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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G01N
管理番号 1200670
審判番号 無効2008-800119  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-06-26 
確定日 2009-05-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3973224号発明「冷熱衝撃試験装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人が10分の1、被請求人が10分の9の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3973224号の請求項1乃至10に係る発明についての出願は,平成17年7月1日に出願され,平成19年6月22日にその発明について特許権の設定登録がされた。
その後の平成20年6月26日に,請求人から本件特許無効審判の請求があったところ,被請求人は,同年9月29日に訂正請求書及び答弁書を提出し,これに対し,請求人は,同年11月7日に弁駁書を提出した。
そして,同年12月3日付けで当審において無効理由を通知し,これに対し被請求人は同年12月26日付けで訂正請求書及び意見書を提出した。
また,請求人に対し,平成20年12月3日付けで職権審理結果通知書を送付し,さらに,平成21年1月20日付けで,訂正請求書副本及び意見書副本を送付して,意見を求めたが,指定した期間内に意見を記した書面は,提出されなかった。

第2 訂正請求について

平成20年12月26日付け訂正請求書により訂正の請求がされたことで,特許法第134条の2第4項の規定により,平成20年9月29日付けの訂正請求書でなされた訂正請求は,取り下げられたものとみなす。

1 訂正請求の内容
平成20年12月26日付け訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の内容は,本件特許の明細書を,訂正請求書に添付した全文訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり,本件訂正の内容は以下のa乃至dのとおりである。(下線部は訂正箇所である。)

(訂正事項a)特許請求の範囲請求項1乃至9を削除する。

(訂正事項b)特許請求の範囲請求項10を,独立形式とし,請求項1とするとともに,圧力調整室からの「空気」の記載を「乾燥空気」と訂正し,次のように記載する。
「【請求項1】
試料を収納するため開閉される試験室扉を有する試験室と、低温室と、高温室と、冷凍機が配置された機械室とを備え、前記試験室に前記低温室からの冷風あるいは高温室からの熱風が供給される冷熱衝撃試験装置において、
前記試験室と前記試験室扉の間に設けられたパッキンと、前記試験室に連通され空気が封入された圧力調整室と、を備え、
前記圧力調整室は乾燥空気を供給する供給タンクとされ、その内部圧力は低温試験時における前記試験室の圧力以上に設定され、
低温試験時に前記圧力調整室から前記乾燥空気が前記試験室へ流入可能とされ、
前記試験室との接続口であり前記試験室の内部側に開閉弁が設けられ、前記供給タンクから前記試験室側には開放可能とされ、前記試験室から前記供給タンク側へは開放されないことを特徴とする冷熱衝撃試験装置。」

(訂正事項c)明細書【0006】段落の記載を,次のように訂正する。
「【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、試料を収納するため開閉される試験室扉を有する試験室と、低温室と、高温室と、冷凍機が配置された機械室とを備え、前記試験室に前記低温室からの冷風あるいは高温室からの熱風が供給される冷熱衝撃試験装置において、
前記試験室と前記試験室扉の間に設けられたパッキンと、前記試験室に連通され空気が封入された圧力調整室と、を備え、前記圧力調整室は乾燥空気を供給する供給タンクとされ、その内部圧力は低温試験時における前記試験室の圧力以上に設定され、低温試験時に前記圧力調整室から前記乾燥空気が前記試験室へ流入可能とされ、前記試験室との接続口であり前記試験室の内部側に開閉弁が設けられ、前記供給タンクから前記試験室側には開放可能とされ、前記試験室から前記供給タンク側へは開放されないものである。」

(訂正事項d)明細書【0007】段落乃至【0010】段落を削除する。

2 訂正の可否について

(訂正事項a)
この訂正は,請求項を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内における訂正であり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(訂正事項b)
この訂正は,請求項1を引用する引用形式で記載されていた請求項10を,独立形式とし,請求項1として記載すると共に,訂正前の請求項1には「前記圧力調整室から前記空気が前記試験室へ流入可能とされている」と記載され,訂正前の請求項10には「前記圧力調整室は、空気を供給する供給タンクとされ」と記載されていた箇所における「空気」を,「乾燥空気」と限定するものであるから,明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして,特許明細書の【0025】段落には「圧力調整室に対する他の実施の形態を示し、30は乾燥空気の供給タンクであり」と,【0026】段落には「乾燥空気供給タンク30から乾燥空気が試験室1に流入する」と,それぞれ記載されているから,上記の「空気」を,「乾燥空気」と限定することは,特許明細書に記載した事項の範囲内のものである。すると,訂正事項bにかかる訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内における訂正であり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(訂正事項c)
この訂正は,訂正事項a及びbにかかる訂正により特許請求の範囲の記載が訂正されたことに伴って,訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に応じて,明細書の記載を訂正するものであり,明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内における訂正であり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(訂正事項d)
この訂正は,訂正事項a及びbにかかる訂正により特許請求の範囲の記載が訂正されたことに伴って,訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に応じて,明細書の記載を訂正するものであり,明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内における訂正であり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

したがって,本件訂正は,特許法第134条の2ただし書き並びに同条第5項の規定において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので,当該訂正を認める。

第3 本件特許発明
上記のように訂正を認めるので,本件特許第3973224号の請求項1に係る発明は,平成20年12月26日付け訂正請求書に添付された全文訂正明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下,訂正後の請求項1に係る発明を「本件特許発明」という。)

「【請求項1】
試料を収納するため開閉される試験室扉を有する試験室と、低温室と、高温室と、冷凍機が配置された機械室とを備え、前記試験室に前記低温室からの冷風あるいは高温室からの熱風が供給される冷熱衝撃試験装置において、
前記試験室と前記試験室扉の間に設けられたパッキンと、前記試験室に連通され空気が封入された圧力調整室と、を備え、
前記圧力調整室は乾燥空気を供給する供給タンクとされ、その内部圧力は低温試験時における前記試験室の圧力以上に設定され、
低温試験時に前記圧力調整室から前記乾燥空気が前記試験室へ流入可能とされ、
前記試験室との接続口であり前記試験室の内部側に開閉弁が設けられ、前記供給タンクから前記試験室側には開放可能とされ、前記試験室から前記供給タンク側へは開放されないことを特徴とする冷熱衝撃試験装置。」

第4 無効審判請求人の主張の概要

1 審判請求書における主張
審判請求書において,請求人は,証拠方法として甲第1号証乃至甲第10号証を提出し,本件訂正前の本件特許の請求項1乃至10に係る発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求めている。
そして,その無効理由についての主張は,本件特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである,というものであり,本件訂正後においては,具体的には,以下の無効理由Aを主張するものと認める。

(無効理由A)本件特許発明は,甲第1号証,甲第9号証及び甲第10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項により特許を受けることができない。

甲第1号証:特開2002-48705号公報
甲第9号証:特開平2-143138号公報
甲第10号証:特許第2690969号公報

2 弁駁書における主張
弁駁書において,請求人は,平成20年9月29日付け訂正請求書による訂正後の請求項1乃至3に係る発明は,依然として無効理由を解消しないと主張すると共に,当該訂正後の請求項1乃至3に係る発明は,特許法第36条第6項第1号,同第2号及び同条第4項第1号の規定に反する旨,主張している。

第5 被請求人の主張の概要

1 答弁書における主張
答弁書において,被請求人は,平成20年9月29日付け訂正請求書による訂正後の請求項1乃至3に係る発明は,甲第1号証,甲第8号証乃至甲第10号証に記載された発明から容易に想到できたものではなく,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は審判請求人の負担とする,との審決を求めている。

2 意見書における主張
平成20年9月29日付け訂正請求書による訂正後の請求項1乃至3に関し,請求項1及び2に係る発明は特許法第29条第2項の規定に違反し,請求項3は特許法第36条第6項第2号の規定に違反する旨の無効理由通知に対し,被請求人は,本件訂正を請求し,上記無効理由はいずれも解消したと主張している。

第6 当審の判断

1 無効理由Aについて
(1)甲各号証の記載事項
ア 甲第1号証には,図面とともに,次の事項が記載されている(下線は,当審にて付加した)。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、被試験物に少なくとも温度環境を付与可能な試験室を備えた環境試験装置に装備される内圧調整機構に関し、例えば自動車や航空機の部品等の振動及び環境条件の複合試験を行う振動環境複合試験装置の内圧調整に好都合に利用される。」

