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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16G
管理番号 1200243
審判番号 不服2008-16200  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-26 
確定日 2009-07-09 
事件の表示 特願2003- 95871「動力伝達チェーン及びそれを用いた動力伝達装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月28日出願公開、特開2004-301257〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯

本願は、平成15年3月31日の特許出願であって、平成20年5月22日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年6月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年7月25日付けで明細書に対する手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。
その後、当審において、平成20年12月25日(起案日)付けで審尋がなされ、平成21年3月6日に審尋に対する回答書が提出されたものである。

【2】本件補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容

本件補正は、補正前の特許請求の範囲に対して、以下のような補正を含むものである。なお、下線は、審判請求人が付した補正箇所である。

(1)本件補正前の請求項1(平成19年6月21日付け手続補正)
「【請求項1】
複数のリンクと、これらを相互に連結する複数のピンとを備え、円錐面状のシーブ面を有する第1のプーリと、円錐面状のシーブ面を有する第2のプーリとの間に架け渡されて用いられ、前記ピンの端面と前記第1及び第2のプーリのシーブ面とが接触して動力を伝達する動力伝達チェーンであって、
前記複数のピンは、ピン端面内におけるシーブ面と接触する頂点の位置が異なる2種以上のピンからなり、
これらのピンを、隣接するピンの前記シーブ面と接触する頂点の間の距離がランダムになるよう配置したことを特徴とする動力伝達チェーン。
【請求項2】
複数のリンクと、これらを相互に連結する複数のピンとを備え、円錐面状のシーブ面を有する第1のプーリと、円錐面状のシーブ面を有する第2のプーリとの間に架け渡されて用いられ、前記ピンの端面と前記第1及び第2のプーリのシーブ面とが接触して動力を伝達する動力伝達チェーンであって、
前記複数のピンは、ピン端面内におけるシーブ面と接触する頂点の位置が異なる2種以上のピンからなり、
これらのピンを、隣接するピンの前記シーブ面と接触する頂点の間の距離がランダムになるよう配置し、
前記ピン端面内におけるシーブ面と接触する頂点が、前記ピン端面に当該ピン端面の長手方向と幅方向とに所定の曲率を設定することにより、前記シーブ面と点接触となるように形成されていることを特徴とする動力伝達チェーン。
【請求項3】
前記複数のリンクは、それらの外形が全て同一であり、かつ前記複数のピンは、ピン端面を除く形状が全て同一である請求項1または2記載の動力伝達チェーン。
【請求項4】
円錐面状のシーブ面を有する第1のプーリと、
円錐面状のシーブ面を有する第2のプーリと、
両者の間に架け渡され、前記第1及び第2のプーリのシーブ面と滑り接触をする端面を有する複数のピンと、これらピンによって相互に連結された複数のリンクとを有するチェーンと、を備えた動力伝達装置であって、
前記チェーンが、請求項1?3のいずれか一項に記載の動力伝達チェーンであることを特徴とする動力伝達装置。」

(2)本件補正後の請求項1(平成20年7月25日付け手続補正)
「【請求項1】
複数のリンクと、これらを相互に連結する複数のピンとを備え、円錐面状のシーブ面を有する第1のプーリと、円錐面状のシーブ面を有する第2のプーリとの間に架け渡されて用いられ、前記ピンの端面と前記第1及び第2のプーリのシーブ面とが接触して動力を伝達する動力伝達チェーンであって、
前記複数のピンは、ピン端面内におけるシーブ面と接触する頂点の位置が異なる2種以上のピンからなり、
これらのピンを、隣接するピンの前記シーブ面と接触する頂点の間の距離がランダムになるよう配置し、
前記ピン端面内におけるシーブ面と接触する頂点が、前記ピン端面に当該ピン端面の長手方向(前記プーリの径方向)と幅方向(前記プーリの周方向)とに所定の曲率を設定することにより、前記シーブ面と点接触となるように形成され、
前記複数のピンは、前記ピン端面の幅方向の曲率の中心位置を異ならせることにより、前記シーブ面と接触する頂点の位置が異なるように構成されていることを特徴とする動力伝達チェーン。
【請求項2】
前記複数のリンクは、それらの外形が全て同一であり、かつ前記複数のピンは、ピン端面を除く形状が全て同一である請求項1に記載の動力伝達チェーン。
【請求項3】
円錐面状のシーブ面を有する第1のプーリと、
円錐面状のシーブ面を有する第2のプーリと、
両者の間に架け渡され、前記第1及び第2のプーリのシーブ面と滑り接触をする端面を有する複数のピンと、これらピンによって相互に連結された複数のリンクとを有するチェーンと、を備えた動力伝達装置であって、
前記チェーンが、請求項1又は2に記載の動力伝達チェーンであることを特徴とする動力伝達装置。」

