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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1200241
審判番号 不服2008-11022  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-01 
確定日 2009-07-09 
事件の表示 特願2004-216746「筒内直接噴射式火花点火内燃機関」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月 9日出願公開、特開2006- 37793〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本件出願は、平成16年7月26日に出願されたものであり、平成19年5月28日付けで拒絶理由が通知され、同年8月1日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月7日付けで再度拒絶理由が通知され、平成20年2月12日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年3月25日付けで拒絶査定がなされ、同年5月1日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
そして、本件出願の請求項1及び2に係る発明は、平成19年8月1日付けの手続補正書及び平成20年2月12日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲、並びに出願当初の明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「筒内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁が、燃焼室天井面中央部に配置され、ピストン頂部へ向かってシリンダ軸線に沿うように燃料を噴射するとともに、この燃料噴射弁に隣接して点火プラグを備えてなる筒内直接噴射式火花点火内燃機関において、排気ガス温度の昇温が要求されたときに、燃料噴射を、噴射開始時期が圧縮上死点前で噴射終了時期が圧縮上死点後となるように圧縮上死点を跨ぐ期間に行うとともに、上記噴射開始時期から遅れた圧縮上死点後に点火を行うことを特徴とする筒内直接噴射式火花点火内燃機関。」


2.引用発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-36461号公報(平成16年2月5日公開。以下、「引用刊行物」という。)に記載された事項

引用刊行物には、以下の事項が図面とともに記載されている。
ア.「【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明による請求項1に記載の筒内噴射式火花点火内燃機関は、円錐形状の燃料噴霧より強い貫徹力を有する形状に燃料を噴射する燃料噴射弁と、点火プラグとを具備し、前記燃料噴射弁により圧縮行程で燃料を噴射し、前記点火プラグ近傍に可燃混合気を形成して成層燃焼を実施する筒内噴射式火花点火内燃機関において、排気ガス温度を高める時には、前記燃料噴射弁により圧縮上死点近傍で燃料を噴射し、前記点火プラグによる点火時期を膨張行程中期とすることを特徴とする。」(段落【0009】)

イ.「【0016】
【発明の実施の形態】
図1は本発明による筒内噴射式火花点火内燃機関を示す概略縦断面図であり、図2は図1におけるピストンの平面図である。これらの図において、1は吸気ポート、2は排気ポートである。吸気ポート1は吸気弁3を介して、排気ポート2は排気弁4を介して、それぞれ気筒内へ通じている。5はピストンであり、凹状のキャビティ8がピストン頂面に形成されている。6は気筒上部中心近傍に配置された点火プラグである。7は気筒上部周囲の吸気ポート側に配置された燃料噴射弁である。」(段落【0016】)

ウ.「【0017】
燃料噴射弁7は、スリット状の噴孔を有し、比較的厚さの薄い略扇形状噴霧10として燃料を噴射するものである。成層燃焼を実施するためには、図1及び2に示すように、圧縮行程後半において燃料をピストン5頂面に形成されたキャビティ8内へ噴射する。こうしてキャビティ8内へ噴射された斜線で示す液状燃料10は、飛行中に気筒内の吸気との摩擦によって微粒化されてキャビティ8内へ侵入し、キャビティ8の底壁8aに沿って進行してキャビティ8の燃料噴射弁に対向する対向側壁8bによって点火プラグ6近傍に導かれるまでには気化し、点火時点においては、ドットで示すように点火プラグ6近傍だけに可燃混合気を形成する。この可燃混合気を着火燃焼させることにより、成層燃焼として気筒内全体としてはリーンな混合気が燃焼可能となる。」(段落【0017】)

エ.「【0024】
本実施形態において、機関始動時には点火時期を遅角した成層燃焼を実施するようになっており、但し、燃料噴射時期は圧縮上死点近傍とし、点火時期は膨張行程中期としている。点火時期を膨張行程中期まで遅角すれば、燃焼を排気行程中期程度までは持続させることができ、排気ガス温度を十分に高めて触媒装置の早期暖機が可能となる。この機関始動時における成層燃焼は、通常時の成層燃焼に比較して、ピストン温度が低く、キャビティ8内への燃料付着量が増大するために、気筒内へ供給された吸気量に対して空燃比がストイキ又は僅かにリーンとなるように燃料噴射量が増大される。」(段落【0024】)

オ.「【0025】
図5は、本実施形態における機関始動時の燃料噴射時期及び点火時期を示している。具体的には、燃料噴射は、クランク角度範囲INJ内、すなわち、圧縮上死点前30°から圧縮上死点(0°)までのクランク角度範囲内で開始及び終了され、点火は、クランク角度範囲IGN内、すなわち、圧縮上死点後20°から50°までのクランク角度範囲内で実施されるようになっている。」(段落【0025】)

