• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1201320
審判番号 不服2008-2825  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-07 
確定日 2009-07-31 
事件の表示 平成 8年特許願第187686号「ハイドロダイナミック式のトルクコンバータ」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 2月 7日出願公開、特開平 9- 32904〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年7月17日(パリ条約による優先権主張1995年7月19日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成19年11月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年2月7日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年2月28日付けで明細書に対する手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2.本件補正について
本件補正は、明細書の特許請求の範囲の補正をするものであるところ、本件補正前後の特許請求の範囲の記載を比較してみれば、本件補正前の請求項37が削除され、その他、請求項1ないし36については、本件補正の前後を通じて記載の変更はなされていない。
そうすると、本件補正は、新規事項を追加するものではなく、また、その目的は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定する請求項の削除に合致するものである。

3.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし36に係る発明は、平成15年7月9日付け手続補正、平成18年11月15日付け手続補正、平成19年8月27日付け手続補正及び本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし36に記載されたとおりのものであると認めるところ、その請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「ハイドロダイナミック式のトルクコンバータであって、ポンプ車とタービン車とを受容しているケーシングと、トルクコンバータロックアップクラッチと、ねじり振動減衰器とを有し、ポンプ車が駆動装置により駆動可能であり、ねじり振動減衰器がトルクコンバータの入力部分と出力部分との間に配置されており、タービン車が軸方向でポンプ車と前記ケーシングとの間に配置されている形式のものにおいて、タービン車がトルクコンバータロックアップクラッチに対する摩擦面を備えており、トルクコンバータロックアップクラッチが伝達しようとするトルクを調節するか又は変化させるために、タービン車とトルクコンバータロックアップクラッチとが軸方向で互いに相対的に移動することを特徴とする、ハイドロダイナミック式のトルクコンバータ。」

4.刊行物に記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本願のパリ条約に基づく優先日前に日本国内において頒布された刊行物である実願昭61-28193号(実開昭62-141955号)のマイクロフィルム(以下、単に「刊行物」という。)には、図面とともに以下の記載がある(審決注:一部、旧漢字の表記を変更した部分がある。)。
a)「この考案は、ロツクアツプ付トルクコンバータに関するものである。」(第2ページ第3、4行)

b)「添付図面はこの考案の1実施例を示す。インペラ1とタービン2とはステータ翼車3を挟んで対向して配置される。インペラ1は、溶接固定されたコンバータケース4及びドライブプレート5を介して入力軸6に固定され、タービン2はハブ7を介して出力軸8に固定され、またステータ翼車3はワンウエイクラツチ9を介して車体側部材たるフロントカバー10のスリーブ10aに結合される。」(第4ページ第17行?第5ページ第5行)

c)「ロツクアツプクラツチ15は、コンバータケース4の短筒部4aにOリング22を介して摺動自在に嵌合させて設けたロツクアツプピストン17を、捩り振動を緩和するトーシヨンダンパ16を介してコンバータケース4にリベツト20にて一体的に結合して構成される。トーシヨンダンパ16は、ドライブプレート18とドリブンプレート19との間に弾性体21を介装して成り、両プレート18,19の若干の差動は弾性的に許容される。このドリブンプレート19の爪部19aがロツクアツプピストン17の切欠き17aに係合している。」(第5ページ第12行?第6ページ第3行)

d)「かくして、ロツクアツプ時には、ロツクアツプピストン17が図上にて右方に摺動して、ロツクアツプピストン17の片面に固着したロツクアツプフェーシング27がタービン2の外周面に密接して、インペラ1とタービ
ン2とを直結する。」(第6ページ第17行?第7ページ第1行)

e)刊行物の図から、「インペラ1」を構成するケースと「コンバータケース4」とが溶接固定され、これにより全体的なケーシングが構成され、そこに「インペラ1」と「タービン2」とが受容されているとともに、「タービン2」は、軸方向で「インペラ1」と「コンバータケース4」との間に配置されていることが看取される。

f)刊行物の図から、「ドライブプレート18」は、「リベット20」により「コンバータケース4」を介して「入力軸6」に連結されるとともに、「ドリブンプレート19は、「爪部19a」を介して「ロックアップピストン17」に係合していることがそれぞれ看取される。

以上の記載を総合すると、この刊行物には、次の発明が記載されているものと認める(以下、「引用発明」という。)
「インペラ1と、タービン2と、ステータ翼車3とにより構成されたトルクコンバータであって、インペラ1とタービン2とがインペラ1を構成するケースとコンバータケース4とが溶接固定されることにより構成されたケーシングに受容されるとともに、ロックアップクラッチ15と、トーションダンパ16とを有し、インペラ1が入力軸6に固定され、トーションダンパ16が入力軸6に連結されたドライブプレート18と、ロックアップピストン17に係合されたドリブンプレート19と、ドライブプレート18とドリブンプレート19との間に介装された弾性体21とから構成されており、タービン2が軸方向でインペラ1とコンバータケース4との間に配置されているトルクコンバータにおいて、ロックアップフェーシング27がロックアップピストン17の片面に固着され、ロックアップピストン17が軸方向に移動し、ロックアップフェーシング27がタービン2の外周面に密接して、インペラ1とタービン2とを直結するようになされているトルクコンバータ。」