2.補正の適否

本件補正後の特許請求の範囲の請求項1についてみると、補正前の特許請求の範囲の請求項1を削除し、同請求項2に対して、願書に最初に添付した明細書の段落番号【0013】の記載及び図2(b),図3(b)等の記載に基づいて、「ピン端面の長手方向と幅方向」の構成を「ピン端面の長手方向(前記プーリの径方向)と幅方向(前記プーリの周方向)」と限定し、「前記複数のピンは、前記ピン端面の幅方向の曲率の中心位置を異ならせることにより、前記シーブ面と接触する頂点の位置が異なるように構成されている」点をさらに限定するとともに、補正前の特許請求の範囲の請求項3及び4を順次繰り上げて補正後の特許請求の範囲の請求項2及び3としたものである。
すなわち、上記補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものとして認めることができ、かつ、補正前の各請求項に記載した発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更することのない範囲内において行われたものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。
したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定された請求項の削除を目的とするとともに、同法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであり、かつ、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に違反するものではない。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.本願補正発明について

3-1.本願補正発明

本願補正発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、上記「【2】1.(2)」に示した本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

3-2.引用刊行物とその記載事項

刊行物1:特開2000-230606号公報
刊行物2:実願昭62-120301号(実開昭64-25548号)のマイクロフィルム

[刊行物1]
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物1(特開2000-230606号公報)には、「プレートリンク鎖」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】無段階に変速比調節可能な円すいプーリ型変速機のためのプレートリンク鎖であって、個々の鎖部材を結合するヒンジ片が、プレートの切り欠き内に押し込まれた揺動片によって構成されており、これらの揺動片は、その鎖部材に所属するプレートと結合されている形式のものにおいて、揺動片の少なくとも一方の端面が、半径方向でも、また円周方向でも、平面とは異なった形状を有していることを特徴とする、プレートリンク鎖。」

(イ)「【0019】図2においては、図1によって一般的に説明した円すいプーリ型変速機において、軸22,23上に円すいプーリ24?27が相対回転不能に配置されており、その際円すいプーリ24及び26は軸方向で不動に支えられているのに対し、シリンダピストンユニット28,29を形成している円すいプーリ25及び27は、相対回転不能ではあるが、矢印30,31に示すように軸方向にしゅう動可能である。円すいプーリの間で循環するプレートリンク鎖は、1:1のニュートラル変速比において、揺動片32,33とこれらの揺動片の中心を結ぶ軌道線34によって示されている。」

(ウ)「【0021】ヒンジを形成する揺動片32,33の対を有するプレートリンク鎖9は図3において、部分的にかつ拡大して、側面図で示されている。この場合揺動片32,33はそれぞれ2つの箇所35,36若しくは37,38でそれぞれ所属のプレート39若しくは40の切り欠きに接触し、これらの所属のプレートに対して回動を防止されている。」

(エ)「【0023】図4は図2の部分的拡大図であって、半径方向でほぼ円弧形に湾曲せしめられた一方の揺動片33の端面と、円すいプーリ24のほぼ円弧形に湾曲せしめられた摩擦面44との対を示す。これから分かるように、これら両方の揺動片と円すいプーリとは接触箇所45において互いに接触し、この場合端面43は、互いに平行に円すいプーリ24の半径方向に並んでいるその高さ線(図4の図平面に対して直角の方向で延びている線)が揺動片33の軸線46に対して垂直の方向で端面43に沿って延びている直線であるように、湾曲せしめられている。」

