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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E21D
管理番号 1200918
審判番号 不服2007-25782  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-20 
確定日 2009-07-17 
事件の表示 平成10年特許願第242402号「覆工コンクリートの養生方法および養生装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月 7日出願公開,特開2000- 73696〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成10年8月28日の出願であって,平成19年8月9日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年9月20日に拒絶査定を不服とする審判請求がなされるとともに,同年10月15日付けで手続補正がなされたものであって,その後,平成20年12月22日付けで審査官による前置報告書の内容を提示するとともに請求人の意見を求める審尋を行ったところ,平成21年3月6日付けで回答書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成19年10月15日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
(本願発明)
「トンネル内壁面に形成された覆工コンクリートの型枠脱型後の養生方法において、
前記覆工コンクリートの内面に沿って所定の間隔を隔てて、トンネル軸方向の両端部が妻材により閉塞された非通気性のシートを設置して、前記覆工コンクリートと前記シートとの間に隔成された閉塞空間を形成し、この閉塞空間内に水蒸気を充満することを特徴とする覆工コンクリートの養生方法。」

3.刊行物に記載された事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である実願平4-68303号(実開平6-34095号)のCD-ROM(以下「刊行物1」という。)には,「覆工養生装置」について,次の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】 水を供給するため複数の穿孔を設けた給水管からなる枠組と、該枠組の外側に張設し前記水により湿潤され得る湿潤シートと、前記枠組の内側に張設した防水シートとを備えるトンネルの覆工養生装置。」
(1b)「【0002】
【従来の技術】
従来、トンネルの覆工コンクリートのひびわれ発生を防止するための湿潤養生には、一般家庭で使用される加湿器を坑内に載置して該覆工コンクリートを湿潤する養生方法が知られる。」
(1c)「【0003】
しかしながら、上記養生方法で山岳トンネルのように広い覆工コンクリート面を養生する場合、多数の加湿器を設置しなければならない。そのため掘削ズリを搬出する等の作業空間が狭くなり、作業効率が悪くなるという欠点がある。また前記作業空間を確保するために加湿器を少数にとどめているのが実状で、十分に湿潤養生されていないという問題がある。また、コンクリート打設時に十分な養生をしようとしても、打設期間を費やさなければならず工期が長くなってしまう。」
(1d)「【0004】
【考案が解決しようとする課題】
本考案は前述の従来技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、作業空間を狭くすることなく、効率よく湿潤養生することができる覆工養生装置を提供することにある。
(1e)「【0008】
山岳トンネル等の覆工養生に用いる本考案の覆工養生装置10は、図1に図示するように、枠組11と、該枠組11の外側面全体に張設されたフェルトシート12と、該枠組11の内側面全体に張設された防水シート13とで構成される。」
(1f)「【0009】
枠組11は、アーチ形状の穴あきパイプ11aと、直線状の穴あきパイプ11bとで形成され、穿設された穴が外側に面するように配置される。図1に示されるよう該枠組11の後端部の頂部には送水に用いるための送水口11cが、最下端各々には排水に用いるための排水口11dが設けられ、後端部から先端部まで満遍なく給水された後排水される。」
(1g)「【0010】
フェルトシート12は、前述の通り前記枠組11の外側面全体に張設され、前記穴あきパイプ11a、11bを通して吸水することにより、フェルトシート12は常時、湿潤状態に保たれる。防水シート13は、前述の通り前記枠組11の内側面全体に張設され、前記穴あきパイプ11a、11bからの給水により内側に漏れ出て、作業に支障を来たさない状態に保っている。また、前記枠組11の最下部には、漏出した水を排水するための樋14が設けられる。」
(1h)「【0011】