(イ)「【0002】
【従来の技術】環境試験装置では、温度や湿度から成る環境試験条件の変化等によって試験室内の圧力が変動する。又、振動環境複合試験装置では、振動試験を行うために試料を取り付けるように試験室内に挿入された振動テーブルの振動及びこれと共に動く試料の振動によって速いサイクルの内圧変動が生じ、その振動が試験室全体を振動させることもあり、種々の悪影響を発生させる。そのため、このような内圧変動を防止するように、通常図7に示すような内圧調整機構が設けられている。
...
【0005】(c)及び(d)は、貫通孔1に放射状の切れ目7aの入れられたシール用膜7を設けた構造のものを示す。この構造のものも、同様の高温高湿運転時に、シール用膜の切れ目7aを介して水蒸気分が試験室11から外部に漏出するため、水の消費量が大幅に増えると共に加湿のための電力が余分になる。又、低温試験時に前記切れ目7aから外気の湿度分である水蒸気が試験室内に侵入し、冷凍機の蒸発器で氷結して霜付きを生じ、蒸発器を閉鎖させるため霜取りをしなければならなくなり、低温試験の連続性が失われるという問題がある。」

(ウ)「【0010】
【発明の実施の形態】図1は本発明を適用した環境試験装置の一例である振動環境複合試験装置(以下「複合試験機」という)の内圧調整機構部分を含む一部分の構造を示す。
【0011】内圧調整機構は、複合試験機の恒温槽部分10の試験室11の断熱壁からなる壁12に開けられた開口1、試験室11の内外間の気体である空気の導通を遮断可能なように開口1に設けられた袋状のシール部材としての袋2、受け部材としての傾斜板3、等で構成されている。符号4は、内部に断熱材12aが入れられている壁12の開口端面を覆い袋2を取り付けるための端部材であり、袋2はその先端部分にホースバンド2aによって取り付けられている。
【0012】袋2は、例えばポリエチレンやシリコン等の変形自在な柔軟な材料でできている。この材料としては、耐熱性等を考慮して使用目的に適合するものが選ばれる。傾斜板3は、壁12から試験室11の反対側に上向きの勾配で突出し、袋2が同じ反対側に膨れたときに袋2を支持可能なように設けられている。
【0013】複合試験機は、恒温槽部分10と振動機部分20とを備えている。恒温槽部分10は、詳細図示を省略しているが、試験室11と仕切られていて同じ断熱壁12で囲われた空調室を有し、その中に、加熱器、加湿器、冷凍機から冷媒が供給される蒸発器、試験室との間で空気を循環させるための送風機等を備えていて、被試験物である試料Wに例えば温度85℃で湿度85%の高温高湿条件から温度-70℃の低温条件までの環境を付与可能な装置である。」

(エ)「【0015】以上のような内圧調整機構は次のように作動する。複合試験機が使用されていないときには、袋2は通常図2(a)のように試験室11側又は外界30側の何れかの側(図では外界側)に少し出ていて、試験時にもこの程度の状態にされるが、試験中に温度変化が生ずると、試験室11内の空気が膨張・収縮する。ここで、袋2が変形自在で柔軟な材料で出来ているので、縮んだ状態から同図(b)の実線で示すように膨れた状態になったり、図に於いて2点鎖線で示すようにある程度膨れた状態から実線の状態まで更に膨張したり、又は(c)のように試験室11側に膨れることにより、内圧変動を発生させず、もしくはごく僅かの変動範囲に留めることができる。
【0016】又、試料Wが振動すると、試験室11内の保有空気容積が殆ど変わらなくても、内部気流に脈動が生じるが、袋2が何の抵抗もなく膨れたり縮んだりするので、内圧変動を発生させるには至らない。以上の如く、本発明の内圧調整機構はその特性が非常に良い。
【0017】一方、高温高湿条件で袋2が外側に膨出するときには、内部空気が外気で冷やされて袋2の中に結露水が発生するが、袋2が傾斜板3で受けられているので、結露水の重みで外側に垂れ下がることなく、傾斜に沿って結露水を試験室11内に排出することができる。この場合、袋2が側壁12に取り付けられているので、試験室11内に落ちる結露水は壁面に沿って流れ落ち、試料Wに掛かることがない。
【0018】高温試験から低温試験に移行したときには、試験室11内の空気が収縮し、袋2が図2(c)の状態になり、内部の負圧化が防止される。又、高温高湿時に(b)のように結露した水滴pが残っていても、(c)の状態になったときに排出されることになる。更に、低温試験時には、外気が冷却されて袋2の外側に結露水滴pが生ずるが、これらも傾斜板3に落ちてこれから流し出される。
【0019】又、試料Wの出し入れ時に試験室11の扉を開閉すると、負圧側又は正圧側に内圧が大きく変動するが、袋2が内外に十分膨れて内圧変動を緩和すると共に、袋2の内外に結露水が滞留していたときには、これが完全に排出される。
【0020】以上のような内圧調整機構の動作によれば、試験室11内の空気を外に漏出させることなく内圧調整することができる。従って、水や電力の無駄が防止される。更に、外気が試験室11内に侵入しないので、蒸発器に余分な着霜がなく、霜取りによる試験の中断が防止される。」

以上の記載から,甲第1号証には,「試料の出し入れ時に開閉される扉を有する試験室と,加熱器,加湿器,冷凍機から冷媒が供給される蒸発器,送風機等を備える空調室とを備え,空調室と試験室との間で空気を循環させることで高温条件から低温条件までの環境を付与可能とする環境試験装置において,
試験室の壁に開けられた開口に設けられた袋状のシール部材としての袋よりなる内圧調整機構を備え,
低温試験に移行したときには,袋が試験室側に膨れることにより,内部の負圧化が防止されるようにした,環境試験装置」(以下,「甲第1号証に記載された発明」という。)が記載されているものと認められる。

イ 甲第9号証には,図面とともに,次の事項が記載されている(下線は,当審にて付加した)。

(ア)「(産業上の利用分野)
本発明は、電子機器や精密機械又はそれら部品などを高温乃至低温の雰囲気下に置いて、前記各種機器類の耐久性や熱的強度などを試験するために使用する冷熱衝撃試験装置に関する。」(第1頁右下欄第7行目から第11行目。)

(イ)「(実施例)
第1図に示した冷熱衝撃試験装置は、断熱構造とされたテスト室(1)の横方向一側で中間部位に、外気側に連通される外気取入口(2)と排気口(3)とを設け、これら取入口(2)と排気口(3)とに、それぞれ常温ダンパ(4)(4)を開閉可能に取付けると共に、前記テスト室(1)の両側位置に、断熱隔壁(5)を介して、ヒータ(6)とファン(7)及び蓄熱器(8)が配置された予熱室(9)と、冷凍機(10)側に接続されるクーラー(11)とファン(12)及び蓄冷器(13)が配置された予冷室(14)とをそれぞれ隣接して設ける一方、前記テスト室(1)と予熱室(9)とを画成する前記隔壁(5)に開口部(15)を開設して、該開口部(15)に高温ダンパ(16)を開閉可能に取付け、また、前記テスト室(1)と予冷室(14)とを画成する前記隔壁(5)に開口部(17)を開設して、該開口部(17)に低温ダンパ(18)を開閉可能に取付けている。
斯くして、各種機器類の耐久性や熱的強度などを試験するときには、この機器類を前記テスト室(1)に配置して、該テスト室(1)を前記ダンパ(4)(16)(18)の開閉操作で、低温?常温?高温のサイクルで繰り返し、若しくは低温?高温のサイクルで繰り返すのであり、この低温?常温?高温を繰り返す試験パターンの場合には、前記常温ダンパ(4)を開閉操作して、前記テスト室(1)内に外気を導入することにより、該テスト室(1)の温度復帰時間を短縮するのである。」(第2頁右下欄第17行目から第3頁右上欄第9行目。)

ウ 甲第10号証には,図面とともに,次の事項が記載されている(下線は,当審にて付加した)。

(ア)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、各種製品、その部品、各種材料等の温度変化に対する特性、耐久性などをテストする、例えば熱衝撃試験装置の如き冷熱サイクル装置や前記物品等の冷却、耐寒テストなどをもっぱら行う低温器のような環境装置に関するものである。
〔従来の技術〕
この種の環境装置においては、物品を収容する槽内に低温雰囲気を必要とする際、機械式冷凍装置と併用し又は該冷凍装置とは別に単独で液化窒素、液化二酸化炭素等の液化冷却ガスを用いる場合がある。」(第2欄第7行目から第3欄第2行目。)

