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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1200180
審判番号 不服2006-9191  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-08 
確定日 2009-07-09 
事件の表示 特願2000- 42187「樹脂容器表面への印刷方法および樹脂容器」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月28日出願公開、特開2001-232928〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願は、平成12年2月21日の出願であって、平成17年8月30日付け(発送日:同年9月6日)の拒絶理由通知に対して、同年11月7日付けで意見書と共に手続補正書が提出されたところ、平成18年3月31日付け(発送日:同年4月4日)で拒絶査定がなされたものである。
これに対して、平成18年5月8日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同年6月7日付けで、明細書についての手続補正がなされたものである。
又、当審において審判審尋をかけたところ、平成20年7月4日付けで回答書が提出されている。

第2 平成18年6月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
平成18年6月7日付けの手続補正を却下する。

[理由1]
平成18年6月7日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された(以下、「本件補正発明」という。)。
「樹脂容器表面に所望の文字、図形、記号および/または模様の印刷を行うに際し、
前記樹脂表面に、アンダーコート層を設け、このアンダーコート層の上に所望の不透明色のインクを用いて文字、図形、記号および/または模様を印刷した後、透明インクを用いて、前記印刷した文字、図形、記号および/または模様の上に、該印刷した文字、図形、記号および/または模様の縁取りをするように、前記不透明インクの塗膜の厚さよりも厚く、かつ、前記印刷した文字、図形、記号および/または模様よりもわずかに大きく、当該印刷した文字、図形、記号および/または模様に対応する文字、図形、記号および/または模様を印刷により形成し、前記アンダーコート層及び前記透明インクの一方を艶消し層とすると共に、他方を光沢層とすることを特徴とする、樹脂容器表面への印刷方法。」
(下線は補正箇所を示し、本件補正において付されたとおりである。)
本件補正は、発明の特定事項として「アンダーコート層を設け」る工程を追加する補正事項を含むものである。
ところで、本件補正により、本件補正発明の特定事項として追加された「アンダーコート層を設け」る工程は、補正前の請求項1に係る発明において、発明を特定するために必要な事項とはなっていない。
即ち、「アンダーコートを設け」る工程を追加する補正は、補正前の請求項1に係る発明における特定事項の何れをも限定するものではなく、新たな工程を付加するものであるから、当該特定事項の追加は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは言えず、又、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものではないことは明らかである。
以上のとおり、「アンダーコートを設け」る工程に係る補正事項を含む本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項に掲げる事項を目的とするものに該当しない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

念のため、上記「不透明インクの塗膜の厚さよりも厚く、」とする補正事項について、付記する。
当該補正事項は、補正前の請求項1の6行目の「透明インク」を「不透明インク」と補正するものである。
本件補正発明は、不透明色のインクを用いて文字等を印刷し、その不透明色のインクによる文字等の上に、透明インクを用いて文字等を印刷するものであるところ、補正前の請求項1においては、上に印刷される透明インクの厚さを特定する事項として「透明インクの塗膜より厚く、」と記載していたものであり、請求項1全体の記載からみて、この「透明インク」が「不透明インク」の誤りであることは明らかであるから、当該補正事項は「誤記の訂正」を目的とするものである。
さらに付言すれば、この点は、原審における拒絶査定において、備考欄のなお書きではあるが、「『前記透明インクの塗膜よりも厚く』がどのような記載を意図した記載なのか不明りょうである。」と指摘されており、「透明インクの塗膜の厚さ」に係る補正事項は、この指摘に基づくものと認められるから、「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものとも言える。
そして、「透明インクの厚さが不透明インクの厚さより厚い」点は、本願明細書の段落【0012】及び図3に明記されている。
以上のとおりであるから、「透明インクの塗膜の厚さ」に係る補正事項は適法である。

