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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1200890
審判番号 不服2007-23852  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-30 
確定日 2009-07-16 
事件の表示 特願2003-420794「超伝導マグネット装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月 7日出願公開、特開2005-181046〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成15年12月18日の出願であって,平成19年7月26日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年8月30日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに,同年10月1日付けで手続補正がされたものである。

第2 平成19年10月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年10月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
平成19年10月1日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲を補正するものであって,そのうち請求項1についてする補正は,補正前(平成19年7月4日付け手続補正書。以下同様)の特許請求の範囲の
「【請求項6】
超伝導線が巻枠に巻回されることにより構成された第1超伝導コイルブロックと、前記第1超伝導コイルブロックと同様に構成された第2超伝導コイルブロックとを備え、両ブロックが前記コイルの発生する磁界の軸が同じになるように且つギャップを有して対向配置されているスプリット型電磁石と、前記スプリット型電磁石が収納されるとともに前記コイルを超伝導状態に保つための冷媒が保持された冷媒容器と、前記スプリット型電磁石の中心付近に形成された計測空間と、前記第1超伝導コイルブロックと前記第2超伝導コイルブロックとの間の前記ギャップを通り前記計測空間にアクセスするためのアクセスポートとを有する超伝導マグネット装置において、
前記第1超伝導コイルブロックの巻枠と前記第2超伝導コイルブロックの巻枠とが比透磁率1.000?1.002の材料よりなる支持構造物を介して一体に構成されていることを特徴とする超伝導マグネット装置。」及び
「【請求項14】
請求項6において、前記磁界の軸方向から前記計測空間にアクセスするためのアクセスポートをさらに有することを特徴とする超伝導マグネット装置。」
を,
「【請求項1】
超伝導線が巻枠に巻回されることにより構成された第1超伝導コイルブロックと、前記第1超伝導コイルブロックと同様に構成された第2超伝導コイルブロックとを備え、両ブロックが前記コイルの発生する磁界の軸が同じになるように且つギャップを有して対向配置されているスプリット型電磁石と、前記スプリット型電磁石が収納されるとともに前記コイルを超伝導状態に保つための冷媒が保持された冷媒容器と、前記スプリット型電磁石の中心付近に形成された計測空間と、前記第1超伝導コイルブロックと前記第2超伝導コイルブロックとの間の前記ギャップを通り前記計測空間に試料をアクセスさせるための第1アクセスポートと前記磁界の軸方向から前記計測空間にアクセスするための第2アクセスポートとを有する超伝導マグネット装置において、
前記第1超伝導コイルブロックの巻枠と前記第2超伝導コイルブロックの巻枠とが比透磁率1.000?1.002の材料よりなる支持構造物を介して一体に構成され、且つ前記支持構造物に前記第1アクセスポートを配置するための貫通孔が形成されていることを特徴とする超伝導マグネット装置。」(下線部分は,補正前の請求項6に対しての補正箇所である。以下,補正後の請求項1に記載された発明を「本願補正発明」という。)と補正するものである。

上記補正は,補正前の,請求項6を引用して記載された請求項14を,独立して請求項1として記載すると共に,補正前の請求項6において「前記第1超伝導コイルブロックと前記第2超伝導コイルブロックとの間の前記ギャップを通り前記計測空間にアクセスするためのアクセスポート」とあったものを,補正後の請求項1において「前記第1超伝導コイルブロックと前記第2超伝導コイルブロックとの間の前記ギャップを通り前記計測空間に試料をアクセスさせるための第1アクセスポート」とし,また,補正前の請求項14において「前記磁界の軸方向から前記計測空間にアクセスするためのアクセスポート」とあったものを,補正後の請求項1において「前記磁界の軸方向から前記計測空間にアクセスするための第2アクセスポート」として,記載を明瞭にし,さらに,補正前の請求項6に記載された発明を特定するために必要な事項である「支持構造物」について「前記支持構造物に前記第1アクセスポートを配置するための貫通孔が形成されている」との限定を付したものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下単に「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第4号に規定する明りょうでない記載の釈明及び同第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。

そこで,本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

2 引用例
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用した,本願出願日前に頒布された刊行物である,特開2003-329755号公報(以下「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている(下線は当審にて付加した)。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はNMR分析装置に関する。」