(オ)「【0027】ところで、本発明によれば、揺動片の端面に作用するこのような大きな負荷を回避するために、端面43の形状が変化せしめられ、その都度の接触箇所でその都度の走行半径で円すいプーリ24の接線方向に延びる端面43の高さ線若しくは端面線が直線から少なくとも部分的に変化せしめられる。この直線若しくは平面からの変化はプレートリンク鎖の走行方向Kと揺動片の縦軸線Aとを含む揺動片の平面内の球面状の輪郭によって行うことができる。この球面状の輪郭にはなお半径方向の球面状の輪郭が付け加えられる。
【0028】この場合図7に斜視図で示したような半径方向で見た端面形状が生ぜしめられる。図7において、端面100は半径方向で半径R1の球面状の輪郭を有し、かつ平面AK内で半径R2の球面状の輪郭を有している。この実施例では、半径R1は半径R2よりも大きく、これらの半径は5mmと500mmとの間、有利には10mmと50mmとの間の大きさである。
【0029】中心点M1とM2は必ずしも揺動片の中央に配置しなくてもよい。例えば中心点M2は揺動片の一方の側面よりも他方の側面の近くに位置させることができる。しかし別の実施例では中心点M2は側面101と102との間の中間に配置しておくことができる。
【0030】中心点M1は例えば揺動片の下面よりも上面の近くにある。しかし別の実施例では中心点M1は上面103と下面104との間の中間に配置しておくことができる。」

(カ)「【0031】図8のaは揺動片121の平面AK内における断面を示す。これから分かるように、揺動片121の端面120の球面状の形状はこの平面では半径R3によって規定されており、この半径の中心点M3は側面126から間隔d1だけ離れている。中心点M3は側面125から間隔d2だけ離れている。図8のaにおいては間隔d1は間隔d2よりも大きい。これによって端面120は非対称的な形状になっている。
【0032】図8のbにおいては揺動片131の平面AK内における断面が示されている。揺動片131の端面130の球面状の形状は半径R4によって規定されており、この半径の中心点M4は側面135から間隔d3だけ離れている。中心点M4は側面136から間隔d4だけ離れている。この場合間隔d3は間隔d4と等しい。これによって端面130は対称的な形状になっている。
【0033】図8のcは揺動片141の断面を示し、その端面140はこの平面内では直線的な経過から変化せしめられており、少なくとも縁142及び143が丸みを付けられている。丸みを付けられるか、別の形状に成形されているこれらの縁の間の中間範囲は平らであってもよいし、湾曲せしめられていてもよい。縁の成形は曲率半径を有する円弧、n角形、あるいは面取り部によることができる。縁の成形部の間の範囲は揺動片の支持範囲である。
【0034】有利には湾曲形状又は球面形状は半径方向の高さが異なることができ、あるいは別の実施例では同じであることができる。
【0035】図8のaからcに示した揺動片は、図示されていない半径方向で図7に示したような球面形状を有することができる。」

(キ)図7に記載された揺動片の端面100は、半径方向で半径R1の球面状の輪郭を有し、かつ平面AK内で半径R2の球面状の輪郭を有する(上記記載事項(オ)の段落【0028】)ものであるが、該半径方向とは、上記記載事項(エ)の「端面43は、互いに平行に円すいプーリ24の半径方向に並んでいる」を参酌すると、円すいプーリ24の半径方向であるものと解され、平面AKは図7からみて円すいプーリ24の円周方向であるものと解されることから、刊行物1に記載された発明の上記揺動片は、円すいプーリと点接触をするものと認められる。

(ク)図8に記載された揺動片は、上記記載事項(カ)から、上記平面AK内、すなわち円すいプーリ24の円周方向における断面が球面状であって、図8aの端面は非対称的な形状であり、図8bの端面は対称的な形状であることから、それぞれの形状に応じてプーリと点接触する際のピッチ方向の接触点が異なるものであることが把握できる。

そうすると、上記記載事項(ア)?(ク)及び図面(特に、図3、図7及び図8)の記載からみて、上記刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「プレート39,40と、ヒンジを形成する揺動片32,33の対を有し、円すいプーリ24?27の間で循環して、無段階に変速比調節可能な円すいプーリ型変速機のためのプレートリンク鎖9であって、揺動片の端面は、円すいプーリの半径方向で球面状の輪郭を有し、かつ円周方向で球面状の輪郭を有することにより、円すいプーリと点接触する、プレートリンク鎖9」