なお、審判請求人(以下、「請求人」という。)は、「アンダーコート層」に係る補正事項に関して、平成20年7月4日付け回答書において、「かかる補正は、当該補正前の樹脂表面の状態を限定することで、樹脂表面の構成自体を下位概念化するものであり、」(1頁下から2行?2頁1行)と主張する。
しかしながら、「樹脂表面の状態を限定することで樹脂表面の構成自体を下位概念化する」とは、例えば、樹脂表面に凹凸を付ける、或いは、樹脂表面を粗面(滑面)とする等、樹脂表面そのものの状態を、更に限定することを言うものと認められ、樹脂表面の上に別の層(アンダーコート層)を積層するという工程を新たに付け加えることは、樹脂表面(そのもの)の状態を限定し、下位概念化するものとは言えないから、請求人の主張は採用できない。

[理由2]
仮に、請求人の主張のとおり、「上記補正は請求項の限定的減縮に該当するもの」(同回答書2頁2行)として、本件補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、即ち、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、以下、検討する。

1.本件補正発明
上記[理由1]に記載したとおりである。

2.引用刊行物とそれに記載された事項及び発明
(1)本願出願前に頒布された刊行物である特開平4-259586号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面(特に図1参照)と共に次の事項が記載されている。
ア.段落【0001】
「【産業上の利用分野】本発明はチューブ容器の模様印刷方法及び模様チューブ容器に関する。」
イ.段落【0002】
「【従来の技術】従来、ポリエチレンなどの合成樹脂で製作した透明チューブ容器の表面に文字や記号などの模様を印刷する場合、それらを容器表面に直接オフセット印刷している例、あるいは、シルクスクリーン印刷している例などが知られている。」
ウ.段落【0003】
「【発明が解決しようとする課題】ところで、上記のような従来の印刷方法で合成樹脂チューブ容器に印刷した文字や記号などの模様は、容器を形成している樹脂が透明な場合、特にその輪郭が不鮮明で見づらく、外観が良くないという問題点があった。」
エ.段落【0004】
「本発明は、このような従来の技術上の問題点を解消するため、透明チューブ容器に対して輪郭の鮮明な模様の印刷が可能な印刷方法、及び、輪郭の鮮明になっている模様の印刷されたチューブ容器を提供することを技術的課題とする。」
オ.段落【0011】
「本発明では、このようなポリエチレン製チューブ容器に、紫外線硬化型のウレタン系不透明印刷塗料をシルクスクリーン印刷して容器表面に不透明被膜を形成する。」
カ.段落【0015】
「本発明ではこのようにして不透明被膜が定着した上面に、更に、紫外線硬化型の有色アクリル系印刷塗料をオフセット印刷して模様付けする。」
キ.段落【0018】
「模様は通常、文字や記号、図形などからなる。輪郭を明瞭化する必要のある模様については、容器表面で定着している不透明被膜の上で被膜輪郭線の内側に模様輪郭線が位置するように印刷する。模様印刷する範囲がウレタン系の不透明被膜の輪郭からはみ出ると、はみ出た模様の輪郭が不明確になって好ましくない。」
ク.段落【0021】
「本発明では、次いで、紫外線硬化型透明アクリル系印刷塗料で不透明被膜と模様層との上を被うオーバーコート印刷を行って保護膜を形成する。」
ケ.段落【0026】
「上記のような方法によると、透明チューブ容器の表面に、紫外線硬化されたウレタン系樹脂による不透明被膜と、紫外線硬化された有色アクリル系樹脂による模様層と、紫外線硬化された透明アクリル系樹脂による保護膜とがこの順に下層から三層に積層してある模様チューブ容器が得られる。」
コ.段落【0033】
「これによって、図1断面図に示すような、チューブ容器1の表面に、紫外線硬化された不透明被膜2と有色模様層3と保護膜4とがこの順に三層に積層してあるチューブ容器が得られた。」
サ.段落【0035】
「本実施例では、模様を黒色で形成し、下地を白色にしてあるので、模様と下地との間にはっきりした明度の相違がみられ、模様がいっそう鮮明になった。」
シ.段落【0036】
「【発明の効果】本発明のチューブ容器の模様印刷方法、及び、模様チューブ容器は上記のような構成でなるから、透明チューブ容器に対して輪郭の鮮明な模様の印刷が可能であり、また、輪郭の鮮明になっている模様の印刷されたチューブ容器が得られる。」