5.対比
(1)一致点
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「トルクコンバータ」は、その機能ないし構造からみて、本願発明における「ハイドロダイナミック式のトルクコンバータ」に相当し、以下同様に、「インペラ1」は「ポンプ車」に、「タービン2」は「タービン車」に、「インペラ1を構成するケースとコンバータケース4とが溶接固定されることにより構成されたケーシング」は「ケーシング」に、それぞれ相当する。また、引用発明における「インペラ1」は、「入力軸6に固定」されていることから、本願発明と同様に、「ポンプ車が駆動装置により駆動可能」とされるものである。
次に、引用発明における「トーションダンパ16」は、「入力軸6に連結されたドライブプレート18と、ロックアップピストン17に係合されたドリブンプレート19と、ドライブプレート18とドリブンプレート19との間に介装された弾性体21とから構成」されており、これによって、上述4.c)に摘記したとおり「ドライブプレート18」と「ドリブンプレート19」との間の若干の差動が弾性的に許容されるようになされているところ、その機能ないし構造からみれば、本願発明における「ねじり振動減衰器」に相当する。また、この「ドライブプレート18」は、「入力軸6」、すなわち、本願発明における「トルクコンバータ」の「入力部分」に相当する部位に連結されるとともに、引用発明の「ドリブンプレート19」は、「ロックアップピストン17」に系合し、ロックアップ時には「タービン2」、すなわち、本願発明における「トルクコンバータ」の「出力部分」に相当する部位に連結されるものである。そうすると、この引用発明における「トーションダンパ16」の配置は、本願発明と同様に、「トルクコンバータの入力部分と出力部分との間に配置」されているものに外ならない。
さらに、引用発明における「タービン2」は、「軸方向でインペラ1とコンバータケース4との間に配置されている」ものであるから、本願発明と同様に、「タービン車が軸方向でポンプ車と前記ケーシングとの間に配置されている」ものである。
そして、引用発明における「ロックアップクラッチ15」は、「ロックアップフェーシング27がロックアップピストン17の片面に固着」されるとともに、「ロックアップピストン17が軸方向に移動し、ロックアップフェーシング27がタービン2の外周面に密接」するものであるところ、これによって「ロックアップクラッチ15」がトルクを伝達するようになるのであるから、これは、ひとまず本願発明における「トルクコンバータロックアップクラッチ」に相当する。
してみれば、本願発明と引用発明とは、本願発明の表記にならえば、次の点で一致する。
「ハイドロダイナミック式のトルクコンバータであって、ポンプ車とタービン車とを受容しているケーシングと、トルクコンバータロックアップクラッチと、ねじり振動減衰器とを有し、ポンプ車が駆動装置により駆動可能であり、ねじり振動減衰器がトルクコンバータの入力部分と出力部分との間に配置されており、タービン車が軸方向でポンプ車と前記ケーシングとの間に配置されている形式のハイドロダイナミック式のトルクコンバータ。」

(2)相違点
一方、本願発明と引用発明とでは、次の点で一応相違する。
a)相違点1
本願発明では、「タービン車がトルクコンバータロックアップクラッチに対する摩擦面を備えて」いるものであるのに対して、引用発明においては、「ロックアップフェーシング27がロックアップピストン17の片面に固着」されるとともに、「ロックアップフェーシング27がタービン2の外周面に密接」する構成となっており、「タービン2」の表面に摩擦面を備えているか否か必ずしも明確でない点。

b)相違点2
本願発明では、「トルクコンバータロックアップクラッチが伝達しようとするトルクを調節するか又は変化させるために、タービン車とトルクコンバータロックアップクラッチとが軸方向で互いに相対的に移動する」ものであるのに対して、引用発明では、「ロックアップピストン17が軸方向に移動し、ロックアップフェーシング27がタービン2の外周面に密接」する、すなわち、「タービン2」と「ロックアップピストン17」とが本願発明と同様に軸方向で互いに相対移動するという点では同様であるものの、「ロックアップクラッチ15」が係合又は開放のみであり、本願発明のように「伝達しようとするトルクを調節するか又は変化させる」ものであるとまでいえるか否か必ずしも明確でない点。