イ 「【0023】本発明では、水平磁場を発生させるために横置きされたスプリット型多層円筒超電導磁石を使用する。強磁場を発生させるには、コイルを多層にし、外側にNbTi、内側に強磁場特性に優れたNb_(3)Sn 線材で巻線する。通常数種類の線材を磁場特性に応じて使い分ける。直径よりも軸長の長い円筒コイルを横置きとすることから、装置高さを縦置き型にくらべ1/2以下と低く抑えることが可能となる。スプリット型とするのは磁場中心に試料およびプローブを挿入配置するためであるが、このときスプリットギャップを大きくとると中心磁場発生効率が悪くなり、超電導コイルの最大経験磁場が高くなる。本発明ではこのときの最大経験磁場と中心磁場の比を1.3 以下とするのが望ましい。また、スプリットコイルではコイル間に膨大な圧縮方向の電磁力が作用するので、スプリットギャップは耐電磁力構造が必要となり、過度に空間を設けることは得策でない。」

ウ 「【0029】
【発明の実施の形態】(実施例1)図1は実施例1に係るNMR分析装置の断面構成を示す。本実施例のNMR分析装置は、液体ヘリウム槽7,熱シールド板10,真空槽9、上部に設けられるヘリウム液溜、を有して構成されているクライオスタット3と、クライオスタット内に横置きで格納されるスプリット型多層円筒の超電導コイル系1と、を有している。クライオスタット3自体は防振架台に据え付けられており、スプリット型円筒超電導コイル系1は低熱侵入の加重支持体によりクライオスタット3内に固定されている。ヘリウム液溜を除いたクライオスタットの外径は約1000mm、長さは約1200mmであり、ヘリウム液溜の高さは500mmである。また、クライオスタット下部にはNMRプローブの挿入配置のために約800mmの空間を設けているため、クライオスタットの床面からの装置全高さは2500mmである。スプリット型多層円筒の超電導コイル系1の内径は70mm、外径は600mm、軸長はコイル端部の超電導接続部を含めて1000mmである。なおスプリット型の円筒超電導コイル系1の重量は約0.9トン であり、防振架台を含めたNMR分析装置の全重量は約1.8トン である。また、発生磁場は中心で14.1T 、最大経験磁場は17.2T としている。
【0030】スプリット型多層円筒の超電導コイル系1は、外層がNbTi線、中層が高耐力のNb_(3)Sn 線、内層が高磁場Nb_(3)Sn 線を用いてコイル巻きにされている。図1では簡略化して3層で記述されているが、それぞれさらに2層に分割されているので、合計6層の多層コイルから構成されている。またスプリットギャップは100mmである。
【0031】超電導シムコイル系2は超電導コイル系1の外側に配置され、全体が液体ヘリウム8に浸漬されている。
【0032】クライオスタット3には、スプリット型多層円筒の超電導コイル系1の中心軸に沿ってクライオスタットを貫く第1の室温空間4が形成されている。第1の室温空間4は室温空間径が50mmで、真空断熱構造を採用し、クライオスタット3と溶接固定されている。更に、第1の室温空間4には磁場均一度を良くするための室温シムコイル系6が配置されている。
【0033】また、中心軸に垂直な方向(図1では紙面上下方向)には、スプリット型多層円筒の超電導コイル系1のスプリットギャップ中心を通りクライオスタット3を貫くよう第2の室温空間5が形成されている。第2の室温空間5の室温空間径は50mmで、クライオスタット3の長さ方向のおおむね中心に、上下方向に鉛直になるよう配置されている。
【0034】なお、第1の室温空間4と第2の室温空間5は超電導コイル系1の中心位置で交差しており、相互に溶接にて真空断熱性を確保している。この交差する空間により被測定試料を配置する。例えば図1の第1の室温空間4と第2の室温空間5の交差する空間には被測定試料11およびソレノイド型プローブコイルを有するNMRプローブ12が挿入配置されている。なお第1の室温空間に挿入は位置されている室温シムコイル系6には、試料のセットされる磁場中心領域での磁場均一度を確保するため特段の配慮がなされている。即ち本願ではスプリット型超電導コイルを用い、第2の室温空間5が直交して構成されているため中心部分は下側からのNMRプローブ12の挿入の妨げにならないよう、室温シムコイル系6の中央部はコイル配線に考慮がなされている。また、第2の室温空間5に挿入されるNMRプローブ12は、ソレノイド型のプローブコイルを有し、プローブコイルのソレノイド中心軸は鉛直方向、すなわち磁場方向が水平方向であるので、両者が直交するように構成されている。」

