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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F15B
管理番号 1201436
審判番号 無効2008-800281  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-12-09 
確定日 2009-07-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第3695176号発明「エアシリンダ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明

本件特許第3695176号の特許請求の範囲に記載された発明(平成10年10月20日出願、平成17年7月8日設定登録。以下、「本件発明」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「シリンダ内にエアを供給することによりこのシリンダに嵌合したピストンを往復駆動するエアシリンダであって、前記シリンダ内の端部に設けられた嵌入部と、前記ピストンに設けられピストンの往復動のストロークエンドにおいて前記嵌入部に気密に嵌入する突部と、前記突部が前記嵌入部に嵌入して形成される気室を外部に連通させる導気孔と、この導気孔に設けられ前記気室内のエアの外部への排出を所定量に規制する固定絞りとを備え、前記固定絞りは板部材に設けられた所定径の開孔部であり、且つこの板部材はねじ部材の下面で押え込んで固定されることを特徴とするエアシリンダ。」


2.請求人の主張

これに対して、請求人は、本件発明についての特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、本件発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物(甲第1号証ないし甲第9号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明についての特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである旨主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第10号証を提出している。
(証拠方法)
甲第1号証:「新版 油空圧便覧」,株式会社オーム社,1989年2月25日,p.486?p.489、p.506?p.508
甲第2号証:「油・空圧回路設計ハンドブック」,株式会社工業調査会,1977年10月15日,p.227?p.228
甲第3号証:「実用空気圧」,日刊工業新聞社,昭和60年8月30日,p.141?p.144
甲第4号証:特開平6-106358号公報
甲第5号証:実公平7-36803号公報
甲第6号証:実願平5-36595号(実開平7-2730号)のCD-ROM
甲第7号証:特開平2-311300号公報
甲第8号証:特開平5-149456号公報
甲第9号証:「防振制御ハンドブック」,株式会社フジ・テクノシステム,1992年12月18日,p.424?p.425
甲第10号証:本件特許の審査段階の拒絶理由通知書、意見書及び補正書のコピー


3.被請求人の主張
一方、被請求人は、本件発明は、甲第1号証ないし甲第9号証に記載された発明に基づいて容易に想到できるようなものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当しないものであって、本件無効審判の請求は、成り立たない旨主張している。


4.甲号証
(1)甲第1号証
甲第1号証には,図面と共に次の事項が記載されている.

・「2・3 空気圧アクチュエータ
2・3・1概説
空気圧アクチュエータは,圧縮空気のエネルギーを機械的な直線運動または回転運動などの仕事に変換する機器の総称である.
直線往復運動するものが空気圧シリンダであり,回転運動するものが空気圧モータである.また,回転往復運動するものは揺動形アクチュエータで,この3種類に大別できる.
また,単動形シリンダは一方向だけに空気圧エネルギーを使用し,戻りなどの方向はばねまたは外力で作動する.複動形シリンダは往復とも空気圧エネルギーで作動するものである.」(486頁左欄5行?17行)

・「2・3・2 空気圧シリンダ
〔1〕構 造,機 能
(a)一般産業用シリンダの構造,機能 図4・125に空気圧シリンダの分類を示したが,これらのうち汎用品として一般によく用いられるのは,片ロッドの単動形および複動形である.
図4・126は,最も一般的な複動シリンダの例であり,円筒状のシリンダチューブの両端をヘッドカバー,ロッドカバーで覆い,このカバーを4本のタイロッドで締結し,生じた円筒状室の内部にピストンを設け,ピストンロッドを装置したものである.
ピストン前後の圧縮空気を給排してピストンの前あるいは後に圧力を加え,ピストンの出力をピストンロッドに伝えて外部に仕事を行う.
このように,ピストンロッドがシリンダチューブの両端を覆う両カバーの片側にだけ貫通しているシリンダを片ロッド形と呼んでいる.これに対し,ピストンの前後両側にピストンロッドが装着され,両カバーを貫通している構造を両ロッド形という.
空気圧シリンダの構造の骨子は,上述したように,空気圧を受け機械的推力を発生するピストン,この推力を外部に取り出すピストンロッド,ピストンを包むシリンダチューブと,チューブ両端を覆うカバーとからなり,これに,空気漏れを防ぐためパッキンやシールが適所にそれぞれ機能的に設けられ,さらに,シリンダの機能に付加して,クッション機構が設けられている.」(486頁左欄34行?右欄15行)

