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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1200905
審判番号 不服2008-13075  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-22 
確定日 2009-07-16 
事件の表示 特願2003-190973「車輪用転がり軸受装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年1月27日出願公開、特開2005-24020〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成15年7月3日の出願であって、平成20年4月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年5月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年6月23日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成20年6月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年6月23日付けの手続補正を却下する。
[理由]
本件補正により、補正前の特許請求の範囲の請求項1?3は、
「【請求項1】
非回転に支持されかつ軸方向二列の軌道面を有する外輪と、この外輪の内径側に配置されかつ軸方向一端側に車輪取り付け部を有するとともに中心に軸方向に沿う軸孔を有するハブ軸と、このハブ軸において前記車輪取り付け部からは反車輪側となる外径部分に該ハブ軸と同体または別体に設けられる第一内輪と、前記ハブ軸の反車輪側端部の外径部分に前記第一内輪と軸方向隣り合わせに設けられる第二内輪と、前記外輪の二列の軌道面と前記両内輪それぞれの軌道面との間に介在される複数の転動体とを備え、
前記ハブ軸の軸孔に駆動軸が当該ハブ軸の反車輪側から挿入され、前記第二内輪の端面にその駆動軸の反車輪側端部に設けた大径部を当接させた状態で、その駆動軸の車輪側端部に設けた結合部によって前記ハブ軸の車輪側端部を軸方向から押し付けることにより、前記駆動軸に対して前記ハブ軸と前記両内輪とが回転一体に結合される車輪用転がり軸受装置において、
前記駆動軸の大径部と当接している前記第二内輪の端面にリン酸塩皮膜が形成され、このリン酸塩皮膜に前記駆動軸の大径部の端面の微細な凹凸が食い込むことで前記第二内輪と前記大径部との摩擦係数を増大させる、車輪用転がり軸受装置。
【請求項2】
前記第二内輪の端面の表面粗さが、十点平均粗さRzで2.0?4.0とされている、請求項1記載の車輪用転がり軸受装置。
【請求項3】
非回転に支持されかつ軸方向二列の軌道面を有する外輪と、この外輪の内径側に配置されかつ軸方向一端側に車輪取り付け部を有するとともに中心に軸方向に沿う軸孔を有するハブ軸と、このハブ軸において前記車輪取り付け部からは反車輪側となる外径部分に該ハブ軸と同体または別体に設けられる第一内輪と、前記ハブ軸の反車輪側端部の外径部分に前記第一内輪と軸方向隣り合わせに設けられる第二内輪と、前記外輪の二列の軌道面と前記両内輪それぞれの軌道面との間に介在される複数の転動体とを備え、
前記ハブ軸の軸孔に駆動軸が当該ハブ軸の反車輪側から挿入され、前記第二内輪の端面にその駆動軸の反車輪側端部に設けた大径部を当接させた状態でその駆動軸の車輪側端部に設けた結合部によって前記ハブ軸の車輪側端部を軸方向から押し付けることにより、前記駆動軸に対して前記ハブ軸と前記両内輪とが回転一体に結合される車輪用転がり軸受装置において、
前記第二内輪の端面と、該端面に当接する前記駆動軸の大径部との間に、両者の周方向に沿ってできる隙間を埋めるように薄肉の金属板が介在され、両者間で前記金属板が微量的に波打つ形に変形することで前記第二内輪と前記大径部との摩擦係数を増大させる、車輪用転がり軸受装置。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
