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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 E01D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E01D
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 E01D
管理番号 1201721
審判番号 不服2007-15673  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-10 
確定日 2009-08-03 
事件の表示 特願2001-383761「二重摩擦滑り支承」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月21日出願公開、特開2003-147724〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続きの経緯
本願は、平成13年11月13日の出願であって、平成19年4月5日付けで平成18年12月18日付け手続補正に対する補正の却下の決定と同時に拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年5月10日に審判請求がなされるとともに、同年5月24日付けで手続補正がなされたものである。
また、当審において、平成21年2月10日付けで平成19年5月24日付け手続補正に対する補正の却下の決定と同時に拒絶理由通知がなされたところ、同年4月6日付けで意見書が提出されたものである。

【2】平成19年5月24日付け手続補正に対する補正の却下の決定の適否
請求人は、平成21年4月6日付け意見書において、平成19年5月24日付け手続補正に対する補正の却下の決定は不適法である旨主張しているので、上記補正の却下の決定の適否について検討する。

1.補正の却下の決定の趣旨
平成19年5月24日付け手続補正に対する補正の却下の決定の趣旨は、概略次のようなものである。
平成19年5月24日付け手続補正により補正された請求項1に記載された発明全体が不明確であり、特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除、あるいは同条第2号の特許請求の範囲の減縮、同条第3号の誤記の訂正、同条第4号の明瞭でない記載の釈明のいずれの事項を目的とするものにも該当しなから、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項のきていにより却下すべきものである、とするものである。

2.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、補正前(平成18年8月14日付け手続補正書参照。)に、

「【請求項1】
橋脚などの橋梁下部構造上面に固定された底版と,下面は発生確率の低い大地震のみに滑ることが可能な摩擦係数を持ち、上面には通常用いられる橋梁用固定支承の下沓を載せ上部構造の温度変化による水平移動や発生確率の多い地震時に摩擦滑りを起こしうる摩擦係数を持つ滑り板を挿入し、しかも、その上部にある固定支承の移動を橋構造が許容する値以内に制限する装置を設け2面の滑り面により摩擦滑りを可能にする橋梁支承。」
とあったものを、

「【請求項1】その寿命中に生起する確率の低い大地震時に、上部構造の温度変化などによる移動量を制限して下部構造の上面と接触しているその下面が自由に摩擦滑りをし、二面の滑り面による摩擦滑りを可能にする橋梁用滑り支承」
(以下、「本件補正発明」という。)
と補正しようとすることを含むものである。

3.判断
平成21年2月10日付け拒絶理由通知において、補正の目的について以下の判断を示した。
「請求項1の記載について、『二面の滑り面』とはどの部分を指しているのか不明であり、『その寿命中に生起する確率の低い大地震時に、上部構造の温度変化などによる移動量を制限して下部構造の上面と接触しているその下面が自由に摩擦滑りをし、』という記載についても、『その寿命中に生起する確率の低い大地震時』に、『上部構造の温度変化などによる移動量を制限』するとはどういうことか(大地震時の揺れについてはどうなっているのか?)、何が『下部構造の上面と接触している』のか、『その下面』とは何の下面なのか、不明であり、『橋梁用滑り支承』を構成するものがどのようなものであるのか、請求項1に記載された発明全体が不明確である。」

これに対し、請求人は、平成21年4月6日付け意見書において、以下の点を主張している。
1)滑り支承は一面の滑り面をもっており、さらに一面の滑り面を付加したのであるから、文脈上から言って「二面の滑り面」はこの両面であることは明白。
2)本件補正発明の中心事項は「その寿命中に生起する確率の低い大地震時に」「自由に摩擦滑りし、二面の滑る面による摩擦滑りを可能にする橋梁用摩擦滑り支承」であり、「部構造(当審注:「上部構造」の誤記と思われる。)の温度変化による移動量を制限して」は、滑り支承の持つ機能の一つを表わしたものである。
3)「その下面」の「その」とは「滑り支承」を指している。

