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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B |
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管理番号 | 1200963 |
審判番号 | 不服2006-3397 |
総通号数 | 117 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-02-23 |
確定日 | 2009-07-23 |
事件の表示 | 特願2000-266296「親水性の弾性伸縮性複合シート」拒絶査定不服審判事件〔平成14年3月5日出願公開、特開2002-67203〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成12年9月1日の出願であって、 以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。 平成16年11月9日付け 拒絶理由通知書 平成17年1月5日 意見書・手続補正書 平成17年10月25日付け 拒絶理由通知書 平成17年12月22日 意見書・手続補正書 平成18年1月16日付け 拒絶査定 平成18年2月23日 審判請求 平成20年11月10日付け 拒絶理由通知書・補正の却下の決定 平成21年1月13日 意見書 第2 本願発明について この出願の発明は、平成20年11月10日付けの補正の却下の決定により、平成17年12月22日の手続補正が却下されたので、平成17年1月5日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載されたとおりのものであるところ、請求項1?8に係る発明(以下、「本願発明1」…「本願発明8」、併せて「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 【請求項1】「互いに直交するX方向とY方向とを有し、少なくとも前記Y方向に弾性的に伸縮可能な第1シートの少なくとも片面に、前記Y方向に非弾性的に伸長可能な繊維集合体からなる第2シートが接合している弾性伸縮性複合シートにおいて、 前記第1シートと第2シートとが前記Y方向へ間欠的に形成された接合部において一体化しており、前記第2シートを形成している繊維のうちで前記Y方向において隣接する前記接合部と接合部とにまたがる繊維がそれら前記接合部間で曲線を画いていて隣接する前記接合部間の直線的距離よりも長く、かつ、隣接する前記接合部間で互いに溶着したり接着したりすることなく分離独立し、さらに前記第1シートと第2シートとのうちの少なくとも一方が親水性素材を含んでいることを特徴とする前記複合シート。」 【請求項2】「前記第1シートが弾性伸縮性の熱可塑性合成繊維の集合体である請求項1記載の複合シート。」 【請求項3】「前記第1シートが弾性伸縮性の熱可塑性合成樹脂フィルムである請求項1記載の複合シート。」 【請求項4】「前記親水性素材が親水性の繊維である請求項1または2記載の複合シート。」 【請求項5】「前記親水性素材が前記第1シートおよび第2シートのいずれかに塗布されている親水化処理剤である請求項1?3のいずれかに記載の複合シート。」 【請求項6】「前記親水性素材が前記第1シートおよび第2シートのいずれかに練り込まれている親水化処理剤である請求項1?3のいずれかに記載の複合シート。」 【請求項7】「前記第1シートおよび第2シートが通気透湿性のものである請求項1?6のいずれかに記載の複合シート。」 【請求項8】「前記第1シートおよび第2シートのいずれかが不透液性のものである請求項1?7のいずれかに記載の複合シート。」 第3 当審の拒絶の理由 平成20年11月10日付け拒絶理由通知書の当審の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。 本願請求項1ないし本願請求項8に係る発明は、下記刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 【刊行物】 1.特開平6-184897号公報(以下、「刊行物1」という。) 2.特表平9-512313号公報(以下、「刊行物2」という。) 3.「不織布便覧」、INDA米国不織布工業会編、 株式会社 不織布情報発行、1996、60?70頁 (以下、「刊行物3」という。) 