非回転に支持されかつ軸方向二列の軌道面を有する外輪と、この外輪の内径側に配置されかつ軸方向一端側に車輪取り付け部を有するとともに中心に軸方向に沿う軸孔を有するハブ軸と、このハブ軸において前記車輪取り付け部からは反車輪側となる外径部分に該ハブ軸と同体または別体に設けられる第一内輪と、前記ハブ軸の反車輪側端部の外径部分に前記第一内輪と軸方向隣り合わせに設けられる第二内輪と、前記外輪の二列の軌道面と前記両内輪それぞれの軌道面との間に介在される複数の転動体とを備え、
前記ハブ軸の軸孔に駆動軸が当該ハブ軸の反車輪側から挿入され、前記第二内輪の端面にその駆動軸の反車輪側端部に設けた大径部を当接させた状態でその駆動軸の車輪側端部に設けた結合部によって前記ハブ軸の車輪側端部を軸方向から押し付けることにより、前記駆動軸に対して前記ハブ軸と前記両内輪とが回転一体に結合される車輪用転がり軸受装置において、
前記第二内輪の端面と、該端面に当接する前記駆動軸の大径部との間に、両者の周方向に沿ってできる隙間を埋めるように薄肉の金属板が介在され、この金属板は、両面がそれぞれ粗面となっており、各面の表面粗さRztが、2≦Rz≦50であり、前記第二内輪の端面と前記駆動軸の大径部との間で前記金属板が微量的に波打つ形に変形することで前記第二内輪と前記大径部との摩擦係数を増大させる、車輪用転がり軸受装置。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1及び2を削除するとともに、補正前の特許請求の範囲の請求項3を繰り上げて、補正後の特許請求の範囲の請求項1とするとともに、補正前の特許請求の範囲の請求項3に記載した発明を特定するために必要な事項である「薄肉の金属板」に関し、「この金属板は、両面がそれぞれ粗面となっており、各面の表面粗さRztが、2≦Rz≦50であり、前記第二内輪の端面と前記駆動軸の大径部との間で」とその構成を限定するものである。
これに関して、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「環状板17は、JISでSPCCのような冷延鋼板や、SK5のような炭素工具鋼等、比較的硬度の高い金属薄板で作られており、両面がそれぞれ粗面となっている。」(段落【0041】参照)、及び「環状板17の各面の表面粗さが、Rz2.0未満である場合は、環状板17がすべり軸受のように作用し、従来と同様のスリップを生じる。環状板17の表面粗さがRz50を越える場合は、環状板17と駆動軸10の大径部10cとの接触面の間に、微小な隙間が多くでき、その隙間にオイルや塵埃が侵入して、スリップが生じやすくなる。」(段落【0044】参照)と記載されている。
結局、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定された請求項の削除を目的とする補正に該当するとともに、同法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に該当するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及び記載事項
(1)刊行物1:特開2003-118309号公報
(2)刊行物2:特開2003-97588号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「駆動車軸用ハブユニット軸受」に関して、図面(特に、図1及び2を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「本発明は、駆動車軸用ハブユニット軸受に係り、詳しくは騒音低減や損傷防止等を実現する技術に関する。」(第2頁第1欄第46?48行、段落【0001】参照)
(b)「第1実施形態は、本発明をFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型乗用車における駆動車軸用の第1世代ハブユニット軸受に適用したものである。図1は、第1実施形態に係るハブユニット軸受1を示す縦断面図であり、図2は図1中のA-A断面図である。図1中、符号3で示した部材は複列アンギュラ玉軸受5の外輪であり、その内周側にはそれぞれ径方向外向きに開いた円弧状断面の第1,第2外軌道面7,9が形成されている。外輪3は懸架装置のナックルアーム11に形成された保持孔13に内嵌・圧入されており、ナックルアーム11の係止フランジ15と環状の止め輪17とにより軸方向の移動が規制されている。
