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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16D |
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管理番号 | 1201421 |
審判番号 | 不服2008-3609 |
総通号数 | 117 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-02-14 |
確定日 | 2009-07-30 |
事件の表示 | 特願2002-315863「クラッチ制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月27日出願公開、特開2004-150513〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯の概要 本願は、平成14年10月30日の出願であって、平成20年1月9日(起案日)付けで拒絶査定され、これに対し、平成20年2月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審において平成21年3月5日(起案日)付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知したところ、平成21年4月30日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで明細書を補正する手続補正がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成18年11月6日付け及び平成21年4月30日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。なお、平成20年3月17日付けの手続補正は、当審において平成21年3月5日付けで決定をもって却下されている。 「【請求項1】 アクチュエータの制御量に基づきフライホイール及びクラッチディスク間で伝達されるクラッチトルクを所要の目標クラッチトルクに制御するクラッチ制御装置において、 前記クラッチディスクの温度を検出する検出手段と、 前記検出されたクラッチディスクの温度に応じた摩擦係数の変動に基づき前記アクチュエータの制御量を補正する補正手段とを備え、 前記摩擦係数は、前記クラッチディスクの温度が上昇して所定の領域を超えると減少するものであり、 前記補正手段は、 車両状態に基づいて基準目標クラッチトルクを演算する基準目標クラッチトルク演算手段と、 前記検出されたクラッチディスクの温度に応じた摩擦係数に基づきクラッチトルク温度補正係数を演算するクラッチトルク温度補正係数演算手段と、 前記基準目標クラッチトルク演算手段の演算結果と前記クラッチトルク温度補正係数演算手段の演算結果に基づいて、前記目標クラッチトルクを演算する目標クラッチトルク演算手段と を備えており、 前記目標クラッチトルク演算手段の演算結果に基づいて、前記アクチュエータを制御することを特徴とするクラッチ制御装置。」 3.刊行物に記載された事項 (刊行物1) 当審拒絶理由で引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特公平7-6561号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「自動変速機搭載車両のクラッチ制御装置」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】循環する潤滑油によりクラッチ摩擦面を潤滑する湿式クラッチを用い、制御装置によりクラッチアクチュエータを介して前記クラッチを断続するようにした自動変速機搭載車両のクラッチ制御装置において、 潤滑油の温度を検出する油温センサを設けるとともに、前記制御装置には、通常のクラッチ係合量を求める手段、前記油温センサからの信号に基づき予め設定されたクラッチ係合量の補正量を求める手段、この補正量と通常のクラッチ係合量とから補正されたクラッチ係合量を演算する手段を設け、さらに、前記クラッチを接続する際には、クラッチが前記補正されたクラッチ係合量となるよう前記クラッチアクチュエータを制御する手段を設けたことを特徴とする自動変速機搭載車両のクラッチ制御装置。」(第1ページ1欄第1?15行) (イ)「このような湿式クラッチでは、オイルタンク1の潤滑油をポンプ2により吸上げてオイルクーラ10で冷却し、冷却した潤滑油をノズル3からクラッチ摩擦面を含むクッチ各部へ噴射するようにしている。」(第2ページ4欄第31?34行) (ウ)「第2図において、ステップST1では何ら補正のされていない通常のクラッチ係合量f1を求める。次いで、ステップST2では潤滑油温Tを油温センサ12で検出する。油温Tに対して補正されるべきクラッチ係合量f(T)は第3図に示すような関係で予めメモリに格納されており、ステップST3ではステップST2で検出された油温からメモリを参照して補正されるべきクラッチ係合量f(T)を求めてこれをクラッチ係合量の補正量f2とする。いま、潤滑油温Tに対して望ましいクラッチ係合量Fは何ら補正のされていない通常のクラッチ係合量f1からステップST3で求められた補正量f2を減算したものとなる。このためステップST4では、クラッチ係合量f1から係合補正量f2を減算してクラッチ係合目標量Fとする。