さらに、他の実施態様を図2(a)(b)に示す。図2(a)(b)に示される覆工養生装置20は、前述の実施例の枠組11と同様の枠組21と、該枠組21の外側面全体に張設されたフェルトシート22と、該枠組21の内側面全体に張設された防水シート23とで構成され、該枠組21の最下部には樋24が設けられる。前記枠組21を形成する複数のアーチ形状の各穴あきパイプ21aには図示するよう2箇所にヒンジ25が設けられる。また、該枠組21の内側面には、該ヒンジ25により穴あきパイプ21a’が内方に枢動するよう水平方向伸縮装置26aを設けた水平柱26と、垂直方向伸縮装置27aを設けた垂直柱27とが備えられ、移動にあたり該水平方向伸縮装置26aによって該水平柱26を収縮固定することにより穴あきパイプ21a’が内側に折曲し、該垂直方向伸縮装置27aによって該垂直柱27を収縮固定することにより覆工養生装置20全体が縮小される(図2(b))。さらにまた、前記垂直柱27の下部に設けられた車輪27bと、予め備えられたレール28等を利用することにより次の覆工養生場所への移動が容易にでき、前記水平柱26、前記垂直柱27を伸長固定することにより再び覆工養生装置20を簡便に設置できる。」
(1i)図1ないし3には,覆工コンクリートがトンネル内壁面に形成されたものであること,覆工コンクリートの内面に沿って所定の間隔を隔てて防水シートを設置して覆工コンクリートと防水シートとの間に空間を形成したこと,及び,この空間内にフェルトシートを設けたこと,が示されている。
そして,上記記載事項(1a)?(1i)に記載された内容および技術常識を総合すると,刊行物1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明)
「トンネル内壁面に形成された覆工コンクリートの養生方法において,覆工コンクリートの内面に沿って所定の間隔を隔てて防水シートを設置して,覆工コンクリートと防水シートとの間に空間を形成し,この空間内に湿潤状態に保ったフェルトシートを設けて覆工コンクリートを湿潤状態に保つ,覆工コンクリートの養生方法。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-25721号公報(以下「刊行物2」という。)には,「補修打継面の養生方法」について,次の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】 コンクリート躯体の表面をはつり、該はつり面と対向して所定距離離間した位置に型枠を建て込み、該型枠と前記はつり面との間を加湿手段により加湿した後、該型枠と前記はつり面との間に補修材を打設することを特徴とする補修打継面の養生方法。」
(2b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えばコンクリート躯体の補修打継面を養生する方法に関するものである。」
(2c)「【0004】そこで、このような場合における前養生方法として、従来では以下の方法が採用されていた。
(1)型枠2の組立前にはつり面1aに充分散水する方法
(2)補修材の注入前に型枠2内を灌水し、その後水を抜く方法
(3)はつり面1aに特殊プライマーを塗布する方法」
(2d)「【0006】本発明方法は、以上の問題を解決するものであり、その目的とするところは、簡単な方法によって打継面を充分な湿潤状態に保ち、しかも水たまりやそれによる不具合の発生のない補修打継面の養生方法を提供するものである。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「防水シート」と本願発明の「非通気性のシート」とは,「遮蔽シート」である点で共通している。
また,引用発明の「湿潤状態に保ったフェルトシートを設けて覆工コンクリートを湿潤状態に保つ」と本願発明の「水蒸気を充満する」とは,「水分を補給する」点で共通している。
してみれば,両者の一致点および相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「トンネル内壁面に形成された覆工コンクリートの養生方法において,
前記覆工コンクリートの内面に沿って所定の間隔を隔てて,遮蔽シートを設置して,前記覆工コンクリートと遮蔽シートとの間に空間を形成し,この空間内に水分を補給する覆工コンクリートの養生方法。」

<相違点1>
覆工コンクリートが,本願発明は「型枠脱型後」のものであるのに対し,引用発明は型枠を用いる方法により形成された覆工コンクリートかどうか明らかでない点。

<相違点2>
覆工コンクリートと遮蔽シートとの間の空間内に水分を補給する手法が,本願発明は「トンネル軸方向の両端部が妻材により閉塞された非通気性のシートで隔成された閉塞空間を形成し,この閉塞空間内に水蒸気を充満する」ものであるのに対し,引用発明は防水シートで形成した空間内に湿潤状態に保ったフェルトシートを設けて覆工コンクリートを湿潤状態に保つものであって,閉鎖空間内に水蒸気を充満するものではない点。

