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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1200041
審判番号 不服2005-12509  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-01 
確定日 2009-07-08 
事件の表示 平成 7年特許願第518589号「突然変異体ルシフェラーゼ」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 7月13日国際公開、WO95/18853、平成 8年11月 5日国内公表、特表平 8-510387〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯及び本願発明
本願は,1995年1月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1994年1月3日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成17年3月25日付で拒絶査定がなされ,これに対し,平成17年7月1日に該拒絶査定に対する審判請求がなされたものの,平成20年3月19日付で当審において拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,これに対し,平成20年9月24日付で特許請求の範囲についての手続補正がなされるとともに意見書(以下,単に「意見書」という。)が提出された。
そして,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,本願明細書の記載からみて,平成20年9月24日付で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの

「【請求項1】
配列番号1で表される野生型甲虫ルシフェラーゼLucPplGRとは異なるアミノ酸配列を有する突然変異甲虫ルシフェラーゼであって,配列番号1で表されるLucPplGRのアミノ酸配列における位置232,236,237,242,244,245,248及び348からなる群から選択される位置に対応する位置においてアミノ酸置換を含み,該アミノ酸置換により野生型甲虫ルシフェラーゼが産生するものと比べて少なくとも1ナノメーターのピーク強度波長シフトを有する生物発光を産生する突然変異甲虫ルシフェラーゼ。」

であると認められる。



第2.当審拒絶理由及び引用例の記載内容
1.本願発明に対して通知された当審拒絶理由のうち,特許法第29条第2項に関するものの概要は,以下のとおりである。

「本願発明は,本願の優先権主張の日前に頒布された『Journal of Bioluminescence and Chemiluminescence,1990年,Vol.5,p.107-114』及び『Journal of Bioluminescence and Chemiluminescence,1989年,Vol.4,p.31-39』に記載された発明,並びに,本願優先日前の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」


2.そのうち,当審拒絶理由において文献2として引用された,「Journal of Bioluminescence and Chemiluminescence,1990年,Vol.5,p.107-114」には,次の事項が記載されている。

(2-1)「・・・酵素構造と色との関係を研究する目的で,ジャマイカのクリックビートルに由来するルシフェラーゼをモデル系として試験した。これらのルシフェラーゼは,アミノ酸配列で5%以下の違いにもかかわらず,緑色から橙色までの範囲で発光する。対応するcDNAクローンの変異から,色の変化に関与するアミノ酸を同定した。これらの特異的なアミノ酸は少ししかなく,また,それらは,酵素構造に対応する色に独立して作用した。それらの作用を解析することにより,クリックビートルのルシフェラーゼにおける色変化の可能性は,現在明らかになっているよりも,より大きいということが示される。」(第107頁「要約」)

(2-2)「色の変化は,ビートルのルシフェラーゼで顕著である。特にジャマイカに由来する熱帯のクリックビートル,Pyrophorus plagiophthalamusにおいて,この変化の見事な例が生じている。」(第108頁左欄下から第4-1行)

(2-3)「色に影響を及ぼす置換の独立性・・・例えば,E223,V238→R,Lの置換を行った再配列ハイブリッドは,黄色発光ルシフェラーゼの色を490cm^(-1)だけシフトさせる。・・・もう一つの例として,黄色発光ルシフェラーゼに適用されたS247→G置換は-430cm^(-1)のシフトを引き起こす。しかしながら,同様の置換を黄緑色発光ルシフェラーゼに適用した場合,結果としてのシフトは-580cm^(-1)と,35%大きいものとなる。」(第109頁右欄第47行-第110頁左欄第22行)

(2-4)「手短に言えば,クリックビートルのルシフェラーゼには,修飾に対する大きな可能性と,発光色の変化に対する大きな可能性があると思われる。」(第112頁右欄第5-8行)


3.また,当審拒絶理由において文献3として引用された「Journal of Bioluminescence and Chemiluminescence,1989年,Vol.4,p.31-39」には,次の事項が記載されている。