次いでステップS5では、クラッチディスク9がクラッチ係合目標量Fに達するようクラッチアクチュエータ13を付勢する。これによって、前記油温Tが変化してもクラッチ係合量は油温Tの関数f(T)分だけ補正されて望ましいクラッチ係合量Fとなるようにクラッチアクチュエータ13が操作されるので、油温Tが変化してもクラッチ摩擦面の摩擦係数は常にほぼ一定に保たれて、クラッチの動摩擦トルクに差が生じるというようなことはなくなる。」(第2ページ4欄第47行?第3ページ5欄第17行) (エ)第4図から、油温が上昇すると摩擦係数は減少していることが看取できる。 以上の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。 [刊行物1記載の発明] 「クラッチアクチュエータ13の制御量に基づきクラッチ係合量をクラッチ係合目標量Fに制御するクラッチ制御装置において、潤滑油の温度を検出する油温センサ12を備え、摩擦係数は、油温が上昇すると減少するものであり、メモリ等に基づく通常のクラッチ係合量f1を求める手段と、油温センサ12からの信号に基づき予め設定されたクラッチ係合量の補正量f2を求める手段と、この補正量f2と通常のクラッチ係合量f1とからクラッチ係合目標量Fを演算する手段とを備え、クラッチ係合量がクラッチ係合目標量Fとなるようにクラッチアクチュエータ13を制御するクラッチ制御装置。」 4.対比・判断 本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると、その機能からみて、刊行物1記載の発明の「クラッチアクチュエータ13」は本願発明の「アクチュエータ」に相当する。 また、刊行物1記載の発明の「クラッチ制御装置」は、制御目標を目標値に制御する限りにおいて、本願発明の「クラッチ制御装置」に相当し、前者の「潤滑油の温度を検出する油温センサ12」は、温度を検出する限りにおいて、後者の「温度を検出する検出手段」に相当する。 また、刊行物1記載の発明の「メモリ等に基づく通常のクラッチ係合量f1を求める手段」と本願発明の「車両状態に基づいて基準目標クラッチトルクを演算する基準目標クラッチトルク演算手段」は、車両状態に基づいて基準目標量を演算する点で共通し、前者の「油温センサ12からの信号に基づき予め設定されたクラッチ係合量の補正量f2を求める手段」と後者の「検出されたクラッチディスクの温度に応じた摩擦係数に基づきクラッチトルク温度補正係数を演算するクラッチトルク温度補正係数演算手段」は、検出された温度に応じた温度補正係数を演算する点で共通し、前者の「補正量f2と通常のクラッチ係合量f1とからクラッチ係合目標量Fを演算する手段」と後者の「基準目標クラッチトルク演算手段の演算結果と前記クラッチトルク温度補正係数演算手段の演算結果に基づいて、前記目標クラッチトルクを演算する目標クラッチトルク演算手段」は、基準目標演算手段の演算結果と温度補正係数演算手段の演算結果に基づいて、前記目標値を演算する点で共通するから、刊行物1記載の発明の「通常のクラッチ係合量f1を求める手段」、「予め設定されたクラッチ係合量の補正量f2を求める手段」、及び「クラッチ係合目標量Fを演算する手段」を備えた点は、上記共通する限りにおいて、本願発明の「補正手段」に相当する。 したがって、本願発明の用語を使用して記載すると、両者は、 「アクチュエータの制御量に基づき制御目標を目標値に制御するクラッチ制御装置において、温度を検出する検出手段と検出された温度に基づき前記アクチュエータの制御量を補正する補正手段を備え、前記補正手段は、車両状態に基づいて基準目標量を演算する基準目標演算手段と、前記検出された温度に応じた温度補正係数を演算する温度補正係数演算手段と、基準目標演算手段の演算結果と温度補正係数演算手段の演算結果に基づいて、前記目標値を演算する目標値演算手段とを備えており、前記目標値演算手段の演算結果に基づいて前記アクチュエータを制御するクラッチ制御装置」である点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1] 本願発明は、クラッチ制御装置の制御対象が「フライホイール及びクラッチディスク間で伝達されるクラッチトルク」であるのに対し、刊行物1記載の発明は「クラッチ係合量」である点。 [相違点2] 本願発明は、検出する温度が「クラッチディスクの温度」であり「検出されたクラッチディスクの温度に応じた摩擦係数の変動に基づき前記アクチュエータの制御量を補正」しているのに対し、刊行物1記載の発明は、検出する温度が「潤滑油の温度」であり、アクチュエータの制御量を補正してはいるものの、該補正が温度に応じた摩擦係数の変動に基づいているのか不明である点。 [相違点3] 本願発明は、「摩擦係数は、前記クラッチディスクの温度が上昇して所定の領域を超えると減少するもの」であるのに対し、刊行物1記載の発明は、油温が上昇すると摩擦係数は減少してはいるものの「所定の領域を超えると減少する」とまではいえない点。 上記各相違点について以下に検討する。 (相違点1について) クラッチ制御装置において、フライホイールに対するクラッチディスクの係合量を制御することでクラッチトルクの制御を行うことは、従来周知の事項であり(例えば、特開2001-200866号公報の段落【0010】等参照)、刊行物1記載の発明においても、クラッチディスクの係合量を制御することで、実質的にクラッチトルクを制御していることは、当業者にとって自明である。 