上記請求人の主張を参酌すると、「その下面」とは「滑り支承の下面」を指し(主張3))、また、該滑り支承は一面の滑り面をもっており、さらに一面の滑り面を付加して「二面のすべり面」としたものである(主張1))から、滑り支承とは、二面の滑り面による摩擦滑りを可能とし、かつその下面が下部構造の上面と接触して自由に摩擦滑りするものであることになり、例えば発明の詳細な説明及び図面に記載された実施例における「滑り板6」を示していると解される。
一方、平成19年5月24日付け手続補正の段落【0004】には「さらに、2,3,4,5及び6は橋梁用滑り支承をなしている。」と記載されており、滑り板6以外の、符号2?5で示される部材をも含んだものが「橋梁用滑り支承」であることになり、請求人の意見書による説明と一致していない。
このように、「滑り支承」の構造がどのようなものであるのか、不明であり、仮に、意見書の主張のように、「橋梁用滑り支承」が「滑り板6」のことであり、その余の記載は滑り板6の機能を示したものであるとしても、その機能を達成するための具体的構成が不明確であるし、一方、「橋梁用滑り支承」が発明の詳細な説明及び図面に記載されたように、符号2?6で示される部材からなるものであると解したとしても、それぞれの部材がどのような関係となって「橋梁用滑り支承」を構成しているのか、やはり不明確となっている。
よって、請求人の主張を参酌しても、やはり平成19年5月24日付け手続補正により補正された請求項1に記載された発明は、全体的に不明確である。
そうすると、上記補正は、補正前の請求項1に記載されていた「底版」、「滑り板」等の具体的な構成を削除して、発明を特定する事項を不明確にするものであるから、特許請求の範囲の減縮または明りょうでない記載の釈明を目的とするものに当たらない。また、請求項の削除、誤記の訂正を目的とするものでないことも明らかである。

したがって、上記補正事項は、特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除、あるいは同条第2号の特許請求の範囲の減縮、同条第3号の誤記の訂正、同条第4号の明りょうでない記載の釈明のいずれの事項を目的とするものにも該当しないとした、平成19年5月24日付け手続補正に対する補正の却下の決定は適法なものである。

【3】本願発明について
平成19年5月24日付け手続補正は上記のとおり適法に却下されており、また、平成18年12月18日付け手続補正も適法に却下されているので、本願の請求項1に係る発明は、平成18年8月14日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「橋脚などの橋梁下部構造上面に固定された底版と,下面は発生確率の低い大地震のみに滑ることが可能な摩擦係数を持ち、上面には通常用いられる橋梁用固定支承の下沓を載せ上部構造の温度変化による水平移動や発生確率の多い地震時に摩擦滑りを起こしうる摩擦係数を持つ滑り板を挿入し、しかも、その上部にある固定支承の移動を橋構造が許容する値以内に制限する装置を設け2面の滑り面により摩擦滑りを可能にする橋梁支承。」
(以下、「本願発明」という。)

【4】拒絶理由1(特許法第29条第2項違反について)
1.引用刊行物
刊行物1:実願平2-19849号(実開平3-111608号)のマイクロフィルム
刊行物2:特開平9-13326号公報

(1)刊行物1
本願出願前に頒布された上記刊行物1には、図面とともに、以下の記載がある。
(1a)「(1) 可動橋桁と当該可動橋桁を支えるポンツーンとの間に設けられ、且つ上沓と下沓と摺動板とから構成される可動橋用支承であり、前記上沓若しくは下沓の一方に凹部を設け、当該凹部に他方を当接した状態に嵌め込むと共に互いの離脱を防止する為の離脱防止リングを取り付け、且つ双方の当接面を互いに自由に回転できるように曲面状に形成し、さらに前記下沓とポンツーンとの間に摺動板を介在してなることを特徴とする可動橋用支承。」(「実用新案登録請求の範囲」の欄)

