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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F24F
管理番号 1201402
審判番号 不服2007-16028  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-07 
確定日 2009-07-30 
事件の表示 特願2004-309622「空気調和機」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月27日出願公開、特開2005- 24244〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成8年8月19日に出願した特願平8-217397号(以下「原出願」という。)の一部を平成16年10月25日に新たな特許出願としたものであって、請求項1及び2に係る発明は、平成19年1月12日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項2に係る発明は、次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

「【請求項2】
圧縮機,四方弁,室外熱交換器及び除湿運転時に冷却器として作用する熱交換器部分と再熱器として作用する熱交換器部分とを室内熱交換器を備え、冷房運転,暖房運転及び除湿運転を行なう空気調和機において、
冷房運転,暖房運転及び除湿運転に共通に用いる1つの操作ボタンを備えるとともに、
該冷房運転中に該操作ボタンが操作されることによって該冷房運転での設定温度を設定温度シフト量だけ低下させるとともに、圧縮機の回転数を増加させ、設定された時間の経過後、該冷房運転での設定温度を該操作ボタンが操作される直前の設定温度に復帰させるとともに、該圧縮機の回転数を低下させる冷房運転機能と、
該暖房運転中に該操作ボタンが操作されることによって該暖房運転での設定温度を設定温度シフト量だけ上昇させるとともに、圧縮機の回転数を増加させ、設定された時間の経過後、該暖房運転での設定温度を該操作ボタンが操作される直前の設定温度に復帰させるとともに、該圧縮機の回転数を低下させる暖房運転機能と、
該除湿運転中に該操作ボタンが操作されることによって該除湿運転での圧縮機の回転数を切り替えて上昇させるとともに、設定湿度を切り替えて低下させる除湿運転機能と
を備えたことを特徴とする空気調和機。」

なお、平成19年1月12日付け手続補正書に記載された【請求項2】の「熱交換器部分とを室内熱交換器を備え、」は、「熱交換器部分とを有する室内熱交換器を備え、」の誤記と認め、本願の請求項2に係る発明を上記のように認定した。

2. 引用例に記載された事項
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用した、本願原出願の出願前に頒布された刊行物である実願平2-18673号(実開平3-111844号)のマイクロフィルム(以下「引用例」という。)には、図面と共に以下の記載がある。

ア 「〈産業上の利用分野〉本考案は、ユーザ設定値な基づいて室内ファンの風量、圧縮機の駆動周波数、フラップの角度を制御して、室内を冷、暖房、除湿、送風する空気調和機に関する。」(3頁6行?10行)

イ 「〈考案が解決しようとする課題〉ところが、上記従来の空気調和機は、スポットスイッチのオン信号を受けて、制御手段が人位置センサの検出信号に基づき水平フラップの角度のみを人物の方向に制御するだけのものであるため、室温が設定温度付近になると冷、暖房運転が終了したり、風量が減少し、あるいは室温が設定温度付近にある場合は、スポットスイッチ押しても、冷、暖房運転が行なわれない。そのため、多い目の冷、暖房を必要とする帰宅直後や風呂上がりのユーザが不快感を覚えたり、操作性の悪さを感じたりするという欠点がある。
また、人物の動きに追従して水平フラップを制御するだけでは、ユーザの要求を満たすきめの細かいスポット運転をすることができない。
そこで、本考案の目的は、スポット運転の指令信号を受けて、水平フラップのほか室内ファンの風量や圧縮機の駆動周波数をも適切に制御し、多い目の冷、暖房を行なうことによって、スポット運転時に室内の人物に快適感と良好な操作性を与えることのできる空気調和装置を提供することにある。」(4頁1行?5頁2行)

