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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1200240
審判番号 不服2008-10858  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-30 
確定日 2009-07-09 
事件の表示 特願2002- 18979「潤滑油供給装置及び案内装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月 8日出願公開、特開2003-222127〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯の概要
本願は、平成14年1月28日の出願であって、平成20年3月24日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年4月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年5月16日付けで明細書を補正する手続補正がなされたものである。

【2】平成20年5月16日付けの手続補正について
[補正却下の決定の結論]
平成20年5月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正後の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】 筐体及び該筐体に収納した潤滑油吸蔵体とを具備し、該潤滑油吸蔵体に吸蔵された該潤滑油を塗布体を介して転動体の転動溝へ塗布するように構成した潤滑油供給装置において、
前記筐体全体を内部が観察できる透過性の材料で構成し、
前記潤滑油吸蔵体は白色又は乳白色又は透明な繊維交絡体材からなり、
前記塗布体は前記潤滑油吸蔵体より空隙率の低い繊維交絡体材からなり、 前記潤滑油は所定の色素を有するか又は着色し、前記潤滑油吸蔵体を構成する繊維交絡体材の色又は色濃度とは異なるものとしたことを特徴とする潤滑油供給装置。」
と補正された(なお、下線は、審判請求人が付した本件補正による補正箇所を示す)。

上記の請求項1に係る補正は、実質的に、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「塗布片」を、「塗布体」とすると共に「塗布体は前記潤滑油吸蔵体より空隙率の低い繊維交絡体材からなり」と構成を限定するものであって、該補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、補正前の請求項に記載した発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更することのない範囲内において行われたものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか (平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.刊行物に記載された事項
(刊行物1)
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-110833号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「潤滑油供給装置及びこれを用いた直線運動装置」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば直線案内装置やボールねじ、ボールスプライン等、ボール又はローラ等の転動体を介して軌道軸とスライド部材とが相対的に移動自在に係合した直線運動装置において、その軌道軸の表面に対して潤滑油を塗布する潤滑油供給装置、更にはこれを用いた直線運動装置に関する。」

(イ)「【0022】図6乃至図12は上記潤滑油供給部材4を示すものである。図示のように、潤滑油供給部材4は、上記摺動台2のエンドプレート24に装着されるケーシング40と、このケーシング40内に収容されると共に上記軌道レール1に当接して該軌道レール1に潤滑油を塗布する塗布体41と、この塗布体41と共に上記ケーシング40内に収容され、潤滑油を吸収して保持する一方で上記塗布体41に対して潤滑油を供給する吸蔵体42と、これら塗布体41と吸蔵体42との間を隔離する油量調整板43とを有している。
【0023】上記ケーシング40は、吸蔵体42及び塗布体41の収容スペースとなる潤滑油収容室44を備えたケーシング本体45と、このケーシング本体45の潤滑油収容室44を密閉する蓋基板46とから構成されており、上記蓋基板46側が摺動台2の蓋体30に当接するようにして装着される。」

(ウ)「【0025】かかる塗布体41は含浸する潤滑油を澱みなく軌道レール1に塗布することができるよう、毛管現象による潤滑油の移動が生じ易い材質、例えば空隙率の低いフェルト等の繊維交絡体が適しており、本実施例では空隙率54%の羊毛フェルトを使用している。また、上記吸蔵体42は潤滑油を多量に吸収保持することができるよう、空隙率の高いフェルト等の繊維交絡体が適している。この実施例では空隙率81%のレーヨン混合羊毛フェルトを使用している。
【0026】一方、図6、図11及び図12に示すように、上記ケーシング本体45の側壁48には軌道レール1の転走面11と対向する位置に凹溝48aが形成されており、かかる凹溝48aからは潤滑油収容室44に収容した塗布体41の一部である塗布片41aが突出し、上記転走面11に当接するようになっている。すなわち、上記吸蔵体42から塗布体41へ供給された潤滑油は該塗布片41aを介して軌道レール1の転走面11に塗布される。前述したように、この実施例の直線案内装置ではボール3が軌道レール1のボール転走面11及び摺動台2の負荷転走面23に対して45°の接触角で当接していることから、図7、図10及び図12に示すように、上記塗布片41aもこの接触角線上でボール転走面11に当接している。このように、ボール転走面11に対するボール3の接触点及びその近傍にのみ塗布片41aを接触させたことにより、塗布される潤滑油の量が必要最小限に抑えられる。」

以上の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

[刊行物1記載の発明]
「ケーシング40及び該ケーシング40に収容した吸蔵体42とを具備し、該吸蔵体42に吸収保持された潤滑油を塗布体41を介してボール3の転走面11へ塗布するように構成した潤滑油供給装置において、前記吸蔵体42は繊維交絡体からなり、前記塗布体41は前記吸蔵体42より空隙率の低い繊維交絡体からなる潤滑油供給装置。」

