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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1201214
審判番号 不服2008-20926  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-14 
確定日 2009-07-23 
事件の表示 平成10年特許願第149780号「リニアガイドのストッパ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月14日出願公開、特開平11-344032〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年5月29日の出願であって、平成20年7月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年8月14日に審判請求がなされるとともに、平成20年9月12日付けで手続補正がなされたものである。

2.補正後の本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年5月17日付け手続補正、平成20年6月12日付け手続補正、及び平成20年9月12日付け手続補正により補正された明細書、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】 両側面に軸方向の転動体転動溝を有する案内レールと、該案内レール上に移動可能に遊嵌されると共に案内レールの転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有するスライダとを備え、前記互いに相対する両転動体転動溝内に嵌合された多数の転動体の転動を介してスライダと案内レールとが軸方向相対移動可能とされたリニアガイドにおける前記案内レールに装着して前記スライダの移動を規制するリニアガイドのストッパ装置であって、
断面ほぼC字状に形成されて、その両端部に前記案内レールの両側面の転動体転動溝に係合する引掛り部を有すると共に、中央部にねじ孔を有するストッパ部材と、該ストッパ部材の前記ねじ孔に螺合した締付けボルトとでストッパ本体を構成し、且つ前記ストッパ本体のねじ孔に螺合した締付けボルトの先端が当接する前記案内レールの上面には凹凸形状を有する粗面からなる係止部を設け、前記ストッパ部材を前記案内レールにその上面を跨いで取り付け、前記締付けボルトの先端を案内レールの前記係止部に係止せしめて装着することを特徴とするリニアガイドのストッパ装置。」
なお、審判請求に伴う平成20年9月12日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)による特許請求の範囲の補正について、審判請求の理由において「(2)当該補正は、審査官殿の原査定での認定において、その認定に誤認があるものと思料される点に係る記載を明瞭にする補正であります。つまり、今般補正は、平成20年6月12日付けで提出の手続補正書に記載された請求項1に記載の、文言の修飾関係の記載順序のみを修正するものであって、「案内レールの上面に凹凸形状の粗面を設けている点」をより明瞭としており、実質的な変更はありません。」と説明している。その趣旨が必ずしも明らかではないが、その説明に鑑みて、特許請求の範囲は実質的に補正されていないもの、ないし本件補正による特許請求の範囲の補正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認める。

3.本願発明について
(1)本願発明
本願発明は、上記2.に記載したとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開平5-60130号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、トラックレールに跨架されて前後進する直動転がり案内ユニットが、精密工作機械,各種試験装置等に組み付けられるまでの、格納,運搬等の過程で、トラックレールから滑落することのないよう、該トラックレールに装着するストッパの改良に関する。
【0002】
【従来の技術】トラックレールに跨架されている直動転がり案内ユニットが、工作機械とか検査装置等へ組み付けられる前に、該トラックレールから滑落するのを防止するストッパとしては、既に、実公昭62ー8432号公報とか、特開平2ー300517号公報に開示されるものが存する。
【0003】
前記実公昭62ー8432号公報に示されるものは、ストッパ本体中央の凹所の天井面に位置決め突起を設け、この位置決め突起をトラックレールの頂面に形成した係止溝に係止させる構造であり、このストッパを適用するトラックレールには専用の係止溝を削設しなければならず、ストッパとしての汎用性に欠ける点に問題がある。