ウ 「〈課題を解決するための手段〉上記目的を達成するため、本考案の第1の空気調和装置は、第1図に例示するように、使用者によって設定されたユーザ設定値に基づいて、室内ファン2の風量、圧縮機6の駆動周波数、水平フラップ3および垂直フラップ4の角度を制御して、室内を冷、暖房、除湿、送風の各運転モードで空気調和するものにおいて、スポット運転の指令信号S_(0)を入力するためのスポットスイッチ7と、このスポットスイッチ7からの指令信号S_(0)を受けて第1の一定時間T_(1)を計時する第1計時手段11と、この第1計時手段11が計時している間だけ、上記風量、駆動周波数、フラップの角度を、上記ユーザ設定値に関係なく各運転モードに応じて予め与えられたスポット設定値に基づいて制御する第1制御手段1と、上記第1計時手段11の計時終了と同時に第2の一定時間T_(2)の計時を開始する第2計時手段12と、この第2計時手段12が計時している間だけ、上記ユーザ設定値によって駆動周波数が零に制御される場合であっても、この駆動周波数を所定の最小値に制御する第2制御手段1を備えたことを特徴とする。」(5頁3行?6頁4行)

エ 「〈作用〉本考案の第1の空気調和機は、ユーザ設定値に基づいて、風量、駆動周波数、水平、垂直フラップの角度を制御して、室内を冷、暖房、除湿、送風のいずれかの運転モードで空気調和している。いま、スポットスイッチ7からスポット運転の指令信号S_(0)が入力されると、この指令信号S_(0)を受けた第1計時手段11が、第1の一定時間T_(1)の計時を開始し、第1計時手段11の計時中だけ、第1制御手段1が、上記風量、駆動周波数、両フラップの角度を、ユーザ設定値に関係なくその運転モードに応じて予め与えられたスポット設定値に基づいて制御する。次に、第1計時手段11の計時終了と同時に、第2計時手段12が第2の一定時間T_(2)の計時を開始し、第2計時手段12の計時中だけ、第2の制御手段1が、上記ユーザ設定値によって駆動周波数が零に制御される場合であっても、この駆動周波数を所定の最小値に制御して、少なくとも最小の冷却または暖房運転を行う。そして、第2計時手段12の計時が終了すると、運転モードは、スポット運転からもとの運転モードに復帰する。」(6頁19行?7頁20行)

オ 「上記第1制御手段は、第1タイマ11が一定時間T_(1)を計時している間だけ、室内ファン2の風量、圧縮機6の駆動周波数、水平フラップ3の角度を、上記ユーザ設定値に関係なく各運転モードに応じて予め与えられたスポット設定値(第2図参照)に基づいて制御するとともに、垂直フラップ4の角度を、人位置センサ8からの検出信号S_(1)に基づいて室内の人物の方向に制御する(第2図参照)。
即ち、スポット運転においては、第2図のテーブルに示すように、冷却、除湿モードでは、体感温度を下げるべく風量を大にし、冷却能力を上げるべく駆動周波数を最大にし、水平フラップ角度を緩勾配(60°、第4図(a)参照)にする一方、暖房モードでは、体感温度を上げるべく風量を小にし、暖房能力を上げるべく駆動周波数を最大にし、温風の浮き上がりを防ぐべく水平フラップ角度を急勾配(80°、第4図(b)参照)にする。また、送風モードでは、風量を大にし、空気調和を停止すべく駆動周波数を零にし、水平フラップ角度を緩勾配(60°)にする。一方、垂直フラップの角度は、・・・(中略)・・・に制御される。」(9頁20行?11頁5行)

カ 「上記構成の空気調和機の制御部の動作を、第6、7図のフローチャートを参照しつつ次に述べる。
ユーザが、帰宅直後や風呂上がりに、空気調和機をスポット運転すべくスポットスイッチ7を押したとする。」(12頁2行?6行)

キ 「そして、以上の制御を第2タイマ12の計時終了まで続行し、ステップS8で計時終了と判別すれば、ステップS10に進んでスポット運転を終え、ユーザ設定値に基づく通常の制御に戻るのである。」(14頁10行?14行)

ク 「なお、上記実施例では、前半の制御動作を行なう第1制御手段と後半の制御動作を行なう第2制御手段を共に備えた空気調和装置について説明したが、両手段のいずれか一方を省略してもよく、また人位置センサによるフラップの追従制御を省略することもできる。さらに、本考案が図示の実施例に限られないのはいうまでもない。」(15頁3行?10行)

