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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
管理番号 1200245
審判番号 不服2008-22717  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-04 
確定日 2009-07-09 
事件の表示 特願2006-299462「アクリル酸の製造方法及びアクリル酸誘導体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年5月22日出願公開、特開2008-115103〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年11月2日の出願であって、 以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成19年8月21日 手続補正書
平成20年6月2日 手続補正書
平成20年6月25日付け 拒絶理由通知書
平成20年7月11日 意見書・手続補正書
平成20年7月30日付け 拒絶査定
平成20年9月4日 審判請求書
平成20年9月25日 手続補正書(審判請求書)・手続補正書
平成20年10月23日付け 前置報告書
平成20年11月26日付け 拒絶理由通知書
平成21年1月22日 意見書

第2 本願発明について
本願の請求項に係る発明は、平成19年8月21日付け、平成20年6月2日付け、平成20年7月11日付け及び平成20年9月25日付けでした手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)及び特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項で特定されるとおりの下記のものである(以下、順に、「本願発明1」?「本願発明6」といい、併せて「本願発明」という。)。
【請求項1】「アクロレイン含有組成物からフェノール及び/又は1-ヒドロキシアセトンを除去する精製工程と、該精製工程後の前記アクロレイン含有組成物におけるアクロレインを酸化してアクリル酸を製造する酸化工程とを有することを特徴とするアクリル酸の製造方法。」
【請求項2】「前記精製工程後の前記アクロレイン含有組成物におけるフェノールの量および1-ヒドロキシアセトンの量は、アクロレインの質量(A)とフェノールの質量(P)との比(P/A)で表せば、P/Aが0.020以下であり、また、アクロレインの質量(A)と1-ヒドロキシアセトンの質量(H)との比(H/A)で表せば、H/Aが0.020以下である請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。」
【請求項3】「グリセリンを脱水してアクロレインを製造する脱水工程を、前記精製工程の前に有する請求項1または2に記載のアクリル酸の製造方法。」
【請求項4】「前記脱水工程において、気相中でグリセリンを脱水する請求項3に記載のアクリル酸の製造方法。」
【請求項5】「請求項1?4のいずれか1項に記載の製造方法を使用してアクリル酸を製造する工程を有するアクリル酸誘導体の製造方法。」
【請求項6】「前記アクリル酸誘導体が、吸水性樹脂である請求項5に記載のアクリル酸誘導体の製造方法。」

第3 当審の拒絶の理由
平成20年11月26日付け拒絶理由通知書の当審の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。

刊行物:国際公開第2006/087083号パンフレット

本願請求項1ないし本願請求項6に係る発明は、上記刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 当審の拒絶理由(特許法第29条第2項)についての判断
1 刊行物の記載事項(摘記の抄訳は、概ね対応公表特許公報である特表2008-530150号公報による。)
a「本発明は、分子酸素の存在下でグリセロールを脱水してアクロレインを製造する方法に関するものである。」(1頁3行?5行、対応公表特許公報の段落【0001】)

b「アクロレインは気相でプロピレンを触媒酸化してアクリル酸を工業生産する際にアクリル酸を単離しないで得られる合成中間体である。アクリル酸およびその誘導体の化学における重要性はよく知られている。」(1頁16行?21行、同【0002】)

c「最も一般的に用いられているアクロレイン製造法は大気酸素を用いてプロピレンを気相触媒酸化する反応をベースにしたものである。得られたアクロレインはアクリル酸製造プロセスに直接加えることができる。アクロレインをメチオニン合成やファインケミストリー反応の出発材料として用いる場合には反応副成物(主として酸化炭素、アクリル酸、酢酸およびアセトアルデヒド)を精製部で除去する。」(2頁1行?9行、同【0004】)