第4 当審の拒絶理由(特許法第29条第2項)についての判断 1 刊行物に記載された事項 (1)刊行物1について 1-a「【請求項1】 少なくとも一つの伸縮性シートと、非直線状に配列された少なくとも三点で前記伸縮性シートに接合された少なくとも一つの首付き材料とを有し、前記首付き材料は、前記接合位置のうちの少なくとも二点間において縮みが形成されていることを特徴とする少なくとも二方向にむけて引伸し可能な複合伸縮性材料。 【請求項2】 請求項1において、前記伸縮性シートは、伸縮性ポリエステル類、伸縮性ポリウレタン類、伸縮性ポリアミド類、エチレンと少なくとも一種類のビニルモノマーからなる伸縮性コーポリマー類、伸縮性A-B-A’ブロックコーポリマー類からなる群から選択したエラストマーポリマーから形成されており、前記AおよびA’は同一あるいは異なる熱可塑性ポリマーであり、前記Bはエラストマーポリマーブロックであることを特徴とする複合伸縮性材料。 【請求項3】 請求項1において、前記伸縮性シートはメルトブローファイバーからなる伸縮性ウエブであることを特徴とする複合伸縮性材料。 【請求項4】 請求項3において、前記メルトブローファイバーのウエブはマイクロファイバーを含むことを特徴とする複合伸縮性材料。 【請求項5】 請求項2において、前記エラストマーポリマーには処理補助剤が配合されていることを特徴とする複合伸縮性材料。 【請求項6】 請求項1において、前記伸縮性シートは感圧エラストマー接着性シートであることを特徴とする複合伸縮性材料。 【請求項7】 請求項6において、前記感圧エラストマー接着性シートは、エラストマーのポリマーと粘着化レジンの配合物から形成されていることを特徴とする複合伸縮性材料。 【請求項8】 請求項7において、前記配合物は処理補助剤を含んでいることを特徴とする複合伸縮性材料。 【請求項9】 請求項6において、前記感圧エラストマー接着性シートは、メルトブローファイバーからなる感圧エラストマー接着性ウエブであることを特徴とする複合伸縮性材料。 【請求項10】 請求項9において、前記メルトブローファイバーのウエブはメルトブローマイクロファイバーを含んでいることを特徴とする複合伸縮性材料。 【請求項11】 請求項1において、前記首付き材料は、ニット織物、緩目に編んだ織物および不織材料のうちから選択したものであることを特徴とする複合伸縮性材料。 【請求項12】 請求項11において、前記不織材料は、ボンデッド・カード掛けファイバーウエブ、スパンボンデッドファイバーウエブ、メルトブローファイバーウエブ、および少なくとも一つのこれらの層を含む多層材料のうちから選択したウエブであることを特徴とする複合伸縮性材料。 【請求項13】 請求項12において、前記メルトブローファイバーのウエブはマイクロファイバーを含んでいることを特徴とする複合伸縮性材料。 【請求項14】 請求項12において、前記ファイバーは、ポリオレフィン類、ポリエステル類およびポリアミド類から選択したポリマーからなることを特徴とする複合伸縮性材料。 【請求項15】 請求項14において、前記ポリオレフィンは、一種類以上のポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリブチレン、エチレンコーポリマー類、ポリエチレンコーポリマー類およびブチレンコーポリマー類から選択されたものであることを特徴とする複合伸縮性材料。 【請求項16】 請求項1において、前記首付き材料は、ファイバーと、木質パルプ、ステープルファイバー、粒子および超吸収剤のうちの少なくとも一つ以上のものとからなる混合物から構成された複合材料であることを特徴とする複合伸縮性材料。 …(略)…」(【特許請求の範囲】) (1-b)「この分野における幾つかの課題は、弾力性および可とう性があり、しかも好ましい感触を有している伸縮性材料を形成することに関するものである。かかる課題のうちの一つは、プラスチックあるいはラバーの感触のしない伸縮性材料を形成することである。伸縮性材料の特性を改善するための方法としては、伸縮性材料の外面側に、一層あるいはそれ以上の層の材料を積層することにより、より良い触質性を呈するようにさせるものがある。 …(略)… 伸縮性材料と非伸縮性材料の複合材の製造が、その全体が例えば一方向に向けて伸延あるいは拡張するように、伸縮性材料に対して非伸縮性材料を接着することにより行われており、これにより、伸縮性が必要とされる衣類用素材、パッド、おむつ、あるいはパーソナルケアー製品に対して、これらの材料を使用できるようにしている。」(【0003】?【0005】) (1-c)「本明細書における「伸縮性」という用語は、力を作用させることにより、少なくとも60%は引張りあるいは拡張可能であり(すなわち、引張長さが力を作用させない状態での長さの少なくとも160%であり)、引張力を開放した場合にはその引張長さの少なくとも55%に回復するような材料を意味するために使用している。