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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1201715
審判番号 不服2006-19103  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-31 
確定日 2009-08-03 
事件の表示 平成11年特許願第322835号「死滅化菌体」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 5月22日出願公開、特開2001-136958〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年11月12日を出願日とする出願であって、その請求項2に係る発明は、平成18年6月19日付手続補正書の、特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「キレート剤及び界面活性剤を含む水性媒体で処理した大腸菌組換体又はロドコッカス属細菌組換体。」(以下、「本願発明」という。)
2.引用例
原査定の拒絶の理由に刊行物7として引用された本願出願日前の昭和61年7月10日に頒布された刊行物である特開昭61-152276号公報(以下、「引用例7」という。)には、
(i)「本発明は、低濃度の塩化ベンザルコニウムを組換え微生物の培養液に加えることにより、菌体内に産生された有用物質の物理化学的および生理学的性質を損うことなく、該微生物を完全に死滅させることにある。塩化ベンザルコニウムは外用や医療器具等の殺菌消毒に用いられているが、培養微生物(特に有用物質産生組換え微生物)の殺菌剤として用いられた例はこれまで知られていない。塩化ベンザルコニウムは水溶性も高く使用法も簡便で、ヒトに対する毒性も低く使用者に危険を及ぼすこともない。従って、特に大量に培養された微生物(特に有用物質組換え微生物)を殺菌する必要がある場合有用である。」(第2頁第4欄下から第3行?第2頁第5欄第7行)、
(ii)「以下の実施例および参考例では、組換え微生物としてヒトインターフェロン活性を有するポリペプチド産生能をもつ大腸菌形質転換体について述べるが、本発明の殺菌法は大腸菌以外の微生物にも適用できる。また、有用物質は、ヒトインターフェロン活性を有するポリペプチドに限るものでもない。」(第2頁第6欄下から第4行?第3頁第7欄第3行)、と記載され、実施例1の結果として、
(iii)「第1表から明らかな如く、塩化ベンザルコニウムの濃度が0.05%から0.075%において、組換え微生物の産生する物質の活性を損うことなく、培養液中の該微生物を殺菌できることが認められた。また、同じ大腸菌を用いて同様な培養条件で培養した他の同様な実験において、塩化ベンザルコニウムの濃度が0.04%から0.05%の範囲において、該大腸菌が産生する物質の活性を損うことなく、培養液中の大腸菌を殺菌できることが認められたが、0.075%になると殺菌は完全にできても目的生産物の活性が若干(約50%)損なわれた。」(第3頁第9欄第9行?同頁第10欄第1行)、と記載されている。
また、同刊行物3として引用された本願出願日前の1986年に頒布された刊行物であるJJSHP(1986)Vol.22,No.10,p.1005-1009(以下、「引用例3」という。)は、「EDTA添加塩化ベンザルコニウムの殺菌消毒効果について(第3報)-臨床分離菌に対するクロルヘキシジンとの効力比較-」という報告であって、
(iv)「図2B)は、グラム陰性菌3種9株に対するBC(注;塩化ベンザルコニウム)、CH(注;クロルヘキシジン)各0.1%濃度での消毒効果の比較であるが、これでは図2a)のグラム陽性菌の場合と比べ全体的に殺菌時間の延長が見られる。しかし、EDTA添加BCでは、緑膿菌、セバシア菌等のブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌に対しBC単独よりも明らかに強く作用していることがわかる。また、グラム陰性菌に対する消毒効果は全てBCあるいはEDTA添加BCがCHのそれに有位に優っていることがわかった。」(第1007頁左欄下から第1行?同右欄下から第3行)、と記載され、第1007頁の表1においては、3種のグラム陰性菌の全てにおいて、0.05%BCでの殺菌効果より、0.05%BCに0.05%EDTAを添加したものの殺菌効果が優れていることが示されている。
3.対比・判断
そこで、本願発明と引用例7に記載の発明を比較すると、引用例7に記載の塩化ベンザルコニウムは陽イオン系界面活性剤であり、引用例7には、塩化ベンザルコニウムを含む水性媒体で処理して死滅化させた大腸菌組換体が記載されているので、本願発明と引用例7に記載の発明は、界面活性剤を含む水性媒体で処理した大腸菌組換体である点で一致するが、水性媒体には、前者では、キレート剤も含まれているのに対して、後者では、キレート剤は含まれていない点で相違する。