(イ)「低温槽3には排気ダクト2の形態の排気通路が接続されている。該排気ダクト2は断熱壁6内を通り、装置上端に開口している。該開口部21にはネオプレンゴム製の片持ち支持板状弁体を備えた逆止弁1が設けられている。前記排気ダクトにはその上部が高温槽によって加熱されるように高温槽に接近して配置されている。
...
試料を低温さらしするときには、棚装置12を下降させて低温槽3内に配置する。低温さらし前の待機中及び該低温さらしにおいては冷却器10及び撹拌装置7が運転され、さらに必要に応じ低温槽加熱器9も運転されるが、一層速やかに所定の低温で低温さらしを開始する必要があるときなどは、電磁弁51を開いて冷却ガスを低温槽3内へ噴出せしめる。低温槽3に冷却ガスが添加されると、槽3及び空調部10内は陽圧となるが、その圧力が大気圧より高圧の予め定めた圧力以上になると、これら部分の気体は速やかに自動的にその圧力でもって弁1を開き、装置外へ出る。その場合、槽3内から弁1へ通過する気体はダクト2の上半部を通過するときに、高温槽4から熱をうけて昇温したのち弁1から排気されるので、弁1に結露が氷結が発生し、これが作動不良をおこすというおそれはない。また冷却ガスの断続添加によるインターバルの間に槽3内が陰圧となったときには、装置外気圧によりただちに弁1は閉じ、外気の槽3及び空調部10への侵入は防止される。また、このように外気侵入が防止されるため、もし外気侵入があれば大量に発生するであろう冷却器91等への霜付も防止される。」(第5欄第32行目から第6欄第12行目。)

(ウ)「次に第2図に示す実施例環境試験装置について説明する。
第2図の装置は、中央部に高温槽と低温槽を兼ねる一つの槽30を備えており、槽30の上側に高温空調部200を連設するとともに、下側に低温空調部100を連設し、全体を断熱壁60で囲繞したものである。但し、槽30は断熱扉301によって開閉可能となっている。
高温空調部200は高温加熱器80及び高温送風機700を備えている。高温空調部200と槽30の間には開閉自在のダンパ201及び202が設けられており、槽30を高温さらしするときには該ダンパが開かれる(気流は図上矢印C方向)。
低温空調部100は冷却器910、除霜用加熱器920、蓄冷器930及び低温送風機7Aを備えている。低温空調部100と槽30との間には開閉自在のダンパ101、102が設けられており、槽30を低温さらしするときには、該ダンパが開かれる(気流は図上矢印D方向)。
低温空調部100には排気通路20が接続されており、該通路は断熱壁60の中を通って、装置上端へ開口している。該通路の上部20Aはここを通る気体が高温空調部によって加熱されるように、高温空調部200に近接して配置されている。
通路20の上端開口は第1図の装置において採用されている逆止弁1と同じ構造の弁1を備えている。
低温空調部100にはさらに液化冷却ガス導入回路50が接続されており、該回路中の電磁弁501を開くと、図示しない冷却ガス源から冷却ガスを空調部100、さらには槽30へ導くことができる。」(第6欄第21行目から第48行目。)

(エ)「本実施例によれば、図示しない試料は槽30に配置されたままの状態で高温さらし、低温さらし又は常温さらしされる。低温さらしにおいては、必要に応じ電磁弁501が開かれ、冷却ガスが導入される。
排気通路20及び該通路上端開口の弁1の働きは第1図の装置における排気通路2及び弁1の働きと同様であり、冷却ガスの供給により低温空調部100の気圧が大気圧より高圧の予め定めた圧力以上になると該弁が開き、高圧気体を外部へ放出する。」(第7欄第3行目から第11行目。)

(オ) 「本発明は前記実施例に限定されるものではなく、他にもさまざまな態様で実施することができる。
...(途中略)...
なお、ガス導入回路50を槽30に接続したときには、冷却ガスを試料のある槽へ直接吹くので、冷却の効率が良いという利点はある。」(第7欄第21行目から第41行目。)

(カ)「〔発明の効果〕
本発明によると、次の利点を有する環境装置を提供できる効果がある。
(1)低温雰囲気を必要とする際に、機械式冷凍装置と併用し又は該冷凍装置とは別に単独で液化冷却ガスが採用される場合において、低温雰囲気提供部内の異常圧力上昇の防止及び該雰囲気提供部へ添加されたガスの外部排出のために、該雰囲気提供部内気体を確実にかつ自動的に外部へ排出することができるとともに、液化冷却ガスの断続供給のインターバルの間には、前記雰囲気提供部内へ外気が侵入することを確実にかつ自動的に防止することができ、それだけ冷却器等への霜付きを減少させることができる、」(第8欄第7行目から第19行目。上記摘記した「(1)」は,甲第10号証においては丸数字の1として記載されている。)

(キ)また,図面第2図には,環境試験装置の概略断面図が記載されており,該装置の後部側には,断熱壁60の後背部であって,環境試験装置の筐体と認められる実線の内部に,高温送風機700及び低温送風機7Aを駆動するモーターと認められる構成が配置されていることが記載されている。

以上の記載を総合すると,甲第10号証には,「高温槽と低温槽を兼ねる一つの槽30と,低温空調部100と,高温空調部200と,槽30を開閉可能とする断熱扉301とを備え,低温空調部100及び高温空調部200からの気流により槽30を低温さらし及び高温さらしする環境試験装置であって,槽30にガス導入回路50が接続され,低温さらしにおいては,該回路中の電磁弁501を開くことで、冷却ガス源から冷却ガスを槽30へ導くことができる,環境試験装置。」(以下,「甲第10号証に記載された発明」という。)が記載されているものと認められる。

エ 甲第8号証(特開平8-29050号公報)には,図面とともに,次の事項が記載されている(下線は,当審にて付加した)。

(ア)「【0002】
【従来の技術】例えば環境試験装置等の断熱性容器では、内外の断熱性や気密性を保持するために、図3に示す如く、本体部1に対して矢印A-A方向に開閉可能に支持された扉2を設け、本体部1の断熱壁3又は扉2にパッキン4、5を取り付け、扉を閉めると、扉2がパッキン4、5に押し付けられることにより内部環境を維持するようにしている。この場合、パッキン4、5は、1つだけ設けられることもある。」

(2)対比
本件特許発明と甲第1号証に記載された発明とを対比する。

ア 甲第1号証に記載された発明の「試料の出し入れ時に開閉される扉を有する試験室」は,本件特許発明の「試料を収納するため開閉される試験室扉を有する試験室」に相当する。

イ 甲第1号証に記載された発明の「加熱器,加湿器,冷凍機から冷媒が供給される蒸発器,送風機等を備える空調室」は,「冷凍機」が「空調室」の外に配置されることは明らかであるから,本件特許発明の「低温室と、高温室と、冷凍機が配置された機械室」と,「温度条件を与える室と,冷凍機を配置する箇所」である点で共通する。

ウ 甲第1号証に記載された発明の「空調室と試験室との間で空気を循環させることで高温条件から低温条件までの環境を付与可能とする環境試験装置」は,高温条件から低温条件までの温度環境を付与することで冷熱衝撃試験を行うものであるから,本件特許発明の「前記試験室に前記低温室からの冷風あるいは高温室からの熱風が供給される冷熱衝撃試験装置」と,「試験室に温度条件を与える室からの空気が供給される冷熱衝撃試験装置」である点で共通する。

エ 甲第1号証に記載された発明の「試験室の壁に開けられた開口に設けられた袋状のシール部材としての袋よりなる内圧調整機構」は,「袋状のシール部材としての袋」に空気が封入されていることは明らかであるから,本件特許発明の「試験室に連通され空気が封入された圧力調整室」に相当する。

オ 甲第1号証に記載された発明の「低温試験に移行したときには,袋が試験室側に膨れることにより,内部の負圧化が防止されるようにした」ことは,袋内の空気が試験室に流入可能とされていることは明らかであるから,本件特許発明の「低温試験時に前記圧力調整室から前記乾燥空気が前記試験室へ流入可能とされ」ることと,「低温試験時に前記圧力調整室から空気が前記試験室へ流入可能とされ」る点で共通する。

そうすると,本件特許発明と,甲第1号証に記載された発明とは,
「試料を収納するため開閉される試験室扉を有する試験室と、温度条件を与える室と,冷凍機を配置する箇所を備え、前記試験室に温度条件を与える室からの空気が供給される冷熱衝撃試験装置において、
前記試験室に連通され空気が封入された圧力調整室を備え、
低温試験時に前記圧力調整室から空気が前記試験室へ流入可能とされた,冷熱衝撃試験装置。」
である点で一致しており,次の点で相違する。

(相違点1)本件特許発明では,温度条件を与える室として「低温室と、高温室」を備え,冷凍機を「機械室」に配置しているのに対し,甲第1号証に記載された発明では,温度条件を与える室は空調室であり,冷凍機をどこに配置するのか明らかでない点。