(1b)「第3図、第4図及び第5図はこの発明に係る可動橋用支承を示すもので、図中番号1は上沓、番号2は下沓、番号3は離脱防止リング、番号4及び5は保護ブーツ、そして番号6は摺動板である。
上沓1は短い円柱状をした基部1aの上端部に正方形板状の取付部lbを水平に突設すると共に下端部に外れ止めストッパー1cを取付部1bと同様に水平に突設することにより形成され、且つ下端部が球面状に形成されている。
・・・
このように形成された上沓2は可動橋桁7の支承部に添えつけられ、取付部1aの周縁部を複数本の取付ボルト8,8によってボルト止めすることにより固定されている。
下沓3は短い円柱状に形成され、その上端の中央部に円形状の凹部9が形成され、当該凹部9に上沓2の下端部が外れ止めストッパー1Cと共に嵌め込まれている。
凹部9の内面は上沓2下端の球面部が可能な限り摩擦を伴わないで自由に滑れるような凹曲面状に形成されている。」(明細書第4頁第7行?第5頁第13行)

(1c)「そして、下沓3はポンツーン11の上に設置された摺動板6の上を自由にスライドできる構成になっている。」(明細書第6頁第10?12行)

(1d)「このような構成に於いて、可動橋のローリングやピッチング運動に対しては上沓2が下沓3の凹部9内で自由に回転することによって吸収することができ、また可動橋の左右及び前後方向の動き、さらに回転に対しては下沓2が上沓2と共に摺動板6の上を滑り、回転することによって吸収することができ、さらに可動橋の異常に大きな左右及び前後方向の大移動に対しては摺動板6がポンツーン11の上を上下沓2,3と共に横移動することにより吸収することができる。」(明細書第6頁16行?第7頁6行)

(1e)第5図には摺動板6が図示され、該摺動板6の端部には上方に突出する部分が設けられており、上記記載事項(1d)の「下沓2が上沓2と共に摺動板6の上を滑り、・・・さらに可動橋の異常に大きな左右及び前後方向の大移動に対しては摺動板6がポンツーン11の上を上下沓2,3と共に横移動する」という記載と合わせると、同突出する部分は下沓2の移動を制限する機能を有しているものであるといえる。

以上の記載事項(1a)?(1e)から見て、刊行物1には、以下の発明が記載されているものと認められる。(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

「可動橋桁と当該可動橋桁を支えるポンツーンとの間に設けられ、且つ上沓と、下沓と、下沓の移動を規制する上方に突出する部分を設けた摺動板とから構成される可動橋用支承であり、前記下沓に凹部を設け、当該凹部に上沓を当接した状態に嵌め込み、且つ双方の当接面を互いに自由に回転できるように曲面状に形成し、さらに前記下沓とポンツーンとの間に摺動板を介在してなり、可動橋のローリングやピッチング運動に対しては上沓が下沓の凹部内で自由に回転することによって吸収することができ、また可動橋の左右及び前後方向の動き、さらに回転に対しては下沓が上沓と共に摺動板の上を滑り、回転することによって吸収することができ、さらに可動橋の異常に大きな左右及び前後方向の大移動に対しては摺動板がポンツーンの上を上下沓と共に横移動することにより吸収することができる可動橋用支承。」

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された上記刊行物2には、図面とともに、以下の記載がある。
(2a)「構造物の水平方向に細長い水平部材を、基礎構造部で下面側から免震支承する構造物用免震支承構造において、
前記基礎構造部と水平部材間に挟着状に設けられて基礎構造部と水平部材の一方に固着されたゴム支承機構と、
前記基礎構造部と水平部材の他方とゴム支承機構間に積層させて挟着された複数枚の摩擦板を介して、基礎構造部に対する水平部材の水平方向への移動に抵抗する摩擦機構であって、前記他方とそれに摩擦面接触する摩擦板間の摺動摩擦面と、各摩擦板とそれに摩擦面接触する摩擦板間の摺動摩擦面とにおける摩擦摺動を夫々所定距離以内となるように規制する複数のストップ機構を有する摩擦機構と、
備えたことを特徴とする構造物用免震支承構造。
前記複数枚の摩擦板の摩擦特性が、相互に異なっていることを特徴とする請求項1に記載の構造物用免震支承構造。
前記各ストップ機構が、摩擦板の外周部に枠状に突設されたフランジ部からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の構造物用免震支承構造。」(【請求項1】?【請求項3】)

