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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正しない A63B
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正しない A63B
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正しない A63B
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない A63B
管理番号 1201281
審判番号 訂正2007-390143  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2007-12-21 
確定日 2009-07-23 
事件の表示 特許第3474793号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成11年1月20日 本件出願(特願平11-11325号)

平成12年7月25日 出願公開(特開2000-202080号)

平成15年9月19日 設定登録(特許第3474793号:以下、「本件特許」という。請求項の数は7である。)

平成18年11月30日 本件特許に対する無効審判請求(無効2006-80252号)

平成19年9月28日(起案日) 無効2006-80252号審決(本件特許の請求項1?7に係る発明についての特許を無効とする。)

平成19年11月2日(出訴日) 東京高等裁判所出訴(平成19年(行ケ)第10375号)

平成19年12月21日 本件訂正審判請求

平成20年1月23日(起案日) 訂正拒絶理由通知

平成20年2月19日 特許法第17条の4第2項の規定に基づく手続補正書(訂正請求書)の提出

平成20年2月25日 意見書の提出

第2 請求の要旨
本件審判請求の要旨は、「特許第3474793号の明細書を請求書に添付した明細書のとおり訂正することを認める。との審決を求める。」というもので、請求書の「6.請求の理由(3)訂正の要旨」欄には、以下の訂正事項a?cが記載されている。

a.特許請求の範囲の請求項1中の「バット本体がガラス繊維強化プラスチックやカーボン繊維強化プラスチック等の繊維強化プラスチック素材で構成されている野球又はソフトボール用のFRP製バットにおいて」を、「バット本体がガラス繊維強化プラスチックやカーボン繊維強化プラスチック等の層の積層体である繊維強化プラスチック素材で構成されている野球又はソフトボール用のFRP製バットにおいて」と訂正する。

b.特許請求の範囲の請求項1中の「前記繊維強化プラスチック素材の層間に接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設けた」を、「離型性を有するフィルムを前記繊維強化プラスチック素材の内部の特定の層と層との間にこれらの層と接して重なるようにして前記層と層との間の接着を阻害する接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設けた」と訂正する。

c.特許請求の範囲の請求項5乃至7を削除する。

第3 訂正拒絶理由の概要
平成20年1月23日付け訂正拒絶理由の概要は次のとおりである。

(1)訂正事項cは、請求項を削除するものであり、請求人が主張するように、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認める。

(2)訂正事項bは、「離型性を有するフィルム」との記載を除いて、訂正前請求項1に記載された発明特定事項を限定しているとも、明りょうにしているともいえないものの、全体として、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認める。

(3)訂正事項aは、特許法第126条第1項ただし書第1?3号に掲げられたいずれの事項を目的とするものとも認められない。

(4)上記のように、本件訂正には、訂正事項として不適なものが含まれている(訂正事項aが該当)が、訂正事項bが、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められることから、訂正全体として特許請求の範囲の減縮を目的とするものと一応認めた上で、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものかを検討すると、訂正後の請求項1?4に係る発明は、引用例(米国特許第5415398号明細書)及び周知・慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)訂正審判請求書に添付された明細書を参酌すると、請求書の「6.請求の理由(3)訂正の要旨」欄に記載されている、訂正事項a?c以外にも、訂正前の明細書の記載が変更されており、その変更を仮に、訂正事項d?fとすると以下のものとなる。

d.特許請求の範囲の請求項3中の「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に1層だけ設けられた」を「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が1層だけ設けられた」と訂正するとともに「請求項1又は2記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット。」を「請求項1又は請求項2記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット。」と訂正する。

e.特許請求の範囲の請求項4中の「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に2層以上設けられた」を「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が2層以上設けられた」と訂正するとともに「請求項1又は2記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット。」を「請求項1又は請求項2記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット。」と訂正する。

f.本件明細書の【発明の詳細な説明】の段落【0001】、【0006】及び【0020】?【0024】中の「接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層」を、「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」と訂正するとともに、段落【0006】?【0015】、【0018】、【0019】、【0025】、【0026】、【0030】、【0031】、【図面の簡単な説明】の【図2】の説明、及び、【符号の説明】中の「接着阻害層であるWBL層」を「WBL層」と訂正する。

訂正事項d及びeは、訂正前請求項3及び4に記載されていた「繊維強化プラスチック素材の層間に」との記載を削除する訂正を含むものであり、特許請求の範囲を拡張又は変更するものと解され、訂正事項fも訂正前の明細書に記載されていた「接着阻害層である」との記載を削除(全てではないが)するものであるから、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものである蓋然性が高いものであり、さらに、訂正事項d及びeに含まれる、他の請求項を引用する引用記載部分の訂正は、いずれの訂正目的にも該当しないものである。

第4 平成20年2月25日付け意見書における請求人の主張の概要
請求人は、訂正目的について、訂正事項aは訂正前請求項1に記載された発明特定事項である「繊維強化プラスチック素材」を明確化したものであると主張し、訂正事項bは訂正前請求項1に記載された発明特定事項である「接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層」を単にフィルムを使った態様に限定しているだけでなく、その位置や、繊維強化プラスチック素材との接し方等を明確にしており、訂正事項bにおける「離型性を有するフィルム」との記載以外の訂正された記載も訂正前請求項1の発明特定事項を明確にしたものであると主張し、訂正目的を不適とした訂正拒絶理由には理由がないとしている。
また、訂正後の請求項1?4に係る発明についての独立特許要件について、添付資料1?5を提示して、引用発明と周知・慣用技術とに基づいて容易に発明をすることができたものではないことは極めて明確で、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるので、特許法第126条第5項の規定に違反していないと主張している。

第5 平成20年2月19日付け手続補正の適否について
平成20年1月23日付け訂正拒絶理由通知(上記「第3」に概要を記載)に対し、請求人は、平成20年2月19日付けで手続補正書(訂正審判請求書)を提出し、平成19年12日21日付け訂正審判請求書に添付した全文訂正明細書を補正しており、その具体的内容は、以下のとおりである。

(1)全文訂正明細書中の特許請求の範囲請求項3中の「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が1層だけ設けられた」を「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に1層だけ設けられた」と補正するとともに、「請求項1又は請求項2記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット」を「請求項1又は2記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット」と補正する。

(2)全文訂正明細書の特許請求の範囲請求項4中の「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が2層以上設けられた」を「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に2層以上設けられた」と補正するとともに、「請求項1又は請求項2記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット」を「請求項1又は2記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット」と補正する。

(3)全文訂正明細書の【発明の詳細な説明】の段落【0001】、【0006】及び【0020】?【0024】中の「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」を、「接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層」と補正するとともに、段落【0006】?【0015】、【0018】、【0019】、【0025】、【0026】、【0030】、【0031】、【図面の簡単な説明】の【図2】の説明、及び、【符号の説明】中の「WBL層」を「接着阻害層であるWBL層」と補正する。

そして、請求人は上記手続補正について、この補正は、平成20年1月23日付け訂正拒絶理由通知書で訂正事項d?fとして記載されている事項に関する補正であって、いずれも「誤記の訂正」を目的とするものである旨主張している。
しかしながら、特許法第126条第1項ただし書き第2号に掲げられた「誤記の訂正」とは、本来その意であることが、明細書又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句を正すことをいい、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいうのであり、補正前の訂正審判請求書に添付された全文訂正明細書の記載に照らして、上記の各補正が、そのような誤った記載を本来の意味に正す「誤記の訂正」を目的とした補正であるとは認められない。
また、請求人は、手続補正書の「5.補正の内容」欄において「請求人はこれらを訂正事項として主張していないことからも、請求人が全く意図していないものであることは明らかである。」(第3頁第2?4行)と主張しているが、上記「第3 (5)」の訂正事項d及びeは、出願当初から変更されていない記載をあえて変更しているものであって意図的であり、訂正事項fのように、出願当初の明細書に記載されておらず、審査段階での補正により加えられた記載を訂正明細書の作成作業を行う際に誤って落としてしまった、いわば錯誤によりなされたものとは認めることができない。
さらに、請求人が訂正審判請求書の「5.請求の趣旨」欄において、「特許第3474793号の明細書を請求書に添付した明細書のとおり訂正することを認める。との審決を求める。」と記載している以上は、訂正請求の適否は、添付された全文訂正明細書の記載に基づいて審理すべきものであるから、上記訂正事項d?fは、訂正審判請求書において訂正事項として記載がなくとも、訂正事項として取り扱うべきものである。
したがって、上記訂正審判請求書の手続補正を請求人の主張のような「誤記の訂正」を目的としたものとは認められない。
ただし、上記「第5 (1)?(3)」の補正は、訂正審判請求時になされた訂正事項d?fをなかったものとする補正であるから、訂正事項の削除に該当すると認めることとする。
よって、この訂正事項の削除は、請求書の要旨の変更をしないものとして許容し得る補正であることから、平成20年2月18日付け手続補正による訂正請求書(全文訂正明細書)の補正は適法なものと認める。

第6 訂正の適否について
以下において、「接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層」を「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」又は「WBL層」と記載することがある。

1.訂正事項a?cの訂正目的についての判断
(ア)訂正事項cは、請求項を削除するものであり、請求人が主張するように、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認める。

(イ)訂正事項aについて、請求人は、訂正審判請求書において「バット本体を構成する繊維強化プラスチック素材が、ガラス繊維強化プラスチックやカーボン繊維強化プラスチックなどの層の『積層体』であることを限定あるいは明確にしたものである」(第3頁第28行?第4頁第1行)と主張している。
しかしながら、訂正前請求項1には、「前記繊維強化プラスチック素材の層間に接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設けた」ものとして記載されているのだから、訂正前請求項1においてバット本体を構成する繊維強化プラスチック素材が「層の積層体」であることは明らかであり、訂正事項aの訂正目的は、請求人が主張するような訂正前の発明特定事項を限定したものにも明確化したものにも該当しない。

これに対し、請求人は意見書において「しかし、本件拒絶理由の述べるところはおよそ不明である。すなわち、『訂正前請求項1においてバット本体を構成する繊維強化プラスチック素材自体が「層の積層体」であることは明らか』というが、訂正事項aは、繊維強化プラスチック素材について、それが『層の積層体』であると明示し、その余の解釈を排除しているのであり、少なくとも明確にしていることは明白である。」(第3頁第9?13行)と反論している。
しかしながら、上記「その余の解釈」がどのようなものかについて明らかにしておらず、何を排除して明確化しているのかがまずもって不明である。
訂正前の請求項1では「バット本体がガラス繊維強化プラスチックやカーボン繊維強化プラスチック等の繊維強化プラスチック素材で構成されている」と記載され、「バット本体」が「繊維強化プラスチック素材」で構成されていることが特定されており、訂正前の請求項1の「前記繊維強化プラスチック素材の層間に接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設けた」との記載から、上記「バット本体」を構成する「繊維強化プラスチック素材」は「層間」を生じうるような複数の層からなる構造を備えたものであると解されることからして、訂正前の請求項1には「バット本体」を構成する「繊維強化プラスチック素材」が「積層体」であることが自明な事項として特定されていると解される。
言い換えれば、「バット本体」を構成する「繊維強化プラスチック素材」の中に「接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層」を設けたことで、少なくとも、その上下に「繊維強化プラスチック素材」からなる「層」が形成されていることは明らかであり、それらの上下の「層」はWBL層を含めて「積層体」であると把握できるものである。
したがって、「バット本体」を構成する「繊維強化プラスチック素材」が、「層の積層体」であることは、訂正前の請求項1の記載から明らかなことであって、請求人が主張する「その余の解釈」があるとは解せない。
また、請求人は「本件訂正事項aは、「層の積層体」との限定を「繊維強化プラスチック素材」に加えることにより、この「繊維強化プラスチック素材」が【0010】項及び【0011】項、【0028】項の表、更に図3及び図4に示されたように、複数のガラス繊維強化プラスチックやカーボン繊維強化プラスチック等の「層」すなわち同プラスチックのplyが貼り合わされて一体化された素材であることを明確にしているのであり、訂正前の発明特定事項を明確化したものである。」(意見書第3頁第14?19行)と反論し、「層の積層体」との記載により、「繊維強化プラスチック素材」が複数のガラス繊維強化プラスチックやカーボン繊維強化プラスチック等の「層」(ply)が貼り合わされて一体化された素材であることを明確にしていると主張している。
当該請求人の主張は、「層の積層体」との記載により、繊維強化プラスチック素材がWBL層の存在とは無関係に、複数の層(ply)から構成されていることを明確にしたと主張するものと解されるが、上記のように訂正前の「繊維強化プラスチック素材の層間」との記載からバット本体を構成する繊維強化プラスチック素材が「層の積層体」となっていたことが訂正前から明らかであったことを考慮すると、「層の積層体」における「層」を上記主張のようなWBL層とは無関係な「層」として把握することはできず、後述する訂正事項bにより訂正された記載における「層」についての記載を考慮したとしても、主張のとおりのものとして明確化されているとは解し得ない。
したがって、請求人の意見書での主張には理由がなく、採用することができない。