(相違点2)本件特許発明では「前記試験室に前記低温室からの冷風あるいは高温室からの熱風が供給される」のに対し,甲第1号証に記載された発明では「空調室と試験室との間で空気を循環させ」ている点。

(相違点3)本件特許発明では,「前記試験室と前記試験室扉の間に設けられたパッキン」を備えているのに対し,甲第1号証に記載された発明では,パッキンを備えていない点。

(相違点4)本件特許発明では「前記圧力調整室は乾燥空気を供給する供給タンクとされ、その内部圧力は低温試験時における前記試験室の圧力以上に設定され」,低温試験時に圧力調整室から「乾燥空気」が試験室へ流入可能とされているのに対し,甲第1号証に記載された発明では,「内圧調整機構」は「試験室の壁に開けられた開口に設けられた袋状のシール部材としての袋よりなる」ものであり,低温試験に移行したときに試験室に流入するのは,袋内の「空気」である点。

(相違点5)本件特許発明では「前記試験室との接続口であり前記試験室の内部側に開閉弁が設けられ、前記供給タンクから前記試験室側には開放可能とされ、前記試験室から前記供給タンク側へは開放されない」のに対し,甲第1号証に記載された発明では,そのような構成を備えていない点。

(3)判断
上記各相違点について判断する。

相違点1及び2について。
冷熱衝撃試験装置において,低温室と高温室を備え,試験室に低温室からの冷風あるいは高温室からの熱風が供給されるようにすることは,例えば甲第9号証(摘記事項(イ))に,予冷室と予熱室を備え,テスト室と予冷室あるいは予熱室との間のダンパを開閉することでテスト室の低温?高温のサイクルを繰り返すことが,甲第10号証(摘記事項(ウ))に,高温空調部と低温空調部を備え,槽30と高温空調部あるいは低温空調部との間のダンパを開閉することで槽30を高温さらしあるいは低温さらしすることがそれぞれ記載されるように,当業者における周知の技術である。
また,甲第1号証に記載された発明において,空調室内の蒸発器との関係から,冷凍機を環境試験装置の内部に配置することは,当業者であれば通常行い得たものであり,そのような箇所を機械室と称することは,当業者であれば適宜に為し得たものである。
そうすると,甲第1号証に記載された発明において,空調室に代えて,低温室と高温室を備えることで,試験室に温度環境を付与すること,及び,冷凍機を機械室に配置することは,周知の技術に基づいて,当業者であれば容易に為し得たものである。

相違点3について。
甲第1号証(摘記事項(エ))には,試験中に温度変化が生ずると,試験室内の空気が膨張・収縮するのに応じて,内圧調整機構が作動することで,内圧変動を発生させず,もしくはごく僅かの変動範囲に留めることができることが記載されており,このことから試験室が外部に対して気密となっていることは明らかである。そして,試験室の気密を保って扉を開閉可能とするために,試験室と扉との間にパッキンを設けるようにすることは,例えば甲第8号証(摘記事項(ア))に「本体部1の断熱壁3又は扉2にパッキン4、5を取り付け、扉を閉めると、扉2がパッキン4、5に押し付けられることにより内部環境を維持するようにしている」と記載されるように,当業者における周知の技術である。
そうすると,甲第1号証に記載された発明において,試験室と扉の間にパッキンを設けることは,周知の技術に基づいて,当業者であれば容易に為し得たものである。

相違点4について。
甲第10号証には「低温空調部100にはさらに液化冷却ガス導入回路50が接続されており、該回路中の電磁弁501を開くと、図示しない冷却ガス源から冷却ガスを空調部100、さらには槽30へ導くことができる」(摘記事項(ウ)),「低温さらしにおいては、必要に応じ電磁弁501が開かれ、冷却ガスが導入される」(摘記事項(エ)),「ガス導入回路50を槽30に接続したとき」(摘記事項(オ))との記載がある。これらの記載によれば,槽30にガス導入回路50が接続されていて,低温さらしにおいて冷却ガス源から冷却ガスを槽30へ導くことができることから,冷却ガス源の圧力は低温さらしにおける槽30の圧力以上であることは明らかである。また,甲第10号証には「液化窒素、液化二酸化炭素等の液化冷却ガス」(摘記事項(ア))と記載されるように,「液化冷却ガス」として「液化窒素、液化二酸化炭素」を用いることが記載されており,これらからの冷却ガスが,水分を含まない,乾燥したガスであることは,当業者には明らかである。ここで,本件訂正後の明細書の【0025】段落には「乾燥空気供給タンク30には、配管31を経由して乾燥空気源(図示せず)と接続され、あらかじめ除湿された乾燥空気(あるいは窒素ガス)が供給されている。」と記載されており,窒素ガスを乾燥空気源から供給してもよいことが記載されている。してみると,本件特許発明における「空気」とは,いわゆる地球を包む大気の下層部分を構成する気体という狭義の空気ではなく,より広い意味の「気体」を指すものと理解され,甲第10号証に記載される液化窒素からの冷却ガスは,本件特許発明の乾燥空気に含まれるものである。また,甲第10号証には,冷却ガス源を具体的にどのような構成とするか明記されていないが,タンクをガスの供給源とすることは,当業者における周知の技術である。
そうすると,甲第1号証に記載された発明において,内圧調整機構として,甲第10号証に記載されるような乾燥空気を供給する供給タンクを採用し,その内部圧力は低温試験時における試験室の圧力以上に設定されることで,低温試験時に圧力調整室から乾燥空気が試験室へ流入可能とすることは,当業者であれば容易に為し得たものである。

相違点5について。
甲第10号証には,「低温槽3には排気ダクト2の形態の排気通路が接続されている。該排気ダクト2は断熱壁6内を通り、装置上端に開口している。該開口部21にはネオプレンゴム製の片持ち支持板状弁体を備えた逆止弁1が設けられている」,「低温槽3に冷却ガスが添加されると、槽3及び空調部10内は陽圧となるが、その圧力が大気圧より高圧の予め定めた圧力以上になると、これら部分の気体は速やかに自動的にその圧力でもって弁1を開き、装置外へ出る」,「冷却ガスの断続添加によるインターバルの間に槽3内が陰圧となったときには、装置外気圧によりただちに弁1は閉じ、外気の槽3及び空調部10への侵入は防止される」(摘記事項(イ)),「低温空調部100には排気通路20が接続されており、該通路は断熱壁60の中を通って、装置上端へ開口している。該通路の上部20Aはここを通る気体が高温空調部によって加熱されるように、高温空調部200に近接して配置されている。 通路20の上端開口は第1図の装置において採用されている逆止弁1と同じ構造の弁1を備えている」(摘記事項(ウ)),「低温さらしにおいては、必要に応じ電磁弁501が開かれ、冷却ガスが導入される。 排気通路20及び該通路上端開口の弁1の働きは第1図の装置における排気通路2及び弁1の働きと同様であり、冷却ガスの供給により低温空調部100の気圧が大気圧より高圧の予め定めた圧力以上になると該弁が開き、高圧気体を外部へ放出する」(摘記事項(エ))ことがそれぞれ記載されている。
この甲第10号証に記載された「逆止弁」は,槽の圧力が大気圧より高圧になった場合には弁が開き,槽内の気体を外部へ放出するが,槽の圧力が陰圧になったときには弁が閉じ,外気が槽へ侵入することを防止するというもので,逆止弁自体の作用としては,相違点5に示された本件特許発明の開閉弁の作用と同一の弁作用を奏するものである。しかし,本件特許発明の開閉弁は,圧力調整室である供給タンクと試験室との接続口に設けられ,供給タンクから試験室側には開放可能とされ,試験室から供給タンク側へは開放されないものであり,圧力調整室としての供給タンクから試験室へ乾燥空気が流入可能とする機能を有するものである。一方,甲第10号証に記載された逆止弁は,槽内の気体を外部へ放出するが,外気が槽へ侵入することを防止するという機能を有するものであり,本件特許発明の開閉弁と,その奏する機能において,異なる。
また,甲第1号証に記載された発明において,内圧調整機構と試験室との間に甲第10号証に記載された逆止弁を設けると,試験中に温度変化により試験室内の空気が膨張・収縮するのに応じて,内圧調整機構が作動することで,内圧変動を発生させないという,内圧調整機構の奏する効果を減殺することとなり,いわゆる阻害要因となるものであって,そのような構成を当業者が容易に想到し得たと言うことはできない。
さらに,上記相違点4について示したように,甲第1号証に記載された発明において,内圧調整機構として,甲第10号証に記載されるような乾燥空気を供給する供給タンクを採用した場合において,甲第10号証に記載された逆止弁を供給タンクと試験室との間に配置しうるかについて,上記の通り甲第10号証に記載された逆止弁は,その配置される位置が異なるものであり,配置される位置によってその奏する機能が異なる逆止弁を,逆止弁が周知の技術であったとしても,上記の供給タンクと試験室との間に配置することが容易であるとは,何の根拠もなく言うことはできない。
請求人は,弁駁書において,「弁が接続される経路が異なるとはいえ、甲第10号証には、乾燥ガスである冷却ガスを導入するための液化冷却ガス導入回路50に開閉弁である電磁弁501も開示されているので、試験室との接続口に試験室側に空気を供給する一方で、その逆流を防止する開閉弁を設けることは、常套手段に過ぎない。」(弁駁書第12頁第9行目から第15行目)と主張している。しかし,電磁弁があるならば,冷却ガスの導入は電磁弁によって行えば十分であり,電磁弁を閉じることで逆流を防止することも行えるのであるから,電磁弁にさらに逆止弁を設けることが常套手段であるとの請求人の主張を採用することはできない。
そして,本件特許発明は,相違点5にかかる構成を有することにより,低温試験時に,開閉弁が試験室の内側に開放され,供給タンクから乾燥空気が試験室に流入することで,試験室内の圧力が一定に保持され,試験室に対して外部空気との呼吸作用が発生することがないという,特有の効果を奏するものである。