仮定的な例を挙げると、1インチ長さの材料が、少なくとも1.60インチまで引延し可能であると共に、このように1.60倍にまで引延した後に引張力を開放した場合に、その長さが1.27インチよりも短くなるまで縮むことを意味している。多くの伸縮性材料は、60%以上(すなわち、その弛緩状態の160%以上まで)、例えば、100%あるいはそれ以上まで引き延ばすことができ、これらの材料の多くは、引張力を開放すると、ほぼその初期の弛緩状態の長さ、例えば、その初期の弛緩状態の長さの105%以内の長さに回復することが可能である。」(【0008】) (1-d)「本明細書で使用する「回復する」および「回復」という用語は、材料に力を作用させて引っ張た後にこの力を取り除いた場合における、引っ張られている材料の収縮を指している。…(略)…」(【0010】) (1-e)「本明細書において使用する「超吸収体」という用語は、液体中に4時間浸漬し、しかる後に、吸収した液体を最大約1.5psiの圧縮力下に保持した状態において、1グラム当たり少なくとも5グラムの水溶液を吸収可能な吸収材料(例えば、1グラム当たり20グラム以上の蒸留水を吸収可能な吸収材料)を意味している。」(【0022】) (1-f)「複合伸縮性材料の構成要素として使用する首付き材料は、首付け可能な材料である。この材料としては、首付け可能な材料ならば如何なる材料であってもよく例えば、ニット織物、緩目に編んだ織物、不織ウエブなどがある。首付け可能な不織ウエブとしては、例えば、ボンデッド・カード掛けウエブ、スパンボンデッド・ウエブ、あるいはメルトブローファイバから形成したウエブなどがある。このメルトブローファイバとしてはメルトブロー・マイクロファイバを用いることができる。首付け可能な材料としては、多層構成のものでもよく、例えば、多層スパンボンデッド層あるいは多層メルトブロー層などがある。この首付け可能な材料は、ポリオレフィンなどのポリマから形成することができる。ポリオレフィンの例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、エチレンのコーポリマ類、プロピレンのコーポリマー類、およびブチレンのコーポリマー類が ある。」(【0028】) (1-g)「首付け可能な材料への首付けは、引張力を、目標とするネックダウン方向とは直交する方向に向けて加えることで行うことができる。首付きの材料は、非直線状態に配列した少なくとも3点で、引き延ばした状態にある伸縮性シートに接合され、引き延ばしてある伸縮性シートを元にもどしたときに、首付き材料が、接合位置のうちの少なくとも2点間において縮めらる。」(【0029】) (1-h)「首付け可能な材料12は、2種類あるいはそれ以上の種類の異なるファイバーの混合物から構成した複合材料とすることができ、または、ファイバーと粒子との混合物から構成した複合材料とすることもできる。このような混合物は次にようして形成することができる。すなわち、ファイバーあるいは粒子に対して、メルトブローファイバを運んでいるガス流を供給して、メルトブロー・ファイバーと、木質パルプ、ステープルファイバーあるいは超吸収材として一般的に呼ばれているハイドロコロイド(ヒドロゲル)粒子などの材料とを、メルトブロー・ファイバが集合用装置の上に集められるのに先立って、密接に絡み合った状態に混合し、これによって、メルトブロー・ファイバとその他の材料とがランダムに分散した状態で密着したウエブを形成する。」(【0044】) (1-i)「伸縮性シート32はシート形状に形成された材料ならば如何なる材料であってもよい。一般的に言って、エラストマーファイバー形成用のレジンあるいはこれを含むブレンドを用いてエラストマーファイバー、スレッド、フィラメント、あるいはストランドあるいはエラストマーファイバー、スレッド、フィラメントあるいはスランドからなる不織ウエブとすることができる。また、エラストマーフィルム形成用のレジンあるいはこれを含むブレンドを用いて、本発明のエラストマフィルムとすることができる。有用な伸縮性シートの秤量は約5gsm(グラム/平方メートル)から約300gsmであり、例えば、約5gsmから約150gsmまでの範囲である。 一例として、伸縮性シート32を一般式がA-B-A’であるブロックコーポリマーから形成することができる。ここに、AおよびA’はそれぞれ熱可塑性ポリマーのエンドブロックであり、ポリ(ビニルarene)などのスチレン部分(styrenic moiety)を含んでいる。またBは、共役ジエンあるいは低アルケンポリマーなどのエラストマーポリマーのミッドブロックである。…(略)…」(【0046】?【0047】) (2)刊行物3について (2-a)「ウェブ形成は、乾式、湿式またはスパンボンド/メルトブローのいずれかの製法による。」