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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C30B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C30B
管理番号 1201453
審判番号 不服2005-1653  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-31 
確定日 2009-07-29 
事件の表示 特願2000- 52451「インゴット-溶融物の境界の中央及び縁での温度勾配の調節による単結晶シリコンインゴットの製造のためのチョクラルスキプーラー、チョクラルスキプーラー用熱遮断体及びチョクラルスキプーラーの改良方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月 5日出願公開、特開2000-335993〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年2月28日の出願(パリ条約による優先権主張1999年5月26日、米国、1999年9月13日、大韓民国)であって、平成16年3月9日付けで拒絶理由の通知がなされ、平成16年9月15日に意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出されたが、平成16年10月26日付けで拒絶査定がなされ、平成17年1月31日に拒絶査定不服の審判請求がなされ、平成17年3月2日に明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成17年4月6日に前記審判に係る請求書の手続補正書が提出され、平成20年6月3日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ、平成20年12月10日に回答書が提出されたものである。

2.平成17年3月2日付けの明細書の記載に係る手続補正についての補正却下の決定
(1)補正却下の決定の結論
平成17年3月2日付けの明細書の記載に係る手続補正を却下する。
(2)理由
平成17年3月2日付けの明細書の記載に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の請求項1?13を削除し、同請求項14?45の発明特定事項を限定する補正であり、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号及び第2号に規定される事項を目的とするものであることは明らかである。
そこで、本件補正によって減縮補正された特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明(以下、「補正後の発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかを検討する。

(2-1)補正後の発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
密封体と、
シリコン溶融物を保有する前記密封体内の炉と、
前記炉に隣接している前記密封体内のシードホルダーと、
前記炉を囲む前記密封体内のヒータと、
前記ヒータを囲む前記密封体内の加熱パックと、
前記炉と前記シードホルダーの間の熱遮断体と、
前記熱遮断体と前記シードホルダーの間の冷却ジャケット及び、シードホルダーを前記炉から引上げそれによって前記シリコン溶融物から単結晶シリコンインゴットを引上げる手段と、をさらに含むし、
前記単結晶シリコンインゴットは、軸と円筒型の縁を有し、前記シリコン溶融物と前記インゴットがインゴット-溶融物境界によって区分され、前記熱遮断体の位置、前記熱遮断体の配列、前記ヒータの位置、前記冷却ジャケットの配列、前記炉の位置、前記加熱パックの配列及び前記ヒータに適用される電力の少なくとも一つがインゴット軸で(インゴット軸における温度勾配(G_(2))が)2.5°K/mmより大きく、またインゴットの円筒型縁から拡散距離での温度勾配(G_(1))と少なくとも大体同一な(G_(2)≧G_(1))温度勾配をインゴット-溶融物境界で得ることができるように選択されたことを特徴とするベーカンシ塊及びインタースチシャル塊等のない無欠陥単結晶シリコンインゴットを成長させるためのチョクラルスキプーラー。」

(2-2)引用刊行物記載の発明
(2-2-1)
本願の優先権主張日前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶理由で引用された国際公開第99/16939号(以下、「引用刊行物1」という。)には、「HEAT SHIELD FOR CRYSTAL PULLER」(参考仮訳「結晶プーラー用熱シールド」)と題した発明について、次の事項が記載されている。
(ア)「Single crystal semiconductor material, which is the starting material for fabricating many electronic components, is commonly prepared using the Czochralski ("Cz") method. ・・・Although the conventional Cz method is satisfactory for growing single crystal semiconductor materials for use in a wide variety of applications, further improvement in the quality of semiconductor material is desirable. For instance, as semiconductor manufacturers reduce the width of integrated circuit lines formed on semiconductors, the presence of defects in the material becomes of greater concern. Defects in single crystal semiconductor materials form as the crystals solidify and cool in the crystal puller. Such defects arise, in part, because of the presence of an excess (i. e., a concentration above the solubility limit) of intrinsic point defects known as vacancies and self-interstitials. ・・・It is understood that the type