以上のように、訂正事項aは、特許法第126条第1項ただし書第1?3号に掲げられたいずれの事項を目的とするものとも認められず、当該訂正は不適なものである。

(ウ)訂正事項bは、訂正前請求項1に記載されていた発明特定事項である「接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層」が「離型性を有するフィルム」であることを特定したものであるから、この点においては、発明特定事項を限定していると認められる。

訂正事項bについて、請求人は、訂正審判請求書で「訂正事項bは、“WBL層を設け”る“前記繊維強化プラスチック素材の層間”が、『前記繊維強化プラスチック素材の内部の特定の層と層との間』であること、及び、“接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層”が『前記層と層との間の接着を阻害する接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層』であることを明確にすると共に、・・・この『離型性を有するフィルム』を、繊維強化プラスチック素材の内部の特定の層と層との間に『これらの層と接して重なるようにして』、前記層と層との間の接着を阻害する接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設けた、旨を限定したものである」(第6頁第21行?第7頁第1行)と主張しているので、訂正事項bにおける各訂正された記載について以下で検討する。

まず、WBL層が繊維強化プラスチック素材の「内部の特定の層と層との間 」にあり、「前記層と層との間の接着を阻害する」点について、前記「内部の特定の層と層との間 」の記載では「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」の繊維強化プラスチック素材の内部での位置は任意であるから、WBL層を繊維強化プラスチック素材の内部のどの位置に設けたのかを何ら特定していない。
また、訂正前請求項1には「前記繊維強化プラスチック素材の層間に接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設けた」と記載され、「接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層」が(繊維強化プラスチック素材の)「層間」すなわち「層と層との間」であって、この「層間」すなわち「層と層との間」の「接着を阻害する」ものとして設けられていることは訂正前から明らかな事項であるから、前記「内部の特定の層と層との間 」及び「前記層と層との間の接着を阻害する」との訂正は、訂正前の発明特定事項に加えて新たに層間状態を特定しているものとはいえない。

この点に関し、請求人は意見書で「すなわち、繊維強化プラスチック素材『の内部』の『層と層の間』とすることにより、離型フィルムが設けられるのがi項で説明したように一体に形成されている繊維強化プラスチック素材の内部の層間であり、個別独立に形成された二つの素材の間に設けるものでないことを明確にしているのである。また『特定の』とは、すべての層間ではなく選択された一つまたは複数の層間であることを明確にしたものである。」(第4頁第8?13行)、「『前記層と層との間の接着を阻害する』との記載は、上記を受けてのものであり、一体に形成されている繊維強化プラスチック素材の内部の層間の接着が阻害されることを明確にしているのである。」(第4頁第14?16行)と主張している。
しかしながら、「特定」は「特にそれと指定すること。特に定められていること。[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]」を意味するだけであり、「すべて」の層間を対象としないことを明示的に特定する訳ではないから、「選択された一つまたは複数の層間であることを明確にした」ものとは解せない。
また、WBL層は訂正前においても「繊維強化プラスチック素材の層間」に設けられていることが特定されており、層間である以上、「内部」であることは明らかであり、この「内部」との記載によって、主張するように繊維強化プラスチック素材が「一体に形成されている」ものであって「個別独立に形成された」ものではないことなどを特定しているとはいえず、まして製造方法の具体的内容を特定しているとまでは解し得ないから、これらの記載が請求人の主張する事項を明確に示しているとは認められず、上記請求人の主張は採用することができない。

次に、ウィークバウンダリーレアー(WBL)層が「これら(繊維強化プラスチック素材)の層と接して重なるようにして」設けられた点は、訂正前請求項1の記載からは、「接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層」が、繊維強化プラスチック素材の層と接することなく、重なることなく存在しているような形態を想定できず、訂正前後で内容に差があるとはいえないことから、当該「これらの層と接して重なるようにして」との記載が、訂正前請求項1に記載された発明特定事項を限定しているとも、明りょうにしているともいえない。

この点に関し、請求人は意見書で「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層が一体の積層体である繊維強化プラスチックの層と層との間に設けられ、従って上下両方の層に接し且つ重なるものであり、本件拒絶理由の引用例(18頁下3行目)について認定しているように片方だけに接するものを明確に排除しているのである。」(第4頁第17行?第5頁第2行)と主張している。
しかしながら、「これらの層と接して重なる」の記載では、どちらの層にどのように接し、また、重なるのかを明確にしているとはいえず、WBL層がその上下にある両方の層に接し且つ重なる構造のみに明確に限定しているとまではいえない(上記記載は、これらの内の一方の層と接して重なるとも解され、必ずこれらの両方の層と接して重なるとの意味には限定できない。)から、上記記載がない訂正前の請求項1の記載と比べて、限定されているとも、明確にされているともいえず、請求人の上記主張は採用できない。

以上のように、訂正事項bに含まれる訂正された記載を個別に検討すると、「離型性を有するフィルム」との記載を除いて、訂正目的として不適なものであると解される。

しかしながら、訂正事項bに含まれる訂正された記載を一連のものとしてみた場合、例えば、「これらの層と接して重なるようにして」との記載は、「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」を「フィルム」という固体物としたことにともなって、この「フィルム」と繊維強化プラスチック素材の層とが重なる状態を明示せんとしたものと解する余地があるなど、訂正事項bにおける、「離型性を有するフィルム」との記載を除いた訂正された記載事項は、「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」をフィルムを使った態様に限定したことにともなってなされた訂正であると解し得るものである。
よって、訂正事項bは、全体として、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものとひとまず認めることとする。

2.独立特許要件についての判断
上記のように、本件訂正は、訂正全体として特許請求の範囲の減縮を目的とするものと一応認めた上で、以下において、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第126条第5項に規定された要件を満たすものであるか)を検討することとする。

(1)訂正された本件発明の認定
上記「第5」で記載したように、平成20年2月18日付け手続補正は全体として適法なものと認めるとしたことから、訂正された本件特許発明は同手続補正により補正された全文訂正明細書の特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】バット本体がガラス繊維強化プラスチックやカーボン繊維強化プラスチック等の層の積層体である繊維強化プラスチック素材で構成されている野球又はソフトボール用のFRP製バットにおいて、離型性を有するフィルムを前記繊維強化プラスチック素材の内部の特定の層と層との間にこれらの層と接して重なるようにして前記層と層との間の接着を阻害する接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設けたことを特徴とする野球又はソフトボール用のFRP製バット。」(以下「訂正発明1」という。)

「【請求項2】前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が打球部に設けられたことを特徴とする請求項1記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット。」(以下「訂正発明2」という。)

「【請求項3】前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に1層だけ設けられたことを特徴とする請求項1又は2記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット。」(以下「訂正発明3」という。)

「【請求項4】前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に2層以上設けられたことを特徴とする請求項1又は2記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット。」(以下「訂正発明4」という。)

(2)引用例
本件出願日前において頒布された、米国特許第5415398号明細書(以下、「引用例」という。)には以下の記載が図示とともにある。
なお、当該引用例は英語で記載されたものであるので、翻訳文を併記し、以下でする引用例に記載された発明等の認定は、原則、翻訳文に基づいて行うこととする。
また、請求人は訂正審判請求書において、「正確に翻訳すれば、以下のとおりである。」(第16頁第12行等参照。)等と主張して、独自の翻訳を記載しているので、請求人が翻訳文の内容について上記主張をしている部分については原則として請求人の翻訳文を採用し、採用できない点については、注釈を付することとした。
さらに、請求人は平成20年2月25日付け意見書においても独自の翻訳を記載している(第16頁第9?13行等)が、これらは採用せず、必要な点は、以下でする対比・判断において検討することとする。

(ア)Column 1, line 8-11
「The present invention relates to softball and baseball bats and more particularly relates to use of structural members inside such bats to improve their impact response.」
(本発明は、ソフトボール用バットおよび野球用バットに関するものであり、また特にバットの衝撃応答性を向上させるバット内の構造部材の使用に関するものである。)

(イ)Column 2, line 1-8
「In light of the shortcomings of the prior art, it is an objective of the present invention to provide an improved bat.
It is another objective of this invention to provide a bat that increases the power transferred from the bat to a batted ball.
It is yet another objective of this invention to provide a simple construction for a tubular bat with an insert.」
(先行技術の欠点を踏まえ、本発明の目的の1つは、改良されたバットを提供することである。
また、本発明には、バットから打球に伝導するパワーを増大させるバットを提供するという目的もある。
さらに本発明には、挿入部を持つ管状バットについて、シンプルな構造を提供するという目的もある。)

(ウ)Column 2, line 9-23
「In accordance with a preferred embodiment of the present invention, a tubular aluminum bat frame is provided with a large-diameter impact portion, an intermediate tapering portion, and a small-diameter handle portion. A tubular insert is suspended within the impact portion by interference fits at each insert end. A first interference fit is achieved by forcing the first end of the insert into the tapering portion of the bat frame. The second interference-fit is then formed by curling the end of the impact portion over upon the second end of the insert. A gap exists along the length of the suspended insert separating the insert from the interior of the impact portion. The gap is filled with grease to facilitate relative movement between the insert and the tubular frame when a ball is batted.」
(本発明の好適な一実施例において、管状アルミニウム製バットフレームは、直径の大きい衝撃部、中間テーパ部および小径の握り部を具備する。管状挿入部は、同挿入部の両端に位置する締まりばめにより、衝撃部内に懸架される。第1締まりばめは、挿入部の第1端部をバットフレームのテーパ部に強く押し付けることにより形成される。次に第2締まりばめは、挿入部の第2端部の上部に位置する衝撃部の先端部分を曲げることにより形成される。懸架された挿入部の長さに沿って、衝撃部の内側から挿入部を分離する間隙が存在する。この間隙は、ボールを打ったときの挿入部と管状フレームとの間の相対運動を促進するため、グリースで満たされる。)

(エ)Column 2, line 39-61
「Referring to FIG.1, a softball bat 10, according to one embodiment of the present invention, has a tubular aluminum frame 11 with a relatively large-diameter impact portion 12, an intermediate tapering portion 14, and a relatively small-diameter handle portion 16.
To provide for an improved impact response yielding a better transfer of power from the bat to a better transfer of power from the bat to a batted ball, a tubular insert 18 is suspended within the impact portion 12 of the tubular frame. The tubular insert is a hollow tube of an outer diameter slightly less than the inner diameter of the tubular frame impact portion 12. A first end 20 of the tubular insert 18 is inserted through the impact portion 12 to be forcefully lodged in abutment with the diametrically narrowing interior wall of the tapering portion 14, thus forming a first interference fit. A second end 22 of the tubular insert 18 is spaced inwardly from the top end of the impact portion 12 when the tubular insert 18 is secured in the first interference fit. A second interference fit is created at the insert second end 22 by curling the topmost portion of the impact portion over upon the insert second end 22. The curled-over portion forms a reduced-diameter head portion 24 of the tubular frame 11.」
(図1を参照すると、本発明の一実施態様におけるソフトボール用バット10は、比較的直径の大きい衝撃部12、中間テーパ部14および比較的小径の握り部16を具えた管状アルミニウムフレーム11を有する。
衝撃応答性を高め、バットから打球へのパワー伝導を向上させるため、管状挿入部18を管状フレームの衝撃部12内に懸架する。管状挿入部は中空管であり、その外径は、管状フレームの衝撃部12の内径よりわずかに小さい。管状挿入部18の第1端部20は、衝撃部12に挿入され、さらに、直径が減少するテーパ部14の内壁に接するように強く押し付けられ、これにより第一の締まりばめが形成される。管状挿入部18の第2端部22は、管状挿入部18が第1締まりばめで固定された時点で、衝撃部12の先端より内側に位置する。第2締まりばめは、挿入部の第2端部22の上部に位置する衝撃部の先端部分を曲げることにより形成される。この曲げられた部分が、管状フレーム11のうち直径が減少するヘッド部24を形成する。)