・「空気圧シリンダの構造上重要な第二の問題は,空気圧シリンダに設けられたクッション装置の構造である.
基本的に空気圧シリンダのクッション構造には,図4・127に示すように,3種の形式が使用される.
図(a)は最も多い構造で,クッションリングによってピストン背後の空気の排出を閉じ,これをニードル弁に導き,その調節量に応じ,ピストン背圧がピストンロッドに連結された負荷の運動エネルギーによって圧縮され,圧力が上昇し,減速力を発揮するようになっている.この構造は,簡単であるが,長いクッションストロークが必要な場合,カバーの厚みが厚くなる欠点があるが,一般的である.」(487頁左欄13行?25行)

・「図4・165はクッション機構の概略を示したものの一例である.ピストンがストローク終端部に近づくとピストン先端のクッションリングがクッション部へ突入することにより,クッション室内の空気はクッション絞り(固定絞り)を経てしか排気口に逃げることができなくなる.これによって可動部の持つ運動エネルギーをクッション室内の空気によっていったん吸収し,さらにクッション絞りを介して排出することにより消散させるのがその原理である.このクッション絞りを閉じると,クッション室内の空気圧力が上昇し,いったん吸収したエネルギーによってピストンが反対側へ押し戻されるようになる.逆に,クッション絞りを開け過ぎると,運動エネルギーを十分吸収しないうちにクツション室内の空気が排気されてしまい,緩衝器としての機能を果たさなくなってしまう.このため,実際の使用にあたってはクッション絞りの調整が非常に重要である.」(507頁左欄1行?右欄10行)

・「なお,シリンダ本体に取り付けるクッションを高性能化する試みが行われているが,具体的には図4・164(b)の形の特性を実現すべくクッション機構に工夫を加える方法(例えば,ストロークの途中でクッション絞りを変える方法),クッション室内の初期圧力を高くとる方法などがある.」(508頁左欄12行?17行)

また、図4・165には、シリンダ(20)内部に嵌合したピストンに設けられたクッションリングと、シリンダ内の端部に設けられた嵌入部(27)と、前記クッションリングが前記嵌入部に突入して形成されるクッション室を外部に連通させる導気孔(29)と、この導気孔(29)に設けられたクッション絞りとを備え、前記クッション絞りはねじ部材の先端に設けられたストレートの突起と導気孔との隙間であり、且つこのストレートの突起と一体に設けられている前記ねじ部材がナットにより固定される、クッション機構の概略が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「シリンダ(20)内に圧縮空気を給排することによりこのシリンダ(20)に嵌合したピストンを往復作動させる空気圧シリンダであって、前記シリンダ内の端部に設けられた嵌入部(27)と、前記ピストンに設けられピストンの往復動のストローク終端部において前記嵌入部(27)に突入することによりクッション室内の空気がクッション絞りを経てしか排気口に逃げることができなくなるように突入するクッションリングと、前記クッションリングが前記嵌入部に突入して形成されるクッション室を外部に連通させる導気孔(29)と、この導気孔(29)に設けられ前記クッション室内の空気の外部への排出を所定量に規制するクッション絞り(固定絞り)とを備え、前記クッション絞りはねじ部材の先端に設けられたストレートの突起と導気孔との隙間であり、且つこのストレートの突起と一体に設けられている前記ねじ部材がナットにより固定される空気圧シリンダ。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「3.6空気圧シリンダのクッション装置の決定法
シリンダの速度を図1.6のC点より右の位置でストロークを終了させれば,特別にクッションを考えなくともよいが,これではピストンの移動時間が不安定となるので,普通ピストンが加速されている範囲(図1.6のC点より左)でストロークを終了させることによって移動時間のバラツキを少なくしている.
それゆえクッションの必要性があるときは特別にクッション付きのシリンダを選定せねばならない.図3.3は標準的なクッション機構であるが,普通クッション機構の作用するストロークは15?40mm位が普通である.(表3.5参照).」(227頁1行?8行)

