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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01P
管理番号 1199997
審判番号 不服2006-24615  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-31 
確定日 2009-06-29 
事件の表示 平成 8年特許願第 22429号「加速センサ及び加速センサの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 9月27日出願公開、特開平 8-248058〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成8年2月8日(パリ条約による優先権主張1995年2月10日、ドイツ、1995年8月22日、ドイツ)の出願であって、平成18年7月27日付けで拒絶査定(平成18年8月2日発送)がなされ、これに対し、同年10月31日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月30日付けで手続補正がなされたものである。

2 平成18年11月30日付けの手続補正について
当該補正は、特許請求の範囲の請求項9?15を削除し、かつ、特許請求の範囲の請求項4について、当該補正前の請求項4および5を一つの請求項にまとめるとともに記載不備を解消するものであって、請求項の削除および明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、当該補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたから、適法なものである。

3 本願発明
本願の請求項1ない7に係る発明は、平成18年11月30日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

【請求項1】 3つの層(1,2,3)を有し、第1の層(1)は支持プレートとして構成され、該第1のプレート(1)上には絶縁された第2の層(2)が被着されており、該第2の層(2)上には第3の層(3)が被着されており、該第3の層(3)からは変位可能な質量体(7)が引き出されて形成されており、前記質量体(7)は作用する応力又は加速に基づいて変位可能であり、
第3の層(3)から導体路(4)が引き出されて形成されており、前記導体路(4)は接続点(20)まで案内されており、
前記導体路(4)は第2の層(2)によって第1の層(1)から電気的に絶縁され、さらに切欠部(10)によって第3の層(3)から電気的に絶縁されており、
前記第1、第2、第3の層(1,2,3)としてシリコン-オン-アイソレータ(SOI)層構造部が形成されている、加速センサ(6)において、
前記変位可能な質量体(7)として、櫛形構造部(13)が形成されており、該櫛形構造部(13)は、第3の層(3)の表面に対して平行に変位可能であることを特徴とする加速センサ。

4 引用刊行物及び引用刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特開平7-5194号公報(以下「引用刊行物」という。)には、「集積型加速度計」の発明に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。

