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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07K |
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管理番号 | 1201457 |
審判番号 | 不服2006-6413 |
総通号数 | 117 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-04-06 |
確定日 | 2009-07-29 |
事件の表示 | 平成11年特許願第302700号「新規蛋白質DRF-1及びそれをコードする遺伝子」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 5月 8日出願公開、特開2001-122898〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は,平成11年10月25日の出願であって,平成18年1月5日付で手続補正がなされ,同年2月27日付で拒絶査定がなされ,これに対し,同年4月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものであって,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)は,平成18年1月5日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。 「配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する蛋白質。」 2.原査定の理由 一方,原査定の拒絶の理由は以下のとおりであり,本願は特許法第36条第4項(平成14年改正前のもの。以下同様)に規定する要件を満たしていないというものである。 「ある蛋白質が特定の機能(技術的に意味のある特定の用途が推認できる機能)を有するといえるためには,該蛋白質そのものがある機能(例えば,酵素である場合には特定の活性)を有していること,あるいは,該蛋白質の機能自体は不明であっても,特定の細胞を識別するためのマーカーとして有用であること,等が発明の詳細な説明中に明示的に記載されていなければならない。 しかしながら,発明の詳細な説明及び平成18年1月5日付意見書の記載を参酌しても,配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質そのものの機能は依然として不明である。また,該蛋白質は造血細胞から巨核球に分化した細胞において発現していることは認められるものの,該蛋白質をマーカーとして造血細胞から巨核球に分化した細胞を識別できるかどうかにについては記載されていない。さらに,本願出願後に頒布された文献である「The Journal of Biological Chemistry (2001) vol.276, no.8, p.5417-5420」の記載(抄録及び図1)を参酌すると,本願発明における配列番号2に示されるアミノ酸からなる蛋白質に対応するhCAP-G蛋白質は,HeLa細胞の核において発現していることが理解できる。してみると,本願発明における該蛋白質は,複数種の細胞に発現している蓋然性が高いといえるから,該蛋白質をマーカーとして造血細胞から巨核球に分化した細胞のみを識別できる蓋然性は極めて低いといえる。 してみると,請求項1に係る発明の蛋白質がどのような特定の機能を有するかは依然として不明であるといえ,よって,何に使用できるかも不明である。」 3.当審の判断 (1)はじめに 化学物質である蛋白質に係る発明について,当業者がその実施ができる程度に発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されているというためには,その化学物質が製造可能なように記載されているだけでなく,その用途(機能,有用性)が明らかにされ使用できるように記載されていること,あるいは技術常識を参酌すれば記載されているに等しいことが要件とされる。 そこで,以下,(2)蛋白質の機能について,(3)マーカーとしての有用性について,それぞれ考察する。 (2)「配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する蛋白質」の機能について 本願の発明の詳細な説明には,「配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する蛋白質」(以下,「DRF-1」という。)の機能について,「本発明は,血液幹細胞やHEL細胞などの造血細胞の巨核球や血小板への分化を誘発し得る新規な蛋白質を提供するものであり,血小板減少性の各種疾患に対する新規な医薬組成物を提供するものである」と記載されている(段落【0033】下から3行?下から1行)。 一方,その根拠として,発明の詳細な説明には,DMSO処理したHEL細胞において顕著に誘導される新規のmRNAを同定したこと(段落【0009】?【0010】),この遺伝子のcDNAを単離して,得られた遺伝子の塩基配列及びそれがコードしているアミノ酸配列を図3に示したこと(段落【0011】?【0012】),その配列中にポリアデニル化シグナル,膜貫通領域,ロイシンジッパーモチーフ,TIMバレル構造及び終始コドンが見いだされたこと(段落【0012】),アミノ酸配列をデータベースで検索したところ,酵母由来の膜タンパク(EMBL/Genbank/DDB:アクセッション番号:S58791)にのみ有意な類似性が認められたものの,その配列の相同性は僅かに22%だったこと(段落【0013】),疎水性親水性指標(hydropathy profile)によれば,このアミノ酸配列には疎水性の高い2つ領域(293番目から315番目および427番目から447番目)があること(段落【0013】),PROSITEデータベースのモチーフ検索では520番目から550番目の領域がロイシンジッパーモチーフに一致すること(段落【0013】),Libraスレッディングプログラム(Ota,M., et al., (1997)Prot.Engng.,10, 339-351.)で検索したところ,N末端領域にはTIMバレルがあることを強く示唆する知見が得られたこと(段落【0014】?【0015】)が記載されているものの,DRF-1を発現させ,その蛋白質の機能を確認した具体的な記載はなされていない。 