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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B27K 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B27K |
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管理番号 | 1200883 |
審判番号 | 不服2007-16356 |
総通号数 | 117 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-06-12 |
確定日 | 2009-07-16 |
事件の表示 | 特願2002-571270「ホルムアルデヒドを含む層状製品からのホルムアルデヒドの放出の低減方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月19日国際公開、WO02/72323、平成16年 7月29日国内公表、特表2004-522628〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成14年3月4日(パリ条約による優先権主張 平成13年3月12日)の出願であって、平成19年3月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月10日付けで手続補正がなされたものである。 その後、平成20年9月5日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、同年12月9日に回答書が提出された。 第2 平成19年7月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成19年7月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正の内容及び補正後の本願発明 本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1を次のように補正しようとする補正事項を含むものである。 「少なくとも一つが板紙又はベニヤである、少なくとも2層を有するホルムアルデヒドを含む層状製品からのホルムアルデヒドの放出の低減方法であって、これらの層を一緒に結合する前に、前記板紙又はベニヤの表面の少なくとも一つを無機硫黄含有塩と尿素を含む溶液で処理され、この方法により処理された板紙又はベニヤが層状製品の裏面又は層を構成することを特徴とする上記方法。」 上記補正事項は、本願の補正前の請求項1に記載の「無機硫黄含有塩を含む溶液」について、「無機硫黄含有塩と尿素を含む」ものに限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。 2.刊行物及びその記載内容 刊行物1:特開昭48-72308号公報 刊行物2:特開2001-38707号公報 原査定の拒絶理由で引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物1には、次のことが記載されている。 (1a)「ホルムアルデヒド系樹脂を用いる合板製造工程において、乾燥前又は乾燥後の単板にホルムアルデヒドの結合剤を含有する溶液を塗布、浸透させ、得られた単板から合板を製造することを特徴とする、無臭合板の製法。」(特許請求の範囲) (1b)「接着剤として尿素系樹脂、メラミン系樹脂、石炭酸系樹脂などのホルムアルデヒドを原料とする樹脂を用いる一般の合板は、製造後にホルムアルデヒドが遊離するので、この合板を使用した食器戸棚その他の家具類、住宅の壁などは、後日ホルムアルデヒドが発散して、不快臭、目に対する刺激などの公害を生じる欠点がある。そのため遊離ホルムアルデヒド量の軽減その他の抑止対策が要望されている。」(1頁左下欄14行?右下欄3行)、 (1c)「本発明で用いるホルムアルデヒドの結合剤は、・・・無害で安定な物質であることが必要である。たとえば・・・尿素などのアミド類、・・・環状アルキレン尿素その他があげられ、尿素又は環状アルキレン尿素が特に好ましい。」(2頁右上欄17行?左下欄7行)、 (1d)「実施例 ラワン類の原木丸太よりロータリーレースで剥板された表板、裏板および中心板をリーリング巻取りする際に、スプレーにて尿素の30%水溶液を噴霧状態にして単板の全面に・・・平均に吹き付ける。