(オ)Column 2, line 62 - column 3, line 9
「Because the outer diameter of the insert 18 is slightly less than the inner diameter of the tubular frame impact portion 12, the suspended insert 18 contacts the tubular frame only at the interference fits of the first and second insert ends 20,22. A narrow, uniform gap 26 exists between the insert 18 and the inner wall of the impact portion 12. The gap extends uniformly around the insert (see FIG.3) and along the length of the insert between the first and second ends 20,22 thereof.
As best seen in FIG.2, the gap 26 is filled with a lubricant, such as grease. The grease is brought within the gap 26 by coating the insert 18 with grease before the insert is inserted into the tubular frame 11. Once the insert 18 is secured between the first and second interference fits, the lubricant-filled gap 26 is effectively sealed by the first and second interference fits.」
(挿入部18の外径が管状フレームの衝撃部12の内径よりわずかに小さいことから、懸架された挿入部18は、挿入部の第1端部20および第2端部22の両締まりばめのみにおいて管状フレームと接触する。挿入部18と、衝撃部12の内壁との間に狭い一定の間隙26が存在する。この間隙は、挿入部の周囲(図3を参照)と、挿入部の第1端部20と第2端部22との間で挿入部の長さに沿って均一に伸びている。
図2で最もよくわかるが、間隙26は、グリースのような潤滑剤で満たされている。グリースは、挿入部を管状フレーム11に挿入する前に挿入部18の表面をグリースで覆うことにより、間隙26内に取り入れられる。挿入部18が第1締まりばめと第2締まりばめとの間で固定されると、潤滑剤で満たされた間隙26は、第1締まりばめおよび第2締まりばめによって効果的に密閉される。)
注:請求人は上記摘記事項のうち、「The grease is brought within the gap 26 by coating the insert 18 with grease before the insert is inserted into the tubular frame 11.」との記載について、「すなわち、『潤滑油は、挿入部を管状フレーム11に挿入する前に挿入部18に塗布することにより、間隙26内に持ち込まれる』と翻訳するのが正確である。」(訂正審判請求書第19頁第28?29行)と主張しているが、「coat」は、「塗布する」意味に限定されず、「覆う」、「かぶせる」等の意味をも有することから、上記翻訳は採用しない。また、「grease」は「潤滑油」とはせず、引用例中で「グリース」と訳すことに統一する。

(カ)Column 3, line 10-65
「The operation of the softball bat of the illustrated embodiment is designed for an improved transfer of power to a batted ball. Specifically, the bat 10 responds to the impact with a ball by providing a large elastic deflection, which rebounds with a large force in a short amount of time.
The tubular frame 11 with the suspended insert 18 attached at both ends to the tubular frame 11 yields a mechanical system with characteristics similar to a leaf spring. When the bat 10 strikes a ball on the impact portion 12, the impact portion 12 wall deflects inwardly through the grease-filled gap 26 to load and inwardly deflect the underlying insert wall. The deflection of the impact portion 12 can be considered as generally arcuate. Accordingly, the insert 18 deflects arcuately to cradle the arcuate deflection of the impact portion 12 arcuate. Because the insert 18 is fixed within the tubular frame at the insert ends 20,22, the greater radius of curvature of the insert deflection causes the insert 18 to be stretched, as well as bent, around the deflection of the impact portion 12. Therefore, the insert 18 undergoes substantial tensile, as well as bending stress when a ball is batted.
The leaf-spring-like attachment of the insert 18 within the impact portion 12 provides a rebound to yield improved power transmission to the ball. The bending stresses are released as the walls of the impact portion 12 and the insert 18 rebound into the unloaded state. The tensile loading of the underlying insert wall is released simultaneously, adding "snap" which increases the force and velocity of the rebound. Accordingly, the extra snap owing to the leaf-spring-like suspension of the insert 18 within the tubular frame yields an improved transfer of power to the batted ball, and a heightenend "slugging" capacity for the bat.
The grease permits relative movement between the impact portion 12 and the insert 18, so that the insert can independently stretch around the deflection of the impact portion 12. The sealed condition of the grease within the gap offers another advantage, The impact with a ball may occur so rapidly that the grease cannot appreciably flow. Rather, the grease hydrostatically supports the wall of the impact portion away from the insert. In this case, a substantial layer of grease is maintained between the impact portion and the insert, facilitating the movement of the insert relative to the impact portion. In another aspect, any flow of the grease that does occur during impact serves to distribute the force of impact over an expanded area of the impact portion 12. The distribution of the impact stress permits a thinner-walled impact portion because high stress concentrations causing plastic deformation are not likely to occur.」
(図示された実施例によるソフトボール用バットの作用は、打球へのパワー伝導を向上させるよう設計されている。特に、バット10は、大きな弾性たわみが生じ、これが短時間で大きなパワーをもって反発することにより、ボールとの衝撃に応答する。
管状フレーム11は、挿入部18が懸架され、同挿入部がその両端において管状フレームに取り付けられるため、板ばねと同様の特徴を持つ機械的構造が実現する。バット10が衝撃部12においてボールを打った時、衝撃部12の壁は、グリースで満たされた間隙26によって内側方向にたわみ、その下に位置する挿入部の壁に負荷をかけ、これを内側方向にたわませる。衝撃部12のたわみは、原則として弧状になると考えられる。よって挿入部18は、衝撃部12の弧状のたわみの受け台となるため、弧状にたわむ。
挿入部18の弧状部分が衝撃部12の弧状部分の受け台となるため、挿入部18の弧状部分の曲率半径は、衝撃部12の弧状部分より大きい。挿入部18はその両端部20、22において管状フレーム内で固定されていることから、曲率半径の大きい挿入部がたわむことにより、挿入部18は衝撃部12のたわみに沿って引っ張られ、曲げられる。このためボールを打った時点で、挿入部18は、相当の引張応力と曲げ応力を受ける。
挿入部18が衝撃部12内に板ばねのように取り付けられていることにより、ボールへのパワー伝導を増大させる作用を持つ反発が得られる。衝撃部12と挿入部18の両方の壁が反発して負荷ゼロの状態になった時点で、曲げ応力は消滅する。その下に位置する挿入部の壁の引張荷重も同時に消滅し、さらに「スナップ」が加わることで、反発の力と速度が増す。このため、挿入部18を管状フレーム内で板ばねのように懸架することによって付加されるスナップにより、打球へのパワー伝導が向上するとともに、バットの「強打」力も向上する。
グリースは、衝撃部12と挿入部18との間の相対運動を許すので、挿入部は、衝撃部12のたわみの周りを独立して伸びることができる。間隙内で密閉されているグリースは、もうひとつの利点を提供する。ボールとの衝撃がきわめて早いので目立つほど流動しない。むしろ、グリースは静水圧的に、衝撃部の壁を維持し、これを挿入部から離すような働きをする。この場合、衝撃部と挿入部との間でグリースの実質的な層が維持され、よって、衝撃部との相対的な挿入部の運動が促進される。一方、衝撃が加わる間におけるグリースの流動は、衝撃の力を衝撃部12の拡大区域に分配する。この衝撃応力の分配により、塑性変形をもたらす高い応力集中が生じにくいことから、衝撃部の壁を薄くできる。)

(キ)Column 4, line 9-17
「Using aluminum of 80,000 pounds/inch^(2) yield strength, an excellent batting response is achieved when the impact portion 12 is about 13 inches long with a wall thickness of 0.058 inch. An insert 18 slightly shorter than the impact portion 12 and having a wall thickness of 0.048 inch is inserted into the impact portion 12. The outer diameter of the insert is chosen so that the gap between the outer surface of the insert 18 and the inner surface of the impact portion 12 is about 0.007 inch.」
(1平方インチ当たり80,000ポンドの降伏強度のアルミニウムを使用することにより、衝撃部12の長さが約13インチ、肉厚が0.058インチである場合に優れた衝撃応答性が得られる。長さが衝撃部12よりわずかに短く、肉厚が0.048インチの挿入部18が、衝撃部12に挿入される。挿入部の外径は、挿入部18の外面と衝撃部12の内面との間に約0.007インチの間隙が存在するように、選択される。)

(ク)Column 4, line 47-60
「The interference fits of the illustrated embodiment offer excellent performance and are advantageous in the simplicity of design and manufacture (notably in the absence of any required welding). However, it is to be understood that welding or other fasteners may also be used. For instance, additional friction-improving devices may be used at the interference fits of the inserts and the tubular frame 11. Alternatively, adhesives or mechanical fasteners for joining the insert ends to the tubular frame may be used. Any fastener may also serve the purpose of sealing the lubricant within the gap 26. Any attachment mechanism or fastener maintaining the leaf-spring-like suspension falls within the scope of the present invention.」
(図示された実施例における締まりばめは、優れた機能をもたらすものであるとともに、設計と製造がシンプルである(特に溶接が一切必要がない)という利点がある。しかし、当然のことながら、溶接またはその他の留め具を利用することもできる。例えば、挿入部と管状フレーム11の締まりばめにおいて、さらに摩擦係数を上げるための装置を利用することができる。また、これらに代えて、挿入部の端部を管状フレームに接合させるため、接着剤または機械による留め具を利用することもできる。留め具は、間隙26内を潤滑剤で密閉するという目的においても利用することができる。板ばねのような懸架を維持する取付装置や留め具はすべて、本発明の範囲に含まれる。)

(ケ)Column 4, line 61 - column 5, line 10
「While the present embodiment utilizes aluminum for the frame and the insert, it should be understood that many other materials will perform equally well with the present invention. For instance, at a slightly higher cost, titanium could be used as insert material with excellent results. A titanium insert is advantageous owing to its excellent impact response characteristics. It addition, because the insert is a hollow tube, the machining and cold working problems associated with titanium are minimized. The titanium insert provides a bat with an superb impact response, but at a cost vastly reduced from that of a solid titanium bat.
Furthermore, where cost is less a consideration, a titanium insert may be used within a titanium bat with outstanding results. It should be understood that various other materials, composite materials, plastics, and other materials may likewise perform equally as well with the present invention.」
(本実施例ではフレームと挿入部にアルミニウムを用いているけれども、多くの他の材料も本発明と等しく良い効果をもたらすことが理解されなければならない。たとえば、すこしコストが高くなるが、チタンは素晴らしい効果をもたらす挿入部として用いることができる。チタンの挿入部は素晴らしい衝撃応答性という特性によって有利である。加えて、挿入部は中空管なので、チタンに関連する工作加工、冷間加工の問題を最小にする。チタンの挿入部は中実のチタン製バットよりはるかに低減されたコストで優れた衝撃応答性を提供する。
さらに、コストに払う考慮が少ないときは、チタンの挿入部をチタンのバットの内部に用いて顕著な結果をあげることができる。様々な他の金属、複合材料、プラスチック、その他の材料も同様に、本発明と等しい良い効果を発揮することが理解されなければならない。)

(コ)Column 5, line 11-24
「Many types of lubrication may be utilized with bats of the present invention. Varying the viscosity of the lubricant may modify the feel and response of such bats. In a preferred embodiment, a heavy grade of grease is used to accentuate the hydro-static effect of the grease during impact. Synthetic lubricants may be used as well as petroleum-based greases and oils. Equally good results may be also obtained from the use of lubricants such as Teflon TM. Moreover, insert and bat frame materials which are themselves slippery so as to permit the independent movement of insert and frame may work equally as well. Indeed, lubricant may be omitted entirely, so long as the resulting arrangement permits independent movement of insert of insert and bat frame.」
(本発明のバットにおいては、多くの種類の潤滑剤を使用することができる。潤滑剤の粘性を変えれば、バットの感触および衝撃応答も変化する。好適な一実施例においては、衝撃が加わる間のグリースの油圧効果を強調するため、重い等級のグリースが使用されている。合成潤滑剤を、石油ベースのグリースやオイルと同様に使用することもできる。Teflon(商標)等の潤滑剤を用いても、同様の優れた結果が得られる。さらには、挿入部とフレームの独立した動きを可能にするため、それ自体が滑りやすくなっている挿入部およびバットフレームの材料も、同様の機能を果たすことができる。実際には、結果として挿入部とバットフレームの独立した動きを可能にするように構造が構成されていれば、潤滑剤はすべて省略することができる。)

