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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1199971
審判番号 不服2006-4028  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-04 
確定日 2009-07-01 
事件の表示 特願2003-361982「磁気ディスクの製造方法及び磁気ディスク」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月11日出願公開、特開2004-319058〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年10月22日(優先権主張 平成14年3月31日)の出願であって、拒絶理由通知に対しその応答期間内である平成17年10月28日付けで手続補正がされたが、同年11月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成18年3月4日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年4月3日付けで手続補正がされたものである。
そして、平成20年10月15日付けで、特許法第164条第3項の報告書について当審から意見を求めたところ、平成20年11月28日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成18年4月3日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年4月3日付けの手続補正を却下する。

[理 由]
(1)補正後の本願発明
平成18年4月3日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
磁気ヘッドを備えるロードアンロード方式磁気ディスク装置用の磁気ディスクの製造方法であって、
基板上に磁性層と水素及び/又は窒素を含有する保護層と潤滑層を成膜する工程を有し、
前記潤滑層は、 化学式
【化1】


[式中のp、qは自然数である。]
で示される化合物、及び、化学式
【化2】

[式中のm、nは自然数である。]
で示される化合物を含有する潤滑剤αを分子量分画して、重量平均分子量(Mw)が3000?7000、分子量分散度を1.2以下とした潤滑剤aを作製し、
化学式
【化3】

[式中のm、nは自然数である。]
で示される化合物を含有する潤滑剤βを分子量分画して、重量平均分子量(Mw)が2000?5000、分子量分散度を1.2以下とした潤滑剤bを作製し、
前記潤滑剤aと前記潤滑剤bとの混合割合を重量比で1:2?2:1となるように混合した潤滑剤cを作製し、前記潤滑剤cを前記保護層上に成膜して形成され、 前記磁気ヘッドの浮上量が10nm以下であることを特徴とする磁気ディスクの製造方法。」と補正された。

上記補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「磁気ディスク」について、「磁気ヘッドを備えるロードアンロード方式磁気ディスク装置用である」との限定事項、「磁性層と水素及び/又は窒素を含有する保護層と潤滑層を成膜する工程を有する」との限定事項、「潤滑層における潤滑剤aと前記潤滑剤bとの混合割合が重量比で1:2?2:1となるように混合する」との限定事項、及び、「磁気ヘッドの浮上量がl0nm以下である」との限定事項を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の滅縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2001-52327号公報(以下、「引用例1」という。)には、「磁気記録媒体及び磁気記録装置」について、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付加した。)

ア.「【請求項1】非磁性基板上に記録層、保護層及び潤滑層をこの順に設けてなる磁気記録媒体において、該潤滑層が、下記一般式(I)で示され、数平均分子量が5000を越え10000以下であるパーフルオロポリエーテルと下記一般式(II)で示され、数平均分子量が500から10000であるパーフルオロポリエーテルとを含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【化1】