[刊行物2]
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物2(実願昭62-120301号(実開昭64-25548号)のマイクロフィルム)には、「無端状チェーン式ベルト」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(ケ)「少なくとも2つのプーリ間に巻回されて各プーリ間の動力伝達をなす無端状チェーン式ベルトであって、複数対のリンクプレートをジョイントピンによって互いに枢動自在に順次連結して形成された無端状チェーンと、前記リンクプレートの各対に支持されて前記プーリの摩擦伝動面に当接する当接面を有した複数の動力伝達用ブロックとからなり、前記無端状チェーンの延在方向における前記当接面のピッチが不均一であることを特徴とする無端状チェーン式ベルト。」(第1ページの「2.実用新案登録請求の範囲」)

(コ)「かかる無端状チェーン式ベルトにおいては、その作動中、動力伝達用ブロックがプーリの摩擦伝動面に当接する際、接触音すなわち動力伝達用ブロックがプーリの摩擦伝動面を叩く叩打音が生ずる。この接触音にプーリ及び無端状チェーン式ベルトを覆う保護カバーが共鳴し、保護カバーの固有振動数と接触音の発生周波数が一致した場合には著しい騒音を生じることがあった。」(第2ページ第10?17行)

(サ)「本考案は、上述の点に鑑み、プーリ及び無端状チェーン式ベルトを覆う保護カバーの固有振動数と動力伝達用ブロックが生ずる接触音の振動数とが一致するのを防止して、保護カバーが共振することにより生ずる騒音を低減することを目的としている。」(第2ページ第19行?第3ページ第4行)

(シ)「本考案による無端状チェーン式ベルトにおいては、複数対のリンクプレートをジョイントピンによって互いに枢動自在に順次連結して無端状チェーンを形成し、リンクプレートの各対に支持される動力伝達用ブロックのプーリ摩擦伝動面に当接する当接面の無端状チェーンの延在方向におけるピッチを不均一にしたことを特徴としている。」(第3ページ第5?11行)

(ス)「ところで、本考案の実施例として図示した無端状チェーン式ベルトにおいては、リンクプレート1の各対に支持されたブロック4の端部は無端状チェーンの延在方向における前後両側あるいは片側が面取されており、動力伝達用ブロック4がリンクプレート1に嵌合支持されたとき、それぞれ支持されたリンクプレートに対しプーリの摩擦伝動面に当接する当接面Tが無端状チェーンの延在方向において異なった位置を取り得るようになっている。すなわち、それぞれのリンクプレート1に支持される複数の動力伝達用ブロック4はリンクプレートに支持されたとき、それぞれ支持されたリンクプレートに対しその当接面Tが無端状チェーンの延在方向において異なった位置を取るように面取りされた2種以上(本実施例においては2種)の動力伝達用ブロック4A,4Bからなり、その当接面Tの無端状チェーンの延在方向におけるピッチが不均一となる様に適当に配列され、リンクプレートの各対に嵌合支持されているのである。」(第4ページ第15行?第5ページ第14行)

(セ)「このように各動力伝達用ブロック4の当接面Tの無端状チェーン延在方向におけるリンクプレート1に対する位置を異ならしめたことによって当接面Tの当該方向におけるピッチが不均一となっているのである。」(第6ページ第3?7行)

(ソ)「なお、図示していないけれども、動力伝達用ブロック4Aはリンクプレート1に嵌入される向きによってはその当接面がリンクプレート1の中央に対して図面右側に偏ることとなる。この様にリンクプレート1に嵌入された動力伝達用ブロック4Aの当接面をT_(C)として表わし、その他の動力伝達用ブロック4A,4Bの当接面をそれぞれT_(A),T_(B)と表わすこととして、第1図及び第2図に示した左側の動力伝達用ブロック4Aと動力伝達用ブロック4Bとの配列パターンからなる当接面T_(A),T_(B)間のピッチをABと表わせば、第4図に示した様に、ピッチの大きい順に(1)AC,(2)AB,(3)AA,(4)BA,(5)CAとなり、2種類の動力伝達用ブロックから5種類のピッチの異なる配列パターンが得られるのである。」(第6ページ第8行?第7ページ第2行)(審決注:丸数字1?5を「(1)?(5)」と表記した。)

