• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1201373
審判番号 不服2006-19048  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-31 
確定日 2009-07-30 
事件の表示 平成10年特許願第 40811号「低熱膨張セラミックス構造部材およびそれを用いた半導体素子製造装置用部材」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月31日出願公開、特開平11-236262〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年2月23日の出願であって、平成17年8月2日付けで拒絶理由の通知がなされ、同年10月11日に意見書が提出されたが、平成18年7月26日付けで拒絶査定がなされ、同年8月31日に拒絶査定不服の審判請求がなされ、同年9月29日に明細書の記載に係る手続補正書及び前記審判に係る請求書の手続補正書が提出されたものである。また、平成20年11月21日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされたものの、指定した期間内に回答書は提出されなかった。

2.本願発明
平成18年9月29日付けの明細書の記載に係る手続補正は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内についてするものであり、特許請求の範囲についてする補正は請求項の削除及び誤記の訂正を目的とするものであることが明らかであるから、当該手続補正は適法な補正である。
そうすると、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成18年9月29日付けの明細書の記載に係る手続補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】コージェライト結晶相を主体とし、周期律表第2a、3bおよび4b族元素の群(但し、Mg、AlおよびSiを除く。)から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算で0.5?10重量%含み、相対密度が95%以上、室温での熱膨張率が0.5×10^(-6)/℃以下、ヤング率が130GPa以上の低熱膨張セラミックス構造部材からなる半導体素子製造装置用部材。
【請求項2】前記周期律表第2aおよび3b族元素の群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有するシリケート化合物結晶相、あるいはアルミニウムシリケート結晶相を含む低熱膨張セラミックス構造部材からなる請求項1記載の半導体素子製造装置用部材。
【請求項3】希土類元素を酸化物換算で20重量%以下の割合で含有する低熱膨張セラミックス構造部材からなる請求項1または2記載の半導体素子製造装置用部材。
【請求項4】窒化珪素、炭化珪素、酸窒化珪素の中から選ばれる少なくとも1種を30重量%以下の割合で含有する低熱膨張セラミックス構造部材からなる請求項1記載の半導体素子製造装置用部材。」

3.引用文献
(1)引用文献2
本願出願前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶理由で引用文献2として引用された特開平09-295863号公報には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】ハロゲン系腐食ガスまたはそのプラズマに曝される部位が、少なくとも周期律表第2a族元素と、Si、Pb、Fe、Cr、Tiおよび周期律表第3b族元素の群から選ばれる1種以上とを含む複合酸化物相を3体積%以上含む金属酸化物からなることを特徴とする耐食性部材。
【請求項2】前記複合酸化物が、AB_(2) O_(4) (式中、Aは周期律表第2a族元素、Bは周期律表第3b族元素)型結晶またはコージェライト結晶を主体とするものである請求項1記載の耐食性部材。
・・・
【請求項4】相対密度98%以上の緻密体からなる請求項1乃至3のいずれか記載の耐食性部材。」(【請求項1】?【請求項4】)
(イ)「【発明の属する技術分野】本発明はハロゲン系腐食性ガスまたはそのプラズマに対する耐食性部材に関するものであり、プラズマ処理装置、半導体・液晶などの製造装置用部材、ハロゲンガスまたはプラズマを封止した容器壁等に使用される部材等に関するものである。」(段落【0001】)