and initial concentration of these point defects in the ingots, which become fixed as they solidify, are controlled by the ratio of the growth velocity (i. e., the pull rate) (v) to the instantaneous axial temperature gradient in the ingot at the time of solidification (G_(o)). When the value of this ratio (v/G_(o)) exceeds a critical value, the concentration of vacancies increases. Likewise, when the value of v/G_(o) falls below the critical value, the concentration of self-interstitials increases.」(第1頁第7行?第2頁第36行。参考仮訳「多くの電子素子製造の出発材料である単結晶半導体材料は、一般に、チョクラルスキ(Cz)法を用いて準備される。・・・従来のCz法は、多様な用途に用いる半導体単結晶材料の成長には満足できるものであるが、半導体材料の品質においては更なる改良が望まれる。例えば、半導体製造が半導体上に形成される集積回路の線幅を低減した場合、材料中の欠陥の存在がより大きな懸念材料となる。単結晶半導体材料中の欠陥は、結晶プーラーでの結晶の凝固及び冷却により発生する。そのような欠陥の発生は、一部は、ベーカンシ及びセルフ-インタースチシャルとして知られる内在的な点欠陥の過剰な存在(即ち、固溶限界を超えた濃度)により起きる。・・・凝固する際に定まるインゴット中のそれら点欠陥のタイプ及び初期濃度は、成長速度(即ち、引き上げ速度)(v)と凝固時のインゴット中の瞬間軸方向温度勾配(G_(0))の比で制御されると理解されている。この比(v/G_(0))の値が臨界値を超えた場合、ベーカンシの濃度が増加する。同様に、v/G_(0)の値が臨界値より小さくなった場合、セルフ-インタースチシャルの濃度が増加する。」)
(イ)「Among the several objects and features of the present invention may be noted the provision of a heat shield and a crystal puller which facilitate growth of high quality single crystal ingots; the provision of such a heat shield and crystal puller which reduce the instantaneous axial temperature gradient of the crystal adjacent the surface of the melt;・・・」(第4頁第2?8行。参考仮訳「本発明のいくつかの目的及び特徴としては以下の点が挙げられる:高品質の単結晶インゴットを容易に成長できる熱シールド及び結晶プーラーの提供;融液表面に近接した結晶の瞬間軸方向温度勾配を低減した熱シールド及び結晶プーラーの提供;・・・。」)
(ウ)「apparatus of the invention is a crystal puller for forming a monocrystalline ingot. The crystal puller comprises a crucible for holding molten semiconductor source material from which the monocrystalline ingot is grown and a heater for heating the crucible. The puller also comprises a pulling mechanism for pulling the ingot from the molten material and a camera positioned about the molten material. ・・・In addition, the puller comprises a heat shield located between the molten material and the camera. The heat shield has a central opening sized and shaped for surrounding the ingot as the ingot is grown to reduce heat transfer from the crucible.」(第5頁第1?15行。参考仮訳「本発明の装置は、単結晶インゴットを形成するための結晶プーラーである。かかる結晶プーラーは、単結晶インゴットがそこから成長する溶融された半導体原材料を保持するるつぼと、該るつぼを加熱するためのヒータを含む。また、プーラーは溶融した材料からインゴットを引き上げるための引き上げメカニズムと、溶融した材料の回りに配置されたカメラとを含む。・・・加えて、プーラーは溶融した材料とカメラとの間に配置された熱シールドを含む。熱シールドは、インゴットが成長する場合にインゴットの周囲を囲むような大きさと形状の中央開口部を有し、るつぼからの熱伝導を低減する。」)
(エ)「The crystal puller 10 includes a water cooled shell (generally indicated at 12) having an interior which includes a crystal growth chamber 14 and a pull chamber 16 disposed above the growth chamber. A quartz crucible 20 is positioned within the growth chamber 14 for holding molten semiconductor source material S from which the monocrystalline silicon ingot I is grown. ・・・A heater 24 surrounding the crucible 20 melts the source material S in the crucible 20. ・・・Insulation 26 surrounding the heater 24 reduces the amount of heat lost through the sides of the shell 12 and helps to keep the exterior walls of the puller relatively cool.