上記オ?サ及び図1等からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1記載発明」という。)が記載されている。
「ポリエチレン製チューブ容器に、文字や記号、図形などからなる模様を印刷するに際し、
容器表面に、ウレタン系不透明印刷塗料を印刷して不透明被膜を形成し、該不透明被膜が定着した上面に、更に、有色アクリル系印刷塗料により、模様層を印刷し、次いで、透明アクリル系印刷塗料により、不透明被膜と模様層との上を被うオーバーコート印刷を行って保護膜を形成する、ポリエチレン製チューブ容器の模様印刷方法。」

(2)同じく本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-30154号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ス.段落【0001】
「【産業上の利用分野】本発明は、カラー印刷物の美粧化に係わり、絵柄のインキ量、濃淡、所望の部分に応じた光沢の変化や、凹凸模様がある、めりはりを与えるカラー印刷物に関する。」
セ.段落【0003】
「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、カラー印刷物の全面に設ける透明印刷層は、全面に光沢を与えるが、絵柄の濃淡にかかわらず均一な光沢度をもち、印刷物としては視覚的に立体感のある質感を表現できないという問題点があった。本発明は、従来にない視覚的に立体感が高く、また凹凸模様があるカラー印刷物の提供に関するものである。」
ソ.段落【0005】
「本発明のカラー印刷物は、図1に示すように、用紙1にカラー分解した版を用いて多色のカラー印刷層21、22、23を設ける。そして、カラー印刷層2を形成するインキ量は、その絵柄層の階調性に対応して、例えば22>23>21の順に設けられている。次いで、カラー印刷層22、23及び21のそれぞれのインキ量に対応する透明インキを印刷できる版を用いて透明印刷層の厚みが、32>33>31になるように透明印刷層3を設けてカラー印刷物を構成するものである。」
タ.段落【0007】
「本発明に使用する用紙は、特にその種類を問うものではないが、光沢の発現性からみた場合はコーティング紙が望ましい。例えば、特アート紙、並アート紙、つや消しアート紙、キャストコート紙、カード紙、合成紙の他に、プラスチックフィルムなどから適宜に選択することができる。そして、その厚さは、用途にもよるが80?500g/m2 の巻取り又はシート状のものを使用することができる。」
チ.段落【0008】
「カラー印刷層は、通常の印刷方式により、平版、凹版、凸版又は孔版のなかから適宜に選択したものを用いることができる。そして、印刷は、オフセット、グラビア輪転、フレキソ又はスクリーン印刷などにより行える。好ましくは、カラーの再現性に優れ、小ロットに対応できる4色分解した平版によるオフセットの枚葉印刷である。印刷インキは、それぞれの印刷方式に適用可能なインキから自由に選択でき、透明印刷層を形成するときに、絵柄のにじみ、透明インキのハジキ、接着不良などの支障がなければその種類を問うものではない。」
ツ.段落【0009】4?7行
「これを用いて印刷部全面にカラー印刷層のインキ膜厚みの1?100倍、好ましくは10?60倍のインキ膜厚みで印刷できるよう透明インキ印刷用版を作製する。」
テ.段落【0012】
「透明インキは、光沢を得やすい樹脂タイプで、かつインキ転移量を多くできる高樹脂分(皮膜形成分)、低粘度のものが好ましい。使用できる樹脂は、ロジン誘導体である水素添加ロジン、…(略)…、ポリアクリル酸メチルなどのアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル、ポリ塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体などを主成分とし、そして、界面活性剤、滑剤、粘度調整剤などの助剤を加えた有機溶剤又は水分散型の分散体が常温乾燥型のワニスとして用いられる。また、これらのワニスに炭酸カルシウム、シリカなどの艶消し剤を混入したつや消し材料も使用することもできる。」
ト.段落【0013】
「反応硬化型樹脂としては、ポリイソシアネートを硬化剤とするポリエステル、ポリエーテルの他に不飽和ポリエステル、アミノアルキッド、スチレン化アルキッドなどがある。また、紫外線硬化型樹脂を含む電離放射線硬化型樹脂は、光沢、硬度をもつ優れた材料である。この電離放射線硬化型樹脂は、分子中に重合性不飽和結合又はエポキシ基をもつプレポリマー、オリゴマー、及び/又は単量体を適宜に混合して作製するものである。したがって高樹脂分で印刷できると同時に、例えば紫外線で瞬時硬化できるため、本発明の光沢、表面の耐久性を発現するための透明印刷層としては適したものである。そして、透明印刷層の形成もスクリーン印刷、グラビア印刷のみならず凸版印刷でも行える優れた材料である。」
ナ.段落【0017】
「【発明の効果】絵柄層に対応した透明印刷層をもつ本発明のカラー印刷物は、絵柄層に対応した光沢又は透明印刷層の凹凸を付与することができる。また、光沢を付与する透明ワニスは、多種類の材料から、光沢、滑りをその要求度合いに応じて選択できる。また、その量を多くすることもできるスクリーン印刷で透明印刷層を形成できる。したがって、該絵柄層に対応して形成できる光沢は、めりはりを与えるとともに、印刷物としては視覚的に立体感のある質感を表現できる効果を奏する。」