単板はリーリングされることにより溶液が木部内部に浸透、湿潤される。次いでドライヤーにて含水率を8?12%に調整したのち、調板工程でこれらの単板を仕組む。別に尿素樹脂190部、水45部、・・・および塩化アンモニウム1部の割合で調整した接着剤を・・・中心板の表面および裏面に・・・塗布し、これを表板および裏板とともにコールドプレスにて・・・仮接着し、さらに・・・熱圧して樹脂を硬化する。この合板を・・・充分空冷して遊離ホルムアルデヒドを発散させ、次いで・・・裁断したのち、サンダー研磨にて表面を処理して製品とする。」(3頁右上欄1行?左下欄1行)。 これらの記載及び当業者の技術常識によれば、刊行物1には次の発明が記載されていると認められる。 「ラワン類の原木丸太より剥板された表板、裏板及び中心板を有し、接着剤として尿素系樹脂、メラミン系樹脂、石炭酸系樹脂などのホルムアルデヒドを原料とする樹脂を用いる合板からのホルムアルデヒドの発散を抑制する方法であって、これらの表板、裏板及び中心板を一緒に結合する前に、前記表板、裏板及び中心板の表面が、ホルムアルデヒド結合剤である尿素を含む溶液で処理され、この方法により処理された表板、裏板及び中心板が合板の表面層、裏面層及び中心層を構成する上記方法。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。) 原査定の拒絶理由で引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物2には、次のことが記載されている。 (2a)「【請求項1】木質繊維板を製造する原料木質繊維を得る際に、合板の端片、解体材、二次加工後等のすでにホルムアルデヒドを含有した木質繊維とホルムアルデヒド捕捉剤を混合し、加圧成型する事を特徴とする耐水性良好、かつ放出ホルムアルデヒド量の少ない木繊維板の製造方法。 【請求項2】ホルムアルデヒド捕捉剤がアンモニウム塩、アミノ基、アミド基、イミノ基を有する化合物および/または亜硫酸塩類または重亜硫酸塩類の少なくとも1種又は2種以上からなる請求項1記載の製造方法。」、 (2b)「【0010】本発明で用いるホルムアルデヒド捕捉剤とはホルムアルデヒドと反応する物質であれば特に限定するものではない。・・・かかる観点から、アンモニウム塩類、分子内にアミノ基、アミド基、イミノ基を有する化合物、および/または亜硫酸塩または重亜硫酸塩の一種または二種以上を用いる事が望ましい。アンモニウム塩類としては、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、・・・が例示できる。また、分子内にアミノ基、アミド基、イミノ基を有する化合物として、尿素、チオ尿素、メラミン、ジシアンジアミド、ベンゾグアナミン等が例示できる。さらに、亜硫酸塩または重亜硫酸塩としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素アンモニウム等が例示できる。これらホルムアルデヒド捕捉剤は、表裏層あるいは、最内層の原料木質繊維を得る際に用いることができる。」 (2c)「【0011】・・・ 実施例1 フェノール樹脂、PL-281(三井化学株式会社製、JISパーティクルボードPタイプE0グレード用)を用い以下に示す方法、条件で木質繊維板を作成した。再利用した木質繊維として合板の端片をフレーカーで木片とし、それにホルムアルデヒド捕捉剤として、粒状尿素を木質繊維に対し1.0%添加し均一混合した後水分4%まで乾燥した。それを原料木質繊維とした。つぎに、目開き1mmの篩で篩分けし、篩下の物を表裏層用木質繊維とし、篩上の物を芯層用木質繊維とした。つぎに、準備したフェノール樹脂242部、50%ワックスエマルション10部、水50部を混合したものを表裏層用木質繊維1040gにスプレー塗布した。・・・塗布後の木質繊維から450gずつ分取し、表層、裏層用とした。つぎに、準備したフェノール樹脂105部、50%ワックスエマルション10部、水20部を混合したものを芯層用木質繊維1040gにスプレー塗布した。・・・塗布後の木質繊維から1100g採取し、芯層用とした。38cm角の枠内に裏層用木質繊維を均一に塗布し、続けて芯層用、表層用を散布し堆積した繊維マットを、180℃の熱板に挟んで、30Kgf/cm^(2)の圧力で5分間圧締し、厚み20mm、密度750mm/m^(3)の木質繊維板を得た。」 (2d)「【0012】実施例2?9 ホルムアルデヒド捕捉剤、木質繊維に対するホルムアルデヒド捕捉剤添加量を表1のように変更した以外は実施例1と同様に行った。物性評価結果を表1に示す。」 (2e)表1には、実施例2及び3は、ホルムアルデヒド捕捉剤として「尿素」を添加したことが、実施例8は、ホルムアルデヒド捕捉剤として「亜硫酸アンモニウム」を添加したこと、いずれの実施例も、ホルムアルデヒド捕捉剤を添加しない比較例に比べてホルムアルデヒド放出量が低減したことが示されている。 3.対比 補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「ラワン類の原木丸太よりロータリーレースで剥板された表板、裏板及び中心板」、「合板」、「ホルムアルデヒドの発散を抑制する方法」は、それぞれ補正発明の「ベニヤ」、「層状製品」、「ホルムアルデヒドの放出の低減方法」に相当する。 刊行物1記載の発明の「ホルムアルデヒド結合剤である尿素を含む溶液」と補正発明の「無機硫黄含有塩と尿素を含む溶液」とは、「ホルムアルデヒド結合剤を含む溶液」である点で共通する。 また、刊行物1記載の発明の「合板」は、裏板、中心板、表板の3層から構成されるものであるから「少なくとも2層を有する」ものであり、また、接着剤として尿素系樹脂、メラミン系樹脂、石炭酸系樹脂などのホルムアルデヒドを原料とする樹脂を用いるものであるから、「ホルムアルデヒドを含む」ものである。 ところで、補正発明の「処理されたベニヤが層状製品の裏面又は層を構成する」の「層」が何を意味しているのか明確ではないが、刊行物1記載の発明は、処理されたベニヤが、層状製品(合板)の裏面の層、中心の層、表面の層を構成するものでもあり、「処理されたベニヤが層状製品の裏面又は層を構成する」ものといえる。 したがって、両者は、 「少なくとも一つがベニヤである、少なくとも2層を有するホルムアルデヒドを含む層状製品からのホルムアルデヒドの放出の低減方法であって、これらの層を一緒に結合する前に、前記ベニヤの表面の少なくとも一つをホルムアルデヒド結合剤を含む溶液で処理され、この方法により処理されたベニヤが層状製品の裏面又は層を構成する上記方法。」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点:ホルムアルデヒド結合剤を含む溶液が、補正発明では「無機硫黄含有塩と尿素を含む溶液」であるのに対し、刊行物1記載の発明では、「尿素を含む溶液」であって「無機硫黄含有塩」を含んでいない点。 4.判断 上記相違点について検討すると、刊行物2には、ホルムアルデヒドの放出を低減させるために木質材に適用するホルムアルデヒド結合剤(刊行物2における「ホルムアルデヒド捕捉剤」)として、亜硫酸塩類または重亜硫酸塩類亜硫酸塩等の無機硫黄含有塩が記載されており、また、尿素などのアミド基、アミノ基、イミノ基を有する化合物、アンモニウム塩、および亜硫酸塩類または重亜硫酸塩類の少なくとも1種又は2種以上から選択される二種以上の結合剤を組み合わせて用いることも記載されている。 なお、刊行物2の実施例には、「尿素」または「亜硫酸アンモニウム」をそれぞれ単独で使用した例が示されているだけであるが、ホルムアルデヒド結合剤として「尿素」と「亜硫酸塩」を併用することは従来から行われている(例えば、特開平11-147206号公報の段落【0010】、特開平10-119010号公報の実施例参照)。 そうすると、刊行物1記載の発明において、ホルムアルデヒド結合剤として公知の亜硫酸塩類または重亜硫酸塩類亜硫酸塩等の無機硫黄含有塩を、尿素と組み合わせて用いることは、当業者が適宜なし得ることである。 なお、請求人は、回答書において、刊行物2記載の発明は、繊維から形成された単一の層状の板の製造に関するものであり、ホルムアルデヒド捕捉剤は、接着剤である樹脂と混練されるものであるから、刊行物2の記載から補正発明に到達することはできない旨主張するが、刊行物2には、「無機硫黄含有塩」がホルムアルデヒド捕捉作用を奏することが記載されているのであるから、刊行物1記載の発明における「ホルムアルデヒド結合剤」として、使用してみようとすることに困難性はない。 次に、補正発明の効果について検討する。 請求人は、審判請求書とともに参考資料を提示し、「本発明に従って無機亜硫酸塩と尿素を含む溶液によるベニヤの前処理は、予期しないことに、多量のかなり濃厚な塩溶液を使用することを必要としないでホルムアルデヒドの放出を一層有効に低減する、という優れた効果を奏するものであります。」と主張している。 しかし、該参考資料に記載された比較試験には、亜硫酸アンモニウム塩単独のものよりも、尿素を付加したものの方がホルムアルデヒドの放出量が低減されていることが示されているものの、両者の相乗的な効果までは認められない。 