(61頁下から2行?1行) (2-b)「エアレイ エアレイは空気中に繊維を浮かせておき、スクリーン上に繊維を回収して打綿状にする。…(略)… エアレイ・パルプは、…(略)…衛生ナプキンやアンダーパッド製品などの吸収芯や高吸収素材を必要とするさまざまな医療およびその他産業用途にも用いられている。」(63頁下から10行?64頁7行) 2 刊行物に記載された発明 (1)刊行物1について 刊行物1は、「複合伸縮性材料」に関し記載するものであり(摘記1-a【請求項1】)、刊行物1には、「少なくとも一つの伸縮性シートと、非直線状に配列された少なくとも三点で前記伸縮性シートに接合された少なくとも一つの首付き材料とを有し、前記首付き材料は、前記接合位置のうちの少なくとも二点間において縮みが形成されていることを特徴とする少なくとも二方向にむけて引伸し可能な複合伸縮性材料」が記載されている(摘記1-a)。そして、「首付き材料は、…(略)…不織材料のうちから選択したもの」であり(摘記(1-a)【請求項11】)、「不織材料は、…(略)…スパンボンデッドファイバーウエブ、メルトブローファイバーウエブ…(略)…のうちから選択したウエブ」であることが記載されている(摘記(1-a)【請求項12】)。 そうすると、刊行物1には、 「少なくとも一つの伸縮性シートと、非直線状に配列された少なくとも三点で前記伸縮性シートに接合された少なくとも一つのウエブからなる首付き材料とを有し、前記首付き材料は、前記接合位置のうちの少なくとも二点間において縮みが形成されていることを特徴とする少なくとも二方向にむけて引伸し可能な複合伸縮性材料」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 3 対比・判断 (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 まず、引用発明の「伸縮性シート」について、摘記(1-c)には、「「伸縮性」という用語は、力を作用させることにより、少なくとも60%は引張りあるいは拡張可能であり…(略)…、引張力を開放した場合にはその引張長さの少なくとも55%に回復するような材料を意味する」と記載され、摘記(1-d)には、「「回復する」および「回復」という用語は、材料に力を作用させて引っ張た後にこの力を取り除いた場合における、引っ張られている材料の収縮を指している」と記載されていることからみて、「伸縮性シート」は、弾性的に伸縮可能であるといえる。よって、引用発明の「伸縮性シート」は、本願発明1の「弾性的に伸縮可能な第1シート」に相当する。 次に、引用発明の「ウエブからなる首付き材料」について、摘記(1-f)には、「首付け可能な不織ウエブとしては、例えば、ボンデッド・カード掛けウエブ、スパンボンデッド・ウエブ、あるいはメルトブローファイバから形成したウエブなどがある。…(略)…この首付け可能な材料は、ポリオレフィンなどのポリマから形成することができる。ポリオレフィンの例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、エチレンのコーポリマ類、プロピレンのコーポリマー類、およびブチレンのコーポリマー類がある。」と記載されており、一方、本願発明1の「非弾性的に伸長可能な繊維集合体からなる第2シート」について、本願明細書を参酌すると、【0010】には、「かかる繊維6には、非弾性的な合成樹脂であるポリプロピレンやポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンとプロピレン、エチレン、ブテンのターポリマーとのブレンド物等が使用される。」と記載されていることから、引用発明の「ウエブからなる首付き材料」と本願発明1の「非弾性的に伸長可能な繊維集合体からなる第2シート」は、共に同様の合成樹脂繊維からできた集合体からなるシートであるといえる。してみると、引用発明の「ウエブからなる首付き材料」は、本願発明1の「非弾性的に伸長可能な繊維集合体からなる第2シート」に相当する。 ここで、摘記(1-g)には、「首付きの材料は、非直線状態に配列した少なくとも3点で、引き延ばした状態にある伸縮性シートに接合され、引き延ばしてある伸縮性シートを元にもどしたときに、首付き材料が、接合位置のうちの少なくとも2点間において縮めらる。」と記載されていることから、「伸縮性シート」は引き延ばしてある方向に弾性的に伸縮可能であり、「首付き材料」も伸縮性シートを同じ方向に非弾性的に伸長可能であるといえ、「伸縮性シート」及び「首付き材料」が引き延ばされる方向をY方向とすれば、それに直交するX方向が存在することは自明であり、さらに、「伸縮性シート」及び「首付き材料」からなる「複合伸縮性材料」にも、互いに直交するX方向とY方向が存在することは明らかである。 