(4)まとめ
以上のとおり,本件特許発明が甲第1号証,甲第9号証及び甲第10号証に記載された発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。

2 請求人の弁駁書における主張について
請求人の弁駁書における主張は,取り下げられたものとみなされる平成20年9月29日付けの訂正請求書でなされた訂正請求による訂正後の特許請求の範囲及び明細書に基づくものであるが,当該訂正後の請求項1乃至3に係る発明が,特許法第36条第6項第1号,同第2号及び同条第4項第1号の規定に反するとの主張について,本件特許発明について成り立つか,検討する。

(1)特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号について
請求人は,圧力調整室を供給タンクとした実施形態に関する発明の詳細な説明中の開示は,図8,図9に示す,通気口20-Aと試験室1との接続口に開閉弁32が装備され,この開閉弁32が試験室1の内部側に取り付けられ内側に自由解放する形態を1つ開示するのみであるから,明細書による開示内容を超える範囲の発明を特許請求しているものであり,構成要件を具体的に実現する開示が存在しない,と主張している(弁駁書第4頁第13行目から第24行目)。
本件特許発明は,請求人が示した発明の詳細な説明中の開示に対応した構成を備えるものであり,明細書による開示内容を超える範囲の発明を特許請求しているものではなく,構成要件を具体的に実現する開示が存在しないと言うこともできない。

(2)特許法第36条第6項第2号
請求人は,特許請求の範囲が減縮されたにも拘わらず,発明を実施するための最良の形態には,減縮される前の特許請求の範囲に対応する記載が残されており,発明が不明瞭なものとなっている,と主張している(弁駁書第4頁第25行目から第5頁第10行目)。
これに対し,特許法第36条第6項第2号の規定は,一の請求項から発明が明確に把握されることを求めるものである。特に,請求項の記載と,明細書又は図面の関係についてみると,請求項の記載がそれ自体で明確であるときに,請求項の用語についての,明細書又は図面中にある定義又は説明によって,請求項の記載がかえって不明確となる場合には,特許を受けようとする発明が不明確となることがある。ところで,特許請求の範囲の記載は,各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならないものであって(特許法第36条第5項),発明の詳細な説明に記載した発明のうち,どの発明を特許請求の範囲に記載するかは出願人が判断すべきものである。してみると,請求人の主張するように,発明の詳細な説明に記載した発明のうち,一部についてのみ特許請求の範囲に記載し,全部を特許請求の範囲に記載しなかったからといって,そのことが特許法第36条第5項又は第6項の規定に違反するものではない。また,請求人が指摘する箇所の発明の詳細な説明の記載を参照しても,本件特許発明の用語を不明確とするものではなく,本件特許発明が不明瞭であるとすることはできない。

3 当審における無効理由通知について
当審における無効理由通知に対し,被請求人は,本件訂正を請求し,当該無効理由通知にて指摘した無効理由はいずれも解消したと主張している。そこで,本件訂正後の本件特許発明について,無効理由通知にて指摘した無効理由の成否を検討する。

(1)進歩性について
ア 甲各号証の記載事項
甲第10号証及び甲第8号証それぞれの記載事項は,上記「第6 1 (1) ウ」及び「第6 1 (1) エ」に示した通りである。

イ 本件特許発明について
(ア)対比
本件特許発明と甲第10号証に記載された発明とを対比する。
甲第10号証に記載された発明の「槽30」,「低温空調部100」及び「高温空調部200」は,それぞれ本件特許発明の「試験室」,「低温室」及び「高温室」に相当する。また,甲第10号証に記載された発明の「槽30を開閉可能とする断熱扉301」は,試料を高温さらしまたは低温さらしするために,槽30に試料を収納できるよう,開閉可能とされていることは明らかであるから,本件特許発明の「試料を収納するため開閉される試験室扉」に相当する。さらに,甲第10号証に記載された発明の「低温空調部100及び高温空調部200からの気流により槽30を低温さらし及び高温さらしする環境試験装置」は,上記摘記事項アに「例えば熱衝撃試験装置の如き冷熱サイクル装置...のような環境装置」と記載されていることからも,本件特許発明の「前記試験室に前記低温室からの冷風あるいは高温室からの熱風が供給される冷熱衝撃試験装置」に相当する。
そして,甲第10号証に記載された発明の「槽30にガス導入回路50が接続され,低温さらしにおいては,該回路中の電磁弁501を開くことで、冷却ガス源から冷却ガスを槽30へ導くことができる」ことについて,該「冷却ガス源」が本件特許発明の「供給タンク」に対応するものとしてみると,甲第10号証に記載された発明では,槽30にガス導入回路50が接続されていて,低温さらしにおいて冷却ガス源から冷却ガスを槽30へ導くことができることから,冷却ガス源の圧力は低温さらしにおける槽30の圧力以上であることは明らかである。さらに,上記摘記事項ウに「冷却ガスの供給により低温空調部100の気圧が大気圧より高圧の予め定めた圧力以上になると該弁が開き、高圧気体を外部へ放出する」と記載されていることからすると,甲第10号証に記載された発明において,冷却ガス源から冷却ガスを槽30へ導くことにより,弁の機能と相まって,槽30を所定の圧力とすることができるのであるから,冷却ガス源が圧力調整をするための構成であることは明らかである。してみると,甲第10号証に記載された発明の「槽30にガス導入回路50が接続され,低温さらしにおいては,該回路中の電磁弁501を開くことで、冷却ガス源から冷却ガスを槽30へ導くことができる」ことは,本件特許発明の「試験室に連通され空気が封入された圧力調整室」を備え,「前記圧力調整室は乾燥空気を供給する供給タンクとされ、その内部圧力は低温試験時における前記試験室の圧力以上に設定され、低温試験時に前記圧力調整室から前記乾燥空気が前記試験室へ流入可能とされている」ことと,「試験室に連通された圧力調整室を備え,前記圧力調整室は気体を供給する供給源とされ、その内部圧力は低温試験時における前記試験室の圧力以上に設定され、低温試験時に前記圧力調整室から前記気体が前記試験室へ流入可能とされている」点で共通する。

そうすると,本件特許発明と甲第10号証に記載された発明とは,
「試料を収納するため開閉される試験室扉を有する試験室と、低温室と、高温室とを備え、前記試験室に前記低温室からの冷風あるいは高温室からの熱風が供給される冷熱衝撃試験装置において、
前記試験室に連通された圧力調整室を備え,前記圧力調整室は気体を供給する供給源とされ、その内部圧力は低温試験時における前記試験室の圧力以上に設定され、低温試験時に前記圧力調整室から前記気体が前記試験室へ流入可能とされている,
冷熱衝撃試験装置。」
である点で一致しており,次の点で相違する。

(相違点1)本件特許発明では「冷凍機が配置された機械室」及び「前記試験室と前記試験室扉の間に設けられたパッキン」を備えているのに対し,甲第10号証に記載された発明ではこのような構成を備えているか否か不明である点。