d「米国特許第5,387,720号明細書には、ハメットの酸度によって定義された酸性固体触媒上で、液相または気相で、グリセロールを脱水してアクロレインを製造する方法が記載されている。この触媒のハメット酸度(Hammett acidity) H_(0)は+2以下でなければならず、好ましくは-3以下である。この触媒は例えば天然または合成のシリカ質材料、例えばモルデン沸石、モンモリロナイト、酸性ゼオライト;モノ、ジ、トリ酸性無機酸で被覆された担体、例えば酸化物またはシリカ質材料、例えばアルミナ(Al_(2)O_(3))、酸化チタン(TiO_(2));酸化物または混合酸化物、例えばγ-アルミナ、混合酸化物ZnO-Al_(2)O_(3)、またはヘテロポリ酸に対応する。この特許では10?40%のグリセロールを含む水溶液を用い、上記方法は液相では180?340℃、気相では250?340℃の温度で行う。上記特許の著者によれば気相反応が好ましく、グリセロールの変換率は100%に近く、副生成物を含むアクロレイン水溶液が作られる。約10%のグリセロールはヒドロキシプロパノンに変換され、このヒドロキシプロパノンはアクロレイン溶液中に主たる副生成物として存在する。このアクロレインは分別凝縮または蒸留で回収、精製される。液相反応では選択率が過度に低下しないようにするために変換率を15?25%に制限するのが望ましい。米国特許第5,426,249号明細書は、上記と同じ気相方法でグリセロールを脱水してアクロレインを得るが、得られたアクロレインを水和および水素添加して1,2-および1,3-プロパンジオールを作ることが記載されている。」(4頁12行?5頁10行、同【0013】?【0014】)

e「従って、グリセロールのアクロレインへの脱水反応では一般に副反応が伴い、ヒドロキシプロパノン、プロパンアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アクロレインとグリセロールとの付加物、グリセロール重縮合生成物、環状グリセロールエーテルなどの副生成物、さらには、触媒上のコークス生成の原因であるフェノールおよび芳香族ポリ化合物のような副生成物も生成する。その結果、アクロレインの収率およびアクロレインの選択率が低下し、触媒が非活性化する。アクロレイン中の副生成物、例えばヒドロキシプロパン(当審注:ヒドロキシプロパノンの誤り)またはプロパンアルデヒド(これらのうちのいくつかはまた単離が困難である)の存在によって、分離および精製段階が必要となり、精製アクロレインを得るために高い回収コストがかかる。さらに、十分な触媒活性を回復するためには極めて定期的に触媒を再生する必要がある。」(5頁11行?27行、同【0015】)

f「本発明者は、上記の問題を解決する研究中に、グリセロールのアクロレインへの脱水反応中に分子酸素を用いることで多くの利点があることを見出した。
驚くべきことに、酸素を供給することでフェノールのような芳香族化合物の生成が防止され、脱水生成物の水素添加で生じる副生成物、例えばプロパンアルデヒドおよびアセトンや、ヒドロキシプロパン(当審注:ヒドロキシプロパノンの誤り)からの副生成物の生成が減少するということを見出した。さらに、触媒上へのコークスの生成が減少し、その結果、触媒の非活性化が抑制され、触媒の再生頻度が減る。ある種の副生成物の量は著しく少なくなり、従って、次の精製段階が容易になる。」(5頁28行?6頁8行、同【0016】)

g「従来のプロピレンの選択的酸化によるアクロレインの製造法と比較して、本発明方法で製造されたアクロレインは種々の種類または種々の量の不純物を含むことがある。このアクロレインは用途や、アクリル酸合成、メチオニン合成またはファインケミストリー反応に応じて当業者に周知の方法で精製できる。」(12頁5行?13行、同【0034】)