また、摘記(1-g)の「非直線状態に配列した少なくとも3点」という記載によれば、「伸縮性シート」と「首付き材料」は、Y方向へ間欠的に形成された接合部において一体化していることは明らかであり、「首付き材料が、接合位置のうちの少なくとも2点間において縮められている」ということは、該首付き材料を構成する合成樹脂繊維が、前記Y方向において隣接する接合位置の2点間において、曲線を画いており、しかも該2点間の直線的距離よりも長いといえる。 さらに、引用発明の「少なくとも二方向にむけて引伸し可能な複合伸縮性材料」は、「伸縮性シートと、非直線状に配列された少なくとも三点で前記伸縮性シートに接合された少なくとも一つの首付き材料とを有」することから、「伸縮性シート」の片面に「首付き材料」が接合されているといえ、「伸縮性」であることから、上述したように、弾性伸縮可能であるといえる。 そうしてみると、引用発明の「少なくとも一つの伸縮性シート」と、「接合された少なくとも一つのウエブからなる首付き材料とを有」する「少なくとも二方向にむけて引伸し可能な複合伸縮性材料」は、本願発明1の「前記Y方向に弾性的に伸縮可能な第1シートの少なくとも片面に、前記Y方向に非弾性的に伸長可能な繊維集合体からなる第2シートが接合している弾性伸縮性複合シート」に相当する。 してみると、両者は、 「互いに直交するX方向とY方向とを有し、前記Y方向に弾性的に伸縮可能な第1シートの少なくとも片面に、前記Y方向に非弾性的に伸長可能な繊維集合体からなる第2シートが接合している弾性伸縮性複合シートにおいて、 前記第1シートと第2シートとが前記Y方向へ間欠的に形成された接合部において一体化しており、前記第2シートを形成している繊維のうちで前記Y方向において隣接する前記接合部と接合部とにまたがる前記繊維がそれら前記接合部間で曲線を画いていて隣接する前記接合部間の直線的距離よりも長いことを特徴とする前記複合シート。」 という点で一致し、下記の点(i)?(ii)において一応相違するということができる。 (i)第2シートが、本願発明1においては、「隣接する前記接合部間で互いに溶着したり接着したりすることなく分離独立」しているのに対して、引用発明においては、特にそのような特定がなされていない点 (ii)第1シートと第2シートが、本願発明1においては、「第1シートと第2シートとのうちの少なくとも一方が親水性素材を含んでいる」のに対して、引用発明においては、そのような特定がなされていない点 (2)判断 そこで、上記相違点(i)?(ii)について判断する。 (a)相違点(i)について 引用発明の「ウエブからなる首付き材料」について、摘記(1-a)【請求項12】及び(1-f)には、ボンデッド・カード掛けファイバーウエブ、スパンボンデッドファイバーウエブ、メルトブローファイバーウエブなどが例示されている。 ここで、刊行物3には、ウェブの製造方法は、大きく分けて湿式と乾式の2種類があり、湿式にはスパンボンドやメルトブローが、乾式にはカーディングやエアレイが包含されることが記載されている(摘記(2-a))。そして、乾式の1つであるエアレイは、空気中に繊維を浮かせておき、スクリーン上に繊維を回収して打綿状にするものであることが記載されていることから(摘記(2-b))、エアレイによって得られるウェブは、該ウェブを構成する繊維が互いに溶着したり接着したりすることなく分離独立していることは明らかである。さらに、刊行物3には、エアレイ・パルプは、衛生ナプキンやアンダーパッド製品などの吸収芯や高吸収素材を必要とする用途に用いられることも記載されている(摘記2-b)。 してみると、引用発明の「複合伸縮性材料」が、パッドやおむつに用いられることをかんがみると(摘記(1-b))、引用発明において、「首付き材料」を形成するウエブをエアレイにより製造されたウエブとすることは、当業者が容易に行うことである。 (b)相違点(ii)について 刊行物1には、「首付き材料」がファイバーと超吸収剤とからなる混合物から構成された複合材料である旨記載されており(摘記(1-a)【請求項16】及び(1-h))、該超吸収剤は、水溶液を吸収可能な吸収材料であることが記載されている(摘記1-e)。これらの記載をかんがみると、刊行物1に記載された「首付き材料」は、水分を吸収可能であるといえる。 一方、本願発明1の「親水性素材」は、本願明細書を参酌すると、吸汗性を付与するため、すなわち水分を吸収させるために用いられているといえる。 してみると、引用発明の「首付き材料」は親水性素材を含んでいるといえる。 