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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1200010
審判番号 不服2007-6602  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-05 
確定日 2009-07-01 
事件の表示 特願2002-584237「生物学的サンプルを試験するためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月31日国際公開、WO02/86794、平成17年4月14日国内公表、特表2005-509844〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年4月22日(パリ条約による優先権主張 平成13年4月20日 米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし66に係る発明は、平成18年10月3日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし66に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、請求項1に係る発明は次のとおりのものである。

「生物学的アッセイおよびアッセイに基づく判断を行なうためのシステムであって、1または複数のサンプル中の分子を検出するためのデータ取得装置、および結果に基づく当該データ取得装置のコントロールを提供しアッセイに基づく判断を行うための、当該装置と通信する当該装置と統合されたデータ分析プロセッサーを含む、当該システム。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物1には以下の事項が記載されている。

(刊行物1:PROTEINS:Structure,Function,and Genetics Suppl.,Vol.2,1998,p.74-89の記載事項の日本語訳) 以下、下線は当審で付与したものである。
「電気泳動ゲルからの蛋白質の質量分析による同定とマイクロ特性解析:戦略と応用」と題する論文であって、
(1a)用いられている略号として、
「質量分析法(MS)」(第74頁右欄19行?20行)、「マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI)MS」(第74頁36行?37行)、「ナノエレクトロスプレイMS/MS ナノエレクトロスプレイタンデム質量分析」(第75頁下から13行?12行)
(1b)「MSによるポリアクリルアミドゲルからの蛋白質同定の戦略
ゲル分離された蛋白質のMSによる同定とマイクロ特性解析は、多くの基準を満たさなければならない。・・・
特異性は、以下の2つの方法で得られる。1)蛋白質由来のペプチドのセットの質量の正確な測定による、例えば、MSによるペプチドマッピング、又は、2)個々のペプチドからアミノ酸配列情報を取得することによる、例えばMS/MSによる配列決定。戦略は堅固で適度に速いべきである。
Shevchenkoとcoworkersにより提案された、2段MS戦略はこれらの基準を満たす(図1)。1つの蛋白質バンドまたはスポットがゲルから切り出され、洗浄され、必要に応じて還元され、S-アルキル化され、配列特異的プロテアーゼ、例えばトリプシンにより、ゲル中で分解される。生成されたペプチド混合物はゲルから抽出され、MSにより分析される。分析戦略としては、特異的なMSペプチドスクリーニング法により支えられた、高感度で速いペプチド質量マッピング法が、サンプルの最初のスクリーニングとして採用された。第1段階の蛋白質分析は、遅延抽出MALDI飛行時間MSにより行われた。それは、単純な試料調製法を、正確なペプチド質量決定によるペプチド検出の高い感度、比較的高い特異性と組み合わせたものである。典型的な測定時間は、試料当たり2-5分である。多くの場合、データベース検索による不明確な蛋白質同定がなされる。多くの試料の配列分析を許容するマルチプローブデザインの使用により、高い処理能力が提供される。最近のソフトウエアの進歩は、自動配列データベース検索と報告により、ペプチド質量マップの自動取得を可能にした。 蛋白質同定のためのMALDIペプチド質量マッピングの成功は、蛋白質由来のペプチドの質量の典型的なセットの検出による。この方法は、調べる蛋白質が知られているものである、例えば、蛋白配列データベースに存在する、ことが要求される。このように、ペプチド質量マッピング法は限界がある。つまり、蛋白質試料の濃度が低い場合、また未知の蛋白質の場合である。そのため、補完的な方法は、このような蛋白質からアミノ酸配列情報が得られることが必要である。MALDI MSにより、試料のたった2-5%しか消費されないので、次の分析のために試料の多くの部分が残る。
第2段階の分析は、ナノエレクトロスプレイMS/MSにより行われる。この方法は、ペプチド混合物中の選ばれた成分の部分的または完全なアミノ酸配列を生成するために使用される。部分的なアミノ酸情報と関連情報は、配列データベース検索のための高い特異性プローブである「ペプチド配列タグ」に組み立てられる。ナノエレクトロスプレイMSのためのサンプル調製は、ペプチド混合物の濃縮と脱塩からなる。これは、比較的簡単であるが、まだ自動化されていない。ナノエレクトロスプレイMSのための、試料の処理能力は、1日あたり約5試料と限られている。しかし、試料導入の技術の進歩により、直ぐに処理能力は増えるであろう。サンプル調整法における進歩や4重極飛行時間(Q-TOF)MS/MSの進展により、質量解析、質量精度、感度、データーベース検索特異性において、顕著な進歩をなしとげた。」(第76頁右欄26行?第77頁右欄26行)
(1c)「図1.MSによる、蛋白質の一義的な同定のための戦略。電気泳動で単離された蛋白質は、配列特異的プロテアーゼによりゲル中で分解され、生成されたペプチド混合物は、MALDI MSにより分析された。高い質量精度のペプチドマップは、広範な蛋白質配列データベースに問い合わせるに用いた。もし、1つの蛋白質が一義的に同定されれば、その試料は、同定された蛋白質のリストに加えられ、次の試料に必要な処置が行われる。同定されない場合は、試料は脱塩され、混合物の多くのペプチドは、ナノエレクトロスプレイMS/MSで配列決定される。ペプチド配列タグは、蛋白質または対応するESTを同定するために、全長検索データベースまたはESTデータベースのいずれかのデーターベース検索に用いられる。未知の蛋白質の場合は、全長ペプチド配列は、タンデム質量分析から抽出され、同族の遺伝子のクローニングのためのオリゴヌクレオチドプローブをデザインするのに使用される。詳細は文献を参照せよ。」(第77頁左欄)
(1d)図1として、蛋白質の一義的な同定のための戦略のフロー図が示されている。(第77頁左欄)

