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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21D
管理番号 1200902
審判番号 不服2008-8023  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-03 
確定日 2009-07-16 
事件の表示 特願2004- 9974「原子力プラント及びその運転方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月28日出願公開、特開2005-201834〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成16年1月19日の出願であって、平成19年10月19日付けで拒絶理由が通知され、同年12月21日付けで手続補正がなされたものの、平成20年2月28日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、前記拒絶査定を不服として平成20年4月3日に請求された拒絶査定不服審判事件であって、同年4月25日付けで手続補正がなされている。

2 平成20年4月25日付け手続補正
平成20年4月25日付け手続補正は明細書ならびに特許請求の範囲を補正するものであって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてするものと認められる。さらに、特許請求の範囲についてする補正について検討すると、補正前(平成19年12月21日付けで補正。以下同じ。)の請求項1ないし4、ならびに、請求項9を削除し、補正前の請求項5ないし8、ならびに、請求項10のみとする補正であるので、前記手続補正が平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とする適法な補正である。

3 本願発明
上記のとおり、平成20年4月25日付け手続補正は適法であるので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成20年4月25日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された技術的事項により特定されるとおりのもの(なお、請求項2に記載された「請求項5の」は「請求項1の」、請求項4に記載された「請求項7の」は「請求項3の」の誤記と認めた。)と認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「可変速流体継手を有する原子炉冷却材再循環ポンプモータシステムを備えた原子力発電プラントのリプレース方法において、前記可変速流体継手、前記可変速流体継手に接続される可変速流体継手用のモータ及び発電機を取り除き、該可変速流体継手用のモータに接続していた遮断器の前記原子炉冷却材再循環ポンプモータ側に電圧形インバータを設け、該電圧形インバータと前記原子炉冷却材再循環ポンプモータとを第2の遮断器を介して接続させ、前記原子炉冷却材再循環ポンプを緊急停止する再循環ポンプトリップ信号で、前記電圧形インバータの出力側に設けた前記第2の遮断器を開放し、原子炉冷却材再循環ポンプモータを停止するようにしたことを特徴とする原子力発電プラントのリプレース方法。」

4 本願出願前に頒布された刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平1-311837号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の技術的事項の記載がある。
(4-a) 第1頁右下欄第1?9行(請求項3)
「3.上位電源より電圧形インバータを介して負荷に給電する方式において、前記電圧形インバータをバイパスするようにM-Gセットを接続し、前記上位電源が停電したときは前記負荷の電源を前記電圧形インバータから前記M-Gセットに切り換え、前記M-Gセットの慣性エネルギーによる発電出力を前記負荷に給電することを特徴とする電源装置の瞬時停電バックアップ方式。」
(4-b)第2頁左上欄第8?13行
「〔産業上の利用分野〕
本発明は、電源装置に係り、特に数100ms?10秒程度の停電バックアップが必要な負荷に給電する電源に好適な瞬時停電バックアップ方式及びそれを利用した無停電電源システムと原子炉保護方式に関する。」
(4-c)第3頁右上欄第12?16行
「 電圧形インバータと並列にM-Gセットを接続した場合、上位電源が停電すると負荷への給電は電圧形インバータよりM-Gセットへ切換えられ、M-Gセットはその慣性により発電するため、負荷に給電することができる。」
(4-d)第4頁左上欄第11行?同右上欄第7行
「 第3図は本発明の他の実施例で、上記以外に11はM-Gセットを示す。
負荷3は上位電源2より母線6,入力変圧器7a,電圧形インバータ4,出力変圧器7b,遮断器10aを介して給電される。M-Gセット11は上位電源2より母線6,遮断器10cを介して給電される。遮断器10bは開放してある。上位電源2が停電すると遮断器10a,cが開放され、遮断器10bが投入される。M-Gセツト11はその同期発電機が別電源で励磁されるのでその慣性エネルギーにより発電する。また同期発電機の励磁を励磁制御装置9で制御することにより、同期発電機のすべりを一定に保ち、より長く発電し負荷をバックアップする。本実施例によればM-Gセットの慣性エネルギーを十分利用し、瞬時停電を数100ms?10s程度バックアップする方式を提供する効果がある。」
(4-e)第4頁右下欄第14?17行
「さらにこのバックアップ電源装置を原子炉のインターナルポンプあるいは再循環ポンプに用いることで、電源喪失による原子炉停止のときも冷却材を供給できるので原子炉を保護する効果がある。」
(4-f)第3図
第3図には、前記(4-d)に摘記した技術的事項に即し、電圧形インバータとM-Gセットとを、遮断器を介して母線6と負荷3との間に並列に配した構成図が図示されている。

