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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1201133
審判番号 不服2007-23004  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-22 
確定日 2009-07-24 
事件の表示 特願2000-249951「可動コイル型リニアモータを内蔵したスライド装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月28日出願公開、特開2002- 64968〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年8月21日の出願であって、平成19年7月12日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月22日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年9月6日付で手続補正書が提出されたものである。

2.平成19年9月6日付手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「一対の対向部と前記両対向部を一側端で連結する側部連結部とから成る断面コ字状のマグネットヨークの一方の前記対向部を載置して支持する長尺で且つ矩形板状でなるベッド、前記ベッドに直動案内ユニットを介してスライド自在に設けられた矩形平板状でなるテーブル、前記マグネットヨークの前記両対向部の内側対向面にそれぞれ前記テーブルのスライド方向に交互に磁性が異なる磁極が並設され且つ互いに対向する前記磁極を同磁性とした一対の界磁マグネット、及び前記マグネットヨークの前記両対向部の他側間に形成されている開口を通して前記テーブルから延びる支柱に支持され且つ前記両界磁マグネット間に形成される空隙内に配設された可動コイル組立体を備え、
前記可動コイル組立体は、前記空隙内の中央に前記スライド方向と平行に延びる断面略矩形の平板状の鉄心、及び前記鉄心を芯にして前記鉄心の周りに前記スライド方向と交差する面内において巻回して固着された前記スライド方向に連接して複数組でなる3相の電機子コイルからなり、
一組の前記電機子コイルは、前記界磁マグネットの一つの前記磁極の前記スライド方向に延びる磁極幅と等しい前記スライド方向の長さを有し、
前記鉄心によるコギングを緩和するために、前記鉄心は、前記電機子コイルの前記スライド方向の総和の長さより長く且つ略前記界磁マグネットを構成する前記磁極の前記磁極幅の倍数に前記磁極幅の半分を加えた長さに等しい前記スライド方向の長さを有し、前記鉄心の両端が前記支柱に固着され、さらに、前記界磁マグネットを構成する前記磁極は、前記空隙側に面した隣接する磁極間のそれぞれの角部において面取りが施されており、
前記界磁マグネットが生じさせる磁束と前記電機子コイルに流れる電流との電磁相互作用により前記テーブルを前記ベッドに対して移動可能に構成したことから成る可動コイル型リニアモータを内蔵したスライド装置。」
と補正された。
上記補正は、実質的に請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ベッド」及び「テーブル」をそれぞれ「長尺で且つ矩形板状でなる」ベッド、及び「矩形平板状でなる」テーブルと限定するものであって、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
(2-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-196561号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「【0007】リニアモータはリニアモータの可動子組立1とリニアモータの固定子組立2を含んでいる。…(中略)…通常この可動子組立1の上には図示しないワークが配置され、そのワークの搬送のために用いられたり、ワークが移動中に処理されたりする種々の工業的な用途に利用可能である。」
・「【0008】図1に示されているようにリニアモータの可動子組立1の可動部上板10の前後には前板11と後板12が設けられている。それぞれ前板11と後板12の片面はベアリング34,35を介して固定子組立2のれぞれのレール21,22の上に滑動可能に支持されている。可動部上板10の下面にコイルケース支柱16が垂直に固定されており、この支柱16によりコイルケース15が前記可動部上板10に平行になるように支持されている。このコイルケース15にはコイル14が収容されている。コイルは略矩形状に捲かれた1または複数相の捲線から構成され図1において紙面の左右方向のコイルに流れる電流に後述する磁束が作用して紙面の前後方向(図2の矢印Pの方向)の駆動力が発生させられる。」
・「【0009】固定子組立の基板20には図1,2に示すように固定子側のヨークを形成するステータヨーク板25,26,27が設けられている。ステータヨーク板25には磁石27a,27b,27cが、ステータヨーク板26にはこれに対応して磁石28a,28b,28cが、設けられている。これらの磁石と前記コイルに流れる電流の作用(フレミングの左手の法則)により図2の矢印Pの示す方向の駆動力が発生する。」
また、図1、図2、図3及び図5には、以下のとおりの開示がある。
固定子側のヨークは、一対の対向しているステータヨーク板25,26と前記両ステータヨーク板25,26を一側端で連結するステータヨーク板27とからなる断面コ字状であり、基板20は、固定子側のヨークの一方のステータヨーク板26を載置して支持しており、またレール21、22が設けられているリニアモータを内蔵したワークの搬送のための装置。(図1)
固定子側のヨークの前記の対向しているステータヨーク板25,26の他側間に開口が形成され、ステータヨーク板25に設けられた磁石27a,27b,27cと、ステータヨーク板26に設けられた磁石28a,28b,28cとの間に形成されている空隙内にコイルケース15が配設されている。(図1及び図2)
前記コイルケース15は、前記空隙内の中央に配設され、前記開口側の前記コイルケース15の端部がコイルケース支柱16により支持されている。(図1)
一対の磁石27a,27b,27c,28a,28b,28cは、固定子側のヨークの前記一対の対向しているステータヨーク板25,26の内側対向面にそれぞれ前記可動部上板10の滑動方向に交互に磁性が異なる磁極が並設され且つ互いに対向する前記磁極を逆磁性としている。(図2)
コイルケース15には、複数のコイル14が収容されている。(図3)
基板20の形状は、板状であり、可動部上板10の形状は、矩形平板状である。(図1及び図5)