3.対比・判断
上記刊行物1の記載事項(上記(1c)(1d))から、刊行物1には、
「電気泳動で単離された蛋白質を分解して生成されたペプチド混合物を分析するためのMALDI MS装置、この装置により得られたペプチド質量マップから蛋白質を同定するための蛋白質配列データベースとこのデータベースに問い合わせる手段、蛋白質が一義的に同定された場合、蛋白質のリストに加える手段、一義的に同定できない場合、脱塩濃縮した試料を配列決定するためのナノエレクトロスプレイMS/MS装置、この装置により得られたペプチド配列タグから蛋白質を同定するための全長検索データベースまたはESTデータベースとこのデータベースに問い合わせる手段を含む蛋白質同定システム」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。
(ア)刊行物1発明の「ペプチド混合物」、「蛋白質」、「MALDI MS装置」および「ナノエレクトロスプレイMS/MS装置」、「蛋白質同定システム」は、本願発明の「1または複数のサンプル」、「サンプル中の分子」、「データ取得装置」、「生物学的アッセイおよびアッセイに基づく判断をおこなうためのシステム」にそれぞれ相当する。
(イ)刊行物1発明の「蛋白質配列データベースとこのデータベースに問い合わせる手段」および「全長検索データベースまたはESTデータベースとこのデータベースに問い合わせる手段」と、本願発明の「結果に基づく当該データ取得装置のコントロールを提供しアッセイに基づく判断を行うための、当該装置と通信する当該装置と統合されたデータ分析プロセッサー」とは、アッセイに基づく判断を行うデータ分析プロセッサーである点では共通している。
したがって、本願発明と刊行物1発明との間には、以下のような一致点及び相違点がある。

(一致点)
生物学的アッセイおよびアッセイに基づく判断を行なうためのシステムであって、1または複数のサンプル中の分子を検出するためのデータ取得装置、およびアッセイに基づく判断を行うためのデータ分析プロセッサーを含む、当該システム。

(相違点)
アッセイに基づく判断を行うためのデータ分析プロセッサーが、本願発明では、結果に基づく当該データ取得装置のコントロールを提供し、当該装置と通信する当該装置と統合されたものであるのに対して、刊行物1発明では、蛋白質が一義的に同定された場合の蛋白質のリストに加える手段、一義的に同定できない場合に用いるナノエレクトロスプレイMS/MS装置を有し、蛋白質の同定という結果に基づいて装置の操作が行われるものであり、通信手段により装置の操作をコントロールするものではない点。