(2b)「・・・本実施例に係る橋梁の免震支承構造は、左右方向に細長い橋桁を、左右1対の橋台で下面側から免震支承する橋梁の免震支承構造に、本発明を適用した場合の一例である。図1、図2に示すように、橋梁の免震支承構造1において、鉄筋コンクリートで構成された橋台2(これが、基礎構造部に相当する)は、上端面を地盤6と同高さになるように立設されており、各橋台2には、橋桁7(これが、水平部材に相当する)の端部を支承する為の支承部3が、橋台2の上端面から段落ち状に設けられている。支承部3と橋桁7との端部の間には、橋桁7の下面にその上端部を固着した前後1対のゴム支承機構10が設けられ、各ゴム支承機構10と橋台2との間には、橋台2に対する橋桁7の水平方向への移動に抵抗する為の摩擦機構20が介装されている。」(段落【0016】)

(2c)「摩擦機構20について説明する。図3に示すように、摩擦機構20は、ゴム支承機構10の下部基板15(例えば、軟鋼で構成される)と、下部基板15と摩擦面接触する第1摩擦板21(例えば、ニッケルで構成される)と、第1摩擦板21と摩擦面接触し且つ支承部3に固着された第2摩擦板22(例えば、ニッケルで構成される)と、下部基板15と第1摩擦板21間の摺動摩擦面における摩擦摺動を所定距離以内となるように規制するの第1ストップ機構25と、第1摩擦板21と第2摩擦板22間の摺動摩擦面における摩擦摺動を所定距離以内となるように規制するの第2ストップ機構27とで構成される。ここで、下部基板15と第1摩擦板21の摩擦係数μ1 ( 例えば、μ1 =0.4 )、第1摩擦板21と第2摩擦板22の摩擦係数μ2 (例えば、μ2 = 0.7 )とすると、μ1 <μ2 として構成される。
第1摩擦板21は下部基板15の下面より大きな板状に構成され、第1摩擦板21の外周部にはフランジ部21aが形成され、このフランジ部21aが第1ストップ機構25を構成する。また、第2摩擦板22は第1摩擦板21より大きな板状に構成され、第2摩擦板22の外周部にはフランジ部22a形成され、このフランジ部22aが第2ストップ機構27を構成する。尚、第2摩擦板22の底面は、支承部3の上面に臨む鋼製のベース基板4に固着され、ベース基板4はそのアンカー部4aとともに、橋台2のコンクリートに埋込まれている。
上記、橋梁の免震支承構造1の作用について説明する。通常時に橋桁7が熱膨張や熱収縮した場合には、摩擦機構20により橋桁7の水平方向への移動が許容される。地震時に橋桁7に水平荷重が作用した場合、先ず、ゴム支承機構10の弾性変形により、橋桁7に作用する水平荷重が減衰された後、下部基板15が第1摩擦板21上の摩擦摺動を開始するが、第1ストップ機構25で下部基板15と第1摩擦板21間の摺動摩擦面における摩擦摺動が規制されるまで、下部基板15が第1摩擦板21上を所定距離以内において摩擦摺動し、第1ストップ機構25で前記摺動摩擦面における摩擦摺動が規制されれば、続いて、第1摩擦板21が第2摩擦板22上を、第2ストップ機構27で第1摩擦板21と第2摩擦板22間の摺動摩擦面における摩擦摺動が規制されるまで、所定距離以内において摩擦摺動する。 即ち、ゴム支承機構10で橋桁7に作用する水平荷重を減衰し、しかも、摩擦機構20により水平荷重が更に減衰される。」(段落【0019】?【0021】)

(2d)「また、第1、第2ストップ機構25、27は、摩擦板21、22の外周部に枠状に突設されたフランジ部21a,22aからなるので、第1、第2ストップ機構25、27を簡単な構造で構成することができ、製作コスト的にを非常に有利である。また、下部基板15と第1摩擦板21との相対的な摩擦係数は、第1摩擦板21と第2摩擦板22との相対的な摩擦係数より小さくなるように構成されているため、橋桁7に水平荷重が作用した場合、先ず、第1摩擦板21が移動することなく下部基板15を移動させることができ、次に、第2摩擦板22を移動させることができる。」(段落【0023】)

