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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
審判 査定不服 特39条先願 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
管理番号 1201466
審判番号 不服2006-19609  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-05 
確定日 2009-07-29 
事件の表示 特願2001-277403「熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルム、これを用いたラベル、及び容器」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月19日出願公開、特開2003- 80646〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成13年9月13日の出願であって、以降の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成16年 3月 8日 手続補正書
平成18年 4月14日付け 拒絶理由通知
平成18年 6月23日 意見書・手続補正書
平成18年 8月 1日付け 拒絶査定
平成18年 9月 5日 本件審判請求
平成18年10月 4日 物件提出書・手続補正書
手続補正書(方式:審判請求理由補充書)
平成18年11月10日付け 前置審査移管
平成19年 1月 4日付け 拒絶理由通知
平成19年 3月19日 意見書・手続補正書
平成19年 4月10日付け 拒絶理由通知(最後)
平成19年 6月13日 意見書・手続補正書
平成19年 7月23日付け 前置報告書
平成19年 7月27日付け 前置審査解除
平成20年 5月 9日付け 補正の却下の決定・拒絶理由通知
平成20年 7月15日 意見書・手続補正書・物件提出書
(なお、平成19年6月13日付けの手続補正は、平成20年5月9日付けの補正の却下の決定をもって却下された。)

第2 当審が通知した拒絶理由
当審が通知した平成20年5月9日付けの拒絶理由通知は、以下の理由を含むものである。
「1 拒絶の理由1
この出願は、明細書の記載が下記(1)の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであること。」との要件に適合しないものである。
(1) 上記「第3」に記載したとおり、平成19年6月13日付けでした手続補正は却下されたので、平成16年3月8日、平成18年6月23日、平成18年10月4日及び平成19年3月19日付けでした手続補正により補正された明細書のその特許請求の範囲の請求項1?請求項2の記載は、上記「第3」に記載したとおりのものである(以下、それぞれ「本件請求項1」及び「本件請求項2」という。)。
そして、本件請求項1と補正後請求項1とは、上記「第2」の「<補正の却下の理由>」の「2(2)」に記載するような関係のものであるから、結局、本件請求項1の記載は、上記「第2」の「<補正の却下の理由>」の「3」の「3-1」に記載した理由と同様の理由で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するということはできない。
本件請求項2の記載についても、同様の理由で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するということはできない。」

第3 本願に係る発明
本願に係る発明は、平成16年3月8日、平成18年6月23日、平成18年10月4日、平成19年3月19日及び平成20年7月15日の各日付けでした各手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定される下記のとおりのものである(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)。
「【請求項1】
隣接する層が互いに異なるポリスチレン系樹脂からなる2層以上の多層構成であり、少なくとも1層がシンジオタクティック構造を有するポリスチレン系樹脂を含有し、少なくとも1層がスチレン系化合物をその構成成分として含有するゴム状共重合体を含有し、主収縮方向において、100℃から10℃毎に150℃までの各温度で、1分間加熱する処理後の、前記処理前の長さに対する変化率の最大値である最大熱収縮率が60%以上であり、また、45℃の温度条件下で1週間放置する前後の長さ変化率で示される自然収縮率が10%以下であり、主収縮軸方向が円筒形断面方向となる円筒形チューブ状の透明容器のラベル形状としてボトルに装着させ、熱収縮後の、容器外側から内側へ容器の回転対称軸に垂直な方向から近紫外線を照射した場合の、下記式1で表される近紫外線の透過率の平均値Tが0.1以下である熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルムから構成されることを特徴とするラベル。
T=A/B 式1
A:熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルムを透明容器に装着させた状態でのフィルム及び容器を透過する光エネルギー密度の平均値(n=10)
B:熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルムを透明容器に装着させない状態での透明容器を透過する光エネルギー密度の平均値(n=10)
【請求項2】
請求項1記載のラベルを装着してなる容器。」

第4 当審の判断
平成20年7月15日付け手続補正書によりさらに補正された上記請求項1及び2の記載について、平成16年3月8日、平成18年6月23日、平成18年10月4日、平成19年3月19日及び平成20年7月15日の各日付けでした各手続補正により補正された本願の願書に添付した明細書(以下「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載に基づき、上記拒絶理由の当否を再度検討する。