A pulling mechanism 30 (only a portion of which is shown in Fig. 1) rotates a seed crystal C and moves it up and down through the growth chamber 14 and the pull chamber 16. First, the mechanism 30 lowers the seed crystal C through the chambers 14, 16 until it contacts the surface of the molten source material S. Then the pulling mechanism 30 slowly raises the crystal C through the chambers 14, 16 to grow the monocrystalline ingot I.」(第6頁第24行?第7頁第16行。参考仮訳「結晶プーラー10は、内部に結晶成長チャンバ14と成長チャンバ上に配置された引き上げチャンバ16を有する水冷シェル(全体が12で示される)を含む。石英るつぼ20は成長チャンバ14内に配置され、そこから単結晶シリコンインゴットIが成長する溶融された半導体原材料Sを保持する。・・・るつぼ20を囲むヒータ24は、るつぼ20中の原材料Sを融解する。・・・ヒータ24を囲む断熱体26は、シェル12の側面を通る熱損失の量を低減し、プーラーの外壁を適度に冷たく保つのを助ける。
引き上げメカニズム30(図1に一部分のみを示す)は、シード結晶Cを回転させ、成長チャンバ14及び引き上げチャンバ16を通って上下する。最初に、該メカニズム30は、チャンバ14、16を通ってシード結晶Cを下降させ、融解した原材料Sの表面に接触させる。続いて、引き上げメカニズム30がチャンバ14、16を通って結晶Cをゆっくりと上昇させ、単結晶インゴットIを成長させる。」)
(オ)「Further, the diameter of the central opening 60 of the preferred embodiment, which is intended for use with pullers 10 for growing ingots I having a nominal maximum target diameter of about 200 mm, is about 220 mm in diameter.」(第8頁第34行?第9頁第2行。参考仮訳「更に、好ましい具体例における中央開口部60は、プーラー10を用いて公称目標直径が約200mmのインゴットIを成長させるときは、直径が約220mmである。」)
(カ)「Fig. 4 shows the axial temperature gradient G_(o) through the ingot as a function of the surface temperature of the ingot. In general, the overall maximum temperature gradient should be minimized, but the ingot should be cooled rapidly upon solidification until it reaches a temperature range where defect nucleation occurs (e. g., between about 1150°C and about 1050°C for silicon) so that the process duration is minimized.」(第11頁第18?25行。参考仮訳「図4は、インゴットの表面温度の関数として、インゴットを通る軸方向温度勾配G_(0)を示す。一般に、全体の最大温度勾配は、最小限にすべきであるが、インゴットは、欠陥核生成が発生する温度範囲(例えば、シリコンでは、約1150℃と約1050℃との間)に達するまでは、凝固において急冷し、プロセス保持時間を最小にしなければならない。」)