(サ)Column 5, line 25-31
「It will be recognized that the lubricant is a plastically deformable material. Plastic deformation of this material is restored by action of the bat frame and the insert. Certain advantages of the present invention can be achieved by substituting any plastically deformable material in the gap 26, irrespective of whether it is a lubricant.」
(潤滑剤は塑性変形可能な材料であると考えられる。この材料の塑性変形は、バットフレームおよび挿入部の作用によって回復される。本発明の利点の一部は、潤滑剤であるか否かを問わず、間隙26において塑性変形可能なあらゆる材料を代用することによって得ることができるという点である。)

(シ)Column 5, line 53 - column 8, line 6
「1. A bat, comprising:
a hollow tubular bat frame having a circular cross-section; and
an insert positioned within the frame, the insert having a circular cross-section, the insert having first and second ends adjoining the tubular frame, the insert being separated from the tubular frame by a gap forming at least part of an annular shape along a central portion between said first and second ends, the frame elastically deflectable across the gap to operably engage the insert along a portion of the insert between the insert first and second ends.
2. A bat according to claim 1 in which the insert is suspended within the frame and is secured thereto at said first and second ends.
3. A bat according to claim 2, wherein the insert is rigid and the gap is filled with a lubricant to facilitate the relative movement between the insert and the tubular frame when a ball is struck.
4. A bat according to claim 3, wherein the tubular frame has a small-diameter handle portion, an intermediate tapering portion, and a large diameter impact portion, and the insert is suspended within the frame impact portion.
5. A bat according to claim 4, wherein the insert is tubular.
6. A bat according to claim 5, wherein the gap thickness is small relative to the thickness of the impact portion wall and the insert wall.
7. A bat according to claim 6, with the tubular frame further having a reduced-diameter head portion atop the impact portion; and
the first insert end being secured within the frame by a first interference fit within the tapering portion of the frame, and the second insert end being secured with the frame by a second interference fit within the head portion of the bat.
8. A bat according to claim 7, wherein the interference fits seal the lubricant within the gap.
9. A bat according to claim 8, wherein the insert is made of aluminum.
10. A bat according to claim 8, wherein the tubular frame is made of aluminum.
11. A bat according to claim 8, wherein the insert is made of titanium.
12. A bat according to claim 8, wherein the insert is made of composite material.
13. A bat according to claim 8, wherein the insert is made of steel.
14. A bat according to claim 10, wherein the lubricant is grease.
15. In a hollow bat having a small-diameter handle portion and a large-diameter impact portion, an improvement comprising an internal structural insert defining an annular gap with an inside wall of the impact portion of the bat and the impact portion elastically deflectable to close a portion of the annular gap and operably engage the insert.
16. The bat of claim 15 in which the gap is filled with a plastically deformable substance.
17. A bat, comprising:
a hollow tubular frame having a small diameter handle portion, an intermediate tapering portion, a large diameter impact portion, and a reduced-diameter head portion;
a tubular insert adapted to be suspended within the frame impact portion;
a first end of the tubular insert being received into the tapering portion and secured therein by a first interference fit;
a second end of the tubular insert being received by the head portion of the frame and secured therein by a second interference fit;
a gap separating the insert from the tubular frame, the gap extending from the first interference fit to the second interference fit, the gap being filled with grease to facilitate relative movement between the tubular frame and the insert when the bat strikes a ball; and
the insert and the frame being made of aluminum.
18. A bat, comprising:
a hollow tubular bat frame having a small-diameter handle portion and a large-diameter impact portion having a circular cross-section with an inner and outer diameter;
at least one insert having a substantially circular cross-section with outer diameter less than the inner diameter of the frame impact portion, the insert being held within the impact portion; and the impact portion being inwardly elastically deflectable such to establish a tight interference fit between the insert and the impact portion.」
(【請求項1】円形断面を有する中空管状バットフレームと、
前記フレーム内に位置し、円形断面を有し、前記管状フレームと係合する第一端部および第二端部を有し、前記第1端部と前記第2端部との間で中心部に沿って円環形の少なくとも一部を形成する間隙によって前記管状フレームから分離される挿入部とから成り、前記フレームが、前記間隙のあらゆる位置で弾性たわみが可能であり、これにより前記挿入部の第1端部と第2端部との間で前記挿入部の一部に沿って前記挿入部を係合する機能を果たすことを特徴とするバット。
【請求項2】前記挿入部が前記フレーム内に懸架され、前記第1端部および第2端部において前記フレームに固定される請求項1のバット。
【請求項3】前記挿入部が固定され、ボールを打ったときに前記挿入部と前記管状フレームとの間の相対運動を増進するために前記間隙を潤滑剤で満たした請求項2のバット。
【請求項4】前記管状フレームが小径の握り部、中間テーパ部および直径の大きい衝撃部を有し、前記挿入部が前記フレームの衝撃部内に懸架される請求項3のバット。
【請求項5】前記挿入部が管状である請求項4のバット。
【請求項6】前記間隙の厚さが、前記衝撃部の壁の厚さおよび前記挿入部の壁の厚さより小さい請求項5のバット。
【請求項7】前記管状フレームがさらに前記衝撃部の先端において直径が減少したヘッド部を具備し、
前記挿入部の第1端部が、前記フレームの前記テーパ内部の第1締まりばめによって前記フレーム内で固定され、かつ前記挿入部の第2端部が、前記バットの前記ヘッド部内の第2締まりばめによってフレームと固定されることを特徴とする請求項6のバット。
【請求項8】前記の両締まりばめが前記間隙内の前記潤滑剤を密閉する請求項7のバット。
【請求項9】前記挿入部がアルミニウムで作られた請求項8のバット。
【請求項10】前記管状フレームがアルミニウムで作られた請求項8のバット。
【請求項11】前記挿入部がチタンで作られた請求項8のバット。
【請求項12】前記挿入部が複合材料で作られた請求項8のバット。
【請求項13】前記挿入部がスチールで作られた請求項8のバット。
【請求項14】前記潤滑剤がグリースである請求項10のバット。
【請求項15】小径の握り部と直径の大きい衝撃部とを具備する中空のバットにおいて、前記バットの前記衝撃部の内壁によって円環形の間隙を形成する内部構造上の挿入部と弾性たわみが可能であり、これにより前記円環形間隙の一部を閉じて前記挿入部を係合させる機能を果たす前記衝撃部とから成るバットの改善。
【請求項16】前記間隙が塑性変形可能な材料により満たされた請求項15のバット。
【請求項17】小径の握り部、中間テーパ部、直径の大きい衝撃部および直径が減少したヘッド部を具備する中空の管状フレームと、
前記フレームの衝撃部内に懸架される管状挿入部と、
前記テーパ部に収容され、第1締まりばめによって同テーパ部に固定される前記管状挿入部の第1端部と、
前記フレームの前記ヘッド部が収容し、第2締まりばめによって同ヘッド部に固定される前記管状挿入部の第2端部と、
前記挿入部を前記管状フレームから分離し、前記第1締まりばめから前記第2締まりばめまで伸長し、バットでボールを打ったときに前記管状フレームと前記挿入部との間の相対運動を増進するためにグリースで満たされた間隙とから成り、
前記挿入部および前記フレームがアルミニウムで作られることを特徴とするバット。
【請求項18】小径の握り部と直径の大きい衝撃部とを具備し、その内径および外径が円形である中空管状バットフレームと、
ほぼ円形の断面を有し、その外径が前記フレームの衝撃部の内部より小さく、前記衝撃部内で固定される少なくとも1つの挿入部と、内側方向への弾性たわみが可能であり、これにより前記挿入部と前記衝撃部との間に強固な締まりばめを形成する前記衝撃部とから成るバット。)

上記(ア)には、「本発明」(引用例記載の発明)は、ソフトボール用バットおよび野球用バットに関するものであることが記載されている。
上記(ウ)には、当該バットは、直径の大きい衝撃部、中間テーパ部および小径の握り部からなる管状アルミニウム製バットフレームと、当該管状バットフレーム内においてその両端が締まりばめされることにより衝撃部内に懸架される管状挿入部とから構成されており、懸架された挿入部の長さに沿って、衝撃部の内側と挿入部との間に間隙が存在し、この間隙が潤滑剤で満たされていることが記載されている。
前記挿入部及び前記フレームはいずれも管状(すなわち中空)であり、上記(キ)に具体的数値で示されているように、管状フレームと挿入部との間の間隙は約0.007インチ(約0.18mm)と極めて狭いものであることから、断面で見れば、管状フレームと挿入部は層をなすものであり、両者の間に存在する潤滑剤も層を形成しているものと解される。
上記した「締まりばめ」について、上記(ク)には、「締まりばめ」は挿入部の端部を管状フレームに接合させるための優れた手段ではあるが、その他に、溶接、接着剤、留め具などを利用することができると記載されている。
上記(ケ)には「本実施例ではフレームと挿入部にアルミニウムを用いているけれども、多くの他の材料も本発明と等しく良い効果をもたらすことが理解されなければならない。」と記載され、「たとえば、すこしコストが高くなるが、チタンは素晴らしい効果をもたらす挿入部として用いることができる。」と記載され、「さらに、コストに払う考慮が少ないときは、チタンの挿入部をチタンのバットの内部に用いて顕著な結果をあげることができる。」と記載され、その次に「様々な他の金属、複合材料、プラスチック、その他の材料も同様に、本発明と等しい良い効果を発揮することが理解されなければならない。」と記載されている。
また、上記(オ)、(カ)、(コ)などに、潤滑剤の例として「グリース」が記載されており、上記(コ)には、潤滑剤として「テフロン(商標)」が例示されている。
上記「グリース(grease)」は「潤滑剤の一種。液体潤滑剤に濃厚化剤を分散させた固体から半固体状の潤滑剤。たとえば金属セッケンで濃厚化した石油。[マグローヒル科学技術用語大辞典第3版]」を表す技術用語であり、固体状の材料を含むものであると解され、また、上記「テフロン(商標)」には、固体状のものが含まれることは、本件出願時においては技術常識である。
上記(オ)に「グリースは、挿入部を管状フレーム11に挿入する前に挿入部18の表面をグリースで覆うことにより、間隙26内に取り入れられる。」と記載されているように、グリース等からなる「固体状潤滑剤の層」は、挿入部の外表面に接して重なるようにして設けられたものであるといえる。
さらに、上記(シ)の「【請求項18】」には「少なくとも1つの挿入部(at least one insert)」との記載がなされている。
なお、上記(ケ)の記載について、請求人は、訂正審判請求書において「このように、段落をあらためて『さらに』とはじまる2つのセンテンスでは、挿入材の材料として『様々な金属、複合材料、プラスチック、その他の材料』が使用できることを述べているとしか考えようがない。」(第17頁第9?11行)と主張していることから、この主張を採用し、上記「複合材料」が、挿入部の材料を示すものであると解することとする(なお、当該「複合材料」が繊維強化プラスチックを示す用語であることは、請求人が訂正審判請求書で提示している添付資料3:機械工学事典の「積層材料」についての記載等から明らかであるといえる。)。
以上のことから、引用例には、次の発明が記載されていると認められる。

「直径の大きい衝撃部、中間テーパ部および小径の握り部からなる管状フレームと、衝撃部の管状フレーム内においてその両端が接合される少なくとも1つの繊維強化プラスチック製の挿入部とから構成されるソフトボール用又は野球用バットであって、挿入部の外面と管状フレームの衝撃部の内面との間の約0.007インチの間隙にグリースやテフロン(商標)のような固体状潤滑剤の層を挿入部の外表面に接して重なるようにして設けたソフトボール用又は野球用バット。」(以下、「引用発明」という。)