(タ)「プーリに巻回された無端状チェーン式ベルトが一定速度で周回運動をする場合にも動力伝達用ブロックがプーリを叩打することによって生ずる接触音(叩打音)の発生周波数が単一の周波数に揃うことがなくなり複数の周波数に分散する。」(第7ページ第11?16行)

そうすると、上記記載事項(ケ)?(タ)及び図面の記載からみて、上記刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されているものと認められる。

「リンクプレート1に支持される複数の動力伝達ブロック4はリンクプレートに支持されたとき、それぞれ支持されたリンクプレートに対しその当接面Tが無端状チェーンの延在方向において異なった位置を取るように面取りされた2種以上の動力伝達用ブロック4A,4Bからなり、その当接面Tの無端状チェーンの延在方向におけるピッチが不均一となる様に適当に配列された、無端状チェーン式ベルト。」

3-3.発明の対比

本願補正発明と刊行物1発明を対比する。
刊行物1発明の「プレート39,40」は、その機能からみて、本願補正発明の「複数のリンク」に相当し、以下同様に、「揺動片」は「ピン」に相当するから、「ヒンジを形成する揺動片32,33の対を有し」は「これらを相互に連結する複数のピンとを備え」に相当する。
また、刊行物1発明の「プレートリンク鎖9」は、その機能からみて、本願補正発明の「動力伝達チェーン」に相当するから、刊行物1発明の「円すいプーリ24?27の間で循環して、無段階に変速比調節可能な円すいプーリ型変速機のためのプレートリンク鎖9」は、本願補正発明の「円錐面状のシーブ面を有する第1のプーリと、円錐面状のシーブ面を有する第2のプーリとの間に架け渡されて用いられ、前記ピンの端面と前記第1及び第2のプーリのシーブ面とが接触して動力を伝達する動力伝達チェーン」に相当する。
さらに、刊行物1発明の「揺動片の端面は、円すいプーリの半径方向で球面状の輪郭を有し、かつ円周方向で球面状の輪郭を有することにより、円すいプーリと点接触する」は、本願補正発明の「前記ピン端面内におけるシーブ面と接触する頂点が、前記ピン端面に当該ピン端面の長手方向(前記プーリの径方向)と幅方向(前記プーリの周方向)とに所定の曲率を設定することにより、前記シーブ面と点接触となるように形成され」に相当する。

したがって、本願補正発明の用語にならってまとめると、両者は、
「複数のリンクと、これらを相互に連結する複数のピンとを備え、円錐面状のシーブ面を有する第1のプーリと、円錐面状のシーブ面を有する第2のプーリとの間に架け渡されて用いられ、前記ピンの端面と前記第1及び第2のプーリのシーブ面とが接触して動力を伝達する動力伝達チェーンであって、
前記ピン端面内におけるシーブ面と接触する頂点が、前記ピン端面に当該ピン端面の長手方向(前記プーリの径方向)と幅方向(前記プーリの周方向)とに所定の曲率を設定することにより、前記シーブ面と点接触となるように形成されている動力伝達チェーン。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明が、上記「複数のピンは、ピン端面内におけるシーブ面と接触する頂点の位置が異なる2種以上のピンからなり、これらのピンを、隣接するピンの前記シーブ面と接触する頂点の間の距離がランダムになるよう配置」するとともに、上記「複数のピンは、前記ピン端面の幅方向の曲率の中心位置を異ならせることにより、前記シーブ面と接触する頂点の位置が異なるように構成されている」のに対し、刊行物1発明は、ピン端面内におけるシーブ面と接触する頂点の位置が異なる2種以上のピンが用いられているか明らかでなく、シーブ面と接触する頂点の位置が異なるように構成されているか否かも明らかではない点。