外輪3の第1外軌道面7側には第1内輪21が配置されており、この第1内輪21の外周側には外輪3の第1外軌道面7に対応する径方向内向きに開いた円弧状断面の第1内軌道面23が形成されている。第1外軌道面7と第1内軌道面23の間には多数個の鋼球と保持器とからなる第1転動体列29が介装されている。また、外輪3の第2外軌道面9側には第2内輪31が配置されており、この第2内輪31の外周側には外輪3の第2外軌道面9に対応する径方向内向きに開いた円弧状断面の第2内軌道面33が形成されている。第2外軌道面9と第2内軌道面33の間には多数個の鋼球と保持器とからなる第2転動体列35が介装されている。(中略)
第1,第2内輪21,31の内周面にはハブ41が内嵌・圧入されており、第1内輪21の外端面がハブ41の肩部43に当接・係止されている。ハブ41は、図示しないホイールが取り付けられるフランジ45を有しており、その軸芯には雌セレーション47が刻設された貫通孔49が形成されている。図中、符号51で示した部材ははフランジ45に植設されたハブボルトであり、ホイールの締結に供される。
ハブ41の貫通孔49には、等速ジョイント要素であるバーフィールドジョイントのアウタハウジング53から延設されたドライブ軸部55が内嵌しており、ドライブ軸部55の外周に刻設された雄セレーション57が貫通孔49の雌セレーション47に噛み合っている。アウタハウジング53には外端面が第2内輪31の端面に当接する大径部61が形成される一方、ドライブ軸55の外端にはクラウンナット63が螺合する雄ねじ部65が形成されている。そして、クラウンナット63が所定の締付トルクで締め付けられることにより、ハブ41とアウタハウジング53とが締結・一体化され、同時に複列アンギュラ玉軸受5には適正な予圧が与えられる。
アウタハウジング53には、図2にクロスハッチングで示したように、ショットピーニング部71が大径部61の外端面に形成されている。本実施形態の場合、ショットピーニングは、遠心力や圧縮空気によって高速で射出されたショット球(微少な鋼球やセラミック球等)を素材に衝突させることによりなされ、ショットピーニング部71には微少な凹凸が形成されると共に圧縮残留応力による表面組織の高密度化と硬化とが起こる。」(第3頁第3欄第41行?第3頁第4欄第47行、段落【0008】?【0012】参照)
(c)「第1実施形態の作用を述べる。自動車の走行時には、エンジンからの駆動力が変速機やドライブシャフト、等速ジョイントを介してハブ41に伝達され、急発進時等においては、ホイールが停止状態にあるために大きな駆動トルクが動力伝達系に作用し、ドライブシャフトやアウタハウジング53に捻れトルクが作用する。そして、ドライブ軸部55がハブ41にセレーション係合していることから、アウタハウジング53の大径部61は第2内輪31に対して相対回動しようとする。
ところが、本実施形態の場合、大径部61には第2内輪31との当接面にショットピーニング部71が形成されているため、大径部61と第2内輪31との間の摩擦抵抗が増大して相対回動が生じ難くなり、不快な滑り音の発生が抑制される。また、ショットピーニング部71は、その硬度が従来品より遙かに高くなっているため、滑りが生じた場合にもフレッチング摩耗もおこり難くなる。一方、大径部61と第2内輪31とを円滑に相対回動させるべく、両者の間にグリース等の潤滑剤を塗布した場合においては、ショットピーニング部71の微少な凹凸が良好な潤滑剤溜まりとなるため、やはり滑り音の発生が抑制される。」(第3頁第4欄第48行?第4頁第5欄第19行、段落【0013】及び【0014】参照)
(d)「図4は、第3実施形態に係るハブユニット軸受1を示す縦断面図である。第3実施形態は、本発明を第3世代のハブユニット軸受に適用したものであり、第2実施形態に対し、更に第1内輪21がハブ13に一体化されると共に、第2内輪31がハブ13の内端に形成された加締部85により係止されている。第3実施形態においては、第2内輪31に代えてハブ13の加締部85が大径部61のショットピーニング部71に当接しているが、発明に係る作用は上述した第1実施形態と同様である。」(第4頁第5欄第28行?第4頁第5欄第37行、段落【0016】参照)