(ウ)「また、焼結性をさらに促進させるために、NaF、LiF、希土酸化物等を焼結助剤として添加することもできる。」(段落【0027】)
(エ)「また、複合酸化物相を含有する金属酸化物は、上記の手法によって得られた焼結体自体を部品の構造部材として用いることができる他、部材を構成する所定の構造部材の表面に焼結体を接合したり、所定の構造部材の表面にゾルゲル法、気相法等により薄膜として形成することも可能である。」(段落【0029】)
(2)引用文献3
本願出願前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶理由で引用文献3として引用された特開平09-169560号公報には、次の事項が記載されている。
(カ)「【請求項1】コ-ディエライトを主成分とし、Caおよび/またはBaを、それぞれCaO換算、BaO換算で総量0.1?15重量%含有することを特徴とするコ-ディエライト質焼結体。」(【請求項1】)
(キ)「【作用】本発明のコ-ディエライト質焼結体では、焼成温度等の焼成条件を厳密に制御して得られた特性を大きく劣化させることなく、上記した主成分に対してCaおよび/またはBaを所定量含有することにより、焼成条件を改善することができる。」(段落【0015】)
(ク)「本発明に於て、焼成温度は、CaO、BaO成分が含まれていることにより充分に緻密化の目的が達成され、具体的には焼成温度は1000℃?1440℃、好ましくは1300?1400℃となる。」(段落【0023】)
(3)引用文献7
本願出願前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶理由で引用文献7として引用された特公昭61-034205号公報には、次の事項が記載されている。
(サ)「特許請求の範囲
1 コージエライトを主成分とし、Y_(2)O_(3)成分を重量%で0.3?8%含有することを特徴とするコージエライト質電気材料。」(特許請求の範囲第1項)
(シ)「コージエライト質の電気材料は低膨脹のセラミツクス材料として有用されているものであるが焼成温度範囲が低いことや狭いことなどのため多孔質になりやすく、従つて実用的にも多孔質の電熱用熱板などその用途が限られてしまつており、種々の添加材を使用して焼成促進するなどの研究も種々行われてきたが満足した結果は得られておらず従つて他のセラミツクス材料と対比して電気的性質の優れたものは、ほとんど開発されていないのが実状であつた。
本発明は、この程コージエライトの特質を生かした電気材料を開発すべく種々研究された結果として、コージエライトの特質を何ら損うことなく緻密化に成功しかつ優れた電気的特性を有する電気材料を見い出すことに成功したものである。
・・・
本発明電気材料は所定の配合原料を低温で焼成(即ち、焼成中の軟化、変形が生じない程度の低温で焼成)しても、気孔率、吸水率の少ない焼き締まりのよい緻密な焼成品として得ることができるものであり、以下その製造方法について説明する。」(第1頁第1欄第11行?第2欄第10行)
(ス)「これらのコージエライト及びイツトリア原料の配合割合は、焼成して得られた電気材料としての酸化物に換算して、Y_(2)O_(3)が重量%で0.3?8%となる如くであり、従つてコージエライト成分は残余として99.7?92%である。」(第1頁第2欄第25行?第2頁第3欄第2行)
(セ)「Y_(2)O_(3)成分の配合割合を0.3?8%とした理由については、0.3%以下では上述した比較的低温で焼成した場合でも緻密質にしうるという効果が不充分となり目的とする優れた電気的特性が達成されないからであり、また8%以上では得られた焼結体の熱膨脹率が大きくなりすぎ低膨脹セラミツクスの特質を損なうことになつてしまうからである。」(第2頁3欄第19?26行)
(ソ)「物理的性質としては、・・・25?1000℃における熱膨脹係数が30×10^(-7)/℃以下であり、曲げ強度も通常300kg/cm^(2)以上、多くは500kg/cm^(2)以上のものとして容易に得られる。」(第2頁第3欄第32行?第4欄第2行)

4.対比・検討
ここで、引用文献2の記載事項(ア)?(エ)について検討すると、(ア)の「複合酸化物が・・・コージェライト結晶を主体とするもの」との記載にある「コージェライト結晶」とは(エ)の「複合酸化物相を含有する金属酸化物は、上記の手法によって得られた焼結体自体を部品の構造部材として用いることができる」の「複合酸化物相」のことであるから、(ア)の「コージェライト結晶を主体とする・・・部材」とは「コージェライト結晶相を主体とする構造部材」を意味するものといえる。また、(イ)の「本発明は・・・耐食性部材に関するものであり、・・・半導体・・・などの製造装置用部材・・・等に関するものである。」との記載から、(ア)の構造部材である「耐食性部材」に「半導体製造装置用部材」が含まれることも明らかである。