よって、相違点1は実質的な相違点ではない。 (相違点2について) 刊行物1記載の発明は、クラッチ摩擦面の摩擦係数を変化させる要因となるパラメータとして「潤滑油の温度」に着目し、潤滑油の温度が変化しても実質的に摩擦係数がほぼ一定となるようにすることでクラッチの動摩擦トルクを一定に保つことを目的としている(上記摘記事項(ウ)参照)。また、摩擦係数と油温の関係を求める(第4図参照)一方で、クラッチ係合量の補正量f2を油温Tの関数として設定している(第3図参照)。 してみると、刊行物1記載の発明は、実質的に、検出した潤滑油の温度に応じた摩擦係数の変動に基づきクラッチアクチュエータ13の制御量を補正していると認められる。 ところで、クラッチディスクに使用される摩擦材の摩擦係数が、クラッチディスクの温度が上昇して所定の領域を超えると減少することは、従来周知の事項である(特開平2-195026号公報の第1ページ右下欄第9?17行参照)。 そうすると、いわゆる湿式クラッチにおける「潤滑油の温度」に起因するクラッチ摩擦面の摩擦係数の変動を補償する補正を行った刊行物1記載の発明に接した当業者であれば、湿式ではないクラッチの摩擦係数が温度によることを認識して、刊行物1記載の発明と同様の補正を行うことは容易に想到できる程度の事項である。 してみると、刊行物1記載の発明及び上記周知の事項を知り得た当業者であれば、クラッチトルクを一定とするために、クラッチ摩擦面の摩擦係数を変化させる要因となるパラメータである「クラッチディスクの温度」を検出するような構成とすることは、摩擦材の特性等に応じて当業者が適宜なし得る設計的事項であって、格別創意を要することではない。 (相違点3について) 摩擦材として、摩擦材の温度が上昇して所定の領域を超えると摩擦係数が減少する特性を有するものは従来周知である(例えば、特開平2-195026号公報の第1ページ右下欄第9?17行、特開平10-78058号公報の図4等参照)。 そして、クラッチディスクの摩擦材としてどのような特性のものを選択するかは、クラッチの形式や用途等に応じて当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないから、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、本願発明が奏する効果について検討しても、刊行物1に記載された発明及び上記周知の事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとは認められない。 よって、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.審判請求人の主張について 審判請求人は、当審拒絶理由に対する平成21年4月30日付け意見書において、「このように「潤滑油の温度」を用いたアクチュエータの制御量の補正(制御)を、たとえば、刊行物1の第1ページ2欄第7?14行に記載されるような、乾式単板のクラッチに適用することはできません。こうした点において、「潤滑油の温度」を用いた補正制御は、「クラッチ制御装置」という技術分野において汎用性に欠けます。」、「これに対して、本願発明のようにアクチュエータの制御量の補正を、「クラッチディスクの温度」に応じた摩擦係数の変動を考慮して行う構成では、クラッチディスクが前提となるため、当然、乾燥単板式のクラッチ(たとえば、本願明細書の段落[0012]等参照)にも適用することができます。このように、本願発明の構成(「クラッチディスクの温度」)によれば、上記「潤滑油の温度」を用いた補正制御では解決することのできない技術課題を解決することができるのです。こうした格別顕著な作用効果が得られる点に、本願発明の進歩性を見出すことができるのです。」(【意見の内容】の(3)を参照)と主張している。 しかしながら、クラッチの形式として湿式、乾式があり、それぞれのクラッチにおいて温度変化によって油の粘度が変わったり、摩擦材の摩擦係数が変化してクラッチトルクが変動することは、当業者が容易に認識できることであるから、湿式か乾式かというクラッチの形式に拘わらずクラッチトルクが温度によって変動することは周知の技術的課題であるといえる。そして、刊行物1記載の発明において「潤滑油の温度」を検出することの技術的意義は、クラッチ摩擦面の摩擦係数がほぼ一定となるようにすることでクラッチの動摩擦トルクを一定に保つことであるから、湿式又は乾式クラッチのそれぞれの特性に応じて、クラッチ摩擦面の摩擦係数を変化させる要因となる、例えば潤滑油の温度やクラッチディスクの温度などのパラメータを設定する程度のことは、当業者が適宜なし得る設計的事項といわざるをえない。 よって、上記主張は採用できない。 6.むすび したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-05-27 |
結審通知日 | 2009-06-02 |
審決日 | 2009-06-15 |
出願番号 | 特願2002-315863(P2002-315863) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 増岡 亘 |
特許庁審判長 |
川上 益喜 |
特許庁審判官 |
藤村 聖子 村本 佳史 |
発明の名称 | クラッチ制御装置 |
代理人 | 恩田 博宣 |
代理人 | 恩田 誠 |
代理人 | 恩田 誠 |
代理人 | 恩田 誠 |
代理人 | 恩田 博宣 |
代理人 | 恩田 博宣 |