2 刊行物に記載された発明
刊行物には、「分子酸素の存在下でグリセロールを脱水してアクロレインを製造する方法」に関する発明が記載されているところ(摘記a)、背景技術として、アクロレインについては、「アクロレインは気相でプロピレンを触媒酸化してアクリル酸を工業生産する際にアクリル酸を単離しないで得られる合成中間体である」ことが記載され(摘記b)、さらに「得られたアクロレインはアクリル酸製造プロセスに直接加えることができる。」ことも記載されていることから(摘記c)、「アクロレインを気相で触媒酸化することによりアクリル酸が生成すること」が記載されているといえる。さらに、刊行物には、背景技術として、「グリセロールのアクロレインへの脱水反応では一般に副反応が伴い、ヒドロキシプロパノン、プロパンアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アクロレインとグリセロールとの付加物、グリセロール重縮合生成物、環状グリセロールエーテルなどの副生成物、さらには、触媒上のコークス生成の原因であるフェノールおよび芳香族ポリ化合物のような副生成物も生成する」旨が記載されていることから(摘記e)、グリセロールを脱水することにより得られるアクロレインは、「ヒドロキシプロパノン、プロパンアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アクロレインとグリセロールとの付加物、グリセロール重縮合生成物、環状グリセロールエーテル、触媒上のコークス生成の原因であるフェノールおよび芳香族ポリ化合物などの副生成物を含むアクロレイン含有組成物であること」が記載されているといえる。
そして、刊行物には、これらの副生成物を減少させるために「分子酸素の存在下でグリセロールを脱水してアクロレインを製造する方法」(摘記a)が記載されていると同時に、上記した背景技術も記載されているのであるから、刊行物には、背景技術に示されるところの
「ヒドロキシプロパノン、プロパンアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アクロレインとグリセロールとの付加物、グリセロール重縮合生成物、環状グリセロールエーテル、フェノールおよび芳香族ポリ化合物などの副生成物を含むアクロレイン含有組成物のアクロレインを気相で触媒酸化してアクリル酸を製造する酸化工程を有するアクリル酸の製造方法」
の発明(以下、「刊行物発明」という。)も記載されていると認められる。

3 本願発明と刊行物発明との対比・判断
ア 対比
刊行物発明の「気相で触媒酸化」は、本願発明1の「酸化」に相当するから、両者は、
「アクロレイン含有組成物におけるアクロレインを酸化してアクリル酸を製造する酸化工程を有するアクリル酸の製造方法」
という点で一致し、下記の点(i)?(ii)において相違するということができる。
(i)アクロレイン含有組成物において、刊行物発明は「ヒドロキシプロパノン、プロパンアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アクロレインとグリセロールとの付加物、グリセロール重縮合生成物、環状グリセロールエーテル、フェノールおよび芳香族ポリ化合物などの副生成物を含む」のに対して、本願発明1はそのような副生成物を含むか否か明らかでない点
(ii)アクリル酸の製造方法において、本願発明1は「アクロレイン含有組成物からフェノール及び/又は1-ヒドロキシアセトンを除去する精製工程」を有するのに対して、刊行物発明はそのような精製工程を有しない点

イ 判断
(ア)相違点(i)について
本願明細書の【0007】には、「本製造方法発明における「アクロレイン含有組成物」は、アクロレイン、およびフェノールを有する組成物;アクロレイン、および1-ヒドロキシアセトンを有する組成物;または、アクロレイン、フェノール、および1-ヒドロキシアセトンを有する組成物;であって、液状またはガス状の組成物である」と記載されており、「を有する」なる記載は、「を含む」という意味である。そして、刊行物発明の「ヒドロキシプロパノン」は、本願発明1の「1-ヒドロキシアセトン」に相当する。してみると、刊行物発明のアクロレイン含有組成物は、アクロレイン、フェノール、および1-ヒドロキシアセトンを含むものであるから、刊行物発明の「アクロレイン含有組成物」と本願発明1の「アクロレイン含有組成物」との間に差異はない。