(3)対比・判断
(3-1)訂正発明1について
引用発明の「ソフトボール用又は野球用バット」と訂正発明1の「野球又はソフトボール用のFRP製バット」とは、「野球又はソフトボール用のバット」である点で共通している。
引用発明の管状フレームと挿入部とは「約0.007インチの間隙」を介して近接配置されているものであり、当該隙間には「固体状潤滑剤の層」が設けられていることから、全体として積層構造であることは明らかである。
したがって、引用発明と訂正発明1とは、「バット本体が積層体で構成された野球又はソフトボール用のバット」である点で共通しているといえる。
また、訂正発明1における「特定の層と層との間」は、上記「第6 1.(ウ)」に記載したように、選択された層間であってすべての層間でないことを特定するものではなく、WBL層が繊維強化プラスチック素材の層間に存在する部位をもって「特定の層と層との間」というに過ぎない。
引用発明の「グリースやテフロン(商標)のような固体状潤滑剤の層」については、当該「潤滑剤」が相接する固体の間の摩擦を減らす役目をなすものであって、上記テフロン(商標)が離型性を有する素材であることは技術常識であるから、この「グリースやテフロン(商標)のような固体状潤滑剤の層」は訂正発明1の「層と層との間の接着を阻害する接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層」に相当しているといえる。
よって、引用発明の「挿入部の外面と管状フレームの衝撃部の内面との間の約0.007インチの間隙にグリースやテフロン(商標)のような固体状潤滑剤の層を挿入部の外表面に接して重なるようにして設けた」点と、訂正発明1の「離型性を有するフィルムを前記繊維強化プラスチック素材の特定の層と層との間にこれらの層と接して重なるようにして前記層と層との間の接着を阻害する接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設けた」点とは、「離型性を有する素材をバット本体を構成する積層体の特定の層と層との間に、これらの層の一方と接して重なるようにして前記層と層との間の接着を阻害する接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設けた」点で共通している。

したがって、訂正発明1と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>「バット本体が積層体で構成された野球又はソフトボール用のバットにおいて、離型性を有する素材をバット本体を構成する積層体の特定の層と層との間に、これらの層の一方と接して重なるようにして前記層と層との間の接着を阻害する接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設けた野球又はソフトボール用のバット。」

<相違点1>訂正発明1では「バット本体がガラス繊維強化プラスチックやカーボン繊維強化プラスチック等の層の積層体である繊維強化プラスチック素材で構成されている」と特定されているのに対して、引用発明では、バット本体を構成する積層体の一部をなす挿入部が繊維強化プラスチック製であるものの、管状フレームの材料が不明であり、上記特定がなされていない点。

<相違点2>接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層について、訂正発明1では、「離型性を有するフィルム」であることが特定されているのに対して、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

<相違点3>接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層について、訂正発明1では、「前記繊維強化プラスチック素材の内部の特定の層と層との間にこれらの層と接して重なるようにして」設けたことが特定されているのに対して、引用発明では、「これらの層の一方と接して重なるようにして」設けたものであるものの、「特定の層と層」の両方に接しているか定かでなく、上記のように特定されていない点。

a.<相違点1>についての判断
引用例の上記(ケ)には「本実施例ではフレームと挿入部にアルミニウムを用いているけれども、多くの他の材料も本発明と等しく良い効果をもたらすことが理解されなければならない。」と記載され、管状フレームの材料として、アルミニウム以外の多くの他の材料を用いても良いことが記載されている。
そして、本件出願時において、繊維強化プラスチックは、バットの素材として周知・慣用されたものであり(例えば、特開平10-314353号公報、実願平3-55846号(実開平5-175号)のCD-ROMを参照。)、挿入部のみならず、管状フレームを含むバット本体を繊維強化プラスチック素材から構成することは当業者にとって想到容易な事項であるといえる。

なお、相違点1について、請求人は、訂正審判請求書で「すなわち、刊行物6の発明の目的の記載からみれば、刊行物6の発明の対象であるバットがアルミニウム製バットであり、その対象とするバットがアルミニウムに限られないとしても、アルミニウム以外の対象はチタン製のバットであり、さらに広く考えても、せいぜい、金属製バットを対象とするものに限られることは明らかである。」(第18頁第13?17行。審決注:上記「刊行物6」は「引用例」を示しており、以下においても同様である。)と主張している。
確かに、引用例において、実施例等はアルミニウム製のバットとして記載されているが、上記(イ)に記載された発明の目的がアルミニウム製のバットあるいは金属製のバットに限った課題を解決するようなものとは解せず、上記のように「多くの他の材料」でも良いことが記載されていることからして、アルミニウム製のバットは代表的なものとして例示されているにすぎないと解され、「せいぜい、金属製バットを対象とするものに限られる」とする請求人の上記訂正審判請求書での主張は採用できない。

また、請求人は意見書で、「引用例では、【発明の背景および概要】の項「BACKGROUND AND SUMMARY OF THE INVENTION」の欄(Column 1,line 13 - Column 2,line 27)において、・・・基本的にアルミニウム製のバットについて言及し、若干チタン製のバットについて言及しているだけである。そして、段落9(Column 2,lines 9-23)における解決手段については、バットの“材料”に関する言及は全くなされておらず、挿入部を有するバットの“構造”について言及がなされている。つまり、解決手段として、バットの二重管構造を示しているにすぎないのである。これらの記載を前提にすれば、刊行物6の発明の目的がアルミニウム製のバット、少なくとも金属製のバットに限った課題を示しているとしか考えようがない。」(第22頁第5?27行)と主張している。
しかしながら、上記したように管状フレームの材料として、アルミニウム以外の多くの他の材料を用いても良いことが引用例に記載されていることは明らかであり、また、上記(ケ)には、挿入部についての記載ではあるものの、「様々な他の金属、複合材料、プラスチック、その他の材料も同様に、本発明と等しい良い効果を発揮する」と、バット本体を構成する部材の材料として金属以外の材料(複合材料、プラスチックなど)が例示されており、さらに、繊維強化プラスチック製のバットは本件出願時において周知・慣用されているものであって、上記で例示した、特開平10-314353号公報には外管パイプ(管状フレーム)と内管パイプ(挿入部)の両方に繊維強化プラスチック素材を用いた二重管バットが記載されていることを考慮すれば、引用発明の管状フレームに繊維強化プラスチック素材を採用することは当業者にとって想到容易であって、引用例の【発明の背景および概要】の欄にアルミニウム等の金属製のバットのみが言及されているからといって、当業者が金属製のみに限定した解釈をするとはいえない。
さらに、請求人は意見書で、「すなわち、添付資料(2)及び(4)の報告書に示されるとおり、引用例に開示された構成において、外管フレームを金属ではなく、繊維強化プラスチックで構成した場合、素材の耐久強度を超える2.04GPaの応力が加わるため、およそ実用化、商品化には耐えられないものである。」(第23頁第9?13行)と主張している。
しかしながら、意見書に添付された添付資料(2)及び(4)は、本件特許明細書の段落【0028】の【表2】に例示された「積層事例」と同様の繊維強化プラスチック素材の層構造を備え、WBL層に相当するPPフィルム部分を空隙に置き換えたものを比較対象として衝撃力のシミュレーション解析を行った結果が示されているだけであって、空隙内に潤滑剤が存在しているような引用発明について解析されておらず、当該解析結果は相違点1の判断に何ら影響を与えない。
また、上記【表2】に例示された層構造は1つの実施例にすぎず、訂正発明1はこの実施例のみに限定されるものではなく、引用発明において管状フレームとして、繊維強化プラスチック製のものを採用した際に、必要とされる耐久性を得られるように管状フレームを含む二重管バットの層構造を工夫することは当業者にとってはまさに設計事項であって、相違点1の容易想到性を否定する根拠とはなり得ない。
したがって、請求人が意見書においてする主張についても採用することはできない。

以上のとおり、相違点1に係る訂正発明1の発明特定事項は、引用例及び周知・慣用技術に基づいて、当業者が容易になし得ることであるといえる。

b.<相違点2>についての判断
訂正発明1の「接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層」に相当する、引用発明の「グリースやテフロン(商標)のような固体状潤滑剤の層」は、「衝撃部12と挿入部18との間の相対運動を許す」(上記(カ))ようにするために、管状フレームと挿入部との間に介在するように設けられたものである。
また、引用発明の「潤滑剤」に関して引用例には「本発明のバットにおいては、多くの種類の潤滑剤を使用することができる。潤滑剤の粘性を変えれば、バットの感触および衝撃応答も変化する。」(上記(コ))と記載され、「潤滑剤」には多くの種類を使用でき、それらは粘性の異なるものを採用できることが記載されている。
さらに、引用例には「ボールとの衝撃がきわめて早いので目立つほど流動しない。むしろ、グリースは静水圧的に、衝撃部の壁を維持し、これを挿入部から離すような働きをする。」(上記(カ))と記載され、「潤滑剤」が打撃時に流動しないことも想定されている。
そして、引用例には「潤滑剤は塑性変形可能な材料であると考えられる。この材料の塑性変形は、バットフレームおよび挿入部の作用によって回復される。本発明の利点の一部は、潤滑剤であるか否かを問わず、間隙26において塑性変形可能なあらゆる材料を代用することによって得ることができるという点である。」(上記(サ))と記載され、「潤滑剤」として間隙26に存在するものの材料として塑性変形可能なあらゆるものを採用できることが記載されている。
これらの記載から、引用例には「潤滑剤」として、流動性のある物質から流動性のない物質まで様々な種類のものが記載されているのであって、引用発明の「潤滑剤」は、流動性を必ずしも必要とせず、あくまでも管状フレームと挿入部との相対向する部分が固着することなく、相対的な独立した運動を可能にするために設けられたものであるから、そのような作用効果を奏するものであればあらゆるものが採用可能であり、流動性のあるものに限定されず固体状のものを含むと解し得る。
本件出願時において、相対向する部材間の接着を阻害するために、それらの部材間に介在させる部材として、フィルムを用いることは周知・慣用技術であり(例えば、特開平4-91934号公報、特開平10-59476号公報、特開平10-292899号公報、特開平7-256772号公報、特開平8-230058号公報を参照。)、例示した上記特開平4-91934号公報に「テフロンフィルム」と記載されているように、テフロン(商標)は、フィルム形態のものが普通に知られている。
したがって、引用発明の固体状の「潤滑剤」として「テフロンフィルム」のような「フィルム」を採用することは、上記した周知・慣用技術から当業者が想到容易な事項であることから、相違点2に係る訂正発明1の発明特定事項は、引用例及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易になし得ることであるといえる。

なお、相違点2に関して、請求人は訂正審判請求書で「以上のとおり、刊行物6におけるグリースないし潤滑剤は流動性のある物質である。原文を正確に理解すればきわめて明白で、管状フレームと挿入部との間に『固体状潤滑剤』の層を設けたものが記載されている、と認定することは到底できないのである。」(第21頁第25?28行)と主張している。
また、同趣旨の主張を請求人は意見書で、「引用発明においては、間隙に設けられる『潤滑剤』は流動性を有するものでなければならない。」(第24頁第6?7行)などと主張している。

引用例に、「潤滑剤」として採用できるものとして、流動性を有するものも記載されていることは明らかであるから、引用例において、流動性を備えた潤滑剤を採用した際の潤滑剤や管状フレーム及び挿入部の挙動等が記載されているのは当然のことであるが、それらの記載があるからといって、請求人が主張するように「固体状」の潤滑剤が排除されるわけではない。

請求人は意見書で、この「潤滑剤の流動性」に関して、様々に主張していることから、以下では、その主張を個別に検討することとする。

最初に、請求人は、引用発明の奏する作用効果(トランポリン効果)の点から本件発明との相違点を指摘するために「引用例3欄19乃至25行」及び「同欄36乃至47行」の記載を引用し、「引用例の発明(『引用発明』)においては、バットを構成する外側の管状フレームと内側の挿入部との間に間隙を設け、一体ではないため、両方の管がバットの径方向に一体的でなく、相対的に独立してたわみ運動をすることにより、偏平剛性を小さくし、ボールの反発性能を高めるトランポリン効果を大きくしている。従って、この間隙に潤滑剤が設けられる場合においても、それは決して「間隙」の機能、すなわち管状フレームと挿入部がバットの径方向に一体ではなく、相対的に独立してたわみ運動をし、偏平剛性が小さくなるという機能を失わせてはならないのであり、よって潤滑剤は流動性を有するものでなくてはならないのである。」(意見書第12頁第14?22行)と主張している。