(キ)「Further, as shown in Fig. 5, the heat shield of the present invention results in a lower axial temperature gradient G_(o) in the outer region of the ingot. Because of the effects of convective and radiant cooling at the surface of the ingot, the surface tends to cool faster and consequently the temperature gradient at the outer surface tends to be higher. Since the gradient is higher at the surface, more defects form in the outer region of the ingot. Ideally, the temperature gradient would be the same at any radius, i. e., the curve in Fig. 5 would be flat. By reducing the overall temperature gradient as shown in Fig. 4, the overall gradient at the surface is reduced which reduces the number of defects at the surface.」(第12頁第19?35行。参考仮訳「更に、図5に示すように、本発明の熱シールドは、インゴットの外側の領域で、より低い軸方向温度勾配G_(0)となる。インゴット表面における対流及び輻射冷却の影響により表面はより速く冷え、これにより、外側の表面における温度勾配はより大きくなる。表面における勾配が大きいため、より多くの欠陥がインゴットの外側の領域で形成される。理想的には、温度勾配は、全ての半径において同じである。すなわち、図5の曲線が平坦である。図4に示すように、全体の温度勾配を低減することにより、表面での全体の勾配が低減され、これにより、表面における欠陥の数が低減される。」)
ここで、上記(ア)?(キ)の摘示事項について検討する。
(あ)上記(ア)及び(イ)の記載より、(ウ)に記載の装置は、従来のチョクラルスキ法によって製造された単結晶シリコンインゴットに存在するベーカンシ及びセルフ-インタースチシャル欠陥を低減するために、融液表面に近接した結晶インゴット中の凝固時の瞬間軸方向温度勾配を低減することのできる形状で配置された熱シールドを有した結晶プーラー、すなわちプーラーを有するものであるといえ、「融液表面に近接した結晶インゴット中の凝固時の瞬間軸方向温度勾配」とは、溶融物から単結晶インゴットを引き上げて製造するチョクラルスキ法からして、インゴット-溶融物境界面における凝固瞬間時の軸方向温度勾配であるといえる。
(い)上記(エ)の「シード結晶Cを下降させ、融解した原材料Sの表面に接触させる。続いて、引き上げメカニズム30がチャンバ14、16を通って結晶Cをゆっくりと上昇させ、単結晶インゴットIを成長させる」との記載から、シード結晶と原材料を保持するるつぼが隣接していることは明らかであり、上記(ウ)の「熱シールドは、インゴットが成長する場合にインゴットの周囲を囲むような大きさと形状の中央開口部を有し、るつぼからの熱伝導を低減する」との記載とあわせると、当該熱シールドはるつぼとシード結晶の間に配置されるといえる。また、上記(エ)の「石英るつぼ20は成長チャンバ14内に配置され、そこから単結晶シリコンインゴットIが成長する溶融された半導体原材料Sを保持する。」との記載から、るつぼがシリコンの溶融物を保持していることは明らかである。
(う)上記(オ)には、「直径が約200mmのインゴット」を成長させることが記載されているから、チョクラルスキ法による結晶成長からして、(ウ)で製造されるシリコンインゴットは円筒型であって、軸と円筒型の縁を有していることは明らかである。
(え)上記(カ)の「一般に、全体の最大温度勾配は最小限にすべきであるが、インゴットは、欠陥核生成が発生する温度範囲・・・に達するまでは、凝固において急冷し」との記載より、(ウ)のプーラーを用いた単結晶シリコンインゴットの成長では、少なくとも欠陥核生成が発生する温度範囲(約1150℃と約1050℃との間)に達するまでは、他の過程の温度範囲と比較して急冷とすべきこと、すなわち凝固瞬間時の軸方向温度勾配を大きくすべきことが記載されているといえる。