(ただし、mは1?4の整数、nは整数)
【化2】

(ただし、mは1?4の整数、nは整数)
【請求項2】一般式(I)及び/又は(II)において、mが1又は2であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】一般式(I)で示されるパーフルオロポリエーテルと一般式(II)で示されるパーフルオロポリエーテルとの混合比率(I):(II)が重量比で1:30?30:1であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】潤滑層の膜厚が0.1?10nmであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】保護層がアモルファスカーボンよりなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。」(特許請求の範囲)
イ.「【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、数平均分子量範囲が500?5000のパーフルオロポリエーテルよりなる潤滑剤で潤滑層を形成したディスクでは、高温多湿下で長期間高速回転するような過酷な条件下では潤滑剤が容易に飛散し、潤滑性が低下するために、スティクションが生じ易くなるという問題があった。
【0007】本発明は上記従来の問題点を解決し、高温高湿下における長期間高速回転によっても潤滑剤の飛散の問題がなく、従って、その後長期間放置してもスティクションが生じることのない磁気記録媒体と、この磁気記録媒体を用いた磁気記録装置を提供することを目的とする。」
ウ.「【0016】本発明の磁気記録媒体では、潤滑層に、前記一般式(I)で示され、数平均分子量が5000を越え10000以下であるパーフルオロポリエーテル(以下「PFPE(I)」と記す。)と前記一般式(II)で示され、数平均分子量が500から10000であるパーフルオロポリエーテル(以下「PFPE(II)」と記す。)とを併用する。
【0017】PFPE(I)の数平均分子量は5000を超えていれば良いが、好ましくは5300?10000、特に5300?8000が好ましい。PFPE(I)の数平均分子量が5000以下であると、高速回転下において顕著なフライスティクションが観察される。しかし、PFPE(I)として必要以上に高分子量のものを用いると、潤滑剤が高粘度になり耐久性が悪化する場合があるため、PFPE(I)の数平均分子量は10000以下とする。
【0018】また、PFPE(II)の数平均分子量が10000を超えると、粘度が非常に高くなり、長期間ドライブを起動せずに放置した場合、非常に高いスティクションを起こすことがある。この数平均分子量が500未満のものを用いると、高温の高速回転下では潤滑剤が飛散し、著しく膜厚が減少することがあるため、PFPE(II)の数平均分子量は500?10000、好ましくは1000?6000、より好ましくは3000?4500とする。
【0019】なお、前記一般式(I),(II)において、mは1?4の整数であるが、特に1又は2であることによって、分子全体の剛直性が低下し、優れた潤滑性を示すので好ましい。
【0020】本発明は、このように2種類の潤滑剤を混合使用することによって、特異的に高温高湿下におけるCSS後の長期放置時のスティクションを抑える効果を得るものであるが、PFPE(I)の混合比率が多いと耐久性が悪化する場合があり、逆にPFPE(II)の混合比率が多いと高温高速回転下で膜厚の減少が著しいことから、PFPE(I)とPFPE(II)の混合比率は重量比でPFPE(I):PFPE(II)=1:30?30:1、特に1:10?10:1であることが好ましく、更には1:10?7:3であることが好ましい。
【0021】なお、PFPE(I)の特定範囲の数平均分子量は、化学合成による方法や、多段の溶媒抽出、蒸留等で得ることができるが、例えば文献("Tailoring performance properties of perfluoropolyethers via supercritical fluid fractionation", H. Schonemann, P. Gallagher-Wetmore, V. Krukonis, Proc. 3rd. Internat. Symp. Supercrit. Fluids, 3 (1994) 375-380)で示されているように、二酸化炭素による超臨界流体抽出を行うことによって、より厳密に分画することができる。」