6.相違点の判断
(1)相違点1について
まず、「摩擦面」自体について、一般に「摩擦」とは、「こすり合わせること。すれあううこと。」や「接触している2物体が相対的に運動し、または運動し始めるとき、その接触面で運動を妨げようとする向きに力の働く現象、またはその力。」(広辞苑第五版、株式会社岩波書店)を意味するものであるから、「摩擦面」とは、そのような相対的に運動してこすり合う面ないし運動を妨げようとする向きに力の働く面を意味するものと理解し得るのであって、いわゆる摩擦材が設けられた面のみを意味するとは、必ずしもいうことができない。
また、この点に関し、本願の明細書には、次のような記載がある。
「・・・薄板82が範囲85において弾性的な部材86で弾性的に支持される結果、摩擦ライニングの摩擦面81もしくは摩擦材料の保持体は傾倒可能に支承され、ひいては摩擦ライニング81がケーシングシェルの範囲に設けられた対応摩擦面87に対して負荷された場合に常に理想的な面圧が達成される。」(段落【0048】)
そうすると、本願発明においても、「摩擦面」とは、上述の「摩擦ライニングの摩擦面81」のように、いわゆる摩擦材が設けられた面だけではなく、「対応摩擦面87」のように、摩擦材が設けられていない面も含んでいるものと理解される。
これらの状況にかんがみれば、引用発明では、「ロックアップフェーシング27」と「タービンの外周面」とが密接することによりその両面に摩擦が生じるものであるから、この「タービンの外周面」の部分は、「摩擦面」であると理解し得るものであって、上述の相違点は、実質的なものではない。
また、仮に引用発明における「タービンの外周面」が「摩擦面」ではないとしても、「ロックアップピストン17」に固着された「ロックアップフェーシング27」とともに摩擦力を発生させるのであるから、この「ロックアップフェーシング27」を「ロックアップピストン17」側ではなく「タービンの外周面」側に設けるようにすることは、当業者が適宜設計変更し得るものである。

(2)相違点2について
引用発明における「ロックアップクラッチ15」は、「ロックアップピストン17が軸方向に移動し、ロックアップフェーシング27がタービン2の外周面に密接」することによって、係合又は開放するものであるところ、この係合又は開放によって、「ロックアップクラッチ15」がトルクを伝達するか否かが調節される、またはトルクの伝達が変化されるものである。
この点について、本願の明細書には、次のような記載がある。
「図1のねじり振動減衰器20はロックアップクラッチのピストン16が半径方向内側の範囲において、蓄力器、例えば皿ばね21によるばね圧着力でタービン車ボス12bに向かって負荷されるように構成されている。このためにはほぼ円形リング状の構成部分、ピストン16は、半径方向内側の範囲でほぼ平らに構成されかつタービン車ボス12bも平らな範囲12cを有している。ピストンの平らな範囲16aとタービン車ボスの平らな範囲12cとの互いに向き合った面の間にはランプが配置され、このランプは転動体、例えば球22によって軸方向で互いに支えられている。ピストン16がタービン車ボス12bに対して回動することにより、周方向に配置された軸方向に上昇するランプとその間に配置された球22とに基づき、ピストンはタービン車ボス12bに対して相対的に軸方向に移動する。この場合、この軸方向の移動は少なくとも1つの皿ばね21のばね力負荷に抗して行なわれる。」(段落【0040】)
「薄板は構成部分801と802とに関し軸方向に移動可能であり、構成部分801と802が互いに接近する方向で軸方向の移動が不足すると、摩擦ライニングは薄板803と804とに対応摩擦面で摩擦接触せず、トルクが伝達可能ではない。これに対し、構成部材801が軸方向で移動させられると、摩擦面はその対応摩擦面と作用接触又は摩擦接触させられ、伝達可能なトルクが調節可能である。この場合、伝達可能なトルクは0から内燃機関の名目トルクまで調節可能であるので、クラッチが閉じられた状態又はクラッチが開かれた状態でスリップする運転又はスリップしない運転が実現される。」(段落【0086】)
しかし、これらは、多数の実施例における一部の説明であって、その他、本願発明における「伝達しようとするトルクを調節するか又は変化させる」点について、技術的意義の説明ないし定義付けを行うような記載は、見受けられない。
そうすると、引用発明における「ロックアップクラッチ15」も、「ロックアップピストン17が軸方向に移動し、ロックアップフェーシング27がタービン2の外周面に密接」する、すなわち、「タービン2」と「ロックアップピストン17」とが軸方向で互いに相対移動することによって、トルクを伝達するか否かが調節される、またはトルクの伝達の変化がなされるものであって、上述の相違点は、実質的なものではない。
また、仮にそうでないとしても、クラッチの制御において、単に係合又は開放だけではなく、すべりを伴うような係合状態とすることは、広く行われているところであって、引用発明における「ロックアップクラッチ15」においても、そのような制御を採用することは、当業者であれば設計的になし得るものである。

また、本願の明細書を精査しても、当業者が予想し得ないような格別顕著な効果は、見い出すことができない。
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本願は、特許請求の範囲の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-23 
結審通知日 2009-02-27 
審決日 2009-03-10 
出願番号 特願平8-187686
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 礒部 賢竹下 和志  
特許庁審判長 溝渕 良一
特許庁審判官 岩谷 一臣
川上 益喜
発明の名称 ハイドロダイナミック式のトルクコンバータ  
代理人 星 公弘  
代理人 二宮 浩康  
代理人 山崎 利臣  
代理人 杉本 博司  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 久野 琢也  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