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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16H
管理番号 1201485
審判番号 不服2007-27932  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-11 
確定日 2009-07-29 
事件の表示 特願2002- 50744「成形機用直動装置の潤滑装置及び潤滑方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月19日出願公開、特開2003- 83417〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要・本願発明
本願は、平成14年(2002年)2月27日(優先権主張 平成13年(2001年)6月27日)の出願であって、その請求項1ないし請求項8に係る発明は、平成19年11月9日付けの手続補正が当審において平成20年12月22日(起案日)付けで決定をもって却下されているので、平成17年8月11日付け、平成19年6月25日付け及び平成21年3月30日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
(a)螺旋状の溝を備えるねじ軸と、該ねじ軸の螺旋状の溝と同ピッチの螺旋状の溝を備えるねじナットと、前記ねじ軸の螺旋状の溝とねじナットの螺旋状の溝との間に介在し、前記ねじ軸とねじナットとの間で動力を伝達する動力伝達部材とから成り、回転運動を直線運動へ、又は、直線運動を回転運動へ変換する変換機構から成る直動装置を潤滑する装置であって、
(b)前記変換機構に潤滑油を供給する供給路と、
(c)供給した潤滑油を回収する回収路とを有するとともに、
(d)前記変換機構へは、前記回収路を経て回収された潤滑油が、再度、前記供給路を経て供給されるとともに、
(e)前記ねじ軸の少なくとも一部が浸る量の潤滑油を貯留する貯留部材を有することを特徴とする成形機用直動装置の潤滑装置。」

2.引用刊行物の記載事項
<刊行物1>
当審において平成21年1月19日(起案日)付けで通知した拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-2396号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「ボールねじの洗浄装置」に関して、下記の事項ア?オが図面とともに記載されている。
ア;「本発明はボールねじの洗浄装置に関し、工作機械や計測機等の送り装置に適用されるボールねじの雄ねじに付着した粉塵等の異物を確実に洗浄・除去することができるとともに、併せて冷却や潤滑もできるように工夫したものである。」(第2頁2欄16行?20行;段落【0001】参照)

イ;「また本発明の構成は、前記液剤は、冷却されていたり、潤滑性能を有していることを特徴とする。
【発明の実施の形態】本発明では、ボールねじの表面に付着した粉塵を、液剤を吹き付けて洗い流すようにした。この場合、液剤が周辺に散って回収できなくなったり、周囲部材を汚したりすることを防ぐため、ボールねじの雄ねじの外周をリング状に覆ったリング状部品の中で液剤を噴出し、洗浄をした液剤をリング状部品の中で回収するようにしている。このような洗浄の際に、液剤を冷却しておくことで、ボールねじの冷却という別の目的も合わせて実現することができる。また、液剤として潤滑性能のあるものを使用すれば、ボールねじの潤滑も併せて行うことができる。
したがって、本発明では、液剤は、雄ねじのねじ表面に吹き付けられ、粉塵を効果的に洗い流す。液剤を噴出する液剤の噴出口は、ボールねじを覆うリング状部品の中に設けられているので、周囲に液剤を飛散させることを防ぐ。また、回収口をリング状部品に設けてあるので、液剤は外に漏れだすことがない。またリング状部品に漏れ防止構造を付加すれば、さらに効果的に漏れを防ぐことができる。冷却された液剤がボールねじの表面に吹き付けられるので、熱を持ち去るためボールねじが冷却される。また、潤滑も併せて行うことができる。」(第4頁5欄17行?41行;段落【0018】?【0020】参照)