(e)「上記実施形態では、等速ジョイント要素(バーフィールドジョイントのアウタハウジング)の大径部にショットピーニングを施すようにしたが、第2内輪に施すようにしてもよいし、等速ジョイント要素の大径部と第2内輪との双方にショットピーニングを施すようにしてもよい。」(第4頁第5欄第43?48行、段落【0017】参照)
(f)「本発明に係る駆動車軸用ハブユニット軸受によれば、等速ジョイント要素が軸受の第2内輪やハブに当接する大径部を有すると共に、大径部とハブとの少なくとも一方の当接面にショットピーニングが施されたものとしたため、大径部や第2内輪、ハブの当接面には、微少な凹凸が形成されると同時に、圧縮残留応力による表面組織の高密度化と硬化とが起こる。これにより、大径部と第2内輪やハブとの間の摩擦抵抗が増大して相対回動が起こり難くなると共に、相対回動した場合にもフレッチング摩耗が生じ難くなる。また、潤滑剤を用いた場合においては、当接面全体に形成された微少な凹凸に保持されることにより、相対回動が起こり難いことも相俟って潤滑剤の消耗が起こり難くなる。」(第4頁第6欄第10?23行、段落【0018】参照)
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
非回転に支持されかつ第1外軌道面7及び第2外軌道面9を有する外輪3と、この外輪3の内径側に配置されかつ軸方向一端側にフランジ45を有するとともに中心に軸方向に沿う貫通孔49を有するハブ41と、このハブ41において前記フランジ45からは反ホイール側となる外径部分に該ハブ41と同体または別体に設けられる第1内輪21と、前記ハブ41の反ホイール側端部の外径部分に前記第1内輪21と軸方向隣り合わせに設けられる第2内輪31と、前記外輪3の第1外軌道面7及び第2外軌道面9と前記第1内輪21及び第2内輪31それぞれの第1内軌道面23及び第2内軌道面33との間に介在される第1転動体列29及び第2転動体列35とを備え、
前記ハブ41の貫通孔49にドライブ軸部55が当該ハブ41の反ホイール側から挿入され、前記第2内輪31の端面にそのドライブ軸部55の反ホイール側端部に設けた大径部61を当接させた状態でそのドライブ軸部55のホイール側端部に設けた雄ねじ部65及びクラウンナット63によって前記ハブ41のホイール側端部を軸方向から押し付けることにより、前記ドライブ軸部55に対して前記ハブ41と前記第1内輪21及び第2内輪31とが回転一体に結合される駆動車軸用ハブユニット軸受1において、
前記第2内輪31の端面と、該端面に当接する前記ドライブ軸部55の大径部61との双方にショットピーニング部71の微少な凹凸を形成することで前記第2内輪31の端面と、該大径部61との間の摩擦抵抗を増大させる、駆動車軸用ハブユニット軸受1。

(刊行物2)
刊行物2には、「自動車駆動輪ハブユニット」に関して、図面(特に、図6を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(g)「本発明は自動車の駆動輪を懸下装置に対して回転自在に支持する自動車駆動輪ハブユニットに関し、特にハブユニットと等速ジョイント側面において、捻れによる滑り音が発生しないようにした自動車駆動輪ハブユニットに関する。」(第2頁第1欄第42?46行、段落【0001】参照)
(h)「この実施例においてはその対策として、例えば図2に示すように、等速ジョイント用外輪15の外端面33に対して種々の形状の凹凸部34を設ける。同図(b)に示す例においては、同図(a)に示す等速ジョイントのA-A矢視方向の側面図であり、放射状に複数の凹部と凸部から成る凹凸部34を形成している。同図(b)にB-B矢視方向の側面図を示すような凹凸部34は、外端面33に切削等により凹部を形成することによって可能であり、またプレス加工によって凸部を形成することも可能である。上記の例の他、両者間の摩擦抵抗を大きくする手段であるならば従来から各種技術分野で用いられている種々の手段を採用することができる。(中略)
凹凸部34はその他例えば同図(c)に示すように、平行な多数の凹凸部34を形成しても良い。同様に同図(d)に示すように、楕円形の凹凸部34を複数形成しても良く、更に同図(e)に示すように、クロスハッチング状の凹凸部34を形成することもできる。その他例えば同心円のように回転方向への摩擦抵抗の変化が少ないもの以外ならば、種々の態様で凹凸部を形成することができる。但し、摩擦に対して同程度の効果であるならば、凹凸部の加工性の良いものを選択することが好ましい。