<記載事項1>
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、基板に平行な受感軸を有し、基板に平行な方向に可動する物体の加速度を測定する集積型加速度計に関する。」
<記載事項2>
「【0013】この発明は、基板に平行な受感軸を有し、前述した短所を取り除いた新規な集積加速度計を提供することを特に目的としている。特に、該加速度計は、電極を電気接点へ接続する導体同士が交差しない。また、従来技術による加速度計に比べてより良い指向性、再現性および感度を有する一方、寄生的なキャパシタンスの存在は多くない。
<記載事項3>
「【0017】上記遮蔽体として機能する電極は、金属により作製可能である。しかし、この加速度計の製造の便をはかるため、該電極はシリコンにより作製される。従って、全ての可動部分および測定手段は、同一材料の単一のエッチング処理を介して作製される。本発明による加速度計は、導電単結晶シリコン基板のボリュームエッチング(volume etching)、もしくは、好ましくは表面技術を利用して作製される。加速度計のコストを削減するためには、表面技術を利用し、本発明による該加速度計を標準的な機械により規格基板上に作製することが望ましい。」
<記載事項4>
「【0018】
【実施例】以下、本発明の内容を詳細に説明するために、図面を参照して、本発明の1つの実施形態である実施例について説明する。図1は、本発明による、基板に平行な受感軸を有する加速度計の構成を示す平面図である。また、図2および図3は、それぞれ、図1の II-II方向および III-III方向における断面図である。」
<記載事項5>
「【0019】図1?図3において、本発明による加速度計は、一例としてP型にドープされた単結晶性の可動振動質量体2を有しており、該質量体2は、たわみ梁6により固定支持部材4に結合されている。この質量体2は、複数の貫通穴9と、上記梁への結合を確実にするための突出片7を有している。上記部材4は、基板8に対して機械的に結合されるとともに電気的に絶縁されている。また、部材4、梁6、および基板8は、P型の単結晶シリコンにより形成されている。」
<記載事項6>
「【0021】図1の加速度計の振動質量体2は、上記Y軸の両側に、上記X方向に平行に配列された歯形状の電極列12を有しており、この電極列12は、2つの第1の可動櫛14を構成している。そして、各第1の可動櫛14に対面するように第2の固定櫛16および17が配置され、その歯列18および15は、上記方向Xに平行であるとともに上記櫛14の歯列12の間に挟まれるように配置され、電極として機能する。これらの櫛16および17もまたP型にドープされた単結晶シリコンにより形成されており、また、固定片19,21(図3参照)により基板8に結合されている。」
<記載事項7>
「【0023】・・・・・図3に示すように、梁6の各支持部材4と固定櫛16,17の各固定片19,21とは、エッチされた酸化シリコン層28により、基板8と電気的に絶縁されている。また、振動質量体2は、基板8の上部に掛け渡されている。参照符号40は、振動質量体2と基板4とを分離している空間を示す。」
<記載事項8>
「【0024】電極すなわち歯列12,18もしくは15の配列、および、静電遮蔽体20の配列は、梁6により支持された質量体2のY方向の変位の差動測定、および該測定のサーボ制御を可能にする。コンデンサ12-18のキャパシタンスの変化を測定するため、それぞれの櫛17または16上に、基準電気接点23または24が設けられている。更に、上記差動測定を実施するため、一方の支持部材4上に電気測定用接点26が設けられている。」
<記載事項9>
「【0025】Y方向への加速の結果、振動質量体2は力「F=m・y」を受け、梁6のばね定数に従ってYに平行な距離lだけ動く。そして、「交差指型」櫛16,17および14における、振動部12に一体化された電極列12と固定電極列18および15(過負荷の場合にはその受け止め部として機能する)との間で測定される各キャパシタンスは、互いに逆の様式で変化する。」
<記載事項10>
「【0026】・・・・・電気的な見地から、これら3つの直列した電極12、18または15、および22は互いに絶縁されており、接点26を介した振動質量体2と、接点24または23のそれぞれを介した18または15の2つの電極のいずれかとの間に電場Eが加えられることにより、静電引力が発生する。」
<記載事項11>
「【0027】該測定のサーボ制御のために、接点24または23と接点26との間に接続され、上記振動質量体が加速中にY方向に変位したことによる差動キャパシタンスの変化を検出する測定装置が利用される。キャパシタンス測定型のこの装置は、低振幅な交番(alternating)測定信号を発生する。そして、接点24または23および26を介して、電極列12と18または15との間に付加されるある連続した片寄り成分が、該信号に重畳される(電極列12と18または15との間のキャパシタンスは降下する)。これらにより、Y方向の加速により発生する力に等しい力(静電的な力)が誘発され、質量体2が均衡状態に戻され、各可変コンデンサが初期のキャパシタンスを有するようになる。すなわち、この片寄りはY方向の加速度の投影であり、非常に信頼性の高い直線性を有する加速度計を得ることを可能とするとともに、これを用いた構造体の自動検査が可能となる。」
<記載事項12>
「【0028】本発明による加速度計は、シリコン/絶縁体技術、更に特定すると、P型にドープされた単結晶基板に10^(16)?10^(18)イオン/cm^(2 )の酸素イオンをインプラントし、該インプラントされた構造体を1150?1400℃でアニールする「SIMOX」技術を用いて製造されるものである。これにより、酸化層28により基板8と絶縁された単結晶性のシリコンフィルムが得られる。」
<記載事項13>
「【0029】次に、従来の写真製版処理を用いて、上記酸化層の上にシリコンをエッチ(当審注:「上記酸化層の上のシリコンをエッチング」の誤記と認める。)することにより、上記固定電極列の他、上述した梁、振動質量体およびその可動電極列が形成される。そして、エピタキシャルなシリコン層内に静電遮蔽体20が形成される。これに続き、振動質量体の下の酸化物28が、フッ化水素酸を用いた化学エッチングにより、穴9および各エッジを通して除去される。」