1.はじめに
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる、「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」(知財高裁特別部平成17年(行ケ)第10042号判決)であるから、この観点に立って検討する。

2.本願明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【発明の属する技術分野】本発明は、容器等の被覆、結束、外装などに用いられる包装材として好適な熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルム、特に高精度の印刷などを施し、また光線による劣化を防止する必要のある物品の包装への優れた適用性を有する熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルム、これを用いたラベルおよび容器に関する。」(【0001】)

(イ)「【発明が解決しようとする課題】本発明は、熱収縮率が十分に大きく、熱収縮時にフィルムに収縮むらが発生せず、美麗な外観をもち、複雑な形状の容器に装着させても極めて高い被覆性が得られ、印刷などによる画像形成性に優れて、自然収縮による画像の変形が生じにくく、高精度の印刷などを施し、また、光線による劣化の防止が必要な物品の包装に最適な熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルム、これを用いたラベル、及び容器を提供することを目的とする。」(【0007】)

(ウ)「【発明の実施の形態】本発明のフィルムを構成するポリスチレン系樹脂の構成は、後述の最大熱収縮率で表される熱収縮特性、自然収縮率および近紫外線の平均透過率を現出可能であれば特に限定されないが、2種以上のポリスチレン系樹脂の混合及びその配合比、2種以上のポリスチレン成分の共重合体の使用およびその成分量比、スチレン以外の単量体成分を含有するポリスチレン共重合体の使用およびその成分量比、さらには後述のような延伸条件等の製造条件の調整、可塑化剤、ポリスチレン重合時あるいは重合体への相溶化剤等の添加剤の配合などにより、所望の特性を得ることができる。・・・。シンジオタクティック構造を有するポリスチレン系樹脂を用いることにより、機械的強度、加熱保存時などの耐熱性が向上する。このようなポリスチレン系樹脂を用いることにより、ポリスチレンの、密度が低く、リサイクル工程での分離に有利である点に加え、耐熱性、特に加熱保存時などの耐熱性に優れ、フィルム形成後に経時的に収縮することによる印刷ピッチの変化が低減し、ラベルとして高精度の印刷を行うこともできる。更に印刷インクに含まれる溶剤に対する耐久性も向上し、印刷性に優れる。」(【0009】)

(エ)「本発明のフィルムを構成するポリスチレン系樹脂は、フィルムの少なくとも1層を構成するポリスチレン系樹脂が、熱収縮開始温度を低くすることや、耐衝撃性の向上を目的として、可塑化剤、相溶化剤等を、ポリスチレン重合時あるいは重合体へ配合したものであるのが好ましい。」(【0012】)

(オ)「本発明の熱収縮性フィルムは、それぞれポリスチレン系樹脂からなる2層以上の多層構成である必要がある。多層構成とすることにより、熱収縮特性および自然収縮率抑制性が優れる。特に、本発明の熱収縮性フィルムは、少なくとも1層がシンジオタクティック構造を有するポリスチレン系樹脂を含有するのが好ましい。」(【0018】)

(カ)「・・・。本発明の熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルムを製造する場合の好ましい条件について以下に示す。延伸倍率は1.0倍から6.0倍であるのが好ましく、所定の一方向の倍率と該方向と直行する方向の倍率が同じであっても異なっていてもよい。延伸工程においては、フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)以上(Tg+50)℃以下の温度で予熱を行うのが好ましい。また、延伸後の熱固定を行うことが自然収縮率の抑制の点から好ましい。延伸後の熱固定では、延伸を行った後に、30℃?150℃の加熱ゾーンを約1秒?30秒通すことが好ましい。また、フィルムの延伸後であって、熱固定を行う前、もしくは行った後に、適度な度合で弛緩処理を行うことも効果的である。さらに、上記延伸後、伸張あるいは緊張状態に保ってフィルムにストレスをかけながら冷却する工程、あるいは、該処理に引き続いて緊張状態を解除した後にさらに冷却工程を付加してもよい。」(【0021】)