上記のような凹凸部34は、摩擦係数を大きくするものであるならばその凹部の深さ、凸部の高さを任意に設定することができ、且つ前記のように等速ジョイント用外輪15の外端面33に設ける以外に、これと対向する軸受内輪側面或いは、後述するような内輪を可締める加締め部の内端面に設けても同様の効果を期待することができ、必要に応じて対向する面の両方に形成しても良い。その際には図2に示すような種々の態様の凹凸部34を同じ形状のもの、或いは異なる形状のもの等を任意に組み合わせて使用しても良い。」(第4頁第6欄第46行?第5頁第7欄第36行、段落【0026】?【0029】参照)
(i)「その他例えば図5に示すような自動車用ハブユニットに本発明を適用しても良い。図5に示す装置は前記図4に示すものと異なり、軸受の内側内輪を用いることなく、ハブの外周に形成した転動溝によって内側軌道5を形成し、ハブの内周端部を加締めることにより内側内輪32を固定している。それにより、この加締め部43の端面部分45が前記凹凸部34に当接することとなる。このように加締め部43が凹凸部34に当接することにより両者の摩擦力が大きくなり、前記各実施例と同様にクリープ抑制効果が増大する。
図5に示す実施例においては、加締め部43が凹凸部34に当接するため、そのままでは加締め部の内側端面の形状が一定にならず安定した固定が行われない場合が生じ、かつ当接面積が小さいため接触部での面圧が過大となる場合も生じる。そのため、前記従来例の説明において述べたように、また特開平11-5404号公報に記載しているとおり、この加締め部の内側端面に平坦面を形成し、形状が安定した広い面積の当接面としても良い。本発明においては、前記のような等速ジョイント用外輪15の外端面33に凹凸部34を形成することに加えて、上記のように加締め部の内側端面に平坦面を設けることにより、両者の摩擦力が安定し、かつ過大にならないので長期間のクリープ抑制効果を維持することができ、スリップ音の発生防止することができる。且つ、この部分での摩耗を減少させ、ナットのゆるみを防止することもできる。
一方、図5に示す形式のハブユニットにおいて上記のような凹凸部34を形成しないものにおいては、前記の発明が解決しようとする課題の項に記載したように、加締め部の内端面に平面部を形成し、等速ジョイントの側面との当接面の面圧を小さくするものにおいても、加締め部に形成した平面部は、平面度や直角度が劣るため、加工の状態によっては部分的に点当たりや線当たりを生じることが考えられる。そのときには、当接面の面圧を小さくすることができず、従来と同様にスリップ音が発生する恐れがあり、また摩耗によるナットのゆるみを発生させる恐れもある。
その対策として、図5に示すような凹凸部34を形成する以外に、例えば図6に示すように、等速ジョイント用外輪15の外端面33に間座46を設けても良い。この間座46は例えばゴムを用いることができ、円環状のゴム製間座46を等速ジョイント用外輪15の外端面33に貼着する。それにより、間座46と等速ジョイント用外輪15の外端面33、及び間座46と加締め部43の内端面30との接触面では滑りが発生せずに、ゴムの剪断弾性変形によって、等速ジョイントと加締め内端との相対変位を吸収する。
なお、このようなゴム製の間座を用いても、軸受に対する所定の予圧力の確保は可能であり、特にゴムを用いることによりスリップ音の発生を確実に防止することができる。また、このような間座を設けるに際しては、前記のように加締め部内端面部分に平坦面を形成した方がより確実にその効果を期待することができるが、平坦面を形成しなくても充分その効果は期待できる。
このように、前記図5に示す実施例においては等速ジョイント用外輪15の外端面に凹凸部34を形成することにより、ハブの内端面としての加締め部43の内端面との摩擦力を大きくし、両者間のクリープを抑制してスリップ音の発生を防止したものであるが、図6においては、同一のハブユニットを用いた実施例において、等速ジョイント用外輪15の外端面に間座46を用いることによって両者間の直接的な接触による滑りを発生させることなく、スリップ音の発生を防止し、また摩耗の発生によるナットのゆるみも防止することが可能であり、必要に応じて両技術を選択して使用することができる。
