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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A62D |
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管理番号 | 1201456 |
審判番号 | 不服2006-4817 |
総通号数 | 117 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-03-15 |
確定日 | 2009-07-29 |
事件の表示 | 特願2001-191021「ガス系消火薬剤の代替物質の選定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月 7日出願公開、特開2003- 750〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成13年6月25日の出願であって、平成18年2月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年3月15日に拒絶査定不服の審判が請求され、その後、平成21年2月9日付けで、当審により、拒絶理由が通知され、同年4月17日に手続補正がなされたものである。 2.本願発明 本願請求項1?5に係る発明は、平成21年4月17日付けの手続補正書により補正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載されたとおりのものと認めるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。 一般式:C_(n)F_(2n+1)-X-Y(式中、nは1から3の整数を示し、Xは任意の元素を示し、Yは有機又は無機の官能基を示す)で表される化合物の、C-X結合エネルギーを指標として、ガス系ハロン消火薬剤の代替物質を選定する方法であって、 (1)候補物質のC-X結合エネルギーを計算する、(2)消炎濃度と結合エネルギーとの相関関係から、高い消火性能を示すものを選択して、候補物質を絞り込む、ことを特徴とする代替物質の選定方法。 3.当審による平成21年2月9日付け拒絶理由通知について 当審による平成21年2月9日付け拒絶理由通知において、理由3.?6.が通知されたが、そのうち、「3.」の概要は以下のとおりである。 (1)本願発明1?5は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 【引用刊行物】 刊行物1:阿部隆”臭化メチル等の環境中挙動の把握と削減・代替技術の開発に関する研究(2)臭化メチル等の削減・代替技術の開発に関する研究、〈6〉高性能ハロン代替物質の分子設計及び基礎性能評価に関する研究”、「臭化メチル等の環境中挙動の把握と削減・代替技術の開発に関する研究 平成8-10年度」、1999、p.99-110 4.当審の判断 (1)刊行物1の記載事項 刊行物1には、以下の事項が記載されている。 (ア)「臭素を含まない高性能のハロン代替物質の開発のために、CF_(3)・やC_(2)F_(5)・の化学的消火作用を最大限に活用することを基本指針とした。すなわち、火炎中でそれらを容易に放出できる分子構造を有する化合物として、窒素、酸素やイオウにCF_(3)-やC_(2)F_(5)-基が結合した化合物に着目した。ポリフルオロアミン、ペルフルオロエーテル、ペルフルオロ硫黄化合物などを候補化合物として、それらの消火性能評価を、層流燃焼速度や消炎濃度を測定することにより行った。」(107頁18?22行) (イ)102頁の表1には、「メタン、n-ヘプタンの層流燃焼速度に及ぼす添加物の効果」と題した表に、添加剤として、「CF_(3)OCF_(3)」、「C_(2)F_(5)OC_(2)F_(5)」、「C_(2)F_(5)SF_(5)」、「CF_(3)SF_(5)」が記載されており、これらを添加した場合のメタン、n-ヘプタンの「燃焼速度」、「減少率」が記載されている。 刊行物1の記載事項(ア)には、「ハロン代替物質の開発のために、CF_(3)・やC_(2)F_(5)・の化学的消火作用を最大限に活用することを基本指針」とし、「それらを容易に放出できる分子構造を有する化合物として、窒素、酸素やイオウにCF_(3)-やC_(2)F_(5)-基が結合した化合物に着目し」て「ポリフルオロアミン、ペルフルオロエーテル、ペルフルオロ硫黄化合物などを候補化合物」としたことについて記載されている。このことから、刊行物1の記載事項(ア)には、化合物の、「化学的消火作用を有するCF_(3)・やC_(2)F_(5)・を容易に放出できる」という指標を用いて、化合物の中から、ハロン代替物質の候補化合物を選定したことが記載されているといえる。 そこで、刊行物1の記載事項(ア)を、本願発明1の記載ぶりに則して整理すると、 「化合物の、化学的消火作用を有するCF_(3)・やC_(2)F_(5)・を容易に放出できる、という指標を用いて、化合物の中から、ハロン代替物質の候補化合物を選択する方法」(以下、「刊行物1発明」という。) が記載されているといえる。 (2)対比、判断 本願発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の、「ハロン代替物質」は、本願発明1の、「ガス系ハロン消火薬剤の代替物質」に相当する。 また、刊行物1発明の、「ハロン代替物質の候補化合物を選択する」にあたり、「化学的消火作用を有するCF_(3)・やC_(2)F_(5)・を容易に放出できるという指標を用いて、化合物の中から」選択するのであるから、選択された「ハロン代替物質の候補化合物」は、それ自体、化学的消火作用を有するCF_(3)・やC_(2)F_(5)・を容易に放出できる、すなわち、消火性能を有する化合物であるとみるのが自然であること、および、記載事項(イ)にあるとおり、実際に、当該指標により、消火性能を有する化合物が選択されていることによれば、刊行物1発明の「ハロン代替物質の候補化合物を選択する」ことは、本願発明1の「ガス系ハロン消火薬剤を選定する」ことであるといえる。 すると、本願発明1と刊行物1発明とは、 「化合物の指標を用いて、ガス系ハロン消火薬剤の代替物質を選定する方法」 である点で一致し、以下の点で相違する。 【相違点1】 本願発明1においては、一般式:C_(n)F_(2n+1)-X-Y(式中、nは1から3の整数を示し、Xは任意の元素を示し、Yは有機又は無機の官能基を示す)の、C-X結合エネルギーを指標として、ガス系ハロン消火薬剤の代替物質を選定しているのに対して、刊行物1発明では、化合物の、「CF_(3)・やC_(2)F_(5)・を容易に放出できる」という指標を用いている点。 【相違点2】 本願発明1においては「(1)候補物質のC-X結合エネルギーを計算」し、「(2)消炎濃度と結合エネルギーの相関関係から、高い消火性能を示すものと選択して、候補物質を絞り込む」のに対して、刊行物1発明ではこの点の記載がない点。 上記相違点について検討する。 【相違点1】について 記載事項(イ)には、刊行物1発明において、CF_(3)・やC_(2)F_(5)・を容易に放出できるという指標を用いて、選択された化合物として、具体的に、「CF_(3)OCF_(3)」、「C_(2)F_(5)OC_(2)F_(5)」、「C_(2)F_(5)SF_(5)」、「CF_(3)SF_(5)」が挙げられており、これらは、本願の「一般式:C_(n)F_(2n+1)-X-Y(式中、nは1から3の整数を示し、Xは任意の元素を示し、Yは有機又は無機の官能基を示す)」を満たす。 一方、一般に、分子内の各結合に割り当てられた固有なエネルギー値であって、各結合を解離するのに要するエネルギーに対応するエネルギーが「結合エネルギー」である、ということが知られている(要すれば、化学大辞典編集委員会編「化学大辞典3縮刷版」(1963年9月15日)、共立出版株式会社、p.345「結合エネルギー」の項参照)から、刊行物1発明において、CF_(3)・やC_(2)F_(5)・を容易に放出できる程度、すなわち、CF_(3)-やC_(2)F_(5)-基と結合している元素とこれらの基との間の結合が、どの程度解離しやすいか、という指標を、CF_(3)-やC_(2)F_(5)-基と結合している元素とこれらの基との間の結合エネルギーで表すようにしたことは、当業者にとって格別困難であるとはいえない。 そして、上記したように、記載事項(イ)には、CF_(3)・やC_(2)F_(5)・を容易に放出できるという指標を用いて、選定された化合物として、本願発明1の「一般式」を満たす、「CF_(3)OCF_(3)」、「C_(2)F_(5)OC_(2)F_(5)」、「C_(2)F_(5)SF_(5)」、「CF_(3)SF_(5)」が挙げられているが、これらの化合物に対して、CF_(3)・やC_(2)F_(5)・を容易に放出できるという指標を、上記したように、CF_(3)-やC_(2)F_(5)-基と結合している元素とこれらの基との間の結合エネルギーで表すようにすれば、本願と同様に、一般式:C_(n)F_(2n+1)-X-Y(式中、nは1から3の整数を示し、Xは任意の元素を示し、Yは有機又は無機の官能基を示す)の、C-X結合エネルギーを指標としていることになる。 【相違点2】について 刊行物1発明において、CF_(3)・やC_(2)F_(5)・を容易に放出できる程度を、CF_(3)-やC_(2)F_(5)-基と結合している元素とこれらの基との間の結合エネルギーで表すようにしたことが、当業者にとって格別困難であるとはいえないことは、上記「【相違点1】について」で説明したとおりであるが、化合物内の結合の結合エネルギーを計算により求めることは、常套手段にすぎないから、CF_(3)-やC_(2)F_(5)-基と結合している元素とこれらの基との間の結合エネルギーを計算で求めるようにすることは、何ら格別のものではない。 そして、刊行物1発明において、「化学的消火作用を有するCF_(3)・やC_(2)F_(5)・を容易に放出できる、という指標を用い」て、「化合物の中から」「選択する」とは、化学的消火作用を有するCF_(3)・やC_(2)F_(5)・を放出しやすい化合物が、高い消火性能を有する、との相関関係を利用して、化合物を絞り込んで高い消火性能を有するものを選択することであるといえる。 