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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C23C
管理番号 1201648
審判番号 不服2008-5701  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-06 
確定日 2009-07-28 
事件の表示 平成11年特許願第550513号「性能改善のため部品に機能勾配材料コーティングを形成する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月14日国際公開、WO99/51790、平成14年1月29日国内公表、特表2002-503293〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、1999年3月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年4月8日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成19年4月20日付け拒絶理由通知を経て、平成20年1月18日付けで拒絶査定され、これに対し、同年3月6日に拒絶査定不服の審判が請求されると共に同日付けで手続補正がされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成20年3月6日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という)は、次のとおりのものである。
「ローリング、摺動、摩耗及び曲げ接触の1つ又はそれ以上に晒される表面を有する部品に機能勾配コーティングを形成する方法において、
前記表面上に、厚さと、複数の材料組成と、複数の弾性率曲線とを有する機能勾配材料コーティングを形成する機能勾配材料を溶射するステップを備え、前記弾性率曲線は、前記厚さ内の複数の対応するポイントにおける複数の弾性率を含み、前記弾性率は、約28Mpsiから約60Mpsiまでの範囲であることを特徴とする方法。」

3 引用例に記載された発明
(1)引用例1の記載事項
これに対し、原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張日前である1987年7月11日に公開された特開昭62-156938号公報(引用例1)には、次の事項が記載されている。
(ア)「第1成分であるセラミックスと第2成分である金属或いは他のセラミックスとの間に、両者の成分比が連続的に変化する中間層を有する複合材料の製造において、中間層中に低ヤング率成分或いは破壊強度に十分耐えられる高強度材料の第3成分を分布させることを特徴とする傾斜機能材料の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(イ)「この発明は連続的に組織成分を制御するとともに第3成分として低ヤング率或いは高強度の成分を分布させ、その機能を変えることによって優れた耐熱性、耐食性をもつとともに密着性がよく熱応力破壊にも十分耐えられる傾斜機能材料の製造方法を提供することを目的とするものである。本発明者らは2成分の濃度分布関数、分布形状パラメータ、熱伝導方程式の境界条件を決め、熱伝導率(λ)ヤング率(E)などを用いて鋭意研究し」
(第2頁右上欄9?17行)
(ウ)「この発明は第1成分であるセラミックスと第2成分である金属或いは他のセラミックスとの間に両者の成分比が連続的に変化する中間層を有する複合材料の製造において、中間層中に低ヤング率成分或いは破壊強度に十分耐えられる高強度材料の第3成分を分布させることを・・・、特徴とする傾斜機能材料の製造方法である。」(第2頁左下欄5?14行)
(エ)「次にこの発明において、第1成分をSiC,第2成分をCとした場合について具体的に説明する。第3図は・・SiC、Cの成分分布図である。また中間層の各物性は第4図に示す通りである。これらの値を使って温度分布、応力分布、比応力分布R(x)を求めると第5図の如くなる。このR(x)を均一化し、その平均値を減少するためにTiCをR(x)の分布に応じて例えばsin曲線状に分布させるとともに冷却による熱収縮によって生成するマイクロポアを同時に分布させる。」(第3頁右上欄9?20行)
(オ)第3図には、SiCとCの成分比が連続的に変化する中間層の成分分布図、図4にはその連続層中の各物性を示す線図が描かれており、これによれば、ヤング率は0?40×10^(4)MPaの範囲で連続的に変化している。
(カ)「またこれらの傾斜機能材料を製造する場合、・・・数層前後の厚膜傾斜機能材料をつくる時は、・・・プラズマ溶射法・・・などのラージスケール制御法が適している。」
(キ)「従って・・・、耐摩耗性-高靭性、・・・等の傾斜機能材料を得ることも可能である。」(第6頁左上欄1?4行)