そして、上記記載事項1ないし13及び図1ないし3から、以下のアないしオの点が読み取れる。

(ア)集積型加速度計の断面図を示した図3から、基板8は層(第1層)の形態をしていることは明らかであり、また、酸化シリコン層28(第2層)上に形成された固定支持部材4、可動振動質量体2、及び固定片19,21を有する固定櫛16,17を備えた部材も層(第3層)の形態をしていることは明らかである。
したがって、集積型加速度計は、基板8の層(第1層)と酸化シリコン層28(第2層)と固定支持部材4、可動振動質量体2、及び固定片19,21を有する固定櫛16,17を備えた層(第3層)の3つの層を有する点
(イ)図3から、
基板8上には、酸化シリコン層28(第2層)が積層され、該酸化シリコン層28上に固定支持部材4、可動振動質量体2、及び固定片19,21を有する固定櫛16,17を備えた層(第3層)が積層される点
(ウ)記載事項5、6、図3から、
3つの層は、下から順に、P型の単結晶シリコンにより形成された基板8の層(第1層)、酸化シリコン層28(第2層)、P型の単結晶シリコンにより形成された固定支持部材4、可動振動質量体2、及び固定片19,21を有する固定櫛16,17を備えた層(第3層)からなる点
(エ)記載事項5、13、図3から、
酸化シリコン層の上のP型の単結晶シリコンの層(第3層)をエッチングすることにより可動質量振動質量体2が形成されている点
(オ)記載事項9から、
(可動)振動質量体2はY方向への加速の結果、力「F=m・y」を受けYに平行な距離lだけ動く点
(カ)したがって、記載事項1、5ないし7、9、13、図3から、
基板8の層(第1層)と酸化シリコン層28(第2層)と固定支持部材4、可動振動質量体2、及び固定片19,21を有する固定櫛16,17を備えた部材も層(第3層)からなる3つの層を有し、基板8上には、酸化シリコン層28(第2層)が積層され、該酸化シリコン層28上に上記層(第3層)が積層され、該酸化シリコン層28上のP型の単結晶シリコンの上記層(第3層)をエッチングすることにより可動振動質量体2が形成されており、前記可動振動質量体2はY方向への加速の結果、力「F=m・y」を受けYに平行な距離lだけ動く点を読み取ることができる。


(ア)記載事項6、図3から、
酸化シリコン層28(第2層)上のP型の単結晶シリコンの層(第3層)から固定片19,21が形成されている点
(イ)記載事項8、図3から
固定片19,21上に基準電気接点23,24が設けられている点
(ウ)したがって、記載事項6、8、図3から、
P型の単結晶シリコンの層(第3層)から固定片19,21が形成されており、固定片19,21上に基準電気接点23,24が設けられている点を読み取ることができる。


(ア)記載事項3、7、図3から、
P型の単結晶シリコンの固定片19,21は酸化シリコン層28(第2層)を介してP型の単結晶シリコン基板8(第1層)上に積層されている点
(イ) 記載事項3、7、図1、3から、
固定片19,21はP型の単結晶シリコンの層(第3層)に形成された溝により固定支持部材4との間に空隙が形成されている点
(ウ)したがって、記載事項3、7、図1,3から、
P型の単結晶シリコンの固定片19,21は酸化シリコン層28(第2層)を介してP型の単結晶シリコン基板8(第1層)上に積層され、さらにP型の単結晶シリコンの層(第3層)に形成された溝により固定支持部材4との間に空隙が形成されている点を読み取ることができる。

エ 記載事項3、5、及び図1、3から、
基板8の層(第1層)と酸化シリコン層28(第2層)と固定支持部材4、可動振動質量体2、及び固定片19,21を有する固定櫛16,17を備えた層(第3層)からなる3つの層として、P型の単結晶シリコンの層、酸化シリコン層28、P型の単結晶シリコンの層からなる3層構造が形成されている、集積型加速度計