以上の記載事項(2a)?(2d)から見て、刊行物2には、以下の発明が記載されているものと認められる。(以下、「刊行物2記載の発明」という。)

「ゴム支承機構10の下部基板15と、下部基板15と摩擦面接触する第1摩擦板21と、第1摩擦板21と摩擦面接触し且つ橋台2の支承部3に固着された第2摩擦板22と、下部基板15と第1摩擦板21間の摺動摩擦面における摩擦摺動を所定距離以内となるように規制するの第1ストップ機構25と、第1摩擦板21と第2摩擦板22間の摺動摩擦面における摩擦摺動を所定距離以内となるように規制するの第2ストップ機構27とで構成された摩擦機構20。」

2.本願発明との対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「ポンツーン」、「上沓及び下沓」が、本願発明の「橋梁下部構造」、「通常用いられる橋梁用固定支承」に相当する。
また、本願発明の「その上部にある固定支承の移動を橋構造が許容する値以内に制限する装置」がどのようなものか必ずしも明確ではないので、発明の詳細な説明及び図1を参酌すると、固定支承の移動を制限するための移動制限装置11が滑り板6の上面に設けられていることから、「その上部にある固定支承の移動を橋構造が許容する値以内に制限する装置」は発明の詳細な説明に記載された「移動制限装置11」であると解され、してみると、刊行物1記載の発明における「摺動板に設けられ、下沓の移動を規制する上方に突出する部分」は、本願発明の「その上部にある固定支承の移動を橋構造が許容する値以内に制限する装置」に相当する。
また、本願発明は「橋梁下部構造上面に固定された底版と,・・・上面には通常用いられる橋梁用固定支承の下沓を載せ・・・滑り板を挿入し、」となっており、底版と滑り板の両者の関係が必ずしも明確ではないが、発明の詳細な説明及び図1を参酌すると、下部構造13の上面に底版8が設けられ、さらに上面に滑り板6が設けられていることから、「橋梁下部構造上面に底版が固定され、さらにその上面に橋梁用固定支承の下沓を載せた滑り板が配置され」たものであると解され、刊行物1記載の発明の「摺動板」も、上面に下沓が載せられ、下沓と橋梁下部構造(ポンツーン)に対して相対移動可能となっていることから、本願発明の「滑り板」に相当する。
さらに、本願発明の滑り板の下面は発生確率の低い大地震のみに滑ることが可能な摩擦係数を持ち、上面は上部構造の温度変化による水平移動や発生確率の多い地震時に摩擦滑りを起こしうる摩擦係数をもっており、一方、刊行物1記載の発明は、可動橋の左右及び前後方向の動き、回転に対しては下沓が上沓と共に摺動板の上を滑り、さらに可動橋の異常に大きな左右及び前後方向の大移動に対しては摺動板が橋梁下部構造(ポンツーン)の上を上下沓と共に横移動することから、両発明は、滑り板の上面は小さな摩擦係数を持ち、下面は大きな摩擦係数を持っている点で共通している。
また、刊行物1記載の発明も、摺動板の上面及び下面がそれぞれ下沓及びポンツーンに対して摺動することから、本願発明と同様、「2面の滑り面により摩擦滑りを可能に」している点で共通している。

よって、両者は、
「橋梁下部構造上面に,下面は大きな摩擦係数を持ち、上面には通常用いられる橋梁用固定支承の下沓を載せ小さな摩擦係数を持つ滑り板を挿入し、しかも、その上部にある固定支承の移動を橋構造が許容する値以内に制限する装置を設け2面の滑り面により摩擦滑りを可能にする橋梁支承。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)
本願発明は、橋梁下部構造が「橋脚など」であるのに対し、刊行物1記載の発明は「ポンツーン」である点。

(相違点2)
本願発明は、橋梁下部構造上面に固定された底版を設けているのに対し、刊行物1記載の発明は、底版を設けていない点。

(相違点3)
滑り板の摩擦係数について、本願発明の下面は「発生確率の低い大地震のみに滑ることが可能な摩擦係数」であり、上面は「上部構造の温度変化による水平移動や発生確率の多い地震時に摩擦滑りを起こしうる摩擦係数」であるのに対し、刊行物1記載の発明の摺動板の摩擦係数は不明である点。