(3-1)「・・・ジャマイカのクリックビートル,Pyrophorus plagiophthalamus,は異なる色の光を放つことができる。・・・このクリックビートルから,少なくとも4つの異なるルシフェラーゼをコードするcDNAを,我々は最近,クローニングした。これらのルシフェラーゼは,大腸菌で発現させた際に,生物発光の色の相違で区別することができる。これらの異なるルシフェラーゼ間における配列の相違は少なく,そのため,発光色の相違に寄与するアミノ酸もまた少ないに違いない。元となるcDNAクローンの断片を再構築することによってハイブリッド・ルシフェラーゼを調製し,色を決定するアミノ酸の幾つかを同定した。」(第31頁「要約」)

(3-2)「これらのcDNAクローンは異なる4種からなり,それらがコードするルシフェラーゼによって発せられる光の色,つまり,緑色(546nm),黄緑色(560nm),黄色(578nm)及び橙色(593nm)によって区別することができる。」(第32頁右欄第4-8行)

(3-3)「図1. 4つの異なる色を発光可能なクリックビートルの4つのルシフェラーゼのアミノ酸配列。黄緑色を発光するルシフェラーゼの全配列を示す。該配列の上部及び下部に,その他のルシフェラーゼの配列で相違する部分のアミノ酸のみ示す。該配列の上部には緑色を発光するルシフェラーゼのアミノ酸相違を示す。該配列の1行下部には黄色を発光するルシフェラーゼのアミノ酸相違を示し,2行下部には橙色を発光するルシフェラーゼのアミノ酸相違を示す。ダッシュ記号は黄緑色を発光するルシフェラーゼと相違がないことを示す。・・・」との記載と共に,図1には,アミノ酸配列が記載されている。(第33頁図1)

(3-4)「複数の制限酵素の異なる組合せをcDNAクローンに対して用いることにより,4種の配列は,1セットにつき5から8種の再配列ハイブリッドで構成される4つのセットを形成するよう,組み換えられた(図6)。元となった4つのクローンを含め,これらのハイブリッドは,全体で31種の異なるルシフェラーゼ配列を形成する。」(第36頁左欄第49行-右欄第5行)

(3-5)「用語を単純化するために,緑色を発光するクローンをluc-GRと,黄緑色を発光するクローンをluc-YGと,黄色を発光するクローンをluc-YEと,橙色を発光するクローンをluc-ORということとする。ハイブリッドは『luc-』に続いて数字と文字で表すこととする。」(第36頁右欄第33-38行)

(3-6)「luc-YG→3e[R223,L238→E,V]においては,560nmから577nm へのスペクトルシフトが起こり,luc-YEのスペクトルと区別できないものとなった。」(第38頁左欄第1-3行)



第3.対比・判断
1.対比
摘記事項(2-1)-(2-3)からみて,文献2には,クリックビートルPyrophorus plagiophthalamus(以下,単に「クリックビートル」という。)由来の「黄色発光ルシフェラーゼにおいてE223,V238→R,L置換を行った場合,色が490cm^(-1)だけシフトする」こと,及び,「黄緑色発光ルシフェラーゼにおいてS247→G置換を行った場合,色が-580cm^(-1)だけシフトする」ことが記載されている。

ここで,摘記事項(3-3)に示されるアミノ酸配列からみて,クリックビートル由来の「黄色発光ルシフェラーゼにおいてE223,V238→R,L置換を行った」ものは,野生型の黄色発光ルシフェラーゼと異なるアミノ酸配列からなるものであるとともに,例えば,224位のアミノ酸が「A」である点で野生型緑色発光ルシフェラーゼとは異なるアミノ酸配列からなるものでもある。つまり,該「黄色発光ルシフェラーゼにおいてE223,V238→R,L置換を行った」ものは,クリックビートル由来の野生型緑色発光ルシフェラーゼとは異なるアミノ酸配列からなるものである。クリックビートル由来の「黄緑色発光ルシフェラーゼにおいてS247→G置換を行った」ものも,同様に,クリックビートル由来の野生型緑色発光ルシフェラーゼとは異なるアミノ酸配列からなるものである。