・「したがって,W_(L)≧W_(T)ならばクッション作用は可能である.W_(L)>W_(T)ならば絞り弁を加減してP_(1)を変える.W_(1)=W_(T)ならば絞り弁は全閉する.W_(L)<W_(T)ならば別にクッション装置を外部に取りつけねばならない.」(228頁10行?12行)

(3)甲第3号証
甲第3号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「8・3・4 クッション特性
シリンダに組み込まれているクッション機構は,大きな慣性力を持ったピストンがストロークエンドで停止するとき,衝撃的にカバーに当たらないようにしたものである.
ストロークエンド近くで排気側シリンダ室を閉鎖して排気を圧縮するため,圧力の上昇に対するクッション室の強度,使用するシールの耐久性能によりクッションで吸収できるエネルギが限られており,どのような負荷,速度の場合でも効果が得られるわけではなく,クッション能力をよく理解して使用することが必要である.
”クッションの原理”
図8・17のように,ストロークエンドの数cm手前でクッションリング,パッキンによって排気口を閉じ,封入したV_(2)(体積),P_(2)(圧力)の空気をストロークエンドまで圧縮(V_(3),P_(3))し,そのエネルギでピストンにブレーキをかけるものである.」(141頁7行?142頁3行)

・「図8・17における絞り弁は,排気側空気を逃がして圧縮エネルギを調整するものである.E_(a)>E_(V)であれば,ピストンはストロークエンドに達する前にバウンドを起こし,E_(a)<E_(V)であれば,大きな速度がカバーに当る.また逆止め弁は,反対方向にピストンを動かすときに,給気口が絞られないためのバイパス回路である.」(143頁1行?5行)

また、図8・17には、可変絞り弁を用いたクッションの原理が示されている。

(4)甲第4号証
甲第4号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0016】可動ブッシュ12の円筒部分14の内径にはピストン軸3の外径より大きい空間部が設けてあり,この空間部にピストン2の前面に設けられたピストン軸の段付部,つまりクッションボス19が入り込むように構成され,円筒部分14の内径にクッションボス19が入り込むと,その段付部との間に狭いエア-通路eが形成され,クッションボス19のエア-通路gから排気ポ-ト8を通り外部に排出されるエア-流量を絞り込むことによって加圧シリンダの戻し側エア-室Bの内部空気が圧縮されて高圧になる。このようにして,ガン加圧時のピストン2によるシリンダショックをストロ-クエンド直前で和らげることができる。」

・「【0018】この状態において,可動ブッシュ12とクッションボス19との間に狭い段付のエア-通路eが形成され,この狭い通路により排気ポ-ト8から排出されるエア-排出量が絞り込まれて可動ブッシュ戻し室11に通じる加圧シリンダの戻し側エア-室Bの内圧が高くなってストロ-クエンド直前でクッションを効かせることになる。つまり,これにより電極の摩耗量に関係なく常に一定のクッションストロ-クが自動的に確保でき、効率よくクッションを効かせることができる。」

(5)甲第5号証
甲第5号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「第5図は、従来の他の実施例で使用するリフトシリンダの断面図を示す。
リフトシリンダの詳細を説明すると、チューブ11B内のピストン11Cにロッド室11D側とボトム室11E側との間を圧油が流入する孔部11Fが形成され、孔部11Fの一部にボール11Gが封入され、ロッド室11D側から圧油がボトム室11E側へ流入するのを阻止する遮断機能となり、他方残部の孔部11Fにはボール11Gを封入せず、直径の異なる孔部11F′を形成したままとし、ロッド室11D側からの圧油がこの直径の異なる孔部11F′を通ってボトム室11E側へ流入するように構成しているため、この直接の異なる孔部11F′が絞り機能をもつ構成としている。」(2頁左欄28行?39行)