(キ)「本発明の熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルムの全体厚さは特に限定されないが、6?250μmの範囲であるのが好ましい。」(【0022】)

(ク)「所望の近紫外線の平均透過率Tを得るための方法としては、熱収縮性フィルムを構成するポリスチレン系樹脂の種類や配合比の選択や、フィルムの結晶性や相溶性の調節、厚みの調節、遮光剤、光吸収剤、UV吸収剤、選択的光吸収剤等のフィルム中への配合および/またはフィルム面への塗布、フィルム面への印刷等による着色などの画像の形成、画像面積の増大、画像パターンの密度増大、画像濃度の増大などが挙げられる。さらに、ラベルとして被包装物に装着する際の被覆面積の増大や、フィルムの熱収縮特性あるいは熱収縮条件の調整による被包装物への密着強度の増大によっても、近紫外線の平均透過率Tを低くすることができる。」(【0024】)

(ケ)「最大熱収縮率を上記範囲方法とする方法としては、例えば、熱収縮性フィルムを構成する樹脂の種類や配合比、可塑剤などの添加剤の配合、フィルムの製造条件の調整、特に高延伸倍率化、延伸温度を低めに設定する、フィルムの結晶化度を低下させるなどの方法が挙げられる。」(【0026】)

(コ)「自然収縮率を、10%以下とする方法としては、例えば、2層以上の多層構造とする方法や、フィルムの製造条件の調整、特にフィルム化温度や熱固定温度を高くしてフィルムの結晶化度を増大させる、フィルム形成後のアニール処理による不要なフィルム内部応力の緩和などの方法が挙げられる。また、熱収縮性フィルムを構成する樹脂の種類や配合比、特にゴム成分を添加し、ポリスチレン系樹脂とゴム成分の混合比率を調整する、ポリスチレン系樹脂におけるポリスチレン成分の比率を高くする、ポリスチレンのタクティシティーの規則性を高くするなどの方法が挙げられるが、低温収縮特性および高収縮性の点からは、前述のようなスチレン-ブタジエンブロック共重合体ゴムに、さらにスチレン系モノマー、(メタ)アクリル酸メチル、メタアクリル酸アルキルエステル、これらの誘導体から選ばれる1種または2種以上の成分をグラフト共重合したゴム成分を添加する方法が好ましい。」(【0028】)