【0004】また特開平2ー300517号公報に示されるものは、ストッパ本体中央のねじ孔にねじ込んだねじ部材の先端でトラックレール頂面を押圧し、この押圧による反力でストッパを軌道溝に係止させるものであり、強い係止力を発揮させようとすると、トラックレール頂面を疵つける恐れがある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、トラックレール両側面の軌道溝から上部の断面形状が同一であり、トラックレールの頂面に固定用のボルト穴が開口しているトラックレールであれば、いずれのトラックレールにも共通して使用でき、しかもトラックレールの頂面を疵つけることのない直動転がり案内ユニットのストッパを提供することを課題としている。」
以上の記載事項(特に段落【0004】)及び図面からみて、引用例1には、下記の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「両側面に軸方向の転動体転動溝を有するトラックレールと、該トラックレール上に移動可能に遊嵌されると共にトラックレールの転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有する直動転がり案内ユニットとを備え、前記互いに相対する両転動体転動溝内に嵌合された多数の転動体の転動を介して直動転がり案内ユニットとトラックレールとが軸方向相対移動可能とされたリニアガイドにおける前記トラックレールに装着して前記直動転がり案内ユニットの移動を規制するリニアガイドのストッパ装置であって、
断面ほぼC字状に形成されて、その両端部に前記トラックレールの両側面の転動体転動溝に係合する引掛り部を有すると共に、中央部にねじ孔を有するストッパ部材と、該ストッパ部材の前記ねじ孔に螺合したねじ部材とでストッパ本体を構成し、前記ストッパ部材を前記トラックレールにその上面を跨いで取り付け、前記ねじ部材の先端をトラックレールの上面に押圧せしめて装着するリニアガイドのストッパ装置。」
なお、従来技術について説明した引用例1の段落【0004】には「強い係止力を発揮させようとすると、トラックレール頂面を疵つける恐れがある。」と記載されており、これに対応して引用例1には「トラックレールの頂面を疵つけることのない直動転がり案内ユニットのストッパ」が開示されている。しかし、(a)段落【0004】に説明されている従来技術が公知であること、(b)「トラックレール頂面を疵つける恐れがある。」としても、例えばストッパ部材をトラックレールの最端部に取り付けて使用する場合、その最端部には通常スライダが摺動しないのであるから、そこに疵があっても直動転がり案内ユニットとしての本来の作用に格別の支障はなく、そのような課題が技術的にみて普遍的で必須のものであるとは考えられないこと、(c)ストッパ部材の構造や取付け態様は、上記課題のほか、構造・製作の簡素性や作業性等を考慮して適宜設計する事項であり、上記従来技術を採用することが絶対・無条件にあり得ないとまではいえないこと、等の事情からみて、引用例1の記載から1つの発明として上記の引用例1発明を把握し得ることは明らかである。
(3)対比
本願発明と引用例1発明とを比較すると、引用例1発明の「直動転がり案内ユニット」は本願発明の「スライダ」に、「ねじ部材」は「締付けボルト」に、「トラックレール」は「案内レール」にそれぞれ相当する。
したがって、本願発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「両側面に軸方向の転動体転動溝を有する案内レールと、該案内レール上に移動可能に遊嵌されると共に案内レールの転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有するスライダとを備え、前記互いに相対する両転動体転動溝内に嵌合された多数の転動体の転動を介してスライダと案内レールとが軸方向相対移動可能とされたリニアガイドにおける前記案内レールに装着して前記スライダの移動を規制するリニアガイドのストッパ装置であって、
断面ほぼC字状に形成されて、その両端部に前記案内レールの両側面の転動体転動溝に係合する引掛り部を有すると共に、中央部にねじ孔を有するストッパ部材と、該ストッパ部材の前記ねじ孔に螺合した締付けボルトとでストッパ本体を構成し、前記ストッパ部材を前記案内レールにその上面を跨いで取り付けることを特徴とするリニアガイドのストッパ装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願発明は、「前記ストッパ本体のねじ孔に螺合した締付けボルトの先端が当接する前記案内レールの上面には凹凸形状を有する粗面からなる係止部を設け」、「前記締付けボルトの先端を案内レールの前記係止部に係止せしめて装着する」のに対し、引用例1発明は、「前記ねじ部材の先端をトラックレールの上面に押圧せしめて装着する」ものである点。
(4)判断
[相違点1]について