上記のような間座を設けるに際しては、例えば図7に示すような複列の円錐コロ軸受を用いたハブユニットに対して適用しても良く、この例においては間座48として樹脂を用いている。樹脂としては摺動特性の優れたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることもできるが、その他種々の材料の樹脂を用いても良い。樹脂の場合はヤング率が鋼よりも低い材料であるので、固有振動数が低く、可聴範囲の音圧を低減することができる。
上記実施例においてはゴム及び樹脂を用いた例を示したが、その他ガスケットを用いることができ、また相対的に弾性係数が小さい場合は鋼などの材料を用いることも可能である。」(第5頁第8欄第23行?第6頁第10欄第2行、段落【0033】?【0040】参照)
(j)「本願の請求項2に係る発明は、等速ジョイントとハブユニットの対向面部分に間座を設けたので両者の直接接触による滑りの発生を防止することができ、スリップ音の発生を防止し、且つこの接触面部分において摩耗の発生を防止し、ナットのゆるみを防ぐことができる。」(第6頁第10欄第11?16行、段落【0042】参照)

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「第1外軌道面7及び第2外軌道面9」は本願補正発明の「軸方向二列の軌道面」又は「二列の軌道面」に相当し、以下同様に、「外輪3」は「外輪」に、「フランジ45」は「車輪取り付け部」に、「貫通孔49」は「軸孔」に、「ハブ41」は「ハブ軸」に、「ホイール」は「車輪」に、「第1内輪21」は「第一内輪」に、「第2内輪31」は「第二内輪」に、「第1内輪21及び第2内輪31」は「両内輪」に、「第1内軌道面23及び第2内軌道面33」は「軌道面」に、「第1転動体列29及び第2転動体列35」は「複数の転動体」に、「ドライブ軸部55」は「駆動軸」に、「大径部61」は「大径部」に、「雄ねじ部65及びクラウンナット63」は「結合部」に、「駆動車軸用ハブユニット軸受1」は「車輪用転がり軸受装置」に、それぞれ相当するので、両者は、下記の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
非回転に支持されかつ軸方向二列の軌道面を有する外輪と、この外輪の内径側に配置されかつ軸方向一端側に車輪取り付け部を有するとともに中心に軸方向に沿う軸孔を有するハブ軸と、このハブ軸において前記車輪取り付け部からは反車輪側となる外径部分に該ハブ軸と同体または別体に設けられる第一内輪と、前記ハブ軸の反車輪側端部の外径部分に前記第一内輪と軸方向隣り合わせに設けられる第二内輪と、前記外輪の二列の軌道面と前記両内輪それぞれの軌道面との間に介在される複数の転動体とを備え、
前記ハブ軸の軸孔に駆動軸が当該ハブ軸の反車輪側から挿入され、前記第二内輪の端面にその駆動軸の反車輪側端部に設けた大径部を当接させた状態でその駆動軸の車輪側端部に設けた結合部によって前記ハブ軸の車輪側端部を軸方向から押し付けることにより、前記駆動軸に対して前記ハブ軸と前記両内輪とが回転一体に結合される車輪用転がり軸受装置において、
前記第二内輪と前記大径部との摩擦係数を増大させる、車輪用転がり軸受装置。
(相違点)
本願補正発明は、「前記第二内輪の端面と、該端面に当接する前記駆動軸の大径部との間に、両者の周方向に沿ってできる隙間を埋めるように薄肉の金属板が介在され、この金属板は、両面がそれぞれ粗面となっており、各面の表面粗さRztが、2≦Rz≦50であり、前記第二内輪の端面と前記駆動軸の大径部との間で前記金属板が微量的に波打つ形に変形することで前記第二内輪と前記大径部との摩擦係数を増大させる」のに対し、引用発明は、第2内輪31の端面と、その端面に当接するドライブ軸部55の大径部61との双方にショットピーニング部71の微少な凹凸を形成することで第2内輪31の端面と、大径部61との間の摩擦抵抗を増大させる点。(なお、本願補正発明において薄肉の金属板の両面の表面粗さ「Rzt」は本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0016】などの記載からみて「十点平均粗さRz」を意味するものとして取り扱う。)
以下、上記相違点について検討する。
(相違点について)