(お)上記(キ)の記載より、(ウ)の熱シールドを有するプーラーは、インゴット外側領域での凝固瞬間時の軸方向温度勾配を低くして欠陥の数を低減し、理想的にはインゴットの全ての半径方向での当該温度勾配を同じにするものであり、(ア)の記載によれば、シリコンインゴット中に存在するベーカンシ及びセルフ-インターセルフスチシャル欠陥は、引き上げ速度vと凝固瞬間時の軸方向の温度勾配G_(0)の比v/G_(0)を臨界値に制御すれば低減されるものと解されるから、v/G_(0)を臨界値に制御して、上記理想的な温度勾配を結晶の半径方向で実現すれば、半径方向にわたって欠陥が低減された単結晶シリコンインゴットを成長させることができるものといえる。
そうすると、上記(ア)?(キ)の記載事項を補正発明1の記載ぶりに則して記載すると、引用刊行物1には、
「結晶成長チャンバと、
シリコン溶融物を保持する前記結晶成長チャンバ内のるつぼと、
前記るつぼに隣接している前記結晶成長チャンバ内のシード結晶と、
前記るつぼを囲む前記結晶成長チャンバ内のヒータと、
前記ヒータを囲む前記結晶成長チャンバ内の断熱体と、
前記るつぼと前記シード結晶の間の熱シールドと、
シード結晶を前記るつぼから引上げそれによって前記シリコン溶融物から単結晶シリコンインゴットを引き上げメカニズムと、をさらに含み、
前記単結晶シリコンインゴットは、軸と円筒型の縁を有し、前記シリコン溶融物と前記インゴットがインゴット-溶融物境界によって区分され、前記熱シールドの形状及び配置が、インゴット軸で、インゴットの外側の領域での凝固瞬間時の温度勾配と同一な温度勾配をインゴット-溶融物境界で得ることができるように選択されたベーカンシ欠陥及びセルフ-インタースチシャル欠陥の低減された単結晶シリコンインゴットをチョクラルスキ法によって成長させるためのプーラー。」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

(2-2-2)
本願の優先権主張日前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶理由で引用された特開平11-092272号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、「CZ法による単結晶製造装置」(段落【0001】)に関し、次の事項が記載されている。
(サ)「アフタクーラーを設けることにより、チャンバ上部空間および引き上げ中の単結晶が効果的に冷却される。」(段落【0009】)
(シ)「この単結晶製造装置は第1実施例の単結晶製造装置にアフタクーラを追加したもので、アフタクーラ11は熱遮蔽板1の上面および内面のほぼ上半分を覆うように設置されている。アフタクーラ11は耐熱金属製容器内に冷却水配管12を収容したもので、単結晶7を取り巻く円筒状の内壁面には吸熱シート13が貼着されている。」(段落【0019】)
以上より、引用刊行物2には、熱遮蔽板を覆い、単結晶を取り巻く円筒状に設置されたアフタクーラを設けて、引き上げ中の単結晶を効果的に冷却することが記載されているものと認められる。

(2-3)対比
補正発明1と引用発明1とを対比する。
ここで、
(タ)補正発明1における「密封体」は「チャンバ密封体」のことであり(本願明細書の段落【0046】)、「炉」はシリコン溶融物を保有するものであること(【請求項1】)、「加熱パック」はヒータを囲み、その内部に熱吸収物質を含むこと(【請求項1】及び段落【0044】)、「遮断体」はシールドの和訳であること、「引上げる手段」はシードホルダーを炉から引上げて、それによってシリコン溶融物から単結晶シリコンインゴットを引き上げるものであること、「温度勾配」はインゴットの冷却固化時の「インゴット-溶融物境界」の軸方向で得られるものである(段落【0010】及び【0048】)ことを勘案すると、引用発明1の「結晶成長チャンバ」、「るつぼ」、「断熱体」、「熱シールド」、「引き上げメカニズム」及び「凝固瞬間時の温度勾配」が、それぞれ補正発明1の「密封体」、「炉」、「加熱パック」、「熱遮断体」、「引上げる手段」及び「温度勾配」に相当することは明らかである。また、引用発明1における熱シールドの「形状及び配置」が、それぞれ補正発明1の「配列」及び「位置」に相当する。
(チ)引用発明1には「シードホルダー」を有することが明記されていないものの、引き上げメカニズムがシード結晶を回転及び上昇させて単結晶インゴットを成長させること及び技術常識を参酌すれば、当該シードがるつぼに隣接しているホルダーを介して、すなわち「シードホルダー」を介して引き上げメカニズムに保持されていることは明らかである。