以上の記載を総合すると,引用例1には,「外層がNbTi線、中層が高耐力のNb_(3)Sn 線、内層が高磁場Nb_(3)Sn 線を用いてコイル巻きにされているスプリット型多層円筒の超電導コイル系1と,
該超電導コイル系1を格納する,液体ヘリウム槽7を有するクライオスタット3と,
中心軸に垂直な方向に、スプリット型多層円筒の超電導コイル系1のスプリットギャップ中心を通りクライオスタット3を貫くよう形成されている第2の室温空間5と,
スプリット型多層円筒の超電導コイル系1の中心軸に沿って形成されているクライオスタットを貫く第1の室温空間4とを有し,
第1の室温空間4と第2の室温空間5は超電導コイル系1の中心位置で交差しており,この交差する空間により被測定試料を配置し,
スプリットギャップは耐電磁力構造が必要とされる,スプリット型多層円筒超電導磁石」(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)引用例3
原査定の拒絶の理由に引用した,本願出願日前に頒布された刊行物である,特開平1-302805号公報(以下「引用例3」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている(下線は,当審にて付加した)。

ア 「[産業上の利用分野]
本発明はNMR(Nuclear Magnetic Resonance=核磁気共鳴)分析用或いはMRI(Magnetic Resonance Imaging=磁気共鳴影像)用等に使用される超電導コイルに関するものである。」(第1頁左下欄第16行目から第20行目。)

イ 「[実 施 例]
以下図面を参照して本発明に係る超電導コイルを説明すると、第1図において1は主コイル、2及び3は夫々主コイル1に直列に接続されたサブコイル、4,5及び6は夫々コイル巻枠にして、例えばSUS等で構成されている。7及び8はコイル巻枠2と5及び2と6の間に介装された本発明を特徴付ける調整機構である。
この調整機構7及び8は、夫々第2図に示すように、一対一組のリング状部材21,23からなり、各部材の端面には夫々円周方向に沿って一方向だけに勾配をつけたピッチの大きい複数の歯22,24が形成されており、その歯同志をかみ合せて連結されている。各リング状部材21,23は、例えばSUS、真ちゅう等の高強度材から構成され、夫々対応する側の巻枠4,5及び6に結合されている。サブコイル巻枠5及び6に結合された各部材21の外周面の一部には、夫々ウォーム歯車の歯と同様の歯25が形成され、主コイル巻枠4に結合された部材23には夫々歯25とかみ合うウォーム26がはめ込まれている。歯25の軸線方向の長さは歯22,24の高さに見合う長さとする。勿論、調整機構7及び8は、上下のサブコイル2及び3が互に逆方向に変位するように構成されている。
以上のような構成において、全体を液体ヘリウム中に浸して超電導状態にし、主コイル1とサブコイル2及び3に単一の電源(図示せず)から所定の電流を流す。この後、各調整機構7及び8におけるウォーム26を夫々駆動させれば、ウォーム26の回転につれて部材21が夫々かみ合いを解く方向に回転する。部材21が回転すると、これが結合されたサブコイル巻枠5及び6も任意の角度回転するが、それらは部材21,23の歯22,24を画定する傾斜面27に沿って主コイル巻枠4から離反するように移動するので、主コイル1とサブコイル2及び3の軸方向の位置が変化する。途中でウォーム26を停止し、これを逆回転させれば、サブコイル巻枠5及び6が接近するように移動し、復帰できるようになっていることは勿論である。主コイル1の中心磁場は常時測定されているので、その磁場が最高の均一度になったとき、各調整機構7及び8におけるウォーム26の回転を停止し、主コイル巻枠4とサブコイル巻枠5,6を固定する。
この例から明らかなように、簡素化された構成により、かつ簡単な操作によって均一度の高い磁場を形成できる超電導コイルが得られる。特に、勾配をつけた歯をもつクラッチ継手のような調整機構の傾斜面を利用して主コイルとサブコイルの軸方向の相対位置を調整するため、コイルの軸方向に関して精度の高い微調整が可能である。この場合、コイル間には吸引力が働くので、傾斜面が有効に動作する。」(第2頁左上欄第10行目から右下欄第3行目。)