ケ 「〈考案の効果〉以上の説明で明らかなように、本考案の空気調和装置は、スポットスイッチからのスポット運転の指令信号を受けて第1計時手段に第1の一定時間を計時させ、この計時中だけ第1制御手段によって、室内ファンの風量、圧縮機の駆動周波数、水平、垂直フラップの角度を、ユーザ設定値に関係なく冷、暖房、除湿、送風の各運転モードに応じて予め与えられたスポット設定値に制御するとともに、第1計時手段の計時終了と同時に第2計時手段に第2の一定時間を計時させ、この計時中だけ第2制御手段によって、ユーザ設定値によって駆動周波数が零になる場合でも、この駆動周波数を所定の最小値に制御するようにしているので、きめの細かいスポット運転でユーザに必要な急冷感や急暖感を与え、冷、暖房の余分継続でユーザに満足のいく空気調和を行なって、スポット運転時に従来以上の快適感と良好な操作性を室内の人物に与えることができる。」(15頁11行?16頁9行)

3.引用例に記載された発明
ところで、引用例の記載事項から次のことが理解できる。

コ 記載事項エの「本考案の第1の空気調和機は、・・・、室内を冷、暖房、除湿、送風のいずれかの運転モードで空気調和している。いま、スポットスイッチ7からスポット運転の指令信号S_(0)が入力されると、」、記載事項カ及び第1図の記載からみて、スポットスイッチ7は冷房、暖房、除湿、送風の各運転に共通に用いて操作される1つの操作スイッチであること。

サ 「そして、第2計時手段12の計時が終了すると、運転モードは、スポット運転からもとの運転モードに復帰する。」(記載事項エ)を含む記載事項ウ?オ、記載事項キの「スポット運転を終え、ユーザ設定値に基づく通常の制御に戻るのである。」、記載事項ク及び第2図の「圧縮機の駆動周波数」の欄の記載からみて、空気調和機は次の運転機能を有すること。
すなわち、
「冷房運転中にスポットスイッチ7が操作されることによってユーザ設定値に関係なくその運転モードに応じて予め与えられたスポット設定値、例えば室内ファン2の風量を大、圧縮機6の駆動周波数を冷房の最大周波数とし、第1の一定時間T_(1)及び/又は第2の一定時間T_(2)の経過後、該冷房運転での設定温度を該スポットスイッチ7が操作される直前のユーザ設定値である設定温度に復帰させるとともに、該圧縮機6の回転数を同じく直前のユーザ設定値に低下させる冷房運転機能と、
暖房運転中に該スポットスイッチが操作されることによって前記スポット設定値、例えば室内ファン2の風量を小、圧縮機6の駆動周波数を暖房の最大周波数とし、第1の一定時間T_(1)及び/又は第2の一定時間T_(2)の経過後、該暖房運転での設定温度を該スポットスイッチ7が操作される直前のユーザ設定値である設定温度に復帰させるとともに、該圧縮機の回転数を同じく直前のユーザ設定値に低下させる暖房運転機能と、
除湿運転中に該スポットスイッチ7が操作されることによって前記スポット設定値、例えば室内ファン2の風量を大、圧縮機6の駆動周波数を冷房の最大周波数とする除湿運転機能と、
送風運転中に該スポットスイッチ7が操作されることによって前記スポット設定値、例えば室内ファン2の風量を大、圧縮機6の駆動周波数を周波数を零にする送風運転機能。」

したがって、記載事項ア?ケ及び第1?7図から、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「冷房、暖房、除湿、送風の各運転を行なう空気調和機において、
冷房、暖房、除湿、送風の各運転に共通に用いる1つのスポットスイッチ7を備えるとともに、
冷房運転中にスポットスイッチ7が操作されることによってユーザ設定値に関係なくその運転モードに応じて予め与えられたスポット設定値、例えば室内ファン2の風量を大、圧縮機6の駆動周波数を冷房の最大周波数とし、第1の一定時間T_(1)及び/又は第2の一定時間T_(2)の経過後、該冷房運転での設定温度を該スポットスイッチ7が操作される直前のユーザ設定値である設定温度に復帰させるとともに、該圧縮機6の回転数を同じく直前のユーザ設定値に低下させる冷房運転機能と、
暖房運転中にスポットスイッチが操作されることによってスポット設定値、例えば室内ファン2の風量を小、圧縮機6の駆動周波数を暖房の最大周波数とし、第1の一定時間T_(1)及び/又は第2の一定時間T_(2)の経過後、該暖房運転での設定温度を該スポットスイッチ7が操作される直前のユーザ設定値である設定温度に復帰させるとともに、該圧縮機の回転数を同じく直前のユーザ設定値に低下させる暖房運転機能と、
除湿運転中にスポットスイッチ7が操作されることによってスポット設定値、例えば室内ファン2の風量を大、圧縮機6の駆動周波数を冷房の最大周波数とする除湿運転機能と、
送風運転中にスポットスイッチ7が操作されることによってスポット設定値、例えば室内ファン2の風量を大、圧縮機6の駆動周波数を周波数を零にする送風運転機能を有する空気調和機。」