(イ)相違点(ii)について
刊行物には、ヒドロキシプロパノン、プロパンアルデヒド、アセトンなどの副生成物、触媒上のコークス生成の原因であるフェノールおよび芳香族ポリ化合物のような副生成物も生成するため、アクロレインの収率およびアクロレインの選択率が低下し、触媒が非活性化すること、アクロレイン中の副生成物の存在によって、分離および精製段階が必要となり、精製アクロレインを得るために高い回収コストがかかることなどが問題である旨記載されている(摘記e)。そして、これらの問題を解決するために、グリセロールのアクロレインへの脱水反応中に分子酸素を用いることで多くの利点があることを見出し、酸素を供給することでフェノールのような芳香族化合物の生成が防止され、脱水生成物の水素添加で生じる副生成物、例えばプロパンアルデヒドおよびアセトンや、ヒドロキシプロパノンからの副生成物の生成が減少し、触媒上へのコークスの生成が減少することにより、触媒の非活性化が抑制されるということを見出したことが記載されている(摘記f)。これらの記載をかんがみると、刊行物には、グリセロールのアクロレインへの脱水反応中に分子酸素を用いることで、アクロレイン含有物に含まれるヒドロキシプロパノンなど副生成物を減少させることにより、精製アクロレインを容易に得ることができるといえる。
ここで、刊行物には、ヒドロキシプロパノンがアクロレイン溶液中に主たる副生成物として存在し、このアクロレインは分別凝縮または蒸留で回収、精製されることが記載されており(摘記d)、さらに、従来のプロピレンの選択的酸化によるアクロレインの製造法と比較して、本発明方法で製造されたアクロレインは種々の種類または種々の量の不純物を含むことがあるため、アクリル酸合成において当業者に周知の方法で精製できることも記載されている(摘記g)。これらの記載によれば、アクロレインに含まれる副生成物を分別凝縮や蒸留等の周知の方法で除去し、アクロレインを精製することは、当業者であれば容易に想到することであるといえる。
してみると、刊行物発明において、アクロレインからアクリル酸合成を合成するにあたり、アクロレイン含有組成物に含まれる副生成物、特に、主たる副生成物であるヒドロキシプロパノンを分別凝縮や蒸留などの方法で除去すること、触媒の非活性化を防ぐために、フェノールなどの副生成物を除去することも、当業者であれば容易に想到することである。

また、一般に、化学反応の分野において、出発物質の純度が高いほど、目的物質の収率等が高くなることは技術常識である。さらに、蒸留などによって、目的物を不純物から精製する場合、目的物の沸点が不純物の沸点よりも低い場合には、目的物の沸点近傍の温度で蒸留を行うことは自明である。
ここで、刊行物発明における、原料物質であるアクロレインの沸点は53℃であり(刊行物10頁20行)、主要な副生成物、すなわち不純物の沸点は、1-ヒドロキシアセトン(ヒドロキシプロパノン)が146℃(「有機化合物辞典」株式会社講談社,1991年8月第2刷,748頁)、フェノールが182℃(「化学大辞典(縮刷版)7」共立出版株式会社,1989年8月15日縮刷版第32刷,727頁)、アセトアルデヒドが21℃(「化学大辞典(縮刷版)1」共立出版株式会社,1989年8月15日縮刷版第32刷,129頁)、プロピオンアルデヒドが49℃(「化学大辞典(縮刷版)8」共立出版株式会社,1989年8月15日縮刷版第32刷,114頁)、アセトンが56.5℃である(「化学大辞典(縮刷版)1」共立出版株式会社,1989年8月15日縮刷版第32刷,143頁)。
してみると、刊行物発明において、アクリル酸の収率を上げるために、アクロレイン含有組成物中のアクロレイン純度を高めることを目的として、アクロレインの沸点近傍の温度で蒸留することは、当業者が容易に想到することであり、この際に、アクロレインの沸点よりも大幅に高い沸点を有する副生成物、すなわち、1-ヒドロキシアセトン(ヒドロキシプロパノン)及びフェノールが除去されることは明らかである。
してみると、刊行物発明において、アクロレインからアクリル酸合成を合成するにあたり、ヒドロキシプロパノン及びフェノールを除去することは、当業者であれば容易に想到することであるといえる。