(ツ)補正発明1の「インゴットの円筒縁から拡散距離」とは、本願明細書では、「ウェーハの拡散距離L_(1)と縁Eの間で、インタースチシャル濃度が初期にインゴット-溶融物境界で臨界濃度[I]^(*)以上である場合でも、拡散によってインタースチシャルベーカンシはインゴットから拡散して行き、結晶成長の間に塊を形成しない」距離で、具体的には「8インチウェーハでは大体2.5?3cmである」(段落【0036】)と記載されているから、上記(オ)及び(カ)に記載されているように、公称目標直径が約200mm(約8インチに相当する)のインゴットですべての半径において温度勾配を同じくする引用発明1においては、「インゴットの外側の領域」に補正発明1の「インゴットの円筒縁から拡散距離」の範囲が含まれるといえる。また、補正発明1の「大体同一」とは「G_(2)≧G_(1)」、すなわち等号付き不等号を意味するから、「同一」の場合を含んでいることは明らかである。
(テ)補正発明1の「ベーカンシ塊」及び「インタースチシャル塊」は、それぞれ「ベーカンシ点欠陥」及び「インタースチシャル点欠陥」より形成される(本願明細書の段落【0012】)ものであり、「インタースチシャル」と「セルフインタースチシャル」は同義で用いられている(本願の【図2】)とみることができる。そうすると、引用発明1の「ベーカンシ欠陥及びセルフ-インタースチシャル欠陥」は補正発明1の「ベーカンシ塊及びインタースチシャル塊」に相当するといえる。
(ト)補正発明1の「ベーカンシ塊及びインタースチシャル塊等のない無欠陥単結晶シリコンインゴット」について、本願明細書中には「ベーカンシ塊及びインタースチシャル塊のない無欠陥単結晶インゴットを製造するためのチョクラルスキプーラーの改良方法」及び「ベーカンシ塊及びインタースチシャル塊のない多数の無欠陥ウェーハになる」(いずれも段落【0016】)、「インタースチシャル塊及びベーカンシ塊が無い図10の無欠陥シリコン[P]が形成される」(段落【0041】)、「各無欠陥シリコンウェーハにはベーカンシ塊及びインタースチシャル塊が存在しない」(段落【0088】)などと記載されているにすぎず、「等」の意味するものは何ら記載も示唆もされていないばかりでなく、本件補正後の請求項23?43に係る発明では「ベーカンシ塊及びインタースチシャル塊のない無欠陥」とされている点からみても、「ベーカンシ塊及びインタースチシャル塊」を含まないものが「無欠陥」の意味と解されるから、補正発明1の「ベーカンシ塊及びインタースチシャル塊等のない無欠陥単結晶シリコンインゴット」は、「ベーカンシ塊及びインタースチシャル塊のない無欠陥単結晶シリコンインゴット」であると解される。
(ナ)引用発明1の「プーラー」は、チョクラルスキ法によって成長させるためのものであるから、補正発明1の「チョクラルスキプーラー」に相当することは明らかである。
そうすると、両発明は、
「密封体と、
シリコン溶融物を保有する前記密封体内の炉と、
前記炉に隣接している前記密封体内のシードホルダーと、
前記炉を囲む前記密封体内のヒータと、
前記ヒータを囲む前記密封体内の加熱パックと、
前記炉と前記シードホルダーの間の熱遮断体と、
シードホルダーを前記炉から引上げそれによって前記シリコン溶融物から単結晶シリコンインゴットを引上げる手段と、をさらに含むし、
前記単結晶シリコンインゴットは、軸と円筒型の縁を有し、前記シリコン溶融物と前記インゴットがインゴット-溶融物境界によって区分され、前記熱遮断体の位置、前記熱遮断体の配列、前記ヒータの位置、前記炉の位置、前記加熱パックの配列及び前記ヒータに適用される電力の少なくとも一つがインゴット軸で(インゴット軸における温度勾配)、インゴットの円筒型縁から拡散距離での温度勾配と少なくとも大体同一な温度勾配をインゴット-溶融物境界で得ることができるように選択されたことを特徴とするベーカンシ塊及びインタースチシャル塊のない無欠陥単結晶シリコンインゴットを成長させるためのチョクラルスキプーラー。」
である点で一致し、
(a)補正発明1のプーラーが「前記熱遮断体と前記シードホルダーの間の冷却ジャケット」を有しているのに対して、引用発明1のプーラーはかかる冷却ジャケットを有していない点(以下、「相違点a」という。)、
(b)インゴット-溶融境界面での温度勾配に関して、補正発明1が「インゴット軸で(インゴット軸における温度勾配が)2.5°K/mmより大き」い温度勾配を得ることができるようにも選択されるのに対して、引用発明1ではかかる温度勾配の特定がされていない点(以下、「相違点b」という。)、