エ.「【0040】このようにして形成された磁性層上には、任意の保護層を形成する。保護層材料としては、C、水素化C、窒素化C、アルモファスC、SiC等の炭素質層やSiO_(2)、Zr_(2)O_(3)、TiNなど、通常用いられる保護層材料を用いることができる。保護層の主材料としては炭素質が好ましく、この炭素質膜は通常スパッタリング法、CVD法により形成される。
【0041】スパッタリング法の場合、炭素をターゲットとし、スパッタリングガスとして通常のAr、He等の希ガスに加えて、反応性ガスとしてH_(2)、N_(2)、O_(2)、炭化水素、窒素含有炭化水素、フッ素含有炭化水素等を導入しながら成膜する。電源は直流、交流、高周波、パルス等、特に限定されないが、直流あるいは高周波電源が好ましい。また、基板に直流又は高周波のバイアス電圧を印加しながら成膜してもかまわない。
【0042】一方、CVD法では、メタン、エタン、プロパン、エチレン、アセチレン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素、アルコール類、窒素含有炭化水素、フッ素含有炭化水素等、炭素を含む化合物を原料ガスとして反応室へ導入し、直流、交流、高周波などの電気的エネルギー、加熱フィラメントの熱エネルギー、加熱フィラメントから放出される熱電子エネルギー、加速電子によるエネルギー等によって原料ガスを分解して成膜種を生成させ、それを基板に導いて形成する。原料ガスは種類の異なるモノマー同士を混合しても良く、Ar、He等の不活性ガス、H_(2)、N_(2)、O_(2)等の反応性ガスと混合して使用しても良い。また、成膜時、基板にはバイアス電圧を印加することも可能である。ガス圧、電源電圧、バイアス電圧、成膜時間等の条件はその装置の形状、大きさ等によって変わるので特に限定することはできないが、いずれも公知の条件で行うことができる。」
オ.「【0044】本発明の磁気記録装置は、ディスク状の本発明の磁気記録媒体と、これを記録方向に回転稼動させる回転手段と、情報の記録部と再生部からなる磁気ヘッドと、磁気ヘッドをディスクに対して相対運動させる手段と、磁気ヘッドへの信号入力と磁気ヘッドからの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を有し、ディスクの潤滑層でこの磁気ヘッドとディスクとの間に生じる吸着性が有効に抑制されることによって、高い信頼性を発揮することができ、特にディスクの回転数を10000rpm以上としたものにおいて、更には磁気ヘッドを浮上量が0.01μm以上0.05μm未満と、従来より低い高さで浮上させることで効果が顕著となり、高信頼性と共に出力の向上で高い装置S/Nが得られ、大容量の磁気記録装置を提供することができる。」
カ.「【0045】
【実施例】次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例によって限定されるものではない。
【0046】なお、以下の実施例及び比較例においては、市販のフォンブリンZ-TETRAOL(アウジモント社製)(前記一般式(I)において、mは1?2の整数、nは整数)と、市販のフォンブリンZ-DOL(アウジモント社製)(前記一般式(II)において、mは1?2の整数、nは整数)を混合して用いた。フォンブリンZ-TETRAOLについては、文献に従って二酸化炭素を用いた超臨界流体抽出により分画を行って数平均分子量を調整した。この数平均分子量は19F NMRを測定することにより求めた。
【0047】実施例1?5、比較例1?4
表面の平均粗さが1nmの直径3.5インチのアルミニウム合金製ディスク基板の両面上に、無電解めっき法により厚さ15μmのNiP層を形成し、次いでエネルギービームを半径17mmから19mm(CSSゾーン)の領域に照射し、平均高さ19nmの突起を形成させた。その後、スパッタリング法によりクロム下地層(厚さ20nm)、コバルト合金磁性層(厚さ20nm)を形成し、次に保護層としてカーボン膜を13nmの厚さに形成した。このカーボン膜上に、表1に示す数平均分子量と混合比である2種類のパーフルオロポリエーテルをVertrel-XF(デュポン(株)製)溶液として用い、浸漬法により成膜した後100℃で焼成処理を行い、厚さ1.4nmの均一な潤滑層を形成した。」
キ.表1