・「更に、他の実施例においては、ピストンを加圧しているため、絞り量を調整しようとしても不可能であり、機械加工上、組立上の限界から適切な絞り量を得ることが困難であった。また、経済的にも高価になるという不利があった。
この考案は、以上のような課題を解消させ、構造が簡易で適度な揺動性と安定性を実現するフォークリフトトラックの車体安定装置を提供することを目的とする。」(2頁右欄1行?8行)

・「前記オリフィス部材15は、ボルト状に形成され、軸部15aの先端を開口した一定深さの穴部15bと、この穴部15bに連通し直角方向の細管部(オリフィス部)15cとを開口している。また、軸部15aの基端部(大径頭部15d側)には、ネジ部15eを設けて構成されている。このオリフィス部材15は、上記直方体部11bの嵌合孔11eに嵌着(螺着)される。嵌着状態において、ポート11c及びポート11dが穴部15b、オリフィス部15cを介して連通する。」(3頁右欄6行?13行)

・「一方、車体走行中において、急旋回等による急激な変動が発生した場合、この変動を受けてリンク機構(第1リンク31)3及びピストンロッド13が応動しようとするが、シリンダ1内のオイル1aはオリフィス(細管部)15cにより急激に移動出来ず(逃げることが出来ず)、応動方向に対する反動圧がピストン部13aに作用し、ピストンロッド13はほぼロックされた状態となる。」(3頁右欄33行?38行)

(6)甲第6号証
甲第6号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は蒸気を噴射してボイラーの煙管または水管の表面上へ滞留する煤を吹き飛ばし熱効率の低下を防止する煤吹機の蒸気供給装置に係る。」

・「【0007】
従来、この蒸気減圧の方法としては図5に示すように蒸気の供給源から配設されている供給管Pの供給弁1aとの境界部へオリフィス板18aを介装し、この中央に穿孔した蒸気通過孔20aの孔径に応じて蒸気量を絞って減圧するのが一般的である。この従来技術では通過孔は減圧すべき幅に応じて算術的に計算して決定するより他に方法がなく、減圧量は完全に画一的となり、ボイラー側や煤吹機側に状況の変化があっても、ただちにこれに応じて減圧量を調整することができないという課題がある。孔径の異なる種々のオリフィス板を準備して、目的の減圧量が異なる度に差し替えるという手段は容易に思い付くが、煤吹機の接続部を取り外して介在する板をその都度差し替えることは煩瑣に耐えず、結局、最適の運転条件は諦めて実務的には不十分な管理体制のまま運転を強いられてきたといわざるを得ない。」

・「【0015】
この実施例の構成に加えて、図4に示すように従来技術と同様に、弁箱の下端面19と供給管Pの端末との間に蒸気通過孔20を穿孔したオリフィス板18を介装する構成も考案の目的を果すうえでさらに有効である場合がある。すなわち、供給弁へ進入する前にほぼ目的に近い状態に蒸気を絞って減圧し、微調整を弁の機能を使って精密に実施することができるから、より正確で緻密な蒸気の圧力管理を施すことができる。」

(7)甲第7号証
甲第7号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「(従来の技術)
近年、例えば樹脂材等の比較的軟質の素材の切断加工用に、超高圧水(例えば、2000kgf/cm^(2)程度)をオリフィスから噴射し、その超高圧・高速の噴流によって切断加工を行なうようにした超高圧水噴射ノズルが開発されている(例えば、独国文献「Industrial」のNr.92V.16.11.1984/106.Jg参照)。
この種の超高圧水噴射ノズルの一般的構造を第8図を参照して概説すると、この超高圧水噴射ノズルZoは、その内部を超高圧水を導入するための超高圧水導入部54とした高圧ノズル管51の先端部に、スタビライザー55と一体的に形成されたオリフィスホルダー53を介してオリフィス52を取付けている。
そして、超高圧水導入部54内の超高圧水をオリフィス52で縮流させてその通孔56から超高圧・高速の噴流としてスタビライザー55側に噴射し、該噴流によって所定の切断作用を行なうようになっている。
この場合、噴流による切断性能は、第8図に矢印流線で示すように噴流が縮流状態を維持しその収束性が良好であるほど高められる。」(2頁左上欄14行?右上欄15行)