また,色が,該置換によって,前者は「490cm^(-1)だけシフトする」ものであり,後者は「-580cm^(-1)だけシフトする」ものである。ここで,摘記事項(3-2)に示される各色の波長を考慮すると,黄色(578nm)において「490cm^(-1)だけシフト」した場合の波長は「約562nm」に相当し,黄緑色(560nm)において「-580cm^(-1)だけシフト」した場合の波長は「約579nm」に相当する。

以上から,文献2には,「クリックビートル由来の野生型緑色発光ルシフェラーゼとは異なるアミノ酸配列からなるルシフェラーゼであって,クリックビートル由来の野生型黄色発光ルシフェラーゼにおいてE223,V238→R,L置換を行い,発光色の波長が578nmから約562nmにシフトしたルシフェラーゼ,及び,クリックビートル由来の野生型黄緑色発光ルシフェラーゼにおいてS247→G置換を行い,発光色の波長が560nmから約579nmにシフトしたルシフェラーゼ」が記載されているといえる。

そこで,本願発明と文献2に記載された発明(以下,「引用発明2」という。)とを対比する。
引用発明2の「クリックビートル由来の野生型緑色発光ルシフェラーゼ」は,本願明細書の「コメツキムシPyrophorus plagiophthalamusの,緑色発光を実現するルシフェラーゼLucPplGRのcDNA配列及びアミノ酸配列を配列表に,配列番号1を付して示す。」(第13頁下から第4-1行)との記載からみて,本願発明の「配列番号1で表される野生型甲虫ルシフェラーゼLucPplGR」に相当する。また,引用発明2の「波長」は本願発明の「ピーク強度波長」に相当する。さらに,引用発明2のルシフェラーゼの波長である「約562nm」及び「約579nm」は,両者とも,クリックビートル由来の野生型ルシフェラーゼが産生する光の波長,つまり,緑色(546nm),黄緑色(560nm),黄色(578nm)及び橙色(593nm)の波長と少なくとも1nmの相違があるといえる。
してみると,本願発明と引用発明2は,「配列番号1で表される野生型甲虫ルシフェラーゼLucPplGRとは異なるアミノ酸配列を有する突然変異甲虫ルシフェラーゼであって,アミノ酸置換を含み,該アミノ酸置換により野生型甲虫ルシフェラーゼが産生するものと比べて少なくとも1ナノメーターのピーク強度波長シフトを有する生物発光を産生する突然変異甲虫ルシフェラーゼ」である点で一致する。
しかし,本願発明は「配列番号1で表されるLucPplGRのアミノ酸配列における位置232,236,237,242,244,245,248及び348からなる群から選択される位置に対応する位置」においてアミノ酸置換がなされるものであるのに対し,引用発明2は,「LucPplYEのアミノ酸配列における位置223及び238」において,及び,「LucPplYGのアミノ酸配列における位置247」においてアミノ酸置換がなされるものである点で,両者は相違する。


2.判断
上記相違点について検討する。摘記事項(2-1)及び(2-4)からみて,文献2には,「クリックビートルのルシフェラーゼにおける色変化の可能性は,現在明らかになっているよりも,より大き」く,「クリックビートルのルシフェラーゼには,修飾に対する大きな可能性と,発光色の変化に対する大きな可能性があると思われる」旨が記載されている。
また,摘記事項(3-1),(3-4),(3-5)及び(3-6)からみて,文献3には,「LucPplYEのアミノ酸配列における位置223及び238において,それぞれR→E及びL→Vという置換がなされ,560nmから577nmへのスペクトルシフトが起こったルシフェラーゼを,遺伝子組換技術により調製した」旨が記載されている。
以上を考慮すると,クリックビートルに由来するルシフェラーゼにおける更なる色変化を期待して,引用発明2とは異なる部位にアミノ酸置換等の修飾を施すこと,及び,該アミノ酸置換を遺伝子組換技術を用いて行うことは,当業者が容易に想到し得ることである。その際,置換を施す対象として,「LucPplGR」,「LucPplYG」,「LucPplYE」及び「LucPplOR」の何れを選択するかは当業者が適宜決定し得たことである。