つまり、刊行物1発明では、「消火性能」と、「CF_(3)・やC_(2)F_(5)・を容易に放出できる」という指標の相関関係から、高い消火性能を示す化合物を選択し、化合物を絞り込んでいるということができる。 そして、記載事項(ア)の、「消火性能評価を」、「消炎濃度を測定することにより行った。」という記載から、消火性能は消炎濃度により評価できるといえること、および、上記「【相違点1】について」で検討したとおり、CF_(3)・やC_(2)F_(5)・を容易に放出できる」ということを指標にするにあたって、化合物における、CF_(3)-やC_(2)F_(5)-基と結合している元素とこれらの基との結合の結合エネルギーをもって、当該指標を表すようにしたことが、当業者にとって格別困難であったとはいえないことを鑑みれば、刊行物1発明において、「消火性能」と、「CF_(3)・やC_(2)F_(5)・を容易に放出できる」という指標の相関関係にかえて、「消炎濃度」と、「結合エネルギー」の相関関係を利用するようにしたことは、当業者であれば容易に想到し得たものといえる。 次に、本願発明1の効果を検討する。 本願明細書の段落【0016】によれば、本願発明1は、「1)あらかじめ,候補物質を絞り込むことができ、代替フロンの開発にとって大きな利点となる、2)例えば、ポリフルオロアルキルサルファイド系消火薬剤等の、オゾン層破壊の原因となる臭素原子が含まれていないにもかかわらず、規制ハロンと同程度の消火性能を示す代替物質の選定に有用である、3)このことにより、例えば、図書館や美術館、航空機などの消火設備として使用した場合に、安全性と経済性を高める効果が期待できる有力化合物を選定することができる、4)候補物質を簡便な方法で効率よく絞り込むことができる、5)ガス系ハロン消火薬剤の代替物質を選定する手法として有用である」という効果を有するものであるが、上記したように、刊行物1発明においても、「CF_(3)・やC_(2)F_(5)・を容易に放出できる」という指標をもちいて、化合物を絞り込んでいるのであり、記載事項(イ)には、選定された化合物として、本願明細書の表2に挙げられたのと同様の、ポリフルオロアルキルサルファイド系の記載もあることを鑑みれば、本願発明1が、刊行物1発明に比して格別の効果を奏するともいえない。 5.請求人の主張について 請求人は、平成21年4月20日付け意見書(以下、単に「意見書」とい う。)において、本願発明1が刊行物1発明に比して進歩性を有する旨の主張をしている。その主張の根拠は要するに、以下のとおりである。 (1)消炎濃度と結合エネルギーの相関関係は、本発明者らの実験によってはじめて一定の相関関係があること、即ち、結合エネルギーが低い(ペルフルオロアルキルラジカルを放出しやすい)ほど、消炎濃度が低い(消火性能が高い)という相関関係があることが解明されたものである。 (2)このような相関関係は、本発明者らが、通常のルーチンの実験をはるかに上回る格別の実験、即ち、過度の実験をして、はじめて実証されたものである。 上記主張について検討しておく。 主張(1)について、確かに「消炎濃度」と「結合エネルギー」の相関関係があること自体は、刊行物1には直接の記載はない。しかしながら、刊行物1発明では、「消火性能」と「CF_(3)・やC_(2)F_(5)・を容易に放出できる」という指標の相関関係を利用しているといえること、これに代えて「消炎濃度」と、「結合エネルギー」の相関関係を利用するようにしたことは、当業者であれば容易に想到得たものといえることは上記したとおりであって、刊行物1自体に「消炎濃度」と「結合エネルギー」の相関関係があること自体が刊行物1に記載がないからといって、本願発明1が刊行物1発明に比して進歩性を有するとすることはできない。 そして、本願明細書において、消炎濃度と結合エネルギーとの相関関係は、本願明細書の段落【0010】?【0012】によれば、すでに測定されている消炎濃度と、計算した結合エネルギーとの関係をプロットすることにより得ており、主張(2)の「通常のルーチンをはるかに上回る格別の実験」、「過度の実験」が、具体的にどのような実験を意味するのかが明らかでない。 以上のことから、請求人による、上記の主張はいずれも採用できない。 6.まとめ 以上のとおり、本願発明1は、刊行物1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-06-01 |
結審通知日 | 2009-06-03 |
審決日 | 2009-06-16 |
出願番号 | 特願2001-191021(P2001-191021) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A62D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山田 充 |
特許庁審判長 |
大黒 浩之 |
特許庁審判官 |
天野 斉 繁田 えい子 |
発明の名称 | ガス系消火薬剤の代替物質の選定方法 |
代理人 | 須藤 政彦 |