引用発明及び刊行物2に記載された技術事項は、ともに車輪用転がり軸受装置に関する技術分野に属するものであって、刊行物2には、「図5に示すような凹凸部34を形成する以外に、例えば図6に示すように、等速ジョイント用外輪15の外端面33に間座46を設けても良い。」、及び「前記図5に示す実施例においては等速ジョイント用外輪15の外端面に凹凸部34を形成することにより、ハブの内端面としての加締め部43の内端面との摩擦力を大きくし、両者間のクリープを抑制してスリップ音の発生を防止したものであるが、図6においては、同一のハブユニットを用いた実施例において、等速ジョイント用外輪15の外端面に間座46を用いることによって両者間の直接的な接触による滑りを発生させることなく、スリップ音の発生を防止し、また摩耗の発生によるナットのゆるみも防止することが可能であり、必要に応じて両技術を選択して使用することができる。」(ともに、上記摘記事項(i)参照)と記載されている。
上記の記載からみて、刊行物2の図5及び6に記載されたような形式のハブユニットにおいて、図5に記載されたように等速ジョイント用外輪15の外端面に凹凸部34を形成することと、図6に記載されたように等速ジョイント用外輪15の外端面に間座46を用いることとは、当業者が必要に応じて選択して使用することができることが記載又は示唆されている。
一方、引用発明のような形式のハブユニットにおいて、刊行物1には、「上記実施形態では、等速ジョイント要素(バーフィールドジョイントのアウタハウジング)の大径部にショットピーニングを施すようにしたが、第2内輪に施すようにしてもよいし、等速ジョイント要素の大径部と第2内輪との双方にショットピーニングを施すようにしてもよい」(上記摘記事項(e)参照)と記載され、また、刊行物2(図1及び2を参照)には、「等速ジョイント用外輪15の外端面33に設ける以外に、これと対向する軸受内輪側面或いは、後述するような内輪を可締める加締め部の内端面に設けても同様の効果を期待することができ、必要に応じて対向する面の両方に形成しても良い。」(上記摘記事項(h)参照)と記載されている。
さらに、刊行物2には、「上記のような間座を設けるに際しては、(中略)相対的に弾性係数が小さい場合は鋼などの材料を用いることも可能である。」(上記摘記事項(i)参照)、「例えば図2に示すように、等速ジョイント用外輪15の外端面33に対して種々の形状の凹凸部34を設ける。」、「上記の例の他、両者間の摩擦抵抗を大きくする手段であるならば従来から各種技術分野で用いられている種々の手段を採用することができる。」、「凹凸部34は・・・その他例えば同心円のように回転方向への摩擦抵抗の変化が少ないもの以外ならば、種々の態様で凹凸部を形成することができる。」、及び「上記のような凹凸部34は、摩擦係数を大きくするものであるならばその凹部の深さ、凸部の高さを任意に設定することができ」(いずれも、上記摘記事項(h)参照)と記載されている。
上記の記載からみて、刊行物2に記載された間座の材料の選択、凹凸部の形状の選択、その表面粗さの設定などは、摩擦抵抗を増大させて良好な機能を果たすように、当業者が適宜なし得る設計変更の範囲内の事項にすぎない。
また、本願補正発明において、薄肉の金属板の両面の表面粗さRztを、2≦Rz≦50とすることは、本願明細書(特に、段落【0043】及び【0044】を参照)には、下限値の2未満の値及び上限値の50を超える値を境界として作用効果に急激な変化があるなどの技術的意義は格別記載されていない以上、上記数値限定に臨界的意義があるとは認められないことから、薄肉の金属板の両面の表面粗さRztを、2≦Rz≦50とすることは、当業者が通常の創作能力を発揮して数値範囲を最適化したにすぎないものである。
してみれば、引用発明において、第2内輪(第二内輪)の端面と大径部(大径部)との間の摩擦抵抗を増大するにあたり、刊行物2に記載された発明を適用して、第2内輪の端面とその端面に当接する大径部との間に、両者の周方向に沿ってできる隙間を埋めるように薄肉の金属板を介在して、この金属板の両面をそれぞれ適宜の数値範囲の粗面とするとともに、その金属板が微量的に波打つ形に変形するようにして、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものである。