上記タからみて、印刷基材には、プラスチックフィルム、即ち、樹脂材も含まれている。
又、上記チに「印刷インキは、それぞれの印刷方式に適用可能なインキから自由に選択でき、…(略)…その種類を問うものではない。」と記載されているように、引用例2におけるカラー印刷層の印刷インキは、自由に選択できるものであるから、このインクに「不透明色のインク」が含まれることは言うまでもない。
同じく、上記ナからみて、「カラー印刷層」は「絵柄層」のことであって、「絵柄層」が模様等を表すことは言うまでもないから、この「カラー印刷層」は「模様層」と言える。
又、透明印刷層のインクの厚さが、カラー印刷層(模様層)の不透明インクの厚さよりも厚いことは、上記ツ、図1からみて明らかである。
ところで、引用例2には、透明印刷層とカラー印刷層(模様層)との大きさの関係は、特に記載されていないが、図1をみると、透明印刷層は、カラー印刷層(模様層)と同じ大きさに印刷されている
そして、他の記載事項も参酌すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用例2記載発明」という。)が記載されている。
「視覚的に立体感が高く、また凹凸模様があるカラー印刷物であって、
樹脂材表面に、所望の不透明インキにより模様層を印刷し、該模様層の上に、透明印刷層を、模様層と同じ大きさで、且つ、模様層の不透明色のインクの厚さよりも厚く印刷したカラー印刷物。」

3.対比
本件補正発明と引用例1記載発明とを対比する。
引用例1記載発明の「ポリエチレン製チューブ容器」、「文字や記号、図形などからなる模様」は、本件補正発明の「樹脂容器」、「文字、図形、記号および/または模様」に相当する。
又、引用例1記載発明の「不透明被膜」は、容器表面に印刷され、その上に模様が印刷されるものであるから、本件補正発明の「アンダーコート層」に相当するものであると言える。
ところで、本件補正発明の「文字、図形、記号および/または模様」は、表現が長く、発明の対比等において記載が紛らわしくなるため、以下、これらを総称して「模様等」と言う。
さらに、引用例1記載発明の「(透明アクリル系印刷塗料による)保護膜」と、本件補正発明の「(透明インクを用いて印刷される)模様等に対応する模様等」は、模様等を被覆する透明インクの層である点で、共通するものである。
なお、この「透明インクの層」の厚み、大きさについては、相違点として検討する。

