・・・(略)」
c)「【0007】
・・・(略)・・・本発明の有利な点は、比較的簡単な満たされた手段により静止時における制御システムの作動を大きく改善することである。特に有利な制御システムは第2シリンダー圧力の負帰還の影響により、すなわち、第2シリンダーの圧力の変化が打ち消されるように前記の影響をつくりだすことにより実現される。こうして、第2シリンダーの圧力の安定したレベルが、それにおける一時的な変動とは関係なく、得られる。」
d)「【0008】
本発明の更なる発展において、第2シリンダー圧力を調整する第2弁はライン圧力により追加として影響される。連続可変トランスミッションの場合このことは好ましい。通常第2シリンダ圧力とライン圧力のどちらかが変化するとき、他方の圧力も変化することが望まれるからである。本発明によればこの場合、ライン圧力の影響として、ライン圧力の増減が第2シリンダの圧力の増減別々にもたらされるのであれば、特に有利である。従って、ライン圧力と第2シリンダー圧力との間の比率が第2シリンダー圧力に結果的に影響する。本発明ではこの後の形態のほうが、圧力の安定と圧力制御の精度とにおいて最良の結果を得られることが分かった。」
e)「【0013】
【発明の実施の形態】
図4は本発明における制御システムを装備したCVTの略図を示す。本発明の好ましい実施例における制御システムでは、さらに油圧ライン28、29を組み込むことにより適合させて、第2弁40は第2制御圧力P_(2c)によるばかりでなく、第2シリンダー圧力P_(2cp)とライン圧力P_(LP)によっても影響されるようにしている。従って、第2シリンダー圧力P_(2cp)は第2シリンダー圧力P_(2cp)とライン圧力P_(LP)との間の比率により影響される。第2シリンダー圧力P_(2cp)の影響は負であって、第2シリンダー圧力P_(2cp)の変化分は打ち消され、ライン圧力P_(LP)の影響は正であって、ライン圧力P_(LP)の増減は第2シリンダー圧力P_(2cp)の増減となって反映される(図4)。この制御システムでは第2シリンダー圧力P_(2cp)はそれを測定することなく精確に信頼できる仕方で制御され、とりわけ、静止時もしくはその直後のベルト・スリップは効果的に防止される。」
その他、明細書及び図面の記載からみて、本願補正発明は、第2シリンダー圧力の精度と安定性を改善し、自動車の静止状態及び初期加速中に駆動ベルトのスリップを防止するために、第2シリンダーの制御弁である第2弁に対して第2シリンダー自体の圧力を帰還させ入力としつつ、さらにライン圧も入力として用いるものである。そして、本願補正発明は、第2弁にそれらの入力を加えることによって、圧力の安定と圧力制御の精度を確保し、ベルとスリップを防止するといった効果を得たものである。
一方、引用発明1における「ドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)」には、当該制御弁により「ドリブンプーリ7」に供給される油圧である「ドリブンプーリ圧_(DN)」それ自体が帰還して入力されるとともに、「PH圧」、すなわちライン圧も入力されるものであるから、この構造からみて、明細書に記載された本願補正発明についての上述の効果は、上述相違点に関わらず引用発明1においても有しているものであり、当業者にとって格別なものであるということはできない。また、引用発明1における油圧回路を上述のとおり変更しても「ドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)」に対する入力には、特段変更がないのであるから、上述の効果を引き続き有することは、当業者にとって当然予測し得るものである。
したがって、本願補正発明は、当業者が引用発明1及び引用発明2に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、審判請求書及び当審の審尋に対する回答書の中で、本願補正発明は、第2シリンダー圧力(P_(2CP))を制御するために、第2弁(40)が第1シリンダー圧力(P_(LP))によって影響されることを特徴とするものであるのに対して、引用発明1においては、ドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)にライン圧であるPH圧が入力されており、ドライブプーリ圧P_(DR)による影響を受けない点で異なる旨主張する。たしかに、引用発明1においては、ドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)にライン圧であるPH圧が入力されており、ドライブプーリ圧P_(DR) そのもは入力されていない。しかし、当業者であれば引用発明1に引用発明2を適用し、引用発明1におけるドライブプーリコントロールバルブ24_(DR)を廃し、ドライブプーリ圧P_(DR)としてライン圧であるPH圧をドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)に対する入力と共通して用いるようにすることは、容易想到であって、その結果、ドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)は、ドライブプーリ圧P_(DR)に影響を受ける構造となることは、上述のとおりである。
そして、本願の願書に添付した明細書によれば、本願補正発明は、第2弁
(40)が第2シリンダー圧力(P_(2cp))とライン圧力(P_(LP))とに影響を受けるように構成することによって圧力の安定と圧力制御の精度を確保したものであって、第2弁(40)がライン圧力(P_(LP))を離れ、審判請求人が主張するように第1シリンダー圧力(P_(LP))に影響を受けるようにすることを意図したものであるとすることはできず、そうであるならば、引用発明1も、同様にドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)がドリブンプーリ圧_(DN)とライン圧であるPH圧とによって影響を受けるように構成されるものであるから、この点で本願補正発明と引用発明1とは、軌を一にするものである。加えて、本願補正発明と引用発明1との間に効果の点で顕著な差異がないことも上述のとおりであるし、仮に審判請求人が主張するような相違があるとしても、引用発明1における上述の油圧回路の変更に伴って、ドライブプーリ圧P_(DR) は、ライン圧であるPH圧そのものになるのであるから、ドリブンプーリコントロールバルブ24_(DN)がドライブプーリ圧P_(DR)に影響を受けることによる効果は、当業者にとって予測可能なものである。
また、審判請求人は、回答書の中で、引用発明1は、「独立系シリンダー圧力制御」に属する技術であり、これに対し本願補正発明の技術は、「主従系シリンダー圧力制御」に属する点で異なる旨主張するが、それぞれそのような分類をするか否かはさておき、本願補正発明が引用発明1に引用発明2を適用することにより容易想到であることは、上述のとおりである。

2-3-5 補正却下のむすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
3-1 本願発明
本件補正は、上述のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし13に係る発明は、平成18年12月25日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載されたとおりのものであると認めるところ、請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、上述2-1(1)に記載したとおりのものである。

3-2 刊行物に記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物に記載の発明は、上述2-3-2のとおりである。

3-3 対比及び相違点の判断
上述2-3で検討した本願補正発明は、本願発明のすべての発明特定事項を備えた上で、その一部を一応限定して特定することにより明確化したものである。そうすると、その本願補正発明が上述2-3-4のとおり引用発明1及び引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も同様の理由により当業者が引用発明1及び引用発明2に基いて容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-29 
結審通知日 2009-02-04 
審決日 2009-02-18 
出願番号 特願2001-386179(P2001-386179)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
P 1 8・ 575- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡▲さき▼ 潤  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 岩谷 一臣

川上 益喜
発明の名称 制御システムと制御システムを設けた連続可変トランスミッション  
代理人 伊東 哲也  
代理人 齋藤 和則  

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