(サ)「【実施例】[原料樹脂]表1に示す配合の各樹脂組成物(組成物A?H)をそれぞれ予め配合して溶融混練し、押し出してペレタイズし、チップとした後、乾燥した。
参考例1
表1における組成物Gと組成物Fとを、それぞれ30mmφの単軸押出機に投入し、組成物Gが中心層(b層)、組成物Fが両表面層(a層,c層)となる3層を構成し、厚み比率がa層:b層:c層=1:2:1となるように、マルチマニフォールドダイより250℃で溶融押出し、40℃の冷却ロールにエアーナイフ法により密着させて冷却固化し、無定形シートを得た。該無定形シートを、110℃に予熱し、延伸温度90℃で横方向に倍率5.0倍に延伸した後、60℃で10秒熱固定処理を行って、主収縮方向に10%の弛緩処理を行った。厚さ50μmの熱収縮性フィルムを得た。該フィルムの片面の全面に半調印刷により画像を形成し、参考例とした。
参考例2
表1における組成物Fと組成物Gとを、それぞれ30mmφの単軸押出機に投入し、組成物Fが中心層(b層)、組成物Gが両表面層(a層,c層)となる3層を構成するようにした以外は、参考例1と同様にして、厚さ50μmの熱収縮性フィルムを得た。
実施例3
表1における組成物Gと組成物Bとを、それぞれ30mmφの単軸押出機に投入し、組成物Gが中心層(b層)、組成物Bが両表面層(a層,c層)となる3層を構成するようにした以外は、参考例1と同様にして、厚さ50μmの熱収縮性フィルムを得た。
実施例4
表1における組成物Bと組成物Aとを、それぞれ30mmφの単軸押出機に投入し、組成物Bが中心層(b層)、組成物Aが両表面層(a層,c層)となる3層を構成するようにした以外は、参考例1と同様にして、厚さ50μmの熱収縮性フィルムを得た。
実施例5
表1における組成物Cと組成物Aとを、それぞれ30mmφの単軸押出機に投入し、組成物Cが中心層(b層)、組成物Aが両表面層(a層,c層)となる3層を構成するようにした以外は、参考例1と同様にして、厚さ50μmの熱収縮性フィルムを得た。
実施例6
表1における組成物Dと組成物Aとを、それぞれ30mmφの単軸押出機に投入し、組成物Dが中心層(b層)、組成物Aが両表面層(a層,c層)となる3層を構成するようにした以外は、参考例1と同様にして、厚さ50μmの熱収縮性フィルムを得た。
実施例7
表1における組成物Eと組成物Aとを、それぞれ30mmφの単軸押出機に投入し、組成物Eが中心層(b層)、組成物Aが両表面層(a層,c層)となる3層を構成するようにした以外は、参考例1と同様にして、厚さ50μmの熱収縮性フィルムを得た。
実施例8
表1における組成物Hと組成物Aとを、それぞれ30mmφの単軸押出機に投入し、組成物Hが中心層(b層)、組成物Aが両表面層(a層,c層)となる3層を構成するようにした以外は、参考例1と同様にして、厚さ50μmの熱収縮性フィルムを得た。
実施例9
表1における組成物Aと組成物Hとを、それぞれ30mmφの単軸押出機に投入し、組成物Aが中心層(b層)、組成物Hが両表面層(a層,c層)となる3層を構成するようにした以外は、参考例1と同様にして、厚さ50μmの熱収縮性フィルムを得た。
比較例1
表1における組成物Fのみを、それぞれ30mmφの単軸押出機に投入し、中心層(b層)、両表面層(a層,c層)の3層を構成するようにした以外は、実施例1(当審注:参考例1と解するのが自然である。)と同様にして、厚さ50μmの熱収縮性フィルムを得た。
比較例2
表1における組成物Gのみを、それぞれ30mmφの単軸押出機に投入し、中心層(b層)、両表面層(a層,c層)の3層を構成するようにした以外は、実施例1(当審注:参考例1と解するのが自然である。)と同様にして、厚さ50μmの熱収縮性フィルムを得た。
比較例3
参考例1の熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルムを、主収縮軸方向が円筒形断面方向となり、主収縮方向と直行する方向の長さが10cmの円筒形チューブ状である透明容器のラベル形状に成形してラベルとした。
比較例4
フィルムの片面の半分のみに半調印刷により画像を形成した以外は、参考例1と同様にして、厚さ50μmの熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルムを得た。」(【0036】?【0049】)

(シ)「【発明の効果】本発明の熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルムは、印刷などによる画像形成性に優れて、自然収縮による画像の変形が生じにくい。また、実用上充分に熱収縮率が大きく、熱収縮時に、収縮工程での温度のゆらぎや不均一にかかわりなく均等に収縮して、収縮むらが発生せず、美麗な外観を呈する。さらに収縮後に高温条件下にさらされても、たるみやしわが発生せず、その外観を安定して保持する。また、外部からの機械的な刺激や光線から被包装物を保護でき、被包装物の劣化を防止できる。
【表1】


ゴム成分(G)
G1:スチレン(30wt%)-ブタジエンブロック共重合体
G2:スチレン(25wt%)-ブタジエンブロック共重合体のアクリル酸-n-ブチル(20wt%)グラフト共重合体
改質剤:相溶性調整剤(5重量部配合)
滑剤:1μm径(0.05重量部配合)
【表2】


」(【0050】)