・「(実施例)
以下、本願各発明を第1図ないし第7図に示す実施例に基づいて説明する。
(1)第1実施例
第1図には請求項1、2及び6記載の発明の実施例に係る超高圧水噴射ノズルZ1が示されており、同図において符号1はその軸心部を超高圧水導入部11とした高圧ノズル管であり、その先端部1aには、後述するオリフィスホルダー3を介してオリフィス2が取付けられている。
オリフィス2は、厚肉円板体で一体構成されるものであって、その軸心部に通孔21を有している。そして、この通孔21の内周面はオリフィス刃面22とされ、またこのオリフィス刃面22の下流端側は該オリフィス刃面22に連続して拡開するオリフィステーパー部23とされている。
オリフィスホルダー3は、そのオリフィス取付部6内に嵌挿固定せしめた状態で締め金具4により高圧ノズル管1の先端部1aに固定されるものであるが、この実施例においては、該オリフィスホルダ-3を上記オリフィス2の下流側に同軸状に連設される円筒状のスタビライザー5と一体的に形成している。そして、このオリフィスホルダー3内には請求項1記載の空気吹出手段Xに該当する後述の空気通路30が形成されている。」(4頁右上欄1行?左下欄5行)

また、第1図には、オリフィスホルダー3の凹部にオリフィス2を備え、ねじ部を有する高圧ノズル管51の下面でオリフィスホルダー3を押さえ込んでいる、超高圧水噴射ノズルの要部縦断面図が示されている。

(8)甲第8号証
甲第8号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「0001】
【産業上の利用分野】本発明は、減圧、測定等にオリフィスプレートを用いるオリフィス装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、図3に示すように、減圧や測定用のオリフィスプレート1は配管2の途中にフランジ3で挟み込む形で設置されていた。また、オリフィスプレート1のオリフィス径dは流量によって変化し、流量が大幅に変わった場合にはオリフィスプレート1を交換していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記した従来の構成によれば、オリフィスプレート1の交換時には、オリフィスプレート1の部位において配管2が途絶するので、配管2の内部に滞留する配水を全て抜き出す必要があった。このため、オリフィスプレート1の交換後の復旧に手間取る問題があった。
【0004】本発明は上記課題を解決するもので、配管内の水を抜き出すことなくオリフィスプレートの交換を行うことができるオリフィス装置を提供することを目的とする。」

・「【0011】さらに、弁体16の開口部18a,18bには、オリフィスプレート19a,19bが固定ボルト20によって着脱可能に固定されており、双方のオリフィスプレート19a,19bに形成したオリフィス径は異なっている。また、弁体16には駆動手段として弁棒(図示せず)が取り付けられている。尚、本実施例においては、作業孔13が一箇所の三方形式を説明したが、四方形式のものでも可能である。」

(9)甲第9号証
甲第9号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「空気もオリフィスを流れるとき抵抗力を発生する。シリンダのピストンや、中空のゴムの中と大気との間にオリフィスを設けて、そこの空気の流れ抵抗を利用したものをエアダンパといい、減衰装置として利用されている。
空気ばねではこの空気の流れ抵抗を積極的に利用している。空気ばねとこれに連結する補助タンクとの間の空気通路にオリフィス(絞り)を設け、空気の流れに抵抗を与えて減衰力を発生させる。」(424頁左欄5行?13行)


5.対比
本件発明と甲1発明とを対比すると、後者における「圧縮空気を給排する」が前者における「エアを供給する」に、相当しており、以下同様に、
「往復作動させる」が「往復駆動する」に、
「空気圧シリンダ」が「エアシリンダ」に、
「ストローク終端部」が「ストロークエンド」に、
「嵌入部に突入することによりクッション室内の空気がクッション絞りを経てしか排気口に逃げることができなくなるように突入する」が「嵌入部に気密に嵌入する」に、
「クッションリング」が「突部」に、
「クッション室」が「気室」に、
「空気」が「エア」に、それぞれ相当している。
また、後者の「クッション絞り(固定絞り)」と前者の「固定絞り」とは、「絞り部」との概念で共通しており、以下同様に、
後者の「ねじ部材の先端に設けられたストレートの突起と導気孔との隙間」と前者の「板部材に設けられた所定径の開孔部」とは、「所定の部材による開孔部」との概念で、
後者の「ストレートの突起と一体に設けられているねじ部材がナットにより固定される」態様と前者の「板部材はねじ部材の下面で押え込んで固定される」態様とは、「所定の部材はねじによって固定される」との概念で、それぞれ共通する。