ウ;「本発明の第1の実施例を図1を基に説明する。図1に示すように、ボールねじ100の雄ねじ101には、2つのナット102,103が備えられている。ナット102,103間には予圧を付与するためのスペーサ105が介装されるとともに、ナット102,103がキー104により連結されている。前記ナット102は、移動する相手部材(移動テーブル等)106に取付けられている。ここまでの構成は、図3に示す従来のものと同様である。
本実施例にかかる洗浄装置200のリング状部品201は、リング形状となっており、雄ねじ101の外周を覆う状態で配置されている。このリング状部品201はナット102にボルト付けされている。リング状部品201の内周面で且つ軸方向の両端部には、雌ねじ部202が形成されている。この雌ねじ部202は、雄ねじ101に螺合している。この例では、雌ねじ部202と雄ねじ101のねじ面との間隔は、0.1?0.3mmとしている。後述するように、この雌ねじ部202は、漏れ防止構造として機能する。
リング状部品200の内周側には、雄ねじ101のねじ面との間で空間を形成する溝形の空洞部203が形成されている。さらに、リング状部品200の上半部には、前記空洞部203と外部とを連通する給油通路204が形成されている。この給油通路204の内周側端は、小径に絞られて前記空洞部203に臨む噴出口204aとなっており、給油通路204の外周側端は、油管250を介して外部の油圧源(図示省略)に接続されている。
リング状部品200の下半部には、排油通路205が形成されており、この排油通路205のうち空洞部203の下端側に臨む部分は大径の回収口205aとなっている。この排油通路205の外周側端は外部の集油装置に接続されている。
さらに、リング状部品201には、エアー通路206が形成されている。このエアー通路206の上部には、エアー管251を介してエアー源から圧縮空気が供給される。また雌ねじ部202には、エアー通路206に連通したリング状溝207が形成されている。リング状溝207の下部は、連絡通路208を介して排油通路205に連通している。後述するように、リング状溝207は、油止め溝として機能する。」(第4頁5欄46行?6欄36行;段落【0022】?【0026】参照)

エ;「かかる構成となっている洗浄装置200では、次のような動作をして、雄ねじ101の表面に付着した粉塵の洗浄・除去をする。即ち、油圧源から油管250を介して、冷却した潤滑油を給油通路に圧送する。そうすると、圧力のかかった潤滑油は、噴出口204aから雄ねじ101のねじ面に向かって噴射される。
このように、潤滑油が雄ねじ101に噴射されるので、雄ねじ101に付着した粉塵は洗浄・除去される。これと同時に、冷却された潤滑油が雄ねじ101に噴射されるので雄ねじ101の冷却も同時に行われる。
雄ねじ101に噴射された潤滑油は、粉塵を洗い流した後、その殆どは下方に落下して、回収口205aから排油通路205に入り、さらに、外部の集油装置に回収される。また、雌ねじ部206にリング状溝207を切っているので、軸方向に沿い奥に侵入した潤滑油も、このリング状溝207において毛細管現象を失い下方に落ち、リング状溝207と連絡通路208を通って排油通路205に入り回収される。
潤滑油の回収をより確実にする場合には、エアー源からエアー管251とエアー通路206とリング状溝207を介して、圧縮空気を雄ねじ101に吹き付ける。このようにすると、潤滑油の回収効率が更に高まる。
なお、上述した、潤滑油による洗浄をしている際において、この潤滑油は、外部に洩れ出ることはない。これは、雌ねじ部202と雄ねじ部101との間の隙間を、0.1?0.3mmと狭くしているため、雌ねじ部202が漏れ防止構造として機能して、潤滑油が外部に洩れ出ることを防止するからである。
また、僅かな潤滑油は雄ねじ101に付着したままとなるが、この潤滑油により、雄ねじ101とナット102,103との間の良好な潤滑に供することができる。」(第4頁6欄37行?第5頁7欄20行;段落【0027】?【0032】参照)

オ;「さらに、液剤として潤滑性能を有するもの(例えば潤滑油)を採用することにより、粉塵の除去や、冷却とともに、ボールねじの潤滑も行うことができる。
さらに、液漏れ防止機構、具体的には雌ねじ部を形成することにより、液剤が外部に洩れ出ることを防ぐことができる。
また、エアーを雄ねじに吹き付けるようにすることにより、液剤の排出をより確実にすることができる。」(第6頁9欄13行?22行;段落【0044】?【0046】参照)