ウ 本願発明の効果
本願発明の効果は、本願明細書の段落【0012】の記載によれば、「フェノール及び/又は1-ヒドロキシアセトンをアクロレイン含有組成物から除去するので、高収率でアクリル酸を製造することができる」ことであるといえる。
しかしながら、一般に、化学反応の分野において、出発物質の純度が高いほど、目的物質の収率等が高くなることは技術常識であるから、出発物質であるアクロレインに含まれるフェノール及び/又は1-ヒドロキシアセトンを除去することにより、目的物質であるアクリル酸の収率が上がることは、予測できる範囲の効果に過ぎない。

4 請求人の主張について
請求人は、平成21年1月22日付け意見書において、次のような主張をしているので、各主張について検討する。

ア 「刊行物発明」の認定について
請求人の主張は以下のとおりである。
「刊行物には、分子状酸素の存在下でグリセリンを脱水することによりアクロレインを製造する方法が開示されています(第1頁第3?5行をご参照)。また、刊行物には、グリセリンをアクロレインにする脱水反応においては、一般的に、ヒドロキシプロパノン(以下「1-ヒドロキシアセトン」という。)、プロパンアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アクロレインとグリセロール(以下「グリセリン」という。)との付加物、グリセリンの重縮合物、環状グリセリンエーテルなどのみならず、フェノールおよびポリ芳香族化合物などの副生成物の形成をもたらす副反応が伴うことが記載されています(第5頁第11?18行をご参照)。さらに、刊行物には、酸素を供給することでフェノールのような芳香族化合物の生成が低減され、脱水生成物(例えば、プロパンアルデヒドおよびアセトン)の水素添加から生じる副生成物や1-ヒドロキシアセトンから生じる副生成物の生成が低減されると記載されています(第5頁第32行?第6頁第3行をご参照)。さらに、刊行物には、分子状酸素の存在下でフェノール及び1-ヒドロキシアセトンの生成が完全に抑制されると記載され、実際、フェノール及び1-ヒドロキシアセトンを全く含まないアクロレイン含有組成物が記載されています(第17頁表2および第8?9行をご参照)。さらに、刊行物には、考えられる用途(すなわち、アクリル酸の合成、メチオニンの合成またはファインケミストリーの反応)によっては、当業者に公知の手法に従って、得られたアクロレインを精製することを考えてもよいと記載されています(第12頁第9?13行をご参照)。
以上のことから、刊行物には、「分子状酸素の存在下でグリセリンを脱水することにより様々な副生成物の生成が抑制された(例えば、フェノール及び1-ヒドロキシアセトンを全く含まない)アクロレイン含有組成物を用いるアクリル酸の製造方法」の発明(以下「刊行物発明」という。)が記載されていると思料致します。
この点に関し、審判官殿は、刊行物には、「ヒドロキシプロパノン、プロパンアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アクロレインとグリセロールとの付加物、グリセロール重縮合生成物、環状グリセロールエーテル、フェノールおよび芳香族ポリ化合物などの副生成物を含むアクロレイン含有組成物のアクロレインを気相で触媒酸化してアクリル酸を製造する酸化工程を有するアクリル酸の製造方法」の発明が記載されている、とされています。
しかし、刊行物発明では、分子状酸素の存在下でグリセリンを脱水することにより様々な副生成物の生成が抑制された(例えば、フェノール及び1-ヒドロキシアセトンを全く含まない)アクロレイン含有組成物を得て、このアクロレイン含有組成物をアクリル酸の製造に用いることを教示しているのであって、「ヒドロキシプロパノン、プロパンアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アクロレインとグリセロールとの付加物、グリセロール重縮合生成物、環状グリセロールエーテル、フェノールおよび芳香族ポリ化合物などの副生成物を含むアクロレイン含有組成物」をアクリル酸の製造に用いることを教示しているわけではありません。それゆえ、審判官殿の上記ご認定は、失当であると思料致します。」(意見書2.(1)(b))