また、「無機亜硫酸塩」が、参考資料の比較実験で用いられた「亜硫酸アンモニウム塩」以外のどのようなものであっても、尿素との併用により、比較実験と同様な効果が得られるものとも認められない。 そうすると、補正発明の効果は、刊行物1及び2記載の発明から当業者が予測しうる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。 したがって、補正発明は、刊行物1及び2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 5.むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成19年7月10日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし15に係る発明は、平成18年9月14日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「少なくとも一つが板紙又はベニヤである、少なくとも2層を有するホルムアルデヒドを含む層状製品からのホルムアルデヒドの放出の低減方法であって、これらの層を一緒に結合する前に、前記板紙又はベニヤの表面の少なくとも一つを無機硫黄含有塩を含む溶液で処理され、この方法により処理された板紙又はベニヤが層状製品の裏面又は層を構成することを特徴とする上記方法。」 2.刊行物の記載内容 原査定に引用され本願出願前に頒布された刊行物1及び2の記載内容は、前記「第2 2.」に記載したとおりである。 3.対比・判断 上記「第2 2.」の対比をふまえて、本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると、刊行物1記載の発明の「尿素を含む溶液」と本願発明の「無機硫黄含有塩を含む溶液」とは、「ホルムアルデヒド結合剤を含む溶液」である点で共通するから、両者は、 「少なくとも一つがベニヤである、少なくとも2層を有するホルムアルデヒドを含む層状製品からのホルムアルデヒドの放出の低減方法であって、これらの層を一緒に結合する前に、前記ベニヤの表面の少なくとも一つをホルムアルデヒド結合剤で処理され、この方法により処理されたベニヤが層状製品の裏面又は層を構成する上記方法。」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点:ホルムアルデヒド結合剤を含む溶液が、本願発明では、「無機硫黄含有塩を含む溶液」であるのに対して、刊行物1記載の発明は、「尿素を含む溶液」である点。 上記相違点について検討すると、刊行物2には、ホルムアルデヒドの放出を低減させるために木質材に適用するホルムアルデヒド結合剤として、亜硫酸塩類または重亜硫酸塩類亜硫酸塩等の無機硫黄含有塩が記載され、実施例には、「亜硫酸アンモニウム塩」は「尿素」と同様にホルムアルデヒドの放出低減効果を奏することが示されている。さらに、尿素などのアミド基、アミノ基、イミノ基を有する化合物、アンモニウム塩、および、亜硫酸塩類または重亜硫酸塩類の少なくとも1種又は2種以上から選択される二種以上の結合剤を組み合わせて用いることも記載されている。 そうすると、刊行物1記載の発明において、ホルムアルデヒド結合剤として、「尿素」に代えて「無機硫黄含有塩」を用いること、あるいは「尿素」と「無機硫黄含有塩」を併用することは、刊行物1及び2記載の発明に基いて当業者が容易になしうることであり、その効果も予測することができる程度であって、格別顕著なものとは認められない。 したがって、本願発明は、刊行物1及び2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-02-09 |
結審通知日 | 2009-02-18 |
審決日 | 2009-03-03 |
出願番号 | 特願2002-571270(P2002-571270) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B27K)
P 1 8・ 575- Z (B27K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 木村 隆一 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
関根 裕 伊波 猛 |
発明の名称 | ホルムアルデヒドを含む層状製品からのホルムアルデヒドの放出の低減方法 |
代理人 | 伊東 哲也 |
代理人 | 齋藤 和則 |