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審決分類 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S
管理番号 1201085
審判番号 不服2006-19579  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-04 
確定日 2009-07-22 
事件の表示 特願2005-214975「共用回路を使用した結合型GPS測位システムおよび通信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 1月26日出願公開、特開2006- 23315〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、1996年10月8日を国際出願日とする出願(特願平9-515159号、以下、「原出願」という。:優先日 1995年10月9日 米国、1996年3月8日 米国、1996年5月23日 米国)の一部を平成17年7月25日(優先日 1995年10月9日 米国、1996年3月8日 米国、1996年5月23日 米国)に新たな出願としたものであって、平成18年4月4日付けで手続補正(以下、「補正1」という。)がなされ、平成18年6月1日付け(送達:同年6月6日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正(以下、「本件補正1」という。)がなされ、さらに、同年10月4日付けで手続補正(以下、「本件補正2」という。)がなされたものである。

第2 本件補正1及び本件補正2の適否について

本件補正1及び本件補正2については、補正された順番に従って、まず本件補正1の適否を判断し、つぎに本件補正2の適否を判断する。
(補正の適否を補正された順番に従って判断することについては、知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)10698号の判決(平成18年9月26日言渡し)参照。)

1 本件補正1の適否について
本件補正1の内容は、補正前の特許請求の範囲の請求項中、請求項2ないし請求項16を削除するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定された請求項の削除に該当し、同法第17条の2第3項の規定を満たすものであるから、本件補正1を認める。

2 本件補正2についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正2(平成18年10月4日付けの手続補正)を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
上記のように、本件補正1は認められたので、本件補正2の適否は、本件補正1で補正された明細書及び図面を基準に判断する。
本件補正2の内容は、特許請求の範囲を補正前の
「【請求項1】
統合通信システムでグローバル・ポジショニング・システム(GPS)機能およびセルラー通信機能を実行する方法において:
無線周波数(RF)GPS信号および前記統合通信システムの視界内にあるGPS衛星のドップラー情報と前記統合通信システムの視界内にあるGPS衛星の天文暦(エフェメリス)を表すデータのうちの少なくとも一つを含むRFセルラー通信信号を共用無線周波数(RF)/中間周波数(IF)変換器で変換するステップを含み、
前記共用RF/IF変換器が、前記RF GPS信号を、第1の周波数から前記第1の周波数よりも低い第2の周波数に変換し、また前記RFセルラー通信信号を、第3の周波数から前記第3の周波数よりも低い第4の周波数に変換し、
前記共用RF/IF変換器が、前記RF GPS信号を前記第2の周波数に変換し、また前記RFセルラー通信信号を前記第4の周波数に変換する共用周波数ミキサを備えることを特徴とする方法。」から、補正後の
「【請求項1】
統合通信システムでグローバル・ポジショニング・システム(GPS)機能およびセルラー通信機能を実行する方法において:
無線周波数(RF)GPS信号および前記統合通信システムの視界内にあるGPS衛星のドップラー情報と前記統合通信システムの視界内にあるGPS衛星の天文暦(エフェメリス)を表すデータのうちの少なくとも一つを含むRFセルラー通信信号を共用無線周波数(RF)/中間周波数(IF)変換器で変換するステップを含み、
前記共用RF/IF変換器が、前記RF GPS信号を、第1の周波数から前記第1の周波数よりも低い第2の周波数に変換し、また前記RFセルラー通信信号を、第3の周波数から前記第3の周波数よりも低い第4の周波数に変換し、
前記共用RF/IF変換器が、前記RF GPS信号を前記第2の周波数に変換し、また前記RFセルラー通信信号を前記第4の周波数に変換する共用周波数ミキサを備えることを特徴とする方法。
【請求項2】・・・(以下省略)
・・・・・・
【請求項16】・・・」
と補正するものである。