5.判断
まず,相違点1について検討する。掘削されたトンネル内壁面をコンクリートで覆工するにあたり,型枠を用いて覆工する技術は,例を挙げるまでもなく周知である。引用発明の覆工コンクリートについても型枠を用いて形成したものとすること,すなわち,養生対象を型枠脱型後の覆工コンクリートとすることは,当業者が容易になし得たことである。

次に,相違点2について検討する。刊行物2には,コンクリート躯体の補修打継面を養生する方法ではあるものの,コンクリートに水分を補給する手法として,散水する方法,灌水後水を抜く方法,特殊プライマーを塗布するという従来の方法に代えて,加湿手段を用いる方法が開示されている。そして,コンクリートを湿潤養生するにあたり,養生のための水分を補給する区域を隔成して閉鎖空間とする技術も,例えば,特開昭60-258368号公報(特に,第1頁右下欄第7?11行の「前記保温シートとコンクリート躯体表面との間の間隙部に加湿気体を供給するとともに・・・前記コンクリート躯体を前記保温シートにより所要期間にわたって養生する」という記載,第3頁左上欄第4?8行の「第2番目の本発明の海洋コンクリート構造物のコンクリート養生方法・・・は・・・保温シートとコンクリート躯体表面との間の間隙部に加湿気体を供給するものである。」という記載,及び第5図参照。),特開平3-295981号公報(特に,第2頁左下欄第5?17行の「二次被覆の養生部分を養生シートで外部から遮断し、・・・水を・・・噴霧状に拡散せしめることとなり、コンクリート壁面2は結露状態となる。」という記載及び第1図参照。),及び実願昭60-19085号(実開昭61-136046号)のマイクロフィルム(特に,第9頁第9?12行の「符号(19)はコンクリート養生器(1)によって供給される熱蒸気の流失を抑止して、養生効率を高めるために坑内(18)の任意箇所に仮設された簡易閉鎖扉である。」という記載参照。)にみられるように,周知技術である。
そうすると,引用発明における養生のための水分を補給する区域,すなわち,覆工コンクリートと遮蔽シートとの間形成された空間において,その空間の開放された部分,すなわち,トンネル方向の両端部である妻部を,適宜の部材で覆うことにより,妻材(妻部を覆う部材)で隔成した閉鎖空間とし,その閉鎖空間に水蒸気を充満させる構成とすることは,当業者が容易になし得たことといえる。
さらに,水に代えて水蒸気を供給するにあたり,遮蔽シートを水を遮蔽するものから気体を遮蔽するものにすること,すなわち,通水性のないものから通気性のないものに代えることも,当業者が容易になし得たことである。
よって,引用発明に周知技術を適用し,本願発明の上記相違点2に係る構成に想到することは,当業者が容易になし得たことである。

そして,本願発明の作用効果は,引用発明及び周知技術から当業者が予測できた範囲内のものであって,格別なものということはできない。

したがって,本願発明は,引用発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお,請求人は審判請求書において,引用発明の養生方法は,加湿器を坑内に載置する養生方法における作業空間の狭小化等を課題にした発明であるので,引用発明の養生方法に刊行物2記載の加湿手段を用いた蒸気養生を採用することには阻害要因がある旨の主張をしている。
しかしながら,引用発明における上記作業空間の狭小化等の課題は,覆工コンクリートの内面に沿って所定の間隔を隔てて防水シートを設置することにより解決されるものであって,水分を補給する手段については,必ずしも,湿潤状態に保ったフェルトシートを用いたものに限られるものではないから,引用発明が蒸気による水分補給を技術思想として排除しているとまではいえない。

6.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-27 
結審通知日 2009-05-12 
審決日 2009-05-27 
出願番号 特願平10-242402
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深田 高義鹿戸 俊介  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 宮崎 恭
関根 裕
発明の名称 覆工コンクリートの養生方法および養生装置  
代理人 松本 雅利  

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