(3)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用した,本願出願日前に頒布された刊行物である,特開平3-250705号公報(以下「引用例2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている(下線は,当審にて付加した)。

ア 「〔産業上の利用分野〕
本発明は超電導マグネットに関し、特に、核磁気共鳴装置(以下、「NMR」と略称する)に使用される超電導マグネットに関する。」(第1頁左下欄第12行目から第15行目。)

イ 「〔発明が解決しようとする課題〕
しかし、従来の超電導マグネットは、巻枠がステンレスであるため、NMR用のマグネット等高磁場を発生するものに利用した場合に、巻枠自体が磁化し、ボア内の磁場均一性に擾乱を起こし易かった。このような事態は特に、10^(-9)/cm程度の高度な磁場均一性が要求されるNMR用の超電導マグネットにおいては、致命的な問題である。
かかる問題点を解決するために、巻枠を磁化しない銅によって成形することも考えられるが、この場合、前記W&R法による化合物超電導線を用いるような場合に強度の面で問題がある。すなわち、W&R法においては、800°C程の高温で100?200時間の処理を行うため、銅等は熱によって焼鈍され、変形,変質を生じてしまい、超電導マグネットが正常に動作しない恐れがある。
従って、本発明の目的は常に正常にマグネットを作動させるため、巻枠の機械的、熱的強度を低下させることなく、磁場均一性の擾乱を防止できるようにした超電導マグネットを提供することにある。
〔課題を解決するための手段〕
本発明は、巻枠の機械的、熱的強度を高い値に維持しつつ、磁場均一性の擾乱を防止するため、少なくとも磁場発生領域に最も近いコイルの巻枠をチタンを主成分とした材料によって成形している。
〔作用〕
本発明に係る超電導マグネットは、少なくとも磁場発生領域に最も近いコイルの巻枠をチタンを主成分とした材料によって成形しているため、強い磁場の中にあっても巻枠自体が磁化して磁場領域内の磁場状態に影響を与えるようなことがない。」(第1頁右下欄第13行目から第2頁右上欄第5行目。なお,第2頁右上欄第4行目の「事態」は「自体」の誤記であると認めた。)