しかしながら、上記引用例3記載事項(iv)にもあるように、塩化ベンザルコニウムの殺菌効果が、キレート剤であるEDTAを添加することにより、特にグラム陰性菌に対して向上することは、本願出願日前既に周知の技術的事項(必要があれば、原査定の拒絶の理由で刊行物2として引用された医学と薬学(1985)第14巻第1号第258-262頁、同刊行物5として引用されたManuf Chem (1991)Vol.62, No.9, p.22-23の特に第23頁右欄第20行?第29行参照。)である。
また、通常、キレート剤は界面活性剤に比べ、菌体成分をより損なわないことも本願出願前既に周知の技術的事項であるから、生理活性物質の物理化学的および生理学的性質を損うことなく、微生物を殺菌することを目的とする引用例7に記載の、グラム陰性菌である大腸菌組換体を死滅化させるための塩化ベンザルコニウムを含む水性媒体に、さらに、塩化ベンザルコニウムと併用すると殺菌効果を高めることができ、かつ菌体成分への影響も少ないEDTAを添加しようとすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、高濃度の有用な微生物菌体を、該菌体内生産物の機能を安定に保持させ、完全に死滅化させた菌体を提供するという、本願明細書に記載の本願発明において奏される効果についても、引用例7の記載及び上記周知事項から予測できない程のものではない。
したがって、本願発明は引用例7の記載及び上記周知事項に基づき当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

一方、審判請求人は平成18年12月19日付けで提出した審判請求書の手続補正書において、塩化ベンザルコニウム等の逆性石鹸は、タンパク質等の負電荷を帯びている化合物等に対して吸着して殺菌効果を示すといわれており、当業者であれば、そのような化合物の使用により、微生物菌体、例えば細胞膜の構造を変化させることは容易に想像できる。一方、本願発明の微生物菌体は、薬剤処理後の微生物菌体の使用方法が引用例7と異なり、生体触媒で使用することを前提としていることから、細胞膜構造の変化や酵素タンパクの不活性化は、生体触媒として利用する際に致命的な問題となり、引用例7により塩化ベンザルコニウム、さらにはキレート剤の併用の動機付けとはなり得ない旨、主張している。
しかしながら、上記引用例7記載事項(i)にあるように、引用例7においても、低濃度の塩化ベンザルコニウムを組換え微生物の培養液に加えることにより、菌体内に産生された有用物質の物理化学的および生理学的性質を損うことなく、該微生物を完全に死滅させることを目的としており、実際にそのことの確認もなされている。その際、有用物質であるインターフェロン活性の測定は、塩化ベンザルコニウム添加により殺菌処理した培養液から、遠心分離によりまず菌体を採取し、その菌体をフレンチプレスで破砕後インターフェロン活性である抗ウイルス活性を測定しており、一旦遠心分離により培養液中の他の成分と分離した菌体から、活性の維持されたインターフェロン活性が測定されたことは、塩化ベンザルコニウム処理により、菌体の細胞膜からインターフェロンが漏れることなく、活性を保った状態で菌体内に存在していたことに他ならず、引用例7における細胞膜構造の変化や酵素タンパクの不活性化は、生体触媒として利用する際に致命的な問題となる旨の審判請求人の主張は、採用できない。
また、本願発明は、薬剤処理後の微生物菌体の使用方法が引用例7記載のものとは異なる旨の主張についても、本願発明は組換え菌体自体に係るものであり、しかもその使用方法、用途等により特定されたものでもないから、かかる主張は、請求項の記載に基づかない主張であり採用できない。さらに、菌体自体を生体触媒で使用することは、組換体の有用物質が酵素である場合のみに可能となることであり、それ以外の生理活性物質が有用物質である場合をも包含する本願発明の全般において奏される効果とはいえない。
4.むすび
以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-29 
結審通知日 2009-06-04 
審決日 2009-06-17 
出願番号 特願平11-322835
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 左海 匡子  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 深草 亜子
鵜飼 健
発明の名称 死滅化菌体  

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