4. 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「スポットスイッチ7」は本願発明の「操作ボタン」に相当し、以下同様に、「第1の一定時間T_(1)及び/又は第2の一定時間T_(2)」は「設定された時間」に、それぞれ相当する。

また、本願発明と引用発明は、冷房運転中に操作ボタンが操作されることによって圧縮機の回転数を増加させる点、暖房運転中に該操作ボタンが操作されることによって圧縮機の回転数を増加させる点、及び除湿運転中に該操作ボタンが操作されることによって該除湿運転での圧縮機の回転数を増加させる点、のそれぞれで共通する。

したがって、両発明の次の一致点と相違点を有する。

[一致点]
「冷房運転、暖房運転及び除湿運転を行なう空気調和機において、
冷房運転、暖房運転及び除湿運転に共通に用いる1つの操作ボタンを備えるとともに、
該冷房運転中に該操作ボタンが操作されることによって、圧縮機の回転数を増加させ、設定された時間の経過後、該冷房運転での設定温度を該操作ボタンが操作される直前の設定温度に復帰させるとともに、該圧縮機の回転数を低下させる冷房運転機能と、
該暖房運転中に該操作ボタンが操作されることによって、圧縮機の回転数を増加させ、設定された時間の経過後、該暖房運転での設定温度を該操作ボタンが操作される直前の設定温度に復帰させるとともに、該圧縮機の回転数を低下させる暖房運転機能と、
該除湿運転中に該操作ボタンが操作されることによって、該除湿運転での圧縮機の回転数を切り替えて上昇させる除湿運転機能と
を備えた空気調和機。」

[相違点1]
本願発明では、圧縮機、四方弁、室外熱交換器及び除湿運転時に冷却器として作用する熱交換器部分と再熱器として作用する熱交換器部分とを有する室内熱交換器を備えるのに対して、引用発明ではかかる構成を具備するものか不明である点。

[相違点2]
冷房運転中に操作ボタンが操作されることによって、本願発明では、冷房運転での設定温度を設定温度シフト量だけ低下させるとともに、圧縮機の回転数を増加させるのに対して、引用発明では、ユーザ設定値に関係なくその運転モードに応じて予め与えられたスポット設定値、例えば圧縮機6の駆動周波数を冷房の最大周波数とする点。

[相違点3]
暖房運転中に該操作ボタンが操作されることによって、本願発明では、暖房運転での設定温度を設定温度シフト量だけ上昇させるとともに、圧縮機の回転数を増加させるのに対して、引用発明では、ユーザ設定値に関係なくその運転モードに応じて予め与えられたスポット設定値、例えば圧縮機6の駆動周波数を暖房の最大周波数とする点。

[相違点4]
除湿運転中に該操作ボタンが操作されることによって、本願発明では、該除湿運転での圧縮機の回転数を切り替えて上昇させるとともに、設定湿度を切り替えて低下させるのに対して、引用発明では、ユーザ設定値に関係なくその運転モードに応じて予め与えられたスポット設定値、例えば圧縮機6の駆動周波数を冷房の最大周波数とする点。

前記の相違点1?4について検討する。
[相違点1について]
当該技術分野において、圧縮機、四方弁、室外熱交換器及び除湿運転時に冷却器として作用する熱交換器部分と再熱器として作用する熱交換器部分とを有する室内熱交換器を備え、冷房運転、暖房運転及び除湿運転を行なう空気調和機は、本願の原出願前、周知の技術(例えば、原審において引用された特開平6-241534号公報の他、特開平8-86494号公報、特開平7-35389号公報、及び特開平5-332629号公報参照。)である。