以上の点から、本件補正発明と引用例1記載発明とは、次の点で一致する一方、次の点で相違している。
《一致点》
「樹脂容器表面に所望の模様等の印刷を行うに際し、
前記樹脂表面に、アンダーコート層を設け、このアンダーコート層の上に所望のインクを用いて模様等を印刷した後、透明インクを用いて、前記印刷した模様等の上に透明の層を印刷により形成する樹脂容器表面への印刷方法。」
《相違点1》
模様等の印刷について、本件補正発明では、「不透明色のインクを用いて」と特定されるのに対して、引用例1記載発明は、有色アクリル系印刷塗料により印刷するものであって、本件補正発明のように特定されていない点。
《相違点2》
模様等の上に印刷により形成される透明インクの層について、本件補正発明では、「印刷した模様等の縁取りをするように、不透明インクの塗膜の厚さよりも厚く、かつ、前記模様等よりもわずかに大きく、当該印刷した模様等に対応する模様等」と特定されるのに対して、引用例1記載発明は、不透明被膜(アンダーコート層)と模様層との上に印刷されるものであって、本件補正発明のように特定されていない点。
《相違点3》
本件補正発明では、「アンダーコート層及び透明インクの一方を艶消し層とすると共に、他方を光沢層とする」と特定されるのに対して、引用例1記載発明では、当該特定事項を有するか定かでない点。

4.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用例1記載発明の模様等は、有色アクリル系印刷塗料により印刷されるものであるところ、有色アクリル系印刷塗料というだけでは、それが不透明であるか否か、明確でない。
即ち、アクリル系塗料は、元々無色透明なアクリル系樹脂に染料、顔料が混入されることにより有色となるものであるところ、混入される染料、顔料の種類、量等により、不透明であったり、有色であっても透明であったりするからである。
しかしながら、印刷の技術分野において、模様を不透明色のインクにより印刷することは普通に行われていることであり、又、模様を着色透明にするか、不透明にするかは、印刷物の目的等に応じて適宜決定される設計事項であるから、引用例1記載発明において、模様等を印刷するインクとして、不透明色のインクを採用することは、当業者が容易になし得ることである。

(2)相違点2について
本件補正発明における、上記相違点2に係る特定事項は、「商品名や模様などに立体感を持たせてより明確にする」(本願明細書段落【0016】)ためのものである。
他方、引用例1記載発明は、「合成樹脂チューブ容器に印刷した文字や記号などの模様は、容器を形成している樹脂が透明な場合、特にその輪郭が不鮮明で見づらく、外観が良くない」(上記ウ参照)ことを課題とし、「輪郭の鮮明になっている模様」(上記エ、サ参照)を印刷するために、不透明インクにより容器表面に不透明被膜(アンダーコート層)を印刷し、その上に文字や記号を印刷するものである。
また、引用例1記載発明の透明アクリル系塗料による保護膜は、被印刷物(引用例1記載発明ではポリエチレンチューブ容器)の使用状態や塗料の耐久性等に応じ、必ずしも必要なものではない。
ところで、引用例1記載発明のチューブ容器には、クリーム等が詰められて商品として販売されるものであるから、消費者の注意を引くように、商品名や模様を更に目立たせたいということは、引用例1記載発明においても、自明の課題と言える。
上記「2.(2)」に記載したとおり、引用例2記載発明は、印刷された模様層の上に、透明印刷層を模様層より厚く印刷することにより、模様について視覚的に立体感を高めるものであるところ、視覚的に立体感を高めれば、模様が目立つようになることは明らかである。
してみると、引用例1記載発明の模様を更に目立たせるために、引用例1記載発明の保護膜に代えて、引用例2記載発明の透明印刷層を採用することにより、模様層の上に、透明印刷層を、模様層と同じ大きさで模様層より厚く印刷することは、当業者が容易に想到し得ることである。
又、相違点2に係る特定事項の内「透明層の大きさを模様層よりわずかに大きくする」点について、当該技術分野において、複数の層を重ねて印刷する際、印刷見当のずれ等に対処すること(例えば、特開平2-108539号公報の[課題]参照)は普通に行われていることであるから、印刷ずれを考慮して上になる層をわずかに大きく印刷する程度のことは、上記引用例2記載発明を採用するについて、当業者が普通に想到する技術的事項であり、縁取りに関する効果も、該技術的事項を採用すれば、普通に生じる付随的効果である。