そうすると、(ア)?(エ)の記載事項を本願請求項3に記載されている発明(以下、「本願発明3」という。)の記載ぶりに則して記載すると、引用文献2には、
「コージェライト結晶相を主体とし、焼結性をさらに促進させるために、希土酸化物等を焼結助剤として添加し、相対密度が98%以上の焼結体構造部材からなる半導体製造装置用部材。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
そこで、本願発明3と引用発明とを対比すると、本願発明3について、本願明細書には、希土類元素を酸化物換算で20重量%以下含有せしめることにより「さらに焼結性を改善でき、低温で高密度のセラミックスを得ることができる」(本願明細書の段落【0018】)と記載されているから、焼結性をさらに促進させるための焼結助剤である引用発明の「希土酸化物」は本願発明3の「希土類元素」に相当するといえる。また、引用発明の「焼結体」及び「半導体製造装置」が本願発明3の「セラミックス」及び「半導体素子製造装置」にそれぞれ相当することは、技術常識に照らして明らかである。
そうすると、両発明は、
「コージェライト結晶相を主体とし、希土類元素を含有する相対密度が98%以上のセラミックス構造部材からなる半導体素子製造装置用部材。」
である点で一致し、
(a)本願発明3の半導体製造素子装置用部材は「周期律表第2a、3bおよび4b族元素の群(但し、Mg、AlおよびSiを除く。)から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算で0.5?10重量%」及び「希土類元素を酸化物換算で20重量%以下の割合で」含むセラミックス構造部材からなるのに対して、引用発明の半導体素子製造装置用部材における焼結体構造部材は「焼結性をさらに促進するために、希土酸化物等を焼結助剤」を添加するとされているのみであって、その酸化物換算の添加量も明確でない点(以下、「相違点a」という。)、
(b)本願発明3の半導体素子製造装置用部材は「室温での熱膨張率が0.5×10^(-6)/℃以下」である「低熱膨張」セラミックス構造部材からなるのに対して、引用発明の半導体素子製造装置用部材における焼結体構造部材は熱膨張率が不明である点(以下、「相違点b」という。)、
(c)本願発明3の半導体素子製造装置用部材は「ヤング率が130GPa以上」であるセラミックス構造部材からなるのに対して、引用発明の半導体素子製造装置用部材における焼結体構造部材はヤング率が不明である点(以下、「相違点c」という。)、
で相違する。
次に、上記相違点a?cについて検討する。
(i)相違点aについて
緻密なコージェライト質焼結体を得るために、周期律表第2a族元素であるCaおよび/またはBaをそれぞれのCaO換算、BaO換算で総量0.1?15重量%、又はY_(2)O_(3)成分を重量%で0.3?8%コージェライトに含有させることは、上記(カ)?(ク)又は(サ)?(ソ)に摘示のとおり、引用文献3又は7にそれぞれ記載されている公知の技術手段であるし、これらCaO、BaO、Y_(2)O_(3)は緻密質な焼結体を得るために添加する焼結助剤といえるから、引用発明において、コージェライトに焼結助剤として2a族元素の群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算で0.5?10重量%、及び希土類元素を酸化物換算で0.3?8重量%以下の割合で添加する程度のことは、当業者が困難なく成し得たことである。
そして、引用文献2、3及び7には、当該焼結助剤を添加することにより、焼結性をさらに促進し、気孔率、吸水率の少ない焼締まりのよい緻密な焼成品を得ることができ、曲げ強度も大きいものが得られることが記載されているから、本願発明の効果も、これらの記載から当業者が予測し得る程度のことにすぎない。
してみれば、相違点aに係る発明特定事項は、当業者が困難なく導出できたものである。
(ii)相違点bについて