したがって、引用発明において、本願発明のように、圧縮機、四方弁、室外熱交換器及び除湿運転時に冷却器として作用する熱交換器部分と再熱器として作用する熱交換器部分とを有する室内熱交換器を備えるものとした点は、周知技術に基づいて、当業者であれば、容易に想到し得たことである。

[相違点2について]
本願明細書の段落【0056】、特に「CPU10は、室内温度がこの新たな設定温度となるように、圧縮機9の回転数を、連続回転で室温が設定温度に設定、維持されるような回転数に増加させて冷房能力を高める(ステップ309)。・・・。かかる冷房能力を高めた冷房運転を、以下、パワフル冷房運転という。」と の記載からみて、 相違点2に係る本願発明の「設定温度を設定温度シフト量だけ低下させる」との事項は、圧縮機の回転数を増加させることにより達成されるものと考えられる。

一方、引用発明は、「そこで、本考案の目的は、・・・多い目の冷、暖房を行うことによって、スポット運転時に室内の人物に快適感と良好な操作性を与えることのできる空気調和装置を提供することにある。」(記載事項イ参照)なる課題を、冷房運転では圧縮機駆動周波数をスポット設定値とし、直前のユーザ設定値より増大させて冷房温度を低下させることにより解決したものであり(前記「3.サ」参照。)、このような課題や解決手段の点では、本願発明と引用発明に格別な相違はない。

ところで、相違点2において、冷房運転中に操作ボタンが操作されることによって該冷房運転での設定温度を、本願発明では、設定温度シフト量だけ低下させるのに対して、引用発明では、前記スポット設定値、例えば圧縮機6の駆動周波数を冷房の最大周波数、に対応した温度に低下させ、その低下量は設定シフト量とはいえないが、両発明は前記設定温度を低下させる点で共通する。

そして、前記課題に示したように引用発明において「スポット運転時に室内の人物に快適感」を与えることを目的とする以上(前記「2.イ」参照。)、前記スポット設定値が、冷房運転における前記ユーザ設定値に対して極端に変化することは考えられず、例えば、「帰宅直後や風呂上がりのユーザ」にとって常識的な快適感の範囲に設定されることは前記記載「2.イ」から当業者であれば、認識し得ることである。
また、前記操作ボタンが操作されることによる冷房運転での設定温度を、本願発明のように設定温度シフト量だけ低下させるか、引用発明のように常識的な快適感の範囲に設定されたスポット設定値に対応した温度とするかは、当業者が設計上、必要に応じて適宜選択し得ることである。

したがって、引用発明において、本願発明のように、冷房運転中に操作ボタンが操作されることによって、冷房運転での設定温度を設定温度シフト量だけ低下させるとともに、圧縮機の回転数を増加させるようにすることは、当業者が設計上、容易になし得たことである。

[相違点3について]
本願明細書の段落【0063】、特に、「CPU10は、圧縮機9の回転数を、連続回転で室温が設定温度に設定、維持されるような回転数に増加させ(ステップ316)、・・・かかる暖房運転を、以下、パワフル暖房運転という。」との記載からみて、 相違点3における本願発明の「設定温度を設定温度シフト量だけ上昇させる」との事項は、圧縮機の回転数を増加させることにより達成されるものと考えられる。

一方、引用発明は、「そこで、本考案の目的は、・・・多い目の冷、暖房を行うことによって、スポット運転時に室内の人物に快適感と良好な操作性を与えることのできる空気調和装置を提供することにある。」(前記「2.イ」参照。)という課題を、暖房運転では圧縮機駆動周波数をスポット設定値とし、直前のユーザ設定値より増大させて暖房温度を上昇させることにより解決したものであり(前記「3.サ」参照。)、このような課題や解決手段の点では、本願発明と格別な相違はない。

ところで、相違点3において、前記暖房運転中に前記操作ボタンが操作されることによって該暖房運転での設定温度を、本願発明では、設定温度シフト量だけ上昇させるのに対して、引用発明では、スポット設定値、例えば圧縮機6の駆動周波数を冷房の最大周波数、に対応した温度に上昇させ、その上昇量は設定シフト量とはいえないが、両発明は前記設定温度を上昇させる点で共通する。