したがって、両者は、
「シリンダ内にエアを供給することによりこのシリンダに嵌合したピストンを往復駆動するエアシリンダであって、前記シリンダ内の端部に設けられた嵌入部と、前記ピストンに設けられピストンの往復動のストロークエンドにおいて前記嵌入部に気密に嵌入する突部と、前記突部が前記嵌入部に嵌入して形成される気室を外部に連通させる導気孔と、この導気孔に設けられ前記気室内のエアの外部への排出を所定量に規制する絞り部とを備え、前記絞り部は所定の部材による開孔部であり、且つこの所定の部材はねじによって固定されるエアシリンダ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
「絞り部」が、本件発明では「固定絞り」であるのに対し、甲1発明では「クッション絞り(固定絞り)」である点。
[相違点2]
絞り部の具体的構成である「所定の部材による開孔部」が、本件発明では、「板部材に設けられた所定径の開孔部」であるのに対し、甲1発明では「ねじ部材の先端に設けられたストレートの突起と導気孔との隙間」である点。
[相違点3]
所定の部材が、本件発明では「ねじ部材の下面で押さえ込んで」固定されるのに対し、甲1発明ではストレートの突起「と一体に設けられている前記ねじ部材がナットにより」固定される点。


6.判断
・相違点1、2について
本件発明において「固定絞り」を採用した技術的意義は、本件明細書によれば、「最適のエアクッション効果を得るための絞り調整作業が行われる。この作業は、従来作業者によって個々のエアシリンダの調整ねじを操作することによって行われていた。しかしながら、電子部品実装装置ではきわめて多くのエアシリンダが使用されており、しかも同一用途のエアシリンダが多数用いられ、装置の種類によっては同一のものが装置1台当り100本以上使用される場合がある。このため、組立後の装置立ち上げ時や保守調整において、このエアクッションの絞り調整作業に多大の時間と労力を要している実情にあった。」(明細書【0003】?【0004】)という課題を解決するために、「板部材に設けられた所定径の開孔部」による固定絞りを採用し(請求項1)、「同一用途のエアシリンダについては、予め製作され同一規格の開孔部が設けられたオリフィスリングを装着するのみ」(明細書【0020】)とすることで「従来必要とされた絞り調整作業を省略することができる」(明細書【0020】)という格別の効果を奏する点にある。
そして、「板部材に設けられた所定径の開孔部」による固定絞りの開度は、適用対象のエアシリンダに応じて径の大きさを任意に設定することは可能であるが、予め径の大きさを決めて板部材に孔を開けた後には、孔の径の大きさを調整によって変えられない。
以上のことから、本件発明における「固定絞り」とは、使用中に開度が変わらないだけではなく、絞り部の部品を交換しない限り開度が変わらないものを意図していると解される。

一方、甲1発明の「クッション絞り(固定絞り)」は、ストレートの突起と一体に設けられているねじ部材がナットにより固定されるものであるから、ねじ部材がナットにより固定されれば絞りの開度も固定される。
しかし、ストレートの突起の位置に応じて、ストレートの突起と導気孔との隙間の大きさが変わることは図4・165から明らかであり、「実際の使用にあたってはクッション絞りの調整が非常に重要である」(甲第1号証507頁右欄8行?10行)と記載されていることからしても、ストレートの突起が導気孔と適正に接近した状態となるよう調整するべき構造のものであるといえる。
また、図4・165に示されているクッション絞りを備えたエアシリンダを実際に使用した場合、ねじ部材による固定状態が変化し、ストレートの突起の位置がずれることも想定されるから、保守点検時においても、ストレートの突起位置の調整作業を必要とする構造といえる。
そして、ねじを締め付ける際には、突起が導気孔に接近した状態にしなければならないことは、請求人も認めるところである。(第1回口頭審理調書『【無効理由について】3 甲第1号証の「クッション機構」について』参照)
そうすると、甲1発明の「クッション絞り(固定絞り)」における「固定絞り」の意味は、ナットによってクッション絞りを一端調整した後は、開度が固定されるという程度の意味であって、組立後の装置立ち上げ時や保守調整において絞り調整作業を省略することまでは意図していないと解される。