上記の摘示によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、「高精度の印刷などを施し、また光線による劣化を防止する必要のある物品の包装への優れた適用性を有する熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルム」(上記(ア))を用いたラベルおよび該ラベルを装着してなる容器についての発明が記載されていて、そして、「熱収縮率が十分に大きく、熱収縮時にフィルムに収縮むらが発生せず、美麗な外観をもち、複雑な形状の容器に装着させても極めて高い被覆性が得られ、印刷などによる画像形成性に優れて、自然収縮による画像の変形が生じにくく、高精度の印刷などを施し、また、光線による劣化の防止が必要な物品の包装に最適な熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルム」(上記(イ))を用いたラベル及び該ラベルを装着してなる容器を提供することを課題とするものであって、これにより、「印刷などによる画像形成性に優れて、自然収縮による画像の変形が生じにくい。また、実用上充分に熱収縮率が大きく、熱収縮時に、収縮工程での温度のゆらぎや不均一にかかわりなく均等に収縮して、収縮むらが発生せず、美麗な外観を呈する。さらに収縮後に高温条件下にさらされても、たるみやしわが発生せず、その外観を安定して保持する。また、外部からの機械的な刺激や光線から被包装物を保護でき、被包装物の劣化を防止できる。」(上記(シ))という効果が得られる旨が記載されていると認められる。
具体的には、表1に示す配合の各樹脂組成物(組成物A?H)をそれぞれあらかじめ配合して溶融混練し、押し出してペレタイズし、チップとした後、乾燥し、これらの組成物を表2に記載されるような組み合わせとなるようにそれぞれ30mmφの単軸押出機に投入し、中心層(b層)及び両表面層(a層,c層)からなる3層を構成し、厚み比率がa層:b層:c層=1:2:1となるように、マルチマニフォールドダイより250℃で溶融押出し、40℃の冷却ロールにエアーナイフ法により密着させて冷却固化し、無定形シートとし、該無定形シートを、110℃に予熱し、延伸温度90℃で横方向に倍率5.0倍に延伸した後、60℃で10秒熱固定処理を行って、主収縮方向に10%の弛緩処理を行い、厚さ50μmの熱収縮性フィルムとし、該フィルムの片面の全面に半調印刷により画像を形成することで参考例1?参考例2、実施例3?実施例9及び比較例1?比較例4として記載される熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルムからなるラベル及び該ラベルを装着してなる容器を得たことが記載されている(上記(サ)及び(シ))。
そして、上記(ウ)?(コ)の記載によれば、特定条件下での最大熱収縮率で表される熱収縮特性、特定条件下での自然収縮率及び特定条件下での近紫外線の平均透過率がそれぞれ特定の範囲を満たす熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルムから構成されるラベル及び該ラベルを装着してなる容器が、上記(イ)のような課題を解決し、上記(シ)のような効果を得るために必要不可欠であるとされているものと認められる。
しかしながら、上記実施例以外には、特定条件下での最大熱収縮率で表される熱収縮特性、特定条件下での自然収縮率及び特定条件下での近紫外線の平均透過率がそれぞれ特定の範囲を満たせば当該課題・目的(特に「美麗な外観をも」つ点、「複雑な形状の容器に装着させても極めて高い被覆性が得られ」る点及び「印刷などによる画像形成性に優れ」る点を含む)が全て解決・達成できると当業者が認識し得たということを裏付けるような記載は存在しない。