(ア)記載事項6から、
可動振動質量体2として、2つの可動櫛14を構成している歯形状の電極列12を有している点
(イ)記載事項8、図1から、
歯形状の電極列12はY方向に変位可能である点
(ウ)したがって、記載事項6、8、図1から、
可動振動質量体2として、2つの可動櫛14を構成している歯形状の電極列12を有し、歯形状の電極列12はY方向に変位可能である点を読み取ることができる。

したがって、上記記載事項1ないし13及び図1ないし3に基づけば、引用刊行物には、
「基板8の層(第1層)と酸化シリコン層28(第2層)と固定支持部材4、可動振動質量体2、及び固定片19,21を有する固定櫛16,17を備えた層(第3層)からなる3つの層を有し、該基板8上には酸化シリコン層28(第2層)が積層され、該酸化シリコン層28上に上記層(第3層)が積層され、該酸化シリコン層28上のP型の単結晶シリコンの上記層(第3層)をエッチングすることにより可動振動質量体2が形成されており、前記可動振動質量体2はY方向への加速の結果、力「F=m・y」を受けYに平行な距離lだけ動き、
P型の単結晶シリコンの層(第3層)から固定片19,21が形成されており、前記固定片19,21上に基準電気接点23,24が設けられており、
前記P型の単結晶シリコンの固定片19,21は酸化シリコン層28(第2層)を介してP型の単結晶シリコン基板8(第1層)上に積層され、さらにP型の単結晶シリコンの層(第3層)に形成された溝により固定支持部材4との間に空隙が形成されており、
前記基板8の層(第1層)と酸化シリコン層28(第2層)と上記層(第3層)からなる3つの層として、P型の単結晶シリコンの層、酸化シリコン層28、P型の単結晶シリコンの層からなる3層構造が形成されている、集積型加速度計において、
前記可動振動質量体2として、2つの可動櫛14を構成している歯形状の電極列12を有し、歯形状の電極列12はY方向に変位可能である集積型加速度計。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

5 対比
本願発明と引用発明とを比較する。

ア 引用発明の「基板8の層(第1層)と酸化シリコン層28(第2層)と固定支持部材4、可動振動質量体2、及び固定片19,21を有する固定櫛16,17を備えた層(第3層)からなる3つの層」は本願発明の「3つの層(1,2,3)」に相当する。

イ 引用発明の「基板8の層(第1層)」は、本願発明の「第1の層(1)」に相当する。また、引用発明の基板8上には、酸化シリコン層28(第2層)が積層され、該酸化シリコン層28上に上記層(第3層)が積層されているから、引用発明の「基板8の層(第1層)」は、本願発明でいう「支持プレートとして」機能することは明らかであり、「第1のプレート」に相当する。
さらに、引用発明の「酸化シリコン層28(第2層)」、「固定片19,21を有する固定櫛16,17を備えた層(第3層)」、「積層され」は、本願発明の「第2の層(2)」、「第3の層(3)」、「被着され」に相当する。
したがって、引用発明の「該基板8上には、酸化シリコン層28(第2層)が積層され、該酸化シリコン層28上に上記層(第3層)が積層され」は、本願発明の「該第1のプレート(1)上には絶縁された第2の層(2)が被着されており、該第2の層(2)上には第3の層(3)が被着されており」に相当する。

ウ 引用発明の「該酸化シリコン層28上のP型の単結晶シリコンの上記層(第3層)」、「可動振動質量体2」は、本願発明の「該第3の層(3)」、「変位可能な質量体(7)」に相当する。
したがって、引用発明の「該酸化シリコン層28上のP型の単結晶シリコンの上記層(第3層)をエッチングすることにより可動振動質量体2が形成されており」は、本願発明の「該第3の層(3)からは変位可能な質量体(7)が引き出されて形成されており」に相当する。

エ 引用発明の「前記可動振動質量体2」は、本願発明の「前記質量体(7)」に相当する。
したがって、引用発明の「前記可動振動質量体2はY方向への加速の結果、力「F=m・y」を受けYに平行な距離lだけ動き」は、本願発明の「前記質量体(7)は作用する応力又は加速に基づいて変位可能であり」に相当する。