上記において請求人は、まず、管状フレームと挿入部とがバットの径方向に一体的でなく相対的に独立して動くことについて、訂正発明1との相違を主張しているが、当該訂正発明1においてもWBL層の上下に存在する「特定の層と層」が打撃の際に必ず径方向に一体的に移動するものとしてその発明特定事項が特定されているわけではなく、本件特許明細書のどこにもそのような事項は記載されていない。
そもそも、上記した繊維強化プラスチック素材の「特定の層と層」とは、間にWBL層を介在して分離しており、一体であるとは解し得ない。

次に、上記「トランポリン効果」について検討すると、本件発明のバットが奏する「トランポリン効果」について、意見書では、「これは、離型性を有するフィルム(ウィークバウンダリーレアー(WBL)層)の外側に位置する繊維強化プラスチックと内側に位置する繊維強化プラスチックがバットの円周方向及び長手方向にずれるように移動しうるためと考えられる。」(第7頁第4?7行)と説明されている。
これに対して、引用例の上記(カ)に「グリースは、衝撃部12と挿入部18との間の相対運動を許すので、挿入部は、衝撃部12のたわみの周りを独立して伸びることができる。」と記載されていることから、引用発明においても、訂正発明1と同様に、管状フレームと挿入部とが円周方向及び長手方向へ相対移動することが可能であり、そのことによって、訂正発明1と同様の「トランポリン効果」を奏するものと解される。
そうすると、請求人の上記主張は、単に、潤滑剤が流動性を有する場合には、訂正発明1の上記「トランポリン効果」に加えて付加的な効果があることを主張しているとしか解し得ない。
前記したように引用例には、流動性を有する潤滑剤が記載されていることは明らかであり、請求人の上記主張から、潤滑剤が流動性を有することによって、流動性を有さない場合とは異なる付加的な効果が生じ得ることは理解されるものの、だからといって、潤滑剤が流動性を有さない場合における潤滑剤が存在することにより生じる「トランポリン効果」が否定されるわけではないのだから、当該「付加的な効果」が、引用発明の潤滑剤として固体状のものはあり得ず、潤滑剤は流動性を有さなければならないことの根拠となるとは解されない。
なお、訂正発明1において、WBL層の弾性特性は特定されておらず任意であるから、WBL層のもつ弾性によっては、打撃時の衝撃によって、WBL層が弾性変形して僅かながら薄くなり、WBL層の内外にある繊維強化プラスチック素材の層が、相対的に近づくことも想定され、その場合、内外の繊維強化プラスチック素材の層は、相対移動したことになるから、訂正発明1のWBL層(固体状のもの)であっても、上記した付加的な効果が見込まれることになる。
したがって、「トランポリン効果」の点に基づいた、請求人の上記主張は採用できない。

次に、請求人は、上記で説示した上記(カ)の「目立つほど流動しない」との記載について、「なお、上記記載の『目立つほど流動しない』について、本件拒絶理由は『「潤滑剤」は流動しないことも想定されている』などと述べているが(20頁11行目以下)、『目立つほど流動しない』とは目立たないけれど流動することであり、全く反対である。」(意見書第15頁第10?13行)と主張している。

請求人の主張するように、この記載は流動することを記載したものであることは明らかであるが、一方で、目立つほどの流動を必要としないということであり、潤滑剤の「流動性」は必要な性質ではないことを意味するものと解される。
上記(カ)には「目立つほど流動しない」との記載に続いて「グリースは静水圧的に、衝撃部の壁を維持し、これを挿入部から離すような働きをする。」との記載されているが、この記載は、打撃時のグリース(潤滑剤)は、衝撃部の壁が挿入部に接近しないように「層」として(静水圧的に)衝撃部を支えることを意味するものと解されることからも、潤滑剤は流動性を必ずしも必要としていないことは明らかである。
そして、潤滑剤の流動性が必要な性質ではなく、打撃時に間隙を満たした潤滑剤が衝撃部を支える「層」として機能することを考慮すれば、上記で検討した径方向の相対移動についても、訂正発明1で考えられる程度の径方向の相対移動でも十分にその作用効果(トランポリン効果)を奏するものと解されるから、請求人の主張する上記の点は格別の相違点とは認められない。

次に、請求人は上記(サ)の「塑性変形」との訳について、「原文における『plastically deformable』、『plastic deformation』の訳には、プラスチック工業辞典(株式会社工業調査会)(参考のために添付資料(1)として添付する)による『plastic』の訳として、『可塑性の』という訳語を当てるのが正しいと考える。即ち、プラスチック工業辞典(株式会社工業調査会)によれば、『plastic』の訳としての『可塑性の』定義として、『半流動体に降伏価を越える力を加えたときに流動することのできる状態』とある。したがって、以下のように訳するのがより正確と考える。『潤滑剤は可塑性の変形をする材料であると考えられる。この材料の可塑性の変形は、バットフレームおよび挿入部の作用によって回復される。本発明のある範囲での利点は、潤滑剤であるか否かを問わず、間隙26において可塑性の変形をするあらゆる材料を代用することによっても得ることができる。』」(意見書第16頁第3?13行)と主張している。

しかしながら、広辞苑によると「可塑性」の意味は「塑性に同じ。[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]」とされており、実用プラスチック用語辞典(改訂第3版、大阪市立工業研究所プラスチック課編)によると「可塑性 plasticity=塑性 物体に力を加えるとヒズミを生ずる。応力が小さい間は応力を取去るとヒズミは消失する。すなわち弾性を示すが、応力がある値(弾性限度)以上になると応力を取去ってもヒズミの一部あるいは大部分がそのまま残り、材料は変形したままとなる。このような性質を可塑性又は塑性という。熱可塑性樹脂は加熱状態で可塑性を顕著に示す。すなわち、比較的小さい力で塑性変形ないし流動を起こすのでその名がある。」とあり、「可塑性」と「塑性」は同じ意味であると解される。
また、請求人が意見書で参考資料(1)として添付したプラスチック工業辞典の「plastic」の訳は、正確には、「2.可塑性の 半流動体に降伏価を越える力を加えたときに流動する(例えば成形する)ことのできる状態。」と記載されており、「成形する」際の流動であるから、加熱状態での流動、つまり、熱可塑性を示しているとも解されるから、この記載をもって、「plastic」が常温時の可塑性すなわち流動性を意味するとまではいえない。
上記した実用プラスチック用語辞典には「塑性変形 plastic deformation 固体は外力の作用で変形し、ヒズミを生ずるが、外力の小さい間は外力を除くとヒズミは消える(弾性変形)。しかし、弾性限界を越えた外力を加えると破壊することなしに連続的に変形し、外力を除いても永久ヒズミが残る。これを塑性変形という。一般に物体の塑性は温度の影響を強く受け、合成樹脂の中には熱を加えると容易に塑性を示すものがあり(この性質を熱可塑性という)、これらは熱と圧力とで任意の形状に成形することができる。」と記載されており、これらから、引用例の上記(サ)に記載された「塑性変形可能な材料」あるいは「可塑性の変形をする材料」には、固体が含まれると考えられる。
請求人は上記(サ)について、「上記のとおり『材料の塑性変形は、バットフレームおよび挿入部の作用によって“回復”される』と記載しているのであるところ、バットフレームおよび挿入部の作用によって“回復”されるのはその材料が流動性を有すると述べているに他ならない。」(意見書第15頁第26行?第16頁第1行)と主張しているが、「回復」は自然回復ではなく、「バットフレームおよび挿入部の作用」によるものであるから、一度塑性変形した固体物が、外力によって再度塑性変形してもとの状態(完全な復元かは問わない)に「回復」することを排除していない。
したがって、上記(サ)についての請求人の主張は、根拠がなく、「間隙26において塑性変形可能な(可塑性の変形をする)あらゆる材料を代用することによって得ることができる」との記載における代用される材料として固体状潤滑剤が含まれると解されることから、上記のように相違点2について想到容易とした点に何ら誤りはなく、請求人の主張は採用できない。

c.<相違点3>についての判断
引用発明の「潤滑剤」をフィルムとすることは、「b.上記<相違点2>についての判断」で記載したように想到容易な事項である。
また、当該「潤滑剤」が存在することとなる「間隙」は、その間が「約0.007インチ(約0.18mm)」程度のものでしかなく、フィルムからなる「固体状潤滑剤」を用いた際に、仮に潤滑剤と管状フレームとの間に隙間が残っていたとしても、その幅は、上記「約0.007インチ(約0.18mm)」よりもはるかに小さなものであるから、そのような僅かな隙間の存在が機能に影響を与えるものとは解せない。
さらに、訂正発明1では、離型性を有するフィルムからなるWBL層が全面にわたって繊維強化プラスチック素材の層と接していると特定されている訳ではなく、一部分のみが接するもの(すなわち、部分的には接していないもの)も含んでいる。
そして、引用例の上記(オ)には、挿入部を管状フレームに挿入する前に挿入部の表面を潤滑剤(グリース)で覆うことが記載されており、上記(ウ)、(エ)等には、挿入部の長手方向両端部が衝撃部の内壁に強く押し付けられて固定されることが記載されていることから、引用発明のフィルムからなる「固体状潤滑剤」の少なくとも長手方向両端において、挿入部の外表面だけではなく、管状フレームの内表面にもこの「固体状潤滑剤」が接していることが十分に想定される。
以上、引用発明において、WBL層に相当する「固体状潤滑剤」が管状フレームの内表面と部分的に接することは十分想定できることであり、また、「固体状潤滑剤」を挿入部上を予め覆うようして管状フレーム内に挿入した際に、固体状潤滑剤と管状フレームの内表面とが接しているか、両者の間に隙間が残っているのかは、格別な技術的意味をもたず、さらに、必要に応じて固体状潤滑剤と管状フレームの内表面との間に隙間が残らないようにして、潤滑剤が挿入部と管状フレームの両方の表面に接するようにする程度のことは、間隙の大きさと「潤滑剤」の層の厚さを考慮したり、挿入部の取付方法を工夫したりすることにより適宜になし得るような、いわば設計事項の範疇に含まれることであるといえるから、相違点3に係る訂正発明1の発明特定事項は、引用例に基づき、当業者が想到容易な事項であるといえる。