(相違点2)本件特許発明では「圧力調整室」は,「空気が封入された」ものであって,「乾燥空気を供給する供給タンク」とされ,低温試験時に圧力調整室から「乾燥空気」が試験室へ流入可能とされているのに対し,甲第10号証に記載された発明では「圧力調整室」は「冷却ガス」を供給する「冷却ガス源」であって,低温さらしにおいて冷却ガス源から「冷却ガス」を槽30へ導くことができるとしている点。

(相違点3)本件特許発明では「前記試験室との接続口であり前記試験室の内部側に開閉弁が設けられ、前記供給タンクから前記試験室側には開放可能とされ、前記試験室から前記供給タンク側へは開放されない」のに対し,甲第10号証に記載された発明では,そのような構成を備えていない点。

(イ)判断
上記各相違点について判断する。

相違点1について。
甲第10号証には,摘記事項(キ)に示したように,環境試験装置の内部であって,断熱壁60の外部に,送風機を駆動するモーターが配置されることが示されている。また,甲第10号証には,摘記事項(ウ)に断熱壁60で囲繞された「低温空調部100」に「冷却器910、除霜用加熱器920、蓄冷器930及び低温送風機7A」を備えることが記載されている。ここで,甲第10号証には,摘記事項(ア)に「この種の環境装置においては、物品を収容する槽内に低温雰囲気を必要とする際、機械式冷凍装置と併用し又は該冷凍装置とは別に単独で液化窒素、液化二酸化炭素等の液化冷却ガスを用いる場合がある」と記載され,また摘記事項(カ)に「機械式冷凍装置と併用し又は該冷凍装置とは別に単独で液化冷却ガスが採用される場合」と記載されるように,上記の「冷却器910」が機械式冷凍装置であることは明らかであるが,冷却器910を冷却するために必要な冷凍機をどこに配置するかは明記されていない。しかし,冷凍機を断熱壁の外部に配置することは当業者における技術常識であり,また冷却器910との関係から冷凍機を環境試験装置の内部に配置することは,当業者であれば通常行い得たものである。すると,上記の送風機を駆動するモーターが配置されるような部位に冷凍機を配置し,その部位を機械室と称することは,当業者であれば適宜に為し得たものである。
次に,甲第10号証には,摘記事項(エ)に「冷却ガスの供給により低温空調部100の気圧が大気圧より高圧の予め定めた圧力以上になると該弁が開き、高圧気体を外部へ放出する」と記載され,摘記事項(カ)に「該雰囲気提供部内気体を確実にかつ自動的に外部へ排出することができるとともに、液化冷却ガスの断続供給のインターバルの間には、前記雰囲気提供部内へ外気が侵入することを確実にかつ自動的に防止することができ」と記載されていることから,槽30が外部に対して気密となっていることは明らかである。そして,甲第10号証に記載された発明の断熱扉301が,槽30の気密を保って開閉可能とするために,槽30と断熱扉301の間にパッキンを設けるようにすることは,例えば甲第8号証(摘記事項(ア))にも示されるように,当業者における周知の技術である。
そうすると,甲第10号証に記載された発明において,冷凍機を機械室に配置すること,及び,試験室と扉の間にパッキンを設けることは,周知の技術に基づいて,当業者であれば容易に為し得たものである。

相違点2について。
甲第10号証には,摘記事項(ア)に「液化窒素、液化二酸化炭素等の液化冷却ガス」と記載されるように,「液化冷却ガス」として「液化窒素、液化二酸化炭素」を用いることが記載されている。これら液化窒素や液化二酸化炭素からの冷却ガスが,水分を含まない,乾燥したガスであることは,当業者には明らかである。
ここで,本件訂正後の明細書の【0025】段落には「乾燥空気供給タンク30には、配管31を経由して乾燥空気源(図示せず)と接続され、あらかじめ除湿された乾燥空気(あるいは窒素ガス)が供給されている。」と記載されており,窒素ガスを乾燥空気源から供給してもよいことが記載されている。
してみると,本件特許発明における「空気」とは,いわゆる地球を包む大気の下層部分を構成する気体という狭義の空気ではなく,より広い意味の「気体」を指すものと理解され,甲第10号証に記載される液化窒素からの冷却ガスは,本件特許発明の乾燥空気に含まれるものである。また,甲第10号証には,冷却ガス源を具体的にどのような構成とするか明記されていないが,タンクをガスの供給源とすることは,当業者における周知の技術である。
そうすると,上記相違点2は,実質的に相違するものではない。

相違点3について。
甲第10号証には,「低温槽3には排気ダクト2の形態の排気通路が接続されている。該排気ダクト2は断熱壁6内を通り、装置上端に開口している。該開口部21にはネオプレンゴム製の片持ち支持板状弁体を備えた逆止弁1が設けられている」,「低温槽3に冷却ガスが添加されると、槽3及び空調部10内は陽圧となるが、その圧力が大気圧より高圧の予め定めた圧力以上になると、これら部分の気体は速やかに自動的にその圧力でもって弁1を開き、装置外へ出る」,「冷却ガスの断続添加によるインターバルの間に槽3内が陰圧となったときには、装置外気圧によりただちに弁1は閉じ、外気の槽3及び空調部10への侵入は防止される」(摘記事項(イ)),「低温空調部100には排気通路20が接続されており、該通路は断熱壁60の中を通って、装置上端へ開口している。該通路の上部20Aはここを通る気体が高温空調部によって加熱されるように、高温空調部200に近接して配置されている。 通路20の上端開口は第1図の装置において採用されている逆止弁1と同じ構造の弁1を備えている」(摘記事項(ウ)),「低温さらしにおいては、必要に応じ電磁弁501が開かれ、冷却ガスが導入される。 排気通路20及び該通路上端開口の弁1の働きは第1図の装置における排気通路2及び弁1の働きと同様であり、冷却ガスの供給により低温空調部100の気圧が大気圧より高圧の予め定めた圧力以上になると該弁が開き、高圧気体を外部へ放出する」(摘記事項(エ))ことがそれぞれ記載されている。
この甲第10号証に記載された「逆止弁」は,槽の圧力が大気圧より高圧になった場合には弁が開き,槽内の気体を外部へ放出するが,槽の圧力が陰圧になったときには弁が閉じ,外気が槽へ侵入することを防止するというもので,逆止弁自体の作用としては,相違点3に示された本件特許発明の開閉弁の作用と同一の弁作用を奏するものである。しかし,本件特許発明の開閉弁は,圧力調整室である供給タンクと試験室との接続口に設けられ,供給タンクから試験室側には開放可能とされ,試験室から供給タンク側へは開放されないものであり,圧力調整室としての供給タンクから試験室へ乾燥空気が流入可能とする機能を有するものである。一方,甲第10号証に記載された逆止弁は,槽内の気体を外部へ放出するが,外気が槽へ侵入することを防止するという機能を有するものであり,本件特許発明の開閉弁と,その奏する機能において,異なる。
そして,甲第10号証に記載された発明は,ガス導入回路50の回路中に電磁弁501があり,冷却ガスの導入は電磁弁によって行えるものであり,電磁弁を閉じることで槽30からの空気の逆流を防止することも行えるのであるから,上記のような逆止弁を甲第10号証に記載された発明の槽30とガス導入回路50との接続口に設けようとする理由がない。
また,本件特許発明は,上記相違点3にかかる構成を有することにより,低温試験時に,開閉弁が試験室の内側に開放され,供給タンクから乾燥空気が試験室に流入することで,試験室内の圧力が一定に保持され,試験室に対して外部空気との呼吸作用が発生することがないという,特有の効果を奏するものである。
そうすると,上記相違点3は,当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

(ウ)まとめ
以上のとおり,本件特許発明が甲第10号証及び甲第8号証に記載された発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。