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「一対の対向しているステータヨーク板25,26と前記両ステータヨーク板25,26を一側端で連結するステータヨーク板27とから成る断面コ字状の固定子側のヨークの一方のステータヨーク板26を載置して支持する板状でなる基板20、前記基板20に、前板11、後板12、ベアリング34,35、及びレール21,22からなるものを介して滑動自在に設けられた矩形平板状でなる可動部上板10、前記固定子側のヨークの前記一対の対向しているステータヨーク板25,26の内側対向面にそれぞれ前記可動部上板10の滑動方向に交互に磁性が異なる磁極が並設され且つ互いに対向する前記磁極を逆磁性とした一対の磁石27a,27b,27c,28a,28b,28c、並びに固定子側のヨークの前記の対向しているステータヨーク板25,26の他側間に形成されている開口を通じて前記可動部上板10から延びるコイルケース支柱16に支持され且つ磁石27a,27b,27cと、磁石28a,28b,28cとの間に形成される空隙内に配設されたコイルケース15を備え、
前記コイルケース15は、前記空隙内の中央に複数相の捲線から構成されたコイル14を収容してなり、
前記コイルケース15の前記開口側の端部が前記コイルケース支柱16に支持され、前記磁石27a,27b,27c,28a,28b,28cが生じさせる磁束と前記コイル14に流れる電流との相互作用により前記可動部上板10を前記基板20に対して移動可能に構成したことから成るリニアモータを内蔵したワークの搬送のための装置。」

(2-2)引用例2
同じく引用された特開昭59-6767号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「互いに隣り同士が異極となるようにN,Sの磁極を長手方向に交互に有するp(pは2以上の正の整数)極の界磁マグネット一対を間隙を介して同極同士を対向配設し、該一対の界磁マグネットによって形成された間隙に駆動コイル巻装体を直線的走行自在に介在させ、該巻装体に適宜間隙有して第一及び第二の推力に寄与する導体部を巻回形成し、該第一及び第二の推力に寄与する導体部を接続して一個の駆動コイルを形成し、該駆動コイル1個以上を上記巻装体に装備し、上記一対の界磁マグネット側又は駆動コイルを装備した巻装体のいずれか一方を固定子とし、他方を相対的直線移動をなす移動子としたことを特徴とするリニアモータ。」(1頁左欄5ないし18行)」
・「強い推力を得ることができようにしたリニアモータを得ることを目的としてなされたものである。」(3頁左上欄2ないし4行)
・「7は本発明のリニアモータ、8,9はリニアモータ7の本体を形成するための磁性体で形成されたヨークで、このヨーク8,9によって縦断面矩形枠状のものにリニアモータ本体を形成している。10,10’はヨーク8,9の内面それぞれに固設された長板状の界磁マグネット」(3頁右上欄7ないし12行)
・「18a,18bは上記巻装体12に断面枠状に巻回形成された推力に寄与する導体部」(3頁左下欄12ないし14行)
・「本発明リニアモータによると、滑らかで強い推力を有する従来にないリニアモータを安価に量産できるという効果を有する。」(5頁左下欄15ないし17行)
また、図3ないし図6には、以下のとおりの開示がある。
駆動コイル巻装体12は、一対の界磁マグネット10,10’の間隙内の中央に配置され、その形状は走行方向と平行に延びる断面略矩形状の長板状であり、駆動コイル18は、前記駆動コイル巻装体12を芯にして前記駆動コイル巻装体12の周りに前記走行方向と交差する面内において巻回して固着された複数組でなっている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「一対の界磁マグネット10,10’の間隙内の中央に走行方向と平行に延びる断面略矩形状の長板状の駆動コイル巻装体12と、前記駆動コイル巻装体12を芯にして前記駆動コイル巻装体12の周りに前記走行方向と交差する面内において巻回して固着された複数組でなる駆動コイル18とからなる移動子、及びヨーク8,9の内面にそれぞれ移動子の走行方向に交互に磁性が異なる磁極が並設され且つ互いに対向する前記磁極を同磁性とした一対の界磁マグネット10,10’とからなるリニアモータ。」