3 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「超電導コイル系1」に関し,「外層がNbTi線、中層が高耐力のNb_(3)Sn 線、内層が高磁場Nb_(3)Sn 線を用いてコイル巻きにされている」ことから,超伝導線を巻回することにより多層円筒のコイルが形成されているものであり,「スプリット型」であることから,この多層円筒のコイルは対をなしているものである。また,超電導コイル系1は「スプリット型多層円筒」であって,「第2の室温空間5」が「超電導コイル系1のスプリットギャップ中心を通」って形成されていることから,多層円筒のコイルはギャップを有して対向配置されているものであり,「第1の室温空間4」が「スプリット型多層円筒の超電導コイル系1の中心軸に沿って形成されている」ことから,多層円筒のコイルは,該コイルの発生する磁界の軸が同じになるように配置されているものである。すると,引用発明の「超電導コイル系1」は,本願補正発明の「超伝導線が巻枠に巻回されることにより構成された第1超伝導コイルブロックと、前記第1超伝導コイルブロックと同様に構成された第2超伝導コイルブロックとを備え、両ブロックが前記コイルの発生する磁界の軸が同じになるように且つギャップを有して対向配置されているスプリット型電磁石」に相当する。
(2)引用発明の「該超電導コイル系1を格納する,液体ヘリウム槽7を有するクライオスタット3」は,本願補正発明の「前記スプリット型電磁石が収納されるとともに前記コイルを超伝導状態に保つための冷媒が保持された冷媒容器」に相当する。
(3)引用発明の「第1の室温空間4と第2の室温空間5は超電導コイル系1の中心位置で交差しており,この交差する空間により被測定試料を配置」することからすると,超電導コイル系1の中心位置で被測定試料を計測する空間が形成されることとなり,この計測空間は,本願補正発明の「前記スプリット型電磁石の中心付近に形成された計測空間」に相当する。
(4)引用発明の「中心軸に垂直な方向に、スプリット型多層円筒の超電導コイル系1のスプリットギャップ中心を通りクライオスタット3を貫くよう形成されている第2の室温空間5」は,第1の室温空間には室温シムコイル系6が配置されており,第2の室温空間5には下側からNMRプローブ12が挿入される(上記摘記事項2(1)ウ【0034】)ことからして,第2の室温空間5に上部から被測定試料が計測空間に配置されるようアクセスされることは明らかであるから,本願補正発明の「前記第1超伝導コイルブロックと前記第2超伝導コイルブロックとの間の前記ギャップを通り前記計測空間に試料をアクセスさせるための第1アクセスポート」に相当する。
(5)引用発明の「スプリット型多層円筒の超電導コイル系1の中心軸に沿って形成されているクライオスタットを貫く第1の室温空間4」は,本願補正発明の「前記磁界の軸方向から前記計測空間にアクセスするための第2アクセスポート」に相当する。
(6)引用発明の「スプリットギャップは耐電磁力構造が必要とされる」ことは,本願補正発明の「前記第1超伝導コイルブロックの巻枠と前記第2超伝導コイルブロックの巻枠とが比透磁率1.000?1.002の材料よりなる支持構造物を介して一体に構成され、且つ前記支持構造物に前記第1アクセスポートを配置するための貫通孔が形成されている」ことと,「スプリットギャップに耐電磁力構造を有する」点で共通する。
(7)引用発明の「スプリット型多層円筒超電導磁石」は,本願補正発明の「超伝導マグネット装置」に相当する。

そうすると,本願補正発明と引用発明とは,
「超伝導線が巻枠に巻回されることにより構成された第1超伝導コイルブロックと、前記第1超伝導コイルブロックと同様に構成された第2超伝導コイルブロックとを備え、両ブロックが前記コイルの発生する磁界の軸が同じになるように且つギャップを有して対向配置されているスプリット型電磁石と、前記スプリット型電磁石が収納されるとともに前記コイルを超伝導状態に保つための冷媒が保持された冷媒容器と、前記スプリット型電磁石の中心付近に形成された計測空間と、前記第1超伝導コイルブロックと前記第2超伝導コイルブロックとの間の前記ギャップを通り前記計測空間に試料をアクセスさせるための第1アクセスポートと前記磁界の軸方向から前記計測空間にアクセスするための第2アクセスポートとを有し,
スプリットギャップに耐電磁力構造を有する超伝導マグネット装置。」
である点で一致しており,次の点で相違する。

(相違点)「スプリットギャップに耐電磁力構造を有する」点について,本願補正発明では「前記第1超伝導コイルブロックの巻枠と前記第2超伝導コイルブロックの巻枠とが比透磁率1.000?1.002の材料よりなる支持構造物を介して一体に構成され、且つ前記支持構造物に前記第1アクセスポートを配置するための貫通孔が形成されている」のに対し,引用発明ではどのような具体的構成によって耐電磁力構造をなすのか明らかでない点。