(2)明細書の記載について
当審における無効理由通知にて指摘した,明細書の記載についての不備は,本件訂正によって解消されている。

第7 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件特許発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条及び第62条の規定により,10分の1を請求人の負担とし,10分の9を被請求人の負担とすべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
冷熱衝撃試験装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を収納するため開閉される試験室扉を有する試験室と、低温室と、高温室と、冷凍機が配置された機械室とを備え、前記試験室に前記低温室からの冷風あるいは高温室からの熱風が供給される冷熱衝撃試験装置において、
前記試験室と前記試験室扉の間に設けられたパッキンと、前記試験室に連通され空気が封入された圧力調整室と、を備え、
前記圧力調整室は乾燥空気を供給する供給タンクとされ、その内部圧力は低温試験時における前記試験室の圧力以上に設定され、
低温試験時に前記圧力調整室から前記乾燥空気が前記試験室へ流入可能とされ、
前記試験室との接続口であり前記試験室の内部側に開閉弁が設けられ、前記供給タンクから前記試験室側には開放可能とされ、前記試験室から前記供給タンク側へは開放されないことを特徴とする冷熱衝撃試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験室に各種材料、各種機器の部品等の試料を入れ、試料を低温と高温の雰囲気に交互にさらして熱ストレス特性、耐久性、熱的強度等を試験する冷熱衝撃試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種材料、各種機器の部品等の熱ストレスに対する耐熱性、物理的・電気的特性等の変化を短時間で評価する冷熱衝撃試験装置において、低温室の冷却器に着霜が多くなった場合、高温室から熱風を低温室へ通して除霜することにより試験の中断時間を短くすることが知られ、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平03-90838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術においては、試験室がほぼ一定の内容積であり、試験室に冷風と熱風が交互に供給された場合、試験室内の圧力は、低温試験時では空気の体積減少により低下し、高温試験時では空気の体積増加により上昇する。したがって、冷熱衝撃試験の繰り返しによって試験室外部と試験室内部の空気に圧力差が発生し、呼吸作用(外気の出入り)を生じる。つまり、試験室が低温試験中の場合は外部空気が試験室内部に流入し、高温試験中の場合は試験室内の空気が外部に流出するようになる。そして、これにより、低温室の冷却器に霜が付着してその能力が低下し、試験の中断時間が長くなったり、試験室内部の温度を所定の低温、高温にするにあたって無駄な時間が多くなったりして十分なものとはいい難かった。
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、着霜等の無駄な処理時間による試験の中断時間を無くすと共に、試験室の内部温度を所定の低温、高温にすばやくなるように木目細かい温度制御を可能にし、冷熱衝撃試験の精度を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、試料を収納するため開閉される試験室扉を有する試験室と、低温室と、高温室と、冷凍機が配置された機械室とを備え、前記試験室に前記低温室からの冷風あるいは高温室からの熱風が供給される冷熱衝撃試験装置において、
前記試験室と前記試験室扉の間に設けられたパッキンと、前記試験室に連通され空気が封入された圧力調整室と、を備え、前記圧力調整室は乾燥空気を供給する供給タンクとされ、その内部圧力は低温試験時における前記試験室の圧力以上に設定され、低温試験時に前記圧力調整室から前記乾燥空気が前記試験室へ流入可能とされ、前記試験室との接続口であり前記試験室の内部側に開閉弁が設けられ、前記供給タンクから前記試験室側には開放可能とされ、前記試験室から前記供給タンク側へは開放されないものである。
【0007】
【0008】
【0009】
【0010】
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、冷熱衝撃試験装置の試験室に圧力調整室を付設して、低温試験時及び高温試験時には圧力調整室によって試験室と外部空気との呼吸作用の発生を無くしたので、低温室に湿度を多量に含んだ外部空気の流入を無くすことができる。したがって、低温室内に配置されている冷却器の着霜を減少し、低温室内の温度を長期間、安定に保持して運転することが可能となり、試験の中断時間を無くしたり、内部温度を所定の低温、高温にすばやくなるような追従性を向上したりして冷熱衝撃試験の精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
冷熱衝撃試験装置において、試験室内は試験室内部の温度が冷風、熱風の空気によって-65℃から150℃までの温度範囲にさらされるため、試験室内の空気の圧力は、ボイル・シャルルの法則(PV=RT:気体の体積Vは圧力Pに反比例して小さくなり、絶対温度Tに比例して大きくなる)に示されるように、低温試験時では空気の体積減少により低下し、高温試験時では空気の体積増加により上昇する。
したがって、冷熱衝撃試験の繰り返しによって試験室外部と試験室内部の空気に圧力差が発生する。そして、この圧力差によって試験室に呼吸作用(外気の出入り)が発生し、試験室が低温試験中の場合は外部空気が試験室内部に流入し、試験室が高温試験中の場合は試験室内の空気が外部に流出するようになる。さらに、外気が流入することにより低温室の冷却器に霜が付着してその能力が低下し、外気が流出することにより蓄熱量が外部に放出され、試料に対して急激な温度変化(熱ストレス)を精度良く印加することが困難であった。
そこで、冷熱衝撃試験装置の試験室に内容積可変式の圧力調整室を付設して、外部空気との呼吸作用の発生を無くすこととした。
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に従って説明する。
図1において、1は試験室で、冷風供給口2、冷風排出口3、熱風供給口4、熱風排出口5が配置され、試料6を収納できるようになっている。また、各々の供給口、排出口には冷風切換ダンパ7、熱風切換ダンパ8が配置されている。
9は低温室で、室内の空気を冷却する冷却器10と、冷却された空気を所定の温度に調節して保持する加熱器11とが配置され、調温された冷却空気(以下、冷風という)が送風機12で試験室1に送られる。
【0014】
試験室1内の試料6に対して急激な熱ストレスを与える必要があるため、低温室9の熱容量は試料6を含めた試験室1内の熱容量以上を有する必要があり、このため低温室9には蓄熱板13が設けられ、蓄熱板13は比熱の大きい、たとえばアルミニウム鋼材(約0.90J/kg・K)が使用され、蓄熱板13の比熱と質量による熱容量によって、低温室9全体の熱容量は試料6を含めた試験室1内の熱容量以上となっている。
14は高温室で、室内の空気を加熱する加熱器15が配置され、調温された加熱空気(以下、熱風という)が送風機16で試験室1に送られる。高温室14の熱容量は試料6を含めた試験室1内の熱容量以上とするため、蓄熱板17が設けられ、蓄熱板17は低温室9に配置する蓄熱板13と同等の機能を持つ。
なお、試験室1、低温室9、高温室14は、断熱材18により熱的に遮断されており、所定の温度に到達後、その温度に保持できるようになっている。また、試験室1には通気口20が付設され、図2で説明する圧力調整室19と連結されている。
【0015】
図2の右側断面図において、断熱材18により遮断された試験室1、低温室9、高温室14の背面側には、機械室21が配置され、機械室21には、低温室9内の冷却器10を所定の温度に冷却するための冷凍機(図示せず)、冷風切換ダンパ7および熱風切換ダンパ8を駆動するためのシリンダ22、圧力調整室19が装備されている。
【0016】
試験室1は通気口20-A、20-Bを経由して圧力調整室19と連通され、圧力調整室19は、たとえばポリエチレン、ポリエチレン-テレフタラート等の伸縮可能で、かつ強度を保持できる材質によって薄膜の袋状に形成されている。したがって、試験室1の内容積は、内外の圧力差で圧力調整室19が伸縮することで変化する。また試験室1の前面側には、試料6を収納する場合に開閉するための試験室扉23が装備されている。
試験室1内を所定の低温温度あるいは高温温度に保持するため、試験室1は外部空気が流入、あるいは流出することが極力無い構造にする必要があるため、また試験室1を経由して低温室9内に湿度を多量に含んだ外部空気が流入することを防止して、冷却器10、蓄熱板13への着霜を防止し冷凍機の冷凍能力を維持する必要があるため、試験室扉23には閉止時に密閉するためのパッキン24が装備されている。さらに、内側のパッキン24-Aとあわせ、密閉性を高めるために外側のパッキン24-Bを装備しての2重構造としている。
【0017】
冷風切換ダンパ7および熱風切換ダンパ8と、これを駆動するためのシリンダ22は、シャフト25により連結され、シャフト25は試験室1と断熱材18を貫通しているが、貫通孔部にはパッキン26が装備され、シャフト25と貫通孔を密閉している。以上、パッキン24、26は、ゴム・麻糸屑、石綿、銅板、鉛、プラスチックなどを用いるので、試験室1の密閉性を高め、外部空気が流入、あるいは流出することを防止している。