そこで,本願発明の「配列番号1で表されるLucPplGRのアミノ酸配列における位置232,236,237,242,244,245,248及び348からなる群から選択される位置に対応する位置」においてアミノ酸置換を施した場合に奏される効果について検討する。
まず,本願明細書の「表III」の記載からみて,例えば,位置248のIをR及びVに置換したもののピーク強度波長は,両者とも1nmしかシフトしておらず,この程度のピーク強度波長シフトは,引用発明2で既に達成されているといえる。また,本願発明はそれぞれの位置での置換後のアミノ酸を特定していないから,本願明細書の「表III」の記載で例えピーク強度波長が大きくシフトしている位置であっても,それはその位置においてある特定のアミノ酸に置換した場合の結果に過ぎずない。さらに,本願優先日前の技術常識を考慮しても,その位置においてその他のアミノ酸に置換したものでも同程度の結果が得られると推認することはできない。
してみると,本願発明の奏する効果には,引用発明2で既に達成された程度のものや,その程度が不明なものが多数包含されているといえる。
したがって,本願発明の構成全体にわたって,当業者が予測できない顕著な効果が奏せられているとはいえない。

よって,本願発明は,文献2及び3の記載並びに本願優先日前の技術常識に基づいて,当業者が容易になし得たものである。


3.請求人の主張について
請求人は,意見書において,本願発明の変異を入れる位置は「4種の野生型ルシフェラーゼにおいて保存されているアミノ酸」の位置のみである点,及び,「当業者は文献3の摘記事項(3-3)等に記載されるように4種の野生型ルシフェラーゼの同一性が高いにも関わらず,4種の発光色が発光されるという事実から,非保存領域のアミノ酸が発光色の違いに寄与していることを教示されるはずであるから,4種の野生型ルシフェラーゼにおいて保存されたアミノ酸の位置の中に発光色の違いをもたらすアミノ酸置換位置を見出した本願発明は引用文献に対して進歩性を有するものであると思料する。」と主張する。
確かに,請求人のいうとおり,当業者は,摘記事項(3-3)から,甲虫における「4種の野生型ルシフェラーゼの同一性が高いにも関わらず,4種の発光色が発光されるという事実」,及び,「非保存領域のアミノ酸」がそれらの発光色の違いに寄与するであろうことを認識できるといえる。つまり,摘記事項(3-3)の記載から,「非保存領域のアミノ酸」が,甲虫における野生型の緑色発光ルシフェラーゼ,黄緑色発光ルシフェラーゼ,黄色発光ルシフェラーゼ及び橙色発光ルシフェラーゼの発光色の違いに寄与していると当業者は推認するといえる。
しかし,このことから直ちに「保存領域のアミノ酸」が発光色の違いに寄与しないことを導くことはできない。しかも,当審拒絶理由でも述べたように,非常に同一性の高いタンパク質間の場合は,多くの部位でアミノ酸が保存されており,アミノ酸が保存されているからといって,その部分が活性に重要な部位であるとはいえないものであり,かつ,甲虫の「4種の野生型ルシフェラーゼ」の同一性が互いに95-99%と極めて高いことは文献3の摘記事項(3-3)の記載から当業者に明らかであるから,「甲虫の4種の野生型ルシフェラーゼにおいて保存されているアミノ酸」が該ルシフェラーゼの活性に重要なものであり,変異を導入することはできないと当業者が考えるということはできない。つまり,「甲虫の4種の野生型ルシフェラーゼにおいて保存されている」ことは,「保存領域のアミノ酸」に変異を導入することの阻害要因とはならない。



第4.むすび
以上から,本願発明は,本願の優先権主張の日前に頒布された文献2及び3の記載,並びに,本願優先日前の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず,したがって,本願は,「第2.1.」で述べた当審拒絶理由によって拒絶をすべきものである。
よって,結論とおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-09 
結審通知日 2009-02-10 
審決日 2009-02-24 
出願番号 特願平7-518589
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 騎見高深草 亜子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 平田 和男
小暮 道明
発明の名称 突然変異体ルシフェラーゼ  
代理人 川口 義雄  
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