引用発明の「P型の単結晶シリコンの層(第3層)から固定片19,21が形成されており」は、本願発明の「第3の層(3)から導体路(4)が引き出されて形成されており」に相当する。
また、引用発明の「固定片19,21」はP型の単結晶シリコンで形成されているから、引用発明の「固定片19,21は」、本願発明の「導体路(4)」としても機能することは明らかである。
したがって、引用発明の「P型の単結晶シリコンの層(第3層)から固定片19,21が形成されており、固定片19,21上に基準電気接点23,24が設けられており」と本願発明の「第3の層(3)から導体路(4)が引き出されて形成されており、前記導体路(4)は接続点(20)まで案内されており」とは、第3の層(3)から導体路(4)が引き出されて形成されておりの点で共通する。


(ア)上述したように、引用発明の「前記P型の単結晶シリコンの固定片19,21」、「酸化シリコン層28(第2層)」は、本願発明の「前記導体路(4)」、「第2の層(2)」に相当する。また、引用発明の「酸化シリコン層28(第2層)」は、本願発明の「電気的に絶縁する」機能を有することは明らかである。
したがって、引用発明の「P型の単結晶シリコンの固定片19,21は酸化シリコン層28(第2層)を介してP型の単結晶シリコン基板8(第1層)上に積層され」は、本願発明の「前記導体路(4)は第2の層(2)によって第1の層(1)から電気的に絶縁され」に相当する。
(イ)引用発明の「P型の単結晶シリコンの層(第3層)に形成された溝」は、本願発明の「切欠部(10)」に相当し、引用発明の「空隙」は本願発明の「電気的に絶縁」する機能を有することは明らかである。
したがって、引用発明の「P型の単結晶シリコンの層(第3層)に形成された溝により固定支持部材4との間に空隙が形成されており」は、本願発明の「切欠部(10)によって第3の層(3)から電気的に絶縁されており」に相当する。
(ウ)以上より、引用発明の「前記P型の単結晶シリコンの固定片19,21は酸化シリコン層28(第2層)を介してP型の単結晶シリコン基板8(第1層)上に積層され、さらにP型の単結晶シリコンの層(第3層)に形成された溝により固定支持部材4との間に空隙が形成されており」は、本願発明の「前記導体路(4)は第2の層(2)によって第1の層(1)から電気的に絶縁され、さらに切欠部(10)によって第3の層(3)から電気的に絶縁されており」に相当する。

キ 引用発明の「前記基板8の層(第1層)と酸化シリコン層28(第2層)と上記層(第3層)からなる3つの層」、「P型の単結晶シリコンの層、酸化シリコン層28、P型の単結晶シリコンの層からなる3層構造」、「集積型加速度計」は、本願発明の「前記第1、第2、第3の層(1,2,3)」、「シリコン-オン-アイソレータ(SOI)層構造部」、「加速センサ(6)」に相当する。
したがって、引用発明の「前記基板8の層(第1層)と酸化シリコン層28(第2層)と上記層(第3層)からなる3つの層として、P型の単結晶シリコンの層、酸化シリコン層28、P型の単結晶シリコンの層からなる3層構造が形成されている、集積型加速度計」は、本願発明の「前記第1、第2、第3の層(1,2,3)としてシリコン-オン-アイソレータ(SOI)層構造部が形成されている、加速センサ(6)」に相当する。

ク 引用発明の「前記可動振動質量体2」、「2つの可動櫛14を構成している歯形状の電極列12を有し」、「歯形状の電極列12はY方向に変位可能である」は、本願発明の「前記変位可能な質量体(7)」、「櫛形構造部(13)が形成されており」、「第3の層(3)の表面に対して平行に変位可能である」に相当する。
したがって、引用発明の「前記可動振動質量体2として、2つの可動櫛14を構成している歯形状の電極列12を有し、歯形状の電極列12はY方向に変位可能である」は、本願発明の「前記変位可能な質量体(7)として、櫛形構造部(13)が形成されており、該櫛形構造部(13)は、第3の層(3)の表面に対して平行に変位可能である」に相当する。