なお、相違点3に関して、請求人は訂正審判請求書で「すなわち、刊行物6のバットは、上記のとおり、金属の管状フレームと挿入部とは間隙をもつような構造を有することにより、打球による衝撃を受けた場合、管状フレームと挿入部とがバットの管の径方向において相対的に独立した運動をするようにさせることを可能にしたことを特徴とするものである。わざわざ設けた間隙に固体状物質を埋め込んで、間隙の存在しない状態を作り出すというようなことは、刊行物6の発明の思想とはまったく相反するものである。」(第22頁第10?15行)と主張している。
しかしながら、引用発明において、「間隙」は、管状フレームと挿入部とが独立して動くことが可能なよう、管状フレームと挿入部との間に潤滑剤を介在させるために設けられたものであって、潤滑剤と管状フレームや挿入部との間に、空間を必要としているものではない。たとえ挿入部のバット長手方向の両端部が管状フレームに固定され、かつ、(固体状)潤滑剤と管状フレーム及び挿入部との間に空間がなくても、それらが固着されない(滑りやすい)関係であるために、打撃時に管状フレームと挿入部の相対運動は許容されると解されることから、「間隙に固体状物質を埋め込んで、間隙の存在しない状態を作り出す」ようにしても、引用発明の発明の思想と反することにはならず、請求人の上記主張は採用できない。
また、この点について、請求人はさらに意見書で「引用発明の『潤滑剤』をフィルムとすることは、引用発明の技術思想に反し、あり得ない。」(第27頁第12?13行)、「外側の管状フレームと内側の管状挿入部の二重管で構成するバットは引用発明以前に存在していたが(フジイの米国特許第3,963,239号等)、内側の管状挿入部が外側の管状フレームに『ぴったりとはめ込まれた』のでは『単にバットの衝撃部の壁を厚くする役割をするものであ』り、良好な弾性たわみが生じないとして、引用発明においては、外側と内側の管の間に間隙を設け、バットを構成する両方の管がバットの径方向に一体ではなく、相対的に独立してたわみ運動をするようにしたのである。間隙に流動性のない固体状物質を埋め込んで、間隙の存在しない状態を作り出したのでは、上記フジイ特許との差異として、引用発明が提案する技術事項を否定することになるのであり、およそ引用例の記載に基づかないものといわざるを得ない。」(第28頁第1?10行)、「審判官は『(固体状)潤滑剤と管状フレーム及び挿入部との間に空間がなくても、それらが固着されない(滑りやすい)関係にあるために、打撃時に管状フレームと挿入部の相対運動は許容されると解される』(訂正拒絶理由通知書第22頁2行?4行)と述べているが、これは後知恵である。引用発明は打撃時に管状フレームと挿入部の“半径方向”の相対的な移動が間隙26の潤滑油により生じることを基本的な思想として有しているものであり、『潤滑剤と管状フレーム及び挿入部との間に空間がなくても、それらが固着されない(滑りやすい)関係である』などという技術的事項は、引用発明の技術的思想とは全く異なり、当業者が周知・慣用技術を加味しても、引用例からは得ることの出来ない事項である。」(第28頁第17?26行)と主張している。
しかしながら、上記「b.<相違点2>についての判断」でも記載したように、上記(カ)には「グリースは、衝撃部12と挿入部18との間の相対運動を許すので、挿入部は、衝撃部12のたわみの周りを独立して伸びることができる。間隙内で密閉されているグリースは、もうひとつの利点を提供する。ボールとの衝撃がきわめて早いので目立つほど流動しない。むしろ、グリースは静水圧的に、衝撃部の壁を維持し、これを挿入部から離すような働きをする。この場合、衝撃部と挿入部との間でグリースの実質的な層が維持され、よって、衝撃部との相対的な挿入部の運動が促進される。」と記載されており、潤滑剤(グリース)は、流動性を有するものであろうと、打撃時に衝撃部(管状フレーム)と挿入部との間にとどまり、実質的な層として維持されるものであり、その潤滑剤の存在により挿入部はたわみ時に衝撃部と独立して相対的に伸びる、つまり、円周方向及び長手方向に移動するものであることが明記されていることからして、「半径方向の相対的な移動」が潤滑剤により生じることを基本的な思想として有しているなどとは認められず、潤滑剤として、打撃時に「層」として維持されるフィルムを用いることは、引用発明の技術思想に何ら反することではなく、相対的な移動を可能にする点で「上記フジイ特許」とも明らかに相違するのであって、請求人の上記主張は引用例の記載に基づかないか、一部の記載にのみ基づくものであって、引用発明の技術事項を説明する上では採用することはできない。
さらに、請求人は引用発明と訂正発明1との相違を主張するに際し、意見書の各項において、引用発明はバットの径方向に隙間を設け、一体でないことが必須であって、その点において両者が相違していることを再三主張している。
上記主張は、訂正発明1におけるバット本体を構成する繊維強化プラスチック素材がWBL層との間で径方向に隙間なく「一体」であることを前提にした主張であると解されるが、「第6 1.(ウ)」でも記載したように、訂正発明1の「離型性を有するフィルムを前記繊維強化プラスチック素材の内部の特定の層と層との間にこれらの層と接して重なるようにして前記層と層との間の接着を阻害する接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設けた」との発明特定事項の記載では、どちらの層にどのように接し、また、重なるのかを明確に特定しているとはいえないから、上下両方の層に接しているものにのみ限定されているとはいえない。
また、上下両方の層に接しているものである場合でも、それが、隙間なく全面で接しているものに特定されていない(なお、訂正発明1は、このように明確な特定がされておらず、上下両方の層に接しているものも含まれることから、上記<相違点3>は、あえて訂正発明1が上下両方の層に接しているものであると特定して、当該相違点3についての判断を行った。したがって、接しているのが一方のみの場合においては、相違点3は存在しないことになる。)。
さらに言えば、訂正発明1は、発明特定事項としてバットの積層構造が特定されているだけであり、本件特許明細書の段落【0010】に記載の「内圧成形方法」、段落【0012】に記載の「レジン・トランスファー・モールディング成形法(RTM成形法)」、段落【0013】に記載の「フィラメントワインディング成形法やレジン・インジェクション・モールディング成形法(RIM成形法)」に製造方法が限定されることはないのだから、引用例のように、個別に製造した繊維強化プラスチックの層をWBL層を間に介在させて長手方向両端で固定して形成されたようなものも当然に包含されることとなる。
本件特許明細書に記載された上記の製造方法により形成されたものであるならば、上下両層がWBL層の全面で接するものに特定して理解することができるものの、訂正発明1の発明特定事項から、訂正発明1をそのようなものに限定して解することはできない。
したがって、請求人が意見書で再三主張している「間隙」および「一体」の点は、訂正発明1の発明特定事項の記載に基づいた主張とはいえないから、相違点3の判断を変更する根拠となるようなものではなく、採用することはできない。

よって、相違点3に係る訂正発明1の発明特定事項は、引用例に基づいて、当業者が容易になし得ることである。

そして、相違点1?3に係る訂正発明1の発明特定事項を採用することによる効果も、格別のものではなく、当業者が予測し得る程度のことである。

以上、訂正発明1は、引用例及び周知・慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3-2)訂正発明2について
訂正発明2は、訂正発明1の発明特定事項を全て含み、さらに、「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が打球部に設けられた」との発明特定事項を含むものであるが、引用発明は衝撃部に対応した管状フレーム内に挿入部を設け、挿入部の外面と管状フレームの内面との間に固体状潤滑剤の層(WBL層に相当)を設けたものであって、上記衝撃部は、訂正発明2の打球部に相当するから、引用発明は上記の発明特定事項を備えたものであり、この点で相違しない。
よって、訂正発明2と引用発明との相違点及びその判断については、訂正発明1についての上記記載をそのまま援用することができる。

したがって、訂正発明2は、引用例及び周知・慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3-3)訂正発明3について
訂正発明3は、訂正発明1または訂正発明2の発明特定事項を全て含み、さらに、「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に1層だけ設けられた」との発明特定事項を含むものであるが、引用発明はウィークバウンダリーレアー(WBL)層に相当する「固体状潤滑剤の層」を「少なくとも1つ」設けたものであるから、当該発明特定事項を備えたものであり、この点で相違しない。
よって、訂正発明3と引用発明との相違点及びその判断については、訂正発明1及び訂正発明2についての上記記載をそのまま援用することができる。

したがって、訂正発明3は、引用例及び周知・慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、平成20年1月23日付け訂正拒絶理由通知において、訂正発明3を平成20年2月18日付け手続補正による補正の前の全文訂正明細書に記載された特許請求の範囲請求項3に記載されたとおりのものとして認定したため、訂正拒絶理由通知書においての「訂正発明3」は、
「【請求項3】前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が1層だけ設けられたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット。」
であるとともに、当該補正前の訂正発明3についての訂正拒絶理由は、
「訂正発明3は、訂正発明1または訂正発明2の発明特定事項を全て含み、さらに、『前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が1層だけ設けられた』との発明特定事項を含むものであるが、引用発明はウィークバウンダリーレアー(WBL)層に相当する『固体状潤滑剤の層』を『少なくとも1つ』設けたものであるから、当該発明特定事項を備えたものであり、この点で相違しない。
よって、訂正発明3と引用発明との相違点及びその判断については、訂正発明1及び訂正発明2についての上記記載をそのまま援用することができる。

したがって、訂正発明3は、引用例及び周知・慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。」
というものであった。
補正前の特許請求の範囲請求項3は、上記「第3 (5)」に記載したように、訂正事項dとして、「繊維強化プラスチック素材の層間に」との記載を削除する訂正を含むものであり、その訂正は特許請求の範囲を拡張又は変更するものと解されるものであった(但し、請求人が訂正審判請求書に明示的に示した訂正事項ではないため、訂正拒絶理由通知書においては、正式な訂正拒絶理由とはしていない。)が、上記「第5」で記載したように、平成20年2月18日付け手続補正により訂正事項dをなかったものとする補正がなされたため、当該補正前後で比較した場合、補正後の特許請求の範囲請求項3は「繊維強化プラスチック素材の層間に」との記載を追加する補正がなされており、補正前の請求項3に対して、補正後の請求項3は、減縮されたものとなっている。
しかしながら、WBL層が「繊維強化プラスチック素材の層間に」設けられている点は、上記「第6 2.(3)(3-1)訂正発明1について」で説示したように引用例及び周知・慣用技術から想到容易な事項であり、その点は、訂正拒絶理由として既に通知されている事項である。
そして、請求項3(訂正発明3)は補正前も後も、請求項1(訂正発明1)を引用しており、上記のように訂正拒絶理由として、訂正発明1についての判断を援用していることからして、補正により請求項3に「繊維強化プラスチック素材の層間に」との記載が追加されたとしても、そのことによって補正後の訂正発明3に対して新たに訂正拒絶理由を通知する必要はなく、補正前の訂正発明3に対して通知した訂正拒絶理由は、補正後の訂正発明3に対して通知したものであるとみなし得るので、再度の訂正拒絶理由の通知を必要としない。

(3-4)訂正発明4について
訂正発明4は、訂正発明1または訂正発明2の発明特定事項を全て含み、さらに、「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に2層以上設けられた」との発明特定事項を含むものである。
よって、訂正発明4において、訂正発明1及び訂正発明2の発明特定事項と同じ部分についての相違点及びその判断は、上記記載をそのまま援用することができ、残る相違点は、以下のものとなる。

<相違点4>訂正発明4では「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に2層以上設けられた」との特定がなされているのに対して、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

a.<相違点4>についての判断
引用発明は「少なくとも1つの繊維強化プラスチック製の挿入部」を具備するものであり、2以上の挿入部を設けたバットとすることを包含している。
上記認定の根拠とした引用例の【請求項18】には「ほぼ円形の断面を有し、その外径が前記フレームの衝撃部の内部より小さく、前記衝撃部内で固定される少なくとも1つの挿入部」と記載されているだけであって、挿入部を2以上設ける場合の挿入部の配置について、その記載だけでは特定できない。
挿入部を2以上設ける場合、2つ目以降の挿入部をどの部分にどのように設け、潤滑剤の層がどのように設けられるのかが、訂正発明4と引用発明とを対比判断する上で重要となるので、以下に検討する。

まず、挿入部の設け方について検討する。
引用例には、「管状挿入部18の第1端部20は、衝撃部12に挿入され、さらに、直径が減少するテーパ部14の内壁に接するように強く押し付けられ、これにより第一の締まりばめが形成される。管状挿入部18の第2端部22は、管状挿入部18が第1締まりばめで固定された時点で、衝撃部12の先端より内側に位置する。第2締まりばめは、挿入部の第2端部22の上部に位置する衝撃部の先端部分を曲げることにより形成される。この曲げられた部分が、管状フレーム11のうち直径が減少するヘッド部24を形成する。」(上記(エ)を参照)と記載されている。
この記載によれば、挿入部の一方の端部(第1端部20)は、衝撃部の一方に隣接したテーパ部に位置し、他方の端部(第2端部22)は衝撃部の他方に隣接したヘッド部に位置しており、挿入部は衝撃部の両端部で接合されていると解される。
また、引用例には「挿入部18が衝撃部12内に板ばねのように取り付けられていることにより、ボールへのパワー伝導を増大させる作用を持つ反発が得られる。」(上記(カ)を参照)ことが記載されている。
この記載は、挿入部が衝撃部の両端部で接合されていることを前提に、挿入部が打撃時に板ばねとしての作用効果を発揮するとしているものと解される。
さらに、管状フレームの「衝撃部」とは、バットにおいてボールを当てて打撃力を伝達する部分を表す用語であると解される。
以上、挿入部が1つの場合、上記(エ)の記載のように挿入部は衝撃部の両端部で接合されること、及び、上記(カ)の記載のように挿入部が衝撃部内に板ばねのように取り付けられていることにより作用効果を発揮するものであること、さらには、「衝撃部」がボールを打つ部分であって、実際の使用において衝撃部のどこにボールが当たるか分からないこと等を考慮すると、挿入部を2以上設ける場合、2以上の挿入部のそれぞれが、その両端部を、管状フレームの衝撃部の両端に接合されるように、バットの中心軸に垂直な断面でみて、同心円を描くように層状に設けられるものと解するのが自然である(なぜならば、例えば、2以上の挿入部を設ける場合、衝撃部をバットの長手方向で複数に分割し、それぞれの部分において挿入部を両端で接合するように設けることも考えられるが、そのような場合、各分割部分の境界部は、挿入部の接合部となってしまい、上記(カ)の作用効果を奏しない部分が衝撃部内に出来てしまうことになるので、そのような構造を採用することは不合理であるからである。)。