上記の記載、特に下線部によれば、引用例1には、
「非磁性基板上に記録層、保護層及び潤滑層をこの順に設けてなる磁気記録媒体の製造方法であって、
該保護層としてカーボン膜と潤滑層を成膜する工程を有し、
該潤滑層が、下記一般式(I)で示され、二酸化炭素を用いた超臨界流体抽出により分画を行って数平均分子量を調整した数平均分子量が5000を越え10000以下であるパーフルオロポリエーテルと下記一般式(II)で示され、数平均分子量が500から10000であるパーフルオロポリエーテルとを、混合比率(I):(II)を重量比で1:10?7:3で含む溶液を用いて前記保護層上に成膜する方法。
【化1】

(ただし、mは1?4の整数、nは整数)
【化2】

(ただし、mは1?4の整数、nは整数)」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。

同じく、特開2002-25046号公報(以下、引用例2という。)には、「磁気記録媒体の製造方法」について、図面とともに次の事項が記載されている。
ク.「【0003】
【発明が解決しようとする課題】たとえば、1日の生産の中で、生産初期段階では潤滑剤中の低分子量領域から蒸着され、生産終了時には高分子量領域をもつ潤滑剤が媒体に蒸着することになり、1日の生産の中で全く分子量の異なった潤滑層を持った磁気記録媒体が生産される可能性がある。低分子量領域の潤滑層を持った磁気記録媒体は、高温雰囲気中においては潤滑層が低分子量であるため熱に弱く膜厚減少を起こす。したがって、設定された膜厚に対して薄くなり、CSS等の耐久性が非常に悪くなり最悪の場合クラッシュを引き起こす。また、高分子領域の潤滑層は低分子領域のそれに比べ非常に粘性が高いため、CSSなどでは磁気ヘッドがディスクへ吸着してしまうといった障害が引き起こされる。したがって、本発明の目的は、分子量が整った潤滑剤を真空蒸着法に用いることによって安定した潤滑層を形成し、かつ高温高湿あるいは低温低湿などのさまざまな環境下において耐久性に優れた磁気記録媒体を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記目的は、真空蒸着法に市販のパーフロロポリエーテル系の潤滑剤を、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下GPCという)、超臨界抽出(以下SFEという)などの装置を使って分子量精製を行い、その精製された潤滑剤を真空蒸着法に用いることにより達成できる。
【0005】市販のパーフロロポリエーテル系の潤滑剤を、GPC、SFEなどの装置を使って分子量分散度(Mw/Mn)を限りなく小さくし、それを真空蒸着によって磁気記録媒体に蒸着することで潤滑剤膜を形成する。ここで分子量分散度とは、潤滑剤の分子量の広がりを示し、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)によって表わされる。
使用するパーフロロポリエーテル系潤滑剤は液体潤滑剤、固体潤滑剤どちらでも良く、また片末端基、両末端基などは限定されない。また、末端基を変性させたものでも使うことができる。しかしながら、重量平均分子量は2,000?12,000までの範囲が良い。潤滑剤の重量平均分子量が2,000未満の場合、高温雰囲気中において膜厚減少が起こりやすく、CSS耐久性が劣化するので好ましくなく、12,000を超える場合、粘性が高くなることにより、CSSにおいて磁気ヘッドが磁気ディスクに吸着することになるので好ましくない。より好ましくは4,000?10,000の範囲が望ましい。また分散度(Mw/Mn)は1.1以下であることがさらに望ましい。」
ケ.「【0008】図1において、1はステンレス製シャーレ、2は潤滑剤(GPCを使って精製を施したFomblin Z-DOL2000:この時の重量平均分子量は4,000、Mw/Mnは1.08である)、3は加熱用ヒータ、4は真空チャンバ、5は磁気ディスク、6はディスク用キャリア、7は流量調整用可変バルブ、8は真空排気用ロータリーポンプ、9は真空排気用ターボポンプである。
【0009】(実施例1)潤滑剤として、上記分子量精製を施したパーフロロポリエーテル系液体潤滑剤を用いた。潤滑剤2を10gステンレス製シャーレ1に供給し、加熱ヒータ3で加熱する。加熱源のステンレスシャーレ1の温度は、シース熱電対にて80℃±10℃に温度調節をおこなった。真空チャンバ4の中に、磁気ディスク5を設置し、真空チャンバ4内を10-5Torrになる様に調整し、10秒間放置した。その後反転機構により残りの面にも潤滑剤を蒸着させ、その後、真空排気用ロータリーポンプ8と真空排気用ターボポンプ9を停止し、大気圧力になるまで放置し、磁気ディスクを取り出し、フーリエ変換赤外分光装置(FTIR)にて潤滑膜厚を測定した。磁気ディスク上に形成された潤滑膜厚は、10.0オングストロームであった。潤滑膜を形成するために使用した磁気ディスクは、ガラス基板上に、Cr下地層,CoCrPt磁性層,カーボン保護層を順次スパッタリングにて形成したサンプルを用いた。
【0010】(実施例2)SFE装置を使って精製したFomblin Z-DOL2000の重量分子量は4,200、Mw/Mnは1.07の潤滑剤を使用し真空蒸着法で蒸着した。
【0011】(実施例3)GPC装置を使って精製したFomblin Z-DOL2000の重量平均分子量は3,000、Mw/Mnは1.12の潤滑剤を使用し真空蒸着法で蒸着した。
【0012】(実施例4)GPC装置を使って精製したFomblin Z-DOL2000の重量平均分子量は4,000、Mw/Mnは1.25の潤滑剤を使用し真空蒸着法で蒸着した。
【0013】(比較例)精製していないFomblin Z-DOL2000(重量平均分子量が2,600、Mw/Mnは1.3)を上記磁気ディスクに蒸着すること以外は、実施例1?4と同様にしてサンプルを作製した。
図2は比較例で使用した未精製潤滑剤のアウジモント社(Ausimont)の潤滑剤ZDOL2000の分子量分布(a)と、その諸特性(b)を示したものである。これらの磁気ディスクを、MRヘッドスライダ(磁気抵抗型ヘッドスライダー)を用い、60℃、80%(高温高湿)、5℃,5%(低温低湿)における環境で5万回のCSS試験をおこなった。結果を表1に示す。また、MRヘッドスライダを用いて、ランプロード方式におけるヘッドと磁気ディスクの耐久試験であるヘッドのロード・アンロード試験を60℃、80%(高温高湿)、5℃,5%(低温低湿)の環境でおこなった。結果を表1に示す。」
【0014】
【表1】<表は省略>
表1に示すように、真空蒸着に精製したパーフロロポリエーテルを用いた実施例の磁気ディスクは、精製せずに用いた比較例の磁気ディスクに比べて摩擦係数が小さく、50,000回のCSS耐久試験、400,000回のロード・アンロード試験において、吸着やクラッシュすることなく良好な耐久性が得られた。」(2頁左下欄5-11行)