また、吸水性、すなわち、吸汗性を向上させるために、「首付き材料」に換えて「伸縮性シート」に親水性素材を含ませること、あるいは、「首付き材料」のみならず「伸縮性シート」にも親水性素材を含ませることは、当業者が容易に行うことであり、繊維に親水性を付与するにあたり、超吸収剤を混合することに換えて親水化処理剤を用いること(例えば、特開平5-272006号公報等参照)は、当該技術分野において、通常行われる範囲のことである。 よって、相違点(ii)は実質的な相違点とはならないか、当業者が容易に想到することができたものである。 (3)本願発明の効果について 本願発明の効果は、本願明細書【0017】の記載からみて、「肌触りと、通気性と、吸汗性に優れている」ことであるといえる。 一方、刊行物1には、好ましい感触を有している伸縮性材料を形成することを課題としている旨記載されていることから(摘記(1-b))、引用発明の複合性伸縮性材料は、好ましい感触、すなわち優れた「肌触り」を有しているといえる。 また、「吸汗性」については、上記「(b)相違点(ii)について」で示したように、予測できる範囲の効果であるといえる。 さらに、「通気性」について、本願明細書【0012】には、「複合シート1を通気性のものとして使用する場合には、下層3として、JISL 1096の6.27に規定のA法による通気度が少なくとも10cm^(3)/cm^(2)・sであるものを使用する。」と記載されているものの、具体的に効果を確認するに足る記載はないことから、格別顕著な効果であるとは認められない。 (4)請求人の主張について 請求人は、平成21年1月13日付け意見書において、以下のような主張をしている。 a「3.1 刊行物1に記載の引用発明1において使用される「首付き材料」は、拒絶理由通知書の「第1 2(3)イ(ア)」の(1-f)にも引用されているとおり、「首付け可能な不織布ウエブとしては、例えば、ボンデッド・カード掛けウエブ、スパンボンデッド・ウエブ、あるいはメルトブローファイバから形成したウエブなどがある(刊行物1、第8欄第32?35行)。」というものである。ここに例示された不織布ウエブは、「ボンデッド」が意味するように不織布を形成している繊維どうしが互いに溶着したり接着したりして「ボンデッド」な状態にあるものである。例示されたメルトブローファイバもその例外でないことは、「相互ファイバー接着は、各メルトブローファイバを相互に絡み合わせることにより形成することができる。ファイバーの絡み合いはメルトブロー工程において必然的に形成されるものであるが、これを液圧による絡み合わせ、あるいはニードルパンチングなどの方法を用いて発生させ、あるいは強化させることもできる。このようにする代わりに、あるいはこれに加えて、熱接着法あるいは接着剤を用いて目標とするウエブ構造の密着性を得るようにしてもよい(同第12欄第17?23行)。」と記載されていることから明らかである。」 b「3.3 また、刊行物1において「首付き材料」が伸縮性シート32に対して使用される態様は、次のとおりである。 a.「引張状態にある首付き材料を、引張状態にある伸縮性のシート32に対して、適切な方法で少なくとも3か所で整合する。例えば、熱接着法あるいは超音波接合法を利用することができる(同第15欄第20?23行)。」 b.「引張状態にある首付き材料は、それと同一の寸法幅「B」を有し、機械方向とは直交する方向において少なくとも首付き材料の元の幅「A」とほぼ同一の幅まで引延し可能な伸縮性シートに接合される(第17欄第23?26行)。」 上記引用a,bによって明らかなとおり、首付き材料は、それが引張られて首付けが生じた状態で伸縮シートに接合されるものである。また、首付き材料となる不織布ウエブは、それを形成している繊維どうしが「ボンデッド」な状態にあることによって、引張られると首付けが生じるものである。」 c「3.4 一方、ウエブを構成する繊維が互いに溶着したりすることなく分離独立している状態にあるエアレイによって得られるウエブ(前記第3判断参照)は、それを例えば機械方向へ引張ると、繊維がばらばらにはなれて首付けが生じないばかりか、ウエブとしての形態をなさないものになると考えられるから、「首付き材料」を形成するウエブとしては到底使うことのできないものである。」 d「3.5 仮に、引用発明1において、エアレイによって得られるウエブを「首付き材料」を形成するウエブとするのであれば、エアレイによって得られたウエブに含まれている繊維を「ボンデッド」な状態にしなければならないはずである。しかる後に、エアレイによって得られたウエブが引張状態にされ、その状態で伸縮性シートに接合されるのである。つまり、エアレイによって得られるウエブは、「第3 拒絶理由 エ(ア)a」に記載された態様では使うことのできないものである。」 (a)aの主張について 請求人は、刊行物1に記載される「首付き材料」が不織布ウエブである場合は、不織布を形成している繊維どうしが互いに溶着したり接着したりして「ボンデッド」な状態のウエブであり、例示されている中に含まれるメルトブローファイバもその例外でない旨主張している。 