3.発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明との対比・検討
本願明細書の発明の詳細な説明には、従来の熱収縮性フィルムが有する課題を解決し、熱収縮率が十分に大きく、熱収縮時にフィルムに収縮むらが発生せず、美麗な外観をもち、複雑な形状の容器に装着させても極めて高い被覆性が得られ、印刷などによる画像形成性に優れて、自然収縮による画像の変形が生じにくく、高精度の印刷などを施し、また、光線による劣化の防止が必要な物品の包装に最適という性能(以下、まとめて「所望の物性」ということがある。)を有する熱収縮性フィルムから構成されるラベルを製造するために、請求項1に記載された発明を特定する技術事項を採用したことが記載されているものの、当該技術事項を採用することの有効性を示すための具体例としては、特定の多層構成であって、各層が特定の組成のポリスチレン系樹脂(組成物)からなるフィルムを、特定の製造条件を採用することによって所望の物性を有する熱収縮性フィルムから構成されるラベルが得られたことを示す極めて限られた範囲の実施例と、請求項1記載のポリスチレン系樹脂(組成物)及びその組合せに係る事項を具備するものであってもポリスチレン系樹脂(組成物)の種類及びその組合せが相違すると、所望の物性を有する熱収縮性フィルムから構成されるラベルが得られなかったことを示す参考例1又は2及び比較例3又は4及び単一のポリスチレン系樹脂(組成物)からなる積層物である場合に所望の物性を有する熱収縮性フィルムから構成されるラベルが得られなかったことを示す比較例1又は2が記載されているにすぎない。
ところで、上記所望の物性を有する熱収縮性フィルムから構成されるラベルとするために、特定条件下での最大熱収縮率、特定条件下での自然収縮率及び特定条件下での近紫外線の透過率の平均値Tがそれぞれ特定の範囲を満たせばよいということは、この出願の出願時に、具体例の開示がなくても当業者に理解可能であったと認めることはできないものである。
さらに、発明の詳細な説明の記載、特に具体例(実施例、参考例及び比較例)に係る記載をもって、特定条件下での最大熱収縮率、特定条件下での自然収縮率及び特定条件下での近紫外線の透過率の平均値Tがそれぞれ特定の範囲を満たすことで、上記所望の物性全てを得ることができ、課題を解決し得ることを明らかにするものということはできない。
してみると、発明の詳細な説明の記載は、本願発明1が、所望の物性を有する熱収縮性フィルムからなるラベルを得ることができると当業者において認識できる程度に、具体例等を開示して記載しているということはできない。

加えて、本願発明1は、特定条件下での最大熱収縮率、特定条件下での自然収縮率及び特定条件下での近紫外線の透過率の平均値Tがそれぞれ特定の範囲を満たすことで、上記の所望の性能を有する熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルムから構成されるラベルが得られるというものであって、特定条件下での最大熱収縮率は、上記2.(ケ)に記載されるような方法により、特定条件下での自然収縮率は、上記2.(コ)に記載されるような方法により、特定条件下での近紫外線の透過率の平均値Tは、上記2.(ク)に記載されるような方法でそれぞれを特定の範囲を満たすようにできるというものであるから、結局、特定条件下での最大熱収縮率、特定条件下での自然収縮率及び特定条件下での近紫外線の透過率の平均値Tがそれぞれ特定の範囲を満たすようにするためには、ラベルを構成する熱収縮性フィルムがどのような構成であるのか、該フィルムの製造条件(延伸条件など)がどのようなものであるのかという2点が極めて重要な要件であるということができる。
しかしながら、特定条件下での最大熱収縮率、特定条件下での自然収縮率及び特定条件下での近紫外線の透過率の平均値Tがそれぞれ特定の範囲を満たすようにするために、熱収縮性フィルムを具体的にどのような構成にするのか、すなわち、層構成をどのようにし、各層を構成するポリスチレン系樹脂(組成物)としてどのようなものを用いればよいのか、また、該フィルムの製造条件を具体的にどのようなものとするのか、すなわち、延伸条件や延伸後の処理条件をどのようなものとすればよいのかについては、発明の詳細な説明には極めて限られた実施例(比較例、参考例を含む)を除き何ら記載されていないし、これらが当業者にとって技術常識に照らして自明な事項であるということもできない。
また、実施例の記載は、その記載のとおりに追試すれば実施例記載の熱収縮性フィルムから構成されるラベルを得ることができるということができるのみであって、発明の詳細な説明には、実施例に記載された熱収縮性フィルムの構成及び該フィルムの製造条件と、特定条件下での最大熱収縮率、特定条件下での自然収縮率及び特定条件下での近紫外線の透過率の平均値Tとの技術的相関関係などについても何ら明らかにされていない。
してみると、当業者が技術常識に照らしても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明1が、所望の物性を有する熱収縮性フィルムからなるラベルを得ることができると当業者において認識できる程度に記載しているということはできない。