(c)成長させた単結晶シリコンインゴット中のベーカンシ塊及びインタースチシャル塊からなる欠陥について、補正発明1がこれら欠陥の「ない無欠陥」であるのに対して、引用発明1ではこれら欠陥が「低減された」ものである点(以下、「相違点c」という。)、
で相違する。
(2-4)検討
上記相違点a?cについて検討する。
(a)相違点aついて
引き上げ中の単結晶を効果的に冷却するために、熱遮断体とシードホルダーとの間に冷却ジャケットを設けることは、引用刊行物2(上記(2-2-2)を参照)のほか、特開平11-079889号公報(特に段落【0058】の「筒状の冷却装置36」及び【図6】参照)、特開平11-043396号公報(特に段落【0031】?【0033】の「冷却部40」、【図5】及び【図6】参照)等に記載されているように、本願出願前より周知の技術手段であるから、引用発明1において、プーラーに冷却ジャケットを付加してインゴットの熱環境を調整する程度のことは、当業者が困難なく成し得ることである。
(b)相違点bについて
引用発明1においては、(2-2-1)(え)で検討したように、凝固時の軸線温度勾配を大きくすべきことが記載されているし、チョクラルスキ法による単結晶シリコンインゴットの製造において、インゴット-溶融物境界の軸方向の温度勾配を2.5°K/mmより大きい範囲に設定することも、例えば特開平11-079889号公報(特に段落【0049】、【0050】及び実施例1参照)、特開平11-043396号公報(特に実施例1?5参照)、特開平09-286692号公報(特に段落【0021】の【表1】参照)、特開平08-330316号公報(特に段落【0036】参照)及び特開平07-010682号公報(特に段落【0042】及び【図13】参照)等に記載されているように本願出願前より広く行われている周知の技術にすぎないから、引用発明1において、インゴット軸におけるインゴット-溶融物境界の温度勾配を2.5°K/mmより大きい値に設定する程度のことは、当業者が適宜成し得ることにすぎない。
(c)相違点cについて
補正発明1の「無欠陥単結晶シリコンインゴット」の製造方法について、本願明細書には「本発明による無欠陥シリコンインゴット・・・を形成するための引上げ速度プロファイルの調節示す。・・・V/Gがウェーハ中央Cとウェーハの縁Eからの拡散距離aの間での緊密な許容範囲内に維持されるのであれば、ウェーハ全体に渡りインタースチシャル塊と同じくベーカンシ塊の形成を防止することができる。従って、・・・ウェーハの中央C(インゴット軸A)でV/Gの比はベーカンシ塊を形成する臨界比(V/G)_(2)より低く維持される。類似に、V/Gはインタースチシャル塊を形成する臨界比(V/G)_(1)より高く維持される」(段落【0041】)と記載されているように、引き上げ速度Vと軸方向の温度勾配Gの比V/Gが各塊を形成する臨界値を超えない範囲内に制御して、無欠陥単結晶シリコンインゴットを製造するとされている。
一方、引用刊行物1にも、上記(2-2-1)(ア)に摘示したように、シリコンインゴット中に存在するベーカンシ及びセルフ-インタースチシャルとして知られる内在的な点欠陥の過剰な存在により欠陥が起き、引き上げ速度vと凝固瞬間時の軸方向の温度勾配G_(0)の比v/G_(0)が臨界値を超えた場合にベーカンシが増加し、低くなった場合にインタースチシャルの濃度が増加することが記載されているから、それぞれの点欠陥濃度が過剰となって塊を形成する際の臨界値の範囲内にv/G_(0)を制御すれば、両欠陥ともに存在しない無欠陥の状態が製造できることは明らかである。そうすると、引用発明1のプーラーにおいて、シールドにより理想的な温度勾配を結晶の半径方向で実現するとともに、v/G_(0)を両欠陥の発生する臨界値の範囲内に制御すれば、半径方向にわたってベーカンシ欠陥及びセルフ-インタースチシャル欠陥のない無欠陥単結晶シリコンインゴットを成長させることができることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、本願明細書及び図面を参照しても、補正発明1が上記相違点(a)?(c)の事項を有することにより、引用発明1に比して、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されるものとも認められない。