カ.「【0030】
図5には、本発明による筒内噴射式火花点火内燃機関のもう一つの実施形態における機関始動時の燃料噴射時期及び点火時期を示している。具体的には、燃料噴射は、圧縮上死点近傍のクランク角度範囲INJ’内、すなわち、圧縮上死点前(0°)から圧縮上死点後30°までのクランク角度範囲内で開始及び終了され、点火は、前述同様に、クランク角度範囲IGN内、すなわち、圧縮上死点後20°から50°までのクランク角度範囲内で実施されるようになっている。」(段落【0030】)

キ.「【0035】
【発明の効果】
このように、本発明による筒内噴射式火花点火内燃機関は、円錐形状の燃料噴霧より強い貫徹力を有する形状に燃料を噴射する燃料噴射弁と、点火プラグとを具備し、燃料噴射弁により圧縮行程で燃料を噴射し、点火プラグ近傍に可燃混合気を形成して成層燃焼を実施する筒内噴射式火花点火内燃機関において、排気ガス温度を高める時には、燃料噴射弁により圧縮上死点近傍で燃料を噴射し、点火プラグによる点火時期を膨張行程中期とするようになっている。強い貫徹力を有する燃料噴霧は、圧縮上死点近傍の高い筒内圧に対して、十分に微粒化されても比較的強い貫徹力を維持し、点火プラグ近傍に確実に可燃混合気を形成することがでる。こうして、圧縮上死点近傍の燃料噴射の後において点火プラグ近傍に可燃混合気を形成することができるために、点火時期を膨張行程中期まで遅角しても可燃混合気が時間的に分散する以前にこれを確実に着火燃焼させることができる。それにより、燃焼を排気行程中期程度まで持続させることが可能となり、1サイクル一回の燃料噴射でも排気ガス温度を十分に高めることができる。」(段落【0035】)

(2)上記(1)並びに図1及び5からわかること。
a.上記(1)イ.に「7は気筒上部周囲の吸気ポート側に配置された燃料噴射弁である。」とあること及び図1から、引用刊行物に記載された燃料噴射弁7が燃焼室天井面に設けられていることがわかる。

b.上記(1)ウ.に「燃料噴射弁7は、スリット状の噴孔を有し、比較的厚さの薄い略扇形状噴霧10として燃料を噴射するものである。成層燃焼を実施するためには、図1及び2に示すように、圧縮行程後半において燃料をピストン5頂面に形成されたキャビティ8内へ噴射する。」とあること及び図1から、引用刊行物に記載された燃料噴射弁7がピストン5頂部へ向かって燃料を噴射することがわかる。

c.上記(1)オ.に「燃料噴射は、クランク角度範囲INJ内、すなわち、圧縮上死点前30°から圧縮上死点(0°)までのクランク角度範囲内で開始及び終了され」るとあるから、引用刊行物に記載された燃料噴射は、噴射開始時期が圧縮上死点前で噴射終了時期が圧縮上死点となる期間に行われることがわかる。

d.上記c.に加え、上記(1)オ.に「点火は、クランク角度範囲IGN内、すなわち、圧縮上死点後20°から50°までのクランク角度範囲内で実施されるようになっている」とあるから、引用刊行物に記載された点火は上記噴射開始時期から遅れた圧縮上死点後に行われることがわかる。


(3)引用刊行物に記載された発明
上記(1)、(2)及び図面の記載を総合すると、引用刊行物には次の発明が記載されていると認められる。
「筒内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁7が、燃焼室天井面に配置され、ピストン5頂部へ向かって燃料を噴射するとともに、点火プラグ6を備えてなる筒内噴射式火花点火内燃機関において、排気ガス温度を高める時に、燃料噴射を、噴射開始時期が圧縮上死点前で噴射終了時期が圧縮上死点となる期間に行うとともに、上記噴射開始時期から遅れた圧縮上死点後に点火を行う筒内噴射式火花点火内燃機関。」(以下、「引用発明」という。)



3.対比
本願発明と引用発明を対比すると、両者の対応関係は次のとおりである。
引用発明における「燃料噴射弁7」は、その機能からみて、本願発明における「燃料噴射弁」に相当し、以下同様に「ピストン5」は「ピストン」に、「点火プラグ6」は「点火プラグ」に、「筒内噴射式火花点火内燃機関」は「筒内直接噴射式火花点火内燃機関」に、「排気ガス温度を高める時」は「排気ガス温度の昇温が要求されたとき」に、それぞれ相当する。
引用発明における「燃焼室天井面」は、「燃焼室天井面」である限りにおいて、本願発明における「燃焼室天井面中央部」に相当する。
また、引用発明における「燃料噴射を、噴射開始時期が圧縮上死点前で噴射終了時期が圧縮上死点となる期間に行う」は、「燃料噴射を、噴射開始時期が圧縮上死点前となるように行う」という限りにおいて、本願発明における「燃料噴射を、噴射開始時期が圧縮上死点前で噴射終了時期が圧縮上死点後となるように圧縮上死点を跨ぐ期間に行う」に相当する。