次に、潤滑剤の層の設け方について検討する。
2以上の挿入部を設けた場合の潤滑剤の充填の仕方については、引用例には明示的には何ら記載されていないのだから、2以上の挿入部の間には潤滑剤を充填しないことも想定され得る。
実際に、引用例には「挿入部とフレームの独立した動きを可能にするため、それ自体が滑りやすくなっている挿入部およびバットフレームの材料も、同様の機能を果たすことができる。実際には、結果として挿入部とバットフレームの独立した動きを可能にするように構造が構成されていれば、潤滑剤はすべて省略することができる。」(上記(コ))と記載されており、挿入部が1つの場合においても潤滑剤の層を省略することの記載がある。
しかしながら、それは、上記のように挿入部と管状フレームとの材料自体の滑りやすさにより、独立した動きが可能な場合であって、逆に、挿入部と管状フレーム自体が滑りやすい材料でない場合は、潤滑剤の層を設ける必要があることを意味していると解される。
また、2以上の挿入部を設ける構造を採用し、挿入部がそれ自体滑りやすい材料でない場合においても、挿入部を2以上設ける目的が、仮に、挿入部の層厚を単に厚くすることであるとした場合は、潤滑剤を充填する必要はないが、そのような目的であれば、1つの挿入部の層厚を厚くすることで足りるのだから、わざわざ、別部材とした2以上の挿入部を挿入する必要もなければ、上記したような2以上の挿入部それぞれの両端部を、管状フレームの衝撃部の両端で接合する構造とする必要はないことになるので、引用発明において、このような目的で2以上の挿入部を設けるとは解せない。
引用発明において、挿入部を設ける目的は、上記(カ)などに記載されているように、衝撃部と挿入部との間で相対的な独立した運動をさせて打球へのパワー伝導を向上させることにあることを考慮すれば、2以上の挿入部を設ける構造を採用した際にも、挿入部自体が滑りやすい材料でないものであるならば、目的とする打球へのパワー伝導作用をさらに向上させるべく、2以上の挿入部間に潤滑剤の層を設けて各挿入部が衝撃部との間で相対的な独立した運動をできるようにすることは当然に想定され得ることと解される。
したがって、引用発明が、「少なくとも1つの繊維強化プラスチック製の挿入部」を具備するものであり、2以上の挿入部を設けたバットとすることを包含している点、及び、引用発明において潤滑剤の層を設ける技術的意義等を考慮するならば、これら引用例に記載された事項に触れた当業者は、その記載から同心円を描くように層状に設けられた2以上の挿入部の間に潤滑剤の層を設けること、すなわち、接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を2層以上設けることを容易に想到し得るものと認められる。
よって、相違点4に係る訂正発明4の発明特定事項は、引用発明及び引用例の他の記載に基づいて、当業者が想到容易な事項であるといえる。

したがって、訂正発明4は、引用例及び周知・慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、平成20年1月23日付け訂正拒絶理由通知において、訂正発明4を平成20年2月18日付け手続補正による補正の前の全文訂正明細書に記載された特許請求の範囲請求項4に記載されたとおりのものとして認定したため、訂正拒絶理由通知書においての「訂正発明4」は、
「【請求項4】前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が2層以上設けられたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット。」
であるとともに、当該補正前の訂正発明4についての訂正拒絶理由は、
「訂正発明4は、訂正発明1または訂正発明2の発明特定事項を全て含み、さらに、『前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が2層以上設けられた』との発明特定事項を含むものである。
よって、訂正発明4において、訂正発明1及び訂正発明2の発明特定事項と同じ部分についての相違点及びその判断は、上記記載をそのまま援用することができ、残る相違点は、以下のものとなる。

<相違点4>訂正発明4では『前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が2層以上設けられた』との特定がなされているのに対して、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

a.<相違点4>についての判断
引用発明は『少なくとも1つの繊維強化プラスチック製の挿入部』を具備するものであり、2以上の挿入部を設けたバットとすることを包含している。
上記認定の根拠とした引用例の【請求項18】には「ほぼ円形の断面を有し、その外径が前記フレームの衝撃部の内部より小さく、前記衝撃部内で固定される少なくとも1つの挿入部」と記載されているだけであって、挿入部を2以上設ける場合の挿入部の配置について、その記載だけでは特定できない。
挿入部を2以上設ける場合、2つ目以降の挿入部をどの部分にどのように設け、潤滑剤の層がどのように設けられるのかが、訂正発明4と引用発明とを対比判断する上で重要となるので、以下に検討する。
まず、挿入部の設け方について検討する。
引用例には、『管状挿入部18の第1端部20は、衝撃部12に挿入され、さらに、直径が減少するテーパ部14の内壁に接するように強く押し付けられ、これにより第一の締まりばめが形成される。管状挿入部18の第2端部22は、管状挿入部18が第1締まりばめで固定された時点で、衝撃部12の先端より内側に位置する。第2締まりばめは、挿入部の第2端部22の上部に位置する衝撃部の先端部分を曲げることにより形成される。この曲げられた部分が、管状フレーム11のうち直径が減少するヘッド部24を形成する。』(上記(エ)を参照)と記載されている。
この記載によれば、挿入部の一方の端部(第1端部20)は、衝撃部の一方に隣接したテーパ部に位置し、他方の端部(第2端部22)は衝撃部の他方に隣接したヘッド部に位置しており、挿入部は衝撃部の両端部で接合されていると解される。
また、引用例には『挿入部18が衝撃部12内に板ばねのように取り付けられていることにより、ボールへのパワー伝導を増大させる作用を持つ反発が得られる。』(上記(カ)を参照)ことが記載されている。
この記載は、挿入部が衝撃部の両端部で接合されていることを前提に、挿入部が打撃時に板ばねとしての作用効果を発揮するとしているものと解される。
さらに、管状フレームの『衝撃部』とは、バットにおいてボールを当てて打撃力を伝達する部分を表す用語であると解される。
以上、挿入部が1つの場合、上記(エ)の記載のように挿入部は衝撃部の両端部で接合されること、及び、上記(カ)の記載のように挿入部が衝撃部内に板ばねのように取り付けられていることにより作用効果を発揮するものであること、さらには、『衝撃部』がボールを打つ部分であって、実際の使用において衝撃部のどこにボールが当たるか分からないこと等を考慮すると、挿入部を2以上設ける場合、2以上の挿入部のそれぞれが、その両端部を、管状フレームの衝撃部の両端に接合されるように、バットの中心軸に垂直な断面でみて、同心円を描くように層状に設けられるものと解するのが自然である(なぜならば、例えば、2以上の挿入部を設ける場合、衝撃部をバットの長手方向で複数に分割し、それぞれの部分において挿入部を両端で接合するように設けることも考えられるが、そのような場合、各分割部分の境界部は、挿入部の接合部となってしまい、上記(カ)の作用効果を奏しない部分が衝撃部内に出来てしまうことになるので、そのような構造を採用することは不合理であるからである。)。
次に、潤滑剤の層の設け方について検討する。
2以上の挿入部を設けた場合の潤滑剤の充填の仕方については、引用例には明示的には何ら記載されていないのだから、2以上の挿入部の間には潤滑剤を充填しないことも想定され得る。
実際に、引用例には『挿入部とフレームの独立した動きを可能にするため、それ自体が滑りやすくなっている挿入部およびバットフレームの材料も、同様の機能を果たすことができる。実際には、結果として挿入部とバットフレームの独立した動きを可能にするように構造が構成されていれば、潤滑剤はすべて省略することができる。』(上記(コ))と記載されており、挿入部が1つの場合においても潤滑剤の層を省略することの記載がある。
しかしながら、それは、上記のように挿入部と管状フレームとの材料自体の滑りやすさにより、独立した動きが可能な場合であって、逆に、挿入部と管状フレーム自体が滑りやすい材料でない場合は、潤滑剤の層を設ける必要があることを意味していると解される。
また、2以上の挿入部を設ける構造を採用し、挿入部がそれ自体滑りやすい材料でない場合においても、挿入部を2以上設ける目的が、仮に、挿入部の層厚を単に厚くすることであるとした場合は、潤滑剤を充填する必要はないが、そのような目的であれば、1つの挿入部の層厚を厚くすることで足りるのだから、わざわざ、別部材とした2以上の挿入部を挿入する必要もなければ、上記したような2以上の挿入部それぞれの両端部を、管状フレームの衝撃部の両端で接合する構造とする必要はないことになるので、引用発明において、このような目的で2以上の挿入部を設けるとは解せない。
引用発明において、挿入部を設ける目的は、上記(カ)などに記載されているように、衝撃部と挿入部との間で相対的な独立した運動をさせて打球へのパワー伝導を向上させることにあることを考慮すれば、2以上の挿入部を設ける構造を採用した際にも、挿入部自体が滑りやすい材料でないものであるならば、目的とする打球へのパワー伝導作用をさらに向上させるべく、2以上の挿入部間に潤滑剤の層を設けて各挿入部が衝撃部との間で相対的な独立した運動をできるようにすることは当然に想定され得ることと解される。
したがって、引用発明が、『少なくとも1つの繊維強化プラスチック製の挿入部』を具備するものであり、2以上の挿入部を設けたバットとすることを包含している点、及び、引用発明において潤滑剤の層を設ける技術的意義等を考慮するならば、これら引用例に記載された事項に触れた当業者は、その記載から同心円を描くように層状に設けられた2以上の挿入部の間に潤滑剤の層を設けること、すなわち、接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を2層以上設けることを容易に想到し得るものと認められる。
よって、相違点4に係る訂正発明4の発明特定事項は、引用発明及び引用例の他の記載に基づいて、当業者が想到容易な事項であるといえる。

したがって、訂正発明4は、引用例及び周知・慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。」
というものであった。
補正前の特許請求の範囲請求項4は、上記「第3 (5)」に記載したように、訂正事項eとして、「繊維強化プラスチック素材の層間に」との記載を削除する訂正を含むものであり、その訂正は特許請求の範囲を拡張又は変更するものと解されるものであった(但し、請求人が訂正審判請求書に明示的に示した訂正事項ではないため、訂正拒絶理由通知書においては、正式な訂正拒絶理由とはしていない。)が、上記「第5」で記載したように、平成20年2月18日付け手続補正により訂正事項eをなかったものとする補正がなされたため、当該補正前後で比較した場合、補正後の特許請求の範囲請求項4は「繊維強化プラスチック素材の層間に」との記載を追加する補正がなされており、補正前の請求項4に対して、補正後の請求項4は、減縮されたものとなっている。
しかしながら、WBL層が「繊維強化プラスチック素材の層間に」設けられている点は、上記「第6 2.(3)(3-1)訂正発明1について」で説示したように引用例及び周知・慣用技術から想到容易な事項であり、その点は、訂正拒絶理由として既に通知されている事項である。
そして、請求項4(訂正発明4)は補正前も後も、請求項1(訂正発明1)を引用しており、上記のように訂正拒絶理由として、訂正発明1についての判断を援用していることからして、補正により請求項4に「繊維強化プラスチック素材の層間に」との記載が追加されたとしても、そのことによって補正後の訂正発明4に対して新たに訂正拒絶理由を通知する必要はなく、補正前の訂正発明4に対して通知した訂正拒絶理由は、補正後の訂正発明4に対して通知したものであるとみなし得るので、再度の訂正拒絶理由の通知を必要としない。

第7 むすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1?3号に掲げられたいずれの事項をも目的としない訂正事項を含むものであり、仮に、訂正事項を同法同条第1項ただし書第1号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認めたとしても、訂正発明1?4は、同法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであって、同法第126条第5項の規定に違反するものである。
したがって、いずれにしても、本件訂正は認められない。
 
審理終結日 2008-03-31 
結審通知日 2008-04-02 
審決日 2008-04-15 
出願番号 特願平11-11325
審決分類 P 1 41・ 851- Z (A63B)
P 1 41・ 856- Z (A63B)
P 1 41・ 853- Z (A63B)
P 1 41・ 852- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 英司  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 尾崎 俊彦
酒井 進
坂田 誠
七字 ひろみ
登録日 2003-09-19 
登録番号 特許第3474793号(P3474793)
発明の名称 野球又はソフトボール用のFRP製バット  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 相良 由里子  
代理人 水沼 淳  
代理人 田巻 文孝  
代理人 中村 稔  
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