【0018】
次に冷熱衝撃試験における試験室内温度と経過時間の関係を図3により説明する。低温室9は、試料6に対して、-65℃と150℃の温度に交互にさらす冷熱衝撃試験を実施する場合には、-65℃より低い温度、たとえば-80℃に保持され、高温室14は、150℃より高い温度、たとえば180℃に保持されている。
この状態でシリンダ22-Aを駆動させて冷風切換ダンパ7を開くと、低温室9内の冷風が試験室1に流入して試料6を含めた試験室1内の温度はA(5分)以内の短時間で所定の-65℃に変化する。さらに、試料6を所定の時間(15分間)冷風にさらした後、シリンダ22-Aを駆動させて冷風切換ダンパ7を閉じ、低温試験を完了する。
【0019】
次にシリンダ22-Bを駆動させて熱風切換ダンパ8が開くと、高温室14内の熱風が試験室1内に流入して試料6を含めた試験室1内の温度はB(5分)以内の短時間で所定の150℃に変化する。さらに、試料6を所定の時間(15分間)熱風にさらした後、シリンダ22-Bを駆動させて熱風切換ダンパ8を閉じ、高温試験を完了する。この低温試験、高温試験を所定の回数繰り返して行ない、冷熱衝撃試験が完了する。A、Bは通常、温度復帰時間と称され、冷熱衝撃試験においては5分以内の短時間で変化させることが必要となる。
【0020】
試験室1内の空気の体積は、圧力に反比例して小さくなり、絶対温度に比例して大きくなるが、圧力調整室19を装備しているので、低温試験時には、図4に示すとおり圧力調整室19の空気は外気圧(大気圧)に押されて通気口20-A、20-Bを経由して試験室1内に流入し、圧力調整室19の内容積は縮小する。このため試験室1内部の圧力は低温試験-65℃にさらされる前後でも一定(ほぼ大気圧)に保持される。
高温試験時には、図5に示すとおり試験室1内の空気は通気口20-A、20-Bを経由して圧力調整室19に流入し、圧力調整室19の内容積は外気圧と平衡するまで図のように拡大する。このため試験室1内部の圧力は高温試験150℃にさらされる前後でも一定(ほぼ大気圧)に保持される。
【0021】
以上、試験室内部の圧力を低温試験時、また高温試験時いずれの場合でも均等になるようにできるので、試験中に試験室外部と試験室内部の圧力差が無く、試験室に対して外部空気との呼吸作用が発生することが無くなり、冷熱衝撃試験の開始から完了まで、試験室1内には低温室9、および高温室14以外の空気の流入を無くすことができる。なお、圧力調整室19に必要な内容積は、ボイル・シャルルの法則(数1)をもとに、試験室1、低温室9、高温室14の内容積と、低温試験温度、高温試験温度により予め求めれば良い。また、圧力調整室19は、試験室1そのものに組み込むことでも良く、その場合は試験室1、又はその一部の内容積が可変、膨張収縮するようになっていれば良い。
【0022】
図6、7は他の実施の形態を示し、19-Bは圧力調整室であり、耐熱、耐薬品性が高い高分子有機ケイ素化合物である薄膜シリコン等の、伸縮可能でかつ強度を保持できる材質によって蛇腹型の袋状に形成されている。圧力調整室19-Bは通気口20-A、20-Bを経由して試験室1と連通され、圧力調整室19-Bの他方端は、ロッド27を介して空気シリンダ28に連結されている。空気シリンダ28は配管29を経由して圧縮空気源(図示せず)と接続され、圧縮空気源から供給される圧縮空気により空気シリンダ28のロッド27が駆動される。
【0023】
低温試験時には圧縮空気源から圧縮空気が配管29を経由して図中の矢印に示す方向に空気シリンダ28に供給され、圧力調整室19-Bはロッド27により押しこまれて内容積が縮小する。そして、圧力調整室19-B中の空気は通気口20-A、20-Bを経由して試験室1内に流入する。このため試験室1内部の圧力は低温試験-65℃にさらされる前後でも一定(ほぼ大気圧)に保持できる。また、図7に示すように高温試験時には圧縮空気源から圧縮空気が配管29を経由して図中の矢印に示す方向に空気シリンダ28に供給され、圧力調整室19-Bはロッド27により引かれるため、圧力調整室19-Bの内容積は拡大する。
【0024】
通気口20-A、20-Bを経由して試験室1内の空気は圧力調整室19-Bに流入して外気圧と平衡するまで拡大するので、内部の圧力は高温試験150℃にさらされる前後でも一定(ほぼ大気圧)に保持される。したがって、試験室内部の圧力を低温試験時、また高温試験時いずれの場合でも均等になるようにできる。
【0025】
図8、9はさらに、圧力調整室に対する他の実施の形態を示し、30は乾燥空気の供給タンクであり、1.0MPa程度の圧力に耐えられるような容器である。乾燥空気供給タンク30は通気口20-A、20-Bを経由して試験室1と連通されている。乾燥空気供給タンク30には、配管31を経由して乾燥空気源(図示せず)と接続され、あらかじめ除湿された乾燥空気(あるいは窒素ガス)が供給されている。なお、乾燥空気源からの供給圧力は乾燥空気供給タンク30の内部圧力(P2)が、低温試験時における試験室1内の圧力(P1)以上となるように設定されている。
通気口20-Aと試験室1との接続口には、開閉弁32が装備され、開閉弁32は乾燥空気の供給タンク30からの試験室1への乾燥空気の供給量を制御するものであり、たとえばステンレス鋼にシリコン材を貼り付けた板状のものであり、その一端は支点33により回動可能として支持されている。開閉弁32は試験室1の内部側に取付けられていて、通気口20-A側から試験室1への空気流動がある場合は、試験室1の内側に自由開放するようになっている。したがって、試験室1側から通気口20-Aへの空気流動がある場合は開放されず、通気口20-Aを密閉する。
【0026】
以上のように、乾燥空気の供給タンク30を装備すると、低温試験時には、密閉された試験室1内の空気は体積が小さくなり試験室1外部の空気圧力より減少するが、乾燥空気供給タンク30の中の圧力は低温試験時における試験室1内の圧力以上なっているため、開閉弁32が試験室1の内側に開放する。よって、乾燥空気供給タンク30から乾燥空気が試験室1に流入するので、試験室1内部の圧力は変化しない。つまり、試験室内の圧力は、低温試験-65℃にさらされる前後で一定(ほぼ大気圧)に保持される。したがって、試験室に対して外部空気との呼吸作用が発生することが無く、冷熱衝撃試験の開始から完了まで、試験室1内には低温室9、および高温室14以外の空気の流入が無くなる。また、試験室1に供給される空気はあらかじめ除湿された乾燥空気であるため、低温室9に流入した場合でも冷却器10、蓄熱板13に霜を付着させることが無く、冷却器10の冷却能力を低下させることが無い。そして、長期間、連続の冷熱衝撃試験装置が可能となり、試験途中での冷却器の除霜処理が不要となり、無駄な時間を廃して試験期間の短縮化を図ることができる。具体的には、従来、連続運転可能な試験サイクルは約30サイクル限度とされていたが、本例によれば1000サイクルまでの連続運転が可能となり、試験時間で30%短縮、消費電力量で25%低減が可能となった。
【0027】
以上、低温、あるいは高温試験温度とは異なる外部空気が、試験室に対して流入、あるいは流出することが無いようにしたので、蓄熱量、蓄冷量が外部へ失われることが無くなり、試験室内部の温度を所定の低温温度あるいは高温温度に保持することが容易、必要とされる試験温度、温度変化に対する追従性が向上し、冷熱衝撃試験の試験精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による一実施の形態を示す正面断面図。
【図2】図1の右側面断面図。
【図3】一実施の形態による冷熱衝撃試験における試験室内温度と経過時間の関係を示すグラフ。
【図4】一実施の形態による圧力調整室の内容積が縮小された状態を示す正面図。
【図5】一実施の形態による圧力調整室の内容積が拡大された状態を示す正面図。
【図6】他の実施の形態による圧力調整室の内容積が縮小された状態を示す正面図。
【図7】他の実施の形態による圧力調整室の内容積が拡大された状態を示す正面図。
【図8】さらに他の実施の形態による圧力調整機構を示す正面図。
【図9】さらに他の実施の形態による圧力調整機構を示す側面図。
【符号の説明】
【0029】
1…試験室、2…冷風供給口、3…冷風排出口、4…熱風供給口、5…熱風排出口、6…試料、7…冷風切換ダンパ、8…熱風切換ダンパ、9…低温室、10…冷却器、11…加熱器、12…送風機、13…蓄熱板、14…高温室、15…加熱器、16…送風機、17…蓄熱板、18…断熱材、19…圧力調整室、20…通気口、21…機械室、22…シリンダ、23…試験室扉、24…パッキン、25…シャフト、26…パッキン、27…ロッド、28…空気シリンダ、29…配管、30…供給タンク、31…配管、32…開閉弁、33…支点。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-03-19 
結審通知日 2009-03-24 
審決日 2009-04-06 
出願番号 特願2005-193294(P2005-193294)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 竜介  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 田邉 英治
後藤 時男
登録日 2007-06-22 
登録番号 特許第3973224号(P3973224)
発明の名称 冷熱衝撃試験装置  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 特許業務法人武和国際特許事務所  
代理人 特許業務法人武和国際特許事務所  
代理人 小谷 悦司  
代理人 玉串 幸久  
代理人 特許業務法人武和国際特許事務所  

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