(2)補正の目的
前記補正は、特許請求の範囲の請求項を増加させる補正であって、補正前の請求項と補正後の請求項に一対一又はこれに準ずるような対応関係があるとは認められないから、特許請求の範囲の減縮に該当しない。(東京高等裁判所平成15年(行ケ)230号の判決(平成16年4月14日言渡し)、知的財産高等裁判所平成17(行ケ)10192号の判決(平成17年4月25日言渡し)参照。)
また、前記補正は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものであるともいえない。
したがって、本件補正2は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
上記のように、本件補正1は認められ、本件補正2は却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、本件補正1により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
統合通信システムでグローバル・ポジショニング・システム(GPS)機能およびセルラー通信機能を実行する方法において:
無線周波数(RF)GPS信号および前記統合通信システムの視界内にあるGPS衛星のドップラー情報と前記統合通信システムの視界内にあるGPS衛星の天文暦(エフェメリス)を表すデータのうちの少なくとも一つを含むRFセルラー通信信号を共用無線周波数(RF)/中間周波数(IF)変換器で変換するステップを含み、
前記共用RF/IF変換器が、前記RF GPS信号を、第1の周波数から前記第1の周波数よりも低い第2の周波数に変換し、また前記RFセルラー通信信号を、第3の周波数から前記第3の周波数よりも低い第4の周波数に変換し、
前記共用RF/IF変換器が、前記RF GPS信号を前記第2の周波数に変換し、また前記RFセルラー通信信号を前記第4の周波数に変換する共用周波数ミキサを備えることを特徴とする方法。」
(以下、「本願発明」という。)

第4 刊行物に記載された発明
1 引用発明1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の最先の優先日前である平成7年6月2日に頒布された刊行物である特開平7-143031号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。
(ア-a)「【0001】【産業上の利用分野】本発明はスペクトル拡散(以下SSと記す)変調及び/又は復調装置に係り、特に、SS変調装置における1次変調とSS復調装置での1次復調において、夫々、FM変,復調を含む周波数シフトキーイング{以下FSK(Frequency ShiftKeying)と記す}変,復調と、位相シフトキーイング{以下P(Phase)SKと記す}変,復調との両方を、容易に切換えて行なえるよう構成した、SS変調及び/又は復調装置に関する。」

(ア-b)「【0002】【従来の技術】SS変調,復調方式を用いた無線伝送や通信における情報信号の1次変調には、通常FM変調(情報信号がアナログ信号の場合)やFSK変調(同じくデジタルデータの場合)やPSK変調(同)が用いられている。そして、1次変調にPSK変調を施したSS通信は、その1次復調もPSK復調となり、夫々専用の変調,復調回路で構成される。・・・【0003】具体例として、SS変調,復調方式を採用した無線LANシステムやデジタル携帯電話,又はSS変調された衛星航法システム用の電波であるGPS(GlobalPositioning System)衛星電波を受信して使用する測位(ナビゲーション)システム等においては、夫々専用の変調回路及び復調回路で行っており、普及の兆しが見え始めている。」

(ア-c)「【0009】【発明が解決しようとする課題】周知の如く、SS変調,復調方式では、特有の同期検出,同期捕捉,及び同期保持を司る各回路が復調装置側において必要である。また、それには変調装置側でSS変調の前処理として行われる1次変調の方式にも関連するため、使用する1次変調の方式に対応した専用のSS変調及び/又は復調装置が必要になり、回路を集積化しても夫々専用のICとならざるを得ず、汎用性に乏しく、今後の普及の障害となっている。
【0010】本発明は、上記従来の問題点に鑑み、1次変調方式がFM,PM(対アナログ信号)又はFSKやPSK(対デジタルデータ)であっても、構成の一部乃至主要部が共用可能な回路を実現して、従来のSS変調及び/又は復調装置のみならず、GPS受信復調も共用できる、汎用性の高いSS変調及びSS復調が可能なSS変調装置及び/又はSS復調装置を提供することを目的とする。」

(ア-d)「【0013】【実施例】本発明のSS変調及び/又は復調装置の一実施例について、図面を参照し乍ら説明する。図1は本発明のSS変調装置(送信部)10の基本構成を示し、図3は本発明のSS復調装置(受信部)30の基本構成を示すブロック図である。通常の通信機においては、かかるSS変調装置10とSS復調装置30の両方を備えたSS変調復調装置となっており、・・・実際の交信は当然異なる通信機間で行われるので、以下、SS変調装置10とSS復調装置30を夫々個別に説明する。」

(ア-e)「【0022】次に、本発明のSS復調装置30の構成及び復調動作について、図3を参照し乍ら簡潔に説明する。図中、24,26は受信アンテナA_(3)で受信されたSS変調波を中間周波数スペクトル拡散変調波に変換する変換手段(ミキサー)、48は拡散符号発生器であり、図2に示したGPS衛星における変調送信部20からの電波を受信する際には(特殊な)拡散符号の一種であるC/Aコードを発生し、図1に示した他機のSS変調装置10からの電波を受信する際にはPN符号を発生するよう構成されている。」