しかしながら、刊行物には、請求人の主張する発明のみならず、上記「第4 1 刊行物の記載事項…」で示した背景技術に関する記載事項に基づいて当審が認定した、上記「第4 2 刊行物に記載された発明」も記載されているのであり、請求人の主張する発明のみが刊行物に記載されているとする特段の事由が存するものでもない。
よって、請求人の主張は当を得ないものである。

イ 「本願発明と刊行物発明との対比・判断」について
「…この点に関し、本願発明1では、アクロレイン含有組成物からフェノール及び/又は1-ヒドロキシアセトンという特定の副生成物を除去すればよく、それ以外の副生成物は必ずしも除去する必要はなく、例えば、副生成物のアリルアルコールは、本願明細書の段落[0024]の表1における実験No.4の結果から明らかなように、むしろアクリル酸の収率を高める効果があることにご留意下さい。また、アクロレイン含有組成物におけるアクロレインを酸化してアクリル酸を製造するにあたり、アクロレイン含有組成物に含まれる副生成物のフェノールや1-ヒドロキシアセトンがアクリル酸の収率を著しく低下させることは、本願発明者らが初めて見出した知見であり、当業者にとっての技術常識でもなければ、当業者であれば容易に予測できるものでもないことにご留意下さい。」(意見書2.(1)(e))

しかしながら、本願明細書【0045】には、グリセリンを脱水してアクロレインを生成した場合の副生成物の含有量が、フェノール1.3質量%、1-ヒドロキシアセトン7.5質量%であるのに対して、アリルアルコールは0.1質量%と非常に少ないことが記載されている。他方、本願明細書【0022】?【0025】には、アクロレインにフェノール、1-ヒドロキシアセトン又はアリルアルコールを添加して、アクリル酸の収率への影響を確認しているが、アクロレインへの添加量は、フェノール0.18容量部、1-ヒドロキシアセトン0.36容量部、アリルアルコール0.36容量部となっており、前述のグリセリンを脱水して得られるアクロレインに含まれる含有量と比較すると、アリルアルコールの添加量は非常に多くなっている。
してみると、表1に示された結果が、グリセリンを脱水して得られるアクロレインからアクリル酸を製造する際の収率への影響を示しているとは認められない。すなわち、表1の結果に基づき、請求人は、アリルアルコールが、アクリル酸の収率を高める効果があるとしているが、グリセリンを脱水して得られるアクロレインには、アリルアルコールが微量にしか含まれていないことから、グリセリンを脱水して得られるアクロレインからアクリル酸を製造するにあたり、アリルアルコールがアクリル酸の収率を高めるとは考えられず、しかも、微量にしか存在していないことから、除去する必要もないと考えるのがごく自然である。
そうしてみると、当業者であれば、グリセリンを脱水して得られるアクロレインに含まれる、微量のアリルアルコールよりも、上記「3 イ(イ)」に示したように、主たる副生成物である1-ヒドロキシアセトン等を除去しようと考えるのが当然であるといえる。

ウ まとめ
以上のとおり、請求人の主張によっても、上記3のア?ウにおける当審の判断は左右されるものはない。

5 小括
よって、本願発明1は、本願出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-28 
結審通知日 2009-05-12 
審決日 2009-05-26 
出願番号 特願2006-299462(P2006-299462)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 敏康  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 坂崎 恵美子
橋本 栄和
発明の名称 アクリル酸の製造方法及びアクリル酸誘導体の製造方法  
代理人 菅河 忠志  
代理人 二口 治  
代理人 伊藤 浩彰  
代理人 植木 久一  

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