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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41F
管理番号 1200991
審判番号 不服2007-5370  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-20 
確定日 2009-07-23 
事件の表示 平成 8年特許願第135843号「現地含浸式および印刷機上含浸式洗浄システムおよびその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年11月19日出願公開、特開平 8-300636〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年5月1日(パリ条約による優先権主張:1995年5月1日、米国)に出願したものであって、平成18年11月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年2月20日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年3月22日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

2.補正の内容
平成19年3月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についての補正であり、補正前後の特許請求の範囲の請求項の数は、いずれも25であり、記載ぶりからして、補正前の請求項1?25は、それぞれ補正後の1?25に対応している。
補正前後の請求項23の記載は以下の通りである。
<補正前>(平成18年9月8日付け手続補正書参照。)
「印刷機のシリンダを洗浄する方法であって、
洗浄ファブリック供給ロールを巻き出さないで、その供給ロールを溶剤の容器内に沈下させ、
ポンプ、スプレーバー、マニホルドラインおよびバルブを使用せず、前記印刷機のシリンダを前記洗浄ファブリック供給ロールで洗浄することを特徴とする方法。」

<補正後>
「印刷機のシリンダを洗浄する方法であって、
巻かれた洗浄ファブリックのロールを巻き出さないで、前記巻かれた洗浄ファブリックのロールを溶剤の容器内に沈下させ、
ポンプ、スプレーバー、マニホルドラインおよびバルブを使用せず、前記印刷機のシリンダを溶剤が含浸された洗浄ファブリックの巻き出されたストリップで洗浄することを特徴とする方法。」

3.補正内容の検討
上記請求項23についての補正の内、「前記印刷機のシリンダを前記洗浄ファブリック供給ロールで洗浄する」を「前記印刷機のシリンダを溶剤が含浸された洗浄ファブリックの巻き出されたストリップで洗浄する」とする点について検討すると、巻き出さない状態の供給ロールで印刷機のシリンダを洗浄することは通常想定できないし、本願の発明の詳細な説明の項にもそのようなことは記載されていない。そうすると、上記補正は、誤記の訂正を目的とするものと認められる。
請求項23について、その他表現を変更した箇所があるものの、該記載では、実質的な内容は変わっていない。
したがって、上記補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第3号に規定する誤記の訂正を目的とするものと認められる。
よって、以後、上記補正後の請求項23に係る発明(以下、「本願発明」という。)について検討する。

4.引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平3-101941号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。
ア.「更に、両形式において、例えば不織布、織布、若しくは両者の複合材、又はそれらと合成樹脂との複合材等の十分な強度と吸湿性とを有する帯状体より成る拭き取り材が巻き取り式の第1拭き取り材1である場合(第1図乃至第11図参照)と、無端ループ式の第2拭き取り材2である場合(第12図乃至第17図参照)とがある。」(第3頁右上欄第10?16行)
イ.「第4図に示す第4実施例(a)(b)は、第3実施例の第2洗浄液供給手段5の代りに、拭き取り材ロール1aと第1押圧部材3との中間に設けられた、洗浄液が満された洗浄液パンP1と洗浄液パンPl中でその下側外周面が洗浄液中にある位置と洗浄液面より離れた位置との上下2位置をとることができる浸漬ローラーDRとから成る第3洗浄液供給手段6が用いられ、拭き取り材ロール1aと第1押圧部材3との中間における第1拭き取り材1は、浸漬ローラーDRに巻掛けられている。浸漬ローラーDRが下側位置にある場合には、第1拭き取り材1は、洗浄液中を通過するようになっている。」(第3頁右下欄第11行?第4頁左上欄第2行)
ウ.「その際、第1押圧部材3の膨張、又は第2押圧部材11の変位により第1拭き取り材1又は第2拭き取り材2をインキローラーIR又はローラーR1の外周面に押圧すると共に、電動機Mを駆動して巻取り芯軸RT、又はニップローラーNRを(図示の例では時計回りに)回転させ、第1拭き取り材1又は第2拭き取り材2をインキローラーIR又はローラーR1の外周面の回動方向と逆方向に適宜の速度で変位させる。第1拭き取り材1は、拭き取り作用の後は順次巻取り芯軸RTに巻取られ、第2拭き取り材2は、循環して拭き取り作用を行う。かくして、下流側にインキを転移した後のインキローラーIRの外周面又はそのインキローラーIRの外周面から残留インキや侵入湿し水が転移されたローラーR1の外周面から、残留インキや侵入湿し水が第1拭き取り材1又は第2拭き取り材2により拭き取られる。」(第5頁右上欄第10行?左下欄第6行)