(ア-f)「【0023】・・・スイッチSw2?Sw4は受信信号の1次変調がFM,FSK(MSKやGMSKを含む)の場合は接点aに、PSKの場合は接点bに接続される。」

(ア-g)「【0024】受信アンテナA_(3)で受信されたSS変調波は、BPF22,RFアンプ(中間周波増幅器)23を介して第1の周波数変換用ミキサー(乗算器)24に供給される。一方、局部発振器(TCXO)28より出力される局部発振信号は、逓倍器29及び逓倍器21により夫々N1a逓倍及びN1b逓倍されて、ミキサー24及び26に夫々供給されているので、ミキサー24ではSS変調波の第1の周波数変換が行われて第1の中間周波信号が得られる。SS変調波におけるキャリヤ周波数が1.5GHz以上ならば、この中間周波信号の周波数は数百(200?600)MHz 程度となる。
【0025】この中間周波信号は、BPF25を介して第2の周波数変換用のミキサー26に供給され、ここで上記逓倍器21の出力(N1b逓倍局部発振信号)との乗算による第2の周波数変換が行われて第2の中間周波信号が得られる。かかる第2の中間周波信号は逆拡散用の乗算器31に供給され、ここで拡散符号発生器48からの拡散符号{GPS衛星電波の受信の際にはC/Aコード符号,その他はPN符号}による逆拡散復調が行われる。得られた逆拡散復調出力(1次変調波)は、BPF32,増幅器(AGCアンプ又はリミッタアンプ)33を介して、1次復調たるFSK復調やPSK復調を行うために乗算器34等へ供給される。」

(ア-h)「【0035】このように、かかる構成の復調装置30においても、FSK復調とPSK復調とを3個のスイッチSw2?Sw4(又は1個の連動スイッチ)で切換えるだけで容易に実施することができ、TCXO28,逓倍器21,29;BPF22,25,27,32;乗算器24,26,31;LPF47,49及びPLL35等、多くの回路が共用されたことになる。」

上記摘記事項(ア-c)の「【0010】本発明は、・・・構成の一部乃至主要部が共用可能な回路を実現して、従来のSS変調及び/又は復調装置のみならず、GPS受信復調も共用できる、汎用性の高いSS変調及びSS復調が可能なSS変調装置及び/又はSS復調装置を提供することを目的とする。」との記載より、SS変調及び/又は復調装置で、GPS受信復調と従来のSS変調及び/又は復調とを共用することが読み取れる。
また、上記摘記事項(ア-b)の「【従来の技術】・・・【0003】具体例として、SS変調,復調方式を採用した・・・デジタル携帯電話,又はSS変調された衛星航法システム用の電波であるGPS(GlobalPositioning System)衛星電波を受信して使用する測位(ナビゲーション)システム等」との記載から、上記摘記事項(ア-c)における、「従来のSS変調及び/又は復調装置」には「デジタル携帯電話」が含まれることが読み取れる。
そして、上記摘記事項(ア-e)及び(ア-g)の記載中の「受信アンテナA_(3)で受信されたSS変調波」は、「GPS衛星における変調送信部20からの電波を受信アンテナA_(3)で受信した信号」及び「他機のSS変調装置10からの電波を受信アンテナA_(3)で受信した信号」を含むものであることが読み取れる。

したがって、上記摘記事項(ア-a)ないし(ア-h)並びに図面の図1及び図3より、引用例1には次の発明が記載されているものと認める。

「SS変調及び/又は復調装置で、GPS受信復調とデジタル携帯電話を含む従来のSS変調及び/又は復調とを共用する方法において、
GPS衛星における変調送信部20からの電波を受信アンテナA_(3)で受信した信号、及び他機のSS変調装置10からの電波を受信アンテナA_(3)で受信した信号を、第1の周波数変換用ミキサー24及び第2の周波数変換用ミキサー26を備える回路で中間周波信号へ変換することを含み、
前記第1の周波数変換用ミキサー24及び第2の周波数変換用ミキサー26を備える回路が、GPS衛星における変調送信部20からの電波を受信アンテナA_(3)で受信した信号を中間周波信号に変換し、また、他機のSS変調装置10からの電波を受信アンテナA_(3)で受信した信号を中間周波信号に変換することとする方法。」(以下、「引用発明1」という。)