引用例1発明のストッパ部材がストッパとしての機能を十分に維持・確保ないし向上するためには、ねじ部材の先端でトラックレール頂面を押圧したとき、ねじ部材の先端とトラックレールの頂面との間に相応の摩擦力が発生するようにすることが必要であることは明らかであるとともに、そのために例えばどのような形状・構造とするかは所要のストッパ機能に応じて適宜設計する事項にすぎない。
ここで、一般に、ねじ部材とねじ部材が当接する相手方部材との間の摩擦力を大きくするためにその当接面を粗面とすることが望ましいことは、例えば実願平2-99061号(実開平4-56908号)のマイクロフィルム(特に明細書第3頁第4?19行)に示されているように、当業者に明らかである。
引用例1発明のねじ部材の先端が押圧するトラックレール頂面の部位を粗面とすることは、上記の適宜の設計として当業者が容易に想到し得たものと認められる。
本願発明の奏する作用効果も、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が予測できる程度のものである。

なお、審判請求の理由において、
「(4)しかし、「周知技術」とは、その技術分野において一般的に知られている技術であって、例えば、これに関し、相当多数の公知文献が存在し、又は業界に知れわたり、あるいは、例示する必要がない程よく知られている技術をいう、とするところであります。
この点について検討するに、本願請求項1に記載のリニアガイドのストッパ装置において、案内レールの上面に形成されてストッパ本体のねじ孔に螺合した締付けボルトの先端が直接当接する係止部を、「周知技術」と認定するのであるならば、リニアガイドのストッパ装置(その技術分野)において一般的に知られている技術であって、例えば、リニアガイドのストッパ装置(これ)に関し、相当多数の公知文献が存在し、又は業界に知れわたり、あるいは、例示する必要がない程よく知られている技術である場合に限って認定され得るものであると思料いたします。
つまり、審査官殿の援用された引用例2(相当多数の公知文献のうちの一に相当)に記載の技術は、ユニット用軸受の止めねじの先端にギザ面を設けるものであって、リニアガイドのストッパ装置に係る技術ではなく、さらに、リニアガイドの案内レールのような長尺な部材を想定する技術でもありません。ましてや、ストッパ本体のねじ孔に螺合した締付けボルトの先端が当接する係止部が案内レールの上面に形成されてなる構成において、この案内レールの上面に形成された係止部を、凹凸形状を有する粗面からなる構成とし、これにより、機械加工が困難となる長尺の案内レールに対しても容易に大きな固定力の確保を可能とする技術でもありません。そのため、例示された引用例2は、本願発明が開示された公知文献とはいえませんし、ましてや引用例2に開示される技術が本願発明の係止部に係る周知技術であるとは到底いえません。
(5)すなわち、審査官殿の、引用例2を援用した周知技術との認定が誤りであるのは勿論、その誤認に基づく「周知技術」を、本願発明の、「ストッパ本体のねじ孔に螺合した締付けボルトの先端が当接する係止部が案内レールの上面に形成されており、この案内レールの上面に形成された係止部が凹凸形状を有する粗面からなる」という技術的思想における係止部に適用することには理由がありません。さらに、上記検討からも明らかなように、これら引用例1,2に、本願発明の技術的思想が開示されているとの認定もなし得るものではない以上、本願発明は、これらの引用文献に記載されたものでもないし、これら引用例1,2に記載の技術のみに基づいて、容易に想到されるものでもないのですから、当業者が引用例1、2だけを見て本願発明に想到するのは極めて困難です。」(なお、ここでの「引用例2」は上記の「[相違点1]について」で挙げた文献のことである。)と主張している。
確かに、「引用例2」が「リニアガイドのストッパ装置」に係る技術でないことはそのとおりであるが、技術分野にかかわらず一般に、ねじ部材とねじ部材が当接する相手方部材との間の摩擦力を大きくするためにその当接面を粗面とすることが望ましいことは当業者に明らかであること、引用例1発明のねじ部材の先端が押圧するトラックレール頂面の部位を粗面とすることは当業者が容易に想到し得たものと認められること、は上述のとおりである。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-20 
結審通知日 2009-05-26 
審決日 2009-06-08 
出願番号 特願平10-149780
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関口 勇  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 岩谷 一臣
村本 佳史
発明の名称 リニアガイドのストッパ装置  
代理人 内藤 嘉昭  
代理人 崔 秀▲てつ▼  
代理人 森 哲也  

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