よって、本願発明と引用発明とは、
「筒内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁が、燃焼室天井面に配置され、ピストン頂部へ向かって燃料を噴射するとともに、点火プラグを備えてなる筒内直接噴射式火花点火内燃機関において、排気ガス温度の昇温が要求されたときに、燃料噴射を、噴射開始時期が圧縮上死点前となるように行うとともに、上記噴射開始時期から遅れた圧縮上死点後に点火を行う筒内直接噴射式火花点火内燃機関。」
である点で一致し、以下の(1)及び(2)の点で相違する。

(1)本願発明においては「燃料噴射弁が、燃焼室天井面中央部に配置され、」「シリンダ軸線に沿うように燃料を噴射する」とともに、「点火プラグ」が「燃料噴射弁に隣接して」いるのに対して、引用発明においては、本願発明における「燃料噴射弁」に相当する「燃料噴射弁7」が「燃焼室天井面に配置され」ているが、燃焼室天井面中央部に配置され、シリンダ軸線に沿うように燃料を噴射するものかどうかが明らかではなく、また、本願発明における「点火プラグ」に相当する「点火プラグ6」が「燃料噴射弁7」に隣接しているかどうかが明らかではない点(以下、「相違点1」という。)。

(2)本願発明においては「燃料噴射を、噴射開始時期が圧縮上死点前で噴射終了時期が圧縮上死点後となるように圧縮上死点を跨ぐ期間に行う」のに対して、引用発明においては「燃料噴射を、噴射開始時期が圧縮上死点前で噴射終了時期が圧縮上死点となる期間に行う」点(以下、「相違点2」という。)。



4.判断
(1)相違点1について
筒内直接噴射式火花点火内燃機関であり、圧縮行程後期の高筒内圧力下における燃料の噴射を可能とするものにおいて、点火プラグと隣接するように燃料噴射弁を燃焼室天井面中央部に配置し、シリンダ軸線に沿うように燃料を噴射するようにすることは周知技術(必要があれば、例えば、特開平8-177684号公報の段落【0040】、【0042】、及び【0048】並びに図1、8、9及び14、特開2000-27711号公報の段落【0098】及び【0099】並びに図2及び図19、特開2003-201846号公報の段落【0024】及び図1を参照されたい。以下、「周知技術」という。)である。
そして、引用発明における「燃料噴射弁7」も、圧縮行程後期に属する「噴射開始時期が圧縮上死点前で噴射終了時期が圧縮上死点となる期間」という高筒内圧力下における燃料の噴射を行うものである。
よって、引用発明における「燃焼室天井面に配置され」る「燃料噴射弁7」及び「点火プラグ6」に上記周知技術を適用して上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を想到することは当業者が容易になし得たものである。


(2)相違点2について
引用発明において、「噴射開始時期」及び「噴射終了時期」によって定まる燃料噴射の「期間」は燃料の供給量に対応する。ここで、排気ガス温度において所望の昇温を達成するために、「噴射開始時期」又は「噴射終了時期」を適宜設定し燃料の供給量の調整を行うことは当業者にとって課題を解決するにあたっての設計事項であるといえる。
また、上記2.(1)ア.には「排気ガス温度を高める時には、前記燃料噴射弁により圧縮上死点近傍で燃料を噴射」するとあり、上記2.(1)カ.には「燃料噴射は、圧縮上死点近傍のクランク角度範囲INJ’内、すなわち、圧縮上死点前(0°)から圧縮上死点後30°までのクランク角度範囲内で開始及び終了され」るとあることを考慮すると、引用発明において、「排気ガス温度を高める時」に「燃料噴射」を「圧縮上死点後」にて終了することについて、特にこれを妨げるような要因があるものとはいえない。
更に、上記2.(1)キ.には、遅角された点火時期において、点火プラグ近傍に可燃混合気が形成されるようなタイミングで燃料噴射が行われることが適切である旨が示されており、このことを考慮すると点火時期を遅角させることは燃料噴射時期をも遅角させることを示唆するものでもある。
してみれば、引用発明において「噴射終了時期が圧縮上死点」であるものを圧縮上死点後とし、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者にとって「排気ガス温度を高めるよう点火時期を遅角する」という課題を解決するにあたり通常の創作能力に基づいて適宜に設定する程度のものである。

また、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び周知技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。



5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当該技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-28 
結審通知日 2009-05-12 
審決日 2009-05-25 
出願番号 特願2004-216746(P2004-216746)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 畔津 圭介河端 賢  
特許庁審判長 早野 公惠
特許庁審判官 大谷 謙仁
金澤 俊郎
発明の名称 筒内直接噴射式火花点火内燃機関  
代理人 富岡 潔  
代理人 橋本 剛  
代理人 小林 博通  

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