しかしながら,これらの記載からは,DMSOにより分化を誘発したHEL細胞において顕著に誘導される新規mRNAを取得し,対応する遺伝子がコードする推定アミノ酸配列からなる蛋白質をDRF-1と名付けたこと,そのアミノ酸配列にはいくつかのモチーフが含まれていたことがわかるだけである。DMSOによる刺激により誘導されるmRNAから翻訳される蛋白質であっても,逆に,この蛋白質を添加すればHEL細胞等の造血細胞の分化を誘発するといえないのは,当該技術分野の技術常識であり,これら記載からでは,DRF-1が造血細胞の巨核球や血小板への分化を誘発し得ると推認することはできない。 してみれば,本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識をもってしても,DRF-1がいかなる機能を有するものであるか明らかであるとはいえない。 (3)DRF-1のマーカーとしての有用性について 請求人は,平成18年4月28日付審判請求書の手続補正書において,「本願の請求項1に係るこの蛋白質(DRF-1)は,造血細胞から巨核球への分化のマーカーとして有用であるところから,DRF-1の発現を検査することによって,成熟した巨核球によって産生される血小板の産生の予測と分析が可能となり,白血病や悪性貧血,さらには抗癌剤等の薬物投与による血小板減少症の進行の診断に有意義なツールとなる」と主張している(3.(1))。 しかし,そもそも本願の発明の詳細な説明には,DRF-1を,造血細胞から巨核球への分化のマーカーとして用いることは記載されていないので,本願出願時の技術常識を参酌した場合に,記載されているに等しいものであるかどうか検討する。 対応する本願の発明の詳細な説明には,「DMSO刺激によってDRF-1のmRNAは徐々に増加し,DMSO添加96時間後にはDRF-1はおよそ8倍に増加する」こと(段落【0016】),「K252a処理ではDRF-1mRNAの発現は一時的で,ピークは24時間後に見られた」こと(段落【0017】),「TPOは,DRF-1遺伝子の発現を一時的に増加させるように調節し,ピークは刺激後6時間で以後減少していくこと」(段落【0018】),「骨髄,胎生期の肝臓および胸腺で豊富なDRF-1のmRNAが認められた。脾臓,リンパ節および胎盤でも少ないながら検出された」こと(段落【0019】)が記載されている。 請求人は,これらの記載に基づいて,「ある蛋白質が造血細胞から巨核球への分化において発現することを実証された当業者は,当然にこれがマーカーとして有用であると認識すると考えられ」るから,DRF-1は「造血細胞から巨核球への分化におけるマーカー,すなわち細胞の状態を識別するマーカー」として有用であると主張している。 しかし,mRNA量と発現する蛋白質の量とは必ずしも相関するものでないことは技術常識であり,mRNAが増加したとしても,赤芽球系白血病細胞株であるHEL細胞をDMSO,K252aまたはTPOで処理するとDRF-1の発現する量が増加する,と直ちにはいえない。 また,DRF-1mRNAについては,発明の詳細な説明には,HEL細胞をDMSO,K252aまたはTPOで処理すると,DRF-1mRNAの発現量が増加したことが記載されているものの,単にDMSO,K252aまたはTPO刺激によってmRNA発現量が変化するだけの遺伝子を,これらの化合物による刺激でなく,これら化合物の介在なしに誘導される巨核球への分化のマーカーとして使用できるということもできない。 さらに,DRF-1mRNA発現量の変化が,DMSO,K252aまたはTPO刺激に対して異なった反応を示すことは記載されているが(段落【0018】),その機序は解明されていないため,用いる化学物質の種類によって発現量変化のパターンが異なるということによる,有用性を見いだすこともできない。 加えて,請求人は,上記審判請求書の手続補正書において,補足図1を示して,「DRF-1は,他のコンデンシン複合体の構成因子とは異なった,単なるコンデンシン複合体の構成因子としてだけでは解釈することができない特別な発現挙動を,造血細胞から巨核球への分化において示しております」と述べ,「本願の請求項1に係るこの蛋白質(DRF-1)は,造血細胞から巨核球への分化のマーカーとして特に有用である」と主張している。しかし,他のコンデンシン複合体の構成因子とは異なった挙動を示す機序は解明されていないため,単にmRNA発現量が変化する遺伝子という以上の有用性を見いだすこともできない。 また,DMSO,K252aまたはTPOによるHEL細胞の処理は,巨核球への分化のモデル系であり,生体内で生じる巨核球への分化と完全に同一の遺伝子発現挙動を示すとは認められないため,DRF-1mRNAが,HEL細胞以外の造血細胞,例えば血液幹細胞から巨核球への分化においてもモデル系と同一の発現挙動を示すと推認することもできない。 したがって,本願発明の詳細な説明の記載および,本願出願時の技術常識を考慮しても,DRF-1mRNA又はDRF-1を「造血細胞から巨核球への分化におけるマーカー,すなわち細胞の状態を識別するマーカー」として使用し得るかどうか不明である。 (4)小括 以上のとおりであるから,本願の発明の詳細な説明には,DRF-1について,本願出願時の技術常識を考慮しても,その有用性が不明であり,技術的に意味のある特定の用途が開示されているともいえず,本願の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると認められない。 4.むすび したがって,本願は,請求項1に係る発明について,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないので,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-05-20 |
結審通知日 | 2009-05-26 |
審決日 | 2009-06-09 |
出願番号 | 特願平11-302700 |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(C07K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小暮 道明、池上 文緒 |
特許庁審判長 |
鈴木 恵理子 |
特許庁審判官 |
鵜飼 健 深草 亜子 |
発明の名称 | 新規蛋白質DRF-1及びそれをコードする遺伝子 |
代理人 | 佐伯 憲生 |
代理人 | 小板橋 浩之 |