(3)相違点3について
本件補正発明において、アンダーコート層及び透明インクの一方を艶消し層とし、他方を光沢層とするのは、印刷部分をより一層引き立たせるためである(本願明細書段落【0012】参照)。
ところで、印刷の技術分野において、模様部分に透明インクを印刷して光沢層を形成する一方、模様以外の部分を艶消し層とすることにより、模様を目立たせることは、周知の技術事項である(例えば、特開昭61-206648号公報、特開平2-108539号公報等参照)。
他方、引用例1記載発明は、上記エのとおり、「輪郭の鮮明になっている模様の印刷されたチューブ容器を提供する」ものであるところ、該チューブ容器にはクリーム等が詰められて商品として販売されるものであるから、消費者の注意を引くように、商品名や模様を更に目立たせたいということは、引用例1記載発明においても自明の課題であることは、上記(2)に記載したとおりである。
してみると、商品名等をより目立たせる(引き立たせる)ために、上記周知の技術事項を採用して、模様部分の透明印刷層を光沢とし、不透明被膜(アンダーコート層)を艶消し層とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
なお、上記周知の技術事項は、アンダーコート層を艶消し層とするものではないが、光沢層と艶消し層とにより模様を目立たせるものであり、又、引用例1記載発明は、模様と不透明被膜との対比を明確にするものであるから、これら周知の技術事項の適用に際しては、不透明被膜即ちアンダーコート層が艶消し層となることは、当然の技術的事項である。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、相違点1?3に係るいずれの特定事項も、当業者が適宜想到或いは採用可能なものであって、それらを寄せ集めたことにより得られる作用効果も当業者であれば容易に推察可能なものであって、格別なものとは言えない。
したがって、本件補正発明は、引用例1記載発明、引用例2記載発明、及び、周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成17年11月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「樹脂容器表面に所望の文字、図形、記号および/または模様の印刷を行うに際し、
前記樹脂表面に、所望の不透明色のインクを用いて文字、図形、記号および/または模様を印刷した後、透明インクを用いて、前記印刷した文字、図形、記号および/または模様の上に、該印刷した文字、図形、記号および/または模様の縁取りをするように、前記透明インクの塗膜よりも厚く、かつ、前記印刷した文字、図形、記号および/または模様よりもわずかに大きく、当該印刷した文字、図形、記号および/または模様に対応する文字、図形、記号および/または模様を印刷することを特徴とする、樹脂容器表面への印刷方法。」

上記請求項1の6行目の「透明インク」(当審で付した下線部参照)について、当該記載は、上記「第2」の[理由1]において付記したとおり、正しくは「不透明インク」と記載すべきところを、誤って「透明インク」と記載したものである。
請求人は、審判請求時に、これを正しい記載とすべく本件補正を行ったが、上記のとおり、本件補正が却下されたため、補正前の誤った「透明インク」に戻ったものである。
したがって、当審は、上記下線箇所を、正しい「不透明インクの塗膜よりも厚く、」と認定し、以下、引用例記載発明との対比・判断を行う。