(3)対比
磁気ディスク装置が磁気ヘッドを有することは自明であり、引用例1発明の「磁気記録媒体」「非磁性基板」「記録層」「保護層」「潤滑層」は、それぞれ、本願補正発明の「磁気ディスク」、「非磁性基板」「磁性層」「保護層」「潤滑層」に相当する。
「フォンブリンゼットテトラオール(フォンブリンZ-TETRAOL、あるいは、Fomblin Z-TETRAOLともいう。)」とは、本願補正発明における化学式【化1】で示される化合物、または、該化合物を含む潤滑剤を示す商品名であり、「フォンブリンゼットドール(フォンブリンZ-DOL、あるいは、Fomblin Z-DOLともいう。)」とは本願補正発明における化学式【化3】で表される化合物または該化合物を含む潤滑剤についての商品名であることは周知であるから(例えば、本願明細書に【特許文献3】として引用されている特開平10-143838号公報等参照)、引用例1発明における「式(I)で示されmが1又は2であるパーフルオロポリエーテル」、及び、引用例1発明における「式(II)で示されmが1又は2であるパーフルオロポリエーテル」は、それぞれ、本願補正発明における化学式【化1】及び、化学式【化3】で表される化合物に相当する。
また、引用例1発明のパーフルオロポリエーテルは潤滑剤であることは明らかである。

したがって、本願補正発明と引用例1発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
「磁気ヘッドを備える磁気ディスク装置用の磁気ディスクの製造方法であって、
基板上に磁性層と保護層と潤滑層を成膜する工程を有し、
前記潤滑層は、
化学式
【化1】