(2-3)引用例3
同じく引用された特開昭62-254681号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「ボビンと前記ボビンに巻かれている互いに独立した複数のコイルの組からなる可動部とを備え」(1頁左欄11ないし13行)
・「12はボビン、13a,13b,13cはボビン12に巻付けた高速移動用のコイル14a,14b,14cはボビン12に巻付けた微小位置決め用のコイル、?(中略)?17は3相コイル13a?13cの切換回路、?(中略)?19は3相コイル14a?14cの切換回路」(2頁左下欄6ないし14行)
・「リニア直流モータは、アウタヨーク9、永久磁石10センタヨーク11からなる磁気回路と、この回路中のギャップに挿入されたコイル13a?13c又はコイル14a?14cに供給される電流との相互作用によりコイル13a?13cが長手方向に推力を発生してボビン12を駆動するものである。」(2頁左下欄16行ないし右下欄2行)
また、図2には、以下のとおりの開示がある。
コイルは、長手方向に連接して複数組からなっており、一組のコイルは、永久磁石10の一つの磁極の長手方向に延びる磁極幅と等しい前記長手方向の長さを有している。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例3には、次の事項が記載されているものと認められる。
「可動部は、推力の発生する長手方向に連接して複数組でなる3相のコイルからなり、一組のコイルは、永久磁石10の一つの磁極の推力の発生する前記長手方向に延びる磁極幅と等しい前記推力の発生する前記長手方向の長さを有しているリニア直流モータ。」