第5 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。

ア 引用発明1の「SS変調及び/又は復調装置」、「GPS受信復調」、「デジタル携帯電話を含む従来のSS変調及び/又は復調」、「GPS衛星における変調送信部20からの電波を受信アンテナA_(3)で受信した信号」、「他機のSS変調装置10からの電波を受信アンテナA_(3)で受信した信号」は、
本願発明の「統合通信システム」、「グローバル・ポジショニング・システム(GPS)機能を実行する」、「セルラー通信機能を実行する」、「無線周波数(RF)GPS信号」、「RFセルラー通信信号」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明1において、「第1の周波数変換用ミキサー24及び第2の周波数変換用ミキサー26を備える回路」は、GPS受信復調とデジタル携帯電話を含む従来のSS変調及び/又は復調とを共用するものであって、無線周波数を中間周波数に変換するものであるから、
引用発明1の「第1の周波数変換用ミキサー24及び第2の周波数変換用ミキサー26を備える回路で中間周波信号へ変換すること」は、
本願発明の「共用無線周波数(RF)/中間周波数(IF)変換器で変換するステップ」に相当するといえる。

ウ 引用発明1の「第1の周波数変換用ミキサー24及び第2の周波数変換用ミキサー26を備える回路」は、GPS衛星における変調送信部20からの電波を受信アンテナA_(3)で受信した信号を、周波数変換前の周波数(第1の周波数)から該周波数よりも低い中間周波信号の周波数(第2の周波数)に変換し、同様に前記他機のSS変調装置10からの電波を受信アンテナA_(3)で受信した信号を、周波数変換前の周波数(第3の周波数)から該周波数よりも低い中間周波信号の周波数(第4の周波数)に変換するものであることは明らかである。
また、引用発明1の「第1の周波数変換用ミキサー24及び第2の周波数変換用ミキサー26を含む回路」及び「第1の周波数変換用ミキサー24及び第2の周波数変換用ミキサー26」は、
本願発明の「共用無線周波数(RF)/中間周波数(IF)変換器」及び「共用周波数ミキサ」にそれぞれ相当する。

そうしてみると、
引用発明1の、「前記第1の周波数変換用ミキサー24及び第2の周波数変換用ミキサー26を備える回路が、GPS衛星における変調送信部20からの電波を受信アンテナA_(3)で受信した信号を中間周波信号に変換し、また、他機のSS変調装置10からの電波を受信アンテナA_(3)で受信した信号を中間周波信号に変換すること」は、
本願発明の「前記共用RF/IF変換器が、前記RF GPS信号を、第1の周波数から前記第1の周波数よりも低い第2の周波数に変換し、また前記RFセルラー通信信号を、第3の周波数から前記第3の周波数よりも低い第4の周波数に変換し、
前記共用RF/IF変換器が、前記RF GPS信号を前記第2の周波数に変換し、また前記RFセルラー通信信号を前記第4の周波数に変換する共用周波数ミキサを備えること」
に相当するといえる。

そうすると、本願発明と引用発明1とは、次の一致点で一致し、次の相違点で相違している。
[一致点]
「統合通信システムでグローバル・ポジショニング・システム(GPS)機能およびセルラー通信機能を実行する方法において:
無線周波数(RF)GPS信号およびRFセルラー通信信号を共用無線周波数(RF)/中間周波数(IF)変換器で変換するステップを含み、
前記共用RF/IF変換器が、前記RF GPS信号を、第1の周波数から前記第1の周波数よりも低い第2の周波数に変換し、また前記RFセルラー通信信号を、第3の周波数から前記第3の周波数よりも低い第4の周波数に変換し、
前記共用RF/IF変換器が、前記RF GPS信号を前記第2の周波数に変換し、また前記RFセルラー通信信号を前記第4の周波数に変換する共用周波数ミキサを備えることを特徴とする方法。」

[相違点]
本願発明は、RFセルラー通信信号について、「前記統合通信システムの視界内にあるGPS衛星のドップラー情報と前記統合通信システムの視界内にあるGPS衛星の天文暦(エフェメリス)を表すデータのうちの少なくとも一つを含む」ものであるのに対して、
引用発明1は、他機のSS変調装置10からの電波を受信アンテナA_(3)で受信した信号(RFセルラー通信信号)が、どのような通信内容を含むのか不明である点。