[式中のp、qは自然数である。]
で示される化合物を含有する潤滑剤を分子量分画して所定の分子量範囲とした潤滑剤、及び、化学式
【化3】

[式中のm、nは自然数である。]
で示される化合物を含有する所定の分子量範囲の潤滑剤を含む潤滑剤を前記保護層上に成膜して形成される磁気ディスクの製造方法。」

[相違点]
[相違点1]本願補正発明は、ロードアンロード方式磁気ディスク装置用であるのに対し、引用例1発明はかかる点について特定されていない点。
[相違点2]本願補正発明の保護層は水素及び/又は窒素を含有するのに対し、引用例1発明ではこの点について明記されていない点。
[相違点3]本願補正発明は、化学式【化1】で示される化合物及び化学式【化2】で示される化合物を含む潤滑剤αを分子量分画して重量平均分子量が3000?7000、分子量分散度を1.2以下とした潤滑剤a及び化学式【化3】で示される化合物を含む潤滑剤βを分子量分画して重量平均分子量が2000?5000、分子量分散度を1.2以下とした潤滑剤bを作成し、潤滑剤aとbを混合した潤滑剤cを作製し、前記潤滑剤cを前記保護層上に成膜するのに対し、引用例1発明では化学式【化1】で示される化合物を含む潤滑剤を分子量分画して数平均分子量5000を越え10000以下である潤滑剤及び化学式【化3】で示される数平均分子量500?10000の潤滑剤の混合物を用いて成膜する点。
[相違点4]潤滑剤a及びbの混合割合が本願補正発明では、1:2?2:1であるのに対し、引用例1発明では、1:10?7:3である点。
[相違点5]磁気ヘッドの浮上量が、本願補正発明では10nm以下であるのに対し、引用例1発明では10?50nmである点。

(4)判断
[相違点1]について
引用例1発明は、2種類のパーフルオロポリエーテルを併用するとともにそれらの分子量の範囲を特定の範囲とした潤滑剤を用いることにより特にCSS方式の磁気記録装置におけるスティクションを防止することを目的としているが、ディスクの潤滑層でこの磁気ヘッドとディスクとの間に生じる吸着性が有効に抑制されることによって、高い信頼性を発揮することができ回転数10000rpm以上、磁気ヘッドの浮上量が0.01μm以上0.05μm(10?50nm)と従来よりも低い高さで浮上させることで効果が顕著であることが記載されている。(上記(2)オ)
引用例2には、SFE(超臨界抽出)装置、あるいはGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)装置により平均分子量を3000(実施例3)?4200(実施例2)、分散度(重量平均分子量/数平均分子量)を1.25以下となるように精製したFomblin ZDOL2000を潤滑剤として用いた磁気ディスクは、CSS試験及びロード・アンロード試験においていずれも吸着やクラッシュすることなく良好な耐久性が得られたことが記載されている。(上記(2)ケ)
そうすると、引用例1発明の潤滑剤をロードアンロード方式磁気ディスク装置用の磁気ディスクに用いることに特段の阻害事由があるということはできない。

[相違点2]について
磁気記録媒体の保護層として、水素及び又は窒素を含むものは周知である。(例えば、特開平9-128732号公報、特開2002-25039号公報等参照)
そして、引用例1には「保護層材料としては、C、水素化C、窒素化C、アルモファスC、SiC等の炭素質層やSiO_(2)、Zr_(2)O_(3)、TiNなど、通常用いられる保護層材料を用いることができる。保護層の主材料としては炭素質が好ましく、この炭素質膜は通常スパッタリング法、CVD法により形成される。」(段落[0040])と記載されているから、保護層として「水素化C及び/又は窒素化C」すなわち、水素及び又は窒素を含む炭素質のものを用いることは当業者にとって容易である。