(刊行物2)
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-182546号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「直動案内軸受装置」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(エ)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、直動案内軸受装置に関し、特に、長期間にわたって転動体に潤滑剤を安定的に供給できるようにしたものである。」

(オ)「【0013】尚、外郭部に透明なガラスや合成樹脂(アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂)等からなる覗き窓を設け、かつ潤滑剤を適当な染料で着色することで、内蔵される多孔質部材の色の変色度合い(濃淡)から、潤滑剤の消費量を判断することもできる。例えば、潤滑剤として炭化水素系潤滑油を用いた場合、それに溶解可能な染料を溶解する。・・・」

(カ)「【0026】第二の実施形態は、基本的には第一の実施形態と同じで、異なる点は潤滑剤供給部材11の外周面の上面に給油孔16を設けた点と、外周面の側面に覗き窓17を設けた点である。この覗き窓17は、例えば、透明なガラスあるいは合成樹脂から形成される。側面図と断面図をそれぞれ図4(a)、図4(b)に示す。」

3.対比・判断
本願補正発明と刊行物1記載の発明を対比すると、その機能からみて、刊行物1記載の発明の「ケーシング40」は本願補正発明の「筐体」に相当し、以下同様に、「吸蔵体42」は「潤滑油吸蔵体」に、「吸収保持された」は「吸蔵された」に、「塗布体41」は「塗布体」に、「ボール3」は「転動体」に、「転走面11」は「転動溝」に、「繊維交絡体」は「繊維交絡体材」に、それぞれ相当する。

したがって、本願補正発明の用語を使用して記載すると、両者は、
「筐体及び該筐体に収納した潤滑油吸蔵体とを具備し、該潤滑油吸蔵体に吸蔵された該潤滑油を塗布体を介して転動体の転動溝へ塗布するように構成した潤滑油供給装置において、前記潤滑油吸蔵体は繊維交絡体材からなり、前記塗布体は前記潤滑油吸蔵体より空隙率の低い繊維交絡体材からなる潤滑油供給装置。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願補正発明は、「筐体全体を内部が観察できる透過性の材料で構成し」ているのに対し、刊行物1記載の発明のケーシング40は、そのような構成を有していない点。

[相違点2]
本願補正発明は、潤滑油吸蔵体は「白色又は乳白色又は透明」な繊維交絡体材からなり、「潤滑油は所定の色素を有するか又は着色し、潤滑油吸蔵体を構成する繊維交絡体材の色又は色濃度とは異なるもの」としているのに対し、刊行物1記載の発明は、吸蔵体42を構成する繊維交絡体の色及び潤滑油の色に関して不明である点。

上記各相違点について以下に検討する。
(相違点1について)
刊行物2には、潤滑剤の消費量を外部から判断するために、外郭部15の外周面の側面に透明なガラスや合成樹脂(アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂)等からなる覗き窓17を設けた潤滑剤供給部材の発明が記載されている(上記記載事項(オ)参照)。
また、内部の状態を外部から簡単に目視するという技術的課題は、技術分野を問わず、広く知られていることであり、その解決手段として、ケーシング等の外側部材全体を内部が観察できる透過性の材料で構成することは、従来周知の事項である(例えば、特開平10-86397号公報の段落【0013】等参照)。
そして、刊行物1及び2記載の発明は、潤滑油を吸収保持した吸蔵体を有する潤滑油供給装置である点において共通の技術分野に属していることから、刊行物1記載の発明が、刊行物2記載の「潤滑油の消費量(又は残量)を外部から判断する」という技術的課題を有することは当業者であれば容易に理解できることであり、該技術的課題を解決するための具体的手段として、外側部材全体を内部が観察できる透過性の材料で構成するという上記周知の事項を適用し、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得るものである。

(相違点2について)
刊行物2には、潤滑剤を適当な染料で着色することで、内蔵される多孔質部材の色の変色度合い(濃淡)から消費量を判断可能とした潤滑剤供給部材の発明が記載されており(上記記載事項(オ)参照)、色の変色度合い(濃淡)から消費量を判断することから、少なくとも多孔質部材の色と着色した潤滑剤の色又は色濃度は、異なっているといえる。
また、液体を保持しているときと保持していないときの色の差によって、保持された液体の残量を検出する多孔質部材において、液体を含まない状態の多孔質部材を白色等の薄い色の材料で構成することは、従来周知の事項である(例えば、特開平10-86397号公報の段落【0028】、【0029】等参照)。
そして、上記(相違点1について)における判断の前提下において、刊行物1記載の発明の吸蔵体42及び潤滑油に、潤滑剤を適当な染料で着色し、内蔵される多孔質部材の色の変色度合い(濃淡)から消費量を判断可能とする刊行物2記載の発明を適用し、その適用に際し、多孔質部材を白色等の薄い色の材料で構成するという上記周知の事項を勘案し設計変更を施して、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できることである。