しかしながら、刊行物1には、「首付け可能な座量(当審注:「材料」の誤りと考えられる)12がファイバーから形成された不織ウエブである場合には、ファイバーを相互ファイバー接着状態で結合することにより、首付けができないような密着構造のウエブにする必要がある。相互ファイバー接着は、各メルトブローファイバーを相互に絡み合わせることにより形成することができる。ファイバーの絡み合いはメルトブロー工程において必然的に形成されるものであるが、これを液圧による絡み合わせ、あるいはニードルパンチングなどの方法を用いて発生させ、あるいは強化させることもできる。このようにする代わりに、あるいはこれに加えて、熱接着法あるいは接着剤を用いて目標とするウエブ構造の密着性を得るようにしてもよい。」(【0045】)と記載されており、この記載からみると、メルトブローファイバは、相互に絡み合わせることによって形成されるものであり、さらに、液圧による絡み合わせやニードルパンチングにより、絡み合わせを強化することもできるのであるから、繊維どうしが互いに溶着あるいは接着して得られるものではない。 してみると、引用発明の「首付き材料」には、メルトブローファイバからなる不織ウエブのように、繊維どうしが互いに溶着あるいは接着するのではなく、繊維どうしが絡み合うことによって形成されるウエブも包含されるといえる。 よって、引用発明の「首付き材料」がボンデッドな状態のウエブであるという主張は当を得ないものである。 (b)b及びcの主張について 請求人は、「首付き材料」は、それが引張られて首付けが生じた状態で伸縮シートに接合されるものであるため、エアレイによって得られるウエブでは、それを引張ると、繊維がばらばらにはなれて首付けが生じないばかりか、ウエブとしての形態をなさないものになると考えられるから、「首付き材料」を形成するウエブとしては到底使うことができない旨主張する。 しかしながら、上記「(a)aの主張について」で示したように、引用発明の「首付き材料」には、繊維どうしが互いに溶着あるいは接着して得られる不織ウエブのみならず、メルトブローファイバからなる不織ウエブのように、繊維どうしが絡み合うことによって形成されるウエブも包含されることを考慮すれば、「首付き材料」を引っ張る程度は、絡み合った繊維がバラバラになるほどのものではないと考えるのが自然であるといえる。一方、エアレイによって得られるウエブの強度が比較的低いことは自明であるから、通常、強度を高めるために、ニードルパンチなどによって繊維を交絡させているのである(例えば、特開2000-170068号公報等参照)。 そうしてみると、引用発明の「首付き材料」として、エアレイによって得られるウエブを用いたとしても、引っ張ることにより繊維がバラバラになって、首付けが生じない、あるいはウエブが形成されないということはないのである。 よって、請求人の「「首付き材料」を形成するウエブとしては到底使うことのできない」旨の主張は採用できない。 (c)dの主張について 請求人は、首付き材料となる不織布ウエブは、それを形成している繊維どうしが「ボンデッド」な状態にあることによって、引張られると首付けが生じるものである旨の主張もしている。 しかしながら、上記「(b)b及びcの主張について」で示したように、引用発明の「首付き材料」として、エアレイによって得られるウエブを用いたとしても、すなわち、「ボンデッド」な状態でなかったとしても、首付けが生じないということはないのである。 よって、請求人の「首付き材料となる不織布ウエブは、それを形成している繊維どうしが「ボンデッド」な状態にあることによって、引張られると首付けが生じるものである」旨の主張は採用できない。 (d)むすび 以上のとおり、請求人の主張によっても、上記(1)?(3)における当審の判断は左右されるものはない。 4 小括 よって、本願発明1は、本願出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-05-22 |
結審通知日 | 2009-05-26 |
審決日 | 2009-06-08 |
出願番号 | 特願2000-266296(P2000-266296) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B32B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川端 康之、平井 裕彰 |
特許庁審判長 |
柳 和子 |
特許庁審判官 |
坂崎 恵美子 橋本 栄和 |
発明の名称 | 親水性の弾性伸縮性複合シート |
代理人 | 白浜 吉治 |
代理人 | 白浜 秀二 |