上記刊行物1は、「印刷機のインキ装置におけるインキ等拭き取り装置」に関するものであるが、上記ウ.の記載から「印刷機のインキローラーIRを洗浄する方法」を認識できる。
上記ア.の記載から、第1拭き取り材1が不織布、織布等の帯状体よりなり、拭き取り材ロール1aから巻き出されるものであることは、明らかである。
上記ア.に「浸漬ローラーDRが下側位置にある場合に」という記載は、洗浄する場合を意味していることは明らかである。
よって、上記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。
「印刷機のインキローラーIRを洗浄する方法であって、
拭き取り材ロール1aから巻き出された不織布、織布等の帯状体よりなる第1拭き取り材1を、下側位置にある浸漬ローラーDRによって洗浄液パンP1の洗浄液中を通過させ、
第1押圧部材3の膨張により第1拭き取り材1を前記インキローラーIRに押圧すると共に、巻取り芯軸RTを回転させ、第1拭き取り材1をインキローラーIRの外周面に適宜の速度で変位させることにより、インキローラーIRの外周面から、残留インキを第1拭き取り材1により拭き取る方法。」(以下、「引用発明」という。)

(2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である米国特許第5368157号明細書(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載が図示とともにある。(翻訳文は、特開平7-156372号公報の記載を採用する。)

エ.「In yet another more specific aspect of the method, the cleaning fabric is contacted with the low volatility organic compound solvent after the fabric is wrapped on the cylindrical core to form a roll by immersing the wrapped fabric roll in the solvent at ambient pressure and temperature and then drained at ambient pressure and temperature to remove excess solvent. 」(第2欄第57?63行)
(【0010】方法の他の特徴において、ファブリックが円筒状コアに巻かれ、ロールが形成された後、巻かれたファブリックロールが周囲圧力および温度で溶剤に沈められ、周囲圧力および温度で排液され、過度の溶剤が取り除かれ、これによってクリーニングファブリックが低揮発性有機化合物溶剤と接触する。)
オ.「However, it is within the purview of the invention that the fabric strip be immersed or transported through a tank of appropriate solvent in a substantially horizontal direction either before or after, and preferably after, it has been wrapped on the core to form a roll. After saturation has taken place, the saturated fabric is preferably simply suspended in a position to permit excess solvent to drain off and be collected in a trap for reuse. 」(第6欄第63行?第7欄第2行)
(【0034】しかしながら、コアに巻き、ロールを形成する前、またはその後、ファブリックストリップを適当な溶剤のタンクに実質上水平方向に沈め、搬送することもできる。含浸後、含浸されたファブリックを簡単に適所に吊り下げ、過度の溶剤を排液し、トラップに回収し、これを再利用することができる。)