第6 当審の判断
上記相違点について検討する。
GPS信号受信機能および無線通信機能が統合された通信システムにおいて、GPS信号受信機能を実行するための、当該統合された通信システムの視界内にあるGPS衛星のドップラー情報あるいは天文暦(エフェメリス)を表すデータを上記無線通信機能を用いて伝送することは周知技術(例えば、原審で引用された刊行物である特開平6-130144号公報(特に、【0035】段落にエフェメリスデータを伝送する点、【0045】段落に自動車電話(携帯電話)を用いる点が記載されている。)、または、米国特許第4445118号明細書(図3に、ドップラー情報を伝送する点が記載されている。なお、第16欄第27?40行及び第11図に、GPS信号とFSK信号を共通のミキサー48で中間周波数へ変換する点も記載されている。)参照のこと。)である。
そして、RFセルラー通信自体は無線通信機能を具体化したものとして例示するまでもなく周知なものであるから、引用発明1の通信内容を上記相違点に係る本願発明のようになすことに当業者ならば困難はない。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明1及び周知の技術から当業者が予測できる範囲のものであって格別のものではない。

なお、請求の理由において審判請求人は、「引用例1はFSKとPSKというタイプの異なる信号を変調(本願発明で要求される復調ではなくて)するためにスイッチを用いることに関するもの・・・(図1-図2、図4-図5のSS変調装置参照)」であって、「引用例1に開示されているのは、別個の逓倍器(例えば、21と29)と分周器(例えば、41、43、64、65)です。これらの逓倍器と分周器はどれも共用化されていません。」と主張している。
しかしながら、引用例1の上記摘記事項(ア-d)に 「図1は本発明のSS変調装置(送信部)10・・・、図3は本発明のSS復調装置(受信部)30・・・通常の通信機においては、・・・両方を備えたSS変調復調装置となっており、・・・以下、SS変調装置10とSS復調装置30を夫々個別に説明する。」と記載されているように、引用例1は「変調」と「復調」について夫々個別に説明しているものである。そして、上記摘記事項(ア-e)ないし(ア-g)及び図面の図3のSS復調装置30に関する記載は「復調」に関するものであるから、引用例1には、変調のみならず、復調についても記載されていることは明らかである。
また、上記摘記事項(ア-c)に「本発明は、・・・従来のSS変調及び/又は復調装置のみならず、GPS受信復調も共用できる、汎用性の高いSS変調及びSS復調が可能なSS変調装置及び/又はSS復調装置を提供することを目的とする。」と記載されていて、上記摘記事項(ア-h)に「【0035】このように、かかる構成の復調装置30においても、・・・TCXO28,逓倍器21,29;BPF22,25,27,32;乗算器24,26,31;LPF47,49及びPLL35等、多くの回路が共用されたことになる。」と記載されているように、引用例1において、従来のSS変調及び/又は復調装置のみならず、GPS受信復調においても、受信された信号の周波数変換を行うための「乗算器(ミキサー)24,26」を共用する技術が記載されていることも明らかである。
したがって、引用例1には、「復調」についても、回路の共用化についても記載されているから、審判請求人の上記主張は妥当ではないので採用できない。

よって、本願発明は、引用発明1及び及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明1及び及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第8 本件補正2を適法とした場合の予備的検討
仮に、本件補正2を適法とした場合の特許法第29条第2項違反についても検討する。

1 特許法第29条第2項について
本件補正2が認められた場合、審理の対象とすべき明細書及び図面は本件補正2により補正されたものとなるところ、請求項1及びそれに対応する発明の詳細な説明の記載事項は、本件補正1により補正されたものと同一である。したがって、本件補正2によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、上記「第4」ないし「第7」に記載した理由と同様の理由により特許を受けることができない。

第9 むすび
以上のとおり、本件補正2を却下したとしても、却下せずに認めたとしても、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明及び及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-03 
結審通知日 2009-02-17 
審決日 2009-03-02 
出願番号 特願2005-214975(P2005-214975)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01S)
P 1 8・ 571- Z (G01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 有家 秀郎  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 山下 雅人
下中 義之
発明の名称 共用回路を使用した結合型GPS測位システムおよび通信システム  
代理人 西山 修  
代理人 山川 茂樹  
代理人 紺野 正幸  
代理人 黒川 弘朗  
代理人 山川 政樹  

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