これらの記載および図面の内容からして、引用例1には以下の発明が記載されている。
「原子炉のインターナルポンプあるいは再循環ポンプに用いられる、電源喪失による原子炉停止のときも冷却材を供給できる、瞬時停電バックアップ方式及びそれを利用した無停電電源システムであって、
電圧形インバータと前記インターナルポンプあるいは再循環ポンプとを遮断器10aを介して接続するとともに、
前記電圧型インバータと並列に、上位電源から母線、遮断器10cを介して給電されるM-Gセットを、遮断器10bを介して前記インターナルポンプあるいは再循環ポンプに接続し、
上位電源が停電すると遮断器10a,10cが開放され、遮断器10bが投入されて、前記インターナルポンプあるいは再循環ポンプ電源を前記電圧形インバータから前記M-Gセットに切換えて瞬時停電をバックアップするとともに、電源喪失による原子炉停止のときも冷却材を供給できる、原子炉の電源システム。」(以下、「引用発明」という。)

同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平11-352276号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の技術的事項の記載がある。
(4-g)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、原子炉冷却材の再循環ポンプを駆動する可変電圧可変周波数電源装置に係り、特に前記可変電圧可変周波数電源装置の制御状態が異常になった場合でも、再循環ポンプ停止に至ることなく運転を継続させる再循環ポンプ用可変電圧可変周波数電源装置に関する。」
(4-h)
「【0032】
【発明の実施の形態】……第1実施の形態は請求項1または請求項2に係り、図1のブロック回路構成図に示すように、原子炉内蔵型の再循環ポンプ1の駆動電源である、再循環ポンプ用可変電圧可変周波数電源装置16は、半導体電力変換装置17および速度制御装置18から構成されている。
【0033】前記半導体電力変換装置17は、静止型の電圧型インバータで、整流器19と平滑回路の平滑コンデンサ20および逆変換器21と、入力電流検出器22とコンデンサ電圧検出器23、および出力電流検出器24等とから構成されており、所内母線11からの交流電力を入力遮断器14を介して入力し、適切な電圧と周波数の交流電力に変換して、前記再循環ポンプ1に供給することにより速度制御運転を行う。」

5 対比
本願発明と上記引用発明とを対比する。
引用発明の「原子炉」が、本願発明の「原子力発電プラント」に相当することは明らかであり、また、引用発明の「原子炉のインターナルポンプあるいは再循環ポンプ」はモータを具備し、システム化されていることは当業者に明らかであるので、前記事項が本願発明の「原子炉冷却材再循環ポンプモータシステム」と同義であることも明らかである。
そうすると、引用発明の「電圧形インバータと前記インターナルポンプあるいは再循環ポンプとを遮断器10aを介して接続する」構成は、本願発明の「原子炉冷却材再循環ポンプモータ側に電圧形インバータを設け、該電圧形インバータと前記原子炉冷却材再循環ポンプモータとを」「遮断器を介して接続させ」た構成と同じである。
そして、引用発明の「上位電源が停電すると遮断器10a,10cが開放され、遮断器10bが投入されて、前記インターナルポンプあるいは再循環ポンプ電源を前記電圧形インバータから前記M-Gセットに切換えて瞬時停電をバックアップする」ためには、各遮断器に制御信号が入力されることは技術的に明らかであるので、引用発明の前記事項と本願発明の「前記原子炉冷却材再循環ポンプを緊急停止する再循環ポンプトリップ信号で、前記電圧形インバータの出力側に設けた前記第2の遮断器を開放し、原子炉冷却材再循環ポンプモータを停止する」という構成とは、「信号入力により電圧形インバータの出力側に設けた遮断器を開放する」点で共通している。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
(一致点)
「原子炉冷却材再循環ポンプモータシステムを備えた原子力発電プラントにおいて、
前記原子炉冷却材再循環ポンプモータ側に電圧形インバータを設け、該電圧形インバータと前記原子炉冷却材再循環ポンプモータとを遮断器を介して接続させ、
信号入力により、電圧形インバータの出力側に設けた前記遮断器を開放する、原子力発電プラント。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
「原子炉冷却材再循環ポンプモータシステム」に関し、
本願発明は、「可変速流体継手を有」するとともに「可変速流体継手用のモータに接続していた遮断器」を有し、さらに「前記可変速流体継手、前記可変速流体継手に接続される可変速流体継手用のモータ及び発電機」を「取り除」いて電圧形インバータならびにその出力側に設けた「第2の」遮断器に接続する「リプレース方法」であるのに対し、
引用発明は、M-Gセットと電圧型インバータとを並列に接続した、電源喪失による原子炉停止のときも冷却材を供給できる瞬時停電バックアップ方式であって、前記のようなリプレース方法でない点。
(相違点2)
「信号入力」の「信号」ならびに「入力にともなう動作」に関し、
本願発明は「原子炉冷却材再循環ポンプを緊急停止する再循環ポンプトリップ信号で、前記電圧形インバータの出力側に設けた前記第2の遮断器を開放し、原子炉冷却材再循環ポンプモータを停止する」のに対し、
引用発明は、切換えのための信号に基づき、電圧形インバータの出力側に設けた遮断器10cを開放して再循環ポンプ電源を電圧形インバータからM-Gセットに切換え、電源喪失による原子炉停止のときも冷却材を供給できるとしている点。