本願補正発明の効果についてみても、引用発明、及び刊行物2に記載された発明の奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、当審における審尋に対する平成21年1月30日付けの回答書において、「引用文献1?3のいずれにも、第二内輪(内側内輪)の端面と、駆動軸の大径部の端面との間に、間座状の部材を、上記両端面に直接接触する状態で介装することが記載されていない」(「(2)引用文献の発明との対比」の項参照)と主張している。
しかしながら、上記(相違点について)において述べたように、引用発明に、刊行物2に記載された発明を適用することは当業者が容易に想到し得たものであるところ、本願補正発明の構成を備えることによって、本願補正発明が、従前知られていた効果を併せたものとは異なる、相乗的で、当業者が予測できる範囲を超えた効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の上記主張は採用することができない。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
平成20年6月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成19年6月25日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項3】
非回転に支持されかつ軸方向二列の軌道面を有する外輪と、この外輪の内径側に配置されかつ軸方向一端側に車輪取り付け部を有するとともに中心に軸方向に沿う軸孔を有するハブ軸と、このハブ軸において前記車輪取り付け部からは反車輪側となる外径部分に該ハブ軸と同体または別体に設けられる第一内輪と、前記ハブ軸の反車輪側端部の外径部分に前記第一内輪と軸方向隣り合わせに設けられる第二内輪と、前記外輪の二列の軌道面と前記両内輪それぞれの軌道面との間に介在される複数の転動体とを備え、
前記ハブ軸の軸孔に駆動軸が当該ハブ軸の反車輪側から挿入され、前記第二内輪の端面にその駆動軸の反車輪側端部に設けた大径部を当接させた状態でその駆動軸の車輪側端部に設けた結合部によって前記ハブ軸の車輪側端部を軸方向から押し付けることにより、前記駆動軸に対して前記ハブ軸と前記両内輪とが回転一体に結合される車輪用転がり軸受装置において、
前記第二内輪の端面と、該端面に当接する前記駆動軸の大径部との間に、両者の周方向に沿ってできる隙間を埋めるように薄肉の金属板が介在され、両者間で前記金属板が微量的に波打つ形に変形することで前記第二内輪と前記大径部との摩擦係数を増大させる、車輪用転がり軸受装置。」

1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及び記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明の薄肉の金属板に関する限定事項である「この金属板は、両面がそれぞれ粗面となっており、各面の表面粗さRztが、2≦Rz≦50であり、前記第二内輪の端面と前記駆動軸の大径部との間で」との限定を省くことにより拡張するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
結局、本願の請求項3に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項3に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項1及び2に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-28 
結審通知日 2009-05-12 
審決日 2009-06-02 
出願番号 特願2003-190973(P2003-190973)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 勝司冨岡 和人  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 岩谷 一臣
常盤 務
発明の名称 車輪用転がり軸受装置  
代理人 岡田 和秀  

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