また、本願補正発明の奏する効果について検討しても、刊行物1、2に記載された発明及び上記周知の事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとは認められない。

よって、本願補正発明は、刊行物1、2に記載された発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

ところで、審判請求人は、審判請求書における平成20年5月16日付け手続補正において「本願第1発明は、引用文献1乃至4に記載の発明にはない上記構成要件A、Bを備えることにより、潤滑油吸蔵体に多量の潤滑油が吸蔵されている時は、該潤滑油を吸蔵する潤滑油吸蔵体は潤滑油が有する所定の色素又は着色した色が濃くなるが、吸蔵されている潤滑油の残量が少なくなると、潤滑油吸蔵体材料の白色又は乳白色又は透明に変化していくから、この変化状態から潤滑油の残量を容易に観測できる。また、筐体が内部を観察できる透過性の材料で構成されていることにより、潤滑油供給装置が観測できるところであれば、筐体のどこからでも潤滑油の残量を容易に観測できる。即ち、潤滑油吸蔵体材料に吸蔵されている潤滑油の残量が少なくなるのに伴って、筐体の内部が潤滑油吸蔵体材料の白色又は乳白色又は透明に変化していくので、本潤滑油供給装置が敷設されている場所で、筐体の内部の潤滑油吸蔵体が観測できる位置であれば、どこからでも潤滑油の残量を直感的に観測できる。このような作用効果は引用文献1乃至4に記載のいずれの発明にも期待できない。よって、筐体全体を透過性の材料で構成することは、当業者が適宜なし得る設計変更ではない。」と主張している(【請求の理由】の【本願発明が特許されるべき理由】の4.本願発明と引用された刊行物との対比の項参照)。
しかしながら、「外側部材全体を内部が観察できる透過性の材料で構成する」点、及び「多孔質部材を白色等の薄い色の材料で構成する」点が、従来周知の事項であることは、上記に説示したとおりであり、「どこからでも筐体の内部を覗くことができ、潤滑油の残量による変色度合いを明確にあらわす」という効果も、容易に予測できることである以上、筐体全体を透過性の材料で構成し、潤滑油吸蔵体材料を白色又は乳白色又は透明とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることないしは適宜なし得る設計変更といわざるを得ない。
また、審判請求人は、当審における平成20年11月26日(起案日)付けの前置審尋に対する平成21年1月27日付けの回答書において、補正案を提示しているが、該補正案により限定された「白色又は乳白色」の点は、上記のとおり周知の事項であり、所定の色素を有する潤滑油を使用する点についても、変色度合いを明確にあらわすための具体的手段の一つにすぎないことから、当業者が適宜なし得る設計変更であることに変わりはない。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正後の請求項1に係る発明は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、本件補正は特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成20年5月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年2月14日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものであると認める。
「【請求項1】 筐体及び該筐体に収納した潤滑油吸蔵体とを具備し、該潤滑油吸蔵体に吸蔵された該潤滑油を塗布片を介して転動体の転動溝へ塗布するように構成した潤滑油供給装置において、
前記筐体全体を内部が観察できる透過性の材料で構成し、
前記潤滑油吸蔵体は白色又は乳白色又は透明な繊維交絡体材からなり、前記潤滑油は所定の色素を有するか又は着色し、前記潤滑油吸蔵体を構成する繊維交絡体材の色又は色濃度とは異なるものとしたことを特徴とする潤滑油供給装置。」

(2)刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、2及びその記載事項は、前記2.(2)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、実質的に前記2.で検討した本願補正発明から、その発明特定事項である「塗布体」を「塗布片」とし、「塗布体は前記潤滑油吸蔵体より空隙率の低い繊維交絡体材からなり」を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに発明特定事項を限定したものに相当する本願補正発明が、前記2.(3)に記載したとおり、刊行物1、2に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1、2に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1、2に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2ないし4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-30 
結審通知日 2009-05-12 
審決日 2009-05-25 
出願番号 特願2002-18979(P2002-18979)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡野 卓也関口 勇  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 川上 益喜
藤村 聖子
発明の名称 潤滑油供給装置及び案内装置  
復代理人 太田 正人  
代理人 熊谷 隆  
代理人 高木 裕  

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