2.引用刊行物とそれに記載された事項及び発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-5980号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ニ.特許請求の範囲の第1項、第2項
「(1)基材の表面に、該基材に対して附着性のある樹脂系塗料を施して印刷層を形成し、所望の文字、模様等の加工のなされた刻印を、該刻印のスタンプ面よりも表面粗さの小さい樹脂性耐熱フィルムを介して押圧し、前記印刷層上に刻印のパターンを加熱転写することを特徴とする容器等の表面加飾方法。
(2)前記印刷層を形成するための樹脂系塗料は、つや消し剤を含有する樹脂系塗料であることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の容器等の表面加飾方法。」
ヌ.公報1頁右欄1?5行
「「産業上の利用分野」
本発明は、たとえば化粧用容器やそのキャップ等の表面につやのある加飾部分や、いわゆるシボ模様を有する加飾部分を形成するのに好適な表面加飾方法に関するものである。」
ネ.公報2頁左上欄1?5行
「「発明が解決しようとする問題点」
しかしながら、このような従来の加飾方法において、まず前者の方法では、光沢のある加飾部分を印刷により形成するので、深みのある立体感ならびに輝度や色彩の境目のシャープさを出すことができないといった問題点があった。」
ノ.公報2頁右上欄2行?左下2行
「「実施例」
以下、本発明の一実施例を第1図に示すような化粧料容器のキャップ1を基材の例にとって説明する。このキャップ(すなわち基材)1は、ABS、スチロール、アクリル樹脂などの熱可塑性合成樹脂を材料として射出成形などにより一体成形されるもので、その側面に加飾部分2が形成されている。以下、この加飾部分2を形成する具体例について述べる。
まず、キャップ1の表面に、該キャップ1に対して附着性のある樹脂系塗料を用い、塗布もしくはスクリーン印刷等の手段によって印刷層3を形成する。特に印刷法としてシルクスクリーン印刷法を用いてこの印刷層3を肉盛のある立体感に富むものとすることが、後に加熱転写して形成するパターンの意匠効果を高める上で好ましい。なお、実施例では、前記樹脂系塗料として、つや消し剤(シリカ、無機微粉末)を含有する放射線硬化型の樹脂系塗料を使用し、該放射線硬化型の樹脂系塗料を施した後、これに放射線を照射して硬化させ、印刷層3をつや消し層とした。」
ハ.公報2頁左下欄13?19行
「しかして、このような加飾方法によれば、つや消しした印刷層3が、ポリエステルフィルム等の耐熱フィルム5を介して刻印4によりつぶされ、スタンプ面4aのパターンがつやが出て転写されることとなり、パターンの縁がシャープに見え、またパターンが色群やかに立体的に見えることとなる。」
ヒ.公報2頁右下欄15行?3頁左上欄1行
「「発明の効果」
…(略)…
(b) 境目がシャープでかつ深みのある立体感をもった加飾品を作製することが容易にできる。」

上記記載事項等からみて、引用例3には、次の発明(以下、「引用例3記載発明」という。)が記載されている。
「熱可塑性合成樹脂により成形された、化粧用容器やそのキャップ等の表面に加飾部分を形成する表面加飾方法であって、
境目がシャープでかつ深みのある立体感を出すために、
樹脂系塗料により、肉盛のある立体感に富む印刷層を形成し、所望の文字、模様等の加工のなされた刻印を、樹脂性耐熱フィルムを介して押圧して、印刷層上に刻印のパターンを加熱転写する容器等の表面加飾方法。」

(2)同じく原査定の理由に引用された、特開平9-30154号公報(上記引用例2である。)の記載事項及び発明については、上記「第2[理由2]2.(2)」に記載したとおりである。