そして、前記課題に示したように引用発明において「スポット運転時に室内の人物に快適感」を与えることを目的とする以上(前記「2.イ」参照。)、スポット設定値が、暖房運転における前記ユーザ設定値に対して極端に変化させることは考えられず、例えば、「帰宅直後や風呂上がりのユーザ」にとって常識的な快適感の範囲に設定されることは前記「2.イ」から当業者であれば、認識し得ることである。

また、前記操作ボタンが操作されることによる暖房運転での設定温度を、本願発明のように前記設定温度シフト量だけ上昇させるか、引用発明のように前記の常識的な快適感の範囲に設定されたスポット設定値に対応した温度とするかは、当業者が設計上、必要に応じて適宜選択し得ることである。

したがって、引用発明において、本願発明のように、暖房運転中に該操作ボタンが操作されることによって、暖房運転での設定温度を設定温度シフト量だけ上昇させるとともに、圧縮機の回転数を増加させるようにした点は、当業者が設計上、容易になし得たことである。

[相違点4について]
本願明細書段落【0046】及び【0047】、特に、「これにより、圧縮機9は通常の除湿運転時よりも高い3600rpmの回転数で回転し、除湿量が増加して除湿能力が高まり、設定湿度が50%から40%に変更になるために、室内空気の湿度が通常の除湿運転時よりも低くなる。かかる除湿運転を、以下、パワフル除湿運転という。」の記載からみて、相違点4における本願発明の構成の「設定湿度を切り替えて低下させる」は、圧縮機の回転数を切り替えて上昇ないし増加させることにより達成されるものと考えられる。

一方、引用発明は、「そこで、本考案の目的は、・・・多い目の冷、暖房を行うことによって、スポット運転時に室内の人物に快適感と良好な操作性を与えることのできる空気調和装置を提供することにある。」(前記「2.イ」参照。)という課題を、除湿運転では圧縮機駆動周波数をスポット設定値とし、直前のユーザ設定値より切り替えて上昇ないし増大させて湿度を低下させることにより解決したものであり(前記「3.サ」参照。)、このような課題や解決手段の点では、本願発明と格別な相違はない。

ところで、相違点4において、前記除湿運転中に前記操作ボタンが操作されることによって該除湿運転での設定湿度を、本願発明では、切り替えて低下させるのに対して、引用発明では、前記スポット設定値、例えば圧縮機6の駆動周波数を冷房の最大周波数、に対応した湿度に低下させるものであって、両発明は前記設定湿度を低下させる点で共通する。

そして、前記課題に示したように引用発明において「スポット運転時に室内の人物に快適感」を与えることを目的とする以上(前記「2.イ」参照。)、前記スポット設定値が、除湿運転における前記ユーザ設定値に対して極端に変化することは考えられず、例えば、「帰宅直後や風呂上がりのユーザ」にとって常識的な快適感の範囲に設定されることは前記「2.イ」から当業者であれば、認識し得ることである。

また、操作ボタンが操作されることによる除湿運転での設定湿度を、本願発明のように切り替えて低下させるか、引用発明のように前記の常識的な快適感の範囲に設定されたスポット設定値に対応した湿度とするかは、当業者が設計上必要に応じて適宜に選択し得ることである。

さらに、空気調和機において、除湿運転中において湿度を切り替えて低下させることも、本願の原出願前、周知の技術(例えば[相違点1について]の前記周知例として示した特開平8-86494号公報段落【0078】?【0101】、特開平7-35389号公報段落【0051】及び特開平5-332629号公報段落【0035】参照。)である。

そうすると、引用発明において、本願発明のように、除湿運転中に操作ボタンが操作されることによって、該除湿運転での圧縮機の回転数を切り替えて上昇させるとともに、設定湿度を切り替えて低下させるようにしたことは、周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

[作用効果について]
そして、本願発明の効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものであって、格別ではない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

5. むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-01 
結審通知日 2009-06-02 
審決日 2009-06-15 
出願番号 特願2004-309622(P2004-309622)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長崎 洋一  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 清水 富夫
豊島 唯
発明の名称 空気調和機  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  

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