(2-4)引用例4
同じく引用された実願平2-96268号(実開平4-54481号)のマイクロフィルム(以下、「引用例4」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「交互に異極になるように複数個の平板状の永久磁石を直線上に配列して構成した界磁極と、前記永久磁石の磁極面に空隙を介して対向する凸極を設けた電機子コアと、前記凸極に巻回された電機子巻線と、前記電機子コアの両端にそれぞれを設けられた補助磁極とを備えた直線運動電動機において、前記補助磁極の中心間の距離を前記界磁極のピッチの(2m-1)/2倍(ただしmは正の整数)としたことを特徴とする直線運動電動機。」(1頁5ないし14行)
・「本考案は、界磁極のピッチと補助凸極の間隔の長さを所定の関係に設定することにより、コギング推力を低下させることを目的とするものである。」(2頁19行ないし3頁1行)
・「界磁極の極ピッチをτとした」(7頁8行)
・「補助磁極23および23’に作用するコギング推力F_(1)、F_(2)は第3図(a)、(b)に示すように位相がほぼτ/2ずれて、その合成力F_(τ)は第3図(c)に示すように微小な振幅となり、補助磁極23、23’の中心間の距離を、(2m-1)τ/2以外の値にした場合、例えばm・τまたは(m+1)τに設定した場合に比較してきわめて小さくなる。」(7頁11ないし18行)
また、図1には、以下のとおりの開示がある。
電機子コア2は、電機子巻線3の直線運動電動機のスライド方向の総和より長いものである。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例4には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されているものと認められる。
「電機子コア2によるコギングを小さくするために、前記電機子コア2は、電機子巻線3の直線運動電動機のスライド方向の総和より長く且つ永久磁石を構成する界磁極のピッチの倍数から前記界磁極のピッチの半分を減じた長さに等しい前記スライド方向の長さを有する直線運動電動機。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明1とを対比すると、
後者における「対向しているステータヨーク板25,26」は、その構造、機能、作用等からみて、前者における「対向部」に相当し、以下同様に、「ステータヨーク板27」は、「側部連結部」に、「固定子側のヨーク」は、「マグネットヨーク」に、「基板20」は、「ベッド」に、「前板11、後板12、ベアリング34,35、及びレール21,22からなるもの」は、「直動案内ユニット」に、「滑動自在」は、「スライド自在」に、「可動部上板10」は、「テーブル」に、「滑動方向」は、「スライド方向」に、「磁石27a,27b,27c、28a,28b,28c」は、「界磁マグネット」に、「コイルケース支柱16」は、「支柱」に、「コイル14」は、「電機子コイル」に、コイルケース15は、コイル14を「収容してなり」は、可動コイル組立体は、電機子コイル「からなり」に、「相互作用」は、「電磁相互作用」に、「リニアモータ」は、「可動コイル型リニアモータ」に、「ワークの搬送のための装置」は、「スライド装置」に、それぞれ相当する。
また、後者の「コイルケース15」の構成と前者の「可動コイル組立体」の構成とは、「可動コイル部品」である点で共通する。
したがって、両者は、
「一対の対向部と前記両対向部を一側端で連結する側部連結部とから成る断面コ字状のマグネットヨークの一方の前記対向部を載置して支持する板状でなるベッド、前記ベッドに直動案内ユニットを介してスライド自在に設けられた矩形平板状でなるテーブル、前記マグネットヨークの前記両対向部の内側対向面にそれぞれ前記テーブルのスライド方向に交互に磁性が異なる磁極が並設された一対の界磁マグネット、及び前記マグネットヨークの前記両対向部の他側間に形成されている開口を通して前記テーブルから延びる支柱に支持され且つ前記両界磁マグネット間に形成される空隙内に配設された可動コイル部品を備え、
前記可動コイル部品は、前記空隙内の中央に、電機子コイルからなり、
前記界磁マグネットが生じさせる磁束と前記電機子コイルに流れる電流との電磁相互作用により前記テーブルを前記ベッドに対して移動可能に構成したことから成る可動コイル型リニアモータを内蔵したスライド装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
ベッドの形状を、本願補正発明は、「長尺で且つ矩形」板状でなるベッドとしたのに対し、引用発明1では、板状でなる基板20としたのみでその他について特定がされていない点。
[相違点2]
一対の界磁マグネットの互いに対向する磁極を、本願補正発明は、「同磁性」としたのに対し、引用発明1では、「逆磁性」とした点。
[相違点3]
可動コイル部品が、本願補正発明では、「可動コイル組立体」であり、その「可動コイル組立体が、空隙内の中央にスライド方向と平行に延びる断面略矩形の平板状の鉄心、及び前記鉄心を芯にして前記鉄心の周りに前記スライド方向と交差する面内において巻回して固着された」電機子コイルからなるのに対し、引用発明1では、コイルケース15であり、そのコイルケース15が、コイル14を収容しているのみでその他については特定がされていない点。
[相違点4]
可動コイル部品の電機子コイルが、本願補正発明では、「スライド方向に連接して複数組でなる3相の」電機子コイルからなり、「一組の前記電機子コイルは、界磁マグネットの一つの磁極の前記スライド方向に延びる磁極幅と等しい前記スライド方向の長さを有し」ているのに対し、引用発明1では、コイル14が、複数相の捲線でなるのみでその他について特定がされていない点。
[相違点5]
本願補正発明は、「鉄心によるコギングを緩和するために、前記鉄心は、電機子コイルのスライド方向の総和の長さより長く且つ略界磁マグネットを構成する磁極の磁極幅の倍数に前記磁極幅の半分を加えた長さに等しい前記スライド方向の長さを有し」ているのに対し、引用発明1では、そのような特定がされていない点。
[相違点6]
本願補正発明は、「鉄心の両端が支柱に固着され」ているのに対し、引用発明1では、「コイルケース15の開口側の端部が支柱16に支持され」ている点。
[相違点7]
本願補正発明は、「界磁マグネットを構成する磁極は、空隙側に面した隣接する磁極間のそれぞれの角部において面取りが施されてお」るのに対し、引用発明1では、そのような特定がされていない点。

(4)判断
上記相違点について以下検討する。
(4-1)相違点1について
引用発明1において、基板20(本願補正発明の「ベッド」に相当。)は、その上にレール21,22を支持するものであり、レール21,22の長さは、可動部材(可動子組立1)の移動範囲に応じて適宜定め得るものと解されるから、基板20をどのような形状にするかは、当業者において、所望により適宜選択し得る程度の設計的事項に過ぎない。
したがって、引用発明1において、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。また、作用効果も格別顕著なものではない。