[相違点3]について
(1)本願補正発明における「潤滑剤α」について
本願補正発明では、化学式【化1】で示される化合物(以下、「式1の化合物」という。)及び化学式【化2】で示される化合物(以下、「式2の化合物」という。)を含む潤滑剤αを分画したものを使用する点について、検討する。
引用例1発明の実施例(及び比較例)において、式1の化合物を含む潤滑剤として「アウジモント社製」の「フォンブリンゼットテトラオール(フォンブリンZ-TETRAOL)」を使用しているが、式2の化合物の含有量については記載されていない。
一方、本願明細書の記載(段落[0011]?[0012])によれば、潤滑剤αに含まれる式2の化合物について「ソルベイソレクシス社製」の「フォンブリンゼットテトラオール」(商品名)に不純物として含まれる成分であるが、本願明細書には、精製された潤滑剤aに含まれる式2の化合物の含有量や、本願補正発明において、磁性層に潤滑剤αに由来する式2の化合物が含まれることによって奏される効果等については何ら記載されていない。
そうすると、潤滑剤αが化学式【式2】の化合物を含む点に特段の技術的意義があるということはできず、「化学式【化1】で示される化合物及び化学式【化2】で示される化合物を含む潤滑剤α」とは、市販されている「フォンブリンゼットテトラオール」(商品名)を意味するものというべきである。
一方、式1の化合物を含む潤滑剤として「フォンブリンゼットテトラオール」(商品名)は周知であるから、本願補正発明における潤滑剤αは、引用例1発明における「化学式【化1】で示される化合物を含む潤滑剤」と実質的に異なるものということはできない。

(2)分子量の範囲及び分子量分散度について
引用例1には、式1の化合物(PFPE(I))について、「数平均分子量が5000以下であると、高速回転下において顕著なフライスティクションが観察される。しかし、PFPE(I)として必要以上に高分子量のものを用いると、潤滑剤が高粘度になり耐久性が悪化する」(上記(2)ウ)と記載されており、二酸化炭素を用いた超臨界流体抽出により分画を行い、数平均分子量を5,400?7,800(実施例)、及び、2,300、4,400(比較例)としたことが記載されている。(上記(2)カ、キ)
また、引用例2には、、二酸化炭素を用いた超臨界流体抽出により分画によって市販のパーフロロポリエーテル系の潤滑剤の分子量分散度(Mw/Mn)を1に近づけ得ること、実施例として、Fomblin Z-DOLについて精製していないもの(重量平均分子量2,600、分子量分散度1.3)から、重量平均分子量4,200、分子量分散度を1.07のものを得たこと(実施例2)が記載されている。(上記(2)ケ)
分子量分散が1に近い場合には数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)と差は小さいことを考慮すれば、本願補正発明における式1の化合物の重量平均分子量3000?7000は、引用例1発明の実施例における数平均分子量5,400?7,800と比較して、その数値範囲に臨界的意義があるということはできず、当業者が適宜設定しうる範囲にすぎない。
また、分子量分散が1.2以下とする点についても、引用例2の記載からみて、当業者にとって単なる計事項にすぎない。
また、引用例1発明において、式2の化合物を含む潤滑剤について、分子量分画を行う点について明記されていないが、分子量が大きいものや小さいものを除去することが好ましいこと、その手段として超臨界抽出を使用できることは引用例1の記載から明らかであるから、式2の化合物を含む潤滑剤についても、重量平均分子量が2000?5000、分子量分散度を1.2以下ととすることは、当業者にとって適宜なし得ることにすぎない。

そして、2種類の潤滑剤を混合して用いる場合、それぞれを別々に作成して混合することも慣用手段にすぎない。

[相違点4]について
引用例1には、実施例として化学式【化1】の潤滑剤と化学式【化3】の潤滑剤の混合比が1:10?7:3であり、実施例においてその比を1:1とする例が記載されているから混合比を1:2?2:1とすることは容易であり、その数値範囲に特段の技術的意義は見いだせない。

[相違点5]について
磁気記録装置において磁気ヘッドの浮上量が低くなるとフライスティクションが問題となること、浮上量が10nm以下である磁気記録装置は周知である。(特開2002‐25048号公報の段落[0004]?[0006]、特開2002-150505号公報の段落[0005]?[0016]参照、特開2001-160214号公報の段落[0050]?[0055]及び図11、特開2002‐222513号公報の段落[0028]?[0029]、等参照)
また、引用例1には「PFPE(I)の数平均分子量が5000以下であると、高速回転下において顕著なフライスティクションが観察される。」と記載されているから、浮上量が10nm以下である磁気記録装置においてフライスティクションを防止するために潤滑剤の低分子量成分を除くように分子量分画することは当業者が容易に想到しうることである。