したがって、甲1発明の「クッション絞り(固定絞り)」は、本件発明が意図している「固定絞り」とはいえない。

甲第6号証から甲第9号証には、「板部材に設けられた所定径の開孔部」からなる固定絞りそのもののが開示されている。しかし、それぞれ、煤吹機の蒸気供給量調整装置、切断加工用の超高圧水噴射ノズル、配水流路に設けられるオリフィス装置、空気ばねに用いられる固定絞りであり、本件発明と技術分野が同一とはいえない。
また、いずれのものも「従来必要とされた絞り調整作業を省略する」という課題を解決するものではなく、また、そのような課題の解決を示唆しているともいえない。
したがって、たとえ甲第6号証から甲第9号証に、「板部材に設けられた所定径の開孔部」からなる固定絞りそのものが記載されていても、甲第1号証から甲第9号証には、本件発明の技術課題に関する開示がなく、そのような課題が一般的な技術課題ということもできないから、固定絞りを有しない甲1発明に、甲第6号証から甲第9号証に記載されている、技術分野も課題も共通しない事項を適用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

なお、審判請求人は、証拠として、甲第2号証から甲第5号証も挙げている。
しかし、甲第2号証及び甲第3号証に記載されているものは可変絞りを用いたものであって、甲1発明と同様の相違点を有し、「絞り調整作業を省略する」という課題も開示されていない。
甲第4号証に記載されているものは、「円筒部分14の内径にクッションボス19が入り込むと、その段付部との間に狭いエアー通路eが形成され、」このエアー通路eが絞りを兼ねるものであって、本件発明のように突部が嵌入部に気密に嵌入するものとは構造が異なるから、エアー通路eを、所定径の開孔部を設けた板部材からなる固定絞りに置換することは、構造上できないといわざるを得ない。
甲第5号証に記載されているものは、フォークリフトトラックの安定装置(所謂、オイルダンパ)であって、細管部によるオリフィスは示されているが、「板部材に設けられた所定径の開孔部」からなる固定絞りも、「絞り調整作業を省略する」という課題も開示されていない。
したがって、甲第2号証から甲第5号証を考慮しても、相違点1及び2に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

・相違点3について
甲第7号証には、オリフィスホルダー3の凹部にオリフィス2を備え、ねじ部を有する高圧ノズル管51の下面でオリフィスホルダー3を押さえ込む点は記載されている。しかし、オリフィス2が、高圧ノズル管51によって直接押さえ込まれるものではない。
また、上記「・相違点1、2について」で検討したとおり、甲1発明に、甲第7号証に記載されている事項を適用する動機付けも存在しない。
したがって、甲第7号証に記載されている事項に基づいて、相違点3に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

そして、本件発明は、相違点1?3に係る構成により、「従来必要とされた絞り調整作業を省略することができる」という格別の効果を奏するものである。

したがって、本件発明は、甲1発明、及び、甲第2号証から甲第9号証に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないというべきである。

7.むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-07 
結審通知日 2009-05-11 
審決日 2009-05-25 
出願番号 特願平10-298238
審決分類 P 1 113・ 121- Y (F15B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柳田 利夫  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 小川 恭司
田良島 潔
登録日 2005-07-08 
登録番号 特許第3695176号(P3695176)
発明の名称 エアシリンダ  
代理人 小塚 善高  
代理人 筒井 大和  
代理人 小宮 信夫  
代理人 片岡 憲一郎  
代理人 山岸 司郎  
代理人 永野 大介  
代理人 筒井 章子  

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