(4-2)相違点2、及び3について
上記(2-2)のとおり、引用発明2は、「空隙(引用発明2の「一対の界磁マグネットの間隙」に相当。)内の中央にスライド方向(同じく「走行方向」に相当。)と平行に延びる断面略矩形状の平板状(同じく「長板状」に相当。)の鉄心(同じく「駆動コイル巻装体12」に相当。)と、前記鉄心を芯にして前記鉄心の周りに前記スライド方向と交差する面内において巻回して固着された複数組でなる電機子コイル(同じく「駆動コイル18」に相当。)とからなる可動コイル組立体(同じく「移動子」に相当。)、及びマグネットヨークの両対向部の内側対向面(同じく「ヨーク8,9の内面」に相当。)にそれぞれテーブルのスライド方向(同じく「移動子の走行方向」に相当。)に交互に磁性が異なる磁極が並設され且つ互いに対向する前記磁極を同磁性とした一対の界磁マグネットとからなる可動コイル型リニアモータ(同じく「リニアモータ」に相当。)。」を備えている。
してみると、上記相違点2、及び3に係る構成は、引用発明2に備えられている。
また、引用発明1と引用発明2とは、可動コイル型リニアモータという同一の技術分野に属し、リニアモータにおいて「高い推進力を得る」という課題は、一般的な課題、つまりリニアモータの構成を考える際の自明な課題に過ぎず、引用発明2においても、引用発明1と共通する「高い推進力を得る」という課題を有しており、しかも、引用発明1に引用発明2を適用するにあたって、その適用を妨げるような格別の事情を認めることはできない。
したがって、引用発明1において、引用発明2を適用することにより、相違点2、及び3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。また、作用効果も格別顕著なものではない。

(4-3)相違点4について
電機子コイルが、スライド方向に連接して複数組でなる3相の電機子コイルからなり、一組の前記電機子コイルは、界磁マグネットの一つの磁極の前記スライド方向に延びる磁極幅と等しい前記スライド方向の長さを有するようにすることは、例えば引用例3(引用例3における「可動部」は、その構造、機能、作用等からみて、それぞれ本願補正発明における「可動コイル組立体」に相当し、以下同様に、「推力の発生する長手方向」は、「スライド方向」に、「コイル」は、「電機子コイル」に、「永久磁石10」は、「界磁マグネット」に、「リニア直流モータ」は、「可動コイル型リニアモータ」に、それぞれ相当する。)に示されるように、リニアモータにおいて常套手段であるから、引用発明1において、上記常套手段を採用することにより、相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が所望により適宜選択を為し得る程度の設計的事項であり、作用効果も格別顕著なものではない。

(4-4)相違点5について
上記(2-4)のとおり、引用発明4は、「鉄心(引用発明4の「電機子コア2」に相当。)によるコギングを小さくするために、前記鉄心は、電機子コイル(同じく「電機子巻線3」に相当。)の可動コイル型リニアモータ(同じく「直線運動電動機」に相当。)のスライド方向の総和より長く且つ界磁マグネット(同じく「永久磁石」に相当。)を構成する磁極の磁極幅(同じく「界磁極のピッチ」に相当。)の倍数から前記磁極の磁極幅の半分を減じた長さに等しい前記スライド方向の長さを有する可動コイル型リニアモータ。」を備えている。
してみると、引用発明4は、鉄心によるコギングを緩和するために、鉄心は、電機子コイルのスライド方向の総和より長く、且つ「界磁マグネットを構成する前記磁極の前記磁極幅の倍数から前記磁極幅の半分を減じた長さ」としていることになるが、ここでいう「倍数」とは任意の整数であるから、これは「界磁マグネットを構成する前記磁極の前記磁極幅の倍数に前記磁極幅の半分を加えた長さ」と言い換えることが可能である。
そうすると、上記相違点5に係る構成は、引用発明4に備えられているといえる。
また、引用発明1と引用発明4は、可動コイル型リニアモータという同一の技術分野に属し、リニアモータにおいて「コギングの緩和」という課題は、一般的な課題、つまりリニアモータの構成を考える際の自明な課題に過ぎず、引用発明4においても、引用発明1と共通する「コギングの緩和」という課題を有しており、しかも、引用発明1に引用発明4を適用するにあたって、その適用を妨げるような格別の事情を認めることはできない。
したがって、引用発明1において、引用発明4を適用することにより、相違点5に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到できたものである。また、作用効果も格別顕著なものではない。