3.対比
本願発明と引用例3記載発明とを対比する。
引用例3記載発明の「熱可塑性合成樹脂により成形された化粧用容器」、「文字、模様等」は、本願発明の「樹脂容器」、「文字、図形、記号および/または模様」に相当する。
ところで、本願発明の「文字、図形、記号および/または模様」も、本件補正発明と同様に、表現が長く、発明の対比等において記載が紛らわしくなるため、以下、これらを総称して「模様等」と言う。
又、本願発明、引用例3記載発明は、模様等に立体感を出すための具体的な印刷方法は異なるものの、結果的に、立体的な模様等を形成する点で共通するものである。
さらに、引用例3記載発明において、最終的に立体感のある模様等となる印刷層は、樹脂系塗料により印刷されるものであるところ、該樹脂系塗料が、不透明色のインクであるか否か、明確でない。
以上の点から、本願発明と引用例3記載発明とは、次の点で一致する一方、次の点で相違している。
《一致点》
「樹脂容器表面に所望の模様等の印刷を行うに際し、
前記樹脂表面に、所望のインクを用いて、立体感のある模様を形成する、樹脂容器表面への印刷方法。」
《相違点4》
模様等を形成するインクに関し、本願発明では、「不透明色のインク」を用いると特定されるのに対して、引用例3記載発明では、樹脂系塗料を用いるものであって、本願発明のように特定されていない点。
《相違点5》
立体感のある模様等を形成するための印刷について、本願発明では、模様等を印刷した後、透明インクを用いて、前記模様等の上に、該印刷した模様等の縁取りをするように、前記不透明インクの塗膜よりも厚く、かつ、前記模様等よりもわずかに大きく、当該印刷した模様等に対応する模様等を印刷すると特定されるのに対して、引用例3記載発明では、印刷層に、樹脂性耐熱フィルムを介して、模様等が加工された刻印を押圧する点。

4.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点4について
引用例3記載発明の模様等は、樹脂系塗料により形成されるものであるところ、樹脂系塗料というだけでは、それが不透明であるか否か、明確でない。
即ち、通常樹脂は、元々無色透明なアクリル系樹脂に染料、顔料が混入されることにより有色となるものであるところ、混入される染料、顔料の種類、量等により、不透明であったり、有色であっても透明であったりするからである。
しかしながら、印刷の技術分野において、模様を不透明色のインクにより形成することは普通に行われていることであり、又、模様を着色透明にするか、不透明にするかは、印刷物の目的等に応じて適宜決定される設計事項であるから、引用例3記載発明において、模様等を形成するインクとして、不透明色のインクを採用することは、当業者が容易になし得ることである。

(2)相違点5について
本願発明は、「商品名や模様などに立体感を持たせてより明確にする」(本願明細書段落【0016】)ために、模様を立体的なものとする具体的技術手段として、上記相違点5に係る特定事項を有するものである。
他方、引用例3記載発明は、模様の境目がシャープで、かつ、模様に立体感を出すために、樹脂系塗料により、肉盛のある立体感に富む印刷層を形成し、該印刷層に、刻印を押圧することにより、所望の文字、模様等を立体的に現出させるものである。
即ち、模様を立体的なものにするための具体的技術手段は、肉盛りのある印刷層に対する刻印の押圧である。
ところで、上記引用例2に示されるように、視覚的に立体感を高めた模様を印刷するために、模様層を印刷し、該模様層の上に、透明印刷層を、模様層と同じ大きさで模様層より厚く印刷することは公知の技術手段であるところ、引用例3記載発明、引用例2記載発明は、何れも印刷の技術分野に属するものであり、又、引用例2記載発明の印刷用基材として樹脂材も明記されているから、立体的な模様を形成する具体的技術手段として、引用例3記載発明の刻印による手段に代えて、引用例2記載発明の模様層を印刷し、該模様層の上に透明層を厚く印刷する手段を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
又、相違点5に係る特定事項の内「透明層の大きさを模様層よりわずかに大きくする」点については、上記「第2[理由2]4.(2)」のとおりである。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、相違点4及び5に係る特定事項は、当業者が適宜想到或いは採用可能なものであって、それらを寄せ集めたことにより得られる作用効果も当業者であれば容易に推察可能なものであって、格別なものとは言えない。
したがって、本願発明は、引用例3記載発明、及び、引用例2記載発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

5.むすび
上記のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-24 
結審通知日 2009-05-12 
審決日 2009-05-25 
出願番号 特願2000-42187(P2000-42187)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B41M)
P 1 8・ 121- Z (B41M)
P 1 8・ 575- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藏田 敦之  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
佐藤 宙子
発明の名称 樹脂容器表面への印刷方法および樹脂容器  
代理人 藤谷 史朗  
代理人 杉村 興作  
代理人 来間 清志  

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