刊行物1に記載された上記記載事項ア?オ及び図面の記載からみて、刊行物1には下記の発明が記載されているものと認めることができるものである。

【刊行物1に記載された発明】
「雄ねじ101と、該雄ねじ101の螺旋状の溝と同ピッチの螺旋状の溝を備えるナット102,103と、前記雄ねじ101の螺旋状の溝とナット102,103の螺旋状の溝との間に介在し、前記雄ねじ101とナット102,103との間で動力を伝達するボールとから成り、回転運動を直線運動へ、又は、直線運動を回転運動へ変換する変換機構(雄ねじ101、ナット102,103、ボール)から成るボールねじ装置を洗浄(潤滑)する洗浄装置200であって、
前記変換機構に潤滑油を供給する油管250と、
供給した潤滑油を回収する排油通路205とを有する、
ボールねじの洗浄装置200。」

3.対比・判断
本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、各部材の奏する機能からみて、刊行物1に記載された発明の「ボールねじの洗浄装置200」の液剤としての「潤滑油」は本願発明の「潤滑油」に相当し、以下同様に、「雄ねじ101」は「ねじ軸」に、「ナット102,103」は「ねじナット」に、「ボール」は「動力伝達部材」に、「雄ねじ101、ナット102,103、ボール」は「回転運動を直線運動へ、又は、直線運動を回転運動へ変換する変換機構」に、「ボールねじ装置」は「直動装置」に、「油管250」は「供給路」に、「排油通路205」は「回収路」に相当するものと認めることができるものである。
そして、刊行物1に記載された発明の「ボールねじの洗浄装置200」は、「液剤」として「潤滑油」を使用した場合には、「ボールねじの潤滑装置」としても機能するものと認めることができるものである。

したがって、本願発明の用語を使用すると、両者は、
「螺旋状の溝を備えるねじ軸と、該ねじ軸の螺旋状の溝と同ピッチの螺旋状の溝を備えるねじナットと、前記ねじ軸の螺旋状の溝とねじナットの螺旋状の溝との間に介在し、前記ねじ軸とねじナットとの間で動力を伝達する動力伝達部材とから成り、回転運動を直線運動へ、又は、直線運動を回転運動へ変換する変換機構から成る直動装置を潤滑する装置であって、
前記変換機構に潤滑油を供給する供給路と、
供給した潤滑油を回収する回収路とを有する、
直動装置の潤滑装置。」
で一致しており、下記の点で一応相違している。

相違点1;本願発明では、「前記変換機構へは、前記回収路を経て回収された潤滑油が、再度、前記供給路を経て供給される」ものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、ボールねじ装置の変換機構へは、潤滑油(液剤)が供給されるものであるが、本願発明のように、排油通路205を経て回収された潤滑油が、再度、油管250を経て供給されるものであるかどうか不明である点。

相違点2;本願発明では、「前記ねじ軸の少なくとも一部が潤滑油に浸る量の潤滑油を貯留する貯留部材を有する」ものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、油管250を介して噴出口204aから雄ねじ101に向けて噴射された潤滑油(液剤)は、リング状部品201の下方に落下した後回収口205aから排油通路205を介して回収されるものではあるが、本願発明のような貯留部材を有するものとまでは認めることができない点。

相違点3;本願発明では、「潤滑装置」は「成形機用直動装置の潤滑装置」であるのに対して、刊行物1に記載された発明では、「ボールねじの洗浄(潤滑)装置200」は「工作機械や計測器等の送り装置」に適用されるものであるが、「成形機用直動装置(送り装置)」に適用できるかどうか不明である点。