(4-5)相違点6について
引用発明1における「コイルケース支柱16に支持され」との態様は、本件補正発明における「支柱に固着され」との態様に相当する。
そして、支柱に鉄心を支持(固着)するにあたって、鉄心においてどの部位を支持(固着)させるかは、当業者において、適宜容易に選択を為し得る程度の設計的事項であるから、引用発明1において、相違点6に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。また、作用効果も格別顕著なものではない。

(4-6)相違点7について
リニアモータにおいて、滑らかに稼働させることは、一般的課題といえる。
そして、リニアモータにおいて、隣接する磁界の強さを減少させ、理想的な磁束強さの分布を得られ、滑らかに可動させるために、界磁マグネットを構成する磁極に、電機子コイル側(空隙側)に面した隣接する磁極間のそれぞれの角部において面取りを施すことは、周知の技術事項(例えば、特開平10-52024号公報、特開平4-165953号公報参照。)である。
したがって、引用発明1において、上記周知の技術事項を適用することにより、相違点7に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。また、作用効果も格別顕著なものではない。

そして、本願補正発明の全体構成によって奏される効果も、引用発明1、引用発明2、引用発明4、上記常套手段、及び上記周知の技術事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。

よって、本願補正発明は、引用発明1、引用発明2、引用発明4、上記常套手段、及び上記周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおりであって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願の発明について
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成19年4月16日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「一対の対向部と前記両対向部を一側端で連結する側部連結部とから成る断面コ字状のマグネットヨークの一方の前記対向部を載置して支持するベッド、前記ベッドに直動案内ユニットを介してスライド自在に設けられたテーブル、前記マグネットヨークの前記両対向部の内側対向面にそれぞれ前記テーブルのスライド方向に交互に磁性が異なる磁極が並設され且つ互いに対向する前記磁極を同磁性とした一対の界磁マグネット、及び前記マグネットヨークの前記両対向部の他側間に形成されている開口を通して前記テーブルから延びる支柱に支持され且つ前記両界磁マグネット間に形成される空隙内に配設された可動コイル組立体を備え、
前記可動コイル組立体は、前記支柱に固着され且つ前記空隙内の中央に前記スライド方向と平行に延びる断面略矩形の平板状の鉄心、及び前記鉄心を芯にして前記鉄心の周りに前記スライド方向と交差する面内において巻回して固着された前記スライド方向に連接して複数組でなる3相の電機子コイルからなり、
一組の前記電機子コイルは、前記界磁マグネットの一つの前記磁極の前記スライド方向に延びる磁極幅と等しい前記スライド方向の長さを有し、
前記鉄心は、前記電機子コイルの前記スライド方向の総和の長さより長く且つ略前記界磁マグネットを構成する前記磁極の前記磁極幅の倍数に前記磁極幅の半分を加えた長さに等しい前記スライド方向の長さを有し、前記鉄心の両端が前記支柱に固着され、
前記界磁マグネットを構成する前記磁極は、前記空隙側に面した隣接する磁極間のそれぞれの角部において面取りが施されており、
前記界磁マグネットが生じさせる磁束と前記電機子コイルに流れる電流との電磁相互作用により前記テーブルを前記ベッドに対して移動可能に構成したことから成る可動コイル型リニアモータを内蔵したスライド装置。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及び、その記載内容は、上記「2.(2)引用例」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、実質的に上記「2.(1)補正後の本願の発明」で検討した本願補正発明の「ベッド」について「長尺で且つ矩形板状でなる」、また「テーブル」について「矩形平板状でなる」との限定等を省いたものである。

そうすると、本願発明を特定する事項の全てを含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「2.(3)対比」及び「2.(4)判断」に記載したとおり、引用発明1、引用発明2、引用発明4、上記常套手段、及び上記周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1、引用発明2、引用発明4、上記常套手段、及び上記周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-13 
結審通知日 2009-05-19 
審決日 2009-06-02 
出願番号 特願2000-249951(P2000-249951)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
P 1 8・ 575- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 當間 庸裕米山 毅牧 初  
特許庁審判長 田良島 潔
特許庁審判官 小川 恭司
黒瀬 雅一
発明の名称 可動コイル型リニアモータを内蔵したスライド装置  
代理人 尾仲 一宗  

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