3-4.当審の判断

(1)相違点1について
刊行物2発明は、それぞれ支持されたリンクプレートに対しその当接面Tが無端状チェーンの延在方向において異なった位置を取るように面取りされた2種以上の動力伝達用ブロック4A,4Bを用いて、その当接面Tの無端状チェーンの延在方向におけるピッチが不均一となる様に適当に配列することにより、プーリ及び無端状チェーン式ベルトを覆う保護カバーの固有振動数と動力伝達用ブロックが生ずる接触音の振動数とが一致するのを防止し、保護カバーが共振することにより生ずる騒音を低減したものである。上記ピッチを不均一にする手段は、刊行物2の第4図及び上記記載事項(ソ)に記載されているように、5種類のピッチの異なる配列パターンに配列することが可能な動力伝達用ブロック4A,4Bを適当に配列することにより実現されている。これを実現するために、上記動力伝達用ブロック4A,4Bは、面取りによってプーリとの当接面がブロックの中央のものと左右に偏ったものを用いている。これにより、無端状チェーン式ベルトを周期的又は規則的なピッチとならないようにしているので、保護カバーとの共振(一般に、「共振」及び「共鳴」は、固有振動数に起因する「振動」及び「音」であるが、双方とも騒音の原因となる点では差異はないから、本審決では双方の用語を実質的な区別なく用いる。)のみならず、ブロックの当接面がプーリへの出入時に発生する接触音の共鳴の発生が抑制され、大きな騒音の発生が抑制されたものとなっていることは、技術常識から理解できることである。
ところで、動力伝達チェーンにおいては、チェーンの形式を問わず、チェーンとプーリ等とが規則的に接触することによって、接触音の共鳴に起因する騒音が発生するという課題は広く知られているところであり、そのための対策としてチェーンのピッチを不規則ないし不均一にするという技術的思想は、刊行物2に記載されているのみならず、本願の出願人も明細書に従来例として特許文献(特開平5-202991号公報)を例示しているように、周知事項である。そうすると、刊行物1発明の動力伝達チェーンに対して、騒音を防止するために上記周知事項を適用することは、当業者が容易に着想できることである。そして、動力を伝達するための部材が複数のピンであるか、動力伝達用ブロックかという形式上の違いはあるものの、刊行物2発明は、複数のリンクを複数のピンで連結した動力伝達チェーンである点において刊行物1発明や本願補正発明と類似の技術分野に属するものであることに照らせば、上記課題を解決する手段として、動力伝達用ブロックがプーリのシーブ面と接触する位置を、その中心位置から左右に偏らせることによって動力伝達チェーンのピッチを不規則(換言すれば「ランダム」ということもできる。)ないし不均一にした刊行物2発明の構成を、刊行物1発明のピンとプーリのシーブ面とが点接触している端面に適用して、上記相違点1に係る本願補正発明の「複数のピンは、ピン端面内におけるシーブ面と接触する頂点の位置が異なる2種以上のピンからなり、これらのピンを、隣接するピンの前記シーブ面と接触する頂点の間の距離がランダムになるよう配置」することは、当業者が容易に想到できることである。さらに、上記点接触をする位置を変更する手段としてピン端面の幅方向の曲率の中心位置を異ならせることは、幾何学的ないし力学的関係から当業者が適宜設計できる設計的事項であるというべきところ、刊行物1の図8及び上記記載事項(カ)にはピン端面の幅方向(平面AK)の曲率の中心位置を異ならせることにより、ピンとプーリのシーブ面との接触点の位置を異ならせることができる構成が例として示されていることを考慮すれば、上記相違点1に係る本願補正発明の「複数のピンは、前記ピン端面の幅方向の曲率の中心位置を異ならせることにより、前記シーブ面と接触する頂点の位置が異なるように構成されている」ようにすることは、上記設計的事項の範ちゅうにおいて当業者が容易に実施できるものといわざるを得ない。

(2)作用効果について
また、本願補正発明が奏する「ピン端面内におけるシーブ面と接触する位置が異なる複数のピンを用いて、隣接するピンの接触位置間の距離をランダムにしているので、不快な接触音の共鳴による大きな騒音の発生が効果的に抑制されたものとなる。さらに、複数のリンクの外形が全て実質的に同一で、複数のピンのピン端面を除く形状が全て実質的に同一である場合には、ピンやリンクの製造が煩雑とならず、またチェーンの組み立てが容易となるので、製造・組み立てコストを抑制でき、その結果として安価な製品提供が可能になる」(本願の明細書の段落【0026】)といった効果は、いずれも刊行物1発明及び刊行物2発明、並びに上記周知事項から当業者が予測できるものである。