次に、[相違点1]?[相違点5]について組み合わせる点について検討する。
引用例1は、2種類のパーフルオロポリエーテルを併用するとともにそれらの分子量の範囲を特定の範囲とした潤滑剤を用いることにより特にCSS方式の磁気記録装置におけるスティクションを防止することを目的としているが、引用例1にはディスクの潤滑層でこの磁気ヘッドとディスクとの間に生じる吸着性が有効に抑制されることによって、高い信頼性を発揮することができ回転数10000rpm以上、磁気ヘッドの浮上量が0.01μm以上0.05μm(10?50nm)と従来よりも低い高さで浮上させることで効果が顕著であることが記載されている。(上記(2)オ)
また、引用例2には、潤滑層に用いるパーフルオロポリエーテルを分子量分画することにより分子量分散を小さくしたものが、CSS方式及びロードアンロード方式のいずれの磁気記録装置においても使用できることが記載されている。(上記(2)ケ)
そして、ディスクの回転数を高速化し、ヘッドの浮上高さをより低くすることはCSS方式、ロードアンロード方式に共通する周知の課題であって、高速回転による遠心力で潤滑剤が移動すると、CSSゾーンとなる内周部では潤滑層が薄くなって潤滑作用が不十分となり、また、ロードアンロードが行われる外周部分では潤滑層が厚くなるため、ヘッドが潤滑層と接することによりフライングスティクションが発生することは、当業者であれば当然予測しうる課題である。
そうすると、[相違点1]?[相違点5]について、これらの構成要素の組合わせについて特に困難があるということはできず、上記各相違点について総合的に検討しても、本願補正発明の作用効果は、引用例1、引用例2及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成18年4月3日付けの手続補正は上記のとおり却下され、平成17年10月28日付け手続補正において請求項1は補正されていないから、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】基板上に磁性層と保護層と潤滑層を成膜する磁気ディスクの製造方法であって、
化学式【化1】


[式中のp、qは自然数である。]
で示される化合物、及び、化学式
【化2】

[式中のm、nは自然数である。]
で示される化合物を含有する潤滑剤αを分子量分画して、重量平均分子量(Mw)が3000?7000、分子量分散度を1.2以下とした潤滑剤aを作製し、
化学式
【化3】

[式中のm、nは自然数である。]
で示される化合物を含有する潤滑剤βを分子量分画して、重量平均分子量(Mw)が2000?5000、分子量分散度を1.2以下とした潤滑剤bを作製し、
前記潤滑剤aと潤滑剤bとを混合した潤滑剤cを作製し、前記潤滑剤cを前記保護層上に成膜して形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、および、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明から「磁気ディスク」について、「磁気ヘッドを備えるロードアンロード方式磁気ディスク装置用である」との限定事項、「磁性層と水素及び/又は窒素を含有する保護層と潤滑層を成膜する工程を有する」との限定事項、「潤滑層における潤滑剤aと前記潤滑剤bとの混合割合が重量比で1:2?2:1となるように混合する」との限定事項、及び、「磁気ヘッドの浮上量がl0nm以下である」との限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明を特定するために必要な事項を全て含み、さらに他の発明を特定するために必要な事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、その優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-20 
結審通知日 2009-01-27 
審決日 2009-02-09 
出願番号 特願2003-361982(P2003-361982)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G11B)
P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 哲  
特許庁審判長 横尾 俊一
特許庁審判官 山田 洋一
吉川 康男
発明の名称 磁気ディスクの製造方法及び磁気ディスク  
代理人 大塚 武史  
代理人 大塚 武史  

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