また、請求項2の記載は、請求項1の記載を引用して、単に「請求項1記載のラベルを装着してなる容器」として記載されているものであるから、上記請求項1に係る理由と同一の理由により、仮に当業者が技術常識に照らしたとしても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明2が、所望の物性を有する熱収縮性フィルムからなるラベルを装着してなる容器を得ることができると当業者において認識できる程度に記載しているということはできない。

4.小括
したがって、これらを総合すると、本願発明1及び2が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできないから、請求項1及び2の各記載は、同各項に記載された事項で特定される特許を受けようとする本願発明1及び2が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということができず、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するということはできない。

第5 審判請求人の主張
審判請求人は、平成20年7月15日付け意見書(「3)補正の却下について」の「3-1」の欄)において、物件(補足説明資料)を添付した上で、
(1)「本願の熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルムは本願【0024】?【0025】に示されるように、特定条件下での最大熱収縮率で表される熱収縮特性が大きい場合、ボトルの被覆面積が高められます。この特性によって、最も被覆面積の小さい胴ラベルから最も被覆面積が大きい全面被覆ラベルまで、様々なサイズのラベルで被覆面積を改良することができます。特に、被覆面積が大きいフルラベルは、全面にベタ印刷した場合、最大限の遮光性能を示すことが特徴の1つとして挙げられますが、この特徴によって近紫外線の透過割合Tが極めて小さい値となります。そして、ラベルに適用される印刷は、ボトルの内容物の耐光性によっては、その絵柄やパターンの濃度、光学濃度を、ある程度減ずることもできます。
上記のように、本願は当業者が一般に呼び習わしているフルラベル用シュリンクフィルムについて、該分野の技術用語を用いて記載したものに過ぎません。したがって、当業者であれば、本願の記載からそれがフルラベル用シュリンクフィルムであること、そしてそれが有する性能、特徴を容易に把握することができると思料いたします。
さらに本願【0006】に記載されているように、従来の一般的ポリスチレン系収縮フィルムは自然収縮の問題がありました。つまり、フルラベル用シュリンクフィルム用途に適用するには最大熱収縮率を高める必要がありました。そして、最大熱収縮率を高めると自然収縮が顕著となることは、当業者にとって一般的に知られた事実です。」、
(2)「上記のように当業者であれば本願の技術的意義を十分に理解できるため、本願請求項及び明細書に記載の特定条件下での最大熱収縮率、特定条件下での自然収縮率及び特定条件下での近紫外線の透過率の平均値Tが、それぞれ所望の範囲を満たすことで、上記所望の性能を得ることができることは、十分類推できると思料します。そして実施例、参考例及び比較例の記載から、具体的解決例を実施し、それを拡張する方向性を得、それを拡張する方向性を得、その適用限界値を知るには充分な記載であると考えます。」
及び
(3)「審判官殿は、上記の理由から、発明の詳細な説明の記載は、所望の性能の熱収縮性フィルムを得ることができると当業者において認識できる程度に、具体例等を開示して記載しているということはできない旨の指摘をしています。
しかしながら、出願人は、当業者であれば容易に類推できる程度に十分に記載されていると資料(審決注:「思量」又は「思料」の誤記と認められる。)します。これについては、添付の物件で詳細に説明されています。(別途、物件提出いたしております。)」
と主張している。

そこで、まず、上記(1)の主張につき検討すると、そもそも、本願発明1及び2は、「ラベル」及び「そのラベルを装着してなる容器」に係るものであって、「熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルム」自体又は「シュリンクフィルム」自体に係るものではなく、また、本願の請求項1及び2には、「ラベル」につき「フルラベル」であること及び「ラベル」に印刷が施されていることが発明を特定する技術事項として記載されていない。
してみると、「熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルム」自体又は「シュリンクフィルム」自体の性能・特徴を主体とする審判請求人の上記(1)の主張は、本願の「ラベル」及び「そのラベルを装着してなる容器」に係る発明との関係において、当を得ないものであることが明らかである。
また、仮に、本願明細書の記載から、本願発明1及び2が「(印刷を施した)フルラベル」及び「そのフルラベルを装着してなる容器」に係るもののみであると当業者が把握するのであるならば、「ラベル」につき「フルラベル」であること及び「ラベル」に印刷が施されていることが発明を特定する技術事項として記載されておらず、他の「ラベル」(例えば容器の一部のみに装着するもの)を包含することが明らかな本願の請求項1及び2の記載は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて記載されていることが明らかであるといえる。
したがって、審判請求人の上記(1)の主張は、いずれも当を得ないものである。