上記相違点1ないし相違点3について検討した結果は、次のとおりである。
《相違点1について》
直動装置等の潤滑装置において回収した潤滑油を、再度、供給路を経て供給することは、本願出願前当業者に周知の潤滑油の供給構造の一つ(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-132813号公報の段落【0023】及び【0024】を参照)にすぎないものである。
そして、刊行物1に記載された発明の「ボールねじ洗浄(潤滑)装置200」の潤滑油(液剤)の供給構造として、上記周知の潤滑油供給構造を採用することを妨げる格別の事情は認めることができないものである。
してみると、刊行物1に記載された発明及び上記周知の潤滑油供給構造を知り得た当業者であれば、排油通路205を介して回収した潤滑油を、再度、油管250を介して供給するように構成して、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、適宜採用することができる程度の設計的事項であって、格別創意を要することではない。

《相違点2について》
ボールねじ潤滑装置において、潤滑油を貯留する貯留部材を有するように構成することは、本願出願前当業者に周知のボールねじ潤滑装置の一つ(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-332456号公報の段落【0023】の記載及び図7,8参照)にすぎないものであり、本願発明において、「前記ねじ軸の少なくとも一部が浸る量の潤滑油を貯留する貯留部材を有すること」としたことの技術的意義について検討しても、貯留部材に貯溜した潤滑油をねじ軸に付着させるにすぎないものであって、格別な技術的意義を認めることができないものである。
そして、刊行物1に記載された発明の「ボールねじの洗浄(潤滑)装置200」においても、噴出口204aからリング状部品201内の雄ねじ101に向かい噴出させる潤滑油(液剤)の量は外部に漏れ出すことなく回収口205aから排油通路205を介して回収されれば十分なものであって、リング状部品201の底部に外部に漏れ出すことのない範囲で潤滑油を貯留すること(リング状部品201の底部を潤滑油の「貯留部材」として機能させること)を妨げる格別の事情認めることができないものである。
また、リング状部品201の底部に貯溜した潤滑油の油面を雄ねじ101の少なくとも一部が浸る量とすることは、当業者であれば適宜採用することができる程度の設計的事項といい得るものである。
してみると、刊行物1に記載された発明及び上記周知の潤滑油の貯留構造を知り得た当業者であれば、油管250を介して噴出口204aからリング状部品201内の雄ねじ101に向かい噴出される潤滑油(液剤)を、リング状部品201の底部に留まる潤滑油の油面が雄ねじ101の少なくとも一部が浸かるように貯留(「リング状部品201の底部」を本願発明の「貯留部材」と同様の機能を奏させるように)して、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、必要に応じて容易に想到することができる程度の事項であって、格別創意を要することではない。

《相違点3について》
刊行物1に記載された発明のような「ボールねじ装置」を成形機用直動装置として使用することは、本願出願前当業者に普通に採用されている装置構造の一つ(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-34136号公報の段落【0002】の従来技術の記載参照)にすぎないものである。
そして、刊行物1に記載された発明の「ボールねじ装置」を本願発明のような射出成形機などの「成形機用直動装置」に採用できることは、当業者であれば普通に理解できる事項にすぎないものである。
してみると、刊行物1に記載された発明の「ボールねじの洗浄(潤滑)装置200」を本願発明のような「成形機用直動装置の潤滑装置」に適用して、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば適宜採用することができる程度の設計的事項であって、格別創意を要することではない。

また、本願発明の効果について検討しても、刊行物1に記載された発明及び上記本願出願前周知の事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