引用発明の半導体素子製造装置用部材における焼結体構造部材は室温での熱膨張率が不明であるものの、室温付近での熱膨張係数が0.5×10^(-6)/℃以下であるコージェライト系焼結体は本願出願前より周知であって(要すれば、日刊工業新聞社「マテリアル・データベース-無機材料」1989年1月25日、初版、176頁参照。なお、表中の「ロテック・エム(LOTEC-M)」の熱膨張係数は600℃及び1200℃の各値であるが、多くのコージエライトの熱膨張係数は、高温側より低温側のほうが小さい値であることが技術常識である(要すれば、素木洋一著、「焼結セラミック詳論4 ファインセラミックス」、株式会社技報堂、昭和51年1月25日、1版、303頁の表-3.16等参照)から、室温における熱膨張係数は600℃及び1200℃におけるそれと同等以下の値であるものと認められる。)、本願明細書にも「コージェライト系焼結体は、熱膨張率が0.2×10^(-6)/℃程度」(段落【0007】)と記載されているし、また上記(シ)に「コージエライト質の電気材料は低膨脹のセラミックス材料として有用されているものである・・・。本発明は、・・・コージエライトの特質を何ら損なうことなく緻密化に成功」と記載されているように、コージェライトに焼結助剤を添加しても低膨張の特性は損なわれないと解されるから、引用発明において、低熱膨張性セラミックスを用いて焼結助剤を添加して焼結し、「室温での熱膨張率が0.5×10^(-6)/℃以下」である低熱膨張性セラミックス構造部材とする点に、格別の困難性は認められない。
そして、本願明細書を参照しても、半導体素子製造装置用部材における低熱膨張性セラミックス構造部材の室温での熱膨張率を0.5×10^(-6)/℃以下とすることによって当業者が予測し得ない格別顕著な効果があるものとも認められないから、本願発明3における熱膨張率の数値範囲の設定に、格別な臨界的意義があるものとも認められない。
してみれば、相違点bに係る発明特定事項についても、当業者が困難なく導出できたものである。
(iii)相違点cについて
引用発明の半導体素子製造装置用部材における焼結体構造部材はヤング率が不明であるが、焼結助剤の添加により曲げ強度の大きいコージェライトが得られることは、上記(サ)?(ソ)に摘示のとおり、引用文献7に記載されていることであるし、半導体素子製造用部材の用途に応じて、弾性振動の抑制された乃至は剛性の優れたセラミックスが望まれることも本願出願前より当業者における周知の技術事項である(要すれば、特開平09-243316号公報の段落【0015】及び【0023】等参照)。
また、ヤング率が材料の弾性的性質を示す指標であることは技術常識であり、ヤング率が130GPa以上のコージェライトは本願出願前より周知である(要すれば、同上「マテリアル・データベース-無機材料」176頁参照。なお表中のヤング率(×10^(6)kg/cm^(3))「1.35(RT)」は、単位換算をすれば約「132GPa」に相当する)から、引用発明において、焼結助剤を添加したコージェライト結晶相を主体とした焼結体構造部材の最適なヤング率の数値範囲を上記周知の数値範囲内で設定する程度のことは、当業者が適宜成し得たことである。
そして、本願明細書を参照しても、半導体素子製造装置用部材における低熱膨張性セラミックス構造部材のヤング率を130GPa以上とすることによって当業者が予測し得ない格別顕著な効果があるものとも認められないから、本願発明3におけるヤング率の数値範囲の設定に、格別な臨界的意義があるものとも認められない。
してみれば、相違点cに係る発明特定事項についても、当業者が困難なく導出できたものである。
したがって、本願発明3は、引用文献2、3及び7に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願請求項3に係る発明は、引用文献2、3及び7に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-26 
結審通知日 2009-06-02 
審決日 2009-06-15 
出願番号 特願平10-40811
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大橋 賢一  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 天野 斉
木村 孔一
発明の名称 低熱膨張セラミックス構造部材およびそれを用いた半導体素子製造装置用部材  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 小野 尚純  
代理人 小野 尚純  
代理人 奥貫 佐知子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