そこで、上記相異点について検討する。
一般に、試料の分析では、十分な最終結果が得られなかった場合、残った試料を再度同じ装置で分析することは、本願優先日前から通常行われていることである。そして、質量分析においても同様であることは、例えば、特開平5-13044号公報(第2頁右欄45行?47行)にも記載されるとおりであり、検出信号を評価した結果に基づいて、同じ質量分析装置に信号を送り、再度同じ試料を分析するように自動的にコントロールすることは、例えば、特開平10-213567号公報(【請求項1】、【0018】、【0019】、【図1】、【図2】)、特開2000-173532号公報(【請求項1】、【0026】、【図2】)にも記載されるように、本願優先日前の周知技術である。さらに、自動分析装置において、最終的な検査結果に基づいて、再検査が必要な場合、再検査をするように自動分析装置を制御することは、例えば、特開2000-258430号公報(【0040】?【0042】、【図4】)、特開平3-53169号公報(第3頁左上欄16行?右上欄19行、第1図)に記載されるように、本願優先日前に周知の技術である。
そうすると、質量分析装置である、MALDI MS装置を含む刊行物1発明において、MALDI MS装置による分析で蛋白質が十分に同定できなかった場合、異なるタイプの質量分析装置である、ナノエレクトロスプレイMS/MS装置による分析に移る前に、再度、MALDI MS装置で分析するようにし、この再分析の指示を、ペプチド配列のデータベースに問い合わせ蛋白質の同定を行う手段により、得られた同定結果に基づいて送信するようにすることは、当業者が容易になし得たものといえる。
そして、本願明細書に記載された、より効率的で正確な、生物学的サンプルの同定ができるという効果は、刊行物1及び上記周知技術から予測し得たものであり、格別顕著なものともいえない。

(審判請求人の主張について)
請求人は、審判請求理由で、従来技術が、スペクトルの質に基づいてスペクトルの再取得等を行うものであるのに対して、本願発明は、スペクトルという生データではなく、最終的結果に基づいてデータ取得装置を調整するものであり、これにより、スペクトルノイズが不可避でも正確な結果を得ることができると主張し、本願発明の「結果」が「最終的結果」であることを明りょうにする補正案を提示している。
しかしながら、刊行物1には、MALDI MSで蛋白質の同定ができたか否かにより、次の試料の分析に移るか、同じ試料をナノエレクトロスプレイMS/MS装置で再度分析するか決定することが記載されており、ここで蛋白質の同定方法は、ペプチド質量マッピング法であり、調べる蛋白質が、例えば、蛋白配列データベースに存在することにより知られているものであること記載されているから(上記(1b)(1c))、蛋白質の配列という最終的結果が得られるか否かにより、その試料の分析を終了するか、再度分析するかを決定しているといえる。そうすると、本願発明の「結果」が「最終的結果」であることは、本願発明と刊行物1発明との相異点にはならず、請求人の主張は採用できない。
さらに、本願発明は、データ取得装置が質量分析装置であることを限定したものではないことも考慮すると、上記のとおり、自動分析装置において、最終的な検査結果に基づいて、再検査が必要な場合、再検査をするように自動分析装置を制御することは、例えば、特開2000-258430号公報(【0040】?【0042】、【図4】)、特開平3-53169号公報(第3頁左上欄16行?右上欄19行、第1図)に記載されるように、本願優先日前に周知の技術であり、最終的結果に基づいてデータ取得装置をコントロールすることに、格別の困難性があるとはいえず、請求人の主張は採用できない。

4.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-29 
結審通知日 2009-02-03 
審決日 2009-02-16 
出願番号 特願2002-584237(P2002-584237)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 白形 由美子  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 宮澤 浩
後藤 時男
発明の名称 生物学的サンプルを試験するためのシステムおよび方法  
代理人 山崎 宏  
代理人 田中 光雄  

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