ところで、請求人は、平成21年3月30日付けの意見書において、
「刊行物1の発明は『〔0009〕〔発明が解決しようとする課題〕……このため、金属粉のような硬い粉塵がボールねじ100の雄ねじ101に付着した状態のままで運転を続けると、ナット102、103に備えた鋼球や、雄ねじ101やナット102、103のねじ面の摩耗を促進する。その結果、予圧抜けを生じて剛性や精度が低下したり、その修復のため機械停止しての修理が必要となる。』ことを課題とした発明である。この課題に鑑みて、刊行物1では、〔0012〕に記載のように『粉塵の除去が確実にできるとともに、効率的な冷却をもできるボールねじの洗浄装置を提供することを目的』とする発明が開示されている。
それに対して、本願発明の請求項1は、「……(e)前記ねじ軸の少なくとも一部が浸る量の潤滑油を貯留する貯留部材を有する成形機用直動装置の潤滑装置』に関する記載である。したがって、貯留部材に潤滑油が貯留される。ここで、本願発明の請求項1を刊行物1に適用し、金属粉のような硬い粉塵がボールねじ100の雄ねじ101に付着した状態のままで運転を続けると、貯留部材に貯留された潤滑油中を浮遊してしまう。このため、ナット102、103に備えた鋼球や、雄ねじ101やナット102、103のねじ面の摩耗を促進してしまう。
そうすると、刊行物1の「ボールねじの洗浄装置」を「本願発明の成形機用直動装置の潤滑装置」へ変更した場合、本願発明の潤滑装置は、金属粉のような硬い粉塵が、貯留部材に貯留された潤滑油中に浮遊してしまい、ボールねじを洗浄することができない。また、かえって、ナット102、103に備えた鋼球や、雄ねじ101やナット102、103のねじ面の摩耗を促進してしまう。つまり、『ナット102、103に備えた鋼球や、雄ねじ101やナット102、103のねじ面の摩耗を促進する』と言った刊行物1の課題を解決することができない。この場合、刊行物1に変更して本願発明の請求項1に記載の発明を用いた場合、刊行物1の課題に反する結果となってしまう。
このように、刊行物1を本願発明の先行文献として認定するには、明らかに阻害要因が存在する(参照;東京高裁平成15年(行ケ)154号)。したがって、刊行物1の認定は、明らかに誤りである。」(同意見書の「(3)拒絶理由通知に対して特許すべきであると主張する理由」の「(エ)本願発明の請求項1に関わる発明と刊行物1との対比」の項参照)旨主張している。

しかしながら、刊行物1に記載された発明では、「液剤」として「潤滑油」を使用し、「洗浄」と「潤滑」機能を奏するものであるところ、その「液剤」の「洗浄」機能は、「液剤」がリング状部品201の噴出口204aから雄ねじ101に向かい噴出されることにより、雄ねじ101に付着した粉塵が洗い流されることによるものであって、本願発明のように「リング状部品201」の底部に洗浄後の「液剤」(潤滑油)を雄ねじ101の少なくとも一部が浸る量貯留しても、貯留された「液剤」(潤滑油)が雄ねじ101に付着する(本願発明の「貯留部材」を有することと同様の作用を奏する)にすぎないものであって、雄ねじ101への粉塵の再付着による「洗浄」機能に及ぼす影響は格別問題となるものではなく、「リング状部品201の底部に貯留される液剤(潤滑油)の油面を雄ねじ101の少なくとも一部が浸る量とすること」(本願発明の「貯留部材」を有すること」に実質的に相当)が刊行物1に記載された発明の解決しようとする課題を阻害するものとは認めることができないものであることは、上記《相違点2について》の項で検討したとおりである。
よって、請求人の上記意見書中での主張は、採用することができない。
また、請求人は、周知例の文献数等について縷々主張するが、周知技術であるか否かは、例示した文献数に直接左右されないことはもちろんであるし、この点の当審の判断は、すでに拒絶理由として通知し、意見を述べる機会も与えており、当該主張は、独自のものにすぎず失当である。

4.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1に記載された発明及び本願出願前当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2ないし請求項8に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-18 
結審通知日 2009-05-26 
審決日 2009-06-08 
出願番号 特願2002-50744(P2002-50744)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨岡 和人  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 岩谷 一臣
常盤 務
発明の名称 成形機用直動装置の潤滑装置及び潤滑方法  
代理人 羽片 和夫  

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