6 検討・判断
上記各相違点について検討する。
最初に、上記「相違点2」について検討する。
原子力発電プラントにおいて、系統事故にともなう母線電圧低下等の電源喪失時には、再循環ポンプを緊急停止する再循環ポンプトリップ信号が発せられ、母線からの電源供給を遮断する遮断器が解放されて再循環ポンプが緊急停止されることは当業者の技術常識に属する事項である(必要であれば、特開平8-43579号公報参照)。
上記の技術常識に照らせば、引用発明の「電源喪失による原子炉停止のとき」とする事象が、上記の再循環ポンプトリップ信号が発せられる事象に相当することは当業者に明らかであるので、引用発明において、再循環ポンプトリップ信号が発せられた際には、電圧形インバータの出力側に設けられた遮断器10cが開放されて、インターナルポンプあるいは再循環ポンプの停止動作が行われることは明らかである。
してみると、上記相違点2に係る「信号」ならびに、その信号の「入力にともなう動作」は、引用発明においても当然に具備しているものであり、相違点2は実質的な相違点ではない。

次に、上記「相違点1」について検討する。
原子力発電プラントのインターナルポンプあるいは再循環ポンプのために用いられる「M-Gセット」は、系統事故等の電源外乱時に一定時間電源供給を維持するために機械的慣性を利用する機構であって、遮断器に接続された可変速流体継手用のモータと発電機とを可変速流体継手を介して接続した機構であることは、当業者の技術常識に属する事項である(必要であれば、前掲と同じ特開平8-43579号公報参照)。
そして、引用発明における「M-Gセット」は、電圧形インバータと切換えることにより、M-Gセットの慣性エネルギーによる発電出力を負荷に給電するために用いられるものである(前記摘記(4-a)?(4-d)参照)ことからして、引用発明の「M-Gセット」が上記の機構と同じ機構を有するものであることは、当業者が当然に想定し得る事項である。
そうであるならば、「M-Gセット」と「電圧形インバータ」とが互いに置換可能であることは引用発明が示唆する事項である。
ところで、プラントや装置の改修を行うに際し、建造当初に採用した機構よりも優れた機構が改修時に存在するならば、必要に応じて前記の優れた機構を採用して高性能化を図ることは当業者が日常的に行う事項にすぎないことを勘案すると、原子力発電プラントの改修時に、必要に応じて「M-Gセット」を「電圧形インバータ」に置き換え得る、すなわち、リプレース可能であることも、引用発明が示唆する事項であるといえる。
そして、電圧形インバータを用いた際に、母線側に遮断器を設けることも引用例2に記載されている(前記摘記(4-g)、(4-h)参照)ように従来公知の事項である。
してみると、M-Gセットを電圧形インバータに置き換える、すなわち、リプレースする際、可変速流体継手用のモータに接続している遮断器より下流側に配されている「可変速流体継手、可変速流体継手に接続される可変速流体継手用のモータ及び発電機」を取り除いて、引用発明の「インターナルポンプあるいは再循環ポンプとを遮断器10aを介して接続」する「電圧形インバータ」に置換する程度のことは、引用発明ならびに引用例2に基づいて当業者が容易になし得る事項である。
したがって、上記相違点1は、引用発明および引用例2に記載された技術的事項、ならびに、当業者の技術常識から当業者が容易に想到し得た事項である。
また、本願発明が奏する作用効果も、引用発明および引用例2に記載された技術的事項、ならびに、当業者の技術常識から当業者が想定できる範囲のものにすぎない

7 むすび
上記のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1に記載された発明および引用例2に記載された技術的事項、ならびに、当業者の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-13 
結審通知日 2009-05-19 
審決日 2009-06-01 
出願番号 特願2004-9974(P2004-9974)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 洋平今浦 陽恵  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 今関 雅子
森林 克郎
発明の名称 原子力プラント及びその運転方法  
代理人 井上 学  

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