(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成20年7月25日付けの審判請求書の手続補正書において、
「引用文献2記載の発明は、ブロック4A,4Bの端部の面取りの位置を変えることによって複数の動力伝達用ブロック4A,4Bの当接面TA,TBの位置を異ならせるものであり、本願発明の構成Eのように、ピン端面の幅方向の曲率の中心位置を異ならせることにより、複数のピンのピン端面内におけるシーブ面と接触する頂点の位置を異ならせたものとは相違します。
したがって、引用文献1と引用文献2とを組み合わせたとしても、本願発明の構成Eを導き出すことはできず、単に、引用文献1のヒンジ片32,33の端面に面取りを施すことによってピッチを異ならせた構造が得られるに過ぎません。」(審判請求書の手続補正書「3.(2)(b)相違点の検討」の項参照)などと述べて、本願は特許されるべき旨主張している。
しかしながら、動力伝達チェーンにおいて、チェーンとプーリ等とが規則的に接触することによって、接触音の共鳴に起因する騒音が大きくなることは広く知られているところであり、そのための対策としてチェーンのピッチを不規則ないし不均一にするという技術的思想が周知事項であることは、上記に説示したとおりであるから、刊行物2(上記「引用文献2」)に記載されている動力伝達ブロックがプーリと不規則ないし不均一なピッチで接触する構成を刊行物1発明に適用することに格別の困難性はなく、そのための具体的構成として、刊行物1発明の上記「点接触」する位置を上記のようにすることは設計的事項の範ちゅうにおいて当業者が容易に想到できたものであることは、上記に説示したとおりである。
また、審判請求人は、平成21年3月6日付けの審尋に対する回答書において、同旨のことを主張しているが、上記の判断を左右する主張ではない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

(4)当審の判断のまとめ
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明、並びに上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項1に係る発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明、並びに上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項1に係る発明は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成20年7月25日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成19年6月21日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項2(上記本願補正発明に対応する請求項である。)に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。なお、平成19年12月14日付け手続補正は、前審において平成20年5月22日付けで決定をもって却下された。

「【請求項2】
複数のリンクと、これらを相互に連結する複数のピンとを備え、円錐面状のシーブ面を有する第1のプーリと、円錐面状のシーブ面を有する第2のプーリとの間に架け渡されて用いられ、前記ピンの端面と前記第1及び第2のプーリのシーブ面とが接触して動力を伝達する動力伝達チェーンであって、
前記複数のピンは、ピン端面内におけるシーブ面と接触する頂点の位置が異なる2種以上のピンからなり、
これらのピンを、隣接するピンの前記シーブ面と接触する頂点の間の距離がランダムになるよう配置し、
前記ピン端面内におけるシーブ面と接触する頂点が、前記ピン端面に当該ピン端面の長手方向と幅方向とに所定の曲率を設定することにより、前記シーブ面と点接触となるように形成されていることを特徴とする動力伝達チェーン。」

2.引用刊行物とその記載事項

刊行物1:特開2000-230606号公報
刊行物2:実願昭62-120301号(実開昭64-25548号)のマイクロフィルム

刊行物1及び刊行物2の記載事項は、上記【2】3-2.のとおり。

3.対比・判断

本願発明は、前記【2】で検討した本願補正発明から、「ピン端面の長手方向(前記プーリの径方向)と幅方向(前記プーリの周方向)」の構成を「ピン端面の長手方向と幅方向」と拡張し、「前記複数のピンは、前記ピン端面の幅方向の曲率の中心位置を異ならせることにより、前記シーブ面と接触する頂点の位置が異なるように構成されている」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、審判請求時の手続補正によってさらに構成を限定した本願補正発明が、上記「【2】3-4.当審の判断」に示したとおり、刊行物1及び刊行物2に記載された発明、並びに上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記限定を省いた本願発明も実質的に同様の理由により、刊行物1及び刊行物2に記載された発明、並びに上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明、すなわち、本願の請求項2に係る発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明、並びに上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項2に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項1,3及び4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。




 
審理終結日 2009-04-30 
結審通知日 2009-05-12 
審決日 2009-05-25 
出願番号 特願2003-95871(P2003-95871)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16G)
P 1 8・ 121- Z (F16G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 広瀬 功次▲高▼辻 将人  
特許庁審判長 川上 益喜
特許庁審判官 藤村 聖子

常盤 務
発明の名称 動力伝達チェーン及びそれを用いた動力伝達装置  
代理人 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所  

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