なお、審判請求人は、平成20年12月10日に提出した回答書において、「本願請求項1(上記「補正発明1」に相当)及び22に記載の発明は、不等式(G_(2)≧G_(1))のうち、G_(2)>G_(1)の条件が入っている点が引例と明確に差異を有する」旨主張しているが、上記2.(2-3)(ツ)のとおり、「大体同一」を意味する等号付き不等式「G_(2)≧G_(1)」を満足する条件には「G_(2)=G_(1)」の場合を当然包含するから、「G_(2)=G_(1)」が成立するのであれば、「G_(2)>G_(1)」の条件を満たすかどうかに関わらず、不等式「G_(2)≧G_(1)」を満足することは当然である。
以上のとおり、補正発明1は、引用刊行物1及び2に記載された発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものとは認められない。

(2-5)むすび
したがって、平成17年3月2日付け手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成17年3月2日付けの明細書の記載に係る手続補正は、上記のとおり、補正却下の決定がなされた。
したがって、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成16年9月15日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?56に記載されたとおりのものであり、その請求項14に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次の事項により特定されるものである。
「【請求項14】密封体と、
シリコン溶融物を保有する前記密封体内の炉と、
前記炉に隣接している前記密封体内のシードホルダーと、
前記炉を囲む前記密封体内のヒータと、
前記ヒータを囲む前記密封体内の加熱パックと、
前記炉と前記シードホルダーの間の熱遮断体と、
前記熱遮断体と前記シードホルダーの間の冷却ジャケット及び、シードホルダーを前記炉から引上げそれによって前記シリコン溶融物から単結晶シリコンインゴットを引上げる手段と、をさらに含むし、
前記単結晶シリコンインゴットは、軸と円筒型の縁を有し、前記シリコン溶融物と前記インゴットがインゴット-溶融物境界によって区分され、前記熱遮断体の位置、前記熱遮断体の配列、前記ヒータの位置、前記冷却ジャケットの配列、前記炉の位置、前記加熱パックの配列及び前記ヒータに適用される電力の少なくとも一つがインゴット軸で2.5°K/mmより大きく、またインゴットの円筒型縁から拡散距離での温度勾配と少なくとも大体同一な温度勾配をインゴット-溶融物境界で得ることができるように選択されたことを特徴とする単結晶シリコンインゴットを成長させるためのチョクラルスキプーラー。」
そして、上記本願発明は、実質的に上記補正発明1の「ベーカンシ塊及びインタースチシャル塊等のない無欠陥」という特定事項を有さないものにすぎないから、本願発明と引用発明1とを対比すると、上記の「ベーカンシ塊及びインタースチシャル塊等のない無欠陥」という特定事項を除き、上記2.(2-3)で補正発明1と引用発明1とを対比したときと同様の一致点及び相違点を有していることになる。そうすると、上記と同様の理由により、本願発明についても、引用刊行物1及び2に記載された発明並びに周知技術に基いて、当業者が困難なく成し得るものにすぎない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用刊行物1及び2に記載された発明並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-26 
結審通知日 2009-03-03 
審決日 2009-03-16 
出願番号 特願2000-52451(P2000-52451)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C30B)
P 1 8・ 575- Z (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横山 敏志真々田 忠博五十棲 毅  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 天野 斉
木村 孔一
発明の名称 インゴット-溶融物の境界の中央及び縁での温度勾配の調節による単結晶シリコンインゴットの製造のためのチョクラルスキプーラー、チョクラルスキプーラー用熱遮断体及びチョクラルスキプーラーの改良方法  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  

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