5.対比・判断
本願発明と引用発明を比較すると、引用発明の「インキローラーIR」、「拭き取り材ロール1a」、「洗浄液」及び「洗浄液パンP1」は、それぞれ本願発明の「シリンダ」、「巻かれた洗浄ファブリックのロール」、「溶剤」及び「容器」に相当する。
引用発明の「第1拭き取り材1」は、不織布、織布等の帯状体よりなるから、「洗浄ファブリック」であると共に、巻き出された状態では「ストリップ」であるといえる。
引用発明の「拭き取り材ロール1aから巻き出された不織布、織布等の帯状体よりなる第1拭き取り材1を、下側位置にある浸漬ローラーDRによって洗浄液パンP1の洗浄液中を通過させ」と、本願発明の「巻かれた洗浄ファブリックのロールを巻き出さないで、前記巻かれた洗浄ファブリックのロールを溶剤の容器内に沈下させ」とは、「巻かれた洗浄ファブリックのロールの洗浄ファブリックを容器内の溶剤に浸す」点で共通する。
引用発明は、「第1押圧部材3の膨張により第1拭き取り材1を前記インキローラーIRに押圧すると共に、巻取り芯軸RTを回転させ、第1拭き取り材1をインキローラーIRの外周面に適宜の速度で変位させることにより、インキローラーIRの外周面から、残留インキを第1拭き取り材1により拭き取る」ものであり、第1拭き取り材1は不織布、織布等であるから、「洗浄液パンP1の洗浄液中を通過」中に洗浄液が含浸する(含浸の程度は、通過時間、第1拭き取り材1の材質等に依存する。)ことは明らかなので、本願発明に倣って、インキローラーIR(印刷機のシリンダ)を洗浄液(溶剤)が含浸された第1拭き取り材1(洗浄ファブリック)の巻き出されたストリップで洗浄するということができる。
よって、両者は、
「印刷機のシリンダを洗浄する方法であって、
巻かれた洗浄ファブリックのロールの洗浄ファブリックを容器内の溶剤に浸し、
前記印刷機のシリンダを溶剤が含浸された洗浄ファブリックの巻き出されたストリップで洗浄する方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]溶剤に浸す点に関し、本願発明は、「巻かれた洗浄ファブリックのロールを巻き出さないで、前記巻かれた洗浄ファブリックのロールを溶剤の容器内に沈下させ」と特定されているのに対し、引用発明は、「拭き取り材ロール1aから巻き出された不織布、織布等の帯状体よりなる第1拭き取り材1を、下側位置にある浸漬ローラーDRによって洗浄液パンP1の洗浄液中を通過させ」る、即ち、巻き出した後に容器内の溶剤に浸すものであって、本願発明のような特定がなされていない点。
[相違点2]本願発明は、「ポンプ、スプレーバー、マニホルドラインおよびバルブを使用せず」と特定されているのに対し、引用発明は、そのような特定がなされていない点。

上記相違点1について検討する。
引用発明は、巻き出した後に容器内の溶剤に浸すものであって、巻き出さないロール状態のものを溶剤に沈下させるものではないが、刊行物2には、ファブリックがロールに形成された後、ロールの状態で溶剤に沈められる旨記載されており、引用発明も刊行物2記載のものもいずれもロール状の洗浄ファブリックを用いてシリンダを洗浄する技術に関するものであるから、溶剤の含浸の程度を考慮し、刊行物2記載の事項を引用発明に適用して相違点1のようにすることは当業者が容易になし得る程度のことである。

上記相違点2について検討する。
引用発明は、洗浄液パンP1の洗浄液中を通過させることにより、洗浄液が含浸するものであるから、ポンプ、スプレーバー、マニホルドラインおよびバルブを使用せずとも洗浄液を含浸させることが可能なものである。
よって、本願発明の上記相違点2のようにすることは当業者が容易になし得る程度のことである。

引用発明において本願発明の相違点1、2に係る特定を備えることは、刊行物1、2の記載に基づいて当業者が容易に想到できたことであり、かかる発明特定事項を採用することによる本願発明の効果も刊行物1、2の記載から当業者が予測できる範囲のものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願優先権主張日前に頒布された刊行物1、2記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-19 
結審通知日 2009-02-25 
審決日 2009-03-10 
出願番号 特願平8-135843
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀田 宏之  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
坂田 誠
発明の名称 現地含浸式および印刷機上含浸式洗浄システムおよびその使用方法  
代理人 特許業務法人みのり特許事務所  

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