次に、審判請求人の上記(2)の主張につき検討すると、上記第4の2.及び3.で説示した理由のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載をもって、特定条件下での最大熱収縮率、特定条件下での自然収縮率及び特定条件下での近紫外線の透過率の平均値Tがそれぞれ特定の範囲を満たすことで、本願発明に係る解決課題である上記「所望の物性」「全て」を得ることができ、課題を解決し得ることを当業者が認識(類推)できる程度に記載されているということができないものであり、また、特定条件下での最大熱収縮率、特定条件下での自然収縮率及び特定条件下での近紫外線の透過率の平均値Tがそれぞれ特定の範囲を満たすようにするために、熱収縮性フィルムを具体的にどのような構成にするのか、すなわち、層構成をどのようにし、各層を構成するポリスチレン系樹脂(組成物)としてどのようなものを用いればよいのか、また、該フィルムの製造条件を具体的にどのようなものとするのか、すなわち、延伸条件や延伸後の処理条件をどのようなものとすればよいのかについては、本願明細書の発明の詳細な説明には、極めて限られた実施例(比較例、参考例を含む)を除き何ら記載されておらず、さらに、参考例1又は2及び実施例3ないし9に係る記載からみて、請求項1記載のポリスチレン系樹脂(組成物)及びその組合せに係る事項を具備するものであってもポリスチレン系樹脂(組成物)の種類及びその組合せが相違すると、参考例1及び2のとおり、請求項1所定の近紫外線透過率及び最大熱収縮率に係る物性を有する熱収縮性フィルムから構成されるラベルが得られなかったことが示されているのであるから、実施例、参考例及び比較例の記載から、当業者が製造条件などを拡張する方向性を得ることができるものともいえない。
したがって、審判請求人の上記(2)の主張は、いずれも根拠を欠くものであって、当を得ないものである。

さらに、審判請求人の上記(3)の主張を検討するにあたり、添付された物件(補足説明用資料)につき検討すると、当該物件には、物性を達成するための複数の手段(アクション)と本願発明に係る近紫外線透過率、自然収縮率及び最大収縮率なる一部の物性との定性的関係につき説明が記載されているが、定量的な関係につき記載されていないし、また、上記複数の手段の単一の物性又は複数の物性間に係る相殺関係(例えば、近紫外線透過率に係る「被覆面積」と「印刷面積、濃度」とは相反関係にあることが自明であり、自然収縮率に係る「高延伸温度」と最大収縮率に係る「低温延伸」とは相反関係にあることも自明である。)についても記載されていない。
そして、当該物件は、刊行物でもなく、本願の出願前に存した技術的事項を記載したものでもないから、本願出願前の当業界の周知技術又は当業者の技術常識について証するものではない。
してみると、当該物件の説明を根拠とする審判請求人の上記(3)の主張は、技術的根拠を欠くものであり、当を得ないものである。

結局、審判請求人の上記意見書における(1)ないし(3)の主張は、いずれも当を得ないものであるから、採用する余地がないものであり、上記第4の当審の判断を左右するものではない。

第6 まとめ
以上のとおり、本願請求項1及び2の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するとはいえないものであり、同法同条同項に規定する要件を満たしていないものであるから、他の拒絶理由につき検討するまでもなく、本願は、特許法第49条第4号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-19 
結審通知日 2009-05-26 
審決日 2009-06-08 
出願番号 特願2001-277403(P2001-277403)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (B32B)
P 1 8・ 536- WZ (B32B)
P 1 8・ 4- WZ (B32B)
P 1 8・ 121- WZ (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 細井 龍史岩田 行剛  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 橋本 栄和
松本 直子
発明の名称 熱収縮性ポリスチレン系樹脂フィルム、これを用いたラベル、及び容器  
代理人 ▲吉▼川 俊雄  

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