以上から、本願発明と引用発明の両者は、
「3つの層を有し、第1の層は支持プレートとして構成され、該第1のプレート上には絶縁された第2の層が被着されており、該第2の層上には第3の層が被着されており、該第3の層からは変位可能な質量体が引き出されて形成されており、前記質量体は作用する応力又は加速に基づいて変位可能であり、
第3の層から導体路が引き出されて形成されており、
前記導体路は第2の層によって第1の層から電気的に絶縁され、さらに切欠部によって第3の層から電気的に絶縁されており、
前記第1、第2、第3の層としてシリコン-オン-アイソレータ(SOI)層構造部が形成されている、加速センサにおいて、
前記変位可能な質量体として、櫛形構造部が形成されており、該櫛形構造部は、第3の層の表面に対して平行に変位可能である加速センサ。」の点で一致し、以下の点で一応相違する。

相違点:
導体路について、本願発明は、導体路(4)が接続点(20)まで案内されているのに対して、引用発明は、固定片19,21(導体路)上に基準電気接点23,24が設けられている点。

6 当審の判断
上記相違点に係る本願発明の「前記導体路(4)は接続点(20)まで案内されており」という事項の技術的意味を踏まえて上記相違点を検討する。

(1)「接続点(20)」について
本願明細書には、本願発明の実施例の加速センサが示された本願の図面の図1について、段落【0017】には、「この接続点20では加速センサの測定信号が取り出される。」と説明されるとともに、上記図1には、導体路4の端部の上に接続点20が設けられている様子が記載されている。
これらの記載によれば、上記事項における「接続点(20)」の技術的意味は、加速センサの測定信号を取り出す導線が接続される部位を表すものといえる。
一方、引用発明の固定片19、21上の基準電気接点23,24は、引用刊行物の記載事項8によれば、コンデンサ12-18のキャパシタンスの変化を測定するためものであり、測定用の導線が接続されることは明らかであるから、加速センサの測定信号が取り出される本願発明でいう「接続点(20)」に相当する部材であるといえる。

(2)本願発明の上記事項における「接続点(20)まで案内され」について
本願明細書には、段落【0017】の「導体路4は接続点20に案内される。この接続点20では加速センサの測定信号が取り出される。」以外、明示的には説明されていないが、本願の図面の図1には、導体路4の端部の上に接続点20が設けられている様子が図示されている。
一方、引用刊行物の図面の図1を参照すると、加速度計(加速センサ)の端から幾分奥まった位置であるが、固定片19,21の左端部の上に基準電気接点23,24が設けられている様子が図示されている。
ところで、本願の特許請求の範囲の請求項1には、加速センサにおける接続点(20)の位置について、何ら限定する記載がなされていない。ということは、本願発明における接続点(20)の設置位置は、本願の図面の上記図1に示される、加速センサの端、及び、引用刊行物の加速度計(加速センサ)の端から幾分奥まった位置も含むことは明らかである。

(3)してみると、導体路について、引用発明の「固定片19,21(導体路)上に基準電気接点23,24が設けられている」という事項と、本願発明の「導体路が接続点まで案内されている」という事項は、実質的に同一である。

したがって、上記相違点は、実質的な相違点ではなく、本願発明と引用発明とは同一である。
以上より、本願発明は、引用刊行物に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから特許を受けることができない。

なお、原査定の理由として、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとしているが、請求人は、本願発明と引用刊行物に記載された発明とを比較検討し審判請求書においてその相違を主張し、新規性について実質的に意見を述べているから、改めて拒絶理由は通知せず審決することとした。

7 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用刊行物に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから特許を受けることができない。
本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について審究するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-04 
結審通知日 2009-02-06 
審決日 2009-02-17 
出願番号 特願平8-22429
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 越川 康弘  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 山下 雅人
山川 雅也
発明の名称 加速センサ及び加速センサの製造方法  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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