3.判断
(相違点1について)
橋梁の下部構造として、橋脚は、例えば刊行物2にも示されているように一般的なものであり、橋梁支承を橋脚上に適用することは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点2について)
上記のように、刊行物2記載の発明は、支承下面と摩擦面接触する第1摩擦板のさらに下面に、第1摩擦板21と摩擦面接触し且つ橋台2の支承部3に固着された第2摩擦板22を設けたものである。刊行物1記載の発明と刊行物2記載の発明はいずれも橋梁用の滑り支承である点で共通の技術分野に属するものであるから、刊行物2記載の発明を刊行物1記載の発明に適用して、橋梁下部構造上面に底版を固定することは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点3について)
上記のように、刊行物1記載の発明も、滑り板の下面は大きな摩擦係数を持ち、上面は小さな摩擦係数を持っている点で本願発明と共通しており、一方、橋梁支承を設計するに際し、橋桁等の上部構造の熱による膨張・収縮の挙動や地震動を考慮することは、当業者であれば当然であるから(例えば、刊行物2記載の発明も、記載事項(2c)に「・・・通常時に橋桁7が熱膨張や熱収縮した場合には、摩擦機構20により橋桁7の水平方向への移動が許容される。地震時に橋桁7に水平荷重が作用した場合・・・」と記載されているように、上部構造の熱による膨張・収縮の挙動や地震時の水平荷重の作用を考慮していることがうかがえる。)、具体的に摩擦係数を設定するに際し、本願発明のように、大きな摩擦係数=発生確率の低い大地震のみに滑ることが可能な摩擦係数、小さな摩擦係数=上部構造の温度変化による水平移動や発生確率の多い地震時に摩擦滑りを起こしうる摩擦係数とすることは、当業者が適宜決定する事項にすぎない。

してみると、本願発明の上記相違点1乃至3に係る構成を想到することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、本願発明の効果は、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明から予測することができる程度のことである。

したがって、本願発明は、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明から当業者が容易に発明できたものである。

一方、請求人は意見書において、以下の点を主張している。
4)一般の橋梁技術者は桁の一点は必ず地面に対して固定されているものにしなければならないという固定観念を持っている。本発明のように、地面に対して通常の状態で、ある範囲で任意の位置であっても良いという考えは思いつかないものである。

上記主張4)について、上記刊行物1記載の発明は、可動橋のローリングやピッチング運動に対しては上沓2が下沓3の凹部9内で自由に回転することによって吸収することができ、また可動橋の左右及び前後方向の動き、さらに回転に対しては下沓2が上沓2と共に摺動板6の上を滑り、回転することによって吸収することができ、さらに可動橋の異常に大きな左右及び前後方向の大移動に対しては摺動板6がポンツーン11の上を上下沓2,3と共に横移動することにより吸収することができる(上記記載事項(1d)参照)ものであり、また、刊行物2記載の発明は、ゴム支承機構を介して橋桁を支持する第1摩擦板の上下両面が滑るものであるので、両者は本願発明と同様、橋梁の1点が固定されているものでなく、ある範囲で移動可能となっているものであると言える。

よって、請求人の主張は採用できない。

4.まとめ
以上より、本願発明は、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により拒絶すべきものである。

【5】拒絶理由2(特許法第17の2条第3項違反について)
平成18年8月14日付けでした手続補正において、図2には、杭基礎が示され、符号10が付されているが、当初明細書等には基礎について何ら記載されておらず、また、杭基礎が設けられている点は、当初明細書等から自明な事項ではなく、また、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるとは言えず、当該補正は新規な事項を付加するものである。
よって、当該補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

【6】むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、平成18年8月14日付け手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、本件は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-22 
結審通知日 2009-06-02 
審決日 2009-06-15 
出願番号 特願2001-383761(P2001-383761)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E01D)
P 1 8・ 57- Z (E01D)
P 1 8・ 561- Z (E01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深田 高義  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 神 悦彦
草野 顕子
発明の名称 二重摩擦滑り支承  

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