(2)引用例1に記載された発明
引用例1には、プラズマ溶射法により傾斜機能材料を製造する方法が記載されており(摘記事項(カ))、SiC層、C層及び両者の成分比が連続的に変化する中間層からなる複合体(同(エ)(オ))を製造することとしている。
そして、当該中間層は、sin曲線状にTi等の第3成分を分布させることとしており、ヤング率は0?約40×10^(4)MPaの範囲で連続的に変化している(同(ウ)(エ))。また、 この複合体は、耐摩耗性・高靱性である(同(キ))。
したがって、引用例1には、次の発明が記載されている(以下「引用例1発明」という)。
「第1成分、中間層及び第2成分からなる層をプラズマ溶射法で製造する方法であって、当該中間層は、第1及び第2成分の配合比率が連続的に変化する傾斜機能材料層であって、含有比率が連続的に変化する第3成分を含み、ヤング率が0?約40×10^(4)MPaの範囲で連続的に変化する層であることからなる、耐摩耗性複合材料の製造方法。」

4 対比・判断
(1)一致点と相違点
引用例1発明における複合材料はプラズマ溶射法で製造され、第1、2層及び中間層は、厚さと材料組成が相違し、素材・組成等が相違する以上その弾性率はそれぞれの層で相違するので、複数の弾性率曲線を有する機能勾配材料であるといえる。
そして、当該中間層は、第3図を参照すれば組成が一方の境界から他方へ連続的に変化しており、その厚さ内の複数の対応するポイントにおいて複数の弾性率を有するといえる。また、後記するように、その数値範囲も本願発明で限定する範囲と部分的に重複している。したがって、当該中間層は、本願発明における機能勾配コーティングに相当する。
そうすると、引用例1発明も摩耗に晒される表面を有する部品に機能勾配コーティングを形成する方法であるといえるので、本願発明と引用例1発明の一致点、相違点は次のとおりとなる。
〈一致点〉
「ローリング、摺動、摩耗及び曲げ接触の1つ又はそれ以上に晒される表面を有する部品に機能勾配コーティングを形成する方法において、
前記表面上に、厚さと、複数の材料組成と、複数の弾性率曲線とを有する機能勾配材料コーティングを形成する機能勾配材料を溶射するステップを備え、前記弾性率曲線は、前記厚さ内の複数の対応するポイントにおける複数の弾性率を含んでいることからなる方法。」
〈相違点〉
本願発明では、機能勾配材料の弾性率は約28Mpsiから約60Mpsiまでの範囲であるのに対し、引用例1発明では、ヤング率が0?約40×10^(4)MPaとしている点。
(2)判断
本願発明において機能勾配材料の弾性率を特定の数値範囲に限定することは、その材料の用途・使用環境等を考慮して、当業者が容易になしうるものである。その理由は次のとおりである。
まず、材料の熱的・機械的特性を改善しようとした場合に、当業者がヤング率(弾性率)に注目することは、通常のことである。これは、引用例1における摘記事項(イ)(ウ)の記載からも明らかである。
また、引用例1では、(オ)に摘記したように、SiCとCからなる機能勾配材料のヤング率を測定し0?約40×10^(4)MPaとしているが、これは、psi単位系に換算すると0?58Mpsiとなる。これと比較すれば、本願発明で限定している数値範囲28Mpsi?60Mpsiが、格別に特徴的であるとすることはできない。
このことは、本願明細書の記載からも裏付けられる。すなわち、本願発明で設定した数値範囲について、その下限は鉄ベース材料であることが根拠であり、上限は用途を考慮した時の実用性から決まるとしている(明細書第7頁11?13行、公表公報第12頁17?19行)。耐摩耗性材料として鉄鋼やセラミックスは周知の材料であることからすれば、本願発明において弾性率の数値を上記特定の範囲に設定することは、その作用効果に格別に顕著あるいは特異な結果をもたらすものではないといえる。
したがって、本願発明において、機能勾配材料の弾性率の数値範囲を限定することは、当業者が容易になしうることに過ぎない。

5 結論
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-24 
結審通知日 2009-03-02 
審決日 2009-03-16 
出願番号 特願平11-550513
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 日比野 隆治  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 市川 裕司

諸岡 健一
発明の名称 性能改善のため部品に機能勾配材料コーティングを形成する方法  
代理人 西島 孝喜  
代理人 小川 信夫  
代理人 大塚 文昭  
代理人 中村 稔  
代理人 箱田 篤  

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