4 判断
上記相違点について判断する。
引用例3には,超伝導コイルにおいて,主コイルと2つのサブコイルとの間それぞれに調整機構を介装することが記載されている。この調整機構は,主コイルとサブコイルとの軸方向の位置を変化させ,主コイルの中心磁場を均一にするためのものであるが,主コイルと2つのサブコイルの対応する巻枠にそれぞれ結合されている,すなわち,コイルと一体にされているものである。また,この調整機構は,「高強度材から構成され」るとしており,「コイル間には吸引力が働く」との記載があること,また,NMR分析用或いはMRI用等に使用される超電導コイルに関するものであるから,強力な磁場による強大な電磁力がコイル間に発生することからして,この調整機構は耐電磁力構造であることは当業者には明らかである。そして,この調整機構の高強度材として「例えばSUS、真ちゅう等」のような材料を用いることも記載されている。このように例示された材料,特に真ちゅうについて,その比透磁率が1に近い値であることは,特開平9-210610号公報(「【0038】・・・なお、このケース6は、可動芯と上記のコイルを保護する銅や黄銅等の比透磁率が1に近い反磁性体から成るものと為すとよい。」,「【0048】つぎに、いくつかの材料の比透磁率(真空では1)を示す。・・・ 銅 ・・・ 1.0000094 ・・・【0049】この比透磁率の値から判るように、他の材料と比較して銅はきわめて1に近い値である。真空が1であるから、1に近いことは磁化され難い材料であることを示している。すなわち、磁化され難いので、黄銅ケースの場合、外部磁場や金属の影響を極めて受けにくいのである」。)及び特開平11-290715号公報(「【0011】・・・加工条件に応じて、代表的な金属には、本質的にほぼ1. 000の透磁率を可能にするアルミニウム、真鍮、銅、ステンレス鋼などを含む」(当該記載中の「透磁率」は,「比透磁率」を意味していることは明らかである。また,「ほぼ1.000」と記載しているが,有効数字を考慮すれば,真鍮の透磁率が1.001未満であることが示されている)。)それぞれに記載されるように,当業者には周知の事項である。(なお,特開2004-6601号公報には「【0018】このような比透磁率が1.001以下の非磁性体としては、銅(Cu)、タングステン(W)、チタニウム(Ti)のような単体金属や、リン青銅、真鍮のような合金を挙げることができる。」と記載されており,当該公報は本願出願後に公知となったものであるので直接証拠として採用するものではないが,不変の物性定数である比透磁率が真鍮について1.001以下であることを示すものである。)
ここで,NMR用の超伝導マグネットにおいて,巻枠の磁化が問題となるため,巻枠を磁化しない銅によって成形しうること,またチタンを主成分とした材料によって成形することが,引用例2に記載されている。このように,超電導磁石を構成する部材として,どの程度の非磁性材料が必要であるかは,超電導磁石が達成する磁場の大きさに応じて当業者において適宜選択すべきものであり,引用例3に示されるような調整機構を構成する材料として,例示される真ちゅうや,引用例2に示される銅やチタンを主成分とした材料に共通する,比透磁率が1.002以下の材料を選択することは,当業者において適宜に為し得たものである。
そうすると,引用発明において,スプリットギャップの耐電磁力構造として,引用例3に示された技術的事項に基づき,対をなす多層円筒のコイルの巻枠を一体にする部材を介して結合させること,そのような部材の材料として比透磁率が1.002以下の材料を用いることは,当業者であれば容易に為し得たものである。その際,引用発明ではクライオスタットを貫いて第1の室温空間4が形成されているのであるから,スプリットギャップの耐電磁力構造として上記のようなものとした際にも,該耐電磁力構造を貫いて第1の室温空間4が配置されるようなものとすることは,当業者において当然に為し得たものである。

そして,本願補正発明の作用効果は,引用発明,引用例3に示された技術的事項及び周知技術から,当業者であれば予測できる範囲のものである。

以上の通り,本願補正発明は,引用発明,引用例3に示された技術的事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび
上記のとおり,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成19年10月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1乃至18に係る発明は,平成19年7月4日付け手続補正書の請求項1乃至18に記載された事項により特定されるとおりのものであって,その請求項6に係る発明及び請求項14に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,上記第2,1に記載のとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は,上記第2,2に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は,上記第2で検討した本願補正発明において,「支持構造物」について,「前記支持構造物に前記第1アクセスポートを配置するための貫通孔が形成されている」との限定を省くと共に,明りょうでない記載の釈明を目的とした補正を,補正前の記載に戻し,補正前の請求項6を引用する型式で記載したものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,上記第2,4に述べたとおり,引用発明,引用例3に示された技術的事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用発明,引用例3に示された技術的事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,引用例3に示された技術的事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって,その余の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-13 
結審通知日 2009-05-19 
審決日 2009-06-01 
出願番号 特願2003-420794(P2003-420794)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 洋介  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 田邉 英治
信田 昌男
発明の名称 超伝導マグネット装置  
代理人 ポレール特許業務法人  

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